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Loufas ◆TTnPTs4wAM 15スレ目本編

13 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2006/10/26(木) 22:08:09.05 ID:BY5j0SnJ
(332)
足元に用意した廃棄書類の箱は既に満杯を通り越してさらに積み重なっている。
そもそも彫金ギルドのジュエリーコレクションの案内とか、開催日時が過ぎたパーティの招待状とか、封筒から出して書類と一緒になっていると言うのはどういうことか。
「そもそも君が遅参したせいでこんなに溜まってるんだ。責任の一端は君にある」
「連れの白魔道士が体調を崩しましてね…」
ヒロやマルトと合流しなきゃならないのに、こんな事してていいんだろうか…

と、入り口の方から明るい話し声が聞こえてきた。
誰か来たのだろうか、と思いながらも書類から目を離さずにいると、やがて聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ほっほっほ… これはこれは、坊ちゃま。なかなか堂に入ったものですな」
声の方に視線を移すと、爺さんがニヤニヤしながらこちらの様子を見ている。
「お久しぶりね、マティエール」
「サヴィーお嬢様もご健勝のようで何よりでございます」
"お嬢様"と敢えてそう呼ぶあたりが、この爺さんのうまいところと言うかイヤらしいところと言うか…
案の定、領事は随分と機嫌を良くしたようだ。
だが、目を落として書類の山を見て、再び「どうしたものか」という苦笑いを浮かべる。
「少し骨が折れるでしょうが、今日中には片が付きましょう」
一方の爺さんは余裕たっぷりにそう言う。何の根拠があっての自身なのだろう。
「仕事は仕事ですから」
いつの間にか横にいたフルキフェルが、酷く機嫌の悪そうな声でそう言った。

14 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2006/10/26(木) 22:08:48.53 ID:BY5j0SnJ
(333)
爺さんが着いてから書類の山は瞬く間に整理されていく。
領事のサインが追いつかず、フルキフェルに領事館印を持たせてサインの代わりに押させて、何とか日付が変わる前に書類の山を攻略することが出来た。
大統領府の大臣は酷く嫌な顔をして嫌味を言うものの、書類は受理してくれると言っていた。
人は悪そうだったが仕事には忠実らしい。

一切の処理を終えた頃には大統領府や他の領事館に人の気配は無く、鍛冶ギルドの方からは金属音だけが高々と鳴り響いていた。
「明日は遅めで構わないから、ゆっくり休んでくれ。ただマティエールとラディールは朝から来るように」
領事はそう言いながら、領事館の鍵を手渡してくる。
「いや、それよりも宿舎はどこに…」
「宿舎はあるが、君らのような大人数が泊まれる場所は無いな。鉱山区の宿を使ってくれ、経費はこちらで持つ」
それだけ言い残すと、力なく手を振りながら領事は去っていった。
「…とても貴族の振る舞いじゃねぇなぁ、ありゃ」
「それはルーファスの言えた事じゃないわね」

「坊ちゃま… "こうもりのねぐら"に急ぎましょう」
後方にいた爺さんが、不意にそう声をかけて来た。振り返ってみると、いつもの好々爺と言う顔はなくなっている。
「…どうした?」
「マルトとヒロ様が襲撃を受けたそうです」

62 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2006/10/28(土) 02:24:29.69 ID:RNPWjAqN
(334)
大工房のリフトを待ちながら、焦りと疑問が悶々と湧き出てくる。
このタイミングで襲撃を受けた理由は何だろう。俺たちがバストゥークに着くのを見計らっていたか、あるいはただの偶然か…
爺さんにコンタクトを取ったのはマルトらしい。マルトはこちらがまだバストゥークに着いていると言う事実は知らない。
着いているかどうか判らないのにコンタクトを取ってくるほど危急だった、と言うことだろう。

「…いや、そもそもどうやってマルトから知らせが届いたんだ?」
「こちらでございます。リージョン内でしか使えない旧型ではございますが、中継地点で盗聴されるリスクが少ないのが利点ですな」
爺さんが差し出した掌には、小さな宝石のような球状のものが乗せられていた。
「そういう便利な物があるなら、どうして先に言わないかね…」
「多用すれば、如何な中継地点が無いとは言え盗聴される可能性がございます。何しろ、相手が相手でございます故…」
ようやくやってきたリフトに早足で乗り込む。
非常階段などがあれば駆け下りたい気分だが、それらしい物は見当たらなかった。

