「.hack//G.U.」と「コードギアス 反逆のルルーシュR2」と「LAS(LMS)」と「ゴッドイーター」と「仮面ライダーディケイド」の荒唐無稽恋愛活劇SSサイト(のつもり)。

『世界の災いの一つは、何か特定のことを独断的に信ずる習慣である。
 理性的な人間なら、自分が絶対に正しいなどとむやみに信じたりはしないだろう。
 私たちは常に、自分の意見にある程度の疑いを交えなければいけない』                                                 【ラッセル  イギリスの哲学者】

《Another Chapter 大黒なつめの場合》


女性特有の細い指がカタカタとキーボードを軽快に叩いてゆく。
かつてこれ程までにメールを打つのが、もどかしいと思ったことがあるだろうか?
あるとすれば7年前、意中の彼に告白のメールを送信した時以来か。
跳び箱を飛べたら、彼に告白しよう……今思えば、少女時代の甘い思い出。
今思い出しても身悶えして、顔から火が出そう。


「(結局、良い返事は貰えなかったけど……)」


最初から返事は期待していなかたので割切ってはいるけれど、それでもこの想いは続いている。
ぴろし3に「7年もとある男をストーカーしている」などと茶化されたところで
揺るぐようなものではないのだ、これは。


「(だって帰って来たんです! カイトさんが、帰ってきてくれたから……!)」


トーナメント2日目の試合。
“がび”チームの猛攻の前にハセヲチームが窮地に立たされていた時、彼は現れた。
蒼い炎を纏って、7年前と変わらぬ姿と声で、自分の名前を呼んで……『遅くなってごめん、なつめ』と。
ものの数秒でなつめを追い詰めていたアスタとIyotenを屈服させたあの強さ。
彼は全く変わっていない。
あの頃のままの……どんなとんでもないことが起きても、必ず何とかしてくれる。
そんな不思議な気持ちにさせてくれる雰囲気を持っていて、それでいて瞳の中に強い意志を秘めた人。
次々とかつてのドットハッカーズ達が《The World》を引退していく中で
彼が、カイトが帰ってきてくれたことが……なつめには嬉しかった。


「(ぴろし3が結婚記念日でトーナメントに出れなくなったことに感謝しなきゃ……)」


愛妻家の彼のこと、会社も休んで何処かに家族総出で旅行にでも行ったのかもしれない。
いずれにせよ明日の決勝戦にもカイトが共に出場してくれる。
それだけでドキドキが治まらない。
7年間もプレイしているのに、ブランクのあるカイトの方が現役以上の強さを見せているのだ、
彼の前ではドジを踏むことは許されないのだ。


「(なつめ、がんばっちゃいますよぉぉ〜〜〜!!!)」


何と言うか……人間は思い込み次第で意外と何でもこなせる時がある。
7年前、15歳だったなつめは料理のレパートリーが3種(ハンバーグ、スパゲティ、カレーライス)しか
なかったが、カイトの好物が肉じゃがであることを知るや、すぐに調理法を覚えた。
仲間の女性呪紋使いから


『仕上げにバターをのっけるとね、安い肉でもコクが出るのよぉぉ\(^0^)/』


とアドバイスを受けて実践すると。
確かに美味く、家族からの評判も良く自信がついたものだ。
ちなみにぴろし3(当時はぴろし)から


『疲れた時は、焼いたバナナに梅ドレッシングをかけて食すと良いぞ!』


というアドバイスも貰ったことがある。
あるのだが、怖くて試したことはなかったりする。
焼いたバナナに梅……どんな味なのか? 
あまり想像したくない。
元々なつめの大黒家はそれなりの良家なので、別になつめが調理をせずとも
出前くらい取ることもできるのだが……女のプライドがそれを許さず、以降もなつめの料理修行は続いた。
家元を離れて独り暮らし中の今では、随分とレパートリーも増えた。
もういつ嫁に行っても恥ずかしくはないだろう。
無論、誰の所に嫁ぐかは7年前から決まっているワケだが。


