「.hack//G.U.」と「コードギアス 反逆のルルーシュR2」と「LAS(LMS)」と「ゴッドイーター」と「仮面ライダーディケイド」の荒唐無稽恋愛活劇SSサイト(のつもり)。

『やっぱ俺、ロリコンだったみたいでさ。
 あいつの綺麗な体知っちまったら、あんたなんか薄汚くて抱く気にもなれねぇんだよ、ババァ!!』


【大十字九郎  ニトロプラス「斬魔大聖デモンベイン」 より】


Lolita komplexer Type
「ロ……な、何て言った?」
「ドイツ語で『ロリコン野郎』って意味です」
「ロリコンって……」


額の真中から生えた、やたら長い特徴的な前髪から蒼い瞳が除く。
瞳の色彩以上に冷ややかなのが、少女の薄い桃色の唇から発せられる言葉の数々。
眼前に佇むゴシックドレスの少女、アイナの鋭い視線がハセヲにこれでもかと言わんばかりに突き刺さり、場を凍りつかせていた。
兄のオーヴァン同様、彼の妹にも反論を許さない逆らい難い魅力が備わっているとでも言うのか――――――――――――――――


「兄さんが生きてたらハセヲさん、頭フッ飛ばされてます」
「……アイツならマジやりそうだな」


頭だけならまだ良い。
意識の残ったまま四肢を切り刻まれて臓器だの骨だのの各パーツに分解(バラ)され、
最後に残った頭部を写真に撮ってメールに添付して送ってくるのがオーヴァンという男だ。
溺愛していたアイナの危機とあらば、地獄の底から這い上がってきても可笑しくないのがオーヴァンという男なのである。


「2人きりになった途端にコレなんだから……本当に真性のペド野郎なのね」
「ア、アイナだって“いい”って言ったじゃねーか……」
「触るだけなら、って言いました。掴んでいい、とまでは言ってません」


ムスッとした動作(モーション)と同時に呆れた声で非難するアイナ。
白いゴシックドレスに身を包んだ少女は大きな溜息と共に、隣接する5歳年上の恋人をジロリと睨んだ。
まるで背中に「僕は青春真っ盛りです」と書かれた紙を張り付けて歩いているかのような少年――――――――――――――ハセヲを。
アイナに睨まれたハセヲは生きた心地がしない。
オーヴァンに似たのか、アイナも12歳にしては聡明な子だ。下手な言い訳は通用しないことは知っている。
エンゲージ(結婚イベント)した後、
最近になってやっとキスまでは許してくれるようになったものの、未だにそれ以上の接触は「おあずけ」状態。
当然のことながらハセヲは我慢出来ず、時折こうやってアイナを閑静なフィールドに連れ出しては「キスの続き」を強請っているのだ。
……まだ一度も続きを行えてはいないが。




























.hack//G.U. 番外編 

                                                          コッペリアの柩








































「恥ずかしくないんですか。
 ……高校生にもなって5歳も年下の女の子に、お説教されるなんて」
「……ちょい恥ずい」


いや、実際はかなり……。
ハセヲの年上としての威厳とかプライドは既に粉々だ。
歯に衣を着せぬアイナの物言いは時々、グサリと来る時があるから……。


「キスくらいなら、まぁ……妥協します。
 ……けど、それ以上の行為は犯罪ですよ(法的な意味で)」
「いや、でもゲームだし……」
「モラルの問題です。それにハセヲさんに触られると……分かるでしょう?」


顔を少し赤らめ、伏し目がちにアイナは言い難そうに呟いた。
十中八九、感覚共有のことを言っているのだろう。
ハセヲが八相の碑文の力を得て《The World》内で五感を得たように、AIDAに感染して長期間昏睡していたアイナは
碑文の力に敏感になっており、ハセヲ同様にゲーム内での五感を感じることが可能となっている。
最初はハセヲと感覚を共有できることを喜んでいたアイナだったが、どうにもここ最近はそう思っていないらしい。
……原因は全てハセヲにあるワケだが。


