「.hack//G.U.」と「コードギアス 反逆のルルーシュR2」と「LAS(LMS)」と「ゴッドイーター」と「仮面ライダーディケイド」の荒唐無稽恋愛活劇SSサイト(のつもり)。

『アギトは……もうすぐ死にます』
『まだ早い。アギトは貴重なサンプルだ……アギトを殺してはならない』
                                                                【仮面ライダーアギト 第14話「最強キック」(2001年4月29日放送) より】


自称“初心者呪文使い”の少女、エオスとカイトが出会ってから早一ヵ月。


「カイトっ! 次は何処のエリアに行くの?」
「エオスが行きたいところでいいよ。ついてくからさ」
「わーいw」


春が訪れる一方で、未だ冬は続く。
例えば、


「うぬぬ……マジなんなのよ、あの子!? 四六時中ベッタリしちゃってぇ〜!」
「ブ、ブラックローズさん、落ち着いてくださいっ」
「カイトさんに聞こえてしまいます……」
「あ……ご、ごめん」


彼女達の周囲などが良い例だろう。
カルミナ・ガデリカのカオスゲート前で楽しそうに談笑するカイトとエオス。
そんな光景を隠れて見ているブラックローズが黙っていられるはずもなく……こうして良子となつめの2人に窘められるのであった。


「あの、ブラックローズさん……こういうコトはカイトさんに対して失礼なのでは?」
「なつめ達が尾行に向いているとも思えませんし……」
「で、でも、やっぱ気になるじゃないの!」


女三人寄れば姦しい、とはよく言ったものだ。
魔天楼の街並を縫うように三人の少女PCが、双剣士の少年と呪紋使いの少女を尾行していた。
プライベートチャットによる守秘会話であるものの、これだけ騒いでいれば周囲には彼女達がカイトを尾つけているのはバレバレである。




「(ブラックローズ達……また僕を尾けてるのか。信用ないなぁ)」




カイト本人にもバレバレであったが。


「アイツもアイツよ。私達が居ながら、毎日ああやってエオスと遊んでばっかだし!」
「ブラックローズさん……まるでお局様ですね……」
「ああん!?」
「す、すみません……」


だが、なつめの「お局様」という指摘は強ち、間違いでもない。
事実この3人の中ではブラックローズが一番の古参メンバーに当たるのだ。
後からカイトとメンバーアドレスを交換しパーティに加わったなつめや良子とは修羅場を潜った数もキャリアも違う。
そういう意味では、なつめのツッこみは正しいのだった。


「……そりゃ、私だって少しはエオスに嫉妬してるわよ。
 いつも仲良くしてた友達が急に他の友達と話したり遊んだりするようになったら、2人だって少しは不安になるでしょ」
「まぁ……それは……」
「分からないお話ではないのですが、カイトさんは男の方ですので……良子はちょっと……」
「でも寺島さんにとっても“初めて”の男友達でしょ。ソイツが他の女と仲良く遊んでんのよ。ちょっとは気になるでしょーが」
「ああ、なるほど」


随分とズレてはいるが、良子もそこそこカイトとエオスの関係が気になっているらしい。
でなければ品行方正な両家の子女たる良子が、尾行などという下世話な行為に手を貸したりはしないだろう。
或いは只の好奇心が齎した結果かもしれないが。


「とにかく……あのエオスって子の真意を確かめるわよ」
「真意、ですか?」


これに疑問を持ったのがなつめだった。
恋愛経験が浅い為いまいちピンと来ないらしく、ブラックローズの言葉の意図が読めないのだ。
彼女の言いたいコト、どうしてエオスがカイトとあんなに仲良くしたがっているか……ということに。


「そりゃ見た目は可愛い女の子のエディットでしょーよ。
 けど、もしプレイしてるのが40過ぎのアラフォーおばさんとかだったら? 
 カイトをリアルで呼び出して、あわよくば……」
「ま、まさか……」
「カイトさんに限ってそんな……」
「分からないわよぉ? アイツ、誰にでも優しいんだもん。
 エオスの方から『会いたい』って言われれば、オフで会っちゃうかもだし」


エオスをプレイしているのは誰なのか……それは良子達も多かれ少なかれ気になっているコトだった。
年齢や性別をそのまま反映させてプレイキャラを作成するプレイヤーは多い反面、
男なのに女性キャラをエディットしてプレイしたり、女なのに男性キャラをエディットしてプレイしたり……
といった逆転現象は昨今のネットゲームでは珍しくない。
見た目は10代の美剣士が、オフ会を開いてリアルで会ってみると実は中年のオジサンだった……などという話もゴロゴロしている。


