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Loufas ◆TTnPTs4wAM 本編(426)−(450)

(426)
首を左右に振って、意識を定めるように深呼吸をひとつする。
辺りを見回すと、建物などは先程となんら変わりはないが、一帯が黒い霧で覆われていた。

「坊ちゃま!ご無事でございますか?」
珍しく動揺したような声をあげて、屈みこむ俺に爺さんが声をかけた。
「問題ない。少し、コイツにあてられただけだ」
そう言って、右手を軽く上げる。

「これほどの結界を用意していたとは予想外でございました… あの闇の塊も、全てはこのための準備であったのでございましょう」
うわ言のように覚束ない声で、爺さんが呟く。
「そうか、まぁどうでもいい。それよりも囲まれてるぞ」
ハッとしたように爺さんは辺りを見回した。だが、数秒後に首を傾げて難しい顔を見せた。

「近くには感じられませんが…」
「距離を置いてるが、間違いなく囲まれてる。一歩でも動き出せばあっという間に詰めて来るな」
「見えるような仰り様でございますな」
一息おいて、勢いよく立ち上がりながら、不思議そうな顔をしている爺さんに言葉を返す。
「見えるんだよ。なんだか知らねぇが絶好調だ」



(247)
見える、というのは決して大袈裟な言い方ではない。この黒い幕の張られた空間の、おそらく全ての範囲を見渡せている。
当然、俺にそんな力が備わった訳ではなく、この篭手によるものだろう。
だがそれすらどうでもいいと思わせるのは、篭手から伝わってくる不思議な波動のせいだ。

言葉にしてみると、許されざる物が存在している、という強い怨嗟のようでもある。
だがそれが一体なんであって、どういう影響を与えるものなのかまでは分からない。
俺がわからないと言うことは、おそらくこの篭手も理解はしていないのではないだろうか。
それほど、酷く抽象的、もしくは直感的なもののように感じられた。

辺りに展開している黒いマントを纏った一団は、一先ずこちらの様子を伺うことに専念している。
人数は近い範囲で4人。遠巻きにまた4人がいる。種族はバラバラのようだが、一応どれも人間のようだ。
しかし妙な話だ。今更黒マント集団を俺たちにぶつけてくる意味は何だろう。
時間稼ぎにしてはあからさま過ぎるし、この結界を張ってそれ以上時間を稼ぐ意味はあるのだろうか。
また或いは別の何かが平行して進行中か…

目的地周辺はさっきの黒い塊が濃く残っているせいで視界が開けていない。
色んなものが見えても、肝心の所は自分の足で向かうしかないらしい。便利なようで案外役に立たないものだ。



(428)
しばらく思案をしながら相変わらずバカでかい視界を眺めていると、ヒロ達の姿を捉えた。
だがそこにある人影は2つで、ラディールとフルキフェル、それにマルトの姿がない。
フルキフェルの姿はヒロ達からそう遠くない場所で見つけられた。どうやら2人に駆け寄っている様子だ。
そこからまた少し離れた場所 ── 黒い幕の外側に、ラディールとマルトの姿があった。
2人とも酷く困惑した様子で、黒い幕を触ってみたり叩いたりしている。

外側にいれば安心と言う訳でもないが、一先ず2人に関しては問題ないように思われる。
逆に内側にいる3人に向かって、物陰を縫って移動する影がいくつかみられた。
おそらく、ここを囲んでるのと同じ連中が向かっているのだろう。

こうなってみると3人と連絡を絶つよりも、こちらで見える情報を流しながら進ませた効率が良いかもしれない。
何せこちらはすべての範囲が見渡せている。俺が指示に徹すれば、敵の人数からすべての情報を向こうに流すことが出来る。
最終的な部分で連中の力を借りる気はないが、どちらが陽動か分からなくなってしまった現状では、まだ連携に意味がある。

