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Loufas ◆TTnPTs4wAM 本編(476)−(500)

(476)
気後れしながらそれらを眺めていると、燃えている壁の方から石が落ちる音がした。
振り向くと、炎を背景にして一つの人影が見える。
炎が照らし出すのは赤い鎧。そして、地に這うもう一つの人影も同じように赤い鎧。
血を流したまま呆然と立つその人影は、足元に倒れている遺体を確認するように見つめた後、素っ頓狂な笑い声を上げた。

「はははは…っ!これで…『フェイト』が…!我が正義が成るっ!」
呆気にとられてそれを眺めていた爺さんが、その言葉にハッとしたように辺りを見回した。
その途端、どの方角かは分からない壁の外側から爆発音が聞こえた。
爺さんが舌打ちをしつつ蒸留水の小瓶を手に取ったが、それを制するように『ジャスティス』が言葉を続ける。
「無駄ですよ…っ!この辺りは火の海です… "冥王の欠片"を、無事に持ち出す事は… もう叶わないっ!」
呻くような低い声が爺さんの口から漏れる。状況はよくわからないが、奴の言っている事は正しいらしい。

シュムサザの近くに落ちていた自分の両手剣を拾い上げながら、フラフラとした足取りで言葉は尚続いた。
細かい表情までは分からないが、声の調子や立ち振る舞いも、とても正気の沙汰ではない。
「はぁ…はぁ… ふふ… 安心してください…  一瞬で、バストゥークもろとも燃やし尽くされますよ…
そして… 『フェイト』によってバストゥークは再生され、我々が正義を成す礎とな…っ!!」
その言葉が終わるかどうかのところで、俺が止める間もなく俺の右篭手から大きく口を開けた龍の顎が『ジャスティス』に襲い掛かった。



(477)
俺の意思とは別に動き出したその篭手を、俺は敢えて止めようとはしなかった。
結界が解けたということは、シュムサザは恐らく既に絶命している。正面には『ジャスティス』しかいない。
そのまま、伸びるのに任せて右手を前にかざした。

『ジャスティス』は両手剣を背中越しに振り下ろして龍の頭を叩き落とそうとしたが、それは上顎を僅かに閉じさせただけだった。
顎にこそかからなかったものの、崩れた壁から倉庫の外に大きく弾き飛ばされる。
龍の頭は、そのままするすると俺の右篭手に収まった。

炎の燃える音がいやに耳に付く。
かなり遠くから、人の声も聞こえている。結界が解けて火災に気が付いた者がいるのだろう。
「終わった…のか?」
やや脱力したように俺がそう漏らすと、爺さんは一つ安堵のため息を漏らした後に、再び気を引き締めた。
「それは、これを運び出した後に致しましょう。お嬢様も共にお連れしなければなりません」
それもそうだ。"冥王の欠片"ってのがなんだか知らないが、放射性物質が高圧縮状態で火災と来たもんだ。

「しかし、数が多いな…」
銀色の円筒は、全部で20ほどあった。鞄に入れるにはすこし数が多い。
「坊ちゃまの鞄に、バルーンクロスが入っている筈でございます。ラディール様が準備しておられましたので」
…なるほど、どうもこのくらいの事は、俺以外誰もが想定したいたらしい。



(478)
爺さんに言われて鞄を確認すると、確かに大き目の頑丈な布が畳んで入れられていた。
バルーンクロスというと多少耐火性も期待できる。
それを広げて、中心辺りに銀色の円筒を連ねていった。

「時に坊ちゃま…」
「…ん?」
並べ終えて布の両端を結びながら、手は止めずに爺さんに応えた。
「"冥王"とは、あちら側では如何様に呼ばれているのでしょう?」
妙な事を聞くものだ、と思いながらも、思いつく限りで考えをめぐらせて見る。
「そうだなぁ… あまりそっち方面は詳しくないが、ハーデスとがプルートとか、確かそんな感じだったかな…  よいしょっと」
風呂敷のように対角を結んだバルーンクロスを、背中に背負い込いながら、何となしにそう答える。

