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Loufas ◆TTnPTs4wAM 12スレ目本編

(279)
倒れているフルキフェルを横目に、俺はたった今できた樹木の壁に歩み寄った。
ゴツゴツした木の幹か根か、それが堅牢な壁を成している。撫でるように触れてみると、乾燥した木の肌の手触りが合った。
乾燥しきっているのが爺さんの意図なのか、ここが砂漠であるせいなのかは分からないが、とにかく簡単に破壊できる代物でもなさそうだ。
その壁の向こうからは僅かだが沢山の砂を踏む音がする。

後ろからフルキフェルのうわ言が聞こえてきた。
「…おい、大丈夫か?」
近づきながら声をかけると、しまった、というような顔をして首を振る。
「…あー、ごめんなさい、大丈夫、です、なんでも、ない、です」
立ち上がろうと身体を起こすフルキフェルに手を貸そうと右手を差し出す。
次の瞬間右の篭手が唸るような咆哮を発し、さらに昨日と同じ様に振動を始めた。

すぐに辺りの気配を探ってみるが、昨日のように馬鹿でかい気配は感じられない。
昨日の、──確か禍神とか言ったか、アレを倒すのに俺と赤い鎧のあいつが何をしたかは結局思い出せずじまいだったが、
もしあんなのが流砂洞にいるのだとしたら、素直にギーブルの相手をした方が良かったかも知れない。
舌打ちをしながら相変らず気配を探ってみるが、特に変わった様子はない。
ふと視線を落としてみると、フルキフェルの左手にある盾が、何か嫌な感じのするデザインの物に替わっていた。




(280)
嫌な感じのするデザインと言っても、別にデザイン自体が悪趣味と言う訳ではない。
ただ、全体が赤を基調にしたカラーリングになっていた。

赤い色。

ただそれだけで、今は何らかの警戒をしておく必要がある。
フルキフェルがコレを持っているというのならば、彼が『フェイト』の一員である可能性も十分有り得る。
連中が一枚岩でない事は、昨日の事でなんとなく理解できた。
なら、協力者として監視、もしくは本当に俺の目的を達成させるように協力する者もいるのかも知れない。

だが、そういった疑念も次の瞬間には杞憂であると気付かされる。
「な…、なに…!? 何やったんですかルーファスさん!?」
もし俺が何かやったように見えたなら、お前はもう少し横になって休んだ方がいい、と言う嫌味を飲み込む。
正体がバレて慌てているという感じではない。先ず目の前の出来事に驚いているという印象だ。
当然俺は何もしていない。だがもし何かをしたのだとしたら…

「そりゃこっちの台詞だ…と言いたいとこだが、やったのはこいつか」
差し伸べかけた右手を顔の高さまで上げる。さっきの振動も止んで、特に変わった様子もない。
視界の端に、奥を覗きに言っていたラディールと爺さんがこちらに走ってきているのが見えた。



(281)
フルキフェルが赤い盾を持っているのは不思議だが、彼の様子を見る限りそれが致命的な秘密であったというわけでもなさそうだ。
正体が暴かれるような不測の事態があれば、さっさと逃げるなり何なりするはずだし、なにより相変らずあたふたと慌てている時点で、とても後ろ暗い何かがあるとは思えない。
早い話がどうにも素人臭いと言うか、油断が過ぎると言うか、とにかくそんな感じだ。最初にあったときの印象となんら変わりがない。

「…ふむ…自由意志のようなものを表すばかりか、他のジャッジメントギアに干渉すらするとは… まだまだ未知数の力を持っているようですな」
「おい、爺さん…? ジャッジメントギア、って…フルキフェル、お前もそんなもんどこで手に入れてきたんだ」
「いやその、拾ってきたというかあの剣が変化してこんなんなっちゃったというか」
そういや、その後なんの話にも上らなかったからてっきり赤い鎧の連中が持ち去った物だと思ってたが…
「もしかして、あの赤鎧の剣…? よくあんなの持って帰る気になったわね」
「私がやったわけじゃ、いやえっと、うーん」
「何よ、はっきりしないわね…」

爺さんは爺さんで、何処か楽しそうに俺の篭手とフルキフェルの盾を見比べてる。
この爺さん、プライマルアーツの事になるとどこか興味本位が先に立ってしまっている気がする。
右手の龍の頭に目をやると、かすかに口の端を上げたように見えた。
本当に訳のわからない物をもらっちまったもんだ。首を振りながら、思わずため息が漏れた。