「しかし、こちらの動きは結局筒抜けです」
フルキフェルが責めるような口調で短く言う。爺さんは苦笑いのような表情を浮かべながら首を振った。
「筒抜けだったのはこちらではなく、ヒロ様のようで…」
同じことだ。猫に鈴をつけるのが遅れたのはこっちの不手際と言える。
「取りあえず、二人とも無事なんだな?」
リフトが地階に着いたところで、全員が走り出す。その動作の中で、爺さんがこちらに小さく頷いた。

63 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2006/10/28(土) 02:25:22.28 ID:RNPWjAqN
(335)
大工房を出て商業区を走りながら、先ほど渡されたリンクパールを耳につける。
「マルト、簡単に事情を説明してくれ」
そう言うと、マルトは少し口ごもった後に話し始めた。
『ヒロ様のモグハウス… いえ、レンタルハウスの中で襲撃を受けました。相手は… 1人です』
「そうか、それで?」
『襲撃してきた本人はその場で倒しました。ただ、その後仲間が現れて死体を回収していきました』
最初に1人と言ったのに、仲間が現れて回収というのも妙な話だ。こういう矛盾があるときは何かを隠していると疑うのが定石だが…
相変らず走りながら、爺さんに目を移す。わかっている、とでも言うように目を合わせてまた視線を前に向ける。

「…わかった。今こっちも"こうもりのねぐら"に向ってるから、その場で待ってろ。それと…ヒロ!聞こえてんのか!!?」
声をかけてしばらく待ってみても返事は無い。
『リンクパールは渡したのですが…』
「ったく、あの馬鹿は…!」
それだけ言って、耳にはめ込んだリンクパールを懐に突っ込んだ。

「もう寝てたりしてね」
おどけたようにラディールが言う。
「何考えてんだ、あいつは!」
思わず口に出た言葉は、俺が思うよりも忌々しげな口調だった。

73 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2006/10/28(土) 19:23:50.97 ID:RNPWjAqN
(336)
鉱山区は昼間の雑踏が嘘のような静寂だった。その中に、俺たちの足音だけが響いている。
建物や壁が岩で出来ているせいか、あるいは町の周りが荒地のせいなのか、空気が随分と冷たい。
街灯が僅かに照らす道をただひたすらに宿屋に向って走り続けていた。

フルキフェルが少し遅れ始めていた。アルテパの時と言い、走るのは苦手なようだ。
実際のところ、少なくともマルトは無事なのは確かなようだから宿屋に急ぐ理由はそれほど無い。
ただヒロとの連絡が取れない以上、マルトとの合流して詳しく話を聞き、あいつの行き先を特定して探し出す必要がある。
結局鈴をつけたところで猫は猫。気ままなのは変わらない、と言うところだろうか。
もう10メートルほど集団から遅れているフルキフェルをよそに、目的地に向う足取りを緩めることはなかった。

「あそこだったかしら?」
ラディールがそう言って指差した先は、下に入る通路の横に設けられたベランダのような通路だった。
その先に、大き目のランプが煌々と灯っている。間違いなさそうだ。
細くて今にも壊れそうな欄干には手を触れず、なるべく建物側を通るようにして、そのランプまで行き着く。
少し息を整えて、フルキフェルが後ろから追いついたのを確認してからガチャ、とドアを開けた。
中にいたのは、いかにも無愛想な顔をした中年の女だった。こちらを一瞥した後、また手元に視線を落としたようだ。
「部屋を3つ頼む。サンドリア領事のパレーデ卿にここを使うよう言われたんだが…」
「あらなんだい、サヴィーさんとこの人かい?」
領事の名前を出した途端、上機嫌に何か準備を始めたようだ。しかし妙な人脈だ。あの人はちゃんと仕事をしていたのだろうか?

74 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2006/10/28(土) 19:24:27.22 ID:RNPWjAqN
(337)
この女は、どうやらこの宿屋の女将さんらしい。
鍵を取り出して部屋へ案内しようとする女将さんを少しとどめて、マルトについて聞いてみた。
「あの娘、お連れさんかい? ちょっと前に血まみれで戻ってきたようだったけどねぇ…」
「部屋は?」
「あぁ、その奥にある部屋だよ」
それだけ聞くと全員がその部屋に向って走り出した。

ドアを開けると、どうやらお着替え中だったらしく下着姿のマルトがこちらに尻を向けて屈んでいた。
「よぅ、大丈夫か?」
そう声をかけた途端文字通り飛び上がるように驚いてから、傍らのベッドに置かれていた服で胸元を隠して振り向いた。
「これは…失礼しました。こちらに着くのはもう少し後だと思っていたので…」
「気にしなくていい、取りあえず服を着な。ヒロの行き先について知っていることがあったら聞きたい」
いそいそと服を着始めるマルトと、それを面白そうに眺めているラディール。
男3人は後ろを向かされ、なんだか妙な光景が広がっていた。