「(でっ、でも私まだ22だし、カイトさんは21だし……は、早過ぎなんじゃ……!?)」


しかし法律的にはどちらも結婚可能な年齢に達しているのは事実。
ここはもう、他の有力なライバル達がアプローチをかけてしまう前にいっそのこと……。


「(むっ、無理! 絶対無理っ!!!)」


飽くまで《The World》で交流がなかっただけで、
なつめの知らないところでカイトが他の女性達と連絡を取り合っていた場合、非常にマズイ気がする。
女と言う生き物は男が思っている以上に繊細で、なおかつ執念深いのだ。


「(ミストラルさんとレイチェルさん、あとヘルバさんは除外するとして……
  晶良さんと良子さん、ガルデニアさんかぁ……今まで考えないようにしてたツケが、いっぺんに来ちゃったよぉぉ……)」


どの女性もカイトに対して好意的だし、何よりも肩書きが違う。
当時を参考にするとブラックローズこと速水晶良は唯一の1年生テニス部レギュラー、
跳び箱すら跳ぶのにやっとだったなつめでは到底敵わない。
寺島良子こと良子は名家のお嬢様、それも筋金入りで金銭面では敵わず、なおかつカイトと一度デート経験があるとかないとか。
ガルデニアは聞くところに寄ると薙刀部の主将だったとか……これも運動面では勝てる気がしない。
なつめ自身はと言うと、取りえは特になし。強いて挙げれば本が好きなことくらい。
……どう考えても地味すぎる。


「(私がもう7年前の私じゃないってこと、カイトさんに見せなきゃ……!)」


変わった、変われたはずだ。
もう7年前の引っ込み思案で失敗ばかりの自分じゃない。
明日の決勝トーナメントで優勝すればきっと彼も自分を見直してくれる……多分。


「(アレ……? でも、それってネトゲ廃人って証明してるような……? う、ううん、そんなコトありませんよねっ!?)」


7年もプレイし続けている現状を鑑みれば、そう思われても不思議じゃない。
と言うか、既にその廃プレイが原因でカオティックPKの別人格が生まれてしまったりしている。
無論本人は気づいていないが、
もし試合中にエッジマニアとして覚醒できれば……あるいは勝機が?


「(よ、よぉ〜し! 優勝できたら、も、もう一度カイトさんに……)」


もう一度、告白してみよう。
既に彼女がいようがいまいが関係ない。
むしろ居たところで奪ってみせるくらいの気概が無くてどうする?


「と、その前に」


同時進行で書いていた2通のメールに目を通す。
誤字脱字があると恥ずかしいし…。


『こんばんは、良子さん。大黒なつめです。
 今夜の試合、ご覧になってましたか!?
 カイトさんが、カイトさんが戻ってきてくれましたっ!
 すっごく強くて、優しくて、いつものままのカイトさんが……。
 明日の決勝、カイトさんと一緒に頑張ります!
 
 ……あのですね。
 私、良子さんにも晶良さんにも、負けませんのでっ!』


「(良子さんには、こんな感じでいいかな……ちょ、ちょっと挑発的かな?
  でも良子さん、結構天然だから気づかないかもしれないし……いいや、送信しちゃえっ!)」


送信ボタンをクリック、と。
次は……。


『晶良さん、こんばんは。なつめです。
 もうご存知かもしれませんが、カイトさんが《The World》に戻ってきてくれました!
 カイトさん、全然変わってなくて……少年の心のまま大人になった、って言うんでしょうか……?
 昔と変わらず、とっても頼りがいがあって、とっても素敵なんです。
 
 ……怒らないでくださいね?
 私、前にカイトさんに『私よりもブラックローズさんの方が好きなんですか?』って聞いたこと、あるんです。
 晶良さんはいつもカイトさんと一緒だったし、
 実際7年経ってもカイトさんのパートナーとして引き合いに出されるのは、いつも晶良さん……。

 私、晶良さんに憧れてました。
 いつも元気で、カッコよくて、カイトさんを支えることができて……。
 晶良さんみたいになりたかったんです……でも、それじゃダメだって、カイトさんが教えてくれました。
 誰かの真似をしても、それは変わったとは言えない。
 私自身が頑張って、自分の嫌な所とかダメな所とも向き合わなきゃ……変われないんだ、って。
 だから、私明日のトーナメントで優勝できたら、カイトさんにもう一度告白します!
 ……7年も待ったから、いいですよね?

