このウィキの読者になる
更新情報がメールで届きます。
このウィキの読者になる
最近更新したページ
最新コメント
【AH協会】 by awesome things!
609 ◆dWeYTO/GKY小ネタ by check it out
609 ◆dWeYTO/GKY第9話02 by check it out
609 ◆dWeYTO/GKY第9話08 by awesome things!
775 ◆dWeYTO/GKY第1話06 by awesome things!
775 ◆dWeYTO/GKY第1話02 by check it out
609 ◆dWeYTO/GKY第6話02 by awesome things!
リンク
まとめサイト
http://ss.ga4.net/

2ちゃんねる
http://www.2ch.net/

FF11の板(蟹)
http://yy10.kakiko.com/ff11ch/

ネ実
http://live19.2ch.net/ogame/

ワイルドカード(アイコン素材)
http://www.aurora.dti.ne.jp/~keiko-t/
Wiki内検索

Loufas ◆TTnPTs4wAM 3スレ目本編

55 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/14(金) 00:21:51.05 ID:Hyz/MxLO
(114)
城を出て南サンドに行く途中、閲兵場を横切ろうとするとあるものが目に留まった。

黒いマント。

フードを開けているので見落としてしまいそうだったが、外灯に照らされたそれは昨日見たマントだ。
マントを着ているのは、威厳の漂う髭面のヒュムだった。
俺と目を合わせた後、顎をクイッと動かしてどこかへ歩き始めた。付いて来いって事か…
工人通り方面へ進んでいく黒いマントを、俺は迷いなく追いかけた。
十中八九罠なんだろう。しかし、連中の情報は何もない。
しかも、こう言った形で接触してくると言うことは全く予想外だった。
何かを掴んでおきたい。
頭の隅では最悪の事態を考えながら、結局シグナルパールでラディールに連絡を取ることも敢えてしなかった。

ふと、これが罠で俺が死んだらどうなるだろうと暢気に考えてみる。
死んだら、現実世界には戻れるだろうか。
俺の死体を見たら、この世界で会った人々はどう思うだろうか。
誰かは悲しんでくれるんだろうか。覚えていてくれるだろうか。
死んだら、俺がこの世界に来た意味がわかるだろうか。


56 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/14(金) 00:22:16.70 ID:Hyz/MxLO
(115)
北サンドリアからロンフォールの見張り台へ続く長い回廊は、夜と言うこともあり無人だった。
回廊の中ほどで、髭面の男は振り返った。あの髭の生えた口元は、昨日俺が見たものではない。ということは、別人だろうか。
と、突然ビリビリと音を立てて髭が剥がれていった。変装してたのか…
そうだ、あの口元だ。昨日、俺が見た不敵な笑みの口元。

「あんた、昨日逃げた奴だな。俺に何か用かい?」
出来るだけ感情を出さずに、俺は言った。
「はい。昨日のご無礼をお詫びに参りました」
「無礼、ね…」
「えぇ。あなたを、『イレギュラー』を生かしたまま逃げたと言う無礼を、今お詫び申し上げます」
音もなく剣を構えた。
「俺に詫び入れに来たって事だよな」
「はい」
「んじゃ、剣を引っ込めな。話くらいなら聞く準備はある」
「そうも行きません。あなたのような『イレギュラー』は、この世界にあるだけで、焦り、迷い、心を痛めます。
私は、その苦しみからあなたを救いにきたのです。どうか、昨日の無礼をお許しください。そして…」

「どうか安らかに」
言ったのと、男が動いたのが同時だった。


57 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/14(金) 00:22:58.73 ID:Hyz/MxLO
(116)
俺の3歩ほど前まで一気に駆け寄ってきて、胸の辺りを狙って片手剣を突いてきた。
半歩引いて、体を開いて避ける。
俺の胸の前を、男の片手剣が掠めた。
腕を掴もうとするが、すばやく後ろに跳び退った。

「俺は元の世界に戻りたいだけだ。あんたに殺される謂れはねぇよ」
「あなたの魂とをお救いするため、この世界の秩序を守るためです」
あっさりと言ってのけた。こっちの事情は聞く耳持たないようだ。
「この世界は秩序で成り立っています。あなたがもたらすかも知れないものは、その秩序を乱します」
「さっきと言ってることが違うな」
「同じことです。あなたを殺すことで、安息の世界を保つことが出来ます。それはあなたのためでもあります」
会話のキャッチボールが出来ないクチらしい。

