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Loufas ◆TTnPTs4wAM 本編(526)−(545)




(526)
雲ひとつ無い空から日差しが容赦なく降り注ぐグスタベルグは、昼頃ともなるとじっとしているだけでも汗ばむ。
エルリッドは背中を伝う汗の感覚で、不意に目を覚ました。
(あ…… 寝ちゃった……)
この数日、おそらく1日の半分ほどを睡眠に費やしている。ルーファスと戦った際の疲労が未だ抜けきっていないのだ。
外傷はないものの、万全と言うには程遠い。

(ルーファスさんが、本当に兄さまだったらどうだろう……)
それも悪くはないのかも知れない、とエルリッドは思った。
彼の強さは身に染みているし、少なくとも悪い人間ではないというのは解る気がする。
そうでなければ、マティエールを初めとした彼の仲間達があれほど信頼を寄せる訳もない。
だが実際、ルーファスという男は来訪者であり、エルリッドどころかこの世界とも縁のない人間であるはずだ。
では、そんな男が何故兄などと名乗るのか。そこが、エルリッドがどうしても理解できない点だった。

叔父と名乗った男は、ルーファスの身体がファーロス・S・シュヴィヤールの物であると言っていた。
今となってはそれが本当であるかどうかも疑わしいが、仮にそうだとしたら……
(もしかして、責任を感じてるのかも……?)
身体を乗っ取った事を後悔しているのだとして、彼は本来ファーロス・S・シュヴィヤールが果たすべき事を果たそうとしているのかも知れない。
買い被りすぎだ、とエルリッドも思わなくもなかったが、そうすると彼の行動にある程度筋が通るような気がしていた。




(527)
朝からルーファスが気まずそうにしていたのも、後ろめたい気持ちからであったのかも知れない。
こうして、エルリッドの中で一連の出来事が全て線で結ばれた。
(そっか、そう言うことだったんだぁ……)
いかにも納得をしたと言うように、腕を組んで頷く。

しかしそう言うことなら、とエルリッドには別の考えが浮かんだ。何も彼が兄自身である必要はないのだ。
なんらかの形でシュヴィヤール家に迎えてしまえば良い。
(あの人なら……)
顔を赤らめながら、エルリッドはニンマリと笑顔になる。
(あ、でも身体が本当に兄さまだったら色々と問題があるよね……)

「お嬢ちゃん、何か良いことでもあったのかい?」
不意に声をかけられて、エルリッドはすぐさま立ち上がった。
前方に、3人のヒュームの男達が立っていた。あまり一般人には見えない、柄の悪い顔をしている。
「エルリッド・S・シュヴィヤールだな。うちのお頭が呼んで来いって言っててよぅ」
天晶堂だ、とエルリッドはすぐさま感じ取った。
ここ数日エルリッドが外出を禁じられていたのは、こういった事態を避けるためだと聞かされていたからだ。




(528)
簡素なガンビスンに身を包んでいるエルリッドは、剣を佩いていない。
対して、男たちは槍などのやや長めの獲物を持っている。
エルリッドは舌打ちをして、武器も持たずに出てきてしまった無用心を激しく後悔した。

「お断りします」
内心の不安を振り払うように、エルリッドは毅然とそう言った。
いざとなれば、走ってゲートまで逃げようという算段だ。身軽さに関しては申し分はない。
だが、その思惑は3人が囲むように広がった時点で潰える。
ならばその前に、とエルリッドは駆け出した。

「おっと、何処に行くんだい?」
背にしていた岩山の影から、今度はガルカが現れた。
反対側を振り返ると、同じようにエルヴァーンの男が立っている。
逃げようとする事などは、男たちの予想の範囲内であった、という事だった。
エルリッドは悔しさのあまり、きつく目を閉じる。
「そうそう、最初からそうやって大人しく……  っん? ……へぶっ!」
再びエルリッドが目を開けると、そこにはガルカの代わりにチョコボに乗ったエルヴァーンがいた。





(529)
「おう、てめぇら!うちの妹に何してくれてんだ!?」
そう言うや否や、チョコボに乗ったエルヴァーンはそのまま3人のヒュムが立っている方向に駆け出す。
武器を構える暇もなく、チョコボの蹄と騎上からの蹴りであっさりと3人が地に伏した。