こんなものを担いで歩くなんて、まるで昔の泥棒みたいだなぁと暢気に考えていたところで、急にあることに気が付いた。
放射性物質で、名前が"冥王の欠片"…?プルート? バストゥークが燃やし尽くされるとも言っていた…

思わず、膝を付いてしまいそうになる。
全身から嫌な汗が噴き出すのが分かった。
事態は俺の考えていた最悪よりもさらに性質が悪いものだと、そこでようやく気が付いてしまった。



(479)
しっかりと立っていたはずの身体が、気が付くと膝を付いていた。
貧血になったように、目の前が暗くなり始めている。
心臓がそれに負けじと引っ切り無しに脈打っているのが分かるが、それでも身体に力が入らない。

「坊ちゃま…?」
爺さんが心配そうに声をかけてくるのが聞こえた。
聞こえるだけで、表情は確認できない。見えないというよりも、見るだけの余裕が無い。
汗はやがて身体で感じられるほどに噴き出して、壁の向こうに炎を目にしながら凄まじい寒気に襲われた。

プルトニウム。
当然目にした事は無いが、聞いた事だけはある。
それがどういう特性をもつ物質なのかとか、細かい事は分からないが、それから作られたものがどういう効果を持つのか、それは知っている。
それを今俺は背中に背負っているのだ。

「坊ちゃま…!? まさか…?」
爺さんの声に、焦りが含まれているのが分かった。だが、それに対しても俺は返答する事が出来なかった。



(480)
ふと肩に何かが触れる感触で我に返ってみると、爺さんが俺の両肩を掴んでいた。
いつの間にか、俯いたまま酷く浅い呼吸を繰り返していたようだ。
脳震盪を起こしたように、頭の中が揺れてるように感じた。

「いい…  大丈夫、だ…」
そう言ってから、座り込んだまま出来るだけ大きく深呼吸をした。
埃っぽい臭いと花火のような臭い、それと煙が同時に口腔から肺に流れ込む。
少し苦くなった口の中から唾を吐きながら、俺はどうにか立ち上がった。
「お疲れとは存じますが、どうか今しばらくのご辛抱を…」
そう言う問題じゃない。それもそうなんだが、そう言う事では無いんだ。

この様子だと、爺さんはこれが具体的に何であるのかまでは知らないのだろう。
そう思うと、底の知れないと思っていたこの老人が急に滑稽に見えた。結局のところこの件に関しては、爺さんも誰かの傀儡に過ぎないのだ。
だったら、これの危険性を正確に知っている者がもう少し手助けをしてくれても良いような気がするが…
少なくともこれを担いで火の気がある場所を歩くなんて正気の沙汰じゃない。
それを俺にやらせようと言うのだから、爺さんに指示をしている人間は余程俺を過大評価しているか、事態を過小評価しているかのどちらかだ。
そして、いずれにせよその皺寄せは俺が受ける事になるというのが、一番気に入らない。


(481)
これを集めた男は目の前で倒れ伏し、これを狙っていた男はさっき壁の外にはじき出されてから音沙汰が無い。
他に狙うものもいるかも知れないが、このあたりの時間は既に動き出している。下手には動かないという保障に足るかもしれない。
正気の沙汰ではなくても、これを置き去りにするよりは余程現実的なのだろう。
臍を噛んで意識を確かにしてから、改めて荷物を背負いなおす。

「…よし、行こう」
そう言って、狭い通路へのドアをくぐりエルリッドがいる倉庫の入り口の方へ向かった。

俺とエルリッドが派手にやりあったせいで酷く散らかってはいるが、そこには火の気は無かった。
中央に、拳のような形になった木の塊がある。
エルリッドを連れ出すには、先ずこれを壊さなければならない。
物音一つしないのは、中で気絶でもしているのだろうか。