「なら、俺が死ぬ以外にあんたの望む形に収める方法はないのかい?」
「ありません」
今度は俺の右側面から回りこんで仕掛けてきた。そのまま払うようにして剣を振るう。
ワーグバグナウを腰から抜いて、こちらからその剣を受けに行った。
乾いた金属音と火花が散る。
俺は、男の剣の根元部分に左手のワーグバグナウを当てて受けていた。


58 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/14(金) 00:23:24.96 ID:Hyz/MxLO
(117)
受けて動きが止まったのを見計らい、右手で脇腹を思い切り殴る。
男はその瞬間に後ろに飛び、さらに剣を横に払っていた。
頬に一筋、焼けるような感覚が走る。

骨の軋む手ごたえがあった。折れたか、ヒビくらいは入ってるはずだ。
だが、男は再度猛然と突進してきた。
とっさに右手のワーグバグナウを飛ばす。
男は右手に持った片手剣を、内側から払ってワーグバグナウを弾き飛ばした。
その動作で、若干男の体が開く。俺は素早く踏み込んで払う動作を終えた腕を取ると、腕を捻り上げる。
さらに、前に引き落としながら体ごともう一回転捻りあげた。
体重が男の背中に落ちると同時に、イヤな音が2回鳴る。
すぐさま、左の腕の下に手を入れて上に引き出し肩を極めた。

「もう一度言って置こうか。俺は話を聞く準備はあるぜ」
右腕は、肩と肘が変な曲がり方をしてる。もう使い物にはならないだろう。
もう片方の腕を押さえたのは、昨日のように自爆する可能性があったからだ。

「やはり、あなたは危険だ…」
うつ伏せの状態で、俺の顔を見上げるような仕草をした。


59 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/14(金) 00:24:11.06 ID:Hyz/MxLO
(118)
「殺すつもりはない。すこし話を聞かせてくれ」
「あなたはこの世界のことを知る必要がない」
即答だった。
「なら俺のことだ。今、俺が危険だと言ったな。その理由を聞かせろ」
少しの沈黙の後、男は口を開いた。
「…この世界が秩序ある世界であらんことを」
言い終わって、奥歯を噛み締める様な動きをした。
その週間、破裂音と共に血飛沫が舞った。
思わず腕を放し、後ろに転がる。

爆発…?奥歯に何か仕込んでいたのか?
だが、昨日の爆発と比べると規模が小さい。
よろよろと立ち上がって男のほうを見た。そこには首から上が散乱した死体が転がっていた。

目にした瞬間、どうしようもない吐き気に襲われた。
死体を見たせいじゃない。何かよくわからないものに命を投げ出す、理解できない感情に。
壁までよって、胃から逆流してきたものを吐き出す。喉が焼けるようだ。
ビチャビチャと音を立てて出てくるものは、液体ばかりだった。
そういや、昼飯食ってなかったな…


186 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/16(日) 08:07:36.51 ID:1TyfHn2y
(119)
壁を這いながら、見張り台の上に向かった。
ドアを開けると数名のエルヴァーンの兵士が外の様子を窺っている。
「なぁ、悪いんだが…」
「何者だ、初心者と言う風体ではないが…」
「この階段を下りたところに、首のない死体がある。その死体を回収してハルヴァー宰相に知らせてくれ」
エルヴァーンの兵士があわてて振り向く。
「貴様、からかっているのか?」
「行って見りゃわかる。俺は神殿騎士団見習いのルーファスだ」
「…貴様の入隊報告は受けている。少しここで待っていろ」

兵士は階段を駆け下りていった。
と、すぐに駆け戻ってきた。
「…確認した、すぐに回収しよう。貴様はここで待機せよ」
見張り台にいた兵士は皆急ぎ足で階段を下りて行く。
俺は壁に体を預けると、そのままズルズルと床まで崩れ落ちた。

さっきの男の事が頭から離れない。
俺が危険だって…?あいつらの方がよほど危険じゃねぇか…
体の力が抜け、まぶたが閉じていった。


187 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/16(日) 08:07:57.78 ID:1TyfHn2y
(120)
「ルーファス!」
聞いたことのある声がした。いつの間にか閉じていた目を開けると、隻眼の女性がいた。
「クリルラ様…」