「……俺の触り方、そんなにダメか」
「いやらし過ぎです」
「や、優しく触ってるだけなんだが……」
「……アレで?」


このロリコン野郎は一体なにを言ってるの? と言いたげにアイナは哂う。
ハセヲは極力アイナを刺激せぬように優しく触ったつもりなのだが、アイナにとってはいやらしい触り方に思えたようだ。
最初は軟らかい髪から始め、次にぷにぷにの頬、
その次は少し硬い肩……そして胸へと少しずつ少しずつ、触る箇所をさり気なく移動させていたのだが
まったいらな胸に到達した時点でおさわりタイム終了、説教タイムへと移行してしまった。
が、毎度毎度のパターンだったのでアイナももう慣れてしまい、説教する声に力も無い。
説教してもハセヲは懲りずに再犯を繰り返すからである。


「そんなに触りたいなら、パイさんか揺光さんかカールさんに土下座してお願いすればいいじゃない」
「別にアイツらの身体を触りたいってワケじゃねーし……アイナのがいーんだよ」
「年上が好きだって言ってませんでした?」
「……まぁ、昔は」


ハセヲこと三崎亮は年上の女性が昔から好きだったらしい。
母親が少しヒス気味なので、優しく受け入れてくれる母性本能溢れる女性が好みとのこと。
そのハセヲのストライクど真ん中だったのが他でもない志乃だった。
志乃ならきっとゲーム以外でも自分を受け入れてくれるに違いない、と勝手にそう思い込んでいた。
結果、オフで会って告白するも見事にフラれる。
当然だろう、相手は19歳、ハセヲは17歳。大学生が高校生を相手にするはずもなく。
それに志乃はオーヴァンに惹かれていた。
割と志乃も勘違い系の子なので自分を達観している人間だと勝手に思い込んでいたようだが、実際は彼女もオーヴァンをフッている。
一体彼女は何がしたかったのだろうか。謎だ。
志乃はハセヲの人生という名のレールを駆け抜けた青春という名の列車だったのかもしれない。悪女的な意味で。
そのハセヲが今、オーヴァンの妹で5歳年下のアイナと付き合っているというのだから世の中は分からない。
年上好きのハセヲが年下好きに転向する程のカリスマ性、というか魅力をアイナが兼ね備えていたから仕方の無い話なのだが。


「本当に高校生? 中学生の間違いなんじゃないの?」
「そこまで言わなくてもいーだろ……」
「だって、やることなすこと中二っぽいもの」


そう言われるとグウの音も出ない。
出ないが、一応は男として反論しておきたいハセヲであった。


「た、例えば?」
「『この世界でだけは志乃は俺のもんだー!』とか叫んで、恥ずかしくないですか?」
「……今思うと結構、な」
「すごく馬鹿っぽくて呆れます」


それ以外にもアイナは知り得る限りのハセヲの痴態を列挙してみせた。
思い返せばどれもこれもが厨房丸出しの挙動で、ハセヲも言うに言えないものばかり。
アイナと出会う前に数々の女性プレイヤーとの間に起きたハプニング集の列挙は、ハセヲにもクるものがある。
自分で自分の首を絞める、というのはこういうことなのだろう。馬鹿だ。すごく……馬鹿だ。


「私が病気がちな大人しい子だと思ったら大間違いですよ。ハセヲさん」
「うっ……。わ、わーったよ……悪かったよ……」


コツン、とアイナの小さな肘打ちがハセヲの腹部に決まる。
彼女なりの念押しなのだ。私を困らせないで、心配させないで、という。
ゲームの中だけの疑似イベントにせよ、アイナはハセヲを選びエンゲージを行った。今では名実ともにハセヲの妻である。
その夫がこんな体たらくでは妻として恥ずかしい……そう言いたいのだろう。
しかしそれ以前にアイナはハセヲの性的欲求を理解できていない部分も見受けられる。
ハセヲの、アイナに触れたいとう衝動も愛情表現の1つであると理解はしているものの、その先はNGなのだ。
いくらゲームでも12歳の少女に手を出せばどうなるか、ハセヲに分からせるために。
だが、おあずけを喰らったハセヲは堪らない。キス止まりでその先の進展が無いなど、17歳の少年には過酷すぎる仕打ちだった。
だから何度も何度もその先を実践しようとして……アイナに何かと理由をつけられ怒られているのである。
懲りずに。


