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Loufas ◆TTnPTs4wAM 4スレ目本編


272 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/28(金) 02:48:29.93 ID:e4I7I3Ov
(152)
「なぁ…さっきから考えてたんだけど」
龍王ランペールの墓に入りかけたところで、俺がラディールに声をかけた。
あたりは既に夕闇に包まれ始めている。
「赤い鎧と戦ってたときに誰も来なかったの、気にならなかったか?」
「それはそういう力があるんじゃないのかしら」
「それなら、俺はともかくラディールやエルリッドが動けていた理由はなんだろう?」
ラディールがはっとしたような顔をする。
「最初襲われたときにもそうだった。わざわざ他の人間を寄せ付けなくしておきながら、エルリッドは問題なく戦えていたし、ラディールも途中で駆けつけてきた」
「さっきもそうだったわね…」
「連中が万能でないのはさっき戦ってわかったけど、他の人間と2人は明確になにか違う点があったという事になる。んでもって、俺が知る限りで2人の共通点と言えば…」
「あなたと関わったこと」
俺は黙って頷いた。

「で、ここからは想像の話なんだが…宰相やクリルラは、もしかして同じ様に動けてたんじゃないか?」
ふぅ、とため息をついたラディールはなんだか不機嫌な顔になった。
「それは、今逃げる途中にしなければならない話かしら?」
「あぁ必要だとも。場合によっては逃げちゃまずいかもしれない」


273 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/28(金) 02:49:20.31 ID:e4I7I3Ov
(153)
「宰相やクリルラ、それにこの数日で俺に関わった人間全てが危険なのかもしれないって事だ」
連中の標的は『来訪者』に限らず彼らの管理下で収まらない物全てである可能性が高い。
もっと早く思い当たるべきだった。

「騎士団は俺達が逃げると思ってる。少なくとも、宰相はそう伝えるはずだ。恐らくロンフォールからラテーヌに向かったと。なら逆にサンドリアに戻っても見つかる可能性は低いのかもしれない」
「無茶苦茶ね、見つかったら今度は騎士団と戦うつもり?」
「必要ならな。そうならないようにするのは俺達の努力次第だろ」
「馬鹿げてるわ…騎士団の捜索を免れて、さらに騎士団のトップや宰相を守ろうなんて出来るわけないでしょう?」
「現実的じゃぁないかもしれないが、今更俺を狙う連中が増えたところで大して変わりゃしない」
俺は肩を竦めながらお手上げのポーズをしてさらに続けた。
「馬鹿げてるなんて、俺にとっちゃ今の状況自体が既に馬鹿げた事なんだよ。そうだろ?」
ラディールは話にならないとでも言ったように、俺と同じ様に肩を竦めてお手上げのポーズをした。

「それに、世話になった恩は倍返しってのが俺のモットーでね」
「私も期待していいのかしら?」
「あぁ、10倍返しくらいは堅いね」
言い終わった後、踵を返してサンドリアへ走り出していた。


274 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/28(金) 02:50:32.70 ID:e4I7I3Ov
(154)
「どうやって街に入るつもり?」
「ちょっと手荒になるが、俺に考えがある」
要するに、チェックを受けずに街に入る方法があればいいわけだ。
「…っと、そういえば何か顔が隠れそうな物はある?」
「ビロードハットならあるけれど」
「十分。借りるよ」
ビロードハットを目深に被り、街の近くまで来たところで松明の台を派手に蹴り飛ばす。
「ちょっと!!」
「手荒になるっていったろ?」
松明の火はあっという間に草むらと近くの木に燃え広がった。
「放火じゃないの…」

なるべく息を荒くしながら門番をしている兵士に近づき、まくし立てるように叫んだ。
「大変です!オークが松明を倒していって火が燃え広がってます!!」
「なんだと!どこだ!」
「あそこです!」
指差して場所を示す。遠くからでもわかるくらい火が燃え広がっている。ちょっとやりすぎたかも…
「よし、川の水で消火する!お前は中の兵士に知らせて応援を呼んでくれ!」
「は、はい!」