「死体が消えたわ」
「!」
俺は目を見開いた。
「どういうことですか!?」
膝を突いて立ち上がり、クリルラに詰め寄る。
「あなたの報告を受けてここの兵士たちが確認したところまでは、確かにあったそうなのだけど…」
眉根を寄せて険しい表情になった。
「私が来たときには、血痕と衣服・装備の一部だけ残して死体がなくなっていたわ」
俺はまた壁に背を預けた。

「ルーファス、死体は誰だったの?」
「…昨日俺が襲われた3人のうち、逃げた1人です。おびき出されました」
「報告にあった黒マントね…とにかく無事で何よりだわ」
無事、でもないな。
殺し合いの前に話なんかするもんじゃない。本当に胸糞悪い。


188 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/16(日) 08:08:30.50 ID:1TyfHn2y
(121)
残っていたのは、黒いマントと片手剣だった。
「これからわかる範囲で調べるしかないわね」
クリルラが言う。俺は呆然とその場に立っているだけだった。

男が倒れていた場所から放射線状の血痕が残っている。
だが、その根元には死体はない。
いっそ何もなければアレが夢だったかもしれないとも思えたのに。
いや、そもそも俺がここにいるのは夢なのか現実なのか…

頬にある一筋の傷の痛みだけが、俺がここにいる事を主張している。
さっきの事が、そして目の前の光景が現実であることを。

『…ス、ルーファス!』
ラディールの声だ。シグナルパールを装備したままだった。
『ルーファス!聞こえないの!?ルーファス!』
返事をする気にはならなかった。
クリルラに明日城へ行くと告げて、俺はモグハウスへ向かった。


189 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/16(日) 08:09:38.84 ID:1TyfHn2y
(122)
モグハウスにはエルリッドとラディールがいた。朝と同じ様に、2人共深刻そうな顔をしている。
「ルーファス!」
ラディールがつかつかと近づいてきて、平手を振り上げた。だが、その手はそこで止まっていた。
「ルーファスさん、その傷…」
俺はゆっくりとテーブルに着いた。
「…黒マントがいて、後を追って、襲われた」
搾り出すように声を出す。喉がカラカラだ。
「どうして知らせなかったの!?」
「追うだけのつもりだった」
エルリッドは黙ったまま俺を見ている。

「ごめん、ちょっと疲れた。説明は明日でいいかな…」
「…わかりました。また明日来ます」
そういうと、ラディールはモグハウスのドアを荒々しく閉めて帰っていった。
「ルーファスさん、傷の手当てを…」
「いい、もう乾いてる」
道具箱の中から蒸留水を出し、一気に飲み干す。そのままベッドにうつ伏せの状態で倒れ込んだ。
自分の鼓動が聞こえる。脈が荒々しく音を立てている。
眠れるわけはない。だが何もしたくなかった。


190 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/16(日) 08:10:28.46 ID:1TyfHn2y
(123)
「ルーファスさん…」
エルリッドはまだ椅子に腰掛けてこちらを見ている。俺は答えずに目線だけを送った。
「ルーファスさんみたいに強い人でも、そんな風に迷うことがあるんですね」
何が言いたいのかわからない。うつ伏せのまま、首をかしげる動作をしてみる。
「ふふ…眠いわけじゃないみたいですね」
目をつぶってまた首を横に振る。

エルリッドは椅子から立ち上がって、ベッドの縁に腰掛けた。
「私、強くなれば迷わないって思ってました」
モグハウスの扉の方向を向いたまま話し続ける。
「強くなって、自分に自身が持てるようになれば、きっと迷わないんだって」
「俺は強くなんかないよ」
「私よりも強いですよ」
「そういう問題じゃない」
うつ伏せになって、顔だけエルリッドに向けて話す。
「迷うのに強さなんか関係ない。理解できないモノを見れば、誰だって迷う」
「じゃぁ、ルーファスさんは一体何を見たんですか?」
エルリッドは悪戯っぽく笑って俺のほうを振り返った。
誘導尋問かよ…


