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Loufas ◆TTnPTs4wAM 2スレ目本編

212 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/04(火) 22:08:38.20 ID:7mbK4IJU
(38)
程なくして、俺も強烈な眠気に教われた。
昏睡薬を少しの間とはいえ口の中に含んだのだ。当然といえば当然だが…
起き上がれない。
エルリッドが上にいるのもあるが、体にもう力が入らない。
そうでなくたって朝から驚きと緊張の連続だったんだ。

「ご主人、大丈夫クポ?」
「ひとまずはな…だけど、俺も少し飲んだらしい…」
「困るクポ!モグじゃこの人をベッドまで運べないクポ!」
「あぁ……もう、そりゃ仕方ない……」

そこまで言って、俺の意識もぷっつりと途絶えた。

219 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/05(水) 01:12:09.07 ID:qGdaVRuJ
(39)
薬のせいか夢も見ない深い眠りは、もぞもぞと動く感触で遮られた。
「ん…」
「あ、起きちゃいましたか」
俺の顔のすぐ横に、悪戯っぽい笑みを浮かべたエルリッドがいた。
前髪を下ろしていて別人のようだった。
俺は目を丸くしたまま、昨日の状況を思い出すのに数秒かかった。

窓の外はまだ薄青いように見える。夜明け前だろうか。
「体の方は大丈夫?」
寝る間際はそうでもなかったが、あの薬に後遺症がないともわからない。
「はい、大丈夫です。鍛えてますから♪」
何を鍛えてるんだろう。
「昨日は、その…色々とごめんなさい…」
「あぁ、いいよ。でも、できれば今後は勘弁してもらいたいね」
俺は薬の件を言ったつもりだったが、彼女は違ったらしい。
「私のこと、キライになりましたか…?」
おいィ?なに可愛い事言っちゃってる訳?

220 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/05(水) 01:13:16.53 ID:qGdaVRuJ
(40)
しばらく見詰め合いながらなんて答えたものだろうと悩んだが、結局上手い台詞は出てこなかった。
俺の頭の横にあったエルリッドの頭を胸に抱え込むように引き寄せる。
「カワイイ事言ってくれるじゃないのw」
そして頭をワシワシと撫でてみた。
特に抵抗はない。されるがままという感じだ。

そのうち、昨日と同じように赤ん坊がぐずるような声が聞こえてきた。
「泣くなよ」
「泣いてませんよ!」
「泣いてるじゃねぇかw」
グスッと鼻をすすりながら、額を俺の胸につけている。

この世界で16歳がどういう立場かは知らないが、メンタリティの上では多分現実とそう変わらないのかな、
とボーっと考えているうちに、また眠気が襲ってきた。

「まぁこういうことだから、あんまり気にしなくていいよ」
と言って、このまま寝ることにした。

275 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/05(水) 23:55:13.14 ID:qGdaVRuJ
(41)
「ご、ご主人…!」
今度はモーグリの声で目が覚めた。
エルリッドは俺の胸でスヤスヤと寝息を立てている。
小窓からやわらかい陽光が射していた。夜が明けたんだな。

「ご主人…やっちまったクp」

無言で枕を投げつける。

「昨日そのまま寝ただけじゃねぇか、何でそうなるんだよ」
「だって…抱きかかえて眠ってるなんて、まるで恋人同士見たいクポ」
言われてみりゃそうだが、これは不可抗力みたいなもんだ。
「まぁ、そういうのじゃないから安心しろ。俺は何もやってない」
「それはそれでつまらないクポ」
本当につまらなそうに部屋の中心へ戻っていくモーグリ。
こいつ…教育的指導をしてやろうか。

276 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/05(水) 23:55:39.74 ID:qGdaVRuJ
(42)
エルリッドを起こして身支度を整えた後、モーグリの用意した朝食を食べながら
簡単に今日の予定を話し合っていた。
「とりあえず、ハルヴァーとクリルラには会わなきゃいけないだろうな」
今のところ、この二人をつつくなり頼るなりしないことには物事が進展しなさそうだ。
エルリッドは露骨に嫌な顔をした。