「お待たせしました… もう大丈夫です…」
そういわれて振り返ってみると、少し袖の長いタブレットを着たマルトが椅子をこちらに差し出していた。
右手でそれを制しながら、マルトに椅子に座るように言う。
「で、ヒロの行き先に心当たりはないか?」

75 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2006/10/28(土) 19:24:59.69 ID:RNPWjAqN
(338)
「心当たりはありませんが… ヒュムの女性と一緒に出て行きましたので、その方と一緒ではないかと…」
部屋にいた一同に『ハァ?』という声が上がりそうな表情が広がる。
「あいつ、女引っ掛けて遊んでたのか?」
「いえ、何か事情があるような節でしたが…」
ふぅん、と相槌を打っておいて、さてどうしたものかと考える。

「取りあえず、リンクパールで呼びかけなきゃ」
「いや、しかしだな… ほら、女連れとなると、その… 最中って可能性もあるだろ?」
「そんな事を言っている場合ではありませんね」
冷たい視線と共に、また一層冷たい言葉がフルキフェルから放たれる。
「いや、さっき呼んでも反応しなかったし… 俺はそういう野暮な事はしたくないんだがなぁ」
そう言いつつも、先ほど懐に放り込んだリンクパールを取り出して耳につける。
「おーい!ヒロー!」
返事は無い。

「ほら、やっぱこういう野暮な事はさぁ…」
「そうやっている間に彼が襲われないとも限りません」
またフルキフェルが言う。機嫌が悪いと言うより、なにか差し迫ったような感じがある。
ため息を一つついて、もう一度呼びかける事にした。

119 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2006/10/30(月) 01:10:14.38 ID:Gak7zMxX
(339)
「おーい、良い雰囲気なら邪魔して悪いが、無事なら無事で返事しろー!」
相変らず返事は無い。
「やっぱり寝ちゃってたりしてね」
移動中に言っていた事をラディールが繰り返す。
「本当に寝てるのか、それかアレの最中で無視してるのかな… どっちにしてもロクなもんじゃねぇが… おい、ヒロ!」

『うるせえな、起きたよ』
口調は相変らずだが随分と弱々しい声が聞こえてきた。取りあえずホッと胸をなでおろす。
「なんだ、本当に寝てたのかよ… ひょっとして取り込み中だったのか?」
わざと意地悪そうな声を出して聞いてみる。もちろん心配もしてたが、無事とわかればちょっとからかって見たくもなる。
『いや、ちょっとうとうとしてただけだよ。そちらは今着いたのか?』
からかい甲斐のない、あっさりとした返事が返ってきた。無事ではあるが元気では無いらしい。
「着いたのは昼間だよ、すぐ連絡しようと思ったんだが、色々とヤボ用があって今になっちまった。悪い」
『いや、どうせこちらも昼間はあちこち駆けずり回ってたから。ルーファス、そっちは今どこにいる?』
「蝙蝠のねぐらだ。マルトもいる」
『そうか……正直、すまん』
どうやら本格的に元気が無いようだ。

120 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2006/10/30(月) 01:11:06.22 ID:Gak7zMxX
(340)
「まぁ無事だったなら、取りあえず部屋に荷物を置いてこようかしら」
そう言って、ラディールは部屋の外に出る。爺さんとフルキフェルもそれに倣って部屋を出て行った。
軽く手を上げてそれを見送りながら、、この元気の無いヒロをどうするべきかと思案する。
大体、何があったか知らないがこうもしょんぼりされるとこっちも困る。
冗談を言えば悪態が返って来ると思っていたのに、押すドアを引いたような、そういう気まずさがある。
アレですか、いわゆる『空気を読めない人』って奴ですか、俺は。

「……ヒロ、大丈夫か?」
思案を重ねた後に口を突いて出たのはそんな台詞だった。
『ああ、いや、大丈夫だ。何でもない。ちょっと疲れてるだけだから。他の連中は?』
丁度今しがた出て行ったところだが、こんなところで呼び出すのも馬鹿らしい。
「いない。とりあえず今ここには、な。バストゥークには……ああ、いや。パールで長話もなんだ、合流できないか?」
『…わかった。20分くらいでそっちに行く』
そう言うと、どうやら通信が途切れたらしい。俺も耳からリンクパールを外し、それを少し眺めてから懐にしまった。