「次に変なトコ触ったら、バクドーンで頭フッ飛ばしますから」
「頭フッ飛ばすの好きだなアイナ……」


あの兄にして、この妹あり。ハセヲも逆らえないアイナのカリスマ性。
エンゲージの後、立場は完全に逆転してしまっていた。今ではアイナの方がハセヲの保護者のようにも見える。
ハセヲがアイナにキス以上の行為に及ぼうとする度、アイナからの制裁が飛んでくるのだ。
それは呪紋だったり、魔典での小突きだったり、厚底ブーツでのキックだったりと多種多様。
何度アイナに嫌がられてもハセヲが全く懲りないのは、それだけ彼女が魅力的だと言うことだろう。
以前クエストでクーンが小学生をナンパしようとした時、パイと一緒になって彼をロリコン呼ばわりしていたハセヲだったが
今ではその仲間入りを果たしてしまったのは皮肉としか言いようがない。
つい少し前まで志乃に熱を上げていたハセヲも、アイナの魅力に文字通り“メロメロ”なのである。


「私の胸とか、お腹とか、脚とか、お尻とか……触って何が楽しいの?」
「……アイナは楽しくないのか」
「朝からするコトじゃないと思う」
「何言ってんだ。今は夜中の2時……あ、時差があんのか」
「こっち(ドイツ)は朝の10時です」


病室で朝食を食べ、リハビリも兼ねて少し病院の中を歩いた後にマク・アヌで落ち合う約束だった。
ドイツの医療水準は世界的に見ても高く、難病とされていたアイナの病気も回復傾向にある。
入院費用やら手術費用については予めオーヴァンが貯めていた資金により支払われており、彼が死んだ現在もそれは続いている。
アイナが天涯孤独の身となっても入院生活を続けていられる由縁である。


「ハセヲさんって、いやらしいコト大好きなのね」
「……かもな」
「じゃあ、私のコト愛してる?」
「と、当然だろ」
「…… Sie können meinen älteren Bruder nicht gewinnen(兄さんの足元にも及ばない).」


ハセヲがオーヴァンを越えようとしていたことはアイナも識っている。
だから嗾けるのだ。カマかけと言ってもいい。アイナは、ハセヲを試しているのだろう。


「守ってくれるって言われた時は嬉しかったけど、ちょっと最近は……ヤリすぎだと思う」
「こ、恋人同士ならフツーじゃね?」
「入院生活が長いから、そういうコトよく分かりません」
「……」


彼女が言っていることも一理ある。
これまでもそうだったのだが、どうにもハセヲは他人の気持ちを考えずに行動してしまう傾向が強い。
仲間達との交流を経て性格は前に比べて丸くなってはいるものの、まだ中身は思春期真っ盛りの17歳だ。
恋人が出来たことで、性的な欲求をぶつけてみたいと思っても可笑しくはない。
可笑しくはないのだが、相手が二次性徴を迎えて2年程度しか経っていない12歳の少女なら話は別になってくる。
アイナから見れば、ハセヲの愛情表現(いわゆる愛撫)は充分に「いやらしいコト」の対象行為なのだろう。


