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Loufas ◆TTnPTs4wAM 本編(501)−(525)

=====================================================================================================


(501)
『……本日…時に太平洋沖で発生した爆発は………海底火山の噴火である可能性が……』
目覚まし代わりのテレビが、既にワイドショーの音声を大音量で垂れ流していた。
『これは東海沖地震の前触れと………』
舌打ちをしながら、テレビを消す。
いつもの、俺の部屋だった。

「────  …… やっべ!!」
慌てて机の上にあった携帯電話を確認する。
着信は5件。先輩に、クライアントに、部長…
その中から誰に連絡するかを迷った挙句、最初に電話をかけたのは部長だった。

『お電話ありがとうございます。株式会社○○○○でございます』
受付の、同期の女の子が電話を取った。
「あー、○○です。××部長って外出?」
『ちょっと待ってねー』
眠い頭には、電話の保留音が妙に心地良い。もう一度寝そうな勢いだ。

『お待たせ、ミーティングから今戻ったって。回すね』
お願い、と言いつつ、どう言い訳をしたものかと頭を巡らせ始めた。




(502)
怒ってるかと思いきや、部長の対応は非常に冷静だった。
『つかお前、この前のプロジェクト開けたばっかりだろ? 有給貯まってんの使えよ』
非常に優しい上司だ。常にこうなら言う事は無いが、機嫌が悪かったらきっと怒鳴り散らしていた事だろう。
「じゃぁすいません。3日程お休みいただきます。メールで連絡は付くので、何かあったら連絡ください」
『おう、総務に回すからそう言え』
そしてまた保留音。もう少しの我慢だと言い聞かせる。

『はい、○○君、おはよう』
時計を見ると、既に11時近い。少し申し訳ない気がした。
「おはようございます。今日から3日有給いただきますので、よろしくお願いします」
『おっけー あと、▲▲さんから連絡あったけどどうしよう?』
「…えっと、後で連絡しておきます」
『はい、それじゃゆっくり休んでね』
「はい、ありがとうございます。では────」

携帯を切った途端に、急激に眠気が襲ってきた。
今寝たら後で連絡、しないだろうなぁ…
そう思い、とりあえずメールの確認だけはしようとパソコンを立ち上げた。
デスクトップには、いつも見慣れたショートカットが一つだけ無くなっていた。



(503)
昨日はログインして…  30分で落ちたな。流石にアンインストールはしてない。
まぁしかし、別になくなった所で困るわけでもない。
どうせこの1年特にやることもなく続けてただけだし、良い機会かもしれない。
それに構わず、手早くメールチェックと返信をして、先輩にクライアントの対応をお願いするメールも送る。
それだけ済ますと、眠気に従ってベッドに倒れ込んだ。

丁度横になったベッドの枕元から、テレビの棚にあるパッケージが見えた。
また、やりたくなったらインストールでもすれば良い。
それよりも、今は ──────────────

「一先ず、寝よう… その後の事は、その後に…」


=====================================================================================================










(504)
「今のは…」
マティエールが、驚愕した表情でルーファスの表情を覗き込んだ。
ルーファスはそれに応えずに、背を預けていた姿勢から勢いをつけて立ち上がる。
激痛は既に消えていた。

「まだ終わってない」
ルーファスはそう言うと、傍らにあった木の塊を見遣った。
先ほどの炎の柱は見事に空洞部分ぎりぎりまで木を燃やしていた。
軽く小突くようにして黒く焼けた木を崩すと、中には力を失ったエルリッドがいた。
穴を広げて、鼻の辺りに手をかざしてみる。呼吸はしている。ならば先ず問題はない。

「無事だな。  …爺さん、頼みがある」
「は、なんなりと」
「シュムサザの死体を、ここまで引っ張ってきてくれ。一応弔ってやろう」
「かしこまりまして」
そう言うとマティエールは、最早僅かな外壁が残るのみとなった倉庫の奥へと姿を消した。
その間にルーファスは、木の塊の中からエルリッドを抱え出し、それに寄りかからせた。
起きたら何と言ったものか、そんな事を考えながら。