(282)
「察するに、その盾は私がかの組織を抜けた後に作られたものでございましょう。私も見たことのない形態を取っているようです」
爺さんが顎に手を当てながら言った台詞は、俺が考えていた物とは少し違う物だった。
『フェイト』と今もつながりがある以上、こう言った物にも造詣があるのだとばかり思っていたが…
「てことは、これのちゃんとした使い方はお爺さんも知らないってことですか。ずぅっと聞こうとして機会を逃しっぱなしだったんですけど…」
「期待に添えず、申し訳ない限りでございます…この盾の力を用いたことは?」
相変らず楽しそうな顔でフルキフェルに話しかけている爺さんは、この盾とプライマルアーツの因果関係を紐解く事しか頭になさそうだ。
新しい玩具を眺める子供の様子に似ているかもしれない。

「えーと…つい一昨日の事なのですが、一回だけ。使ったら黒装束の人が普通の人に戻りました」
思わずフルキフェルの方を目を見開いて睨む。
「おま…何でそういう重大な事黙ってたんだ!」
「そうよ! うまくすれば奴らと戦う前に、エルリッドを元に戻せるかも知れないって事じゃない!」
ラディールが俺と同じ様な顔でフルキフェルに詰め寄る。

フルキフェルは何を以って「戻る」という言葉を使ったのだろう、とふと思う。
「待ってください、落ち着いて! まだ制御の仕方も、どうするとどのくらい戻るのかもわからないんです!軽いノリで使って、エルリッドさんが小学生とかになっちゃっても、私責任とれないです!」
いや、小学校とかこっちないだろ… というより、今の口ぶりからすると時間を巻き戻すという意味らしい。同類相憐れむという言葉が頭をよぎった。





(283)
「戻る…でございますか。少々、よろしいですかな」
「はぁ」
不承不承と言った感のある返事をするフルキフェルはお構い無しと言うように、爺さんは左腕に装着された盾を手にとって眺め始める。
手をかざしてみたり、顔を近づけてみたり、とにかく嘗め回すようにその盾を観察している。

「どうやら、答えはプライマルアーツに訊くほかないようですな。何かこの盾の力を有効に使える状況を察したからこそ、この盾に干渉したのでしょうから」
その声に答えるように、右手から低いうなり声が鳴った。
「そういや、奴らの武具のオリジナル…だったな。しかし訊くったって、喋れるわけでもないだろ、これ」
「でも、何かをさせたいのは、多分その通りなんでしょうねぇ」
何か、と言っても今誰かの時間を巻き戻す必要性があるとも思えないが…
もし仮に時間を巻き戻すことが必要だとして、その対象は誰になるのだろう?
少なくとも、俺やラディールの時間を巻き戻しても仕方がない。
爺さんならあるいはそういう可能性もあるか… 爺さんが興味津々なのもそのせいなのかもしれない。
しかし、横で考え込んでいる爺さんの顔を見る限り、あまり期待できなさそうだというのはわかる。
さて、この篭手は一体何を考えているのやら…

不意に、流砂洞の奥からぜんまい仕掛けのオモチャを動かすような音が聞こえてきた。
この音には聞き覚えがある。アルテパ砂漠全域を根城にしている獣人が意思疎通のために発生させる奇妙な音だ。
即座に腰を浮かせて、構えを取って振り返った。



(284)
振り返った先にいたのは大きなアンティカ族2体。アルテパ砂漠や流砂洞入り口近辺では見かけない大きさだ。
構えを取る俺たちに対して、2体のアンティカは剣を構えるどころか不思議な身振りを取っている。
「お待ちください。どうやら敵意はないようでございます」
爺さんはそういうと、腰の後ろに手を回してやすりのような鉄の棒を取り出し、それをこすり合わせてギギギと音を鳴らした。
それを聞いたアンティカはその場で立ち止まる。
「爺さん、あんたアンティカ語もわかるのか」
「はは…もう随分と昔になりますかな。暇を持て余し、戯れに習得してみたものですが…。いやはや、こんな所で皆様のお役に立てるとは、わからんものですな」
最早謙遜なのか誤魔化しなのか分からないような事を爺さんが言う。
さっきとは音調が違う音をアンティカが発すると、さらにまた異なる音を爺さんが金属棒を使って発する。会話…と呼べる代物かどうかは別にして、意思疎通は出来ているらしい。