191 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/16(日) 08:11:14.35 ID:1TyfHn2y
(124)
「この世界は秩序で成り立っていて、俺はその秩序ある世界にとって危険な存在なんだってさ」
一気に言って、ベッドに顔を押し付けてため息をついた。
「危険って何でしょうね…」
「さぁ…情報も与えたくないってんで奥歯に仕込んだ爆薬で自決するくらいだから、かなり危険なんだろ」
エルリッドはこちらに目線を移している。
「冗談じゃねぇよなぁ…俺が何したってんだよ…」
口に出してみるものの、悩んでる原因は多分こういうことじゃない。わかってはいるんだけど…
また、ため息をベッドに押し付けた。
「何もしてないなら、堂々としてればいいじゃないですか」
簡単に言ってくれる。俺はちょっと恨めしそうにエルリッドを見た。
「んな事言ったって、向こうが俺を狙って来る以上、堂々としているわけにも行かないだろ…」
「私もラディールさんもいるんです。そんな連中片っ端からやっつけちゃえばいいんですよ」
「だからさぁ、そんな事してたらいくつ命があっても足りないだろ?第一、人殺すんだぞ?」
「あれぇ?ルーファスさん、自信ないんですか?」
おちょくってるんだろうか、結構まじめな話してるんだけど。
「ないね。襲ってくる奴みんな相手にして、俺はともかく2人を守る自信がない」

突然、パァンッと音を立てて俺の尻に衝撃が走った。思わず海老のように反り返る。
エルリッドが平手で叩いたみたいだ。


192 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/16(日) 08:11:57.15 ID:1TyfHn2y
(125)
「そういう事言ってるからラディールさんが怒るんですよ。アテにされてない気がするって」
「いや、だってさ、あの黒マントかなり強いよ?狙われてるのは俺な訳だし…」
パァンッといい音を立てて、また尻を叩く。
「なんか、そういうのムカつきます。いじいじして男らしくないです!」
…何が悲しくて16歳の娘に説教されなきゃいけないんだろう。

「じゃぁ聞きますけど、元の世界に帰る方法は見つかりそうなんですか?」
「…目処も立ってないね」
「それは1人で探し回って見つかると思いますか?」
「…無理じゃないにしろ、大変だろうねぇ」
「あの黒マントがいっぱい来たら、1人でどうにか出来ますか?」
「…死んじゃうかもしれないねぇ」
「じゃぁ、どうして私たちに一緒に探してくれって言わないんですか!」
「だってさぁ…」
「あーもう!ルーファスさん!」
襟首を思いっきり引き上げられて、ベッドの上に正座の体勢になってしまった。
なんて馬鹿力だ…
「ちょっとそのまま待っててください!ラディールさん呼んできます!」
マジっすか…俺今ヘロヘロなんですけど…


193 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/16(日) 08:13:08.90 ID:1TyfHn2y
(126)
「話は聞きました。ルーファス…」
本当に連れてきちゃった…ちょっと本気で腰が引けてる俺。
「こぉんのバカチンがぁ!」
バシィンッ

問答無用で平手が飛んできた。
俺は正座したまま避けることも出来ずに殴られる。
なんだろう、これはこれで新しい快感に目覚めることが出来そうな気がする。

「どうして私たちがあなたに守られなければならないのですか!?」
「…あ」
よく考えてみれば、もし自キャラの設定がそのまま引き継がれているなら、ラディールのレベルは65になってるはずだ。
エルリッドも、俺と立ち会った時に全力だったかどうかは知らないけど、とにかく力は凄まじい。
「あまり見損なわないで欲しいわね。じゃないと見捨てちゃうわよ?」
「そうですよ?ルーファスさん」
あぁ、ヤバイ。目から汗が出てきそうだ。
「何でそんな風になってるか知らないけど、しっかりしなさいよ…」
そこまで言うと、また明日くるわ、といってラディールは出て行った。
今度はドアを静かに閉めて。


194 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/16(日) 08:14:00.16 ID:1TyfHn2y
(127)
「そういう訳ですから、あんまり1人で抱え込まないでくださいね♪」
エルリッドが再びベッドの縁に座った。俺は正座を崩して胡坐を書いている。
頭を掻きながら苦笑いを向けた。