(505)
マティエールがシュムサザの遺体を運んできた頃には、遠くから人の声が聞こえていた。
「まずいな… 爺さん、ヒロたちと連絡は付くか?」
「近くまでおいでの事とは存じますが…」
「ちょっと、近くを見てきてくれ。その間に…」
そう言うと、ルーファスはその場にどっかりと腰を下ろした。
「少し休ませてくれ… これから人一人担ぐには、少し心許ないんだ」
「は、では…」
老人は短く返事を残し、その場を後にした。

疲れているのは爺さんも同じだろう、とは思う。
今欲しいのは、休憩ではなくてエルリッドに最初にかける言葉を考える時間だ。
シュムサザが言った事が正しければ、エルリッドは相変わらずルーファスを兄の仇だと思い込んでいる。
そんな彼女に、何と言えば良いのか。ルーファスは今一度それを考えた。

やがて、人がやってくる気配がした。足音は2人。ヒロたちなら3人の筈だ。
シュムサザを弔うのは、少し時間がかかるかもしれない。
そう思いながらエルリッドを抱き起こして背負おうとしたとき、ルーファスの右後背に深々と騎士剣が突き刺さっていた。




(506)
力が徐々に抜ける感覚を、ルーファスは不思議な気持ちで感じていた。
もしかすると、これで全てが上手く行くかも知れない。
ここで『ルーファス』を『ファーロス』の仇として討ったエルリッドがサンドリアに戻り、そこでまた平穏な生活を迎えるのならば、
それもまた一つの決着なのかも知れない ───

倒れる寸前に、後ろを振り向く事が出来た。
憎悪とも失意とも取れる、なんとも複雑な表情をしたエルリッドがそこにいた。
仇を討ったという喜びは、そこには感じ取れない。

(それでも上手く行く… どうにか、なるさ…)
そう思いながら、ルーファスはその場に倒れ伏し、そのまま意識を失った。





(507)
バストゥーク共和国を象徴するものと言えば、誰もが歯車を挙げる。

歯車とは即ち技術力の象徴。

内外問わず、バストゥーク共和国が有する技術力は常に人々の関心を惹かずにはいない。
市民はそれを誇りとし、他国の者はそれを脅威とした。
その技術力の根源たる大工房からは、昼夜問わず歯車が軋みながら回る音が絶えない。

それまで寝返りの一つも打たずに昏々と眠り続けていたルーファスが歯車の音に目を覚ましたのは、夜半も過ぎた頃だった。
(ここは……)
窓から柔らかい月の光が注がれている。眼前の天井を眺めて、彼は先ず大きく深呼吸をした。

彼の最後の記憶は、自分の背を貫いた妹の顔。
手を伸ばして頭を撫でようとしたような気がする。大丈夫だ、どうにかなる。そう告げてやりたかった。
それが叶わずそのまま倒れ伏した筈だった。

掌を握ってみたり足を僅かに動かしてみたりして、ルーファスは自分の体の具合を確かめ始めた。
後背に痛みはなく、他の部位も問題ない。
変わっていたのは、彼の両手に装着されていた篭手が彼の枕元に並べて置かれていた事だけだった。




(508)
上半身をベッドから起こし、あたりを見回す。
窓から注ぐ月明かりに照らされているのは、綺麗に片付いた小部屋だった。
家具らしい家具はそれ程多くなく、人が住むには不便をするが寝泊りをするには十分と言ったところか。

ベッドから少し離れた椅子に人影があった。窓の明かりが僅かに届かず、誰であるかはわからない。
ルーファスはそれを、シルエットからラディールであろうと判断した。
穏やかな寝息と共に、僅かに肩を上下させている。

ふと、無性に外の空気が吸いたくなった。
ルーファスは、出来るだけ音を立てないようにしてベッドから立ち上がり、隙間から光のさすドアの方へと向かった。
窓を開ければ済む話であったが、バストゥークの夜はかなり冷え込む。風邪でもひかせてしまっては申し訳ない。
ドアを開けると、廊下に吊るされたランプからの明かりが部屋を照らし出す。

僅かに開いたドアの隙間からするりと身体を滑らせるように外にでる。
ドアを閉めようと振り返ったときに、椅子に座った人物の顔を見たルーファスは僅かに身体を強張らせた。
それはラディールではなく、エルリッドだった。