反対側の岩陰にいたエルヴァーンは逃げようと既に走り出していたが、あっという間にチョコボが追いつく。
襟首を嘴でつかまれて振り回された挙句に、素早くチョコボから降りた男が鳩尾に一撃を加え、そのまま仰向けに倒れた。
「エルリッド!無事か!?」
「ルーファスさん……」
エルリッドはそう言うと、思わずルーファスとは反対側を向いた。

「おい、大丈夫か?」
チョコボと一緒に駆け寄ってくるルーファスが背後から呼び掛ける。
「ちょっと、怖かったです…… でも大丈夫です」
声が上ずっているのを隠そうと、できるだけエルリッドはゆっくりと言った。
「そうか、ならいいんだが……」
ルーファスは駆け寄る速度を緩めて、チョコボを落ち着かせるように撫でていた。




(530)
鼻をすすりながらどうにか落ち着いたエルリッドは、ルーファスの方を振り向いた。
ルーファスはチョコボを撫でながら、何処から取り出したのか草のような物をチョコボに与えていた。
「この人、多分天晶堂の人たちです」
「ほぉ〜」
そう言うと、ルーファスはチョコボの尻を叩いて走るように促し、チョコボはそのまま西の方角へ走って行った。
「で、天晶堂がどうしてお前を?」
「なんだか、連れて来いって言われたとかなんとか……」
「ふぅん……」

生返事をしたルーファスは、倒れ伏した男たちを一人一人見て回った
最初にチョコボが蹴り倒したガルカは、息はしているが目覚めそうには見えない。
3人のヒュムもチョコボの勢いを借りたせいか、すっかり失神してしまっている。
結局、比較的怪我のなかった、最後に倒したエルヴァーンの襟を掴んで頬に一つ平手打ちをした。

唸り声を上げながら目を覚ました男は、ルーファスを見て思わず悲鳴と共に顔を背ける。
背けた先にエルリッドがおり、それに気が付くと彼女に向かって声を上げた。
「え、エルリッドちゃん!僕だよ!ほら、食事とか運んでた……」
「あっ……」




(531)
「で、どうして天晶堂がエルリッドに用があるんだ?」
「そ、それは……」
男が口ごもると、ルーファスはゆっくりと平手打ちの構えを見せる。
「ひ、ひぃ!し、知らないです!とにかくお頭が連れて来いって!」
その言葉を聞くと、ルーファスはそのまま襟を掴んで男を立たせた。
エルリッドは、何をするのかとハラハラしながら見守っていたが、すぐにルーファスが彼女に向かって声をかけた。
「用があるらしい、出向いてやろうか。丁度俺も用があったんだ」
「え……?あ、はい…… あの…… 少しの間ですがお世話になった方なので、あんまりひどい事は……」
エルリッドは返事に付け加えてこういった。

「お前、俺を鬼や悪魔かなんかと勘違いしてないか?」
ルーファスは寂しそうな苦笑いをしながら呟いた。
「あ…… ご、ごめんなさい……」
その返事にさらに苦笑いをして、ルーファスはエルヴァーンの男を先に立たせてゲートへと歩き出す。
「色々と話があるが、まぁそれは後でな」
「……! はいっ!」
元気に返事をし、エルリッドもその後を追って歩き出した。




(532)
「へぇ、そうするとこの人がお兄さんの仇だったんだねぇ」
エルヴァーンの、イニャスと名乗った男が、まるで本人がいないかのように言う。エルリッドはルーファスの方をチラチラ見ながら、気を使って返事に困っていた。
「いえ、なんだか私の思い違いだったみたいなんですけど……」
「いやいや、そうだよね。あんなに必死になって助けに来ただから、やっぱり僕も違うと思うよ」
イニャスは訳知り顔でそう言いつつ、満足げな表情をみせた。

グスタベルグから歩いている間、このイニャスという男はずっとこの調子だった。商業区と港区をつなぐ橋に差し掛かる頃には、まるで随分前から一緒にいたように軽口を叩く。
憎めない奴というのはこういう事なのだろう、とルーファスは内心で呆れていた。

