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Loufas ◆TTnPTs4wAM 18スレ目本編

178 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2007/02/25(日) 14:16:21.62 ID:t6oBu1T1
(377)
「スタングレネード、でございますか…?」
半信半疑と言う表情で、爺さんがそう呟くように言った。ラディールも神妙な顔をして考え込んでいる。
「俺も実物を見たことがある訳じゃないし、使ったことがある訳でもないから確信はないけどな…」
言っては見たものの、俺としてもそれほど自信はない。

蒸気の羊亭での一件があって1時間ほど経ったが、駆けつけた銃士と共に説明に出向いた領事は相変わらず戻ってきていない。
一先ず領事館まで引き揚げてきたものの、上手く行けば一気に問題解決という場面だっただけに、場の空気は重いままだ。
領事の机の上には、先ほどエルリッドが使用したものの破片がいくつか乗せられている。
レバーのような形状の金属と、炭化して判別不能の何か。手がかりとしては大いに不足だが、推測ならできる。

「でも、体が痺れるとか衝撃を感じたとかそういう感じではなかったけど…」
「ん〜、まぁそれは多分方法の違いってだけだな。意味は同じだよ」
首を悩ましげにもたげながら、納得がいかないという様子のラディールに軽く微笑みながら返す。

「魔法のスタンは相手の体に弱電流を流し筋肉を弛緩させることで一時的に行動不能にするし、タックルやブレインシェイカーの場合は直接的な衝撃で筋肉を硬直させる。どれも直接的に身体に作用して無力化するんだが…」
「成る程、轟音と閃光で感覚機能を麻痺させることでも同様の効果が得られると言う事ですな」
爺さんの相槌に頷きつつ、大仰にウンザリとした表情を作ってさらに言葉を続けた。
「イヤな感じだな。こんなものが出てくるって事は、やっこさん相当隠し球がありそうだ」

179 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2007/02/25(日) 14:17:01.58 ID:t6oBu1T1
(378)
向こうの世界の、殺傷能力が低いとはいえ兵器がこちらに来ているというのはまったく想像していなかった事態だ。
よく考えてみれば、金属片やらプラスチックやらが流れてきてるならそういう可能性もなくはない。
しかし、仮にそうだとするならば、少なくともその一つを使ってどういうものかを把握していたことになる。
スタングレネードは一つではなく、複数個もっている可能性が高い。

「爺さん、こちらでアレと同じものを作ることは可能だと思うか?」
「…おそらくは不可能かと。あれほどの轟音や閃光を発生させるような素材は見当が付きかねますな」
ため息混じりに答える爺さんの表情に、若干だが落ち着かない様子が見られた。
こちらで作れないなら、やはり向こうの世界から来たものだろう。
そして、下手をすればもっと強力な兵器を持っていてもおかしくはない。

「スタングレネードは殺傷能力をほとんど排除した特殊な兵器だ。もし他の兵器がこっちにあるとなると…」
そこまで言って、続く言葉が見つけられなかった。
最悪というなら大陸一つを死の大地にするようなものまであるのだから、むしろスタングレネードで良かったと思うのが妥当なのかも知れない。
ただ、状況が最悪だっただけの話だ。

180 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2007/02/25(日) 14:17:34.20 ID:t6oBu1T1
(379)
「…もう少し、調査が必要なようですな」
「最悪の場合も考えると、エルリッド一人の為に事を急ぐのはヤバ過ぎる。しばらく様子見だろうな」
ようやくの結論を得たところで、領事館のドアが開かれる音がした。
慌ててラディールが応対をしに向かおうとするが、それよりも早くカツカツと踵を鳴らしてこちらに向かってくる。
そして、俺と爺さんが唖然とするのを気にする素振りもなくどっかりと領事が自分の席に腰を落とした。
「…ファーロス、少し面倒なことになったぞ」
不機嫌をまるで隠そうとしない鋭い視線が突き刺さる。