 すみません、何か愚痴っぽくなっちゃいましたね、最後w 
 とにかく、明日は頑張るぞぉ〜!』


「送信……と」


PCの電源を切り、ん〜と背伸びをして席を立つなつめ。
長時間椅子に座っていたせいか、腰の辺りが随分痛い。
クーラーをオフ、窓を開けて空気の入れ替え。
もっとも、女の独り暮らしである。泥棒の類を用心してか、寝ている間はさすがに開けないが。
そう言えば実家に残した母の弥生は元気だろうか? つい先日連絡したばかりだが、何となく気になる。
今日はもう遅い、明日連絡してみよう。


「ふはぁ〜。お風呂入るかなぁ……」


ハセヲから誘われて参加を決めたトーナメント。
もう優勝賞品がトライエッジであろうがなかろうが関係ない。
もっと大切なものが、手に入りそうな気がするから―――――――――――――――



















《Another Chapter 仁村潤香の場合》


「おやすみ。潤ちゃん」
「おやすみなさい……おばあちゃん」


祖母のタキ江に就寝の挨拶を済ませ、
カールのリアル・仁村潤香は自室へと戻るため立ち上がる。
トーナメント終了後、明日の決勝に備えて入浴し、タキ江から髪を櫛で解いてもらっていたのだ。
7年前までは短かった潤香の髪も(と言うよりは長かった髪を一度切ってショートにしていた)
今ではすっかり元の長さを取り戻し、彼女の魅力を引き立たせるのに一役買っている。
長身と相まって、潤香の長い髪はよく目立つ。


――――潤ちゃん。……何かいいことでも、あったの?

ん? なんで?

――――とっても機嫌がいいみたいだから。

そうかな。普通だよ。

――――最近はちゃんとご飯、食べるようになったし……。

うん。

――――前は『ご飯って虫みたいなんだもん』って、お菓子ばっかり食べてて……。

今も食べてるよ?

――――それに最近、何だかキレイになったみたい。

かもね。恋する年頃だから。

――――好きな人、いるの?

いるよ。

――――本当? どんな人?

世界中を敵に回しても、ずーっと一緒に居たい人。


それだけ言って潤香は居間を後にした。
自室で休息をとって、明日のトーナメントに備えねば。
思わず楚良のコトを考えながら自慰に浸りたい気分に駆られるが、そこはグッと我慢。
明日、楚良を手に入れたらでも遅くはない。
風呂に入ったばかりなのに下着が汚れるのも嫌だ。


「(おばあちゃんの言った通りだ……。あたしが望みさえすれば、運命は絶えずあたしに味方する……!)」


ハセヲが試合中、楚良として覚醒してくれたのは嬉しい誤算。
彼とは揺光の紹介で初めて会った時から他人の感じがしなかった。
よく知っている、昔恋焦がれた彼の匂いとイメージの残滓。
既に開眼したはずのスケィスゼロが胎動した、と思ったのは……気のせいではなかった。


「(もう……きみには夢の中でしか会えないと思っていた……。
  だけど明日、その夢が現実になる! 楚良の復活、再誕を……あたしが!)」



―――『カール』? なんで?

……別に。

―――あ。微妙な間。ヤだなー。教えてよ。なんか、曰くがあるんだー?

きみは?

―――松尾芭蕉の弟子。いっしょにショコクマンユーした人。

それは……マイナーな。

―――芭蕉じゃないってとこがいいでしょ。奥ゆかしくて。



楚良との邂逅。
グリーマ・レーヴ大聖堂、Δ隠されし 禁断の 聖域。
全身に渋柿色の包帯を巻いた長身の双剣士が、あたしを大聖堂の壁に叩きつけ、首を締め上げたのが出会い。




嘘吐き。

―――にょん?

芭蕉の弟子。ソラの言ってた漢字と違う。

―――知ってるよん。

じゃあなんで。

―――そっちの方がカッコいいから。

なんかテキトーなこと言ってる。

―――うん。




楚良とアウラが一緒に居てくれさえすれば、何もいらなかった頃。





―――どうか……

いいよ。来て。ソラ。追いかけてきて!