「それに、彼はエルリッドちゃんの事を妹って言ってたじゃないか。彼がお兄さんなんじゃないの?」
「そ、それは……」
恐る恐る、と言った風にエルリッドがルーファスの顔を見る。ルーファスは薄く笑みを浮かべながら、大声で返事をした。
「そうだよ、コイツに手を出したらぶっ殺すからな」
「おぉ怖い…… そんなつもりはないですよ、お兄さん」
お兄さん、と聞いてルーファスは思わずニンマリとした。




(533)
「はい、到着しましたよ。お頭は気難しい人なので、なるべく穏便に……」
イニャスはそう言いながらも非常にアッサリとドアを開けた。
「ただいま戻りました!シュヴィヤールご兄妹をお連れしましたよ〜」
能天気な調子で、中にいる人間全員に聞こえるように声を上げる。
奥で棚に目を向けていたヒュムの男が、それを聞いてこちらに近づいてきた。

「おい、俺は妹を連れて来いって言ったんだぜ?」
「保護者が来たら拙いような用事だったのか?」
ヒュムの男が不機嫌そうにイニャスを問いただそうとするのに、ルーファスが割って入る。
「ちっ…… おぉい!客人だ!茶持ってこい、茶!」
大声でそう言い、ルーファスたちを部屋の正面にあるテーブルに着くよう促した。

椅子に付くと、ヒュムの男はその対面に座る。イニャスは奥に引っ込んだようだ。
「アンタが来て拙いって事じゃないんだが、アンタに接触すると政府の連中がうるさいと思ったんでな」
「うるさくされる様な事をするつもりだったんじゃねぇだろうな、お前がよ」
「カゲトラだ。まぁそう邪険にするな。俺は話を聞きたいだけだ」
苦笑いと共にカゲトラはそう言った。




(534)
奥から、イニャスがお茶を運んでくる。
それぞれの前に置いた後、そのまま壁際に控える形になった。
「えっと、じゃぁいただきます……」
「エルリッド、待て」
エルリッドが何気なく飲もうとするのを、ルーファスが鋭く制する。

「盛っちゃいねぇよ、安心しな」
ルーファスが湯飲みをくるくる回してみたり、臭いをかいで見たりするのを見て、カゲトラが不機嫌な調子で言う。
「本当にそういう用事じゃぁないんだ」
カゲトラはそう言って、自分の前に出された湯飲みをすすった。その様子を見て、エルリッドも口をつける。
ルーファスはそれにはあえて手を付けず、腕を組んでカゲトラの挙動を見ている。

「警戒をするな、と言っても納得できないのはわかるが、あの件はお前の上司との間で既に手打ちになってる」
つまり、パレーデ領事が既に手を回していた、と言う事らしい。
「なら、何故こいつに用があるんだ?」
「先に言ったとおりだ。話を聞きたいんだよ。シュムサザという男についてな」
その名を聞いて、エルリッドとルーファスは同時にカゲトラの顔を覗き込んだ。






(535)
「あの男は客分として受け入れたが、ここにも本店にも、あの男を知る者はいなかった。それなのに、ここでは本店の客分であるという事になっていた。これがどういう事かわかるか?」
知る訳がない、とでも言外に示すようにルーファスは押し黙ったまま鼻で大きく息を付いた。
その横で、エルリッドが少し困ったように口を開く。
「それは…… 私にもよくわかりません。でも多分、それは私があの人の事を叔父だと信じていたのと同じような事なのだと思いますけど……」
「そうだ、エルリッド・S・シュヴィヤールには血縁上に叔父は存在しない」
この様子では随分とシュヴィヤール家の身辺を調べたのだろう、とルーファスは思った。

「さらに言うと、今回のような事件に繋がる経歴がそもそもない。単に巻き込まれただけと見るのが普通だが……」
カゲトラはそこで言葉を切って、ルーファスとエルリッドの両方を交互に見る。
「事実として奴はこの女を連れてきた。ならば何かしら知っている事はあるだろうと踏んだ訳だ」
「そりゃ見当違いだったな。コイツは何も知らないぜ」
あっさりとルーファスが否定する。