しかしながら、試しにと割りそこなったリンクパールを耳につけた時点でそれが不可能であることが分かった。
リンクパールが壊れたか何かしたらしく、声はおろか音もしない。爺さんの方も同様だった。
爺さんはさも当然のように横に首を振って見せ、俺は結局リンクパールを踏み割ることになった。



(429)
「見える、と申されましたが」
静寂を破ったのは、爺さんの訝しげな声だった。この老人のこういった声を、俺ははじめて聞いたような気がする。
「では、お嬢様のご様子も?」
「それがな… その辺りはさっきの黒い霧みたいなのが濃くて見えないんだよ」
ふぅむ、と唸った課と思うと、爺さんは矢継ぎ早に現状の説明を求めてきた。

「では結局のところ、目的地に向かうより他に手立てがございませぬな」
一通り説明を終え俺と同じ結論に至った爺さんは、見様によっては不承不承とも取れる表情でそう言った。
「そういうこった。ただ敵も多い。駆け抜けるにはちょいと距離もあるし、行き着いたとしても乱戦じゃ分が悪い」
「いえ、状況が正確に掴めるのならば、正面から当たるのも手でございましょう」
つまり、戦闘しながら状況を上手く見て進むと言う方法らしい。
正直それほど上手くいくものかどうか疑わしい気もする。しかし、正論だ。

「なるほどな… そいじゃまぁ、やるとするかね」
打ち合わせと言うにはあまりに簡素なやり取りの後、俺は無遠慮に歩を進めた。
それに合わせて、距離を取っていた黒マントが一気に近づいてくる。
「左前方から2、右前方が1と、右から1だな。右側は任せる」
「かしこまりまして」
次の瞬間、足音にしてはやけに軽い音が辺りに響き、中空には4つの影が舞い上がっていた。




(430)
一斉に跳び上がった影は、それぞれが俺に向かって真っ直ぐ向かっている。
これは明らかに一度の攻撃で完全に仕留めようと言う攻め方だ。
やや自分の視界と今見えている視界に違和感を感じているせいか、まるで他人事のようにそう思った。

短く左に飛び、それらの攻撃がギリギリ届かない位置まで移動し、そのまま一番左側の影に駆け出した。
4つの影は着地と同時にそれぞれ一度四散するような動きを見せたが、俺が向かっていくのを見とめると、
再び俺に向かって殺到してきた。
今度は同時ではなく、むしろ一列に並ぶような格好になっており、それぞれの獲物がはっきりと確認できる。
一番左の影は、瀟洒な飾りのついた片手剣を素早く振りかざし、次のは両手鎌を脇に構え、後のは短剣と、杖か。

最初の剣が振り下ろされるよりも早く、俺は間合いを詰めて左拳を顔面部分に叩き込んだ。
湿った何かが潰れる音を放ちながら、影はその場で崩れ落る。それを踏み越えるようにして、2つ目の影が躍り上がる。
横薙ぎに振り払われようとする両手鎌の柄を足で止めて、そのまま飛び上がるようにして頭部を抱え込み、膝で一蹴する。




(431)
中空に浮いた状態になった俺に短剣が突き出される。身体を捻ってかわしざま、そのまま両手で短剣を持っている手を掴んだ。
そのまま着地はせず地面まで身体を落とし、転がりながら手を捻り上げる。
何度聞いても聞き慣れない嫌な音が数度響いたが、それに構わず素早く立ち上がり、前屈みになった影の背骨に向けてつま先を素早く蹴り出した。
また嫌な音が、今度は少し大きく響いた。

最後の影はいつの間にか数歩の距離を取って、杖を構えたまま詠唱を始めたようだった。
だがそれも、次の瞬間には声にならない絶叫と共にかき消される。
影はそのまま崩れるように地面に落ちた。

一息ついてその姿をよく確認すると、木の根か枝か、とにかくそういう物に四肢を貫かれて仰向けに倒れていた。
「容赦無いな」
皮肉ではなく本心で、俺はそう言った。
「坊ちゃまの早業ほどではございません」
振り向いて、苦笑いが出た。