「私達みたいに歳と性別に合わせてキャラ作りしないで、このゲームを遊んでる人だって相当いるはずでしょ?」
「で、では、エオスさんも本当は中年女性もしくは男性……という可能性も……」
「当然、あるわね」
「じ、実は、若い男の子しか恋愛対象に見れないお兄さんがプレイしている、ってコトも……?」
「か、かもね」


人のいいカイトのこと。
メールで呼び出されれば、誰彼構わず疑いもせずにホイホイついて行ってしまうに決まっている。
ゲームでもリアルでもそれは変わらないはずだ。


「いい? もう一刻の猶予も無いの。 
 カイトは100%エオスのコト信じきっちゃってるみたいだけど、コレってそーとーにヤバイ事態なワケよ。
 下手したらアイツ、もう自分と同じ年頃の女の子を恋愛対象に見れない身体に……されちゃうかも」
「「 !? 」」 


それは困る。非常に。切実に。


「……尾行を続けましょう」
「……そうしましょう」
「だから私、2人とも好きなのよ」


紆余曲折を経て、何だかんだで目的を共にし一丸となる3人であった。


「あっ、カイトさんとエオスさんがカオスゲートで移動するようです」
「2人とも、ゲートの行き先アドレスを頭の中に叩き込むのよ!」
「スターゲイト・アトランティスの1話でもシェパード少佐が同じコト言ってませんでしたか……?」


そうこうしている間にカイトとエオスはカオスゲートからフィールドへと赴いてしまう。
取り残されたブラックローズらは気が気でないが、運良く彼らの行先であるフィールドのアドレスは目撃することが出来た。
行くなら今しかない。
カイトとエオスの逢瀬を有無を言わさず邪魔……ではなく、正体不明の少女の真意を確かめる為に。


「行くわよ、2人ともっ!」


カルミナ・ガデリカの朗々たる魔天楼に、ブラックローズの気合いのこもった号令が轟いた。










.hack 番外編 

                               新たなる変身










「いっくよ〜! バックドォ〜ンっ!!」


雲の切れ間から鈍く淡い光の差し込む、荒涼とした赤茶けた大地。
エオスの詠唱と共に幾つもの火球の礫がモンスター達に降り注いでいく。
そして、立ち込める爆炎から逃れようと右往左往する敵目掛けて突進する双剣士の少年が1人。
言わずもがな。


「蒼炎舞……」


この世界の核心に触れ、女神に最も愛された少年――――――勇者カイト。


「はああぁぁぁっ!!」


エオスの詠唱したバクドーンの紅い炎がカイトの呟きと共に、より高温たる蒼い炎へと色彩を変える。
これより攻撃ターンはエオスからカイトへと移った。
レベルの低いエオスが前衛を務めるよりも、レベルの高いカイトがトドメに回った方が効率が良いからだ。


「はぁッ!!!」


双剣に蒼き炎を宿らせ、カイトはキッと敵を見据えたまま、大振りに剣を薙いだ。
蒼炎の刃が波打ち、モンスターの群れを焼き尽くしていく。ジュッと影だけを残し、敵は跡形もなく消え去った。
元々出現する敵のレベルが低めに設定されているエリアだけに、カイトの強さが一際輝いているようだった。


「ふぅっ……よしっ、こんなもんかな」
「カイト、すごいすごーい!」


レベルに差はあれど、まるで長年連れ添ったパートナーのようにカイトとエオスの息はピッタリだ。
全職業中最速を誇る双剣士のスピードを活かし、鈍足の呪文使いをサポート――――――――――――バクドーンとの連携攻撃。
これまで培った経験を駆使してのタクティクスバトル。
ここ最近のカイトは頭脳戦も得意とし始めたらしい。


「カイトと一緒なら負けなしだね!」
「それ言い過ぎ(苦笑)」
「だってホントだもん。カイトってすごく強いじゃない」


カイトのプレイ時間はまだ半年ちょっとではあるが、エオスの言う通りだった。
動きに無駄も迷いも無い。これまで潜った修羅場の数が基本的に他のプレイヤー達とは違うのだ。
例え格下の相手であっても倒す時には躊躇が無い……無我故の強さが、カイトには在る。


