「.hack//G.U.」と「コードギアス 反逆のルルーシュR2」と「LAS(LMS)」と「ゴッドイーター」と「仮面ライダーディケイド」の荒唐無稽恋愛活劇SSサイト(のつもり)。

「さっきのハセヲすごかったよねー」
――――――
「3人にボコられてたのが嘘みたいな勝負だったよな」
――――――
「ちょっと? 聞いてんの、太白」
「聞こえている」


竜賢宮・宮皇の間。
眠らない闘争の街を眼下に見据えながら微動だにしない元宮皇に話しかけるPC。
異国の女給の様な出で立ちの撃剣士――――元TaN暗部メンバーの三郎である。


「何てーのかな。
 人が変わっちゃった?みたいな。
 一時期ハセヲを追い回してた私でも、あんなあいつは見たことなかった」


本来ならば宮皇しか足を踏み入れぬことを許さぬイコロ、
それも竜賢宮・宮皇の間にドカッと居座ってあぐらをかく辺りが彼女の、
いや彼の真骨頂とでも言うべきか。だが太白に咎める様子はない。
トーナメントのパートナーとして彼女と手を組んだ以上ゲストキーの譲渡は
当たり前の流れ、元宮皇という肩書きになってしまった現状ではこんな場所は聖域でも何でもない。


「あんたはどう思う? ね、ブラックジャック先生?」
「……彼は外科医だ。私は脳外科が専門なのだが」
「じゃー尚更じゃん。
 ヒトの頭の中覗くの趣味なら、それなりに精神分析とかできるんじゃないの?」


太白こと黒貝敬介が医者、それも脳外科医であることを知るのは三郎のみ。
メンバーアドレスを交換したその日からメールのやりとりを開始、
普段は寡黙でプライベートなことなど語らない彼だが彼女の巧みな話術で
ある程度の個人情報を漏らしてしまっている。その最たる例が彼のリアルでの職業だった。
だが脳外科は脳血管障害や腫瘍、外傷の治療を専門としている医療分野であり
脳神経科学や精神医学とは源流が同じとは言え、今では全くの別分野と言っていい。
だが確かに彼女の言う通り、他人の脳を覗き見ることは他人の「心」を覗く行為に似ている気もする。


「アリーナは《The World》の中で最も“狂気”“熱気”“怒気”に満ちた場所。
 CC社によって設けられた言わば公共のPK場だと私は思う。
 思えば一連のAIDA騒動はいつもあのアリーナが発端となっていた……
 エンデュランス、ボルドー、天狼、そして私。
 古代ローマの闘技場然り、闘争本能を閉じ込めた場所は人を狂わせる力を持つ。
 時に人としての制約すら越えて」
「つまりハセヲは戦ってる最中にイッちゃったってコト?」
「かもしれない。そうでないかもしれない。いずれにせよ我々の関知すべき問題でもない」 
「他人の事情がどうあれ、障害になるなら排除ってワケか」


ハセヲとは痛みの森の一件以来の付き合いの太白だが
AIDAの感染から解放してくれたことと今回のトーナメントは全くの別問題。
元々はアリーナに滞在することで《The World》がプレイヤーに及ぼす影響を調査していた
彼にとって宮皇の肩書きなど微塵の興味もない。むしろ新たな竜賢宮の宮皇となったハセヲには感謝さえしている。
だが未だにこの竜賢宮・宮皇の間に佇む自分を見るとある種の固執にも似た感情が自分にもあったのだと
時々彼は考えるようになった。これもハセヲとの出会いやAIDAに感染したことによる“影響”なのか……。


「先生も物好きだよね。
 人の命救うドクターがネトゲじゃ人救うどころか倒してんだし」
「私にとって他のプレイヤーは言葉を発するオブジェクトに過ぎない。罪悪感など沸きはしない」
「うはw 私も煩いオブジェクトの1つなんだ?」
「あぁ」
「……センセ。友達あんまいないでしょ」
「……」
「そんなヒトがどーしてネトゲなんか始めたんだろーね。
 自分以外のプレーヤーがそんな風に見えるんならさ、やっててつまんなくない?」
「最初のうちはな」


