「.hack//G.U.」と「コードギアス 反逆のルルーシュR2」と「LAS(LMS)」と「ゴッドイーター」と「仮面ライダーディケイド」の荒唐無稽恋愛活劇SSサイト(のつもり)。

女神の眠りは深く。
唯だ、識だけがそこに在るように。
原始の海に揺蕩い、自我すら朽ちた意識の許で。
少女は夢の中で、また夢を見る。
それは彼女がヒトの姿を捨てる以前の、語り終えられた“彼女の物語”。
甘い倒錯と狂おしい我執の入り混じった、歪ながらも悦びに満ち満ちた“彼女だけの世界”。
故に女神の眠りは深い。
何人も、彼女の眠りを妨げるなかれ。







***************************







「……本気か?」
「本気だってば」


2014年。
季節は移ろい、夏は終りを告げ、秋が訪れようとしていた。
9月の頭と言っても機器類の保冷の為、未だ冷房は欠かせないが、
それでも社内での設定温度が僅かに上がったことから察するに、着実に夏の気配は薄らいでいる。
尤も“彼”が窓から蒼天にギラギラと輝く太陽を仰ぎ見る限りでは、まだまだ夏の終わりは遠そうに思えたが。


「バルムンク?」
「あ、あぁ……すまん」


ラグったの? と。
紅い双剣士の少年は瞳を瞬かせる動作(モーション)で以って、双翼の剣士を注視する。
普段の彼――――――蒼天のバルムンクが
不意に隙を見せる人間は、眼前の紅い双剣士の少年を含め、数える程しか居ないという。
バルムンク自身が高圧的な態度なので友人が少ない、との声もあるが――――――
本人も否定しないところを見ると、あまり他人と接点を持ちたがらないタイプの人物であることが窺える。
美形にエディットされたPCも、何処となく自意識過剰なものを感じさせないでもない。


「しかし……まさか海外留学とはな」
「ん。そういうワケだから、しばらく日本を離れるコトになると思うんだ」
「世界中の人々と関われる様な仕事がしたい、か。……お前らしいと言えばらしいが」
「(笑)」


紅い双剣士の少年―――――カイトは、笑って応答した。
“黄昏”から4年の月日が流れたが、彼の笑顔だけは昔と全く変わらず、普遍のものであった。
大人になって社会の暗部を嫌と言う程に見せつけられたバルムンクと違い、彼(か)の少年は純粋そのもので。


「なるほど。最後の挨拶というワケか」
「うん。皆とも、しばらく会えなくなっちゃうのが少し寂しくてさ」


挨拶に来たんだ。
大聖堂の女神像の御前に佇む友に、カイトはそう促す。
女神像の後ろのステンドグラスから差し込む、薄明とも黄昏とも思えぬ淡い燈色の光が、後光となって
2人の身体に降り注ぐ中での、カイトの独白だった。


――――――現地(あちら)で何をするつもりなんだ?」


下世話かもしれないが、と付け加えて。
バルムンクがカイトに問う。
かつて「The World」(世界)を救った“黄昏を開く鍵”を持つ、この少年は。
果たして、何の為に海の向こうへ旅立つのか、と。


「まずは“理想郷(アヴァロン)”探し、かな」
「アヴァロン……? アーサー王伝説に出てくる、伝説の島のコトか?」
「そうそう」


エマ・ウィーラントの「黄昏の碑文」の世界観に多大な影響を与えたケルト神話、
その中でも近世に確立されたものが「アーサー王伝説」だった。
アーサー王と円卓の騎士、そして魔法使いマーリンの物語。
聖剣と聖杯の伝説に彩られ、現代まで語り継がれてきた、遠い異国の御伽噺。
アヴァロンとは、アーサー王が甥のモルドレッドに負わされた傷を癒す為に訪れた臨終の地、英雄の島とされている。


「1191年、グラストンベリー修道院の僧侶が『アーサー王の墓を見つけた』と主張した、と記録にある。
 墓石には鉛の十字架が打ち付けられラテン語で、こう刻んであった―――――『かの有名なアーサー王、ここアヴァロン島に眠る』。
 その後、1278年にヘンリー2世が墓の発掘を命じたそうだが……」
「今は巡礼地になってるよね、グラストンベリートールって」
「あぁ。だが……」


ケルト神話好きであっても、アヴァロン島探しの為に海外留学とは……聊か、酔狂が過ぎるのではないだろうか。
未だ嘗て誰も発見出来なかった楽園の地下世界。
それを彼は探そう、と言うのだから。


「……カイトがケルト神話に興味があったとは」
「そこに在ると思えば、在るんじゃないかな? アヴァロンだってさ」


探す前から存在を否定するものではない、と。
彼のポジティブさには、バルムンクですら頭が下がる。
しかし或る意味、羨ましくもあった。


「……あと、エマの生家も訪ねようと思ってる」
「エマ・ウィーラントの……?」


エマの生家と言えば、ドイツ―――――それもライン川に程近い、古いワイナリー(ワイン製造所)だったはず。
バルムンクは独り、そう呟く。
即座に出身地が思い浮かぶあたり、バルムンクもなかなかの“碑文マニア”と言えた。
尤も、CC社の社員ならば当たり前の予備知識ではあったが。


「彼女が生まれたのは42年も前だぞ……?」
「足跡を辿りたいんだ。……義母さんの、さ」


義母さん。
カイトのその言葉の響きに、バルムンクは、彼の言わんとする凡てを察する。
凡てを識るには、大元を辿るしかないということを、


「……なるほど。
“彼女”にとって義母であり、お前にとっても義母である―――――そういうコトか」
「ついでに南フランスの療養所にも行く予定なんだ」


1992年。
20歳の誕生日の朝に吐血して以降、エマは南フランスの療養所で
しばらく病気の療養をしていた……生前の記録を信じるならば、彼女の足跡を辿るのは難しくはない。
されどバルムンクの頭に浮かぶ1つの懸念。
それは、


