「.hack//G.U.」と「コードギアス 反逆のルルーシュR2」と「LAS(LMS)」と「ゴッドイーター」と「仮面ライダーディケイド」の荒唐無稽恋愛活劇SSサイト(のつもり)。

『どんな些細な勝利でも、一度自分に勝つと人間は急に強くなれるものである』


【マクシム・ゴーリキー  ロシアの作家】

『太白の奴、接近戦に切り替えやがったな。
 揺光のスピードを考えりゃ、
 あそこまで接近されての銃での攻撃は逆に不利……だったら、剣での攻撃で接近戦に持ち込んだ方がいい』
『魔銃シュレディンガーのガード無視のアビリティも活かせる、そういうことでしょうか!?』
『だな。接近戦は望む所って感じじゃねぇのか?』



「ハセヲ、揺光がんばってるね!」
「太白さん相手に、すごいぞぉ〜!」
「そ、そうだな……」


智香……確かに強くなってる。
俺と紅魔宮トーナメントでやりあった時は……
俺がスケィス喚んじまったせいで、あんな結果になったけど……あれは、お前が強かったから思わず喚んじまったんだ。
憑神を使わなければ俺が負けてた……あの頃の俺は、志乃を助けるためなら何をやってもいい、
そんなコトしか考えるこのできない馬鹿だったから……。
でも、智香は……憑神なんかなくたって、碑文使いじゃなくたって、太白とあそこまで戦えてる。
すげぇよ、お前は。
俺は……お前の、智香のそういうところに……いつも頑張ってる姿に、惹かれたんだ。


「やるわね。揺光も」
「パイ? あんた、知識の蛇に戻ったんじゃなかったのか」


気がつくと。
俺達の試合が終わった後さっさと姿を消したパイが戻って来ていた。
八咫と一緒にカールが試合中に何かやらかさないか、監視するんじゃなかったのか?
てか……何ニヤニヤしてんだ、この女。


「今日1日はトーナメント観戦をしていていいそうよ。
 あの子達の試合も途中までは知識の蛇の中で見ていたのだけれど……追い出されちゃったわ」
「追い出した? 八咫がか?」
「言い方はとても丁寧だったけどね。まぁ……八咫様なりの考えがあってのことでしょうけど」
「……」


妙だな。
1人でコソコソ何やってんだ、アイツ。
いや……1人とは限らねぇけどさ。


「愛しの彼女が頑張ってるのに、あんたは応援してあげなくていいの?」
「パイまで何言い出すんだよ」
「だってエンゲージまでしたのに……釣れない、いいえ、つれないじゃないの」
「そりゃ、そうかもしんねーけど……」


何で俺達の関係に他人が口挟むのか理解できねー。
俺と智香はアレだ、心で通じてんだから声荒げて応援とかしなくてもいいんだよ。
届かない声なんて、きっと無いって言うだろ? 
俺と智香はまさにそれだ。
俺は俺なりに智香のこと大事にしてるし、優しくしてるっつーの。


「ハァ。まだまだガキね」
「んだとっ!?」
「恋愛の駆け引きは初心者同然ってこと。可愛いわw」
「……ほっとけ」


滅多に恋愛しねぇあんたに言われたくねーな。
俺だって昔は……昔は、何だっけか? 
また何かを思い出しそうになったぞ。
壊れた映写機みてぇに映像が不鮮明でよく分かんねぇけど……すげぇ、大事なコト、思い出しそうだった。
何だ?
俺は、志乃の前に好きになった女なんて……居やしねぇってのに。
今だって智香と……。



『揺光選手と太白選手、睨み合う睨み合う! 互いに攻撃のチャンスを見計らっております!』
『当たり前のことだがよ、戦いにおいちゃ
 連撃(レンゲキ)と反撃(ハンゲキ)の2つのゲキワザがモノを言うぜ、
 アリーナでのバトルじゃ特にな……』
『な、なるほど!
 遊びの中に修行あり、ゲームと言えど勝負は勝負! 基礎は大事ですからね!』
『揺光も太白も基礎はバッチリだ……後は、本人達の負けん気次第だな』