「おい、爺さん…」
「生きておられるのは間違いありませんが… 少々お待ちくださいますよう…」
爺さんはそう言いながら、鞄から何かを取り出そうとしていた。
背負った物騒極まりない荷物を下ろして、俺はその様子を眺めていた。



(482)
木の塊を目にしながら、酷く苛立ちを感じている自分に気が付く。
この荷物がもし仮に爆発するようなことがあれば、エルリッドはもちろんこの周囲にいる人間は助からないだろう。
そうなれば、ヒロやフルキフェル、ラディールにマルトも、何が起こったか理解する間もなく蒸発する事になる。

向こうの世界と同じように爆発するかどうかも疑わしいが、昼間のスタングレネードの件もある。
これも爆発物には違い無いのだ。
圧縮を加えた状態で火が入れば、通常よりも爆発力が増すらしい。
ならば、下手をすればこの大陸全土を焼き尽くさないとも限らない。

秤にかけてみたところで意味が無いのは分かっているが、ここで襲撃を受けてどちらかを選択する事になったとしたら…
そう思うと、暗鬱な感情にも似た苛立ちが込み上げてきた。

爺さんが鞄から取り出したのは、小振りな園芸用の枝切りバサミだった。
「…それで、いいのか?」
「はい、これで十分でございます」
そう言って木の塊にはさみを入れると、小気味良い音と共に、枝の1本が切れる。
なるほど、そう言うものなのか…


(483)
重厚に包まれた木の枝全てを切るには少しばかり時間がかかるように思えた。
忙しく手を動かしてはいるものの、やはり一度に一本切るのが限度のようで手間取っている。
俺は物騒な荷物を横目に見ながら、辺りの気配を探っていた。

ここに来たときのような、遠くまで見通す視界はいつの間にか使えなくなっていた。
それは、この龍の篭手が安全だと判断したからなのか、それともあれが特別な条件下だったからなのかはわからない。
ともかく、見えないものは見えない。だから、見える範囲と気配や音での情報しかない。
それに不安を覚えるようでは、最早俺の感覚がおかしいのだろう。

ふと、金属音が聞こえた。
振り向くと、爺さんが操るハサミが枝に引っかかった金属に当たったらしい。
爺さんはハサミを除けてその金属に手を伸ばしかけて、すぐさま頭を床に打ち付けるかと思うくらいの速さで床に伏せた。

木の間から黒い楕円状の物体が姿を覗かせている。
それが何であるのか、幸か不幸かすぐに理解できた。



(484)
金属音がしてから数秒経過している。剥ぎ取って遠くに投げるのは間に合う筈も無い。
龍の尾で払うのも、近い場所で爆発してしまっては意味が無い。
だが、放っておいては爺さんも、中にいるエルリッドも無事では済まないかも知れない。

刹那の躊躇の間に右腕が俺の意思ではなく、木の塊に向けられた。
そこから、龍の頭が素早く伸びる。
意思に反した体の動きに思わず反発しそうになったが、その意図はおそらくこの状況では最善の方法だった。
俺は反射的に振ろうとした右手に左手を添えて動きを止める。

龍の頭は10歩ほどの距離があった木の塊に一瞬にして届き、黒い楕円状の物体、おそらく手榴弾を周りの木を共に食いちぎった。
それと同時に空気を詰めた皮袋を破裂させたような音が辺りに響き、その衝撃でまた手榴弾が木の塊から床に落ちる。
龍の頭が篭手に戻るよりも早く、俺はそれに駆け寄って壁際に蹴り飛ばした。

「坊ちゃま!」
「あの野郎!下らねぇ細工しやがって…」
俺達がいた部屋に来るのに、『ジャスティス』もここを通っているはずなのだ。おそらく、自分が目的を果たせなかったときの保険とでも思ったのか。
だが、そうだとすればこれだけで終わる筈は…



(485)
蹴り飛ばした手榴弾が壁際で爆発する。辺りには燃えるものは何もない筈だった。
しかし爆発と共に炎が上がり、その炎は見る見るうちに部屋全体はおろか天井にまで燃え広がった。
油にしても燃え広がり方が尋常じゃない。

その炎の広がりに強烈な寒気を感じて背後を確認する。
幸い、荷物の周りには炎は来ていない。だがそれも、今は、というだけの話だ。
にしても、念を入れすぎだろう…!