「お爺さんって、なんだか、ドラえもんみたいですね…」
こんなに隠し事が多くて興味本位なドラえもんはちょっと嫌だな。
ともかく、戦わずに済んだ事は素直に助かる。本番はバストゥークだってのに、こんなところで消耗するのは本意じゃない。
2体は(意思の疎通が出来て、さらに敵意がない以上2人と言うべきか)、こちらが休憩をしたい旨を伝えるとあっさりと了承して流砂洞の奥へと促した。
「ルーファス、ちょっとしゃがんで頂戴」
言われたままにしゃがむと、背中にある鞄からラディールがガチャガチャと何かを取り出す。首だけ回して見てみると、ティーセットのようだ。
「あのなぁ… 遊びに来たんじゃないのにどうしてそんなものが鞄から出てくるのかなぁ…」
「何があるか分からないでしょう?お茶ぐらいゆっくり飲みたいじゃない」
多分今日二回目の、眉間を押さえて肺の空気が全部出て行くような深いため息をついた。
 



(285)
「ティーセットは許そう… だがなぁ、こりゃいくらなんでもやりすぎじゃないか??」
奥に通されたところでアンティカ族2人とお茶を飲みながら話すことになり、何故か俺の鞄から出てくる大量のお菓子に愕然とした。
ロランベリーパイにマロングラッセ、この前フルキフェルが土産に持ってきたドラギーユ城クッキーまである。
テーブルはなく、床に置かれたティーカップの横にずらりと並べられたそれらはアンティカの2人にはすこぶる好評だったようだ。
もっとも、俺は甘いものが苦手だ。こんなものをありがたがって食う連中の気が知れない。人間でもアンティカでも。

アンティカの2人はレガートゥスとクワエストルVII-IXと名乗った。
やっぱりあまり聞かない名前だ。体躯の大きさから見てもきっとNMだろう。
彼らが言うには、以前に流砂洞へやってきたタルタル族の赤魔道士が同じように甘いものを持ってきて彼らに食べさせたのだと言う。
代わりに、彼らは請われて戦闘訓練を施したのだそうだ。
変わった人間もいるものだ、としか彼らは言わなかったが、そんなクソ度胸で常識はずれのことをやるのは何も知らない来訪者くらいなものだ。
「はー、アグレッシヴな来訪者の人もいたもんですねー」
「…なーんか雰囲気的に、今でも無事に生きてそうだな、そいつは」
しかしサンドリアの銭湯で見たようなちいさな生き物が、このアンティカの巨躯を前にまともに戦闘していたと言う事実の方が俺には驚きだ。

爺さんの通訳で話は広がり、現在のアルテパの状況についてアンティカの2人が話し始めた。
事の起こりは数日前で、本来砂漠に生息していないはずのモンスターが突然現れ、アンティカ達は自衛のためにそれらのモンスターに対して戦線を繰り広げたらしい。
だが、ギーブル含め狂暴極まるモンスターに手を焼き全体の戦力からみてかなりの数を消耗したことから、上層部の決定でアルテパを放棄したのだそうだ。
大隊を率いるアンティカの用兵術は遠くサンドリアに在っても耳にするほどだ。そんな彼らが押し返せないのなら、最早数の問題ではないのだろう。




(286)
「…なるほどな。道理で外を逃げ回ってる間中、あんたらのお仲間の姿を見かけなかった訳だ」
本来アルテパを我が物顔で闊歩していたのは彼らのはずだった。
流砂洞の入り口ともなれば必ずアンティカの姿を見かけたものだったが、それすらいなかった。
それを考えると、もしかすると流砂洞の一部すら放棄しているのかもしれない。
では反撃はと言うとそれどころではないらしく、専ら流砂洞内部の治安維持のための人口調整に追われているらしい。

「しかし…ここでアンティカの皆さんの身の上話をされても、どうしようも…」
尤もな事だ。何れにせよ俺たちにこの状況を打開することは出来ないし、何より先を急ぐ必要もある。
しかしフルキフェルの言葉を爺さんが翻訳して聞かせた途端に、クワエストルと名乗ったアンティカが反応を示した。
そして俺の手とフルキフェルの盾を交互に指差して、さらに何かを言わんとしているようだ。
「むむ…"全にして個、個にして全の我らは知っている、お前の仲間がこの地に異変をもたらした事を"、と」
プライマルアーツとジャッジメントギア。コレと同じ気配を放つ物を持っていた奴がコレをやったと言うことだろう。
「あ…やつらと同じ気配を持っている武具だから、そう思うんですね…」
「仲間じゃないわよ…まったく…」
ラディールがフルキフェルを睨みつけながらつぶやく。