「それに……。ゲーム中に変な声を出したら……私までおかしな子だと思われるし……」
「出さなきゃいいじゃん」
「ハセヲさんが出させるんでしょ!」
「うっ」


そうなのだ。
今でこそ拒否反応を見せてはいるが、アイナもエンゲージして間もない頃はハセヲの期待に応えていたのである。
最初は頭を撫でてもらったり、手を繋いだり、抱っこをしてもらったりするだけだった。
アイナはそれで十分だったのだが、ハセヲの方は段々とアイナをもっと識りたいと思う衝動を抑えきれなくなり、
ある日、とうとうキスに漕ぎ着けるまで関係を深めることが出来た(少しばかり強引だった感はあるが)。
ハセヲとアイナのPCなら互いの触感も感じられる。案の定アイナの唇は幼さの残る、しっとりとした軟らかさを持っていた。
抱いた身体の柔らかさや、少女特有の甘い匂い、自分の後ろをとてとてと付いてくる可愛らしさ。ハセヲが参るのも無理は無い。
そのため……表現は少々下品になるが、ハセヲが味を占めてしまったのがいけなかった。
以来、ルートタウンだろうが@ホームだろうがフィールドだろうが、ところ構わずアイナを連れ出してはキスを繰り返すようになる。
そこで我慢していればアイナもハセヲを“優しい年上の恋人”という認識に留めていただろう。
が。
今では“兄さんが生きてたら頭フッ飛ばされてもおかしくない人”にまで評価が下がってしまっているという現実。
ハセヲが躰に触れる度、当初はくすぐったいとだけ思っていたアイナに変化が現れ始めたのだ。
妙な違和感。彼の指先がドレスの布地を這うと時折、アイナの躰に電流の様な甘い刺激が奔るようになる。
それが何なのかはアイナも大まかではあるが識っていた。識っているだけに怖かった。
自分が自分でなくなるような、意識の混濁にも似た甘い感覚。
自分の口から普段決して漏らさないような切なげな吐息が毀れた時、アイナは悟る。ハセヲが自分に何をしようとしているか、を。
以来、アイナはハセヲに対してこの調子なのである。
他にもハセヲを罵倒する言葉として「ロリコン」「変態」「異常性欲者」「真性のペド野郎」etc......。
こればかりはハセヲの自業自得としか言いようがない。
アイナの言っている通り、オーヴァンが生きていたらタダでは済まされないだろう。


「先生が回診に来ることだってあるのに。そんな時に……いやらしいコトされてたら……困るの」
「で、でも個室なんだろ。来ない時なら別にそういう声出したって誰も……」
「何か言いましたか?」
「いや、何も」


ハセヲの眼前に付き出されるアイナの手。
少女の小さな掌の中に、炎の魔法が渦を巻きながら発動の時を待っていた。
バクドーンだ。空気の読めないハセヲへの最後通告、と言ったところか。


「私が他の人とお話しててもハセヲさんは機嫌悪くなるものね。
 クーンさんとも、シラバスさんとも、ガスパー君とも、望君とも……特に望君。
 小学生相手に嫉妬って、フツーじゃないです。……どうかしてるわ、イカれてるわ」
「そんな水銀燈みたいなコト言われたって……気になるもんは、しゃーねぇし……」
「独占欲が強すぎなんです。ハセヲさんは」
「……逆にこう考えるんだ。それだけアイナを大切に思ってるって」
「大切にしてるから、愛でたくなると?」
「そ、そーいうコトになる、かもな」


随分と苦しい言い訳である。
言っていることは間違ってはいないのだが、それが正しいことかどうかをジャッジするのはハセヲではない。
アイナだ。
だがアイナは手の中で燃え盛らせていたバクドーンを発動させることなく、詠唱を中止してしまっていた。
何故?とハセヲが思う間もなく、アイナは訝しむように彼に顔を近づけ、こう言うのだった。


「ハセヲさん……これまでに女の子と付き合ったコトないでしょ」
「 !? 」
「絶対、私が初めてでしょ」
「そ、そんなコトねーぞ。
 わ、割と……それなりにあるぜ?」
「……嘘吐き」
「……なんで分かんだよ」
「兄さんと違って、女の子の扱いに全然慣れてないから」
「ソレ、ある意味オーヴァンの奴がそーとーに遊んでるようにも聞こえるんだが」