「かくなる上はお嬢様だけでも…!」
「意味がねぇ!それじゃどの道ダメだ!」
理屈で言えば、この周囲はおろかグスタベルグ一帯、下手をすればクォン大陸の半分が燃やし尽くされるかも知れないのだから、
ここからどう逃げても今更逃れられる訳が無い。

ふと、先ほどの手榴弾を飲み込んだ龍の頭が意識をよぎった。
右手に目を落として、半ば祈るような気持ちで龍の頭を軽く叩いてみる。
返事とも付かない振動が返って来た。起きてはいるらしい。なら、十分だ。




(486)
「爺さん、その木の塊、もう一重巻いて置け!」
「はっ?」
要領を得ない様子の爺さんの返事を捨て置いて、俺は荷物を正面に右手を大きく構えた。
「巻いて置け!あと、爺さんも伏せてろよ!」
「は… はっ!かしこまりまして!」

頭上で再度爆発音が響き、天井から爆風と共に火の粉が舞い落ちてきた。
「くっそ…!」
天井では屋根が軋む音が、背後では木の肌が激しく擦れる音がした。
あれを補強するよりも天井を支えさせた方が良いかもしれないと思ったが、もう後の祭りだ。
「坊ちゃま!よろしいですぞ!」
爺さんの声に合わせるように天井の梁が真っ二つに折れて俺の真横に落ちてきた。
屋根ごと落ちてきたらもう引火は避けられない。その前に ───────

俺は荷物に向けて、右手を目一杯前に伸ばした。
火の粉が頬を焦がすのが分かるが、たとえさっきの梁が頭上に落ちてきたとしても今は倒れられない。
「─────  丸呑みしやがれ!」
大声でそう命じると、わが意を得たりと言わんばかりの勢いで龍の頭が鋭く中空を走り始めた。



(487)
俺の大声に反応するように、燃えた屋根の一部が荷物に向かって落下してきた。
僅かに、龍の頭が荷物を顎に収める方が早かった。
だが顎に収めた後に飲み込むためか龍の頭が上を向き、丁度火のついた屋根の木片を受け止める形になってしまった。
舌打ちをしつつも、俺にはその様子を見守る事しか出来ない。

数秒ほどで木片ごと、荷物はすっぽりと龍の頭に飲み込まれた。
何事もなかったかのように龍の頭がするすると右手に戻ってくる。
あまりの変わりのなさに少々呆気に取られながら、俺はようやく安堵のため息をついた。

「上手く… いったのでございましょうか…?」
恐る恐ると言った様子で、爺さんが声をかけてきた。
「そう思いたいなぁ… あぁ、アレ、巻かせたところ悪いが、もういっぺん…  ん?」
そこまで言った所で、急に左右の篭手が同時に振動を始めた。
「…? 如何なされました?」
「いや、篭手が…」
振動は徐々に大きくなり、やがて篭手を通して全身に焼けるような激痛が走る。
「ぁ、ぁぁあああああああああ!!」
次の瞬間には両膝が崩れ、俺は痛みに耐え切れずに喚き声を上げながら床を転げまわっていた。



(488)
「──坊ちゃ──!──ちゃま!───!」
爺さんが声をかけているのが、辛うじて聞き取れる。
どうしたのか、と聞きたいのだろうが、それを聞きたいのは俺の方だ。