275 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/28(金) 02:50:56.08 ID:e4I7I3Ov
(155)
「大変です!外で火事が!」
「何!わかった、すぐに向かう!」
何の疑いもなく外へすっ飛んでいく兵士達。その隙にまんまと侵入は成功してしまった。

「随分あっさりと通れたなぁ…」
「安心するのはまだ早いわ。とりあえず居住区の裏路地にでも隠れましょう」
なるべく人目を避けるようにして従者横丁へ入り、居住区への道をひたすら走り、そのままモグハウス入り口から居住区へ駆け込んだ。
少し奥まったところにある民家の裏手の路地に回り、樽や木箱をバリケードにして隠れるスペースを作る。
建物と建物の間に当たるため狭いことこの上ないが見つかりにくいのは確かだ。
「ここで、とりあえず朝までやり過ごそうか…」
「そうね…」
俺はカバンの中から非常用に持っていた干し肉と蒸留水をラディールに渡す。
「まるで遭難したみたいな食事ねぇ」
「似たようなもんだ。自然の驚異じゃなく人災だけどな」
俺は干し肉を手早く口に放り込み、蒸留水で流し込んだ。

「俺がしばらく見張りをしてるからラディールは先に寝ておいてくれ。時間がきたら交代してもらう」
「えぇ、それじゃ先に休ませてもらうわ…」
ラディールはカバンから綺麗な刺繍が施された布を取り出して肩にかけ、壁に背を預けた。


276 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/28(金) 02:52:15.00 ID:e4I7I3Ov
(156)
隠れて既に1時間が過ぎようとしている。今のところ、特に誰かが来る様子もない。
だが、問題は別のところで発生していた。
「ねぇ…」
「寝てくれ。俺が寝る時間が減る」
「…寝れる訳ないじゃない」
原因はわかってる。建物の中から行為をしている声と音がするからだ。
「…とんだ所に隠れちまったなぁ」
横に並んで座っているラディールと目が合って、お互いすぐに目をそらす。頬が熱くなるのを感じた。真っ暗でも視線が交わるのがわかるのは不思議なことだ。

「俺さ…」
「ん?」
「この世界で、『ルーファス』として生きてきた記憶が戻ったんだ」
「そう…」
横に並んだ状態で、同じ様に壁に体を預けているラディールと視線を交わさずに話し続けた。
「全部思い出した。ラディールの事も、エルリッドの事も…」
「エルリッドとは数日前に初めて会ったのではなかったの?」
「いや、初めてじゃない。俺がまだ『ルーファス』って名前を名乗る前の話だけど」

「俺は、冒険者になった10年前に名前を一つ捨ててる。『ファーロス・S・シュヴィヤール』って名前だ」


393 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/29(土) 23:54:32.49 ID:aXSTGtbE
(157)
「一昨日の夜の事、覚えてるだろ」
あの時にエルリッドが名乗った名前は…
「『エルリッド・S・シュヴィヤール』と、エルリッドが言ってたわね」
「その名前が間違ってないなら、エルリッドは俺の妹って事になる」
「そう…」
2人とも、視線は相変わらず目の前にある壁に向けられている。ラディールは少し身を縮めて肩にかけた布を被りなおした。

しばらくの沈黙の後、ラディールが口を開いた。
「あなたは…誰なの?元のルーファス?異世界から来た人?その『ファーロス・S・シュヴィヤール』という人なの?」
俺は視線を下に向けた。わかるわけがない。
いきなり自キャラになって、その自キャラにもそれまで生きてきた記憶があった。
その自キャラには、捨てた名前と妹がいた。これは厳密に言えば俺の事情じゃない。
だが今こうして話している俺にとっては、まさに当事者としての視点の記憶しかない。
『俺』と『ルーファス』の境界が、記憶の上でも意識の上でもあやふやになっている。

「…わからない」
「そう…」
建物の中からは、何度目かの絶頂を迎えた女の嬌声がしている。
壁一つ隔てたこんなところで重苦しい空気が流れてるとは夢にも思わないだろう。