「そんな顔しなさんな。ハルヴァー宰相からは出頭命令を受けているし、クリルラにも話があるんだ」
当然一緒に行動するのだから、彼女も両者に会うことになる。
昨日の報告もしなきゃいけないだろう。可哀想ではあるが、まぁ出来る限りフォローはしてあげよう。

「それと、他に俺と同じ状況の奴がいることについて、ハルヴァーは把握しているって言ってた」
エルリッドは驚いたような顔をしたが、モーグリは淡々と話を聞いている。
このモーグリ、どうしてこんなに落ち着いてるんだろう?
昨日から何をするにしてもやたら手際はいいし、こっちの意も汲んでくれる。
もしかすると、この世界で一番頼りにしていい存在かもしれない。
 
「とにかくそういう訳だから、食い終わったら城にいくぞ」

277 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/05(水) 23:56:13.45 ID:qGdaVRuJ
(43)
城に入ると、昨日と同じ位置にハルヴァー宰相は立っていた。
エルリッドは視線を感じてビクッっと大きく反応した後、俺の後ろに隠れるような格好で付いてくる。
「宰相様、昨日はワインご馳走様でした」
「…あぁ」
顔色は変わらない。なかなかポーカーフェイスのようだ。
「今日は先にクリルラ様に用があるので、お話はその後でもよろしいでしょうか?」
「かまわん、2時間後に昨日の部屋に来るがよい」
ジロリと俺の後ろへ視線を送ったのが見えた。

エントランスを出て神殿騎士団の詰め所に入る前に、ちょっと後ろを振り向いた。
「どうやらご立腹のようだねぇ」
にやりと笑いながら言ってみた。
「笑い事じゃないですよぅ…」
しかしまぁ、後で話すときに上手く立ち回るしかないだろう。
とりあえずクリルラに話をしてみるのが先決だ。

「んじゃ行こうか」
そういって俺は神殿騎士団詰め所の扉を開いた。

278 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/05(水) 23:57:02.71 ID:qGdaVRuJ
(44)
詰め所に入ると、エルリッドはサンドリア式の敬礼をした。
俺も真似をしてみるが、どうもしっくりこない。
「慣れない事はするものじゃないわ」
可笑しそうに微笑みながら、クリルラは言った。

クリルラはエルリッドにお茶を入れてくるように指示をすると、いすを引いて座るように促した。
正面にクリルラが座るのを待って切り出す。
「昨日、ハルヴァー宰相に薬を盛られそうになりましてね」
「!?」
クリルラの顔色が変わった。相当驚いているらしい。
「エルリッドが付いていながら、そんなことが?」
「まぁ、詳しいことは彼女が戻ってきてからにしましょう」
俺は努めて冷静に言った。

エルリッドがお茶の入ったカップを3つ持ってきてそれぞれの席に置いた。
昨日と同じバタリア茶だろう。
彼女が席に着いたのを確認してから、続きを話し始めた。

279 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/05(水) 23:57:40.74 ID:qGdaVRuJ
(45)
事情を話すと、クリルラはじろりとエルリッドを睨み付けた。
すっかり竦んでしまっているエルリッドは、なんだか小動物のようだ。
「宰相様の命令とあっては仕方なかったんでしょう」
と俺は軽い口調で言ってみる。
今度は俺が睨まれた。苦笑いを浮かべて誤魔化しておいた。

「俺がお願いしたいのは、この娘が何らかの形で処罰されるのを避けてほしいって事です」
「どういう意味かしら」
「そのままの意味です。宰相様の命令に失敗したことで、この娘に何らかの処罰が下される可能性があるでしょう?」
「それはないわ」
クリルラは言い切った。
「そもそも正規の命令ではないし、そんな任務を神殿騎士団の一兵卒にさせること自体がお門違いもいいところだわ」
なるほど、正論だ。
「それよりも、その命令のことを私に知らせなかったことが問題なのよ」
処罰することがあるとすればその件だ、とクリルラは言った。
隣でエルリッドがますます小さくなるのがわかる。