安心したら頭がボーっとしてきた。腹は減ったし眠いし…
「まだ………スさん、い……」
「…何?」
「…と頼り……もあ…ど、強いし、…し」
声がよく聞こえない。さらに、まぶたが閉じそうになってくる。
エルリッドは何故か俺に寄りかかろうとしてる。なんか危険だ。
首に手を回されて寄りかかられるが、あっさりとベッドに倒れてしまった。
本当に体に力が入らない。腕も上げられない。
あぁ、今日は逃げられる気がしない。というか、眠い。

「…………………」
エルリッドが何か言っているようだ。でもよく聞こえない。
まぶたが重すぎて目も開けていられない。
眠い、眠すぐる。
もういいや、なんかまずい気もするけど、寝よう。


340 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/17(月) 22:51:44.48 ID:TLGZaPWh
(128)
ん…なんかいい匂いがする。
コンソメみたいな匂い。誰かがスープでも持ってきたんだろうか…?

鼻をクンクン言わせながら体を起こすと、この二日見てなかった白い生き物の背中が見えた。
鍋に入ったスープの味見をしているようだ。

欠伸をしようとすると引っ張られるような感触があった。頬の傷に応急手当がされている。
「ご主人、ただいまクポー!」
「あぁ、おかえり」
すっかり忘れてた。モグは寄合いだかなんだかに出るとかで1日あけるといって出て行って、結局2日帰らなかったのだ。
「ちょっと色々あったクポ」
と、モグは言う。そうか、モーグリにも色々あるんだな。

とりあえず、1人で寝ていると言うことは昨日は何もなかったんだろう。
何かあったとしても俺はもう知らん。
エルリッドは…タルタル屏風の隙間に、ベッドからはみ出した足が見えた。
そういえば、こっちで目覚めてからようやく普通に寝た夜だった。
酒も入ってないし体の調子もいい。昨日のことを思い出しさえしなければ気分もいい。
とりあえず、いい匂いの元のスープをいただくことにしよう。


341 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/17(月) 22:52:05.29 ID:TLGZaPWh
(129)
「俺はこの世界にとって危険、なんだそうだよ」
スプーンをくるくると回転させながら、俺はそう言った。
モーグリはスープを作りすぎたとかで、丁度いいから朝からラディールも呼んで話すことにした。

「それ以上は聞けなかった。無力化した時点で自決された」
「そう…」
エルリッドも、モーグリも黙って聞いている。ラディールと俺だけが話していた。
「気になるのは、その潔さね」
「俺も引っかかってた。というか、正直理解できない」
昨日はそれに対する嫌悪感が勝っていたが、冷静に考えるとあまりに潔すぎる。
あの行動には、彼自身の事情が一切汲まれていないように思えた。
「そういう指示を受けていたと言っても、それで割り切れるものかな?」
「そういう人もいる、というレベルでしか理解できないわ。合理的とは言い難いもの」
その通りだ。だが、自分の命を何かに捧げようという人間は皆そうなのかもしれない。

「結局、何もわかってないと言う状況だけは変わってないよ」
深いため息をつきながら言う。
こんなことが続いていても埒が開かないという焦りだけが募っていた。


342 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/17(月) 22:52:28.11 ID:TLGZaPWh
(130)
朝食を済ませた後、とりあえず昨日の報告をするために城へ向かう事になった。
「街の中でも襲われるということは、きちんと装備はしていった方がいいわね」
「あぁ、そうだな」
チラッとラディールの足元を見る。エルリッドも気になっているようだ。
「何かおかしいところでもあるかしら?」
「いや、なんというか、なぁ?」
「はい…豪快と言うかなんというか…」
ラディールの足元には、無造作にルーンチョッパーが置かれていた。
「いいじゃない、結構使いやすいわよ?」
「そういう問題じゃないと思うなぁ…」
「物騒な感じですよねぇ…」
「何言ってるのよ、大鎌持ってる連中よりは100倍マシでしょ?」
まぁ、確かにそうだ。

モグハウスを出ると、青空が広がっていた。だが、もう日が昇って随分経つのに人影は見られなかった。
先を歩く2人について北サンドリアに出てみるが、やはりそこにも人影がない。
ガードすらいなかった。
「なぁ、これって…」
「わかってます、一昨日と同じですね…」


343 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/17(月) 22:52:47.49 ID:TLGZaPWh
(131)
遠くを確認しながら恐る恐る歩を進める。
耳鳴りがするような静けさだ。
北サンドリアはあまり人通りの多いところではないが、これは異常だ。
工人通りから響いているはずの音さえない。