(509)
少し考えてから、ルーファスは静かにドアを閉じた。
(まだ、なんて声をかけるか決めてなかったなぁ……)
無事であったのは幸い。だが、10年の歳月を埋める為の第一声を、ルーファスには未だ思いつかずにいた。

ランプに照らされた廊下は、片方は行き止まりでもう片方にドアが見える。
ルーファスには見覚えのない場所だった。
(大工房が近いのは間違いないが……)
そう考えながら、彼はドアの見える方向に歩を進めた。
外に出てみると、月と共に街灯が煌々と町並みを照らし出していた。
眼下には既に人通りの無い橋、そして視界の奥には噴水が光に照らされて幻想的な景観を造り出している。
それを見ながら、ルーファスは一つ大きな深呼吸をした。

(さて、どうしたものかな)
散歩でも、という気分であったが、衛兵がちらほらと見受けられた。
現状がどうであるかは知るところではないが、少なくとも大手を振って外を歩ける状況ではないはずだった。
空には大きな月が、夜の闇を忘れさせるほどに白く輝いている。
それを確かめた後、ルーファスはおもむろにドアの方に向き直った。




(510)
振り返って、ルーファスはドアの前で大きく跳躍をした。
屋根の縁に手をかけて、そのままあっという間にするすると登りきる。

そして登りきったところでどっかりと腰を下ろし、腕を組んで考えを巡らせ始めた。
エルリッドにかける言葉、そしてこれからの事を、未だ寝ぼけた思考のままでとりとめも無いままゆっくりと考える。





音も無く背後に気配が現れたのは、それから間もなくの事だった。
ルーファスは、それに気付かない振りをした。
気配はそのまま背後に控えるように、何かを待っているように思えた。

しばらくそれには構わず、相変わらずゆるりと思考を纏めていたルーファスに、気配の主が焦れたように声をかけてくる。
「シュヴィヤール卿とお見受けしました」
それは、やや低めの女の声だった。



(511)
「今はルーファスだ」
ルーファスは相変わらず視点を定めずに中空を眺めたまま、背後の声に対して応えた。
「いえ、シュヴィヤール卿。貴方は目が覚め次第、王立騎士団の騎士として叙任される事になっています」
「……王立騎士団?」
いかにも意外といった表情で、ルーファスは座ったままくるりと回った。

長髪の黒髪を風に揺らした、エルヴァーンの女がそこにいた。
「守りの要たる神殿騎士団には、貴方の居場所は無いのではないかと」
腰に剣を佩いてはいるが騎士という印象は無く、むしろ魔道士のそれに近い。
「ははっ、参ったな。少しくらいゆっくりさせてくれると踏んでたんだがなぁ」
笑って見せながら、ルーファスは女の着衣が赤い事に気が付いた。

「それとは話が別になりますが、貴方にお話したい事が」
「長くなるのかい?」
ルーファスの言葉に、女は僅かに表情を強張らせた。女はルーファスの言葉を拒否に近い物と受け取ったようだ。
「もしそうなら、まぁその辺に座ってくれ。あんたが立ったままだと、首が疲れる」
首をコキコキと鳴らしながら、ルーファスは悪戯っぽい笑みに添えてそう言った。




(512)
促されるままに女は膝を付いた。ルーファスはそれを見てやや笑ってから、更に言葉を続ける。
「しかしまぁ、そうするとエルリッドの処分はかなり曖昧だな。その流れだとまともな処罰すら無さそうだ」
随分と都合の良い話だが、と付け足して彼は思ったままの事を言ってみた。
「彼女が従騎士になる代わりに、貴方がシュヴィヤール家の統領になるという事です。宰相と領事に感謝されるのがよろしいでしょう」
なるほど、とルーファスは心の中で手を打って納得した。
騎士団からの脱走は重罪であり、本来極刑であって然るべきと言える。
それを降格と共に別の物によって騎士として家名の存続を許すと言うのは破格の処置であると言っていい。

「そりゃぁ、受けない訳にはいかんだろうな…」
宰相も領事も何かしらの意図があって重罰を与えていないのは明白だった。
だがその部分を差し引いたとしても、それより他に縋る物がないというのが現実である。