そういえば、エルリッドをさらって行った奴は特別何かを持っていたという訳ではなかったはずだ。
力の性質が同じだから、と言うのならば話は簡単だが、もしかするとあの赤い鎧はあの時点であえてジャッジメントギアを使用しなかったか、
あるいは今はジャッジメントギアを持つ他の赤い鎧と連携を取っている可能性もある。




(287)
敵が増えたか、もしくは強くなっているかもしれない。コレはコレで問題だ。
だが、逆にこんな大規模な転送を行って消耗しているかもしれない。
こんな事がいつでもできるのなら、サンドリアでやりあったときにモンスターの大群でも『フェイト』の連中でも転送してくれば確実に仕留められたはずだ。
だが実際は広範囲の記憶の改ざんを行って早々に引き上げて行った。
少なくともこんなマネは何度も出来ないはずだ。

この大転送が行われた時期は、具体的にはどのタイミングだろうか。
サンドリアから転送した先が仮にアルテパだったとして、あの時点では奴も疲弊していたはずだからそんな余裕はないはずだ。
ラバオかどこかで体力もしくは魔法力の回復を待って、その後に追っ手があったときのことを考えて最短経路を潰した、と言うことだろうか。
確か昨日ホラにテレポしたときに、各地のテレポイントで異常が発生しているようなことを言っていた。
それも奴の仕業だとしたら、それだけ時間を稼ぎたい状況だと考えられる。
エルリッドがさらわれたのが3日前。モンスターの転送を行ったのが2日前と仮定して、おそらくバストゥークに入ったのも同日。
バストゥークに奴がいると言う情報が入ったのは昨日。そして昨日の段階では既に3国テレポイントに異常を来たしていた状況だった。

あまりに手際が良すぎないだろうか。
『フェイト』にそういったマニュアルが存在するのならば話は別だが、足止めとしてあまりに理想的過ぎる。
奴の手の平で踊らされている状況と言ってもいいくらいだ。
何らかの形で奴の予想を裏切っておかないと、完全に準備された状態の奴と戦闘することになる。
どうすればいいか、と考えていた俺の思考を遮ったのはフルキフェルの大声だった。



(288)
「そんな、無茶ですよ!? あれでもけっこう大変だったのにそんな事やらされたら出涸らしも残りませんよ!」
驚いてフルキフェルの顔を見やると、また例の「しまった」という顔をしている。
「ああいえすみません…誤爆です」
「tell来てたのか」
「ええ、まぁ…」
誤魔化せたつもりなのか、何事もないような風を装う。
こう何度も続くと色々疑ってみたくもなるが、そんな話をする空気でもない。

早い話が、盾が行う「巻き戻し」の対象をアルテパ砂漠全体にすれば解決するのではないか、と言うことらしい。
「やってやれない事はないんでしょうけど…これ使うとなんかめちゃくちゃMP持ってかれるんですよ、エンチャントのくせに」
「でもそれっておかしくない? エンチャント装備って、だいたい装備に込められた魔力で作動するじゃない。そうでないと、魔法系の能力を発揮する装備は魔力がないと使えないことになるわ」
間髪入れずにラディールの突込みが入る。そりゃそうだ、でなきゃエンチャントの意味がない。
「そういえば…最初に使ったときは武器も抜いてた、かも」
そう言うと、フルキフェルは何を思ったかアンティカの2人に向って剣を抜き払った。
慌てて制しようと腰を浮かせたが、2人は何事もない様子でフルキフェルの様子を見ている。肚の据わった連中だ。
浮かせた腰を下ろそうとすると、今度はフルキフェルが悲鳴を上げて剣を納める。
「…出涸らしには、ならずに済みそうですな」
何を得心したのか、爺さんがニヤリとしながらつぶやく。すっかり蚊帳の外に置かれた俺はきっとつまらなそうな顔をしているんだろう。




