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Loufas ◆TTnPTs4wAM 5スレ目本編


96 名前: Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日: 2006/05/04(木) 23:12:57.69 ID:h0S1um6G
(174)
赤い鎧の動きは剣を振るスピードが速いというだけだ。
足運びは足を絡ませそうな勢いだし、剣の振り方も『斬る』というよりは『叩きつける』という動きに近い。
だが、その動作自体も相当な速度で行われており、ほぼ膠着状態の今はそれに付け入ることは難しい。
俺の胸を掠めた剣が城壁の出っ張りにかかり音もなくそのかどを切り飛ばした。
『叩きつける』動作で十分厄介なのは、ひとえにこの剣の異常な切れ味のせいだ。

前後でオスラと挟んではいるが、主にに戦闘をするのは俺と赤い鎧のみになっている。
赤い鎧の標的が彼に向く事もあり、その際には必死の形相で応戦する。

やがて、徐々に赤い鎧の剣が俺の動きを捉え始めた。
動きを見せすぎたか…
腕や胸に傷が出来るたび、薄紫の光が俺を包む。後ろでフルキフェルとラディールがサポートしてくれているようだ。
一気に勝負を決める手がないわけじゃない。だが、赤い鎧が『来訪者』かもしれないという現状ではそれも躊躇せざるを得ない。
何か、こいつを大人しくさせる方法はない物だろうか。剣を奪えばあるいは…

ひとまず戦況を動かすには、こいつの剣を奪うしかなさそうだ。狙いを赤い鎧自体から剣に移す。
俺が剣に向けて仕掛ける素振りをした途端、オスラも同時に動き出した。
その瞬間、赤い鎧は俺に背を向けた。目標だった剣が遠退いて俺は地団太を踏むようにして動きを止める。
そして視界の奥に絶叫するオスラを捉えていた。


97 名前: Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日: 2006/05/04(木) 23:13:15.96 ID:h0S1um6G
(175)
オスラのわきの辺りから入った剣は、心臓近くまで届こうかというところまで届いている。
声にならない声を上げながら、オスラは城壁に叩きつけられた。
剣に狙いを移した俺のミスだ。

オスラの前にすばやく回りこみながら、頭の中で首を横に振る。
結果は結果だ。一緒に戦っている奴を死なせたくないなら、今はこの戦闘を何とか切り抜けるしかない。
赤い鎧の剣が、俺越しにオスラに向かって再び振り下ろされようとしてる。
中途半端な間合いに入ってしまい、退くことも懐に入ることも出来ない。まして後ろにはオスラがいる…
(くっそ!どうにでもなれ!)
俺は右正拳を剣に向かって放っていた。次の瞬間、脳味噌が弾けるかと思うくらいの強烈な痛みが右腕に走る。
グシャグシャと音を立てながら右腕が肘くらいまで真っ二つに割れている。スプラッターみたいだな…
だが、その次の瞬間に割れた右腕は元に戻ろうとしている様子が分かった。
後ろの2人、いい仕事をしてくれる。激痛の中で暢気にそんなことを考えた。


98 名前: Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日: 2006/05/04(木) 23:13:42.60 ID:h0S1um6G
(176)
鋭く息を吐き、そのまま痛みを振り払うように赤い鎧に右フックを見舞う。
兜で隠れていない口元にクリーンヒットしたが、赤い鎧は倒れないどころか俺の太ももに篭手を叩きつけてきた。
バキィッと分かりやすい音がした。
「オオオオオォォォォ!」
悲鳴出そうなのを喉で何とか押しとどめ、雄たけびに変える。俺までギャァギャァ言い出したら後ろの2人が混乱しちまう。
体制を崩しながらも体の正中線に意識を集めて、太ももの骨が元に戻るように意識をする。
中の肉や神経は後でいい。骨がくっつきゃ何とか動くだろう。