(432)
「次は如何でしょう」
「タルタルが2、正面から来る。魔法は出来れば喰らいたくないな。待ち伏せして仕留めるか」
そう言って思わず自嘲の笑みがこぼれる。これではどちらが攻めているのか分からない。
いや、攻めているのは俺達だから、これが正しいのかもしれないが…

息も絶え絶えという4つの影を置き去りに、爺さんとは左右に別れて少し前方にある建物の陰で、息を殺す。
手でも合わせてやりたいところだが、実のところ致命傷ではないはずだ。上司に恵まれてりゃ助かるだろう。
俺も一発下手を打てばああなる。同情などしてやれる訳もない。

辺りを改めて確認すると、黒マントの数が先程確認したよりも増えているように見えた。
こちらに向かっている影は相変わらず2つだが、遠巻きにいる数が倍以上になっている。
やはり、視認できるだけでは正確な人数は把握できないものだ。この力もそれほど過信できたものではない。

思わず、舌打ちがため息と共に出る。
それと同時に、こちらに向かってきていた2つの影が、俺達が潜む建物の陰よりすぐ手前で移動をやめた。
再び舌打ちをして建物の陰から飛び出しかけた時、奇妙な光景がすぐ目の前に広がっていることに気が付いた。

俺と爺さんの丁度中心辺りの空気が歪み、それがやがて人の形を帯び始めていた。



(433)
透明人間が元の姿を取り戻すような様、と言うのが一番妥当だろうか。
やがて現れたのは、赤い鎧を纏った小柄なヒュームの男だった。
身の丈に合わない大きな両手剣を背負い、俺と爺さんの間をそのまま視線を横切るようにしてゆっくりと歩を進める。

正面からこちらに向かっていた2つのタルタルの影は、その姿を見て動きを止めたものらしい。
やがて、影のうちの1つが合図をし、2つの影がその男に向かって何かの魔法を唱え始めた。
その瞬間、男は10歩ほどの距離を一跨ぎに詰めた。
普通に見ていたのでは、まるで瞬間移動のように感じたかもしれない。それほどの速さだ。

魔法の詠唱の為に棒立ちになっていた2つの影に対し、男は背を屈めるようにして鋭く背中から抜き打ちの一撃を放った。
その一撃も、一瞬光が閃いたかと思う程度の時間だった。
残ったのは瑞々しい石榴に包丁を入れたような、鮮やかな死体が2つ。

「おい、てめぇ…」
腹が立った訳でもないのに、語気が荒くなっていた。
「気に入りませんか。ですがあなたはこの先、この数倍の屍を乗り越えなければならない」
男は丁寧な口調で、恐らく事実を言った。
「ごきげんよう、シュヴィヤール卿。『フェイト』の者です」



(434)
『フェイト』、という言葉に身を強張らせたのは爺さんだった。
「何故、『フェイト』の者が此処にいるか」
爺さんが鋭く、誰何すると言うよりまるで唾を吐き捨てるように問う。
「目的は貴方と変わりません、マティエール老。アレは人の手にも、神の手にすら余ります」
むぅ、と唸り声を上げ、それでも爺さんは男から視線を外そうとはしない。

「話が見えねぇな。『フェイト』ってのはお前や爺さん達の事を言うんじゃないのか」
「それは誤解です。『フェイト』とは部隊の名前で、私はその部隊の副隊長、『ジャスティス』と言います」
男は淡々とそう言った。
爺さんに視線を向けるが、どうもそれどころではないらしい。
サンドリアで聞いた話とは少しばかり様相が違うようだ。

この様子からして爺さんと『フェイト』の関係は、敵か或いは相容れないものらしい。
では何故その名前を俺に漏らしたのか。しかし、それはさておき…
「で、てめぇは敵か味方かって話になるんだが」
「私の目的は、彼の管理下にあるものを彼の手元から引き離す事。貴方に味方することがそのまま目的の達成につながります」
なんとも卒のない回答だ。卒が無さ過ぎて、却って信用できないくらいに。