「もっともっと一緒に冒険しよっ!」
「わっとっと……エオスったら(汗)」


無邪気にカイトの胸へと飛び込んで来るエオス。
コントローラー越しに彼女の柔らかな感触が伝わってくるようだ。
女の子にまるで興味無しのカイトでも、これには少し参ってしまう。


「カイトぉ〜♪」


故意かどうかはともかくとして、とにかくエオスはカイトにくっ付いてスリスリするのが好きなのだった。


「ぬぅわにぃが『もっともっと一緒に冒険しよっ!』よぉ……! ふ、ふ、ふ、ふざけんじゃないわよぉ〜っ!!!」
「だ、大胆な人ですね……エオスさんって……」
「カ、カイトさん……全然嫌がられていませんね」


―――――――――そんな甘ったるい雰囲気の男女を、さも面白くなさそうに遠くの岩陰に隠れて凝視する少女達。
カイトとエオスを尾行してフィールドまでやってきたブラックローズ、なつめ、寺島良子ら3人のお嬢様方だ。
三者三様の反応を見せつつ、カイトとエオスの一挙手一投足に注目する3人。
それぞれの心中も穏やかではない。


「(てかアイツもアイツよ、なに考えてんの!? 半年以上ずっと一緒だったアタシのコトなんか忘却の彼方って感じで……ム、ムカツクっ!)」
「(あ、あれ? カイトさんってブラックローズさんが好きだったんじゃ……? でもブラックローズさんの様子を見る限りだと……あれっ、あれっ?)」
「(や、やはり、こういう覗き見はよくないのでは……ああ、でも気になりますし……申し訳ありません、カイトさん。良子は悪い子です……)」


今や勇者のストーカーと化した3人の少女の若き悩みは尽きない。


「じゃ、次の魔方陣と行こうか」
「うんっ」


そんな彼女らの心情を知ってか知らずか、カイトはエオスと共に次々と魔方陣から飛び出てくるモンスターを撃破していく。
面白いようにエオスのレベルが上がっていき、カイトが敵を倒す度に歓声を上げて……心底、エオスはカイトと一緒に遊ぶのが楽しいようだった。
クルクルと表情を変えるエオスをカイトも憎からず思っているらしく、こまめに回復や補助をしてサポートしている。
まさに、オルカが意識回復後BBSに何気なく投稿した「ドットハッカーズのリーダーは困っている人を見捨てない人情の人」を、カイトは実践しているのであった。
……単に人がいいだけなのかもしれないが。


「カイト?」
「……エオス。下がってて」


フィールド上の魔方陣もラスト1つ。
このまま制覇と勇み足だったエオスの声が、カイトの沈黙と共に止まった。
明らかに今までのお気楽ムードではない。魔方陣から溢れ出す邪悪な瘴気を感じ、カイトはゆっくりと双剣を構えた。


「な、なに……?」
「エオス……下がってるんだ。コイツは君の敵う相手じゃない」


而して、魔方陣から現れたのは。


『ガシャン、ガシャン!』
「サ%ッカ*……ウイルスに侵されて変異したサソッカー……! どうしてこんなレベルの低いエリアに……!?」


二つのハサミとシッポを振り翳し、全身のテクスチャが綻びた巨大なサソリ型モンスターが踊り出てきた。
身の丈ならゆうにカイトの2〜3倍はあるだろうか。
低レベルモンスターしか出現しないよう設定されているエリアには似つかわしくない程に高い。
ザザッ、と。サ%ッカ*が躰を動かす度、周囲のグラフィックがブレる。
地母神モルガナの生み出した悪意の残滓たる証だった。
主亡き後も、こうやってたまに現世に迷い出ては冒険者を襲っているのである。


「カイト……」
「大丈夫、アイツは僕が倒すから!」


言うが早くカイトはウイルスバグに立ち向かう。
エオスが少々気になるが、後方に下がらせて自分が敵の注意を惹きつければ問題なく戦える。
少なくともカイトは現時点でそう判断した。経験上、ウイルスバグは腕輪に惹かれて現われている。
つまり、自分が自ら囮を買って出れば周囲の人間は傷つかずに済むと……そういう話なのだ。


「行くぞっ!!」




蒼 炎 態 ( バ ー ニ ン グ フ ォ ー ム ) !!!