太ももに骨がずれる感触がしたことを確認して、改めて赤い鎧を見る。
「てめえ等には聞きたい事が山ほどあるが──まずは食らっとけえっ!!」
折れたばかりの足で、下段の回し蹴りを見舞う。赤い鎧の足をすくうような格好になって大きく体制を崩した。
さらに回転したまま体を捻り、軽く飛びながら胴回し蹴りを見舞う。
2撃目が顔にクリーンヒットし、そのまま赤い鎧が後ろに弾け飛んだ。

さらに追撃を狙うために追い詰めようとしたところで、赤い鎧は自ら宙に体を投げた。
同時に赤い鎧の周りで黒い何かが集まっている。何が起こってるんだ…?
俺が疑問に足を止めていると、空気が縮まるような現象が赤い鎧の周りで発生し、オスラが訳の分からない声を上げながら何かを投げつけた。


99 名前: Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日: 2006/05/04(木) 23:14:12.75 ID:h0S1um6G
(177)
オスラの投げた物は時計だったようだ。
それが赤い鎧に到達した瞬間、収束しかけていた黒い何かが弾け飛び、赤い鎧は城壁の高さから重力以上に見える速さで落ちていった。
そして、カエルを踏み潰したような音が下から聞こえた。

「あ〜あ、グチャグチャ…」
下を確認した俺が見たのは、血の海と人の形を失った何かだった。
多分、というか確かめるまでもなく死んでるだろう。
『来訪者』だったかもしれない。もうそれを問いただす術はないが…
赤い鎧としてここにいる以上、彼はこの世界で何らかの役割を得て存在していたのだろう。
この世界で何人も知り得なかった赤い鎧の組織に、彼はどうやってその役割を見出したのか。
何故彼は同じ『来訪者』を殺すことを是としたのか。
語るべき口は、恐らくもう形をとどめてすらいないだろう。
いずれにせよ、こうして死んでいる彼はただの傀儡に過ぎなかったということになるだろうか。

後ろではフルキフェルとラディールがオスラの救命に掛かっているが、この段階になると俺に出来ることは何一つないことは理解している。
せめて味方であろう人間には死んでもらいたくないもんだ。
祈る代わりに、背を向けたままそっと目を閉じた。


100 名前: Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日: 2006/05/04(木) 23:14:50.76 ID:h0S1um6G
(178)
「…32のレプリカだけで楽しく神様やってたはずなのに、 なんでこっちに手出しする気になっちゃったんでしょうねぇ」
横に来たフルキフェルが言った。32?レプリカ?
横目で顔を見やると、何か別人のように穏やかな顔をしている。
「うん? 何か言ったか」
「いえ別に」
説明する気はないらしい。
困ったもんだ、敵も味方も謎だらけでどうにも居心地が悪い。

さっきの黒い何かはデジョンだろうか。それを、オスラは時計を投げることで止めた。
何故彼は時計を投げることを思い立ったのか、そして何故デジョンの発現を止められたのか。

ふと、空気が動き出すような感覚がした。遠目にも人々が動き出したのが見て取れる。
騒ぎになる前に引き上げたいところだがオスラを放って置くわけにもいかない。
「ルーファス、フルキフェル!気がついたわ!」
振り返ると、さっきよりは若干血色のいい顔のオスラが、ひどく疲れたような表情で座っていた。
「気迫は認めるけどな、あんな奴と刺し違えて満足か馬鹿!」
「うーんむにゃむにゃ、もう食べられないにゃ〜」
「そんな漫画みたいな寝言があるか!」
言うより早いか、拳骨を頭に落とした。まぁ、こんな冗談が言えるんならもう大丈夫だろう。


101 名前: Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日: 2006/05/04(木) 23:15:25.39 ID:h0S1um6G
(179)
ラディールとフルキフェルが、しきりにオスラをたしなめている。
「ったく、心配かけやがって」
俺は一言だけ言ってオスラの隣に腰を下ろした。
「あいつは、どうなった?」
「下で死んでる」
「剣は?」
「ほら、そこに刺さってる」
「そっちじゃなくて、空から降ってきて赤い奴に刺し殺した方だが」
「はあ? あいつは滑落死。何なら見てみろ、剣なんかどこにもない」
やれやれ、こいつまでわけの分からないことを言い始めやがった…