394 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/29(土) 23:54:54.87 ID:aXSTGtbE
(158)
「異世界から来たとか、あの娘が妹とか…私には全然理解できないわ…」
俺だって理解なんて出来ない。ただ目の前で起きていることと記憶の中にある情報が符合し、おそらく事実だろうと思われることを言っているだけだ。
「私は、あなたが冒険者の『ルーファス』で、あなたを支えられたらと思っていただけなのに…」
「…すまない」
「なんで謝るのよ…」
ラディールはいつの間にか俯いていた。

「ラディールはどこか遠くに行ってた方がいいんじゃないかな、君は当事者じゃない」
「…どういう意味?」
説明するのも気が重い。
「多分、事態は俺たちが考えていたよりも遥かに深刻なんだ。君も命を落とすかもしれない」
「…そのことなら、昨日言った通りよ」
「俺が冒険者の『ルーファス』じゃないとしても?」
そう言うとラディールは黙り込んでしまった。

「あなたは…ルーファスよ…」
ラディールの声は震えているようだった。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
俺の声はどこか冷たく、重々しかった。


395 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/29(土) 23:55:23.67 ID:aXSTGtbE
(159)
建物の中からは相変わらず嬌声が聞こえる。
壁一枚隔てた2人の沈黙は、重々しくもあったが逆に心地良くもある。

不意に、地面に置いていた俺の手に暖かい何かが被さった。
「あなたは1人だって、ずっと言ってた」
俺は1人だから ─ それが、『ルーファス』の口癖だった。
「でも、あえて1人になろうとしてるのは初めて見たわ。それは『ルーファス』ではないあなたのせいなのかしら」
一人が楽でいい ─ これは『俺』の口癖だ。
「私はあなたに助けられたから、その代りにあなたを助けたいって言ってる訳じゃないの」
「あぁ…」
ラディールは少しこちらに寄って、俺の肩に寄りかかった。
「あなたを、守りたいのよ…」

何かを失うのが怖いか、と宰相は俺に言った。
あぁ、怖いね。それが愛しいと感じたものであれば尚更だ。

「守るためには、逃げてはいけないの。一人になることは逃げているのと同じだわ」
わかってる。だから俺は1人でいる事を望んだ。守るものを持たないことで自分への言い訳にしていた。


396 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/29(土) 23:56:33.20 ID:aXSTGtbE
(160)
手に被さったのがラディールの手だった事に、強く握られてようやく気がついた。
「10倍返し、してくれるんでしょう?…だったら、あなたが幸せになって、私も幸せにして頂戴」
「へ?」
思わず間抜けな声が出た。ラディールは身をよじってまっすぐに俺を見ていた。

くっく、と低く笑い声が出てしまった。
「…わかったよ、まかせとけ」
俺の手の上に置かれたラディールの手を反対の手で引き寄せ、地面にあった手をラディールの肩に回した。
「まったく、本当にいい女だ。俺でいいのかねぇ?」
悪戯っぽく笑いかけると、そっぽを向いてしまった。

「おかげで肚は決まったよ。結局、目的なんて物は血と汗で達成されるもんだ。それを恐れてたんじゃ何も出来ない」
肩に置いた手を離し、そのばで立ち上がった。
「そうと決まればいくところがある」
手を伸ばして、ラディールを引き起こした。
「どこへ?」
「ここよりはもう少しマシな寝床と、武器があるところだ」
暗闇の中で、感謝の言葉の代わりに精一杯の笑顔をラディールに向けた。


397 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/04/29(土) 23:57:14.64 ID:aXSTGtbE
(161)
サンドリア居住区、通称東サンドリアの奥はちょっとした高級住宅街になっている。
その片隅に目指す場所はあった。
「この辺って、貴族や高位の騎士が住んでる場所じゃない?」
「かもな」
人通りが少ないが、それだけに歩いてる姿が目立つ。とにかく足早に目的地に向かった。

高級住宅街を少し行き過ぎたあたりに、目的とする場所があった。
柵と見分けがつかないような玄関戸を開け、庭を突っ切って扉までいく。
扉を何度か叩くと、使用人らしき若いミスラが出てきた。
「夜分遅くに申し訳ない。この屋敷の主人はおられるかな」
「…すでにお休みかと思います」
「そうか。では起こしてこう伝えてくれ」
「ですが…」