じりじりと距離を詰めながら揺光と太白の睨み合いが続く。
そろそろ試合終了の時間も迫っている。
この戦いで揺光に圧し掛かるプレッシャーは相当なものだろう。
だが……この戦いに勝たねば、明日の決勝には進めない。


『アンタは評価されるだけの何かをやったのか?』


かつて七星に向けて揺光が言い放った言葉。
太白は皆に評価されるだけの戦いをした。
だからハセヲに負けるまで竜賢宮の宮皇として君臨し続けた。
彼の真意がどうであれ、結果が全てなのだから仕方がない。
揺光もハセヲと出会うまでは、ただ皆に評価されるだけの戦いしか頭に無かった。
けれど、今はもう違う。


「その双剣……」
「何さ」
「2016年冬季限定の、ラッキーアニマルコンプリート・クエストのクリア景品か」
「へぇ、さすが武器コレクターだな。鋭いじゃん」


今となっては“幻の双剣”などとも呼ばれている。
が、レア度が高いだけで攻撃力やアビリティだけを見れば、
揺光が紅魔宮トーナメントで宮皇になった際、贈呈された「旋式・鈷風鉈」の方が断然使いやすいはずだ。
他にも揺光はこれまでにハセヲとの冒険で手に入れたレアな双剣や、ハセヲからプレゼントされた幾つもの強い双剣があるはず。
何故、今になってこんなレア度だけ高くて攻撃力の低い武器を使うのか?
太白には理解ができなかった。


「これは……アタシの大事な友達が、アタシのために取ってきてくれた双剣だ。
 エンデュランスとの宮皇タイトルマッチもアタシはこれで戦った。
 アイツとはアタシが紅魔宮で負けて以来会ってもないけど……この双剣が、アタシ達を繋いでくれている!」

 
湯浅は自分の意志で前に進み始めた。
彼女には散々酷いことを言ってしまったのに、それでも彼女は自分のためにコレ(双剣)を
転校が迫るギリギリまで時間を割いて取ってきてくれたのだ(シラバスとガスパーも協力したらしいが)。
なら自分は、そんな自分を信じてくれた湯浅の……七星の想いに応えなくちゃいけない!


「美しい友情か。戦いで役に立つとは思えんがな」
「自惚れんなよ、元竜賢宮宮皇!」


太白の言う通り……
一朝一夕で埋めることのできない実力差があるのは分かっている。
だけど逃げない、負けない、泣かない。
揺光の冒険(ボウケン)は始まったばかり。
やっと普通にこのゲームで遊べるようになったのだ、もっと色んなことをして遊びたい……ハセヲ達と一緒に。


「アタシを信じてくれたヤツらのためにも……アタシは絶対にアンタに勝つ!
 だから……最後の力が枯れるまで、ここから一歩も下がらないっ!」


揺光は1人で戦っている……だが独りではない。
ギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張って。
どうにもこうにも、どうにもならない、そんな時――――――――――――そんな時は……仲間達の声を、思い出せばいい。


「(あの頃のアタシじゃ、ないんだ……!)」


太白に勝たなきゃいけないって時なのに。
……なのに、何故だろう。
アタシは“あの頃”を思い出している。
まだアタシがハセヲと出会う前……正確には、湯浅が転校してしまう前のこと。
アタシにとっては、平凡な日常の1ページに過ぎない。
でも、そんなのどかな日常こそが、幸せだった。
雨に打たれ、風で流され、傷ついても守りたい愛がある……そんなことを誰かが言っていた気がする。
でも、あの頃のアタシには――――――――――まだ、そんなヒトは居なかった。


「倉本ー。カラオケいこーよぉ」
「カラオケェ〜?」
「そーそー。倉本の好きなアリ何とかの新曲も入ったらしーしさぁ」
「アリプロだよ」


放課後、同級生達がアタシにそんなことを言ってくる。
かく言うアタシは図書館の受付当番に行くべく荷物を纏めていたトコロ。
まだ残暑が続くと言っても、北海道の秋は本州に比べて少し肌寒い。
でも校則違反に引っ掛かるものの、アタシをはじめとする何人もの女子が
制服のリボンとシャツの第一ボタンを外し、更にはジャケットのボタンも全開で、つまんないアピールしてる現状。
何てゆーの? 
自己主張したい年頃?