「今回の件、バストゥークとしては外交問題にしたいらしい。知らぬ存ぜぬで通る状況ではなくなった」
俺と爺さんが首を傾げて領事を見ると、領事は凄まじく深いため息を一つついてから説明をしてくれた。

現状、サンドリアとバストゥークには協定が存在するそうで、国内における作戦の実行については重要度や緊急度の如何に関わらず
事前通達が必要になるという。今回、その手順を踏まなかったことをバストゥーク側は指摘しているらしい。
領事としては、たまたまその場に居合わせただけで巻き込まれただけだと主張したようだが、駆けつけた銃士の証言により
在バストゥークサンドリア領事館の職員が原因であると言うように決め付けられており、現在対応を検討中だという。
騒ぎの中心にいたのは俺達だから、そこは隠しようがなかった。

悪いことに、あの轟音はバストゥーク中に響き、閃光は大工房の総理府からも見えたのだという。
つまり、俺達が思ったよりも大きな騒ぎになっているのだそうだ。

181 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2007/02/25(日) 14:18:25.15 ID:t6oBu1T1
(380)
領事が領事館に帰ってきたのも、帰されたと言うよりは半ば強引に一時的に引き揚げてきただけで、またすぐに総理府に行くのだそうだ。
「それで、だ。エルリッドの件について、全てとは言わないまでも一部をバストゥーク側に説明する必要がありそうだ」
しかも、なるべく当たり障りのない不名誉な部分のみをな、と領事は続けた。
エルリッドという騎士が王国を出奔し、それと遭遇したために事件が発生した、というシナリオで鎮静化を図りたいのだそうだ。
そうなると外交問題という意味では確かに回避できるかも知れないが、シュヴィヤール家としては不名誉なことになる。
その了解を一応取っておきたいと言うことだった。

「そりゃ構いませんが、そうなると今度は俺に目が向くのでは…?」
「そうだな、時間は稼いで見るが明日には君にも総理府へ出頭するよう通達が来るかもしれない」
困ったことになった、という表情をその場にいた全員がしている。
そうなるとエルリッド奪回はおろか、俺の行動自体に制限が発生する。

「まぁ、真実を織り交ぜてできるだけ水掛け論をしてくるさ。できればその間に今回の件が解決していれば言うことはない」
そう言って領事は含みを持たせた視線を俺に送ってきた。
その視線に、俺は黙ったまま頷く。
「…では行ってくる」
そう言うと領事は素早く席を立ち、肩で風を切るように領事館のドアから出て行った。

182 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2007/02/25(日) 14:19:15.23 ID:t6oBu1T1
(381)
「と、言う訳らしい。とりあえずやるだけやってみるしかなさそうだな…」
明るく言っては見るが、それも空しい。
「困りましたな…」
「困るでも何でも、チャンスはもう今夜しかなさそうだ」

一先ず、爺さんにヒロとフルキフェルへの連絡を頼んでから、一度"こうもりのねぐら"に戻って荷物を取りに行こうとしたところで、
領事館のドアが再び開かれた。
「こんにちは、何か御用でしょうか?」
ラディールが重い空気を振り払うように明るい声を上げる。
ドアを開けて入ってきたのは、チェーン装備で身を固めたヒュムだった。
バストゥークの国内警備を担当するガードであると一応の自己紹介をした後、書類を2枚手渡しながら説明を始めた。
「南グスタベルグの商業区ゲート付近で、貴国に所属する冒険者の遺体が2体発見されました」
遺体はゲートで保管してあるので、早急に確認して引き取るなりなんなりして欲しいとの事だった。

崖に横たわっている2人組に気がついた銃士によって報告されたのだそうだが、発見時には既に息がなく、
背後から心臓を一突きした傷跡以外はまったく損傷がないと書かれている。
一先ず領事の不在を理由にして後日連絡をする旨を伝えると、男は足早に去って行った。