「しかし、言葉はどうする? ……お前が英語やドイツ語、フランス語に堪能と言うのなら……話は別だが」
「うーん(汗) 実は、ヘルバも一緒に来ることになってるんだ」
「なッ……ヘルバだと?」


闇(ダック)の女王と同じ名を冠する、あの凄腕ハッカー。
先日のネットワークトラブルに際してネットスラムへのカギ―――――“ヘルバキー”が使用されたりと、依然として何かと話題の人物であった。


「確かに、あの女なら語学に堪能であっても不思議はないが……」


“黄昏”を解決した後、皆で催したオフ会に最後まで顔を見せなかった唯一のプレイヤーでもある。
遠くは九州から参加した良子やなつめまで居たのに、だ。
ヘルバの正体が明らかになることを期待していた者は多かっただけに(バルムンクもその1人だったが)、落胆したものだ。


「現地に滞在がてら、ガイドもしてくれるって言ってくれてるし……」
「……信用し過ぎではないのか?」
「まあまあ(笑)」


ハッカーに対しての敵意は2010年当時より和らいではいるが、
管理者としての責務という負い目があるバルムンクにとって、ヘルバは旧友でもあるが仇敵であるとも言える存在。
彼女は歯牙にもかけていないのだろうが……こればかりは、バルムンクにも譲れないものがあるのだろう。
ましてや、戦友のカイトがよりにもよってヘルバと行動を共に―――――――――――何たることか。


「……お前にだけリアルの姿を曝し、我々には姿を曝さないというのが気に食わん」
「正体がバレたら捕まっちゃうし(苦笑)」


チートPCに始まる数々の不正行為――――――「The World」の運営開始以降、ヘルバが行ったチート行為は数知れず。
フィアナの末裔の1人として不正撲滅に努めていた頃のバルムンクなら、ヘルバがリアルの姿を見せるなどと聞いたら即座に通報モノだ。


「くれぐれも内密に、ね?」
「……得体の知れない女と共に巡礼地へ、か。肝が据わっているな……真似出来ん」
「男か女かも、会うまでは分かんないのが……楽しみでもあり、怖くもあるなぁ(汗)」


とりあえず高校卒業を機に、ヘルバと共に現地へ向かうとカイトは言う。
学業に専念しつつ、空いた時間にケルト神話やエマ・ウィーラントについて調べると。
しかし、そうなると、


「……ハロルドについては、いいのか?」
「何で? 彼、ずっと前から此処に居るじゃない」
「……あぁ、そうか」


アウラの生みの親、ハロルド・ヒューイックについての調査は?
というバルムンクの問いに、カイトは平然と答える。
“彼は此処に居る”。


「今や、この世界そのものが、あの男の見ている泡沫の夢――――――――だったな」


全ては此処にあり、調査の必要も無い。
唯だ、識だけに。
エマ同様、ハロルド・ヒューイックについても「フラグメント」の製作者ということもあって
熱心な研究者やマニアは多いが、彼の場合は足跡を辿ろうにも2007年の夏を境に、ぷっつりと行方を絶ってしまっている。
まるで、この世界から存在そのものが消えてしまったように。


「確かに……『The World』は、ただのゲームじゃなかった。
 ハロルドの創った、このゲームの本当のルールに気づくまで……僕らは、ずっと答えの無い答えを求めていた」


その真実、「世界の核心」に触れたのは、カイトら4年前の事件の関係者のみ。


「でも、今は違うよ」
「違う……?」
「もう、彼女の世界に変わったんだ」


夢と恋と不安で出来ている、そんな世界だよ、と。
世界は再誕によって調律者を迎え、新たな秩序によって統制された。
彼女は、ヒトの可能性を信じ、世界を委ねた―――――アウラとの繋がり(Link)でもある「薄明の腕輪」が、そう語るのだ、と。


「じゃ、そろそろ行くね」
「おい……もうか?」
「他にも会いたい人が多くて(汗)」
「……そうか」


背中を向けたカイトに手を伸ばしかけるも、そのままバルムンクの指先は空を切った。
紅い双剣士の少年の背中が、何故か触れがたいものに思えたから。
同時に、酷く遠い存在のようにも思えた。


「カイト」
「うん?」
「俺とオルカとお前―――――――3人合わせて『三蒼騎士』と呼ばれているのを、識っているか」
「えっと……僕が『蒼炎のカイト』なんだっけ?」


モルガナの悪意の残滓―――――ウイルスバグに勇猛果敢に立ち向かったカイトは。
その勇気を多くのプレイヤー達に称えられ、勇者カイトの名とは別に、
いつしかフィアナの末裔の2人と合わせ、「蒼炎」の称号と共に三蒼騎士に列せられていた。
……とのことだった。


「蒼炎かぁ。……ちょっと恥ずかしいかも」
「むしろ、俺は嬉しいがな。
 ……オルカと俺、そしてお前の3人で三蒼騎士……悪くない」
「バルムンク、そういうノリ好きだよね(苦笑)」


一緒にバイクでツーリングした時と変わってないなぁ。
微苦笑を残して、カイトはカオスゲートへと通じる扉を開け放った。
大聖堂から退く刹那、



「“アンブロシウス・アウレリアヌスの豊かなる石の館”……僕は、“僕のアヴァロン”を見つけるよ、バルムンク」



カイトは最後に一度だけバルムンクに振り向くと。
今度こそ本当に、大聖堂を頂く「湖のへそ」を後にした。


【 TO BE CONTINUED... 】

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