「フゥウゥ……!」



変神の掛け声と共にカイトの周囲に蒼い炎が渦巻き、後光(オーラ)がその躰を包んでいく。
超高温の蒼い炎はまさしく灼熱、業火と呼べる猛き勢いを持ち、
カイトの躰からグツグツとマグマが煮え滾るかのように吹き出してくる。口から吐く息はまさに気炎。
カイトが本気で戦う時のみ使用する強化形態。それが“燃え盛る業火の戦士”こと蒼炎態(バーニングフォーム)。
以前ブラックローズが単騎でウイルスバグとの戦いに臨んだ際、
助けに入ったカイトは本能的に蒼炎を操る能力を身に付け、以来ウイルスバグとの戦いで頻繁に使用するようになった。
蒼い炎を自在に操る姿から「蒼炎のカイト」と彼を呼ぶ者も居る。蒼天のバルムンク、蒼海のオルカに次ぐ三人目の蒼き戦士、蒼炎のカイト。
名実ともに、勇者としての実力を確固たるものにしつつあるカイトなのであった。


「一気に畳み掛けるっ!!」


自分と敵の間合いを把握しつつ、
シッポとハサミによる攻撃の警戒も怠ることなく、カイトはサ%ッカ*に真っ正面からぶつかった。
一撃ニ撃と蒼炎を纏った双剣と鋼鉄よりも頑強な2本のハサミが激しくぶつかり合い、鈍い音が耳を劈いていく。


『%#$\%&……!!!』
「くっ……硬いヤツだな……っ!!」


だが殆ど相手にダメージを与えられていないのはカイトも承知。
ウイルスバグを殲滅させるにはある程度HPを削った後でのデータドレインしかない。
普段ならブラックローズや仲間達がサポートをしてくれるのだが、生憎と今日はプレイし始めたばかりの自称“初心者”のエオスしか連れていない。
必然的にカイト単独で一連の作業をこなす必要があった。


「(僕1人でも……やってみせるっ!)」


僅かに後退する素振りのステップを踏み、敵の攻撃を空振りさせるカイト。
ややハサミが髪の毛を何本か削り取ったものの、見切るのはそう難しくなかった。
次の瞬間にはシッポの追撃があったが、それも軽やかに回避し、身構える―――――――――――敵への視線を逸らすことなく。
カイトの周りの土が見る見る焦げていき、蒼炎が彼をグルグルと取り囲み始める。
いわゆる火炎旋風と呼ばれる現象だった。
業火の渦がカイトを中心に収束し、台風のように高速回転しながら轟々と燃え盛って……やがて、文字通り爆ぜた。


「これで決めるっ……!!」


カイトの双剣がその形状を三つ叉に変え、合計六本の炎の爪となってサ%ッカ*を襲う。
既にサ%ッカ*の周囲は蒼炎に囲まれており、逃げる場所は何処にもない。
勝利を確信し、双剣を握る腕にカイトは全身全霊の力を込めて――――――――――――必殺の一撃を、炸裂させる!





蒼炎・獄炎双竜刃!!!




轟音と共に、まるで爆撃でもあったかのような巨大な火柱が上がる。
同時に地鳴りと土砂を巻き上げる猛烈な旋風が起こり、辺り一面草一本残らず焼き尽くされていた。
技を放ったカイト自身は蒼炎の後光(オーラ)に守られて無事だったが、これではとてもウイルスバグも生存してはいないだろう。


「カイトー、大丈夫ーっ!?」
「大丈夫。……何とか、倒せたみたいだから」


戦いに巻き込まぬよう、かなり遠くまで退かせたエオスから心配そうな声が届く。
カイトはエオスの方へと振り返ると、大きく手を振って無事を伝えるのだった。
彼女の心配は杞憂に終わった。
ウイルスバグは今の攻撃で完全に消滅したのだ。
勝った……何だ、データドレインを出すまでも無かったじゃないか。
カイトは改めて自身の勝利を確信する。
だが――――――――――――――――――――――――



「! ……カイトっ、後ろっ!!!」
「えっ?」







ドスッ






「がっ……!?」


回避する間もない、一瞬の出来事だった。
地面から生えた長く鋭いシッポがカイトの背中に突き立てられていた。
幾つもの関節からなる硬い皮膚に覆われた鋼鉄のシッポは、そのままメリメリと少年の身体へと突き進んでいく。