「んー悪いけどさー。アタシ、今日は図書委員の仕事あるから」
「サボっちゃえばいいじゃん。サボタージュ〜、サボタージュ〜!」
「サボると潤香の説教が長くなるからパス」
「潤香? 3年の仁村先輩のこと?」
「その仁村先輩だよ」


仁村潤香。
アタシより2つ上の3年生で図書委員長。
髪が長くて、背が高くて、美人で頭もキレるけど性格は最悪の、あの仁村潤香。
人をこき使って悦び見出しちゃうような性格の女なもんで、アタシは何かと気苦労が多い。
おまけに本人は図書準備室に「非常食」と称したお菓子を持ち込んで入り浸る始末……よく先生から苦情こないよな。


「あの人さぁ。レズって噂あるけどマジなの?」
「レズぅ〜? 潤香がぁ〜?」
「だって倉本、仁村先輩と仲良いって話だし」
「そりゃね。仲は良い方だとは思うけど」


まぁ、女子校みたいな閉鎖的な空間にありがちな噂話の1つだよねぇ、こーいうのって。
誰が誰を好き、とか誰が○○先輩に告った……とかさ。
生物学的にありえないだろ、さすがに……てか、みんな潤香に何求めてんだか……。


「まー現場に遭遇したことはあるね。何回か」
「マジすか!?」
「アタシらと同じ1年だと思うけど……本棚を背にして、潤香にイロイロされてた」
「た、例えば?」


早く図書館に行かなきゃいけないってのに、
ますますこの子らは目を輝かせてアタシに話の続きを強請る。
教室の暖房が効き過ぎているのか、顔を赤くしながら聞き入る子も……あー暖房のせいじゃないね、これ。


「そーだなぁ。こんな感じ?」
「ちょっ!?」


友人の1人に詰め寄って、目撃した時のシーンを限りなく再現するアタシ。
首の辺りに顔を寄せつつ、
都合よく開いてたジャケットの中に手を滑り込ませてシャツ越しに胸を触る……ってか掴む。
それも焦らすようにゆっくり、ゆっくり。


「くっ、倉本っ!? そういう趣味が!?」
「ないよ」


とまぁ、アタシが見た時の状況はまさにそんな感じだったかな。
さすがにこれ以上続けると今度はアタシにレズ疑惑が向くかもしれないんで
さっさと解放してやった。
ん、さすがにブラは付けてたか……。


「はーっ、はーっ、ビ、ビックリしたぁ……倉本がレズの波動に目覚めたかと……」
「目覚めさせられても困るよ、アタシだって」


さすがにアタシも潤香みたいに慣れてないせいか、
やった後に少し恥ずかしくなった。
でも倉本智香は常にクール、こんなコトで慌てないよ。
飽くまで平静を装えば、アタシが《The World》で見せてる様な醜態は見せなくて済むはず……。


「てか、そんなことしてるんだったらやっぱレズじゃん、仁村先輩」
「最初はアタシもそう思ってさ、だから本人に聞いてみたんだよ。直接」
「に、仁村先輩は何て……?」  
「本人曰く『あたしはノーマル。好きな男くらい居るから、いらん心配するな』だって」
「ホントにそう言ったの?」
「アタシも聞き返したよ、そりゃ。
『じゃあどうして何人も女の子とっかえひっかえして図書館に連れ込んでるんだ?』って。
 そしたら『ただの暇潰し。あたしは暇を潰すことにおいても頂点に立つ女だから』とか言われたよ」
「ひ、暇つぶし? 暇つぶしでそんなコトしてるんだ、仁村先輩……」


傍目から見ればサイテーだよねぇ。
大半の子は大真面目に潤香とお近づきになりたい、って気持ちだっただろうに
ちょっと味見して飽きたらポイだもん……レズ疑惑よりもそーいうところに焦点が当たらないのが不思議だよ。
そう言えば同学年……3年の先輩も何人か潤香にフラれたって話、聞いたことあるぞ……
潤香が誘ったんじゃなくて先輩達の方から潤香に……な、何て言うんだろ。
この場合、交際ってことになるのかな?
とにかく「お友達になりましょ」って声かけて、潤香が「だが断る」って感じでフッった、って。