どうせマトモな応えなど返ってこないと思っていたが、意外なことにちゃんと返ってきた。
普段ならば深入りしないように他人と一定の距離を置く三郎も
元暗部の血が騒ぐのか、彼がそこまでしてこのゲームに拘るのかを知りたいと言う
欲求がだんだんと大きくなっていくのが分かる程に。
これはアレだ、株のネット売買で一喜一憂する時よりもスリリングかもしれない。
自分にはない天才的な才能を持つ男の一面をもっと知りたい。ただそれだけなのに。


「だが《R:2》にバージョン移行して以来このゲームは姿を変えた。
 チェーンソーやメスを思わせる武器類の登場に加えPKシステムの公認とアリーナ制度。
 何か“悪意”めいたものを感じずにはいられなかったのを覚えている。
 それこそ私の求める“影響力”を調査するには相応しい場所だと……そう判断したのだ。
 気がつけば竜賢宮の王座を手に入れ、そして王座を譲り、それでも尚、君と未だにここに居る」
「つまりセンセは、あるかどうかも分かんない“影響力”ってのを確かめるために
 このゲームやってたってコト? ……医者って結構ヒマなんだな」
「医療もゲームも大差はありはしない。
 患者が来れば治療し、私に挑む者があれば倒す。
 助かる患者がいれば死ぬ患者もいる、ゲームを続ける者がいれば辞める者もいる。
 医者と言っても所詮は客商売だからな。患者がいなければ食っては行けない。
 宮皇も同様。挑戦者がいなければ名ばかりの存在に過ぎない」
「ご高説どーも」


彼なりの美学に乗っ取って太白というPCを動かしているのは分かった。
だがさすがと言うべきか三郎が知りたがる核心には触れさせてもらえない。
彼と組むことで少しは人物像が見えてくるとは思ったのだが……これならハセヲを追い掛け回して
パイに情報を流していた頃の方がずっと楽だ。
他人の頭をいじることを職種に選んでいるだけあり、彼自身も頭の中を覗かれない術に長けている。
太白の底知れぬ知性や呆れる様な気の長い調査理念とやらも内包するその頭脳。
最強と目される竜賢宮の宮皇を伊達に名乗っていたワケではない。


「先生にとってハセヲも調査対象? 今回のトーナメント参加はリベンジ?」
「そんな大層なものではない。私とて……純粋に調査を抜きにプレイをしたい時もある」
「じゃ私と組んで出場したのは?」
「……痛みの森の深部まで来れたのはハセヲと君だけだったと記憶している。
 君の実力を認めた上でメンバーアドレスを交換し仲間としてトーナメントに誘った。
 それ以上の理由が必要かね、お嬢さん」
「いえいえw」


銃戦士である太白はどちらかと言うと遠距離戦タイプに属する。
本来ならば接近戦で剣を振り回して攻撃するのが妥当なのだが、太白はそれを良しとせず
遠距離からの発砲で距離を詰めながら接近、あるいは反撃する暇も与えずに殲滅する戦法を好む。
武器コレクターとしても知られる彼はこのゲームの特性を理解するために
あらゆる武器を収集し、例え自分が装備できない武器でさえも熟知することで戦いの際に対応する。
気の遠くなるような作業だったが、レア武器を手に入れると言う利点においては
竜賢宮宮皇の肩書きは最大限に利用できたと思う。宮皇からのトレードの申し出を断る輩など滅多にいなかったから。


「驚いた。あんた結構私のこと買ってくれてたんだ」
「評価に値すべき者は素直に認める。術式もゲームも、1人では成立しない。
 私にメスを渡す者、私の汗を拭う者、私に時間の経過を告げる者。何事にも補佐をする者が必要だ。
 総合的に見て君は私の助手に成り得ると判断したから共に出場することを決めた。
 それ以上のことは求めないし期待もしない」
「うへぇ……ま、センセのご期待に沿えるよう明日の試合も頑張るけどサ」