(435)
どうしようか、と悩みかけたが、それほど時間に余裕はない。
「ま、ありがたいと言えばありがたい話だ。だが、その前に一つだけ聞かせろ」
少しおどけたように首をかしげた男の仕草を、俺は肯定と取った。
「お前、つまり『フェイト』と、爺さんたちの関係はどんなものだ?」
隣で大人しく動静を見ていた爺さんの気配が少し乱れた。

「彼らの中の1部隊に過ぎません。過ぎなかった、と言うべきか…」
「回りくどい話は好きじゃねぇな。時間も無いんだ」
そう言うと、男は微笑み混じりに困った顔をして、爺さんに視線を送った。
苦虫を噛んだような顔をした爺さんがそれに応えて重々しく口を開く。
「世の理に悖る故、部隊は早晩解消される予定でございました」
解散ではなく解消、と来た。だがここでそこを穿り返せば、そのままこの二人が戦い始めても何の不思議もなさそうだ。
爺さんの反応を見て、その時点で察することが出来たかもしれない、とも思った。

二人が睨み合いを始めてしまい、やや手持ち無沙汰になった俺は、再び篭手を通して見える視界に注意を向ける。
遠巻きにいる人数は相変わらず徐々に増えている。増えると共に、どうも距離を縮められていたようだ。
敵は少ない方が良い、味方は多い方が良い。今はそれ以上の考えを捻り出す事は出来ないようだ。




(436)
「いいぜ。本命は俺が貰うがな」
「坊ちゃま!」
凄まじい剣幕で否定しようとする爺さんを手で制してから、俺は話を続けた。
「時が惜しい。遠巻きの連中が輪を狭め始めてる。集まる前に片付けた方が良さそうだ」

男、『ジャスティス』はやや微笑みながら、恭しく一礼して、
「流石は、と言うべきか。正に慧眼で」
と、わざとらしい世辞を付け加えた。
その言葉に爺さんがまた鋭い眼差しを向けたが、男は微笑んだままでそれを受け流す。
普段爺さんがやっているのと同種の事をこの男がやっていると思うと、少しだけ可笑しい。

不服そうな爺さんを横目に、現状視認できる限りの状況を説明して、方策を説明する。
「いいか、包囲を突破して敵の数を減らしながら進む。敵の方向は知らせるから、主に迎撃だ」
「作戦としては寂しい限りですね」
『ジャスティス』はさらりと、まるでそう言うのが礼儀とでも言うような顔で言った。
「…文句があるなら帰っていいぞ」
そう言うと、また張り付いたような微笑を浮かべて首を振った。



(437)
『ジャスティス』が、俺たちに先んじて歩を進め始めた。
背中に背負われた重厚な両手剣の先端からは、先程のタルタルを切った際に付いた血が滴り落ちている。

慌てて自分の左の手の甲と、左膝を確認すると、やはり同じように先程の血液が付着していた。
乾いていない。

前に時間が止まったときはこうだっただろうか。
いや、最初 ── 俺が、黒マントの喉笛を噛み千切った時にはこんな事は無かった筈だ。
口の端で乾いていく血糊の感覚は、今でもはっきりと覚えている。

「どうか、しましたか」
『ジャスティス』が、いつの間にか振り向いてこちらに声をかけた。
こいつは、この事に気が付いているのか、もしくはそれが当然であると知っているのか。
何れにせよ、何度かあった時間停止とはどうも勝手が違うというのは頭に入れたほうが良さそうだ。


(438)
ふと視界の左右前方へ移動する影が飛び込んできた。結構な数だ。
どうも、円形に囲む陣形から、俺達の進行方向に数を集める陣形に変えようとしているらしい。
配置の一番分厚いところを突破するのはいかにも効率が悪い。が、集まる前なら話は別だ。