「統計学的に見てもさ、アタシら女って好奇心が強いって言うじゃん?
 潤香もアレだよ、ちょっとフザけてみたい年頃……そんな感じなんじゃない?」
「く、倉本は仁村先輩にそーいうこと……」
「一度もないなー。アタシは潤香の範囲外なんじゃないの?
 潤香に告ってる子も、大人しそうな子が多いし……」


湯浅みたいなノーマルの子も単純に「仁村先輩って頼りになるなぁ……」とか、暗黒面知らずに尊敬してるっぽい。
アタシも何度か潤香に「人の気持ちを弄ぶようなコトすんのはヤメロ!」って言ってみたけど
軽く「あの子らだって本気であたしと付き合おうとは思ってないよ」って、その度にも笑われた……何か、悔しい。
















*****************














「智香。遅刻」
「はーい。スンマセンでしたー委員長サマー」
「おばあちゃんが言っていた……“時間を守れない人間は、時間どころか何もかも守れない”って」
「(また始まった……だから遅刻するのは嫌って言ったんだ……)」


智香の説教はコレだから嫌だ。
いつもおばちゃんの話を引き合いに出して、ワケの分からない説教を始める。
おばあちゃんと言うのは潤香の母方のおばあちゃん、仁村タキ江さんのこと。
アタシも潤香の家に遊びに行った時、何回も会ってる。
北海道に越してくる前は美大入試のための塾で講師をやってたらしい。
父親不在の仁村家においてはタキ江さんが大黒柱的存在で、
尊大な態度の潤香もタキ江さんの言うことはちゃんと聞くんだ……家の中、限定で。
でも世界で一番尊敬しているのは間違いないようで、こうやっていつも……って、いくら何でも長くないか?


「潤香、今日は本の整理するんだろ? さっさとやろうよ」
「反省してる?」
「してるよ」
「……ここにある本、新書のコーナーに持ってって。
 古い本とかは湯浅達が担当してる、あたしとあんたと他数名は新書担当」
「分かった」


地味な作業だけど、これやらないとみんなが本を借りれないからなぁ。
本のラベル貼りは昨日、他の子達がやってくれたおかげで
アタシらは肉体労働担当になって、ってワケ。
寒くならないうちに、さっさと終わらせるか……。


「このライトノベルとかはどうする? 新しいのはテーブルに置いて目立つようにしとく?」
「ラノベ読んでいいのは中学生まで。誰も見ないだろ」
「読みたい、って要望があったから仕入れたんじゃん……」
「募集する度、同じよーなのばっか送られてくるのはどーしたもんかな。
 どいつもこいつも馬鹿の1つ覚えみたいに、異世界だの転生だのチートだのハーレムだの……」
「アンタはいつからラノベ大賞の審査員になったのかと小一時間」


同人活動やってるアタシとしては、
少しだけ耳が痛い話だ……まー潤香の言いたいことも分かるけどね。
みんな流行りのアニメとか漫画に影響され過ぎなんだよな……今の同人業界も似たようなもんか。
アタシの場合は小説系だけど、三国志なら妙な影響受けることないし(女体化した武将がいっぱい出てくる「(はわわっ、ご主人様、敵が〜」とかは論外)。
10年前の2007年は角川とか京アニ関係が業界を圧巻してたらしいけど、今じゃ……ね。
あ、そっか。
2005年に起きた第一次ネットワーククライスのせいで、みんな暇だったのか?
2007年のクリスマスになるまで、ネットは利用制限されてたんだし……。
娯楽、なかったんだろうな……。
あの頃、アタシいくつだっけ? 2007年なら……6歳か。
アタシがネット始めたの最近だし……あの頃は全然興味、無かったもんねぇ。
今はラノベ読んだりアニメ見たり、PS4や3DSで遊ぶよりも《Thw World》とか他のソシャゲに熱中する人、増えたしさ。