悔しいがオーヴァンは確かに女性にモテた。志乃もBセットも彼に惹かれていたのは間違いない。
アイナが病気でなければ今頃とっくにイイ女を捕まえて結婚していても、オーヴァンなら何らおかしくはないだろう。
世の中は不公平だ。
オーヴァンのように何もしていなくても女性を惹き付ける男も居れば、
ハセヲのようにオフで会って告白しても全く相手にされない男も居る。
世の中、そんなものなのかもしれないが。


「何でこう……俺はお前ら兄妹に心、見透かされちまうんだろうか」
「単純一途だからじゃないですか? 強化系ですね。でも浮気っぽいから一途とは言えないけど」
「じゃあオーヴァンは特質系だな……アイナもだが」


アイナの指摘通り、ハセヲは浮気っぽい。
志乃志乃と連呼していた割にはアトリや揺光、パイに気持ちが傾きかけたこともある。
青春真っ盛りの17歳なら、まあよくある話だ。
優しく接されると勘違いしてしまうコトくらい誰にでもある。
ハセヲの場合、その勘違い具合が恋愛に直結してしまうだけなのだ。
言うなれば、そう……。


「アイナは誤解してるぜ。俺は純情なだけなんだって」
「純情……純情ロマンチカ?」
「そ、その話はやめてくれ……」


ハセヲの顔が青ざめていくのをアイナは見逃さない。
彼が重ねていた手をスルリと払い、本を持って立ち上がるアイナ。
別れの時が近いのか。彼女の眼は明らかに、此方のプラットフォームに向けられている。


「……マク・アヌに戻るのか」
「ハセヲさんは私にどうしてほしいの?」
「……もっと一緒に居てくれねーのか」


今のハセヲは無様だった。
5歳も年下の少女に一緒に居てほしいと懇願する高校生というのも珍しい。
ハセヲを見下ろすアイナの視線は冷ややか。なのに、それでいて妖艶。
兄のオーヴァンもこんな笑みを浮かべながら、よくハセヲの前に現われていたものだ。
やはり、この兄妹は似ている。


「ロリコンで変態でペド野郎のハセヲさんが、私にお願いするのね」
「……あぁ」
「じゃあ“お願いします”って言って。……そしたら、あと少しだけ一緒に居てあげる」
「……しなきゃダメなのか?」
「ダメ。あと、お願いする時は頭を地面に擦りつけて」
「ど、土下座かよっ!?」
「そうですよ。土の味、するかも」


いくら何でも横暴過ぎる。
ハセヲは口にこそ出さなかったが、心の中でそう毒づいた。
兄妹揃ってドSなのだろうか。メチャクチャに嫌な予感がする。
これでもハセヲは何度も修羅場、死線を潜り抜けて来た。
しかし、今回ばかりは彼の勘が全力で告げている。
この少女はヤバイと――――――――――――――――――――――――


「ほら。早く」
「んがっ!?」


直後、アイナのかかと落としがハセヲの脳天に小気味よく決まった。
広がりのあるスカートがフワリと舞ったかと思った刹那、力を込めて握ればポキリと折れてしまいそうなアイナの華奢な脚が伸び、
ブーツのヒール部分がハセヲの後頭部に直撃する。魔導士(ウォーロック)にしてはなかなかの威力のあるヒールキックだ。
これはハセヲも堪ったものではない。完全なクリティカルヒットである。
ギリギリとブーツの底に力を込め、アイナはハセヲの頭を地面に擦りつけて哂う。実に愉しそうだ。
同時に、なまじ痛覚も《The World》の中では感じることが出来るため、
ハセヲこと三崎亮は夜中の自室で頭を両手で抑えつつ、奇妙な呻きをあげるハメになった。
うぐぅ〜、うぐぅ〜と、苦悶に満ちた声を。