肌ではなく、まるで骨から炎が上がっているような熱さと、それに肉が焼かれるような激痛。
頭を掻き毟りながら、俺は床を転がり続ける。
喚き声を上げているはずなのに、それが自分の頭の中で響いてかき消されていく。
やがてそれが周囲の音が聞こえなくなっているのだと理解したときには、辺りの様子すら見る事が出来なくなっていた。

腹の中が沸騰するように熱く、頭も熱で焼け焦げたように、それでいてなお痛みは増大し続けた。
気が遠退くのが分かるが、それも気を失う直前になると何かの力で引き戻されるように我に返り、また痛みを感じ続ける。

5回ほどそれを繰り返した後に、意識を引き戻しているのが篭手であると直感的に思った。
もがきながら脚で篭手を挟み、篭手を外そうとするが叶わない。
そこでまた意識を失いかけるが、やはり再度意識が鮮明になる。

殺すなら殺せ。
そう思っても、もう声も出なかった。



(489)
もうどちらが地面か分からないほど転がり続けた頃、意識を引き戻される度に何か声が聞こえる事に気が付いた。

     ────くを──り──い!

酷く甲高い子供のような声だ。
痛みはもう堪えるなどと言うものではなく、ただそれを感じているだけになってきた。
それに耐え切れず、また床をのた打ち回る。

     宝玉───な──!

宝玉?もしかして、ハリスのおっさんに作らせたアレか…?

     ──────わりなさ─!

割る?アレを割ってなんの解決になるって…

     いいから早く割りなさい!!

どこかで聞いたような逆らえない雰囲気の声に押されて、床を転げながら俺は鞄をまさぐり始めた。




(490)
鞄に手を入れたものの、掌には何の感覚も残らない。
探すと言うよりも中身を掻き出して、ひたすら球体のものを探し続けた。
「ほ…  ぎょ…く…    た、ま…  ぁぁぁああああ」
恐らく近くにいるであろう爺さんに声をかけるために、言葉を発してみる。
だがそれが実際に言葉になったかどうかを知る術は、俺には残されていなかった。

やがて、掌が誰かに握らされるような感触があり、俺はそれを力任せに床に掌ごと叩きつけた。


痛みの感覚が抜けるようになくなり、辺りが真っ暗になる。水中から一気に水面に浮き上がったような感覚だ。

「…っつ、  おぉい、大丈夫か…?」
誰かが俺に声をかけてくる。
「大丈夫じゃねぇよ…  死ぬかと思った…」

目を向けると、そこには大柄で黒髪のエルヴァーンが暗闇に仰向けに倒れていた。
手には随分と目に付く赤い篭手。黒い髪は切った後に伸ばし放題といった様子で、俺に似ている。
…っていうか、これ、俺…?



(491)
「へぇ… お前が俺にねぇ…」
目の前の男 ── ルーファスが、倒れながら顔だけをこちらに向けてそう呟く。
宝玉を割ったから、こうなったという事か…?
俺も前のめりに突っ伏したまま、視線を合わせる。明かりも無いのに、何故かしっかりと姿を捉えることが出来る。
しかし、なんと言えば良いのか… なにしろ、さっきまでは俺だった身体だ。
「あー、なんつーか…」

「はい!無駄口叩くな!」
急に、さっきからずっと俺の意識を呼び戻し続けた声が響く。
声がした方に顔を向けると、腰にスカーフを巻いた東洋風の衣装を着た少女が仁王立ちしていた。
エルリッドよりもさらに幼い、金髪を後ろでまとめた、いかにも活発そうなエルヴァーンの少女が、こちらを見下ろしている。

「さっさと起き上がりなさい!」
そう言われ、もぞもぞと起き上がる。ルーファスも不承不承と言った様子で、その場に胡坐をかいて座った。
「いい?今から私が言う事を良く聞いてね?」
有無を言わさぬ言葉の調子に、俺とルーファスはただ首をコクンと下げるだけだった。