「ありもしない事を信じさせると言うのは、シュムサザの特技みたいなものだろうな。その事は俺も身を持って知ってる。だが、それ以上は本人が死んでるんだから調べようもない」
「ほぅ、やっぱり奴は死んでるのか」
カゲトラの相槌を聞いて、ルーファスはしまった、という顔をした。



(536)
(腹芸じゃ敵いそうに無いな……)
苛立った感情をすり潰すように片目をつぶりながら頭を掻いた。
「まぁそれはいい。そもそも客分でもなんでもない男だ。死のうがどうなろうが知った事じゃない」
カゲトラは不機嫌そうな顔を崩さずにそう言った。

「ファーロス・S・シュヴィヤール。アンタは詳しそうだな」
矛先が自分に向かったのを感じて、ルーファスがそっぽを向いてため息をつく。
「アンタの経歴に関しては、殆ど調べが付かなかった。素性が知れない人間から話を聞くのは信用性から言って意味が無いと思っていたが」
「シュムサザに関しては、知ってる事はさっき言った事で全部だな」
そっぽを向いたまま、素っ気なくルーファスは言った。

「ありもしない事を信じさせる、か…… それを使えるのは死んだシュムサザだけかい?」
カゲトラの言葉に、ルーファスはじろりと視線を正面に向ける。
(勘付いてるのか…… こりゃ管理者と名乗った連中の管理は意外とザルだな)
カゲトラはじっとルーファスの返答を待ったまま黙り込んでいる。視線だけが交錯する時間が数秒ほど経過した。



(537)
「人払いをしな」
ルーファスが鋭く言う。エルリッドが心配そうに見つめるのに視線だけを返す。
カゲトラは言葉の意味がよくわからない、というような表情をする。
「人払いも何も、この部屋には最初から俺たちしかいないぞ」
その言葉に、エルリッドが思わず後ろを振り向く。そこにはカゲトラの言葉どおり、誰もいなかった。
「えっ……!?」
「落ち着け。なんとなく、そうじゃないかとは思ってた」
ルーファス自身も動揺しつつ、努めて冷静に言う。

「ここにはイニャスという男はいるか?エルヴァーンで、俺たちをここに連れてきた奴だ」
「……聞かない名前だな。それに、お前らは勝手にここに来たんじゃねぇか」
エルリッドが思わず息を呑む。流石に事態を察したのだろうと、ルーファスは見た。
「いいか、よく考えるんだ。最初お前は確かに、エルリッドに用があると言った。そして、その為に数人の部下を使ったはずだ」
「あぁ、そう言った。部下を差し向けたのも事実だ…… ん?」
不機嫌なカゲトラの顔に、当惑の色が浮かぶ。

「わからないか?なら、今このテーブルにある茶を運んできたのは誰だった?」
「馬鹿な…… おい!」
唐突にカゲトラが、奥に向かって大声を上げた。



(538)
奥から2人の人影が出てきた。何れもヒュームで、ルーファスは見たことが無い人物だった。
「ここに茶持ってきた奴は誰だった!?」
カゲトラの問いに対し、2人の男は自分ではない事と、奥には現在彼ら以外は誰もいない事を告げる。
返答を聞いたカゲトラは、やや力を失った声で2人を下がらせた後、テーブルに肘を付いて頭を抱えた。

「なるほどな…… これか」
動揺を隠そうと押し殺したような低い声で、そう呟く。
「これがアンタが俺に聞いたことの答えになるかな」
「あぁ、十分だ……」
相変わらず頭を抱えたまま、ルーファスの問いにカゲトラは答えた。

「そこで、俺の用事だ」
機を見たり、といったタイミングでルーファスが切り出す。
「こういうのに対処するための新設部隊ってのが組織される事になってな、天晶堂には色々と便宜を図ってもらいたいのさ」
エルリッドが驚いてルーファスの方を見る。カゲトラは目線だけをルーファスに送って、訝しげな顔をした。
「実際には、連中が狙ってる対象を保護するのが目的だ。だが、その過程で連中と戦闘をする可能性もある。良い武器や防具があれば、金に糸目は付けないぜ」
低く唸るような声で、カゲトラがその言葉に反応した。