「やっこさん、前に数を集めはじめた。完全に集まる前に叩くぞ」
肉眼で見える視界の端で、爺さんが素早く身構えるのが見えた。
前にいる『ジャスティス』も同様に、血が滴ったままの剣を背中から引き抜く。
それらを確認して、俺は一気に前に駆け出した。

目指す場所はそれ程遠くない。が、黒い霧がその距離を遠く感じさせる。
視界が悪いだけではなく、何か底知れない妙な空気を出しているのも確かだ。
黒い影が移動する姿も、やがて霧に隠れて数を確認できなくなってきていた。
まだ広大な視界によるアドバンテージがあるうちに、出来るだけ多く叩いておきたい。

霧が濃くなり始めた頃、こちらに向かって影が何体か動き出した。
「前から来たぞ、数は… 8、いや9… まぁ、たくさんだな」
そう言ってから、前方の空間にむかって左拳を振り抜いた。



(439)
振り抜く左拳から思った通りに龍の尾が伸びて、黒い霧を払い除けた。
その隙間から見えた場所に、影は2つ。
俺がそこに走り込もうとした矢先、後ろから風を纏って『ジャスティス』が飛び出す。

風を纏う、というのは大げさではなく、まるで横を突風が吹き抜けたように感じられた。
その勢いを駆って瞬く間に黒い影の1体を真っ二つに切り伏せる。
もう1体は、出遅れた形で踏み出した俺が左篭手の尾で弾き飛ばした。

異常なほど、一歩が強く、そして疾い。
伸びたゴムがその形を取り戻すように、まるでそれがあるべき形であるかのように、切っ先が吸い込まれていく。
その姿に、俺は驚きと共にある種の違和感を覚えた。
その違和感が何であるのかは分からないが、奇妙に思えるほどこいつの刃は鋭く、また正確だ。

爺さんは少し後ろで、横合いから出てきた影を牽制している。
とりあえず、一応のチームワークとして成立していることに胸を撫で下ろしたい気持ちになったが、視界の端には更に多くの影が見えている。
安心するのは、全てが終わるまで取っておこう。




(440)
しばらくすると、このチームワークが驚くほど有効に機能し始めた。
爺さんは横合いから来る影を、例の木の幹を巧みに操って正面方向へ寄せ、それを俺と『ジャスティス』が叩く。
正面からの影はほとんど『ジャスティス』の早業で両断されていった。
懸念していた魔法でさえ、一度として詠唱の終了を許していない。

うれしい誤算、と言うべきなのだろう。
だが、『ジャスティス』の動きに付きまとう妙な違和感は消えていない。
疾い、というだけで片付けることは出来ない、まるで予定調和のように影を切り刻むこの動き。
有り体に言えば、まるで映画やドラマの殺陣を見ているような、そんな感じだ。
全方向に視界を広げている今の俺でもこう上手くは出来ない。

やがて影の気配が全く消えた。
溢れる生臭い臭いと、その発生源である屍が俺達の立つ場所を中心にして累々と積み重なっている。
結局、移動しながら突破するというよりも、足を止めて全部迎撃してしまった様だ。
辺りの黒い霧は、俺達の一連の立ち回りで若干薄くなっているが、それでも目的地方向は相変わらず視界が悪い。
俺は無言でその方向に向けて足を進めた。



(441)
「無防備過ぎるのでは?」
そう言ったのは、俺が少し前にいた『ジャスティス』の横を通り過ぎて5歩ほど進んだ時だった。
「俺が、お前に対して、という意味か?」
睨み付けながら、振り返って尋ねる。

「そうではありません… 彼、シュムサザはそれほど無用心な男ではないはず、という意味です」
実に要領を得ない。爺さんと言いこいつと言い、こんな連中ばかりが集まってるから得体が知れないような気がするんだろう。
「もうこの近辺には、あの黒マント共はいないな」
「見たような言い方をしますね」
「見えてるんだ」