(492)
「先ずアンタ!」
少女が俺を指差す。
「時間が無いから単刀直入に言うわ。アンタ、帰れるかもよ」
「 …? 単刀直入過ぎだろ…」
「いいから! 説明は後でするわ!」
そう言うと、今度はルーファスに向き直る。

「で、そっち!」
しっかりとルーファスを指差して胸を張りながら、大きな声で言う。
「説明が終わったら、アンタだけ身体に戻すわ。おめでとう、元に戻れるわ」
「 …? ぉ、おう…」
全く合点がいかない様子で、さっきの俺同様に首を捻りながらも返事をする。

「先ずね、さっきのアレ、ぷらと…にっく?」
「…プルトニウムの事か?」
俺が口を挟むと、それが気に入らなかったのか凄まじい勢いでまくし立て始めた。
「そう!もー何なのよアレ!!あんなものどうしろって言うのよ!ふざけんじゃないわよ!アンタ達!!」
「「は、はぁ…」」



(493)
「いくらプライマルアーツでも、あんなの受容できる訳ないでしょう!? このままじゃ、中から爆発が漏れてあの大陸全部黒焦げよ!!
アンタ達、プライマルアーツを何だと思ってるの!?ゴミ箱?あーもう!信じられない!! …ちょっと!何偉そうに胡坐なんかかいてるのよ!正座よ正座!!」
勢いに負けて、すぐ正座に座る。ルーファスも同様だったようで、訳が分からない顔をしながらも正座になった。

「いい!?プライマルアーツってのはこの世界と他の世界の境界線を守るためのものなの!必要とあれば禍神だって食べるけど、あんなのは想定外よ!
非常事態だからアンタ達に力を貸してあげたけど、まさかあんな無茶するなんて!! もーーーー!!」
そこまで言うと、少女はストンとその場に胡坐をかいて座った。
「馬っ鹿じゃないの!?アンタ達!!」
「「はぁ…」」
とても言い返せる雰囲気ではなく、俺達はただ呆然とその説教を聴くしかなかった。

「…でもまぁ、仕方ないわ。済んだ事だもの。だから、これからの話をしましょう」
明らかに釈然としない表情をしているが、そう言って話を続ける。
「いい?先ずプライマルアーツが飲み込んでしまったあの膨大な熱量をどっかに吐き出さなきゃいけないの。でも、この世界じゃダメ。
マナと原子の反発のせいで、どこで吐き出しても甚大な被害が出るわ。そうね… 出来ればあれが元々あった場所が一番良いの」



(494)
「そこでアンタよ!」
俺に向かって勢い良く指をさす。
「アンタが自分の世界にこの熱量を誘導して、爆発しても支障の無い場所で熱量を開放するの。上手くやれば、アンタも帰れて一石二鳥よ」
「…いや、そもそもどうやって元の世界に行くんだよ…?」
「今から説明するから黙ってなさい!!」
怒られた… いやだって、最初からそんな方法があれば、俺とっくに帰ってるってのに…

少女はルーファスに向き直ると、もうそれが当たり前のように彼を指さす。
「で、アンタはその出口を作るのに協力してもらうわ」
「それは構わないが…」
どうしろと? と言いたげな表情だ。

「先ずはこの原子の熱量とマナの熱量を衝突させて、空間の裂け目を作るの。裂け目は前にオルデールで見たでしょう?」
あー、と俺とルーファスが同時に声を上げる。
しかし、裂け目があったという話を聞いただけで、実際に見た訳ではないはずだが…
「でも、その裂け目があると、また禍神とかいうバケモンが出てくるんじゃないのか?」
「大丈夫、その後に禍神なんか一瞬で蒸発するような熱量が通過するんだもの。覗きに顔でも出したところで、首から上が消えてなくなるだけよ」