183 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2007/02/25(日) 14:20:00.47 ID:t6oBu1T1
(382)
「エルヴァーンの男と、ヒュムの女か… とりあえず知り合いじゃなさそうだが…」
「でも、ヒュムの女の人の特徴にある、『ネコ耳』って何かしら…?」
ラディールが怪訝な顔をしながら、書類に記述されているその部分を指差しつつ俺に手渡してきた。
「死人にこう言ってもなんだが、間抜けな話だな…」
逆に言えば、まったく予期せず殺されたということだろう。

「何か関係あるかしら?」
「さぁな、とりあえずこのくらいの事で驚かなくなった自分が悲しいような気もするよ」
書類を領事の机の上にあった未処理と書かれた木箱に入れる。昨日はなかったから、今日ラディールか爺さんが作ったものだろう。
「荷物を取りに一回宿に戻るけど、何か必要なものはあるか?」
「坊ちゃま、それならばヒロ様かフルキフェル様にお願いするのがよろしいかと」
爺さんがリンクシェルでの会話をしながら、こちらに声をかけてきた。
「…なら、そう伝えてくれ」
「かしこまりまして」
そう言って、爺さんは再び耳に手を当ててそちらの会話を続けた。

手持ち無沙汰になり、先ほど木箱に入れた書類に再び目を通し始める。
エルヴァーンの男の特徴を見て何か思い出しそうな気がしたが、結局特に何も思い出せはしなかった。


375 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2007/03/06(火) 18:26:04.96 ID:v4Ecg9/5
(383)
ヒロとフルキフェルに連絡を終えた爺さんは領事の机の上を片付けたかと思うと、そこに地図を広げた。
見覚えのある印がつけられていると言うことは、昨日、"こうもりのねぐら"の爺さんの部屋で見たものと同じもののようだ。
大方の荷物は宿に置いても、コレだけは持ち歩いていたらしい。

「荷物につきましては、マルトに申し付けておきました。お2人ともお忙しいご様子でございましたので…」
そもそもあの2人は何をやっているのか、そういえば俺はまったく知らない。
だから、忙しいというならそれでも良いが、それは果たして事態が切迫してきたことも理解した上での返答だろうか。
さっきの騒ぎにしろ、少なくとも轟音はバストゥーク中に響いたのだそうだから、その時に連絡があっても良いはずだ。

ただ油を売ってるのか、それとも彼らには彼らの為すべき事があるのか。

何れにせよ、俺のやる事は変わらない訳だが…

窓に差し込む陽光の色がほんのり赤みをを帯びた頃、領事館のドアがまた開かれた。
ラディールの声がしないということは、おそらく顔見知りだろう。
「遅くなりました。荷物はこちらに」
そう言ったのは、昨日会った時の服装ではなくサンドリアを出立するときに見た服装に着替えたマルトだった。


376 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2007/03/06(火) 18:27:08.12 ID:v4Ecg9/5
(384)
「あぁ、ご苦労さん。ところで、ヒロかフルキフェルは見なかっ…」
言い終わる前にまたドアが開かれた。またラディールの声は聞こえない。
足音は2人分。これならもう疑う余地もない。

「…なんだ、わざわざ待ち合わせでもしてから来たのか?」
「いえ…そういう訳ではないのですが…」
「リフトのあたりでな、偶然だよ、偶然」
悪びれる様子もないヒロと、やはり少し血色の悪い(とは言っても昨日よりはマシなのだろう)フルキフェルがこちらに歩み寄りながら挨拶に答えた。

ヒロはそのまま近くにあった椅子に座り込み、フンっと鼻息を鳴らしてからこっちに視線を向けてくる。
一応、その視線に答えるように目線を合わせてから、俺は再び地図に目を落とした。
フルキフェルはと言うと、机上の地図を眺めて不思議そうに首をひねって見せた。
「いつ、こんなものを?」
「昨日から、あることはあった。事を起こすのはまだ先だと思って見せてなかっただけだ」
ガタッと椅子から立ち上がるような音がした。同時に、フルキフェルの顔にも若干の緊張が見える。