さも当然と言うように俺が言うと、『ジャスティス』はさらに質問を重ねた。
「それが、その『プライマルアーツ』の能力なのですか?」
緩やかに俺に、と言うよりも篭手に歩み寄り始める。
次の瞬間、いつの間にか近くまで来ていた爺さんが、俺と『ジャスティス』の間に立ちふさがり、
「…貴様が見るべきものではない」
と、言外にたっぷりの敵意を込めて言い放った。



(442)
「少しでも妙な振る舞いがあったら、あなたのその能力で突き刺していただいて結構ですよ」
苦笑いを浮かべた『ジャスティス』は、爺さんに向かって会釈をしながらそう言った。
その言葉を聞くや否や、爺さんは手に持っていた蒸留水を掌に落とそうとした。
「おぃ!止せ!」
俺は慌てて爺さんの肩を掴んだ。掌の上にある種に水を落とせばどうなるか、さっきから何度も見ている。
寸でのところで水は掌の横を通って、血に染まる地面に落ちた。

「坊ちゃま、この者は危険でございます」
本気でやるつもりだったんだろう。少し恨めしげな視線をこっちに投げてきた。
「そうだとしても、敵を増やすのは上手くない。こいつが何だろうが、俺には関係ないしな」
そう言って、俺は踵を返して歩を進めた。

「賢明な判断ですね。清濁併せ呑むのが器量と言うものです」
酷くのんびりした調子で、『ジャスティス』が呟いた。
「貴様がそれを言うか!」
俺に続いて前に歩こうとしていた爺さんが、振り返って怒号を飛ばす。確かに、こいつが言う台詞ではない。



(443)
辺りの気配を探りながら、それでいて早足で、俺は目的地である倉庫へ足を進めた。
篭手から流れ込んでくる視界はほぼ用を為さない。ただでさえ暗いのもあって、見えるのは全方向と言えど10歩先まで。
俺の後ろには『ジャスティス』、そしてそれを監視するように爺さんと続いてる。

「そろそろ、の筈だよな?」
視界のせいか、やけに長い距離を歩かされている気がしていた俺は、栓が無いと思いながらも後ろに声をかけた。
『ジャスティス』は、さぁ? という表情でその質問を受け流し、その後ろにいた爺さんと目が合う。
「恐らく、既に目の前でございましょう…」
霧のせいで見えないだけ、そう言うことだ。それは分かってるが…

短い問答の後、辺りの気配が再び蠢動し始めた。
見えないのがもどかしいが、気配だけで3から4程度。多くは無い。
しかし、このタイミングで仕掛けてくると言うことは、本当に目的地は目の前なんだろう。
「来てるぞ、構えろ」
そう短く言って、全員が背中を合わせるように3方へ構えた。


(444)
それは、本当に先程と何も変わらない奇襲だった。
例によって、『ジャスティス』が正面からの2体をあっという間に切り伏せ、残りを俺と爺さんが1体づつ方付ける。
そして相変わらず拳についた血も乾かない。

あまりに変哲のない、悪く言えばワンパターンな攻め方はどうにも納得がいかなかった。
未だに舐められてるのか、それでもなければこんな物は警戒しているというポーズにしかならない。
時間稼ぎという線も捨て切れないが、30分や1時間稼いで状況が変わるようなものを持っているとでも言うのだろうか?
仮にそうだとしても、血も乾かないほど徹底して現実と乖離させられているこの空間で、何を作ると言うのだ?

「…急いだ方がいいかも知れない。後ろからかなりの数が迫っています」
『ジャスティス』が静かにそう言った。確かに、背後から気配の塊がまとまって動いているのは感じられた。
だが、何故背後からくる?