「あっ……ぐぁっ……!?」


やがて、カイトの胸からシッポの先端部が飛び出してきた。
針のように尖った先端から滴るのは猛毒の体液。それもカイトが苦痛の声を洩らす程の。


「(コイ、ツ……どうして……!?)」


獄炎双竜刃で確かに倒したはず……だが倒せていなかった。
恐らくは攻撃の瞬間、地面の下に深くに潜ることで生きながらえていたのだろう。
そしてこちらの隙を伺い、地面からシッポを突き出して攻撃!
明らかに今までのウイルスバグとは違う。
知恵を持っている。神なき知恵は、知恵ある悪魔を時に生み出す。このウイルスバグのように。
否、もはやウイルスバグではない。ウイルスバグをも超越した生命体……新たな、未知なる敵(アンノウン)。


「カ……カイトぉ!」
「来ちゃダメだっ! エオスは……逃げる……んだっ……!!!」


エオスの悲痛な叫びが、朦朧とするカイトの意識を何とか保させている。
神経毒の類か……手足の自由が思う様に効かない。何らかの方法でカイトの脳内に活動を緩慢化させる電気信号が、この毒液から出ているのだろう。
これにはカイトも堪らず、自室の中で小さいながらも苦痛に満ちた呻きを溢した。
腕輪を授けられたカイトが、まさかの大苦戦。普段なら有り得ないことだ。
それだけで、この敵がこれまでのウイルスバグとは別格の知恵を持つ戦術家だということが伺える。



「蒼炎……舞っ!」



歯を食いしばり、カイトは再び自身の身体に蒼炎の後光(オーラ)を纏う。


『ギギッ……』


これだけの至近距離からの灼熱地獄……さすがにサ%ッカ*も身の危険を感じたのか、獲物のカイトをようやくシッポから解放し一旦退いた。
ドサリ。地面に叩きつけられたカイトはピクリとも動かない。
いや、よく見ると小刻みに動いてはいる。
けれど双剣を握る手には力が入らず、思う様に声も出せないでいた。
帽子は転げ落ち、腹には大きな穴が飽き、おまけに全身の血が凝固したかのように寒気が走る。
動悸も激しい。こんな攻撃をしてくるウイルスバグはこれまで居なかった。
やはり未知なる敵(アンノウン)だ。容易に単独で戦いを挑むべきではなかった。
エオスを連れてフィールドから逃げ出せば良かったのだ。


「カイトっ、カイトぉっ!」
「逃げ、て……エオ……ス……」


逃げろという警告にも関わらず、カイトの元へ泣きながら駆け寄ってくるエオス。
だが無情にもサ%ッカ*はカイトに毒が廻り切ったことを悟り、トドメを刺さんと炎が消えたのを見計らい、徐々に近づいてくる。
今の自分なら1人で何とかできるという驕りが招いた誤算。
自分は勇者だから。そんな小さな自尊心から生まれた大きな隙が、こんな結果を招いてしまった。


「カイトぉ……しっかりして、カイトぉ!」
「ごめん……エオス……」


エオスの叫びが遠のいていく中、カイトは彼女に詫びた。
意識が段々と朧になって……これが死なのかと自覚するのに時間はかからなかった。
死への恐怖はない。
ただ、目の前の少女を守り切れなかったことと……
まだ“あの子”に自分の口から真摯な想いを伝えていないのが口惜しく、無念だと。
カイトは己の非力さを呪いながら、緩慢な死を迎えようとしていた―――――――――――――――――――――――――――――















「腕輪を持つ少年が……死にかけています」


何処とも知れぬ見渡す限りの白亜の世界。
椅子に腰かけた白髪の男と、彼に寄り添うようにして佇む薄紫色の髪の少女が居た。
2人の周りには何十冊という本と、何十体ものぬいぐるみが散乱している。


「動き出している未来は、止められない」


その先のポシビリティ(可能性)。
もし《The World》にそんなものがあるとしたら、それはカイト無しには起こりえない奇跡だった。
彼女は彼に大恩がある。
この日本という精神土壌を器に涅槃に達し、悟りを得ることが出来たのは彼の教えてくれた自己犠牲の心があったから。
自身の命をも顧みない行為。それにただ、従う本能。強くなる想い、願い。
それにただ、独り動く―――――――――――――――――律動、呼び合う魂。
世界が開けた瞬間。
目覚めろ、その魂。


「ならばカイトに―――――――――――――――――新たな力を与えましょう」


目覚めろ、その魂!                                                                                【 TO BE CONTINUED... 】

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