「こちらの用件に移っても?」
女が、いかにも焦れたようにそう言う。それに、ルーファスは僅かに頷いた。
「では…… こちらの者に見覚えはありますか」
女は背後から大きめの包みを取り出し、開いて見せた。





(513)
包みの中身は、人間の頭部だった。
特徴からヒュームの首であることが分かる。金髪の男性であるようだ。
「……見覚え、か。あると言えばあるな、詳しくは知らないが」
ルーファスは、自身でも意外なほど落ち着いていた。それが誰の首であるかは忘れられるものでもない。

「そんな物を態々見せに来たのか?」
女はその言葉を聞いて、さも意外そうな顔をした。
「気にはなりませんでしたか?」
「全く。仮に生きてたとしても、俺に付きまとう理由はもう無い筈だ」
「そうですか。ですが、『これ』は世界に対して大いなる罪を犯しました」
知った事ではない、とでも言う代わりにルーファスは大きな欠伸をして見せた。

「まぁ、勝手にしてくれ。あんたの手柄だろう」
そう言って、ルーファスは再びくるりと向きを変えた。
「あぁ、叙任とエルリッドの件に関しては、知らせてくれてありがとうよ」
ひらひらと背後に向かって手を振りながら、そう言う。
女はその場で膝を付いたままやや何かを躊躇していたが、やがて右手が腰に佩いた剣に向かいはじめていた。



(514)
女が面白くないと思ったのは、ルーファスの『ジャスティス』に対するこだわりの無さであった。
『ジャスティス』が何をしようとしたか知らぬ訳ではない彼が、このような無関心であるはずがないと、彼女は固く信じていた。
彼に首を見せに来たのは、恐らく憂慮しているであろうと思っていたこの男のなれの果てを見せるためである。

ルーファスの無関心さは、女の予想を裏切るばかりか自尊心をも傷つけたという事になる。
手が剣に向かったのはある種の勢いであったに過ぎないが、柄に女の手がかかる瞬間にルーファスが振り返らずに口を開いた。
「やめとけ、おっかない連中が起きるぞ」
そう言われて、女は一瞬身を震わせた。

「息が荒い、気配も出し過ぎ……  あんた、どうやってそいつを倒したか知らんが慢心しない方が良いな」
女の手がゆっくりと柄から離れる。
「……失礼致しました」
立ち上がってルーファスの背中を見つめながら、女はそう言った。

「私は貴方が正義に則って今回の事をしたのだと思っていました」
「身内のゴタゴタに周りを巻き込むのは正義か? 巻き込んだ挙句結局騙すのが正義か? 俺は違うと思うね」
相変わらず飄々とした風に、ルーファスは背後に向けてそう言った。




(515)
「……少し、失望しました」
「そうか、あまり俺に多くを望むなよ。大したものは出てきやしない。それよりも……」
そう言って、ルーファスは真っ直ぐと前を指差した。
女がその指先を追うと、赤魔道士の格好をした男がこちらをじっと見ていた。
先ほどからルーファスが女に背中を向けていたのは、この男の視線を感じていたせいだった。

男はルーファスがこちらを指差した事に気が付くと、そそくさと橋を渡りきって鉱山区の方へ向かって行く。
それを見送ってから、ルーファスは再び女の方に向き直る。
「結果的に正しい事が正義だとも限らんし、正しさなんてのは人によって様々だ。人が思う正義なんてのは、実際には何処にもない」
その言葉に女は思わず臍を噛んだ。

「……用は済みました。これで失礼致します」
女は踵を返して、屋根の縁まで進む。眼下に見える海面を確認してから、女は一度ルーファスを振り返った。
「貴方は残酷ですね。私達は正義だけがよりしろだと言うのに」
「そんな事言ってるからそんな奴が出るんだろう  ……その首、置いていく気か?」
女はその言葉に答える代わりに、一瞬にして魔法の詠唱を行なった。
次の瞬間には炎が上がり、首は骨すら残さず煤となっていた。
「それでは、ごきげんよう」
その言葉を言い終えると、女は背中から海面へと落下を始めた。だが、海面に着水する音をルーファスが聞く事は無かった。