「ハセヲさんは私と“こういうコト”がしたくて、エンゲージ(結婚)したのよね」
「な、なワケねーだろ……!」
「じゃあ、どうしたいの? 青春と思春期真っ盛りの純情なハセヲさん(夫)は、私(妻)に何を望むの?」
「お、俺は……ただ……アイナを……」


グググと頭に気合いを入れ、アイナの踏みつけから何とか逃れようと、必死になってハセヲは応戦する。
初の夫婦喧嘩はハセヲの劣勢かと思いきや、実はそうでもないらしい。
徐々にではあるがハセヲの頭は地面から離れ、アイナの呪縛から解き放たれようとしていた。
母親にもぶたれたことの無かったハセヲこと三崎亮。
それが12歳の少女に足蹴にされたのだ。これではプライドが傷つくというもの。
彼女の期待に応えるため、ハセヲは頭と口を動かすことに全生命力を懸けているのだ。


「この世界でだけは……アイナを……俺のものに……! んがっ!?」
「それじゃ志乃さんの時と同じじゃないの! 全然分かってないんだからっ!!」
「ま、待てっ! ちょっ、アイナ、アイナッ! そ、それヤメ―――――――――――――――――――――――
「バックドォーン!!!」


穏やかで静かな花畑に、爆音がひとつ――――――――


































【その後……】


「んっ……あむっ……んんんっ……!」
「んっ、んっ……はぁ……ぅ……」


両腕を壁に押さえつけられた少女から甘い吐息が漏れている。
胸元のリボンとゴシック調の白いワンピース、それにヘッドレス、蒼く長い髪が特徴的な少女だった。
その唇は彼女の傍らに佇む少年の唇によって塞がれ、少女は思う様に声を出すことが出来ない。
少女の唇を自身のそれと重ねて塞ぐ少年の姿も少々奇異なものだった。
まだ歳若いだろうに、その髪は白髪に近い銀色。全体的に白い意匠の施された戦闘服に身を包んでいる彼。
片方の手で少女の両手を壁に押し付け、もう片方の手は彼女の髪をその指先で愛でていた。
その指は徐々に彼女の髪から頬に移り、ひとしきり頬の軟らかさを堪能すると今度は首へと場を移す。
喉仏などあろうはずの無い少女の首は細く、その気になれば絞めあげることも可能だろう。
しかし、少年の目的は少女の首ではない。首から下へ動かす指の速度を調節し、少しずつ近づいていく。
まだ成長過程の前段階にも達していない未成熟の、少女の真っ平らな胸へと―――――――――――――――――――――


「ちゅっ……ちゅぷっ……ふぁっ……! ……ぷはっ。……ねぇ、ハセヲさん。この手は何?」
「な、何だろう?」
「また約束を破ったのね。キスの最中、絶対こういうコトしないって言ったのに」


今にも不埒な行いを働こうとしていた少年の手を、拘束から辛くも逃れた少女の手が捉えた。
少女の身長が少年よりもだいぶ低いせいか、彼がやや前屈みになっていたせいで反応が遅れた結果である。
少女は真ん中から伸びる前髪の間から少年をキッと見据え、憤慨した。
だが今回ばかりは少年も負けてはいない。前回と同じ轍は踏むまいと、少女に負けじと対峙する。


「きょ、今日はOKかな、って思ったんだよ……」
「その根拠は?」
「……キスの前にアイナが『何だかお腹の下が疼く』とか意味深なコト言ってたから」
「アレは……ちょっと前に手術で縫った所が痒かっただけですっ!」