「…なんだ、聞いてなかったのか。今夜やるぞ」
感情のこもらない低い声で、言った。


395 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2007/03/08(木) 01:11:03.01 ID:0p45fdM0
(385)
苛立たしげ気に声を上げたのはヒロだった。
「冗談だろ!? 作戦はどうするんだよ!?」
「作戦?虎口に飛び込んで今更ナンセンスだな。俺たちが乗り込んだ時点で、もう罠の中なんだ」
まだ、サンドリアの時のように広範囲の洗脳を使われてないだけマシな状況とも考えられる。
突入せざるを得ない状況になったのは、ある意味好都合だと思うしかない。

「とは言え、市民に被害を出せば俺達や領事の立場が危うい。だから、陽動も含め炸薬入りの特製カノンシェルを旧港区の湾に打ち込んで、例の時間を止めるのをやってもらう」
「わざわざ、こちらの動きを報せると…?」
フルキフェルの呟きに黙って頷く。
金属音と共に、マルトがカルバリンを抱きすくめるように鞄から取り出した。
「時間を止めてこなかったら?」
「止めてくるさ。それが都合が良い状況だと、少なくともそう思ってるはずだから」
それだけは半ば確信に近いものがある。今までの行動を見る限りで言えば、そうせざるを得ないだろう。
「俺達と同じで、人目を憚らなきゃならないって事だよ」

仮に黒髪の赤鎧がやらなかったとしても、誰かが必ずそれをする。
それは爺さん側の人間かもしれないし、傍観者としてバストゥークにいる赤鎧かもしれない。だから突入を報せる相手は、敵だけではなくバストゥークにいる全ての関係者に対して、だ。


396 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2007/03/08(木) 01:11:45.37 ID:0p45fdM0
(386)
都合が良いことに、爺さんがこちらについてる以上戦況は確実にもつれる。
さらに、傍観者の目的は不明だが介入してくるならそれもまた良い。
「予測できない事が必ず起こる。それは俺達にとってもそうだし、黒髪の赤鎧にしても同じ事だ」
自身に言い聞かせるよな心境にもなってきたが、これは決して最悪の状況ではない。

一通り俺が話したところで、ヒロがふっと呟いた。
「そういえば、アオツキは?」
「…お前、一緒じゃなかったのか?」
思わず、目を見開いてヒロをじろりと睨み付ける。
「…知らねぇよ、あんな奴」
「目ぇ離すなっつったろうが!」
バンッと机を叩いて、思わず立ち上がった。

「あの… アオツキさんなら、大工房までは私と一緒に来ましたが…」
おずおずと、マルトがそう言った。
視線をそちらに向けて表情を確認し、そのマルトの視線を追って腕を組んだまま壁際に立っている爺さんと目が合った。
マルトがさらに言葉を続ける。
「大統領府が見えたあたりで、お知り合いの方に声をかけられて先に行くように言われたもので…」
さて、大統領府で知り合いときたもんだ…  あのネカマ、いよいよ素性が知れない。

397 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2007/03/08(木) 01:12:30.90 ID:0p45fdM0
(387)
「…じゃぁ、とりあえず近くまでは来てるんだな?」
「はい、それは間違いありませんが…」
さっきから、この近辺で変わった様子はない。いきなり死体とご対面と言う事は無いだろう。
ここから別のところに連れ出されたりしていなければ、だが。

何か釈然としない話の矛盾に、最初に気がついたのはラディールだった。
「ちょっと見てくる!近くで呼び止められたのにヒロもフルキフェルも見てないなんて、おかしいわよ!」
そうだ、通り道で呼び止められればそこから遠くに行くのも不自然だ。なら、やはりどこかに連れて行かれたのだろうか。
「いいじゃねぇか、来ないなら来ないで。どうせ邪魔になるだけだ」
「…お前は黙ってろ」
目を合わせずにそう言ってから、駆け出すラディールの後を追ってドアに向かう。