280 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/05(水) 23:58:20.46 ID:qGdaVRuJ
(46)
「申し訳ありません…」
「申し訳ありませんじゃないでしょう?あなたのしたことは軍規はおろか人としてやってはいけない事よ?」
随分と厳しいことを言う。おそらく、クリルラとしてもエルリッドには目をかけていたのだろう。
「はい…」
あぁ、また泣きそうな顔になってる…

「それでクリルラ様、もうひとつお願いがあります」
「なにかしら」
機嫌が悪そうだ。さもありなんというところではあるが…
「彼女をこのまま俺の監視として付けておいてもらいたいんですよ。」
あぁ、また驚いてるな…
隣のエルリッドもこちらを見て驚いているのがわかる。

「昨日と今朝に彼女とは色々と話をしましてね。俺としては彼女が近くにいた方が都合がいいという判断をしたんです」
「どうしてかしら?」
「腕っ節も信頼できるし、素直ないい娘ですからね」
前者は押し倒されたときに嫌というほど味わった。もちろん、その部分は説明から割愛している。

281 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/05(水) 23:58:56.06 ID:qGdaVRuJ
(47)
「お構いなしとして欲しいならただ黙っていればよかったんですが、
今後彼女が宰相様にまた何かさせられる可能性もあるかと思いまして」
要するに、宰相の命令を聞かなくともよいという認識をエルリッドに与えて欲しい、と話した。
「わかりました。エルリッド、そういうことだから今後は気をつけなさい」
「はい、かしこまりました…」
相変わらず泣きそうな声ではあるが、かすかに笑っている気がする。
ひとまずこれで用件のひとつは片付いた。

眼鏡をはずして、バタリア茶を一口飲んだ。
「でも宰相様の行動も不明な点が多いわね…」
首をかしげながら、悩ましげに眉根を寄せる。色っぽいねぇ…
「それに関してはこの後直接お話させていただくので、その際に伺っておきましょう」
「そう…それじゃ、その内容も私に知らせて頂戴。必要なら同席しましょうか?」
「それは結構です。えげつないやり取りになるかもしれませんので」
少なくとも、そういう覚悟でいたほうがいい。自分に言い聞かせるように俺は言った。
「彼女もここに置いて行きます」
「そう、わかりました」

282 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/05(水) 23:59:22.76 ID:qGdaVRuJ
(48)
「ルーファスさん…」
心配そうに上目遣いで俺を見るエルリッド。こっちもカワイイ…
「こっちも用意はしているし、大体向こうの欲しがっている情報もわかってる。心配はないよ」
もっとも、実際はどういう出方をするかわからない以上、心配なんて山積なんだが…

詰め所の壁にかけてあった時計を見ると、まだ30分しか経ってなかった。
約束の時間までまだ1時間半ほどある。ちょっと手持ち無沙汰になったな…
「ルーファスさん、約束の時間までまだちょっとありますよね?」
「あぁ、丁度そう思ってたとこだよ」
「それじゃ、少し体を動かしませんか?」
「お、いいねぇ」
そういえば昨日ロンフォールでちょっと戦闘してみたけど、あまりしっかりと体を動かしたとも言い難い。
今のこの体は元の俺の体じゃない以上、入念に確認しておかなきゃいけないなぁ…