(516)
空が白む頃まで、ルーファスは屋根の上で考え事を続けていた。
辺りが青白く照らされ、職人たちはもう目を覚ます頃であった。
(惚れた女のことでも、流石に一晩考えたことは無かったな……)
決まりが悪いと思う反面、嬉しさもある。

やがて辺りから声が聞こえるようになった頃、ルーファスは足元の方からガタガタを音がすることに気が付いた。
しばらく音が鳴った後、勢い良く窓が開かれたような音がした。
ルーファスは立ち上がって、窓がある側の縁へと向かう。丁度、昨夜女が姿を消した辺りだった。

ルーファスが首を伸ばして下を覗いてみると、丁度窓から首を出して辺りを見回していた視線と目が合った。
視線の主は、ルーファスの顔をまじまじと見つめたまま口をパクパクさせていた。
それに対して、ルーファスも何と声をかけたものかと渋い顔をする。

「あー、……おはよう、エルリッド」
「……おはようございます、ルーファスさん」

これが、10年ぶりに兄妹として再会した2人の最初の会話だった。



(517)
「納得できません」
「君が納得する必要は無いという事だ」
エルリッドの憮然とした顔を見て、パレーデ領事が半ば笑ったような声でそう返した。

「この人はファーロス兄様じゃないんです!元のルーファスという名前の人は確かにファーロス兄様だったかもしれませんけど……」
「君はそう言うが、現にこの男は自分がファーロスであるという事を認めているし、宰相殿も直に確認されたとの旨をこちらに伝えてきている。第一、マティエール老がそのような間違いを犯すとも思えんがね」
相手をするつもりがないように見せかけて、パレーデ領事はこの状況を実に楽しんでいる。
実に10年ぶりに、幼い頃から知る兄と妹が再会して、お互いにその誤解を解こうというのだ。
本当ならこんな言い方をせずに、二人ともに抱きかかえて再会を喜びたい、とすら思っているのだが……

「でもっ…… マティエール! あなたがわからない筈はないでしょう!?」
矛先を向けられたマティエールは、口にしていた紅茶のカップを皿に戻しながら笑顔を作る。
「お嬢様、この方はファーロス様に相違ございません」
「……もうっ!」
フンっと、エルリッドが力いっぱいにマティエールから首をそむける。

(この調子では、な……)
憤るエルリッドとルーファスを交互に見つつ、パレーデ領事は深いため息をついた。




(518)
ルーファス一同がパレーデ領事の訪問を受けたのは、朝食を済ませた後すぐの事だった。
食事の最中からエルリッドはルーファスへチラチラと視線を送っていたが、ルーファスはそれを全く意に介せず、猛烈な勢いでテーブルの上に出された物を平らげていた。
(果たしてどうなる事か……)
マティエールは普段と変わらぬ顔を見せながらも、内心では主とその妹の間にまた諍いがあるのではないかと気が気でない。
そう言った空気の中でパレーデ領事が、王国騎士団騎士叙任の件を伝えに来たのだ。

「とにかく! 私は納得できませんっ!」
エルリッドはその一点張りだ。
マティエール含め、その場に居る皆が困惑する中で、ルーファスだけはお茶請けに出されたケーキを貪り食っている。
その様子がまたエルリッドには気に入らないようで、時折ルーファスを睨みつけている。
もっとも、ルーファスは気付いているのかそうでないのか、ただ食事を続けるのみだった。

「お、フルキフェル。それ食わないなら貰って良いか?」
「え…… えぇ、どうぞ……」
フルキフェルが皿ごとそれを差し出すと、ルーファスはひょいと手づかみで皿の上のケーキを取り、そのまま口に押し込む。
「……私のも食べて良いわよ」
そう言ってラディールが差し出したケーキも、やはり同じように口に放り込んだ。
気まずい空気の中、ルーファスの咀嚼音と忙しげに給仕をするマルトの足音だけは規則的に鳴り続いていた。



(519)
「あなたはどうなんですか!?」
口に頬張れるだけ頬張ったケーキをお茶で流し込むルーファスに、エルリッドが怒声を上げた。
ポカンとした表情でエルリッドを見た後に、ルーファスは右の掌を前に向けて、少し待つように合図をした。
その体勢のまま顎を忙しげに動かし、左手で紅茶を口に流し込む。