ここからは三郎も知る由もないこと。
太白こと黒貝医師がこのゲームを続ける理由はもう1つある。
そもそも彼がこの《The World》を始めたのは、1人の少年との出会いに起因する。
まだ彼がインターン、つまりは医学研修生だった頃携わっていた病院で出会ったその患者。
ゲームをプレイ中に意識不明となって病院に搬送され、ほぼ半年以上も眠り続けていた彼。
その名は7年経った今でも忘れられない。彼をこのゲームに導いたその出会い。
患者の名は三崎亮。
小学4年生の少年だった。まだ黒貝が愛知県ではなく東京都にいた2010年初頭の出来事。


「(当時の私は……無力な学生に過ぎなかった)」


ゲームで遊んでいた子供が意識不明となり
全国の病院に担ぎ込まれている――――――研修生だった黒貝らの間でも
そんな噂が実しやかに流れていた。
脳外科医を目指す黒貝も脳神経外科に配属された友人を通して噂に興味を持ち、
ゲームが人体の脳に及ぼす影響を彼なりの解釈に基づいて密かに解明しようとも思い始める。
しかしいくら彼が天才的な頭脳の持ち主と言っても研修生ごときでは真実に辿り着くことなどできはしない。
大病院とて研修生ごときに患者の秘密は漏らさない。だが彼は諦めなかった。
独自に築いていたネットワークを駆使し、都内と他県の病院で研修していた友人らからのリークで
ゲームが原因で意識不明となったと思わしき数人の患者の存在を知ることとなる。


「(荘司杏……香住智成……仁村潤香……そして三崎亮)」


彼の知る限り、この4人が《The World》をプレイ中に意識不明となり、各県の病院に搬送された。
もっと丹念に調べれば他にも意識不明者を発見できたかもしれないが
一介の研修生にもできることとできないことがある。
都内で入院していた3人と石川県で入院していた1人を突き止めるのが精一杯だった。
病院側から睨まれることを警戒した黒貝は友人らと密に連絡を取りながら
彼らの意識が戻るのを待った。その内、荘司杏の意識は2010年初頭に回復。残る3人の回復を待つ。
黒貝の研修していた病院に入院していたのが三崎亮。荘司杏が目覚めた日に意識不明になった少年。
以降、彼の病状の観察が黒貝の日課となる。


「(点滴によって繋ぎ止められていた命……だが彼の魂と呼ぶべきモノは、あの場にはなかった)」


荒唐無稽な話かもしれないが、黒貝はあの三崎亮の精神は彼の肉体にあらず
ゲームの中にあるのではないかと日々確信を募らせてゆく。
脳波は正常に見えて異常、電気信号も何処かおかしな所があった。
しかし誰が信じるだろう。担当医師に話すべきか?
いや話したところで信じてはもらえないだろう。何せ黒貝自身も信じられないからだ。
ゲームが人の意識を奪い、あまつさえ取り込み、その精神が未だにゲームの中を彷徨っているかもしれないなど。


「(だが奇跡は起きる。あのクリスマス・イヴの夜……意識不明者全員が目を覚ました。
  意識不明となった原因が分からないからと、ロクに治療もされずに眠り続けていた全員が……)」


何故かは分からない。あえて言うならば奇跡か。
2010年12月24日、少なくとも《The World》の中で何かがあったのだ。
それが原因で意識不明者達はほぼ同時にこちらへ戻ってきたのではないか、今もそう思う。
安っぽい奇跡などという言葉では片付けられない、それこそ人智を超えた何かがそのゲームの中にあるのではないか?
徐々に黒貝の興味は三崎亮という患者から《The World》へと移って行く。
ただ、後に少年を精密検査したところゲームをプレイしていた記憶が全て抜け落ちていたこと、
記憶障害と思われる症状が見つかる。彼の両親は子供をゲームから遠ざけるために伏せようとしていた様だが……。
ならその抜け落ちた彼の記憶は何処へ行った? 黒貝の疑問は尽きない。
結局、黒貝敬介と一言も会話をかわすことなく三崎亮は退院していった。
彼らが次に出会うのは7年後、2017年の3月。痛みの森の奥深くで。
今度は研修生と患者ではなく、銃戦士の太白と錬装士のハセヲとして。無論、当人達は気づかないまま―――――――