「それじゃ、そうと決まったら行きましょう!」
エルリッドはもうすっかり立ち直ったらしい。まぁよかった。

283 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/06(木) 00:00:07.96 ID:qGdaVRuJ
(49)
城の外に連れ出され、兵舎のような場所に通された。
「ルーファスさんはモンクですよね、これ付けてください」
綿の入ったグローブのようなものを手渡される。
「最近サンドリアでは格闘の使い手が少なくって、一度手合わせしてみたかったんですよ♪」
「いや、そういう問題じゃないでしょ…なにこれ、マジ?」
エルリッドの方は自分の腰にあった剣に綿の入った布の袋をかぶせて紐で結んでいる。
サンドリアの戦績交換品の金太郎鎧を着て、準備万端といった感じだ。やる気満々だな…
俺も羅漢作努衣に着替える。
「と、とりあえず準備運動いいかな??」
屈伸から始まって伸脚、一通りの準備運動をしてみる。
感想としては、明らかに体の動きがいい。身体能力は元の体よりも遥かに良さそうだ。
昨日双竜脚を撃った時点で気が付くべきだった。あんなに身軽に俺が動けたはずがないんだ。
だが、どの程度というまでは実際にやってみないとわからない。

「準備できましたか〜?」
待ちきれない子供のような顔でエルリッドが待っている。
気が付くとクリルラも来ていた。
「私も見学させてもらうわ。異世界の体術なら興味もあるし」
いや、そんなに期待されても…

284 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/06(木) 00:00:38.29 ID:qGdaVRuJ
(50)
「それじゃ、行きますよ〜」
「あ、あぁ、お手柔らかに…」
エルリッドの目つきが変わった。ありゃぁマジだな…
こっちも気を引き締めないとこっぴどくやられそうだ。

とりあえず左足を前に出して半身になり、両手を開いた状態で前に出し縦にそろえて構える。
「かわった構えですね」
声をかけてはくるが、目が笑ってない。
「あぁ、俺の世界でも比較的変わったものかもしれないね」

そしてとうとう空気が一変した。
エルリッドは右手に剣、左手に大きな盾を構えている。
ナイトだな。そりゃそうだ、騎士団だもんな。
と思っている間にエルリッドの剣が飛んできた。横からの払い切り。
俺は後ろに飛んでかわす。

285 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/06(木) 00:01:03.88 ID:qGdaVRuJ
(51)
「あれ…?」
50センチほど後ろに飛んだつもりが、なんだかえらく距離が離れてしまった。
2〜3メートルくらいだろうか。
手足が長いことと、身体能力の問題だろう。この誤差も埋めていかなきゃ…

そう思っていると今後はエルリッドの突きが飛んできた。
少し体をずらしただけで避け、左手の甲を柄のあたりに添えて受け流す。
と同時に盾に向かって思い切り右拳を繰り出した。
「おおおおぉぉ!!」
思わず雄たけびが出た。
途端、あたりに低く重い音が響いた。

「いってぇ…!」
右拳には鈍い痛みが走っている。折れちゃいない。拳骨が盾にクリーンヒットした証拠だ。
エルリッドは元いた場所から後ろに2回転ほどして、膝を付いている。
動揺しているようだ。
盾は真ん中に大きなへこみが出来ていた。
エルリッドの目がさらに厳しくなる。
もしかして、怒らせちゃったかな…

286 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/06(木) 00:01:28.16 ID:qGdaVRuJ
(52)
体勢をすばやく立て直したエルリッドが気合を発しながら駆け寄ってきた。
「えぇぇい!!」
へこんだ盾を前に構えた状態で剣は後ろから出てくるようだ。これでは剣の出所がわからない。
俺は身を低くして構えると、剣が見える瞬間を待った。

見えた。

大きく右足を踏み込み、後ろから上を回すようにして剣が振り下ろされる。
その瞬間体を前に出しつつ体を開いて剣の軌道から自分の体を完全に外す。
左手の甲をエルリッドの手首にかけつつ、体全体は剣を振り下ろそうとする腕のわきの下を完全に抜けた。
抜ける瞬間、右手で剣を持っている腕をつかむ。
振り下ろす勢いは止まらずに、そのまま体ごと宙を回転して石畳に叩きつけられる。

ガシャン!