あたしの大好きな楚良。
きみがアウラを追うから、あたしはあたしのためにアウラを守った。
アウラを守れば、きみはあたしを追いかけてくれる。あたしを見てくれる。
あのゾクゾクするような形容しがたい快感。
自ら選んだ修羅の道、楚良のためなら何だってできる気がした。
その楚良がハセヲの中に居る。ハセヲは好きだ、でも楚良はもっと好き。
悪いけど、楚良を取り戻す障害になるのなら……消えてもらうしかない。
Xthフォームだろうがスケィスだろうが問題じゃない。
スケィスはあたしだって持ってる。それにまだ奥の手も……。


「おやすみ、ハセヲ」


















《Another Chapter 火野拓海の場合》


八咫の探求は続く。
ロストグランドで発掘された幾つもの碑文。
その全てを解読することで最後のロストグラウンド、即ち理想郷(アヴァロン)への道が開ける。
だが、理想郷を見つけてどうする?
既に楽園と呼ばれる場所ならばネットスラムがあるではないか。
既にヘルバの管理も無く、タルタルガ自身が巨大なサーバーシステムとして組み込まれてしまってはいるが
今は欅の管理下にあり、ハッカー達の楽園は健在中。
今更、理想郷を探す必要が本当にあるのか?


「急がなければ……深淵(アビス)の軍勢よりも早く……」


時間稼ぎとしての策は幾つか講じてはある。
だが飽くまで時間稼ぎ……どこまで通用するかは、まさに神のみぞ知る領域。
一応はミッション成功率を事前に計算してはいるがアテにはならないだろう。
どんなに策を練ろうとも不測の事態はどんな時でも起こるものだ。


「ケペル博士……調子はどうかな」
『最後の12体目に手をつけ始めたところじゃよ。急げば何とか……じゃな。ホホホ』
「作戦決行時に不良を起こされても困る。万全の状態でお願いしたい」
『ウム! 頑張ってみよう』


メカ・グランティ、そしてナックルマン。
蒸気ロボを長年研究していた(というゲーム設定の)ドクター・ケペル。
彼の研究の集大成が完成を間近に控えている。


「鉄巨神……間に合ってくれ……」


既に忘れてしまっているユーザーもいるかもしれないが
かつて《The World R:1》時代のアイテム神像からの換金アイテムの1つに『鉄巨神のパーツ』なるものが存在した。
換金時の値段は20000GP。
割と高価な値段で売却できたが、特に重要なアイテムではない……当時は、だ。


「(既にクエストと称してプレイヤー達から鉄巨神の製作に必要なパーツ、エネルギーとなるチム玉も相応の数を回収済み……計画通り)」


深淵(アビス)の軍勢に対抗するには、憑神だけでは無理だ。
飽くまで憑神はAIDA対策の切り札、AIDAに感染していないモンスターに対しての効果は見込めない。
せいぜい憑神覚醒(データドレイン)でウイルスコアを回収できる程度だろう。
今度の敵はAIDAではない……この世界、システムそのもの。
それも悪意に染まった……。


「(理想郷に残された最後のブラックボックス……ハロルドとエマの遺産を……)」


あるかどうかは行ってみなければ分からない。
だが……道は、意志あるところにある。
かつて、ある男が道なき道を理性の光無くとも歩んだように。
“在る”と仮定し、信じる。


「(問題はまだある……理想郷へは一方通行。
  ロストグラウンドである以上、帰還の際はプラットホームの探索は必須。
  いや、まだ足りない……。 肝心の“鍵”が、足りない……)」


キー・オブ・ザ・トワイライトは最後のロストグラウンドを開く鍵。
カイト持つ腕輪と……ハセヲ自身。
だが、ハセヲはまだ完全な鍵とは言えない状態。


「最後はハセヲ……いや、楚良次第……か」


明日の決勝トーナメントが作戦のキモだ。
カールとの戦いがどのような結果になるかはハセヲ次第だが、彼はいつも期待を裏切らない。
万一、カールが楚良恋しさにハセヲを殺してしまったら?
それも無論考慮しているが……最悪の場合はパイと自分の2人かかりで彼女の憑神を押さえつけるしかない。
いや、ハセヲの危機となればエンデュランス、クーン、アトリ、朔望とて黙ってはいないはず。
複数の憑神が同空間に存在すると暴走の危険が高くなり同士討ちの可能性もあるが、ハセヲを失う訳にもいかないのだ。
友人としても、作戦の重要人物としても……。