ドアを開きあたりを見回したラディールは、大きくため息をついて足を止めた。
黙って指を刺す先の、日が傾き塀に遮られて陽光が当たらなくなっている大統領府の景色の中に、確かに昨日見たヒュムの姿があった。
誰かと話している様子はなく、少し胸を張るようなポーズで口を開いている。
「…歌ってる?」
大工房の中から聞こえる歯車の音にかき消されているが、彼女は確かに歌っているようだ。
聴衆も無く、音も響かない場所で彼女が何故歌っているのかは分からないが、その様子は何処か気高い印象すら覚える光景だった。


586 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2007/03/18(日) 01:56:54.93 ID:ZWN3PWfD
(388)
しばらく様子を見ていると、やがて歌い終えたのかアオツキが辺りを見回し、こちらの姿を見るなり走り寄ってきた。
「あの…お待たせしてしまったようでごめんなさい」
照れくさそうにそう言うと、そそくさと俺とラディールの間をすり抜けて領事館の中に入っていく。
このネカマは、思ったよりも飄々と世の中を渡るタイプのようだ。
歌を歌っていた理由はなんだろう、と考えてみたが思い当たる訳もない。
結局、歌ぐらい気分次第で歌うこともあるだろう、とそれについて質問するのは意味が無いような気がして止めておいた。

一同が領事の机に集まったのを確認して、アオツキに声をかける。
「早速なんだが… 君がヒロから何処まで話を聞いているか知らないが、俺たちは今夜からちょっと忙しくなる」
そこで言葉を切り反応を窺ってみるが、何のことだか、という表情をしている。
この反応は意外だった。ヒロの話から、おおよその見当くらいは付く程度の事情は知っているのだと思っていたからだ。
しかし逆に言えば、判断がしやすいとも言えた。
「で、申し訳ないが出来るだけ安全なところに即刻移動してもらいたい。少なくとも、バストゥークの外だな」

しばらく考えるような素振りを見せたアオツキは、少ししてからポンと手のひらを叩いた。なにやら合点が行ったらしい。
だがその後すぐにまた表情が曇る。なんとも分かり易い。
「それは、カラミヤ君が言ってた天晶堂と敵対していると言うのと関係があるんですか…?」
「ま、そんなところだな」
既に用意していた答えを、抑揚も無くさらりと返した。

588 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2007/03/18(日) 01:57:26.73 ID:ZWN3PWfD
(389)
「飛空挺、まだ間に合うだろ。天晶堂でアルドの世話になってたってんなら、ジュノに戻ってそっちを頼ってくれ」
日もそろそろ沈もうかと言う時間ではあるが、ジュノ行きの飛空挺はまだある。
このまま引き下がれば良し、そうでなかった場合には色々と疑ってかかる必要がある。
そもそも、もう少し時間をかけて見極めるつもりだったが、事情が事情なだけに少々強引でも仕方が無い。

「…結局、あなたもカラミヤ君と同じようなことを言うんですね」
アオツキがそう呟いた。
反射的にヒロの方を向いたが、当の本人は何のことだかさっぱりという顔をしている。
「あなた達だけでなんでも出来る気になって、他の事に目を向けない。同じですよね」
ヒロが何を言ったか知らないが、確かにコイツが言いそうなことではある。
これがアオツキの本音なのか、単に何らかの目的を果たそうとゴネ始めたのかは分からないが…

少し考えていると、今日何度目か数えるのも億劫なほど開いた扉が、また開かれる。
遠慮も無くツカツカと踵を鳴らして歩く音を聞くのは、今日二度目だ。
「紋章、何処に仕舞った?」
領事が不機嫌そうに声を上げた。少し呆気にとられた様子の爺さんが、慌てて引き出しから所望の物を取り出したようだ。
「この国の大臣は、分かっていた事だが本当に腐ってる!」
声を上げた領事は、何のことだか分からないという表情を皆が一様に浮かべているのを把握して深い溜息をついた。