疑問があまりにも多くて、いい加減混乱してきた。
頭を掻きながらふと、たった今迎撃した影に目を落とす。そこで不思議な痕跡を目にした。
僅かだが、肩から袈裟切りを受けたような傷跡、それもかさぶたの状態、つまり乾燥した傷跡があった。


(445)
「ここは私が抑えましょう。お二人は中の物を押さえてください」
そう言って『ジャスティス』は血が滴る両手剣を背後に向けて構えた。
コイツが信用できるならそれでもいいんだが、少し状況が妙な気がする。

俺が逡巡していると、爺さんが口を挟んだ。
「その前に、マルトの炸裂弾を叩き落さねばならぬかと」
そうだ、すっかり忘れてた。

結局、俺たちには十分に考える時間が与えられないと言う情況には変わりが無いのだ。
気配はやや速度を緩めたのか、比較的ゆっくり向かってきている。
さっきのように個々に襲い掛かるのではなく、今度は全員で一斉にやる気だろう。
「ここは任せる。妙な事考えるんじゃねぇぞ」
釘を刺すつもりで言ったのだが、『ジャスティス』は軽く鼻で笑ってこれに応えた。

俺達が後ろを向いて走り出すと、見える範囲の先に突然壁が現れた。
本当に目と鼻の先だった。わかりやすく入り口も正面にある。
とりあえず中に入るのを後に回し、恐らく弾丸が止まっているであろう方向に向かった。
それから少し遅れて、背後で激しい金属音が鳴り響き始めた。




(446)
指定した射撃ポイントはこの場所から西側の岩の上。
ならば、西側の空中のどこかにそれはあるはずなのだが、この霧の中でそれを探すことが出来るのかどうか。
そう思いながらも正面から壁沿いに西に進むと、進行方向にはいくつかの気配があった。
思わずため息が出る。あまりに手際が良すぎるじゃないか。

「…妙でございます」
「知ってるよ、妙なことが多すぎて頭が混乱しっぱなしだ」
「確かに… しかし、彼らが弾丸を打ち落とした音はしておりませぬ。なのに何故彼らがそこにいるのか…」
要するに、早々に影達が叩き落しても良さそうなものだ、という事だ。
「叩き落しても音が鳴らないってことは有り得るんじゃないのか? どうもこの空間は勝手がおかしいからな」
「…何れにせよ、確認せねばなりますまいな」

そうだな、と答えようと口をあけかけたとき、目的方向の空気が激しく歪んだような感じがした。
気のせいだといいな、と爺さんの方を見ると、どうやら同じような気配を感じたらしい。
そして、精々10にも満たない程度だった気配が、急激に増え始めた。
最早、顔を見合わせて驚くより他に無い。一体何が起きているのか。
その答えは、先程背後から迫っていた数よりも多数に膨れ上がった気配が、もう殆ど証明してくれていた。




(447)
「…穴でも開いてるのか?」
口にするのも馬鹿らしい事が、つい口を付いて出た。
「移送方陣か、あるいは転移魔法を使えるものが集まっているのか… 穴が開いているというのは発想としては正しいかと存じます」
爺さんが、他人事のようにフォローを入れた。だが、顔には脂汗が浮いている。
動揺しているが、冷静ではある。それが逆に、次のアクションに至るきっかけを与えてくれない。

数秒ほどすると気配が、と言うよりも足音が移動し始めた事を知らせてくれた。
方向はこちら。違えようも無い。
「数は… もう数える意味が無いな。多分対処できない数だ…」
「ここは、あやつと再び合流するのが手かもしれませぬな…」
こんな事を言うくらいだから、爺さんも相当混乱しているのだろう。先ずは解決ではなく漸進という訳だ。

姿が見えるところまで足音が近づいてくる。こちらは隠れようも無いから、それを構えて見守るのみだ。
整然と隊列をなした黒い影の列が、そこにあった。
そして、波のような勢いで一斉にこちらへ猛然と走り始めた。