ため息をつくと、なんだか無性に煙草が吸いたくなった。
時計持ってるんだったら、煙草も持ってないだろうか。持ってるわけはないだろうが、話のネタにでもなればいいや。
「なあ、煙草持ってないか?」
ゴソゴソとオスラがポーチから何かを取り出そうとしている。
手渡された煙草はKOOLだった。メンソールはちょっと苦手だが、まぁ紙煙草なら何でもいい。


102 名前: Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日: 2006/05/04(木) 23:16:11.49 ID:h0S1um6G
(180)
他愛のない会話をしながら、ライターのように手のひらに炎を乗せたフルキフェルが自己紹介をする。
「フルキフェルです。よろしくお願いします」
「おれはルーファスな。で、こっちがラディール」
親指をラディールの方に倒しながら言うと、ラディールは少しむくれたような素振りで、自己紹介くらいできるわ、と言う。
俺は周りに気取られない程度に口元を緩めた。
「おれは、ヒロだ。氏族はないけど…強いて言うなら、カラミヤ…かな」
本名だろうか。少なくともキャラの名前ではなさそうだ。

しばらく城壁に突き刺さった剣を眺めていると、にわかにあたりが騒がしくなってきた。
下の死体が人の目に触れたんだろう。ガチャガチャと鎧を着込んだような足音も聞こえてきた。
やべ…俺、騎士団に追われてるんだった。
「わるい、俺たちはそろそろいくわ。後で居住区のシュヴィヤール家を尋ねてくれ」
そういって、城壁の上に飛び乗ってラディールにも来るように促す。
「ちょっと!いくらなんでもそんな…」
「城壁の上を進んで行きゃ居住区の外壁沿いに出られる。見つかるよかマシだろ?」
『ルーファス』、いや、正しくは『ファーロス』と呼ばれていた頃の記憶だ。
外壁の構造なんてそうそう変わるものでもないだろう。
「んじゃぁな」
ヒロとフルキフェルにニヤッと笑顔を残して、俺とラディールはその場を離れた。


376 名前: Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日: 2006/05/07(日) 13:02:04.01 ID:PJ3hK//T
(181)
外壁にはいくつか段差があり、これを何度か飛び降りて行かないと居住区にはたどり着けない。
一つ目の段差のところでラディールが足を止めてしまった。目で促すが、後ずさり始める。
「高いところ…苦手なのよ…」
急いでるってのになにカワイイ事言っちゃってるんだか。
「あっそう」
俺はツカツカとラディールに近寄ると、彼女の背中に手を回す。
「首、しっかり持ってな」
言われるままに首に腕を巻きつけるラディール。俺はそのまま体を屈めて膝からすくい上げるように持ち上げる。
「なっ!ちょっと!」
「急いでるんだって」
彼女の言い分には耳を貸さず、お姫様抱っこの状態で段差を飛び降り、そのまま走り出した。
声にならない悲鳴を上げながら必死に俺の首にしがみつきながらも、むくれたような顔をしている。
「かえって目立つんじゃないかしら…」
「そりゃないな、こんなところ誰も見やしない」
青い顔をしながら苦し紛れに出したような嫌味もサラッと流す。

「ここに居られましたか」
背後からの若い女の声に反射的に振り向くと、そこにいたのはメイド姿のミスラだった。
ここ、外壁の上なんだけどなぁ…


377 名前: Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日: 2006/05/07(日) 13:02:46.47 ID:PJ3hK//T
(182)
「突然お姿が見えなくなりましたので探しておりました」
「まぁ、色々と訳アリでね」
「…そのようですね、お邪魔でしたか?」
マルトはちょっと困ったような顔をしている。
「ちょっと!違う!違うわよ!これは…ルーファス!離して頂戴!」
俺の腕の中でラディールが暴れ始めたので、そっと降ろす。
「別に照れることないだろ?」
「そういう問題じゃないでしょう!!」
抱き心地が良かっただけに、ちょっと本気で残念だ。