「マルト、それはもういい。ありがとう」
ふぅ、と一息ついたルーファスが、新しいケーキを切り分けようとしていたマルトに声をかける。
「それで、俺がどうってのは具体的にどういうことだ?」
「どうって…… あなたの事で話してるんです!それなのにさっきからムシャムシャと食べてばっかりで!」

「そう言われてもなぁ……」
空腹だったのは確かだが、それ以上に食べ終えた後にエルリッドと何を話したら良いのかわからなかった、というのがルーファスの本音だった。
「まあまあ、ルーファスも3日ぶりの食事だったから、ね?」
ラディールがエルリッドをなだめようとするが、エルリッドはさらに机を叩いて抗議の意を表した。
「あなたは来訪者なんでしょう!? 帰りたい世界があるんじゃないんですか!?」




(520)
その言葉に一瞬身体を震わせたはフルキフェルだった。
それを見て取ったルーファスは、フルキフェルが話そうとしているのを止めるように口を開く。
「あぁ、それはな。もういいんだ、問題ない」
その言葉に一同が意外な表情を見せた。

「問題ないって…… どういうことですか!? あなたに問題が無くても私には問題があるんです!」
「言い方が悪かったな、そもそも問題が無いんだ。俺はルーファスだからな」
何事も無いようにルーファスが言う。

「それに、だ。お前が駄々を捏ねたところで既に辞令は下りてるし、どの道なる様にしかならん」
そう言ってルーファスは領事を見遣る。
「……事実だな。数日後にはエルリッドの事情聴取を兼ねて騎士数名がやってくる。その時に略式の叙任式が行なわれる予定だ」
「納得いきません!!」
エルリッドは悲鳴にも似た声をあげ、床を踏み抜かんばかりに靴音を鳴らしながらドアの方へ歩き出した。

丁度ドアから出ようとしたところで、おい、とルーファスが声をかける。
「判ってるとは思うが、これ以上シュヴィヤールの家名に泥を塗るなよ」
エルリッドはこれに返事もせず、勢い良くドアを閉じた。




(521)
エルリッドの背後で、ドアが派手な音を立てて閉じられた。
(なんであの人にあんな事を言われなきゃならないの……?)
憤りの最たる原因はそこであった。
今のルーファスという人は全く別の世界からやってきた人間であると、エルリッドは信じきっている。
叔父と名乗った男から吹き込まれた事を頭から信じている訳ではないが、少なからず事実も含まれている。
『ルーファスという男が来訪者である』

これはそもそも彼自身がそう言ってドラギーユ城にやってきたのだから、本人もわかっている筈なのだ。
そうであるにも拘らず、シュヴィヤール家の当主に納まろうとしている。
領事をはじめ宰相ですらそれを推し進めるような風だし、マティエールもそれに異を唱える様子が無い。

実際のところ、今となってはエルリッドはルーファスの状況に同情的ですらある。
そして、領事やマティエールの説明によれば、騙されて連れ去られた自分を助けてくれた恩人らしい。
にも拘らず彼女がルーファスに対し反発しているのは、彼がファーロスを名乗っているのが気に入らないからだ。
事情も知らぬ人間が突然身内を名乗り、まるで前から兄であったような口ぶりで自分に語りかけている。不快でない訳が無い。
(自分の名前を名乗って、きちんと私と向き合って話して欲しい……)
エルリッドの本音は、つまりそう言うことであった。




(522)
しばらくドアの前で立ち尽くしていたエルリッドは、急に外へ向かって歩き始めた。
ルーファスが目を覚まさなかった3日の間、彼女自身もこの宿からは出ていない。公務で領事館へ出ていたラディールの代わりにルーファスの世話をしていた。
世話と言っても本人が目を覚まさぬ以上見守るより他にする事もなかったが、そうしている事で少し気が晴れた。
同じ過ちはしないようにと心に決めたからこそ、彼の話を聞きたかった。
だが目を覚ましてみれば、まるでエルリッドを相手にしないような傍若無人ぶりだ。

いつの間にか商業区を出て南グスタベルグにまで出ていた。
(ゲート、通ったよね……? なんで止められなかったんだろう)
そう思いつつ振り返ってみる。ゲートには銃士が立っており、特に変わった様子もない。
首を傾げながらも、然して気にする事もなくエルリッドは南に歩を進めた。