「(女神と出会ったことでハセヲの中の、楚良のプロテクトが解けた。
 楚良の性格からして、トーナメントに興味を持ち、ハセヲに憑依して戦おうとする……。
 また女神もかつての母、追跡者、そしてカイトに惹かれて試合を何処からか見ている……
 カールの使用していた巫器が他のプレイヤーにも視認できたことを考えると
 影響力がアリーナに集中しているのは明白……うまく女神とコンタクトをとり、理想郷へ誘導を……!)」


時間が無い。
できればアウラにはずっとネットの海の中で安らかに眠っていてほしい。
だがこの世界が戦場となれば彼女にも被害が及ぶことは必至。
彼女にとっての安息の地は一つ……彼女の父と母の遺産が眠る場所。
即ち理想郷(アヴァロン)。


「(アルカディア、ヴァルハラ、エデン、エリュシオン、影の国……そしてアヴァロン。
  ハロルドとエマが過ごしたケルト圏内に存在した聖地、異界、理想郷と呼ばれた数々の場所。
 《The World》にて存在を確認できたのはアヴァロンのみ……最後の希望か)」


守るべき世界は果たして命を賭けてまで守る必要のある、価値があったのか?
もう以前のドットハッカーズと呼ばれていた者達は次々と引退してしまった。
しかし今は違う、彼が居てくれる。
カイトが……彼が居てくれさえすれば……何故だか、今回も何とかできるのでは?
そんな希望的観測が頭をよぎる。


「(いや、カイトとて万能ではない……彼に頼り切るようでは私もまだまだだな)」


一先ず自分達にできる範囲でトーナメントを無事に終わらせ、
なおかつ深淵(アビス)の軍勢の襲来に備えつつ、理想郷(アヴァロン)へと向かうこと。
深淵(アビス)の者共も理想郷を狙っているのは明白。
コロンブスが新大陸を発見した大航海時代さながらの争奪戦が、始まろうとしている。


「(ケルヌンノス亡き今、敵の動向は限られている……。
  だが限られているが故に、相手の強大さも把握済み……今度の相手はスケールが大きそうだ)」


供物の印イベントにてハセヲ達によって撃破され、エルディ・ルーの湖底に沈んだ冥界の王。
痛みの森イベントにおいても裏エルディ・ルーにてハセヲらと死闘を繰り広げた、あのケルヌンノスだ。
リアル(現実)での彼は冥界の王などではなく狩猟、もしくは豊穣の神とされている。
異教の神を邪神扱いするのはどこの国でも一緒なのは古今東西の歴史が証明済み。
何をもってケルヌンノスを冥界の王としたかは定かではないが、既にケルヌンノスがいない今、
彼よりももっと凶悪で恐ろしい存在が、理想郷(アヴァロン)を狙っていることが分かった。
3人の邪悪な邪紋使い――――ハヴシー、アンクウ、クルーウァッハを覚えているだろうか?
上述した供物の印イベントにて再三ハセヲを苦しめた、あの3人のヴァイタルビスタが……理想郷を狙っている!


「(ロストグラウンドで発掘された碑文……私の解読が間違っていなければ
  理想郷を欲している彼らの主は……ケルト神話の中でも最も邪悪で凶暴な存在―――――大悪神バロール!)」


ケルヌンノスが冥界の王ならば、バロールは魔神。
アイルランド神話の中でも最高位に座する魔王の1人。
その邪眼(魔眼)はどんな相手でも睨み殺すと言う。
その眼は片目、あるいは単眼とされるが定かではない。


「(2つのキー・オブ・ザ・トワイライトが揃った時が……作戦決行の時……!)」




















《Another Chapter カイトの場合》


「ただいま」
「ご苦労だった。首尾は?」
「かなり苦戦したけど何とか倒せたよ、マグメルド」
「さすがだな。あの闘竜を手なずけるとは……!」
「でも、まだ本調子じゃないんだよね」