(495)
オルデールの一件は、俺よりも先んじてこちらに来ていた来訪者が、時空魔法というのを用いて元の世界に帰った時の裂け目から禍神が出てきたのが原因らしい。
時空魔法の原理は、魔法で原子に似た熱量を生成して、やはりマナと反応させるのが常道だという。
言ってみれば、その魔法自体がマナ以外の熱量を含むため、本来ならば『この世ならざる物』と、少女は言った。
また、現在は原子に似た熱量を生成する技術が失われているため、それは事実上不可能であったのだそうだ。
だが、幸か不幸か原子に似た熱量を生成する魔力をもったアイテムが現存していた。
それを、『この世ならざる物』で蓋をしていた魔法陣で使用し、蓋ごと帰ってしまったのが事の起こりだったのだという。

「けどね、実際に原子で生成された膨大な熱量が手元にあるんだから、魔法なんか使わなくても裂け目は作れるわ」
「…閉じるときは?」
ルーファスが不機嫌そうに口を開く。おそらく、禍神との戦闘の事を思い出してるんだろう。
「裂け目を安定させる魔方陣がある訳じゃないから、それも心配ないわ。でも、裂け目が開くのはほんの一瞬。
その瞬間に全ての熱量が通過できるように、もう少しプライマルアーツにも、そしてアンタにも頑張ってもらうわ」
コクンと、ルーファスは静かに頷いた。

「で、俺は何をすりゃ良いんだ?」
俺がそう言うと、少女は少し困った顔をした。
「アンタはねぇ… 少し難しいのよね」




(496)
「アンタは熱量と一緒に裂け目から飛び出して欲しいの。アンタという思念が一緒なら、必ず元の世界に辿り着くわ。
その後、アンタの世界で一番深い海の底で熱量を開放するの」
「… いや、目的は具体的に良く分かったんだけど、方法が良く分からねぇ」
「そうよねぇ…」
即座に少女は同意する。

「まぁ、思念体のまま熱量を深海まで運んでくれればいいのよ。先ずはその事を強く念じて頂戴。
間違っても、最初に『元に戻りたい』なんて思っちゃダメ。熱量ごと戻ったら、アンタの身体を中心に大爆発よ」
無茶苦茶言ってやがる…
「とにかく、今しかないの。無茶苦茶言ってるのは分かってるけど、この世界も、アンタ達も、全部救う方法はこれだけなのよ」
そう言われると、先が見えなくてもやるしかない。

「けどちょっと待てよ。原子の熱量はいいとしてマナの方はどうするんだ?」
俺が悔し紛れに言うと、ルーファスが呆れたように答えた。
「あるだろ。俺達にも飛び道具が」
「そう、でも普通のじゃダメ。形状として安定した気孔弾の球体のど真ん中に原子の熱量を撃ち込むの。これが失敗すると大惨事だから、集中してやって」
「まぁ、やるしかねぇわな」
ルーファスはそう言って、胸の前で拳を合わせて気合を入れた。




(497)
「さ、説明は以上。質問はある?」
少女は立ち上がって腰に手を当てながら言った。
「大有りだな」
「あぁ、これは聞いておかなきゃ話にならんだろ」
俺とルーファスも立ち上がりながら、目を合わせる。

「「お前は誰なんだ?」」
「ん〜、難しい質問ね…」
少女は本当に困ったような顔をして見せた。
「私の古い友達がね、他所の世界から来た連中と一緒にいるのよ。その連中、最初は良いかなって思ってたんだけど…
そいつら、いつからか独断専横が多くなってさ。もちろん悪い事ばかりじゃない。連中のおかげで世界が安定してるのは事実。
でもね、何となくだけどそいつらが、いつか取り返しの付かない事になるんじゃないかって思えて仕方が無いのよ」