乾いた音が鳴ったが、これで止まらない。
右手で手首を固定したまま。左手をひじに当てる。
その状態で捻る様に引き付けて自分も回り込み、仰向けの状態からうつ伏せにして腕を極めた。

287 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/06(木) 00:02:00.93 ID:RJnOwHyo
(53)
「そこまで!」
クリルラが大きな声で終了を宣言する。
極めた手を緩めると、ゆっくりとエルリッドが立ち上がって、満面の笑顔ではしゃぎだした。

「すごいです!ルーファスさん!私本気でやったのに!」
「あ、あぁ…」
やっぱり本気だったのかよ…少し体を動かすって言ってたのに…
「すごいわね、あんな動き初めて見たわ…」
クリルラも興奮気味に話しかけてきた。
体が思うように動くだけじゃない。異常なほどよく見えている。
「エルリッド、先に戻って着替えてらっしゃい」
クリルラは短く言うと先にエルリッドを帰した。

クリルラはエルリッドを見送った後に、やや厳しい目つきで切り出した。
「ルーファス、さっきの技、特に最後の投げ技は人間相手の戦闘に特化した技ね」
よくも一度見ただけでそこまでわかるものだ。
「えぇ、俺の世界にはモンスターや獣人はいません。人間の敵は人間なんですよ」
短く決め付けるように言ってから、クリルラを促して城に戻った。

325 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/06(木) 15:33:40.25 ID:RJnOwHyo
(54)
「とりあえず、最後の大振りはいただけなかったかな」
「そうね、動揺して動きが単調になってたわ」
神殿騎士団詰め所に戻ると何故か反省会になっていた。
「でも、ルーファスさんがあそこで前に出てくるとは全然思ってませんでした」
「何にでも対応できるようにしなきゃ。相手が何をしてくるかなんてわからないし、何が起こるかもわからないだろ?」
そう、俺みたいに朝起きたら自キャラになることもあるのだから。

そろそろ時間に近くなったので、クリルラとエルリッドを置いて詰め所を出る。
さて、ここからが正念場だ。
エントランスにはハルヴァーの姿はなかった。
もう先に向かったのだろうか。
昨日の部屋に向かうがやはりいなかったので、しばらく座って待つことにした。

やがて、カツカツという足音が近づいてきたかと思うと、静かにドアが開かれた。
そこには分厚い資料を片手に涼しい顔をしたハルヴァーが立っていた。
「これは宰相様、お忙しい中恐縮です」
もちろん社交辞令だ。精一杯の皮肉を込めて挨拶をする。
「すまない、待たせたようだな」
相変わらず無表情のままハルヴァーは席に着いた。

326 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/06(木) 15:34:15.34 ID:RJnOwHyo
(55)
「先ほどの立ち回りを見せてもらったよ」
早々に切り出してきたのはハルヴァーだった。
「見たこともない体術だった。格闘とも違うな」
俺は内心で舌打ちを繰り返していた。
「まぁ、アレは趣味でやってたものの延長ですから」
「趣味の域であの動きか」
「えぇ、特別筋がよかったわけではありませんが、稽古だけはしっかりやってました」
ハルヴァーはふんっと短く鼻を鳴らした。

「私からもお伺いしたいことがあります。昨日の件です」
ハルヴァーの眉がピクリと動いたことを確認した。ここからは俺が聞く番だ。
「結局、薬はあの娘が全部飲んでしまいましてね」
それを飲んだ者がどうなるかまで俺自身の目で確認している、ということを暗に示した。
「むぅ…」
ハルヴァーは少し悔しそうにうなり声を上げた。
「私がお伺いしたいのは、宰相様がそうまで急いで私から情報を聞きだそうとしている理由です」