(289)
アンティカ族2人の案内で、西アルテパ砂漠に出る。
話の流れとしては、とりあえず試してみてはどうかと言うことになったのだが、「とりあえず」でやっていい事なのかどうか甚だ疑問が残るところだ。
アンティカ族にしてみれば種族の危機だから仕方もないが、少なくともフルキフェル自身はもう少し慎重になるべきだと思う。
爺さんはどうせそう思っていたにしろ止めないだろう。実際、あの盾がそこまでの力があるのかどうか、俺も興味がない訳でもない。
まぁ、何がどう転がるかわからないし、ここでアンティカに恩を売っておくのもいいかもしれない。

爺さんの提案で、できるだけ砂漠の中心付近で試してみようと言うことになった。
辺りを警戒しながら慎重に進む、というか、俺は懐に右手を突っ込み左手で無精ひげをいじりながらノソノソと歩いていた。
正直気乗りがしない。状況として悪くない選択かもしれないが、どうも無事で済む気がしない。
何より気に入らないのはアレだけいたはずのカニや蜘蛛を一切見かけないことだ。
東で暴れたから西には何もいないなんて、そんな都合のいい話もないだろう。アレから結構時間が経ってる。
モンスターがいないのには、きっとそれなりの理由があるのだろう。もっとも、何の確信もないことを言って不興を買うようなことはしたくないから何も言わないが。

やがて砂漠の中心付近に到達し、全員が足を止める。結局一体のモンスターも見かけることはなかった。
フルキフェルが盾を前に構えて瞳を閉じる。と、同時に両手におだやな振動を感じたかと思うと周りが急速に下に落ちていく。
それが、自分自身の視界が上空に上っているからだと気が付いたのは、アルテパ全域を見渡せるところまで上ってからだった。
多分、フルキフェルも同じものを目にしているんだろう。これでアルテパを元に戻せ、って事か…



(290)
「…いきます」
フルキフェルの声が、多分前方から聞こえる。どうもこの上空からの視点は盾の発動が終るまで付き合わなけりゃならないらしい。
だが、次の瞬間には目でも音でもなく足元の振動が異変を告げていた。
手探りで右篭手の目を左手で塞ぐと、一瞬視界が元に戻る。
目の前には、大きく後ろに反って反動をつけている馬鹿でかいミミズの姿があった。そうか、そういやクフタルにはこいつがいた。

「フルキフェル、避けてっ!!」
俺が言うよりも早くラディールが声を上げた。
フルキフェルを引きずり戻そうと足を踏み出すが、一瞬上から落ちてくるような感覚に襲われ軽い眩暈を覚えて膝を付く。
視点がまだ完全に戻ってきてない。何やってんだ、この馬鹿篭手は…
大木がぶつかり合ったような音に視線を上げると、ファントムワームの一撃を受けたフルキフェルが宙を舞うように飛ばされていた。
硬いものがぶつかり合うような音ということはストンスキンでも張ってたんだろう。少なくとも致命傷じゃないはずだ。

一度目を閉じて、感覚が落ち着くのを待つ。大きく一呼吸する間にフルキフェルが砂地に落ちる音、そしてボソッと何かをつぶやく声。
再び目を開き、視界が元に戻ったことを確認する。立ち上がりざまに右手に意識を集めて、そのまま駆け出しながらファントムワームに向って振りぬいた。
気孔弾が命中するのと同時に、ファントムワームの頭頂部付近で閃光が走る。
「離れてろ!」
そう言ってフルキフェルの前に回りこんだ俺の横には、レガトゥースと名乗ったアンティカが立っていた。
フラッシュはこいつの仕業らしい。いい仕事するじゃないか。




(291)
俺とレガトゥースが並んでファントムワームの前に立つと、急に周辺の空気が震えるような気配がした。
人間が唱えるそれとは随分違うが、多分魔法を詠唱しているんだろう。
「"封土の聖域よ"!」
後ろでフルキフェルが魔法を発動させたようだ。セリフからするとバストンラだろうか。どうやらダメージはないらしい。
背後からの魔法の気配はもう一つあった。例の金属音と共に雷撃のような光の輪がファントムワームを囲む。
同時に辺りの空気の振動が霧散する。魔法の詠唱を止めたのか。なんにしろ、このアンティカ2人もアテにしていいらしい。