「お話中恐れ入りますが、そのお怪我は?」
「…訳アリだ。別に自分でやったわけじゃないから安心してくれ」
自分で言っておきながら、どういう安心の仕方だろうと首を傾げてしまう。
「とりあえず傷の手当てをいたしましょう。屋敷にお戻りください」
「ん、そのつもりだよ」
「ではこちらへ」
そう言うと、マルトはいきなり城壁から飛び降りた。慌てて下を覗き込むと、10メートルほど下で平然とこちらを見上げている。
俺とラディールは一瞬顔を見合わせた後、2人でマルトに向かって首を横にブンブンと振った。


378 名前: Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日: 2006/05/07(日) 13:03:19.90 ID:PJ3hK//T
(183)
飛び降りるよりは若干遠回りになったが、外壁を回って居住区に入りシュヴィヤール家の屋敷に戻った。
屋敷の応接間では、マティエール爺さんがお茶をすすっていた。
「南サンドリアに突然現れたという死体、坊ちゃまが何か関係していますので?」
開口一番、やんわりとした口調で俺に問いただす。耳が早いな…
「関係してない訳じゃないが…ありゃ自分で飛び降りたんだ」
「そうでしたか。しかし、彼は一体何者なのですかな」
「あいつは赤い鎧だ」
「そうでございましたか」

話す傍らでラディールが俺の体の傷に手を当ててケアルをかけ、マルトは羅刹作務衣の破れた箇所を繕ってくれている。
「では、赤い鎧の力でこの国の者達の時間が止まり、坊ちゃまはそこで戦っておられた、という訳ですかな」
「俺1人じゃなかったけどな」
「その方々は?」
「…なぁ爺さん。妙な探りを入れるのはよせよ」
「ほっほっほ、他意はございませぬ。情報を収集するにはその下地となる基本情報が必要でございますれば、それをお伺いしているまででございます。」
食えない爺さんだ。
「一緒にいた連中なら、後でここに顔を出すように言っておいたよ。本当に来るかどうかは知らないが」
「お知り合いでございますか?」
「…どうだろうな、微妙なとこだ」


379 名前: Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日: 2006/05/07(日) 13:04:34.22 ID:PJ3hK//T
(184)
「…爺さん、なんか隠してないか?」
「坊ちゃまも爺に隠していることがおありでしょう?」
爺さんの眼光がにわかに鋭くなり、ラディールが俺と爺さんの顔を見比べながらオロオロしている。
どうしてまぁ、俺が頼ろうとする先はこうも探り合いが好きな連中なのかねぇ。

「後で俺のことは洗いざらい話そう。その前に、爺さんが何者で赤い鎧や黒マントにこの情報が漏れないという確証が欲しいな」
「ほっほっほ、爺をお疑いでございますか。よろしいでしょう、先ずこちらの情報を提供いたしましょう」
爺さんの眼光が緩むが目が笑ってない。能面の翁みたいな顔になっている。
「まず、坊ちゃまが赤い鎧と呼ぶ者達の本拠はここより北の果て、ズヴァール城にございます」
「おい…」
欲しい情報があまりにあっさりと出てきたことに、俺は思わず声を出す。
「その者達の名は『フェイト』。世界の秩序を守ることを目的とする者達でございます」
「お爺様…」
マルトが思わず声をかける。まさに色を失ったというような顔をしている。爺さんはさらに続ける。
「暇を取り60年となりますが、かつて私もその組織に所属していたのでございます」
能面のような顔のまま肩を竦めて含み笑いをする。
「もっとも、かの組織で私は死んだ事になっておりますでしょうがね」
「…爺さん、あんた本当はいくつだ?」
「そうですな、確か今年で140でございますよ」

648 名前: Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日: 2006/05/11(木) 20:49:25.62 ID:+S/S3LQ+
(185)
「そりゃぁ、長生きだな」
「はい、おかげさまを持ちまして」
淡々とした受け答えではあるが、受け入れがたい事実ばかりだ。
「で、長生きの秘訣は?」
「そうでございますな。規則正しい食事と睡眠、あとは午後に一杯のお茶を飲むことでございましょうか」
楽しそうに顔をほころばせて、お茶をまたすする。
「冗談が聞きたい訳じゃないんだが」
「ほっほっほ、あながち嘘ではございますまいよ。もっとも、私の長寿はある力による物でございますが」