さて、20分あれば風呂なりシャワーなり浴びれるだろう。上着を脱ぎながらシャワーは何処かと部屋を物色し始めたところで背後から声がかかった。
「あの…ファーロス様… シャワーでしたらそちらに…」
振り向いてみると、ちょこんと椅子に座ったマルトがどうしていいか分からないという表情でこちらを見ている。
「…そうだったな、そういや。 俺の部屋は何処だったかなっと…」

177 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2006/11/01(水) 18:40:05.01 ID:6eqi4VGy
(341)
マルトの部屋を出て、女将さんの所まで戻って部屋を確認する。
ご丁寧な事に、四つの部屋を並びで用意してくれたらしい。都合よく部屋が空いているあたり、この宿は流行っているとは言い難いのだろう。
マルトの隣は爺さんの部屋だった。ドアが開いていたので覗き込んでみると、既にテーブルの上に地図を開いてなにやら書き込んでいる。
目が合って軽く会釈する爺さんに軽く手を上げて、そこは通過した。

次の部屋もドアが開いており、中にはフルキフェルがグッタリとしたままベッドに腰掛けていた。
ランプの黄色い灯りに照らされてなお、その顔色はどこか青白い印象を受ける。表情も心ここにあらずと言った感じだ。
声をかけようか迷って、やはりここも通過する事にした。また癇癪を起こされたら堪らない。

俺とラディールの部屋は流石にドアは閉まっていた。ただ、既に荷物が展開されそれまで見た部屋とは異質な雰囲気が漂っている。
「あ、おかえりなさい」
声につられてドアの裏を見てみると、部屋の角あたりにカーテンが引かれている。その上には大きなタンクのような物が付いていた。
やがてカーテンが開け放たれ、簡素なシャツと太ももの半ばくらいまである短パンのようなものを着たラディールが出てきた。
「さっき女将さんに頼んでお湯を入れてもらったから、熱いうちに浴びた方がいいわよ」
どうやらこれはシャワーらしい。簡素にも程があるが無いよりはマシだと思うべきか…

178 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2006/11/01(水) 18:40:34.20 ID:6eqi4VGy
(342)
「で、ヒロはどうしたの?」
シャワーを浴びている最中に、ラディールが話しかけてきた。
「もう少ししたらこっちに来るってさ」
短く答えて、タンクに取り付けられたバルブを閉めて湯を止める。
簡素とは言えさすがバストゥークと言うべきか、バルブやシャワーの口は中々良く出来ている。
髪に絡み付いていた砂や指に付いたインクもすっかり洗い流し、持ってきていた拳法着に着替えた。

「そろそろ着いても良い頃なんだがなぁ… ちょっと見てくる」
そう言って部屋を出ようとしたところで、ドアが数回ノックされて開いた。
ヒロが来たかと思ったが、そこに立っていたのは神妙な顔をしたマルトだった。
「ちょっとお話しておきたいことが…」
「大事な話ならヒロが来てからの方がいいんじゃないか?」
少し小首を傾げておどけながらそう言ってみたが、マルトはドアの隙間からするりと部屋の中に入り込み、ドアをしっかりと閉めた。
と、閉めた側から突然ドアが開かれた。

「ルーファス、いるか?」
そこに立っていたのは今度こそヒロだった。声と同様に顔も随分と疲れているように見える。
マルトはヒロの顔を見るなり尻尾を立てて驚き、やがて尻尾が下がるのと同時にため息をついたようだった。

578 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2006/11/19(日) 02:20:38.31 ID:CFWwuuUx
(343)
ヒロはじろりとマルトを見ると、そのまま遠慮した素振りも見せずに部屋の中に入ってきた。
入れ替わりでマルトが部屋の外に出る。
何を言おうとしたが知らないが、内容はヒロのことらしい。
取りあえず後でそれは聞くとして、俺の興味はヒロと同様全く遠慮なく部屋に入ってきたヒュムの女に移っていた。
失礼にならない程度に少し眺めて、間違いなく俺の顔見知りではない事はわかった。
だとすれば、リンクシェルで話したときにマルトが言ってた彼女って訳だ。

「来たな」
俺はそう言って笑顔を作った。出来るだけ場を緊張させたくないという配慮だったのだが、ヒロはそれを気にする様子もなく話を続けようとする。
「ああ、道中問題はなかったか?」
「大ありだよ、参ったぜ」
おどけたように返事を返すが、このヒュムがいるこの場所でどの程度の話をするべきか判断がつきかねていた。
やがてその微妙な空気に気がついたのか、ヒュムの女がヒロに小さく耳打ちした。