「ファーロス・S・シュヴィヤールが帰ってきた、と」
ミスラは息を呑んだような表情をした。どうやら思惑通りに事は運びそうだ。


520 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/05/01(月) 14:34:40.46 ID:53LfQAT8
(162)
玄関から応接間に通されて待つこと数分。
「ファーロス坊ちゃま…ファーロス坊ちゃまでございますか…?いや、この面影、見紛う筈もありませぬ!」
比較的背の低い、腰の曲がったエルヴァーンの老人が出てくる。
「坊ちゃまはよせよ。久しぶりだな、爺さん」
笑顔を向けると、老人は顔を抑えて咽び泣き始めた。

「坊ちゃまがいなくなられて10年!お嬢様がどれほど寂しい思いをされたことかご存知でしょうか!?このマティエール共々、どれほど坊ちゃまのお帰りをお待ちしていたことか…!」
「らしいな。エルリッドには会ったよ、名乗らなかったが…ついでにもう一つ。エルリッドが攫われた」
マティエール爺さんは、今にもポックリ逝きそうなほど体を大きく硬直させた。
「…なんと!」
「俺の力不足だった。取り戻すために、先ずこの屋敷を拠点にして情報収集をしたい」
「…かしこまりまして」
「ついでに言うと、騎士団にも追われていてね」
「なるほど、『ルーファス』とは坊ちゃまのことでしたか。よろしいでしょう」
マティエール爺さんは、曲がった腰をしゃんと伸ばし、起立した状態になった。
「亡きお館様の遺品は全て残しております。どうぞご自由にお使いください。ここは坊ちゃまの屋敷でございますれば」
先ほどの咽び泣いた老人と同一人物とは思えない。鋭い視線と、わずかに微笑をたたえた口元だ。


521 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/05/01(月) 14:35:29.05 ID:53LfQAT8
(163)
「あぁ、ありがとう。それと、抜け道はまだ使えるかな?」
「おぉぉ…覚えておいででしたか…」
「忘れるわけがないよ、ガキの頃にあそこへ迷い込んで何度親父に抱えられて帰ってきたか」
不意に、また老人の目元に光る物が浮かんだようだ。
「あぁ、坊ちゃま…本当にお戻りになられたのですね…」
俺は苦笑いしか出来なかった。
やり取りをキョトンとした様子で見ていたラディールは、老人と俺を見比べながら状況を判断しようとしているらしい。

爺さんは両手を組んで天に向かって祈るような格好になった。
「お館様…坊ちゃまはこんなにも立派になられました!ご伴侶もお連れになり、このマティエール、感涙でございます!」
思わず、俺とラディールが視線を合わせる。
「…だってさ」
「…みたいね」
すばやくラディールの方に手を回して引き寄せる。彼女も心得た物で手を俺の胸あたりに添えて、俺に寄り添うような格好になった。
「おぉぉ…亡きお館様と奥様を見るような心持でございます…」

「爺さん。詳しいことはまた明日話すから、今日はもう休ませてくれ…」
「おぉ、これは気が回りませんで…申し訳ございません。マルト、お館様のお部屋へお連れしなさい」
マルトと呼ばれたミスラが嬉しいような困ったような表情で頷き、俺たちを部屋の外へ促した。


522 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/05/01(月) 14:36:34.04 ID:53LfQAT8
(164)
「先ほどは失礼をいたしました。私が使用人としてこちらに上がったのは、8年前でしたもので」
ミスラが丁寧な口調で話す。親父の部屋のドアの前で、鍵を俺に手渡してきた。
「そっか。親父の部屋は、特に何か変えたようなことはないか?」
「亡くなられた時からそのままであると、お爺様が言っておられました」
「わかった、もう下がっていいよ。ありがとう」
「あの…」
マルトが何かはにかんだ様な顔になった。
「お爺様のあんなに嬉しそうな顔、初めて見ました。ファーロス様が一日でも長くここにいてくださいますよう、お願いいたします」
俺はまた苦笑いをした。