やっぱり、この男はどうしようもないクズで変態で異常性欲持ちのペド野郎だ。
もう何度思ったかしれない。
どうして、自分はこの男からのメールに釣られ、エンゲージなどしてしまったのだろう、と。
やはり、まだ調教が足りないのか。
少女、アイナは兄譲りの回転の速い頭で、これまでに彼が犯した数々の狼藉を思い出していた。
思春期街道まっしぐらの少年、ハセヲの犯した数多の罪、裁判所に訴えれば少年院にブチ込んでやることも可能な、彼の不埒な悪行三昧。
愛情表現と称した行き過ぎた行為は、彼と彼女の事情を知らない人間からすればどう見ても彼の独りよがりだろう。
ただ悲しいことに、最近になってやっとアイナもハセヲへの理解を示すようになったことが仇となったのか、
もう以前のような怒りを見せることは稀になっていた。
とどのつまり、彼女もハセヲを(その行為自体は未だに嫌悪対象だが)少しずつではあるが、真剣に愛し始めてしまったらしい。
毒され始めた、と言うべきかもしれないが……。


「ふぅ……。約束を守れないハセヲさんには、おしおきが必要ね」
「お、おしおき……?」
「そうですよ。痛くしないから、じっとしててね?」


ボコボコ……。
アイナの厚底の靴から、妙な音がする。靴底から滴るその音の主を、ハセヲは何処かで聞いた気がした。
否、間違いなく聞いたことがある。それにこの気配。ハセヲの中の八枚の碑文が、脳内で警戒信号を鳴らして注意を促している。
これは、この音は……!


「まさか……AIDAか……!? な、何で今になって!」
「そう、AIDA。
 私の中で種子のまま休眠状態になっていたAIDA……兄さんの起こした再誕を生き延びた、トライエッジの置き土産」
「何っ……!?」
「“ハセヲ”も私のペットになりたいんでしょう? してあげる……望み通りにね!」


ボコボコ、ボコボコ……。
少女には似つかわしくない、血と石油の入り混じった痛烈な匂いが周囲に充満していく。
少年はただ今の状況に驚くばかりで、少女はそんな少年の驚愕の相(カオ)を愉悦の笑みを浮かべながら哂っていた。


Künstlich Intelligenter neunter Anima(Artificially Intelligent Ninth Anima)......これが私の真名」
「な、何言ってんのかサッパリ分かんねぇ!!」
「この星で最も偉大な女神の名前よ。覚えておきなさい」


ハ、ハヤテのアーたんみたいなコト言ってやがる……!
ダ、ダメだ、コイツ……早く何とかしねぇと、ヤ、ヤベェことになりそうな予感がッ……。


「私がハセヲを調教してあげる。……嬉しいでしょう?」
「嬉しくもあり、怖くもありってとこだっつーの!」
「だってコレは“おしおき”よ。
 ……5歳も年下の私にいたぶられるハセヲを見てると、キュンキュンしちゃうんだもの。うふふ」
「ア、アイナッ!? 
 や、やめっ、あっ、アッ―――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!」


ハセヲは私を愛でるのが好きなのよね?
だったら順番的に言っても、今度はハセヲが私に愛でられる番でしょう?
大丈夫、可愛がってあげるから。兄さんと違って、私はちゃんと貴方を愛してあげられるもの。


「もう逃げられない。
 貴方は一生、この私のペットとして過ごすの……ふふふっ」


口から黒泡(バブル)を幾つか吹き出し、そのまま動かなくなったハセヲの躰に寄り添いながらアイナは腰を下ろした。
物言わぬ恋人の頬に軽くキスをし、彼が完全に機能停止(フリーズ)したコトを確認すると指で唇をなぞりながら恍惚の表情を浮かべ、身悶えるアイナ。
……いや、今やAINAと呼ぶべきだろうか。
漆黒のドレスを纏った銀色の髪の少女。それは、まさしくアイナの姿をした怪物。
犬童愛奈の記憶と思考を宿す、異形の少女。


「好きよ。ハセヲ」


そして兄の形見となった「Epitaph of The Twillight(黄昏の碑文)」のページを捲り始め、AINAは最愛のハセヲと共に静かな午後を迎えるのだった―――――――――


今はまだ、旅の途中。


【BAD END】

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