「自分でしろよ」
「えー、なんで!?」
傍目にはイチャつくバカップルにしか見えないが、わざわざ紹介しろと言っている(っぽい)あたり、俺たちに同行するつもりでいるらしい。

579 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2006/11/19(日) 02:21:05.30 ID:CFWwuuUx
(344)
「仲がいいのはいいけどな、いちゃついてないで紹介してくれないか」
「いちゃついてない!」
ヒュムの女が叫ぶような声ですかさずそう言った。
「ネカマといちゃつく趣味はねーな」

なんとなく想像はついていたが、やはり俺たちの同類らしい。
「だからネカマじゃないって!ボクは健全な女性キャラプレイヤーです!」
ネカマはみんなそう言うんだよ、という皮肉は飲み込んでおいた。
しばらくイチャイチャしている様を監察していたが、やがてヒロがウンザリしたような表情で俺を一瞥すると早口でまくし立てるように紹介を始めた。

「これがルーファス、来訪者でおれの仲間だ。そんでこっちがアオツキ。バストゥークで知り合った、やっぱり来訪者だな」
「よろしく」
相変らず笑顔を浮かべたまま、握手をする為に手を差し出した。ラディールの視線が痛い気もするが、ここは気付かないふりに限る。
アオツキと紹介された女性は慌てて手を差し出し、俺の手を握った。
手は随分と小さく、全体がやわらかい。少なくとも武器を持って戦ってきたと言う手ではない。
「よ、よろしくお願いします」
その言葉に、少しだけ口角を引き上げて答えた。

580 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2006/11/19(日) 02:21:50.43 ID:CFWwuuUx
(345)
「何にしても、味方が増えるのは嬉しいよ」
こうまであからさまな社交辞令を言ったのも久々な気がするが、アオツキの表情は若干和らいだようだ。
「まだそうと決まった訳じゃないんだけどな…」
ヒロがため息混じりにそう言い、ここ数日の行動やアオツキとの馴れ初めについて話し始めた。

延々と続くヒロの話を半分聞き流しながら、俺はアオツキの立場について考えなければならなかった。
先ず、ヒロと接触して一緒に行動している時点で色々とアウトだろう。
サンドリアで出会った3人組のように、この世界に馴染んで無事に過ごすと言う選択肢はもう無い。
後は殺されるか攫われるかの2択だ。
何より、そういった思慮が欠片もなさそうなコイツに引っかかったのが運の尽きと言っていい。
いや、思慮がないと言うより人が良すぎる。嫌な顔をしても結局受け入れてしまうタイプだ。

こんな事を考えながら、相変らず笑顔でヒロの話を聞いていられるのだから我ながら不思議なものだ。
一通り話が終わると、ヒロは俺に意見を求めた。
是非も無い。既に手遅れなのだから。
「まあ、いいんじゃないか?さっきも言ったけど、味方は多い方がいい。俺達と一緒に行動して、じっくり見極めるといいよ」

581 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2006/11/19(日) 02:22:31.03 ID:CFWwuuUx
(346)
「さて、2人とも少し外してもらっていいかな。おっかない人から預かったお小言を、ヒロに伝えなきゃならない」
ラディールの方は既に色々と察しているらしく、立ち去ろうとする前に僅かに視線を合わせて、肩を竦めて見せた。
俺は首を軽く振って答え、アオツキの方に向き直った。
「今日はありがとうございます。 …カラミヤ君、外で待ってた方がいい?」
カラミヤと言うのは、確かヒロが最初に名乗った時に言っていた氏族の名前だったか。
しかし、この会話はどう見ても彼氏彼女のそれだ。しかも初々しい感じがしてこっちが恥かしい。
「てめーのモグハウスだろ、1人で帰れ。俺には俺のねぐらがあるっつの」
「あ、そっか」
改めて、コイツは何もわかってないと言うのを再認識した。

「あぁ、アオツキさん。この辺りは治安が悪いから、よかったら今日はここに泊まって明日帰るといい」
どうせ領事館の経費で落ちるから、と付け加える。
ラディールがアオツキをドアの外へと促し、ドアが閉められたのを確認してから俺はヒロの正面に座った。
「いいのかよ、土壇場で足引っ張られたら、出来る事も出来なくなるぞ」
「彼女の気持ちも分かるしな。自分の中での道理に適った事をしたいんだろ。それよりもヒロ…」