589 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2007/03/18(日) 01:57:57.96 ID:ZWN3PWfD
(390)
なんでも、サンドリアにおける冒険者政策とバストゥークにおけるそれを比較して散々に言われたらしく、
「それ以上は、この紋章にかけて許さん!」
と見得を切ろうとしたところで、手元にそれが無いことに気がついたらしい。
それより、昼間の事件の釈明をしに行ったんじゃなかったのか、この人は…
何だかんだ言ってみても、この人も立派に矜持の強いエルヴァーンだと言うことだ。

手短ながら怨嗟をたっぷり含んだ愚痴を振り撒いた後、領事はようやくアオツキの存在に気がついたらしい。
「応援を呼んだのか、ファーロス。準備が進んでるのはいいことだが、目立たぬように重々気をつけろよ」
「いや、応援という訳でもないんですが…」
「そうか、ならば私の関知するところではないな。私が知らない以上、冒険者ルーファスの縁者だろう?
 サンドリア領事館は、一介の冒険者の話に付き合うほどには暇じゃないんだよ」
そう言い放ち踵を鳴らしてドアへと向かう、と見せて領事は急に立ち止まってこちらを見た。
「机の下にある床をはがしてみろ、おそらく最も目に付かない手段で外に出られる」
それだけの言葉を残し、今度は走るような勢いで領事は出て行った。

「さてはて… あの気風はまったく相変わらずと言うところでございますな…」
「年食ってヒスも入ってそうなだけに、もうあの人はもう嫁に行けないんだろうな…」
爺さんと俺がしみじみと呟く横で、アオツキが何が起きたか分からないという様子でオロオロしている。
そうだ、まだこっちの話が片付いてなかった。

590 Loufas ◆TTnPTs4wAM [sage] 2007/03/18(日) 01:59:07.99 ID:ZWN3PWfD
(391)
「あー、それでだな。とりあえず、俺たちで何でも出来ると思ってるってのは誤解だ。そんなわきゃない」
とりあえず話を戻してみたが、アオツキはじめ皆呆気にとられた表情は戻らない。
「俺たちは、というか俺はスジを通しに行くだけなんだよ。だから出来る出来ないじゃなく、やる」
俺がそういうと、場の空気が少しだけ冷えたような気がした。

「いきなり襲われて訳の分からん理屈で殺されかけた挙句妹さらわれたんだ。落とし前つけてもらわない事にはスジが通らねぇ」
「でも、それが天晶堂の仕業だと決まった訳じゃ…」
「俺が的に掛けてるのは天晶堂じゃなく、そこに潜り込んだ一人の男だ」
ヒロには話してないから仕方が無いが、実際は天晶堂自体が敵という訳でないのは確かだ。
「本来ならな、そもそもこんな世界で来訪者なんて呼ばれてること自体に文句を言いたいところだが、
 そんな奴がいるとしたら神様とかそんなレベルの話になっちまう。で、奴が言うには、この世界じゃ『神は死んだ』んだそうだ。
 だったら、神の代行者と名乗ったそいつにその落とし前をつけてもらうのも悪くないだろ?」
ポカンとした顔のアオツキをよそに、なんとなくこんな感じでいいだろうと俺は満足して微笑んで見せた。

「…でも、それはある意味とばっちりみたいなものよね…?」
ラディールが、やはり呆れ顔で言う。
「ま、まぁそうだが… それでも人の妹連れ去ったんだ、この一事のみでも高くつくって教えてやらないとな」
領事はいい事を言ってくれた。確かに、これは一介の冒険者であるルーファスの事情だ。
下らない事をグダグダと考えるよりはよっぽど分かりやすくていい。
2007年05月29日(火) 23:15:35 Modified by jikyaramatome




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