(539)
ルーファスとエルリッドが天晶堂を後にしたのは、太陽が中天よりもやや傾いた頃だった。
日差しは強いが、海からの風はやや冷たい。丁度その風に乗って、飛空挺が到着していた。

「さっきの話ですけど……」
天晶堂を出て商業区方面に少し歩いてから、エルリッドはルーファスに声をかけた。
「部隊の話か、ありゃ本当だ。宰相も頭を捻ったんだろうさ、最初から内容がわかっている伝令なら、途中で襲われる心配もないだろうってな」
「でも、どうして天晶堂なんですか?正規の部隊なら、まずあり得ないです」
騎士らしい頭の固い考えだな、とルーファスが返すと、エルリッドはややふくれっ面になった。

「正規じゃないからさ。本当は4ヶ国で新たな協定を結んで対処したかったそうだが……」
そこまで言って、ルーファスは未見に皺を寄せる。
「ウィンダス、バストゥーク、ジュノが三者三様の理由で打診を蹴ったらしい。仕方が無いから表向きは現状維持で、裏方として部隊を組織する事にしたんだそうだ」
「そうですか……」
エルリッドはどこか暗い表情で、気の無い返事をした。


(540)
「まぁ、お前に関してはほとぼりが冷めたら神殿騎士団に戻れるように頼んでみるよ。お前には騎士が向いてるしな。
親父が死んだ時のお前の事を思えば、やっぱり騎士であるべきだ」
ルーファスは出来るだけ明るい調子でそう言った。
「……どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。親父が死んだときにお前、親父が使ってた盾と剣持ってオークに立ち塞がろうとしただろ。俺が払い落として、抱えて逃げたんだけどな」

ルーファスと並んで歩いていたエルリッドの足が、その場で止まる。
「私、そんな事誰にも話したこと無いです……」
「いや、間違いねぇよ。忘れられるもんでもないからな」
「いえ、覚えていないと言う意味では無くて…… あーもうっ!」
この状況をどう説明した物かと、エルリッドは思わず上を向いて声を上げた。

「とにかく、ちょっと座ってください!」
エルリッドはまくし立てるように、道の縁を指差した。




(541)
酒場や商店が並ぶ場所とは1段低くなった場所で、一人のエルヴァーンが上から聞こえてくる声に傍耳を立てていた。
                                          「なんで知ってるんですか!?」
 「知ってると言うか、見たから覚えてると言うか……」
                                          「来訪者じゃなかったんですか!?」
 「アイツは帰った。無事に帰りついたかどうかは知らんがな」
                                          「どうしてそう言う事を早く言わないんですか!!」
 「どうしてって…… そんなこと、誰も俺に聞かなかったからだろ」
                                          「それは…… だって、そんな事!」
 「まぁ部隊の件もあるし、当分はこのままの方が都合が良いかもしれないからな。他の奴には喋るなよ?」
                                          「……それじゃぁ、本当に兄さまなんですか?」
 「最初ッからそう言ってるじゃねぇか」

 「どうした、ようやく信じたか?」
                                          「……信じました、信じましたけど」
 「ん?」
                                          「ちょっと残念かも知れないです」
 「あぁん?」

二人の会話が続く中、傍耳を立てていたエルヴァーンの姿だけが忽然と消えていた。





(542)
「何かお悩みのご様子ですね」
「あぁ、いや。無事書状が届いたかどうか心配になってな」
神殿騎士団詰め所で、クリルラとハルヴァーはバタリア茶を飲んでいた。

「随分とルーファスの事を気に入っているのですね」
「まぁな。私が言うのもなんだが、妹思いの男は大成するぞ、間違いない。私も、かの水晶大戦の折などは妹の出征を止めるために数百人の兵士を押しのけて妹の下に駆けつけたものだ」
クリルラは苦笑にも似た笑いを浮かべる。
実際には、門番に我侭を言って門を開けさせ、その後2名の兵士に身体ごと抱えられて城に連れ戻された、というのはそこそこ有名な話だった。

「お前も、エルリッドの事は妹のように可愛がっていただろう」
「えぇ、まぁ…… でも、神殿騎士団ではあまり外の事を見る機会はありませんから、良い経験になると思います」
「ふむ、そうだな」
言いながら、ハルヴァーはカップの中身を飲み干す。
「さて、では我々も職務に邁進するとするか」
「はい」