素早く爺さんと目配せをし、同時に背後へと飛び退く。
そして俺達がいた場所は黒い大波に飲み込まれていた。





(448)
剣戟の音が相変わらず鳴り響いている。
その方向に向けて、俺と爺さんは全力で転進していた。背後からは無数の足音。
「冗談じゃねぇぞ、なんだってんだありゃ…」
息を切らせながら、誰ともなしに悪態をつく。
やりあうにしても、一斉にかかって来られない場所を選ばないと、いくらなんでも不味い。

すぐに黒い影を切り伏せ続ける赤い鎧の男が見えた。
「おぃ!場所を移すぞ!数が多すぎる!」
思わずそう叫ぶと、『ジャスティス』はやや後ずさりを始めた。
俺と爺さんはそれに添うような形で陣を組み、飛び掛ってくる黒い影を倒す、と言うよりも叩き落していく。
やがて俺達の後ろから来ていた影も加わり、じりじりと目的地である倉庫の入り口辺りまで来てしまった。

「くっそ… どうも出来すぎてると思ったんだよなぁ…」
ため息と共に泣き言が出てきた。
「全て私が引き受けましょう」
『ジャスティス』が、切り伏せる手を休めないまま、事も無げに言った。
「…お前、状況が見えてるか?」
「あなたこそ、私を誰だとお思いか?」





(449)
1体1体片付ける余裕もなく、最早一撃を与えるのみでなんとか牽制しているような状況で、コイツの自信に溢れた言葉の真意は俺には分からない。
「…出来るもんならやってみろよ、それを見てからじゃねぇと中には行けねぇしな」
「では…」
そういうと、両手剣を横薙ぎに大きく振り払いながら、右手を剣から離して魔力を集め始めた。
その間、僅かな隙に手を出そうとする影を打ち払いながら、何が起こるのかを注視する。

おそらく、2秒ほどだろうか。突然にその魔法は発動した。
範囲魔法、だが範囲はそれ程大きい訳でもない。巻き込めたのはこの近辺にいた影だけ。
攻撃魔法ではなく、何らかの妨害魔法のようだ。

発動からややあって、ようやく何をしたのかが理解できた。
範囲にいた陰の動きがピッタリと止まっている。
おそらく、バインガだ。話に聞いたことがあるだけで、発動するのを見たのは初めてだ。
「納得しましたか?」
悪戯っぽく『ジャスティス』が言う。剣を繰る腕は弛まず動いたままだ。
「ふん… もう少し数を減らしたらお前に任せる」
とりあえず、この状況はコイツにとって脅威では無いというのは理解できた。



(450)
数を減らす、とは言ったものの、何せ相手が多い。
『ジャスティス』のように元から一撃必殺の攻撃を繰り出せるなら話は別だが、俺は一撃で仕留めようとするとどうしても隙が出来るし、
その動きを継続するには相当のスタミナを消費することになる。
爺さんは壁を背にして、木の幹を上手く操りながら牽制している。
俺はと言うと、この状況では唯一有効そうである龍の尾で辺りをなぎ払うのが精一杯だ。元々、一対多という戦闘はモンク向きじゃない。

足を縫い付けられた影を踏み越えてくる影を切る、あるいは叩き落す。また、数が多い方向に優先的にバインガを放つ。
そうして、繰り返しバインガを放っていた効果が現れ始めた。
一対多の状況から、一対一の状況が多くなってきたのだ。

「そろそろ大丈夫です。どうぞ中へ」
「おう」
『ジャスティス』の言葉に促され、俺と爺さんは同時に倉庫のドアにぶち当たり、中に転げ込む。

ドアは勢いで壁に当たった後、そのまま再び閉じられた。
闇夜に慣れた目には、中央に寂しげに吊るされているランプすら、少々眩しい。
そのランプが照らすのは ── 木の床に突き立てられた無数の片手剣。
そしてその中心には、見たことも無いような奇妙で大きな盾と、それを構えるエルヴァーンの少女がいた。
2007年12月30日(日) 22:50:46 Modified by mct_0921




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