ガチャリと音を立ててドアを開けると、ほこり一つなく清掃された部屋があった。
「驚いたわね…伯爵家のお坊ちゃまか何かだったのかしら?」
「そんな大層なもんじゃない。騎士といっても、親父は戦争屋だった。だから…」
壁際にあったクローゼットを全開する。
俺には見慣れた光景だったが、ラディールは息を呑んだようだ。

「剣、銃、爆弾、なんでもござれだ」
クローゼットから、視界いっぱいに敷き詰められた武器が覗いていた。


523 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/05/01(月) 14:37:44.44 ID:53LfQAT8
(165)
ベッドが一つだった割には特に何もなく、翌朝は実に優雅な物だった。
『朝食は、給仕をする物も含めて皆でとる』というのがシュヴィヤール家の慣わしで、食卓にはメイド服のマルトと、いかにも執事らしい格好のマティエール爺さん、そしてどこか戸惑ったようなラディールと、正直寝ぼけたままの俺がいた。

「なるほど、それは大変でございましたなぁ…」
俺が異世界から来た意識と混ざり合っている事を伏せて、訳のわからない連中に狙われている、ということだけを話した。
「情報が必要というのは、その黒いマントや赤い鎧に関するものでございますな」
「あぁ、出来るだけ詳細な情報が必要なんだ。連中のねぐらなんか分かれば、もう言うことはないんだけど」
「なるほど、私どもでも手を回してみましょう」
この爺さん、たまに笑えないほど鋭い目をする。
「で、とりあえずこの辺の様子を確認しておきたいから、午前中は散歩にでるよ」
「かしこまりまして。マルト、ご案内してさしあげなさい」
「はい」
「その前に武器を確認しておきたいわね」
とまぁ、こんなやり取りがありつつ…

屋敷を出たのは、それから少ししてからだった。
俺は遮光眼鏡を、ラディールは防塵眼鏡をかけている。どう見ても怪しい…
「こちらへどうぞ」
マルトが先にたって、くぐり戸から外へ出た。


524 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/05/01(月) 14:39:18.85 ID:53LfQAT8
(166)
意外なことに、遮光眼鏡一つで全く誰にも気付かれない。
マルトに先導してもらった東サンドリアの高級住宅街だけでなく、南サンドリア周辺でも同じだった。
ガードに話しかけてみても、横柄ではあるもののきちんと対応してくれる。
「良く考えてみたら、誰も顔であなたを探そうとしていないだけかもしれないわね」
「同じ様な顔は結構いるもんなぁ…」

マルトに『〜〜に行きたい』というと、彼女はその場所からの最短距離を教えてくれた。
ネコミミにメイド服というちょっとアッチ系の格好ではあるが、わずかに微笑をたたえた表情からは凛とした雰囲気を感じる。
(ねぇねぇ、マルトってちょっと可愛いと思わない?)
ラディールの目が妖しい。そういう趣味もあるんですか…

5歩ほど先を歩くマルトの近くを子供が通り過ぎようとして、スカートが不意に舞い上がった。
どうやら子供がスカートめくりをしたらしい。マルトは落ち着いた表情で子供をすばやく捕まえた。
そのまま ──

「ルーファス!」
「…分かってるよ、いい加減3回目だしな」
マルトを含め、子供や周りの通行人まで全て『止まった』。3次元の写真が取れるとしたらこんな感じか…
奇妙な光景の中、俺たちは周りの気配を探り始めた。


525 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/05/01(月) 14:40:58.89 ID:53LfQAT8
(167)
気配を探ろうとするものの、何かがこちらを窺っている様子はない。
「…なぁ、もしかして狙われてるのは俺たちじゃないかもしれないな」
良く考えてみれば、今の状況は過去二回と大きく異なり、周りに人が多すぎる。
「もしかすると宰相あたりに…」
「静かに!」
ラディールが鋭く言った。