閲兵場の方に、何か空気が揺らめくようなものが見えた。
「…あれ、見えるか?」
「何かしら、陽炎みたいに揺れてるわね…」

少し近づいて見ると、それはどうやら閲兵場にいる何かから発せられているものらしい。
何か。それは、遠目には何なのかわからない。
ただ、ぼんやりと赤いようにも見える。
「赤い鎧…」
俺は無意識に呟いていた。
「なんですか?それ…」
「俺と同じ『来訪者』をどこかに連れて行くって噂がある、何かだ」
人間なのだろうか。それとも何か別の存在なのか。
さらに近づいたところで、それが人の形をして赤い鎧を着ていることが確認できた。
向こうからもこちらの姿を確認しているはずだ。


344 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/17(月) 22:53:06.40 ID:TLGZaPWh
(132)
ふいに、赤い鎧がこちらを向いた。
「お前がルーファスだね」
どちらかというと若いような印象を受ける声だが、この一言だけで心臓を掴まれたような緊張感に襲われた。
「…あんたは、何だ?」
誰だ、とは出なかった。
「私はこの世界を管理する者だよ」

こいつはヤバイ。早鐘のように心臓が鳴るのがわかる。
ただ立っているだけで汗が出てきた。
「…俺に、何の用だ?」
搾り出すように震えた声を出す。
「お前の存在は危険すぎるんだ。私の僕がお前を排除しに来ただろう」
表情はわからないが、おどけたような話し方だ。

気を抜くと意識を失いそうな圧迫感だ。
ラディールもひどく狼狽しているように見える。エルリッドは、既に足元が覚束ないようだ。
「…まるで神様のような言い草だな」
「神は死んだ。我々が神を殺したのだ─お前たちと私が。我々は皆神の殺害者だ」


345 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/17(月) 22:53:41.73 ID:TLGZaPWh
(133)
「…何言ってんだ、あんた…?」
「神は死んだ。神は死んだままだ。そして我々が神を殺したのだ。
世界がこれまで持った、最も神聖な、最も強力な存在、それが我々のナイフによって血を流したのだ。
この所業は、我々には偉大過ぎはしないか?こんなことが出来るためには、我々自身が神々にならなければならないのではないか?」

思い出した。ニーチェの著作の一説だ。
「謎かけをしに来たわけじゃないだろう…?」
圧迫感にも慣れてきた。最悪、動けるくらいに息を整えなければ…
赤い鎧はあざ笑うような小さな笑い声を発した。
「神に代わる管理者、それが私だ」

「ルーファス…」
「わかってる…こいつはヤバイ…」
ラディールはこの圧迫感に少し慣れてきたらしい。だが、エルリッドは相変わらず棒立ちのままフラフラしている。
「エルリッド!」
俺が声をかけると、竦んだ様な動きをした後その場にうずくまってしまった。
「いぃ.…いやぁァァァァァァァァァァ!!!」
「おい!大丈夫か!?エルリッド!!」
何だ、何をした?


346 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/17(月) 22:54:06.06 ID:TLGZaPWh
(134)
悲鳴を上げたあと、急にスクッと立ち上がってこちらを見る。
その目は、明らかに俺に対して敵意を発している。
「おい!エルリッド!どうした!」

「はぁぁ!!」
声とこちらに剣を出すのが同時だった。
「おい!!」
全く予想外だった場所からの攻撃に対応しきれず、剣は俺の方を深々と斬った。
「エルリッド!」
ラディールが悲鳴を上げつつこちらに駆け寄ってきた。
両手斧の強烈な一撃がエルリッドの追撃を阻む。
「エルリッド!何をしているの!」
「ルーファスさん、どうして兄さんを…!」
何を言ってるんだ?