爺さんが事も無げにテーブルの角に手を置く。しばらくして手をどかすと、そこには青々とした新芽が生えてきていた。
マルトが短い悲鳴を上げる。ラディールは俺の横に座ったまま動かない。どうも固まってしまっているようだ。
「これは、私がかの組織に入るにあたり得た力でございます」
手品か何かの類では、どうやらないらしい。先ほどまで全くしなかった緑の匂いが部屋中を包んでいる。
「命を与える力…いや、命の再生なのかな」
「ご明察でございますな。この机に使われている木の力を呼び起こし、新たに命を生んだのでございます。これと同様の作業を自らに定期的に施すことで、多少老いる時間が遅くなっているのでございますよ」
それでも年をとる、ということを言いたげだ。
「そうまでしてここまで生きていて、その実日々人並みに死ぬことばかり考えておりましたが…」
俺のほうをみて、今度はなにやら悪戯っぽい笑みを見せる。
「いやはや長生きはしてみる物でございますなぁ」


649 名前: Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日: 2006/05/11(木) 20:49:43.99 ID:+S/S3LQ+
(186)
「死んだことになっていると言うのは?」
「その言葉の通りでございます。このような力を願い、そして得た以上は、やはり色々と難儀がございましてなぁ」
どうも老人の話というのは回りくどくていけない。
「世界の安定をもたらす組織で私が得た力は、そのまま世界の安定を覆しかねないものになった、とでも言えばお分かりでございましょう」
「分かる様な分からない様な説明だな。要するにその力で何かに力を与えようとして疎まれたって事か」
「当たらずとも遠からず、と言うところでしょうか」
こちらの質問をのらりくらりとかわすような受け答えをする爺さんは、どこか楽しそうだ。
ともかく、こちらに害意はないらしいということは汲み取れたように思う。

「爺さん、『イレギュラー』と呼ばれる存在について、何か知ってるかい?」
「世界の安定を乱すものの総称でございますな」
「俺は、その『イレギュラー』らしい。そもそも今の俺は、厳密に言えばルーファスでもファーロスでもない」
「では、一体何者なのでございましょう」
「分からないな。異世界から迷い込んだ俺と、元々この世界にいた俺が今ひとつになって存在している、というのが今の状況を説明するには妥当だと思う」
異世界でございますか、と言って爺さんは少し黙りこくった。

日が傾きかけ、窓から夕日が応接間に差し込んでいる。そういえば、ヒロとフルキフェルはまだ顔を見せていない。
「…詳しく、お聞かせ願えますかな」


650 名前: Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日: 2006/05/11(木) 20:49:59.85 ID:+S/S3LQ+
(187)
「異世界から突然この世界に現れる存在については、私も何件か存じております」
「この数ヶ月で、恐らく100以上の『来訪者』が来ているはずだ」
一昨日読んだ資料には、把握している限りの数で20件ほどの報告があった。
100は適当な数だが、把握されていない分や他の国に表れることも考えれば、むしろ少ないくらいかもしれない。
爺さんは驚いたような顔をして、椅子から背を浮かせている。
「そうでございますか。では、それは近頃冒険者が変死したり失踪する事件は…」
恐らく、その変死や失踪が赤い鎧の仕業であることは爺さんも思い当たったのだろう。表情が苦い物に変わった。

「変死あるいは失踪した連中は、恐らく俺と同じ様に異世界からの『来訪者』だ。赤い鎧の連中はその『来訪者』を『イレギュラー』として始末して回っているらしい」
「ははぁ、なるほど。ようやく合点が行きました。随分と強引なやり方でございますな」
「エルリッドも俺と行動を共にしていたために赤い鎧にさらわれた…」
俺は少しため息をついた。
「…大体の事態は把握いたしました。このマティエール、お嬢様をお救いする為にご協力させていただきましょう」
そういうと、爺さんは少し待つように俺たちに言い、そそくさと部屋を出て行った。