わずかに、走る足音のような音が聞こえる。
これは…上?
「見張り台の方よ、誰かが追われてるわ!」
言うなりすぐに走り出した。

階段を探しすぐに上へ駆け上がろうとしたが、音に気がついて足を止める。
「…誰か、上っていったな」
「敵かしら…」
「味方だといいな」
言うとすぐに階段を駆け上がり始めた。グダグダ考えても埒は開かない。
赤い鎧だか黒マントだか知らないが、そいつらを抑えることが俺の最優先目的だ。
やがて、先に走っていた足音が止む。待ち伏せか、待ち合わせか。


526 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/05/01(月) 14:41:54.12 ID:53LfQAT8
(168)
階段の踊り場になっているところで、意外な顔を見た。
「あんた、昨日の…」
ロンフォールで会った、『来訪者』の魔導士だ。向こうもこちらの顔を見て驚いているように見える。
俺がニヤリとしてみせると、彼も手に宿していた魔力を破棄して笑顔を見せた。
「確か、フルキフェルだったか。あんたも…」
瞬間、轟音と閃光が走った。誰かが魔法を使っている。しかも、向き先はこちらではないどこか ──
襲われてるのは彼ではない、また別の人間らしい。

光が漏れてきた方向へ走り出すと、立ち尽くしたようなミスラの向こうに探していた相手がいた。

赤い鎧

こっちが見えていないのか、悠然と剣を振り上げている。
ということは、あのミスラが襲われている当事者で、恐らくは『来訪者』…

気孔弾を赤い鎧が振り上げている剣に向かって投げつける。俺の手から発せられた光の玉は一直線に剣に当たり、消える。
同時にフルキフェルが炎の魔法を使ったらしい。赤い鎧が火に包まれた。
「取り込み中わるいな」
俺はドスの効いた声で、赤い鎧に問いかけた。


618 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/05/03(水) 00:28:05.54 ID:X5o2WH7T
(169)
とりあえず、ミスラの安全を確保するのが先決だ。
ラディールに目配せをすると、意を汲んでくれたようで魔法の詠唱を始めた。
赤い鎧の顔の辺りで閃光が弾ける。それを確認してから、体を低くしてミスラの脇をすり抜けて赤い鎧の腰に向かって前蹴りを出す。
本当に押すだけだったが、赤い鎧は目が見えないことからくる混乱と相まって剣をひたすら振り回している。

立ち尽くしたミスラにフルキフェルが近寄り、何かを渡している。
時計…?しかも、見たことがあるものだ。
「へえ、エルジンか。マイナーな趣味してるな」
昔俺が使っていたエルジンのダイバーウォッチの後継モデルだ。
ミスラは訳が分からないといった顔をしている。わからなくていい。特に意味もない。

「仕切りなおすぞ、動けるか?」
「バインドなんだ」
狼狽して立ち尽くしているわけではなかったようだ。2秒ほど考えて面倒くさくなってミスラの尻を軽く蹴り飛ばす。
ん…この尻の感触は…肉が薄い、薄すぎる。
良く見てみると、ミスラなのに胸はないし肩もわずかだがいかつい印象を受ける。こいつ、まさかオスラか…
そう思うと、ちょっとでも気を使って軽く蹴ったのが馬鹿らしいように感じた。
「ちょっと撫でただけだろ、男なら大袈裟に騒ぐなよ」
痛いだのなんだのとギャァギャァと騒ぐオスラに、すこしおどけた声で言った。


619 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/05/03(水) 00:28:32.20 ID:X5o2WH7T
(170)
蹴った衝撃でバインドの効果が切れたようでオスラは歩き出したが、こちらを恨めしそうに見ている。
「ルーファスが悪い」
「私もそう思います。イレースあったのに…」
それは早く言え。
「俺か!俺が悪いのか…!」
親切をしたつもりなのに責められるというのは本当にガックリくる。俺は大きくため息をついた。

目の端に、ようやく正気を取り戻した赤い鎧が近づいてくるのが見えた。
向き直って姿を確認する。昨日相手をした奴と違い、蜃気楼のようなオーラを纏ってはいない。
何より危険な感じがしない。威圧感は凄まじいが、ただそれだけだ。
歩き方一つをとっても体を持て余したような緩慢な足運び、剣をぶら下げた腕も無造作すぎる。
4人で囲める場所におびき出せば、それだけでこいつは突き崩せる。そういう確信があった。

後ろの2人に目配せをし、オスラをかばう様にして赤い鎧に向かって踏み出してここから退くように促す。
「行くぞ!」
「いやだ」
…はぁ?