「驚くことはない。今の彼女にとって君は兄の敵なのだから」
「あぁ!?」
「彼女にそういう情報を与えただけだ。別に気が触れたわけでもなんでもないさ」


347 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/17(月) 22:54:24.94 ID:TLGZaPWh
(135)
「そっちの彼女は、君の事を前から知っているようだね」
理解できない。こいつは一体何を話してる?
ラディールはエルリッドを牽制しつつケアルをかけてきた。
肩の傷口が消えていく。だが痛みは消えない。

「さぁ、どうする?ルーファス」
赤い鎧は、さも面白そうに声をかけてくる。
「だったら先ずテメェを叩く!」
一直線に赤い鎧に向かって走り出す。赤い鎧は特に構えるわけでもなく立ったままだ。
無言で拳を鎧に叩きつける、つもりがその直前で拳が何かに当たった。
陽炎のような空気の淀みが俺の拳を包んでいる。
「無駄だよ。神の代行者にそんな攻撃が届くわけないだろう?」
その瞬間、俺は体ごと真後ろに弾き飛ばされた。

弾き飛ばされる間も、赤い鎧を注視していた。こいつは何もしていない。
訳のわからない力で10メートルほど後ろまで飛ばされてしまった。

ラディールはエルリッドを押さえ込んでくれている。
ラディールがもたせてくれている間にこの赤い鎧を俺が何とかしないと…


348 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/17(月) 22:54:47.41 ID:TLGZaPWh
(136)
再び、一直線に赤い鎧に駆け出す。
目の前で攻撃をすると見せかけて側面に回って、思い切り背中にめがけて裏拳を繰り出した。
これも、赤い鎧の周りにある淀みで止まってしまった。
「無駄だよ」
声と共に、さっきと同じ様に後ろに弾き飛ばされる。
手を付いて着地して、また同じ様に駆け寄る。
少なくとも、こいつが何をしているか理解しなければならない。トリックだかなんだか知らないが、何もしていないはずがないんだ…
「お前はもう少し頭がいいと思ってたんだけどなぁ」
目の前まで来ても、赤い鎧は何もしない。完全にナメきってるらしい。

「おぉぉぉ!!」
その赤い鎧に向けて、8回連続で拳を繰り出す。
夢想阿修羅拳。

だが、肩に激しい痛みが走っただけで、拳はやはり赤い鎧には届かなかった。
「面白くもなんともないね」
また後ろに弾き飛ばされる。


349 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/17(月) 22:55:09.20 ID:TLGZaPWh
(137)
とりあえず、これが衝撃波か何かであることが理解できた。
こいつは、何もしなくてもその意思だけで衝撃波を出せるらしい。
ただ避けるだけなら狙いをはずさせればいいだけだが…

「エルリッド!目を覚ましなさい!」
「どいてください!」
少し離れた場所でラディールがエルリッドと戦っている。
ラディールは両手斧をうまく使って攻守に上手く渡り合っているようだ。
エルリッドを完全に押さえ込んでる。
とはいえ、止めをさせない状況はいずれジリ貧になってしまう。

赤い鎧を見る。どうにかこいつを倒すなり退くなりさせないことには話が進まないようだ。
だが、拳はあの空気の淀みで止められてしまう。俺には、この拳しかない。
どうする…このままじゃ…

「っちぃ、思ったより早かったみたいだな」
この声は…俺の声?


384 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/18(火) 02:19:55.00 ID:fuVYe5wd
(138)
振り向くと、モーグリがふわふわと浮いていた。
あれ…俺の声みたいな野太い声がしたような気がするんだけど…
「へぇ、お前も『イレギュラー』なのかい?」
「あんたが想定していないもんをそう呼ぶならそうだな
モグが答える。やっぱり、これは俺の声だ。

ふわふわと俺の側に寄ってきたモーグリが、耳元でささやき始める。
(一度しか言わないからよく聞け。俺はお前の体の持ち主だ)
(はぁぁ??)
(今のお前は俺の体の身体能力しか使っていない。だから、俺が力を貸してやる)
(話が見えねぇよ、モーグリがどうやって戦うんだよ?)
(今からお前に俺の記憶・経験・知識・能力を全て移す。それでお前はその体の力を完全に使えるようになる)
(お前はどうなるんだ?)
(お前と一つになる)
(…わかったよ、もう今はそれしかないんだな。で、どうやって?)
(その方法を、わざわざ2日も費やして探してきたんだ。これを持ってくれ)
モーグリはカバンの中から小さな宝玉のような物を取り出した。
(時間がないんだ。これを持って、俺を受け入れるように意識しろ!)
2006年06月08日(木) 19:13:44 Modified by jikyaramatome




スマートフォン版で見る

×

この広告は60日間更新がないwikiに表示されております。