少し経って戻ってきた爺さんの手には、なにやら赤い金属の塊があった。
「これを、坊ちゃまにお貸しいたしましょう」
俺がその金属に触れた途端、赤い金属が振動を始めた。


651 名前: Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日: 2006/05/11(木) 20:50:39.67 ID:+S/S3LQ+
(188)
「爺さん、これは…?」
赤い金属は振動に加え、わずかに発光しているようにも見える。
「『フェイト』において使用される武器でございます。持ち主の意思により、自在にその姿を変えます」
「…そんな物、俺が使って大丈夫なのか?」
「これからかの組織に挑むならば、必ずやお役に立ちましょう。さぁ、どのような物をお望みでございますか?」
武器、と言われて少し考え込んでしまった。俺はこの世界に来てから満足に武器を使用していない。もっぱら素手か、格闘武器だった。
今の俺の戦い方を考えると、格闘武器であっても手に何かを持つのは煩わしい。
「…篭手がいいな。俺は武器を使って戦うことに慣れていないから」
そう言うと、金属がにわかに振動を早めて形を変え始める。だが、それも随分とゆっくりだ。

外は、いつの間にか日が沈みかけている。
「おっと…長話が過ぎましたな」
爺さんは慌ててマルトに夕飯の買出しを指示すると、自分は部屋を回りカーテンを閉めると言って応接間から出て行った。
応接間には俺とラディールが残され、ゆっくりと形を変えていく赤い金属を眺めている。
「…信用できるのかしら」
「わからない。過去がどうあれあの爺さんは信用できるらしい。あとは俺の猜疑心だけだ」
記憶と意識がこうも食い違うという体験は今までなかった。明かりのともされた燭台を眺めながら考えを巡らす。
テーブルから生えた木の新芽は相変わらず新緑の香りを醸し出している。
爺さんがこの力を俺に見せたのは、信用させるためだろう。そしてこの赤い金属も協力の証というところだろうか。だが、やはり一つ納得がいかないことがある。


652 名前: Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日: 2006/05/11(木) 20:51:37.70 ID:+S/S3LQ+
(189)
赤い金属の変化は本当にゆっくりだった。
「何分古いものでございますので、恐らく一晩はかかるものと存じます」
マルトの用意した夕食を優雅に食べながら爺さんが言う。
ラディールが、マルトがかわいいだの何だのと言って食卓は何だか賑やかになっていた。

食事が済んでお茶を飲んでいたところで、納得のいかなかった事を切り出した。
「爺さんが殺された理由ってなんだったんだ?」
「お恥かしいことゆえ、ご勘弁を…」
爺さんは苦笑いしながらティーカップを置く。
「正直な話、爺さんを何処まで信用していいかわらなくてな」
「なるほど、そういうことでございましたら…」
そう言うと、厨房に声をかけてマルトを呼び出した。
「マルトの祖母は名の知れたミスラの戦士でしてな。当時はランペール王にも謁見したほどの剛の者でございました」
爺さんの横に座ったマルトがはにかむような顔をする。それだけ祖母を誇りに思っているということだろうか。
「その戦士に、サンドリア王家は極秘にあるミッションを言い渡したのでございます」
また持って回ったような言い方をする。俺は少しうんざりしたような顔をした。
「ほっほっほ、やはり坊ちゃまは坊ちゃまですな。せっかちなところなど本当に相変わらずで…」
「…続きは?」
「これは失礼を… ミスラの戦士が言い渡されたミッション。それはボスディン地下に広がる迷宮の調査でございました」