「彼女から目を離すな。ここまで関わったら、一人で泳がせておく方が危険だ」
ほとんど聞き流していたが、それでも原因がヒロにあるとも言い切れない事はよく分かった。だが彼女をここに連れてきたのはコイツの責任だ。

798 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2006/11/28(火) 02:55:05.24 ID:H3PSQf+T
(347)
「とんだ策士だな。マンガジョブだと思ってたんだが」
「面と向ってマンガジョブとか言うなよ… 心配性なだけさ」
心配なんてものはし過ぎる事は無い。コイツにはもう少しそういうところを分かって行動してもらいたいもんだ。
おどけて肩を竦めながら笑顔を見せると、ヒロもそれにつられて笑顔になった。

「で、何か分かった事とかあったら教えてくれないか?」
そう言うと、ヒロが不思議そうな顔でこちらを眺めていた。
「小言はいいのか?」
それも今更な話だ。
「嘘に決まってるだろ。サヴィー姉さんは文句があるなら直接いいに来るタイプだよ」
ヒロはようやく得心したという表情でこっちを見る。
「そゆこと」
片目を閉じて、悪戯っぽく笑って見せてそれに答えた。

堅い表情が取れたところで、ぽつぽつとお互いに情報を交換し始めた。
だが、それも期待はずれなほどあっさりと終わってしまう。起こった事件に対して、判明した事実は随分と少なかったのだ。

799 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2006/11/28(火) 02:55:25.97 ID:H3PSQf+T
(348)
俺が領事を引き合いに出してアレコレと注意したのが気に入らなかったのか、ヒロはそこに食いついてきた。
「らしくないな。あんな顔が怖いだけの年増、ほっとけばいいだろ」
簡単に言ってくれる物だ。

領事との件に関してできるだけ穏便に済ませたいと考えているのには、それなりに訳がある。
実は、シュヴィヤール家と言うのは、パレーデ家の事実上の分家に当たる。事実上と敢えて言うのは歴史上はそうではないからだ。
パレーデ家は由緒正しきサンドリア族の出自であり、遡れば王家と繋がりもある。
対してシュヴィヤール家は、遥か昔にデルフラント周辺に住んでいたクームルド族の流れを汲む。
いつの時代かサンドリア王国に移り住んだシュヴィヤール当主はパレーデ家の小姓となったそうだ。
その後、第9代サンドリア王 アシュファーグ・R・ドラギーユ王の頃に起こったコンシュタット会戦で功があり、騎士の家系として数えられるようになった。

ただ、当時のシュヴィヤール家当主は数々の戦争で鼻は潰れ、顔や身体には無数の傷が刻まれており大変な醜男であったらしい。
そこに嫁いで来たのが、パレーデ家のご令嬢だった。嫁いできたのだから、当然本家・分家と言う事にはあたらない。
だが、始祖が死に際に『我が子らは、万事パレーデ卿に尽くすべし』などと言い残しているから困った物だ。
以降、両家の交流は盛んであったが、やはり主従のそれに近い物があった。
サヴィー姉さんが昔シュヴィヤール家に入り浸っていたのも、要するに都合のいい別館のように思っていたからだろう。

800 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2006/11/28(火) 02:56:02.46 ID:H3PSQf+T
(349)
政治的事情と言うよりは因襲に近いその事実は、話してみたところで分からない人間には分からないものだ。
「そうも行かないのさ、色々あってね」
結局、俺はそう言って両手を挙げて見せた。

お互いに事情を話して見るものの、どうもお互いに話半分に聞き流していると言った妙な状況だ。
そんな話の流れに飽き始めた頃、不意にヒロの口からエルリッドの名前が出た。
「あぁ、会ったよ。やっぱり冒険者ルーファスはファーロスの仇だそうだ」
予想していた事だ。そう思って見るものの、やはりしてやられたという印象が強い。
俺は深く息を吐きながら、首を何度か振った。
領事に既に聞いた話だったが、やりきれない思いがある。

ファーロスとして此処に来たことで状況が変わってくれれば、いくらか手の打ちようがある。
だがエルリッドとの戦闘が避けられないのであれば、そこは是が非にも俺がやらなければならない。

ヒロに作戦について聞かれたものの、まだ状況が確定しない現状では何とも言えなかった。
「ん〜、単純に突っ込んで救出ってのじゃダメか?」
「ダメだろ… 常識的に考えて…」
2006年12月16日(土) 16:07:59 Modified by jikyaramatome




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