327 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/06(木) 15:35:02.89 ID:RJnOwHyo
(56)
「…わかった。貴様は神殿騎士団の所属になるのだから、肚の探り合いをしても仕方あるまい」
意外とあっさり折れてくれた。俺にとってはうれしい誤算だった。
「理由は何点かある。ひとつは、貴様が元の世界の情報を忘れてしまう可能性があるということだ」
「…どういうことでしょう?」
「貴様と同じような境遇の人間を把握していると話したのを覚えているか?」
もちろん、覚えている。俺は強く頷いた。
「そういった連中は戦闘や冒険を避けて競売で日雇いの仕事を求めるらしい」
考えられることだ。それが本当かどうかは別にして、現代人の性向として辻褄は合う気がする。
「そうして生活する内に、元の世界の記憶を全て失い、完全にこちら側の人間になってしまうそうだ」
「記憶を失う、というのはつまり元の世界からきたという事実も、ということでしょうか?」
「そうだ」

「そしてもう一点、近頃冒険者が死亡する事件が増えている」
俺は少し戸惑った。
死亡ということは、昨日エルリッドから聞いた自殺の話以外にも、死ぬ場合があるということだ。

328 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/06(木) 15:35:54.87 ID:RJnOwHyo
(57)
「私のような境遇のものに自殺する者がいるという話は伺いました」
「表向きは自殺なのだが、そうでないものもある」

その前に根本的な疑問をぶつけてみた。
「話の腰を折るようですが、こちらでは死亡してもHPに帰るだけと思っておりました」
ハルヴァーは若干あきれたような顔をした。
「モンスターや獣人に殺された場合はな。だが人間同士が殺しあった場合にはその限りではない」
さらに言うと、冒険者登録をした冒険者でなければHPに戻っては来ないらしい。
「なるほど。自殺も然り、という訳ですか」
「バリスタやブレンナーは競技として成り立つよう特殊な魔法を使用しているが…」

「話を戻そう。自殺が増えたのが先ず事実なのだが、状況的には他殺と見れるものが散見される」
「捜査は?」
「4国で散発する上に目撃者が皆無なのだ。今のところは何もわかってはいない」
自殺者の増加が捜査をさらに困難にしているそうだ。
木を隠すには森の中とはよく言ったものだ。
大量の自殺に紛れてしまえば殺人もそのインパクトは薄れる。

329 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/06(木) 15:36:52.64 ID:RJnOwHyo
(58)
「他殺という確証は?」
「背中を刺されて死んでいる者を、誰が自殺と思うかね?」
そりゃ完全に他殺じゃねぇか。
「だが、世界中で殺人事件が散発しているという事実は、国家秩序を司る政府機関の信頼を失墜させる」
「それで自殺事件に紛れ込ませているということですか」
情報操作ということか。つまり、そうまでしなければいけないほど何もわかっていないということだろう。
「確証があるわけではないが、タイミングとしては貴様のようなものが現れるようになって事件が起こり始めたようだ。
殺されているのも、自殺したものもおそらくはそういった連中だろうと見ている」

「クリルラが護衛をつけなければ、私の手の者を出すつもりでいた」
俺の方を恨めしそうな目で見た。
この宰相の手のものであれば、薬の件にしても昨日のようにばれることもなく、
俺は洗いざらい話していたかもしれない。
「私の部下と同じ感覚であの娘を使ったのが、先ず失敗であったわ」
ハルヴァーは悪びれる様子もなくニヤリとした。
このおっさん、ホント大物だわ…

「さらにもうひとつ、単純に貴様に逃げられてはかなわぬと思ったまでよ」

330 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/06(木) 15:37:26.15 ID:RJnOwHyo
(59)
大体の事情は飲み込めた。とりあえず俺に危害を加える気はないらしい。
「さてルーファス。ここまで私も話したのだから、貴様のことも聞かせてもらおうか」
来たか…

「宰相様、本当に申し訳ないのですが、私はこの世界では到底考えられないような仕事をしていたのです」
「考えられないとは?」
「この世界に存在しないものを扱った仕事で、しかもそれ自体はこの世界では作り出しようがありません」
「話が見えぬな…」
「例えば、金属素材を扱った仕事であれば治金技術をお教えすることが出来るでしょうが…」
つまり、ないものに関する知識を教えても、それが存在しなく作り出せない以上意味がない、
という旨を伝えた。