(543)
「ただいま戻りました。遅くなりまして……」
マティエールは領事館の扉を開けながら、受付のカウンターに座っていたラディールに声をかけた。
「お帰りなさい、どうでした?」
「えぇ、どうやら無事に仲直りをされたようでございましたな」
カウンターから立ち上がろうとするラディールを手で制して、老人はそのまま奥へと足を進める。

「それは僥倖。しかしそれはそれとして、隊長人事が兼任なのはどうにかならないものか…… エグゼニミルの坊やあたりが適任だと思うんだが」
書類が山積みにされた机に着いているパレーデ領事が、ぼやいて見せた。
「お忙しい方でございますし、既にバリスタ担当官も兼任されておいででございます故、致し方なき事かと」
「言う程ここも暇ではないのだぞ?」
書類の山をポンと叩きながらながら、領事が不服そうに言う。

「それに人事の件もある。 ……そうだフルキフェル、お前はどうだ?」
「わ、私は…… 報告を含めてサンドリアに帰りますし、他にも任務がありますから……」
傍の机で黙々と書類に判を押していたフルキフェルは、少し考えてから答えた。
「そうか、ならば仕方ないな。さて、どうしたものか。他にも資金の受け先など、各国の領事館や大使館にも連絡しなければならないし……」
マティエールは軽く微笑んでそれに応え、フルキフェルと並びの机に腰掛けて書類の処理を始めた。




(544)
「それじゃあ、各国を渡り歩く事になるんですか?」
エルリッドが、いかにも意外そうな顔でルーファスに尋ねる。
「こっちが一段落付いたら、というか領事館の職員が帰ってきたらそう言う事になるか」
「ふぅん…… それじゃ、任務って言うより旅行ですね」
能天気な返事にルーファスが堪らず笑い声を上げた。

「旅行だとでも思えば気楽なもんさ。それぞれの土地で伝手を作ったり協力者を置かなけりゃならないし、費えも相当なもんだろうが、それも国庫から出してくれるとさ」
あまり財政が潤っているとは言い難いところで、これほど気前良く金を出すと言っているのには、ルーファスも妙な気がしていた。

書状の内容は大まかに二つあった。
一つはファーロス・S・シュヴィヤールを辺境及び各国における情報収集の任に就く旨。
もう一つはエルリッド・S・シュヴィヤールの処遇について、神殿騎士団から一時除名をして従騎士にする代わりに今回の件を不問にするとの事だった。
それとは別に封筒の中に隠されていた書状は、パレーデ領事を兼任で隊長とした来訪者対策部隊を編成すると書かれていた。
その中には当然ファーロス・S・シュヴィヤールの名前も連ねられているが、それ以外は現地任官と言う形で人事権はパレーデ領事に一任されていた。
(サヴィー姉さんは今頃相当不機嫌だろうな……)
そう考えると、領事館に向かうのはもう少し後にしよう、と思うのだった。



(545)
「所でエルリッド、敬語とか別にいいぞ?兄妹なんだし」
「えっ…… でも、急には……」
少し困った声でそう言うエルリッドの頭を、ルーファスはくしゃくしゃと撫でる。
「いいじゃねぇか、ほら、お兄ちゃんですよー」
満面の笑顔でそういうルーファスを、エルリッドは凝視した。

「やっぱり、ちょっと残念かも知れないです」
「だから、何でだよ!」
ルーファスがそう言う間に、頭に乗せられたルーファスの手を避けて、エルリッドは立ち上がった。
「私、領事館に行って来ます。皆を困らせちゃった事、謝らなきゃ」
「そうか、じゃぁ俺も……」
「待ってください、ちょっと遅れて来てください」
そう言われて、ルーファスは浮かしかけた腰をまた落とす。

「敬語は慣れたら考えます。それじゃ、行ってきますね、兄さま」
エルリッドはそのまま、駆け足で商業区へと続く橋へと向かっていった。
ルーファスは『兄さま』と呼ばれて緩んだ頬を自分で引っ張ってみつつ、満足そうにそれを見送った。
2008年07月31日(木) 02:01:42 Modified by mct_0921




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