日陰になっている山の岩壁を背にして、エルリッドは腰を下ろした。風もなく、ほんの数十分歩いただけで汗をかく程に日差しが強い。
見上げると雲一つない青空が広がっている。窓で切り取られた空よりも断然青い。
(どうしたらいいのかなぁ……)
空を眺めながら、エルリッドは物思いに耽る。
日も昇りきらない南グスタベルグは、遠くから聞こえる潮騒のみが僅かに響いていた。




(523)
「一応お伺い致しますが…… 考えあって、あのような言い方をされたのでございましょうな?」
「んなもんあるか。頭から何も信じてないんなら、ああ言う他ないだろうよ」
マティエールの問いに、ルーファスはすっぱりとそう言った。
しばし呆れ返ってから、マティエールは大仰に頭を抱える素振りを見せる。

「もっと言い方があるでしょう?エルリッドだって、何が本当の事か分からなくて戸惑ってるのに……」
「全くだ。これではお前はともかく、他の者に申し訳が立たんだろう」
ラディールとパレーデ領事も口々にルーファスを責める言葉を連ねる。
だが、ルーファスはまるで聞く耳を持たないというように不貞腐れた顔で頭を掻いている。

「……この兄にして、あの妹あり、ですね」
ボソッと呟いたフルキフェルを、ルーファスはムッとした表情で睨みつける。
その視線もやがて窓の外に向かい、ルーファスは深いため息と共に呟いた。
「じゃぁどうすりゃいいんだよ……」

「きちんとお話をされれば、良いと思います」
即座にその言葉に反応したのは、壁際に控えていたマルトだった。




(524)
内心で、ルーファスは舌打ちを打った。できるものなら、とっくにそうしてる。
ただし、それはエルリッドが先ずルーファスを兄であると認めた上での話だ。
逆に言うと、そう言った前提が無いと話をする準備がなかったルーファスの見通しが甘かったという事にもなる。
夜半に目覚めて考えていた事が、自分の都合に基づいた意味の無いものであると気が付くと、それもまた腹が立つ。
こうなるとルーファス自身も苛立ちを隠しきれるものではなかった。

「ルーファス様は、まだお嬢様と向き合ってお話をされていません。そのことでお嬢様は傷ついていると思います」
マルトは実に淡々と、そう言った。
「どうか、お嬢様ときちんとお話してください、お願いします」
その場でペコリと頭を下げる。

「決まりだな。ファーロス、さっさとエルリッドの所へ行け。これは命令だ」
領事はそう言うと、その場で踵を返した。
「残りは領事館に行くぞ。今日も共和国の連中が手薬煉を引いて待ってるはずだからな」
その言葉で全員が腰を上げようとしたところで、部屋のドアが突然開かれた。




(525)
「失礼、パレーデ領事はこちらか」
ドアを開けたのは、鎧に身を包んだエルヴァーンの男だった。
あぁ、と領事が短く返事をすると、男はサンドリア式の敬礼をしてサンドリア本国からの使者であることを告げた。
「騎士ファーロス・S・シュヴィヤール叙任の任にてお伺いした次第です。領事館はまだ開いておりませんでしたので」
そう言い、懐から蝋で封をされた手紙を領事に手渡した。

「そうか、ご苦労。随分早い到着だな。叙任式であれば領事館で……」
「いえ、先ずはお読みください」
騎士は頑なな口調でそう言った。
その口調に違和感を感じた領事は、その場で封を乱暴に開けて中を確かめた。
中には書状が2枚。内容はファーロス・S・シュヴィヤールの王立騎士団騎士叙任の文面だ。
だが、封筒の裏側に奇妙なふくらみがあった。領事はさらに封筒そのものを破いてふくらみを確認する。
そこにはさらに1枚の書状が封入されていた。

書状を一通り読んだ領事は、押し殺したような笑いを漏らした。
「ふふ…… 我らが宰相殿も中々やるではないか」
言いながら、その書状をルーファスに投げる。
「読んでみろ、面白いことが書いてあるぞ」
2008年05月18日(日) 16:29:45 Modified by mct_0921




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