「ふぅむ…」
ハルヴァーはひとまず納得しようとしているようだ。
「そうか、まぁ情報が必ず得られると思っていたわけでもない。今回は空振りであったという事でよかろう」
思い出したことや役立ちそうなことがあれば随時知らせよ、とハルヴァーは言った。

331 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/06(木) 15:40:18.94 ID:RJnOwHyo
(60)
やや間が空いて、ハルヴァーが切り出してきた。
「先ほど話した冒険者が殺されている事件、おそらく実行犯は人間だ」
「なぜそう思われますか?」
即座に聞き返すと、宰相は少し考えてこう言った。
「犯行に使ったと思われる凶器がな、人間の使用しているものと思われるのだ」
「現場に凶器が残っていたので?」
「いや、凶器は無論残っていない。だが傷口の大きさからそう憶測できる、しかも…」

「実行犯は複数いると断定している。手口が微妙にどれも違うのでな」
「組織的に行われているということですか…」
「そうだ」

長い静寂の後、宰相は口を開いた。
「もし私の考えるとおり、異世界から来た人間が狙われているのだとすれば…」
俺の顔を見てニヤニヤとし始めた。
「貴様はうってつけの囮になるやも知れぬな」

332 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/06(木) 15:40:57.33 ID:RJnOwHyo
(61)
「貴様が襲われたとしても、先ずは貴様の安全を確保することが先決だ、しかし…」
襲われるのは前提なのか…
「もし可能であれば、犯人を捕らえてくれ」
俺はハルヴァーの顔を真正面から見据えた。
わざわざこんな話をするくらいだ、多分本気なんだろう。

「記憶をなくしてこの世界に居ついた連中も狙われているのですか?」
「いや、そういった連中に手出しはしないらしい。むしろ貴様のように動き回ろうとした連中が
殺されているのではないかと睨んでいる」
「近日中に私が襲われる可能性はかなり高いと踏んでいるわけですね」
「そういうことだ」
要するに何らかのアクションを起こさない限りは大丈夫らしい。
それにしても『貴様のように』って事は、俺はもう狙われる前提なのか?
まぁ、こうやって国の要人に直談判している時点で手遅れなんだろうなぁ…

「そういう意味で言うと、貴様が神殿騎士団の所属になる事は結果的によい方向に進んだ」
後付けだが、確かにそうだ。
「だが、城に閉じ込めると囮の意味がない。貴様には当面今のまま昼に登城してもらうことになるだろう」

333 名前:Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 投稿日:2006/04/06(木) 15:42:05.40 ID:RJnOwHyo
(62)
「まぁ事情はわかりました。ですが、それなら警護を増やすなりなんなりしていただけるのでしょうね?」
宰相は意外な顔をした。ん、俺なんか変な事言ったかな?
「何を言っている?貴様には既にサンドリア屈指の騎士が護衛についているではないか?」
「はぁ??」
思わず間抜けな声が出た。まさか…

「貴様の護衛についているエルリッドという娘は、この国の若い騎士の中では抜群の腕前だ」
「は、はぁ、そうなんですか…」
「その騎士を相手に貴様はあれだけ立ち回ったのだ。そうでなくてはこんな話はしない」
なるほど…なんだか合点がいった。随分と買いかぶられたもんだ。
「精神的に未熟な部分があることは今回の件でわかったが、貴様が付いていれば問題もなかろう」
「え…いや、そこもよくわからないのですが…」
「私を相手に渡り合おうという輩などそうはいない。そういう意味では、私は貴様の事を買っているのだよ」
言い逃れが出来る状況じゃないな…
「はぁ、そうですか…買いかぶっていただくのは光栄ですが、あまり期待されましても…」
「ルーファス」
不意に言葉をさえぎられて、宰相の方を見た。
「期待するしないの話ではない。貴様はどの道そうせざるを得ないのだ」
薄く笑いながら宰相はそう言った。
2006年06月26日(月) 16:33:05 Modified by akamanbow




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