「答えになってないな」
俺がそう言うと、少女は舌を出して笑って見せた。
「私はプライマルアーツと共に在る者。誰かなんて、私にも分からないわ」
少女はそう言って、腰に巻いていたスカーフを広げて見せた。
そのスカーフの模様は、いつかサンドリアの裏路地で見た覚えがあった。
「さぁ、ルーファス!先ずはアンタよ!」



(498)
自分の体に戻ったルーファスは、先ず身体中に走る激痛と戦う事になった。
勝算があるという思いが幾許かその痛みを軽く感じはさせたが、それでも相変わらず視界はぼやけている。
(しかし、俺が失敗すれば…)
全てが台無しになる。そんな重圧が、身体に走る痛みよりも彼に重くのしかかった。

先ほどは転げ回るほどの激痛だったが、今は何とか立つ事が出来る程度に回復していた。
それが少女のおかげなのか、質量を抱えた『彼』のおかげなのかはわからないが、何れにせよルーファスは彼らの期待に応える義務があるように感じていた。
やがてぼやけていた視界が鮮明になる。
辺りは火の海で、ルーファスの傍らにはマティエールが支えるように立っていた。
「爺さん… そのまま、支えててくれ…」
返事を待たずに、ルーファスは左手に意識を集中し始めた。

通常の気孔弾であれば、放つ瞬間には勢いで球体が歪む。
それを歪ませず、尚且つその中心に右篭手にある龍の口を向けるのだ。
今更ながら安請け合いだった、と思わなくはない。
だがそれ以上に、この一件にケリが付けられるかも知れないというルーファス自身の期待が、彼をより深い集中へと誘った。




(499)
やがて、ルーファスは左の掌に、いつも以上に丁寧に気を練りこんだ気孔弾を作り出していた。
普段は放つ瞬間に一瞬にして練るものを、こうして掌に乗せた事は、未だかつてなかった。
「爺さん!背中を!!」
ルーファスはそう叫ぶと、左手を勢い良く高々と上げた。

期待通りに、マティエールが背後に回ってルーファスの体重を支える。
これで、身体ごと球体に正面を向くことが出来た。
後はタイミングを待つのみだった。

そのタイミングより早く、ルーファスは口を開いた。
「まぁ、色々あったが家には帰れたし妹は助けられたし… 恨みもしてるが感謝もしてる…」
マティエールは恐らく不思議な顔をしているのだろうと、ルーファスは思った。
だが、それはルーファスの『彼』に対する、偽らざる本音だった。

「上手く帰れよ!いけぇぇええ!!」
その掛け声と共に、右篭手に飾られた龍の口から光の柱が一瞬だけ閃いた。
それは正確に気孔弾の中心を捕らえる。
そして光の柱が消えた後、爆風が辺りの炎を巻き込んだのか、天を貫くような火の柱が明け方近くのバストゥークの空に出現した。




(500)
先ずは海の底。
この事だけを深く心に刻んでいたはずだった。
だが目を開けて最初に見えたのは、深い海の底ではなく、見渡す限りの大海原の上空だった。
明かり一つ無い、夜の海。

(良く考えてみたら、深い海にもぐった事がある訳でも無いしな…)
海といわれて想像するのは、結局見渡す限りの海面だったという事だ。
簡単な話だ。ここから出来るだけ深い場所に潜れば良い。
そう思うと、身体が急激に海面に向かって落下していった。
深い場所…
太平洋、だったかな。そのくらいの知識はある。
イメージした場所に飛んでるのならば、ここは太平洋のはずだ。
そうでなくても、とにかく深く潜る。それだけだ。

やがて海面が身体を通過し、微塵の光も無い漆黒へと加速していく。
底が見えるまで、突き進む。それがどの程度の早さであるか、最早想像すら出来なかった。
不意に、抱えていた光の塊が爆発するのが分かった。
そうか、俺は海底を突き抜けたのか。そう思ったところで、俺の意識は途切れた。
2007年12月30日(日) 22:54:14 Modified by mct_0921




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