仕切りなおしになって、改めてファントムワームを向き合う。巨大かつどこか卑猥なデザインだ。
「フルキフェル様は、今はその盾の発動に集中なさいませ。私の予想が正しくあれば、それが力を発揮した時点で、我々の勝利でございます」
爺さんが大声で叫んでいる。居なくなる連中を倒しても仕方がないってことか。
同時に背後から小さな何かがミミズの足元に投げられ、次の瞬間には爆発に近い勢いで成長してミミズに巻きついていく。

ラディールが勢いを付けてその巻きついた木の合間に深くルーンチョッパーを叩き込んだ瞬間、また視界が上空に上がる。
フルキフェルが再び盾を発動させようとしているらしい。
コレが必要なのはフルキフェルだけだ、俺には見せなくてもいい。そう念じると、視界がまた急速に降りてきた。そしてその途中にイヤなものも見つけた。
こちらに向って飛んでくるギーブル。結局こいつの相手はしなきゃならないらしい。




(292)
「ギーブル来ます! タゲ取ったら15、いや20秒稼いでください!!」
それで足りるのか?と言う代わりに一瞬振り替えてみると、フルキフェルは既に目を閉じて集中し始めているようだった。
「分かった! お前こそ、今度は中断させるなよ!」
そう言った瞬間に上空から強烈な烈風が吹き込む。どうやらお出ましになったらしい。
「来たわよ!」
ラディールが叫ぶ声に振り向き、顎でフルキフェルの方へ行くように指示をする。無防備なのは流石に心許ない。
今押さえ込んでるミミズは爺さんと数字入りの黒蟻に任せるとしよう。

「いっくぜぇぇぇ!!」
掛け声と共に、特に打ち合わせしたわけでもないが俺とレガトゥースは反対方向に動き、ギーブルを横に挟んで相対する位置を取った。
位置に着いた刹那、ギーブルの尾撃が横から払われる。足を踏ん張って左の篭手で受けたが、それでも幾分正面に寄せられる。
さらに首を後ろに引くような仕草を見せるギーブル。何かがあの口から放たれようとしているのは容易に想像がつく。
ギーブルの尻尾があるべき位置に戻ったことを確認して、その方向に横っ飛びをする。

俺がいた空間は、触れただけで消し炭になりそうな高熱の閃光に焼き払われていた。
普段から厳しい太陽の日差しを受けていた砂が、その部分だけ黒く炭化している。こりゃ理屈云々じゃなく相当ヤバい。
閃光が通り過ぎた場所は、フルキフェルとラディールがいる位置の2メートルほど横でもあった。
青い顔をしているラディールと、相変わらず意識を集中しているフルキフェル。こりゃ、あっちを庇いながらってのは難しいかもしれない。




(293)
再び側面を挟む位置に戻ると、今度はギーブルの注意はレガトゥースの方向に向く。
ギーブルの爪が勢い良くレガトゥースに振り下ろされるが、彼はよける仕草も見せない。
当たった、と思った瞬間に金属同士をぶつけた様な高い音が響く。レガトゥースにダメージを受けた様子はない。
「インビンシブルか…! フルキフェル、まだか!?」
「まだです、でも、もうちょっと…」
上手く行けばこの状態で乗り切れる。そう思った途端、またギーブルが首を引く動作を見せる。

2発目のレイディアントブレス。
レガトゥースが膝を付きながらも盾を前に構えてこれを受ける。
注意は完全にレガトゥースに向っている。俺はその場からギーブルの背中に飛び乗り、首の付け根辺りに乗った。
ギーブルが振り落とそうとするのを上手く御して、息を整える。
「せぇぇりゃぁぁぁぁ!」
気合と共に、夢想阿修羅拳を叩き込んだ。そこにすかさず放たれるレガトゥースの4連撃。
さらに黒蟻が土の刃で追い討ちをかける。背中に乗っている俺を避けるようにして砂漠の砂から突き出した土の刃は、ギーブルの外鱗を何枚か弾き飛ばした。
だがギーブルは気にする様子もなく、立っているのが精々と言うレガトゥースに向って爪を振り下ろす。
同時に、左手をギーブルの頭めがけて大きく横に払う。篭手から伸びた龍の尻尾がギーブルの頭を的確に捉える。が、それでも爪を振り下ろす勢いは止まらない。
鋭く舌打ちをしてギーブルの頭にもう一発くれようとした瞬間、篭手がドクンと一つ鼓動を打った。
2006年10月30日(月) 12:38:49 Modified by ID:W9u7kB7jCg




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