620 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/05/03(水) 00:29:12.22 ID:X5o2WH7T
(171)
「はァ? なんでだよ」
「なんでも」
なんなんだこいつは…
「あいつだけは、死んでも殺す」
「ガキか、せめて理由くらい教えろ」
肩越しに視線を送る。聞き分けのないガキの理屈ならここから放り投げてやる。
「女ね」
後ろからラディールの声が聞こえた。
オスラが照れたような、苦笑いのような表情を浮かべる。どうも図星らしい。

「そうか。そりゃ……メチャ許せんよなぁ」
まいったね…そんな話聞いたら、ちょっとやる気が出ちゃうじゃないの。
赤い鎧はこちらのやり取りが終わるまで丁寧に待っていてくれたらしい。律儀なことだ。

「足引っ張るなよ!」
一声かけて、直線に赤い鎧に駆け出す。ほぼ同時に、赤い鎧は剣を上段に振り上げて俺に向かって振り下ろした。
振り下ろされる剣を持つ右手に左手の甲を当てて、左足の踏み込みと同時に手首を半回転させて弾く。
流石に剣は落とさなかったようだが、軌道は大きく俺の左に逸れた。
そのまま右足を踏み込んで、右の拳を鋭い息吹と共に鳩尾に叩き込んだ。


621 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/05/03(水) 00:30:00.65 ID:X5o2WH7T
(172)
手ごたえがあり鎧自体にも小さなくぼみが出来ているが、衝撃はその内部から押し返された。
手から感じた感触はまさにそんな感じだった。
「どーいう腹筋してんだ……」

多少のダメージを期待していたが、赤い鎧は城壁に食い込んだ剣を引き抜こうとしている。
効いてないのか…どうやら、考えを改める必要があるらしい。想像以上に厄介だ。
ガキッと音がして剣が城壁から抜かれ、そのまま俺に向かって切り上げてくる。相変わらず緩慢な動きだ。これなら篭手で受けても──
「よけろナッパ!」
「だぁれがナッパだ!」
反射的に後ろに飛びのいた。
「おれがあのヒゲスキンに見えるか!」
「うるせえな、勢いだよ。あるだろそういう事…ナッパ知ってるの?」
「知らない日本人はモグリだな」
何故にここでDBなのか小一時間問い詰めたいところだがそんな余裕もない。視線は赤い鎧からはずさすに答える。
「あんたまさか、リアルから……」
「初見で分かれよ」
しかしまぁ、これでオスラも『来訪者』である確信が得られた。


622 :Loufas ◆TTnPTs4wAM :2006/05/03(水) 00:30:57.90 ID:X5o2WH7T
(173)
「来るぞ、手伝え」
俺が声をかける。もっとも、戦力として期待してよいものかどうかは分からないが。
「お、おうっ」
一応、やる気はあるらしい。

赤い鎧は冷静さのかけらもなく鼻息が荒い。歯を食いしばって、口の端からは唾液が流れ出ている。
「弱体だ! お前達のジョブを全て弱体してやる! お前達のような不正ユーザのせいで、全てのユーザが被害を被るのだ!」

弱体?それにユーザとも言った。昨日の赤い鎧はそんな言葉は口にしなかった。
こいつは俺たちの元の世界に関して知っているようだ。
赤い鎧や黒いマントは自らを『管理者』『神の代行』と名乗っている。
こいつの発言は、俺の今まで聞いてきた話とはまるで毛色が違う。

少しイヤな予感がした。
そういえば、赤い鎧は冒険者を『連れて行く』という話があった。
多少戦闘が長引いても確かめなければならないかもしれない…
2006年06月09日(金) 14:29:14 Modified by jikyaramatome




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