653 名前: Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日: 2006/05/11(木) 20:51:58.41 ID:+S/S3LQ+
(190)
極秘任務ということで、ミスラは仲間も連れずにその迷宮へ挑んだ。
だが、迷宮の仕組みの複雑さと、そこに住み着く獣人に手を焼き、とうとう日の目を見ることもなく事切れたそうだ。
「私も、時を同じくしてかの迷宮に来ておりまして、その死体を発見したのでございます」
ほんの数時間の誤差だったらしく、死体にはまだ温もりが残っていたという。
「そこで先ほどの力を使いまして、ミスラを蘇らせたのでございます。もっとも、目を覚ましたミスラはそれ以前の記憶を全く失っておりましたが…」
一言で言えば好奇心だった、と爺さんは言う。
それまで世界の安定という目的以外に力を使用することはなかったが、目の前で果てた死体を前にして哀れみとともに湧き上がった好奇心を抑えられなかったのだそうだ。
その後、ミスラを南にあった島に送り届け、その後の生活一切を面倒見ていたらしい。

「ですが、そもそも普通に生活している者達に接すること事態が『フェイト』では禁じられておりまして、他の者達に知れることを恐れた者が私を亡き者にした、ということでございます」
「んじゃ、なんで爺さん生きてんだ?」
「都合良く代わりの死体が見つかりましてな。それが、マティエールと呼ばれた老骨の騎士でございました」
戦場で自分に良く似た騎士の死体を発見し、それを自らの死体として仕立てたらしい。
「追い込まれた振りをしてソロムグの絶壁に立ち、身を投げてそこに用意して置いた死体と入れ替わったのでございます」
「なるほどねぇ」
俺はお茶請けに出されたからしせんべいに手をつけながら話を聞いていた。


654 名前: Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日: 2006/05/11(木) 20:52:32.03 ID:+S/S3LQ+
(191)
その後、騎士を引退してシュヴィヤール家の執事として働き始めたのだというが…
「まぁ、それで上手く騙し遂せたとして、なんでマルトがそのミスラの孫だって分かったんだ?」
「お恥かしいことでございますが、何かと気に掛かっておりましたので年に一度様子を見に行っていたのでございます」
そのうちに顔を覚えられて、8年前にそのミスラからマルトを預かった、ということだそうだ。

「へぇ〜…爺さん、波乱万丈の人生送ってたんだなぁ」
「お恥かしいことでございます」
「マティエールさん、見かけによらず凄いんですね…」
ラディールはすっかり感動してしまっているようだ。こんな冒険譚聞かせられりゃ、そりゃ感動もするか…
「さて、ここまでお話しましたが、これで信用していただけますでしょうかな?」
「あ、あぁ…」
是非もない。作り話にしちゃどうも出来すぎてる。

「ところで…」
「ん?」
「お戻りになられた際に言っておられました、一緒に戦ったという冒険者の方は結局見えられませんでしたな」
「「あ…」」
爺さんに気を取られてすっかり忘れていた。日は既に落ち、夜も更けようかという時間になりつつある。
「ん〜、後でと言っただけだから、いつ来るかはわからないなぁ…」


656 名前: Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日: 2006/05/11(木) 21:03:45.29 ID:+S/S3LQ+
(192)
「『フェイト』が仕掛けてくる際には、必ず例の如く時間を止めるでしょう。そういう意味では、その中で動ける者にとっては大変分かりやすいのでございます」
「危険な目にあってここに来れない訳じゃないって事だな」

「そうそう、先ほどのお話ですとお2人とも止まった時間の中で活動できるようでございますが…」
「あぁ、そういえばそうだな」
「止まった時間の中で動くためには、一度赤い鎧に恣意的に動かされる必要がございます」
時間が止まったままの人間は、どんな手段を使っても殺せないらしい。
逆に、止めた時間で一度動かした人間は耐性がついてしまうので、必ず抹殺しなければならないそうだ。
「このところの連日の襲撃は、そういった事情もございますのでしょう」

「しかし、『フェイト』は随分とお遊びが過ぎたというか、やり方が荒い組織になったものでございますすな」
やれやれ、という顔をして爺さんが続ける。
「私ならば、対象者のみを動かしてこれを討ち取り、関係者は記憶を消去することで完了といたします」
爺さん、あんた敵じゃなくて本当に良かったよ…
2006年06月09日(金) 22:37:12 Modified by jikyaramatome




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