「(あの子供……三崎亮だったか。今どこで何をしているのか……)」
「おーい。太白先生ー?」
「……悪いが、私はこれで失礼する」
「もう落ちんの?」
「それなりに忙しい身だ。医者に休日など有りはしない」
「AIDAに感染して何日も竜賢宮でハセヲ待ってた人がよく言うw」


それを言われると痛いところもある。
事実、榊の謀だっととは言え太白のプレイヤーである黒貝敬介は
数日に渡り病院を休み続け、《The World》にログインし続けていた。
たまたま誰も重病人が出ず、手術の予定がなかったから良かったものの……
黒貝とてブラックジャックを気取るつもりは毛頭ない。
しかしながら彼の手腕でしか救えない患者がいるのな確かなこと。
医師としての自分と太白としての自分、どちらを優先すべきかは分かっているつもりだったのに。


「センセは医者もやりながらこれからも続けるんでしょ。このゲーム?」
「救える命があれば救う。
 救えなくても可能性があるならベストは尽くす。
 他者の命を扱う仕事を選んだ以上、時に誰かの死に直面することを覚悟せねばならない。
 私と全く縁も所縁もない他人であっても命を預かる以上は相当の覚悟が試される。
 技術は確かに医者に必要なスキルだ……だが医療の現場で最初に必要となるのは精神的なタフさを身につけること。
 私もまだまだ覚悟が足りないと見える。
 しかし仕事とゲームは別問題として扱いたい、そんなところだ」
「よーするに、夏休みになっていっぱい楽しいことするぞーって決めてたのに
 無駄に時間が過ぎていざ気がつくともう最終日、宿題全然やってないよー!ってシチュに似てる?」
「……生憎と宿題は初日で終わらせていたものでね。君の言っていることが理解できない」
「ご立派!」


やはり彼と三郎では生き方自体が違う。
でも収穫もあった。
最初はトーナメントなんて面倒だなー程度だったのだが
太白の意外な一面を見れることがこんなに楽しいとは思わなかった。
それに勝ち進めばハセヲとも戦える。
痛みの森以来ご無沙汰でつい最近再会したばかりだが、あの頃とは見違える姿となった彼との再戦が待ち遠しい。
もうTaNもG.U.の任務も気にせずに遊べるようになった今、三郎を束縛するものは何もない。
日々の生活はいつもギリギリ、でもそれがいい。


「明日はどのチームと試合なのかなー? いきなりハセヲ達とだったりして」
「その時になれば分かる。誰が相手だろうと負けなければいい。違うか?」
「そりゃそーだ」


今回のトーナメント、何を意図して開催されたのかは三郎には分からない。
表向きはAIDA事件で離れたユーザーを呼び戻すためとも言われているけれど
そんなやり方、CC社らしいと言えばらしいのにどうにも腑に落ちない。
太白の言っていることが正しければアリーナは“影響力”の中心。
寡黙な彼をも饒舌にさせる何かがあそこには潜んでいるのかもしれない。
しかしAIDAは既にハセヲ達によって駆除されたはず……では何があそこに?


「とーとつだけどさ。先生は神様って居ると思う?」
「信じる者には説明は無用、信じない者には説明は無駄……そういう存在と認知しているが」
「いや、居るかどうかって聞いてんだけどね」
「……この世界に限っては居るかもしれない。
 だが人は所詮、人でしかない……神には成れんよ」


彼の言葉には確信めいた含みがあった、少なくとも三郎はそう感じた。
だがこれ以上の押し問答はごめんと言わんばかりに太白は踵を返し、王者の間を出て行ってしまう。
仕事が忙しいのか、それともそれ以上話すことはないと思ったのかはさておき。


「でもさぁ。少なくとも患者にとってアンタは神様だよ、先生」


【 TO BE CONTINUED... 】

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