「智香。洋書の新刊はそこじゃない、こっちに置く」
「あ、やば。ごめん」
「まったく……あんたは今まで食べたカップ麺の数を覚えているのか?
 妻夫木の夫木は、不器用の不器か?」
「潤香もつまんないこと言ってないで手伝いなよ」


アタシの日常は刺激に満ちている。
じゃあ、いつからだろう。《The World》に刺激を求め始めたのは――――――








「(くっ……届かない……)」


図書館の本整理が始まって30分が過ぎようとしていた頃。
アタシに試練が訪れていた。
……本棚に本を入れたいのに、届かない。
手を伸ばしても、あともうちょっとってとこで背が足りないんだ。
しかもこういう時に限って踏み台がない。
自慢じゃないが、アタシの身長は160にも満たないんだ。
世間じゃスモール系とか言ってるけど、よーするにそれってチビってコトじゃん。
体育の時もいつも前だし…くそぅ。


「智香? 何してんの?」
「げっ」


何冊かの本を抱えた潤香がこっちにやって来る。
何食べたら、あんなに背が伸びるんだ?
坂本竜馬の姉さんの乙女さんが五尺八寸あって、当時は大女だったらしいけど潤香も負けちゃいないね。
いや、絶対勝ってる。


「そこの本棚済んだなら、あっち手伝ってやれよ」
「す、済ませたいんだけどさ……」
「あん?」


訝しげにアタシと、
本の収納が終わっていない本棚を交互に見て、潤香が意地悪くニヤッと笑う。


「あっはぁ〜ん? 智香ちゃん、もしかして手が本棚に届かないのかな? かな?」
「うぐっ……!」


ア、アタシが背が低いの、気にしてるって知ってるクセにィ〜!
これだから背の高い女は嫌いなんだよっ。


「ったく……貸してみなって」


アタシから本をひったくると、潤香は背伸びもせずに
すんなりと遥か上の本棚に手を伸ばして本を収納してしまう。
ものの数秒でアタシの試行錯誤は無駄に終わってしまったワケだ。


「届かないなら届かないで、台を使えばいいだろうに」
「だって、無かったし……」
「アタシが声かけるまで、ずっとそうしてるつもりだったの? 
 時間の無駄でしょ、それ」
「……背の高い潤香には分かんないよ」


つまりは、負け惜しみだ。
背だけじゃない。
頭の良さとか顔立ちとか腰とか脚の細さとか……オトコには分かんないと思うけど、
アタシら女にとっては結構、いやかなり重要なコトで、アタシは潤香に負けてる
(そりゃ1年と2年だから、しょうがないっちゃしょうがないけど)。
唯一勝ってるのは……あれ、1つも無い?


「つまんないコトでいじけても、しゃーないじゃん?」
「……いつも皆から誉められてる潤香に、分かるワケない」
「ふぅ〜ん?」 


潤香が長い髪を揺らしながら更に近づいてくる。
顔は怒っちゃいなかった。
むしろ無表情?
でもアタシは経験上、無表情の時の潤香が一番ヤバイことを知っている。
なのに、魅入られたように脚が動かない。
“図書館の魔女”とか潤香を呼んでいる人も居るらしいけど、まさにソレ。
でもアタシからすれば、おジャ魔女って感じ。


「あたしが皆に誉められてる……ねぇ? マジで言ってんの?」
「だって、潤香は頭良いし、美人だし……背、高いし……」
「じゃあ聞くけどさ智香? あんたは、評価されるだけの何かをやったのか?」
「えっ……?」


あとほんのちょっとで互いの唇が触れ合いそうなくらいに、潤香が迫ってくる。
けど、潤香に襲われる……
とかそういうコトを考えるよりも、コイツの言葉が残響となって、アタシの頭に何度も響いたのが分かった。
あんたは評価されるだけの何かをやったのか? 
……潤香は、アタシにそう言ったのか。


「あたしはやった。親に心配かけたくなかったから」


そうだ、前に聞いたことがある。
潤香は小学生の頃まで東京に住んでたけど、学校で問題起こして、その後こっちに越して来た……って。
それ以前に、潤香にはお父さんがいない。
何か潤香が問題を起こせば、潤香のお母さんとおばあちゃんの責任が問われてしまう。
だから、潤香は極力“良い子”を演じるのだと。


