Kiesel ◆nu123wJPbk ２８スレ目外伝
41 名前： ◆nu123wJPbk 投稿日： 2008/01/02(水) 14:12:36.15 ID:A83Tyjgl
とんとんと、食材を刻む音が聞こえ、そちらを見ると長躯の青年がそこにいた。
見覚えのあるような、ないような。……うーん？
「 」
彼は笑い、それからテーブルを示した。
……そっか。今日は、
42 名前： ◆nu123wJPbk 投稿日： 2008/01/02(水) 14:22:04.53 ID:A83Tyjgl
「……という夢を見た」
「夢？」
唐突に振られた話に彼はきょとんとこちらを見る。
火の中で薪の爆ぜる音が心地よい、サンドリアの一角にある住居の一室。
パママのタルトとサンドリアティーを前に、ちょっとしたお茶会。
「男の人、が、いたんですか？」
「どう見ても男だった」
「……うーん？」
行儀悪くもパママをフォークに突き刺し、彼はうーん、うーん、と唸る。
長躯といえば彼も長躯なのだろうが、周りの人物と比較するとさほど高くないと気付く。
「それで、今日が何かの日だってことに気付くんですよね」
「うん」
「……んー」
今日、今日。今日？夢の中だし、違うかもしれないけど。
ぶつぶつと言いながら、小さな鞄の中から手帳を取り出す。
「今日は、お正月？」
「……えっ？」
慌てて日付を確かめる。ああ、そうだ。もう新しい年じゃないか！
だというのに、年始らしいこともせずにこうしてお茶をしているのもどうかと思う。
43 名前： ◆nu123wJPbk 投稿日： 2008/01/02(水) 14:34:51.39 ID:A83Tyjgl
とは言え、実家にも戻らずに寮生活を続けている身には、あまり関係のないことか。
季節ごとの祭りにも、みなが浮かれ騒ぐ星芒祭にさえも、何の便りもなかったほどなのだから。
だからこそ生活に季節感がないのだが、まあそれはさておき。
「……そう言えば、弟が帰ってくるな」
「弟？」
ぽつりとこぼした声が拾われる。
「弟なんていましたっけ」
「え？……いや」
姉弟……血の繋がりはないが……の中では、自分が末子だ。弟も妹もいない。
弟？誰かの記憶でも違えただろうか。話し相手も末子で、上司は互いが兄で弟のようなものだ。
「でも、弟がいるっていいですよね」
「……いないから分からないけど」
「そうですよね。一番年下の、小さな小さな末っ子だもの」
くすくす笑う声には、かけらも悪気はない。現実に、一番年下で小柄なのだから。勿論それは自覚している。
でも武勲は誰にも負けていない。偉そうなことを言う先輩方にも、同輩にも、……絶対負けない。
そこまで考え、何をむきになっているのか、と自嘲する。
44 名前： ◆nu123wJPbk 投稿日： 2008/01/02(水) 14:41:40.62 ID:A83Tyjgl
「今年くらいは、挨拶に行くべきかな」
「やめておいたほうがいいんじゃないですか？新年早々怪我をしたくないでしょう？」
「……う、うん……」
あの方の武勇伝は、少なくともこのサンドリアでは知らぬ者はいないだろう。
今度はどこの武術を覚えてそれを披露(往々にして、それは一方的な暴力と成り得る)されるか。
と言うか、それは別に新年に限ったことではない気がする。
「平和が一番ですよ、平和が」
「そうだなぁ……」
苦笑してカップに口をつけた。
願わくば、この一年がよき年とならんことを。
ほんの少しだけ、願いを込めて。
とんとんと、食材を刻む音が聞こえ、そちらを見ると長躯の青年がそこにいた。
見覚えのあるような、ないような。……うーん？
「 」
彼は笑い、それからテーブルを示した。
……そっか。今日は、
42 名前： ◆nu123wJPbk 投稿日： 2008/01/02(水) 14:22:04.53 ID:A83Tyjgl
「……という夢を見た」
「夢？」
唐突に振られた話に彼はきょとんとこちらを見る。
火の中で薪の爆ぜる音が心地よい、サンドリアの一角にある住居の一室。
パママのタルトとサンドリアティーを前に、ちょっとしたお茶会。
「男の人、が、いたんですか？」
「どう見ても男だった」
「……うーん？」
行儀悪くもパママをフォークに突き刺し、彼はうーん、うーん、と唸る。
長躯といえば彼も長躯なのだろうが、周りの人物と比較するとさほど高くないと気付く。
「それで、今日が何かの日だってことに気付くんですよね」
「うん」
「……んー」
今日、今日。今日？夢の中だし、違うかもしれないけど。
ぶつぶつと言いながら、小さな鞄の中から手帳を取り出す。
「今日は、お正月？」
「……えっ？」
慌てて日付を確かめる。ああ、そうだ。もう新しい年じゃないか！
だというのに、年始らしいこともせずにこうしてお茶をしているのもどうかと思う。
43 名前： ◆nu123wJPbk 投稿日： 2008/01/02(水) 14:34:51.39 ID:A83Tyjgl
とは言え、実家にも戻らずに寮生活を続けている身には、あまり関係のないことか。
季節ごとの祭りにも、みなが浮かれ騒ぐ星芒祭にさえも、何の便りもなかったほどなのだから。
だからこそ生活に季節感がないのだが、まあそれはさておき。
「……そう言えば、弟が帰ってくるな」
「弟？」
ぽつりとこぼした声が拾われる。
「弟なんていましたっけ」
「え？……いや」
姉弟……血の繋がりはないが……の中では、自分が末子だ。弟も妹もいない。
弟？誰かの記憶でも違えただろうか。話し相手も末子で、上司は互いが兄で弟のようなものだ。
「でも、弟がいるっていいですよね」
「……いないから分からないけど」
「そうですよね。一番年下の、小さな小さな末っ子だもの」
くすくす笑う声には、かけらも悪気はない。現実に、一番年下で小柄なのだから。勿論それは自覚している。
でも武勲は誰にも負けていない。偉そうなことを言う先輩方にも、同輩にも、……絶対負けない。
そこまで考え、何をむきになっているのか、と自嘲する。
44 名前： ◆nu123wJPbk 投稿日： 2008/01/02(水) 14:41:40.62 ID:A83Tyjgl
「今年くらいは、挨拶に行くべきかな」
「やめておいたほうがいいんじゃないですか？新年早々怪我をしたくないでしょう？」
「……う、うん……」
あの方の武勇伝は、少なくともこのサンドリアでは知らぬ者はいないだろう。
今度はどこの武術を覚えてそれを披露(往々にして、それは一方的な暴力と成り得る)されるか。
と言うか、それは別に新年に限ったことではない気がする。
「平和が一番ですよ、平和が」
「そうだなぁ……」
苦笑してカップに口をつけた。
願わくば、この一年がよき年とならんことを。
ほんの少しだけ、願いを込めて。
2008年03月29日(土) 14:29:53 Modified by feathery_snow