「背が低いのが嫌なら、牛乳飲むとかニボシ食うとか選択肢があるだろう? 
 それでも伸びない奴は伸びないけどな。
 頭悪いなら、机に噛り付いてでも勉強すりゃいいだろう? 
 美人になりたけりゃ、もっと女磨けばいいだろう?
“お前は良いよなぁ……どうせ俺なんか……”ってセリフはね、
 何度も何度もやってみて、それでもダメだった奴しか吐いちゃいけないセリフだって知ってる?
 やりもしないうちから“どうせダメだ”とか“どうせ才能ないから”って愚痴って楽しい?
 聞かされる側は、そゆこと聞かされんのウンザリだってのが……どーして分からないかな?」
「アタシは別に、そういうつもりじゃ!」
「愚痴じゃん。構ってちゃんが見え見えなんだよ」
「!」


アタシは……何かをしたんだろうか。
誰かに認められるだけの努力とか……してたんだろうか、今まで……?


「あたしに説教されんの、悔しい?」
「……どうしろってのさ。アタシに」


泣いちゃいない。
でももう声が涙声だった。
人前で泣くのは恥ずかしいことだって信じてるアタシは、誰かの前でなんか泣かない。
けど潤香に面と向かってああいうこと言われて……アタシは、初めて自分が何もしていないことに……気づいた。


「べっつにぃ〜? 
 智香の人生だし、智香のしたいようにすりゃいいじゃん。
 あたしも誰かに説教されるの、キライだし」
「じゃあ……」
「おいマクフライ、靴の紐が解けてるぜ」
「え? 痛っ!?」


視線を足元に向けた途端、パコンと頭を本で叩かれた。
てか、うちの学校は上履き制だから靴の紐なんてないし! 
マクフライって誰さ!?
頭を擦りながら見上げてみると……さっきまでと違い、もう潤香は無表情でも怖い顔でもない。
アタシの知っている、いつもの意地の悪い仁村先輩の顔に戻っていた。


「な、何すんのさ!」
「くだらんコトで悩むべからず。そんだけ」
「……!」
「そうそう。智香には、そういうボケーっとした顔の方が似合ってる」
「んなっ!?」


ア、アタシがいつボケっとしたよ、いつさぁ〜っ!?


「おばあちゃんが言っていた……“出会いは神の御業、別れは人の仕業”って。
 いや、これはおばあちゃんじゃなくて、別の誰かだったような気がする……はて?」
「つまり、何が言いたいって!?」
「ふふん。智香はあたしがいなきゃダメダメってコト」
「だ、誰がダメダメだよっ!」


アタシ的には強く抗議したつもり……だったと思う。
でも潤香には全然効いてなくて、さっきよりも断然近い接近を許してしまった。
えっと……これって……アタシ、襲われてるんじゃ……?


「ばっ、馬鹿! 皆も周りに居るってのに……!」
「……だから、なに?」


潤香はアタシを本棚に押さえ込んだまま、特に何をするでもなかった。
ただじっと、アタシの顔を見てる……本当にそれだけ。
……くそぅ、間近で見るとホント美人だな。
これで黙ってりゃ、もっと良いのに。


「……どしたの? 
 他の子にしたみたく、ア、アタシにヤラしいコト……するんじゃないのか?」
「友達は襲わない」
「……えっ?」


制服越しに伝わってた潤香の体温が離れてゆく。
耳元で確かに「友達は襲わない」と、潤香の声が聞こえた……アタシ、潤香の友達?
友達だから、アタシを心配してくれたってコトなのか? 
ねぇ、潤香……?
その答えを聞く前に。
アタシに迫った時に落とした本を拾い上げ、去ってしまった潤香は……最後にこう呟いていた。


「あぁ、思い出した。おばあちゃんじゃない……昴だ」


と。
その時の潤香の顔は見ることが出来なかったけど……懐かしそうな声してた。
って……昴って誰?


【 TO BE CONTINUED... 】

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