ロストグラウンドの発掘作業を終えたカイトが、知識の蛇へと戻ってくる。
声のトーンは軽快だが、少しばかり疲れも感じる……そんな響き。
やはり歴戦の勇者カイトであっても、闘竜マグメルドは相当の相手だったらしい。


「神族の使いだけあって、メチャクチャな強さだった……敵だったらゾッとする」
「彼は?」
「来るべき時には夕暮竜として僕らと一緒に戦うって、約束してくれたよ」
「助かる。マグメルドの参戦は喜ばしいことだ。
 深淵(アビス)との戦いの勝率アップにも繋がる……それも大幅な」


カイトがこれまで相手にしてきたスケィスを代表する八相らは
みな奇怪な人形や石版のような形状をした者達だった。
彼からしてみれば《R:2》に登場するモンスターはどれも派手で、まるで違う世界となってしまったことを
思わせるには十分だった。7年の歳月が、ここまで世界を変えてしまったのか……。


「ケペル博士の研究もいよいよ大詰めだ」
「鉄巨神シリーズ……完成していたの?」
「12体のうち、あと1体の調整を残すのみとなった……それが終われば実戦配備だ」
「Knights of the Round Table...円卓の騎士。あれも12人か」
「アーサー王を含めれば13人。この世界に残されたドットハッカーズと碑文使いも13人」
「偶然?」
「或いは碑文が必然を招いているのか……」


八咫……火野拓海の要請で再び《The World》に戻ってきた勇者。
蒼い炎を携えて、黄昏をも蒼く染める者。
その真意は明らかではないが……その瞳は確かに、当時と同じ、確固たる意志を宿している。


「僕が眠ってる間に……随分と変わっちゃったね。《The World》は」
「当時が懐かしいかね?」
「うん。
 もしかしたら僕は……僕らが過ごしたあの世界を取り戻すために、理想郷(アヴァロン)を探しているのかもしれない」
「カイト……」
「何てね。こりゃじゃただの懐古主義か」
「君が居て、バルムンクが居て、オルカが居る……当たり前だったの風景が、私もとても懐かしい」


フィアナの末裔とフラグメント時代からの付き合いだった八咫……ワイズマンからしてみれば、の話だ。
オペレーション・テトラポッド、オルカ作戦……
未帰還者達を救うため、世界に挑んだあの日。


「あのコルベニクとの戦いは予期せぬトラブル続きだったな……勝てたのは奇跡に近かった」
「ハムスターのたみよ……じゃない、アウラが自分の死と引き換えに起こした奇跡……再誕、だね」
「カイト。G.U.にパロディモードは存在しないのだが……」
「冗談だって(笑)」


だが今回のミッションは7年前をも上回る難易度。
RA計画……アヴァロン帰還計画の遂行。
アウラを、より安全な場所へ……。


「ともかく。もう一度、奇跡が起きてくれることを……願おう」
「奇跡は起こるよ。何度でも……ね。僕は、そのために帰ってきた」
















《Another Chapter ???の場合》


「人族ごときにリンゴの島は渡さぬ!」
「然り! バロール様のお力の前に、奴らが平伏す時が来たのだ!」
「バロール様、バロール様! 憎き彼奴らに神の鉄槌を!」


《The World》の中でも深く、とても深い場所。
認知外空間と呼ばれるところに居城を構える者が居る。
もっとも、城と呼ぶにはあまりにも狭いが……ここには、世界の悪意が詰まっている。
そんな薄ら寒い戦慄を覚える程におぞましい場所。
闇の中で忙しなく蠢く3人の邪紋使い。
ハヴシー、アンクウ、クルーウァッハ。
ハセヲの活躍によって冥府の底へと落ちていったかと思われたが……。


「理想郷(アヴァロン)……何かがそこから始まる場所、“限界線”」


3人のヴァイタルビスタに『バロール様』と呼ばれた男、いや……少年が嘲笑う。
なるほど。
確かに伝説の通り、魔神バロール同様に片目が無い。
無い、と言うのは語弊があるだろうか。
彼(か)の少年は右目を眼帯で覆い隠してしまっていた。
いや……覆うのは眼だけではない。
王者の風格たるマントでその身すら覆っている。
無邪気さが映える反面、目的を達成するためならば何だって利用する……そんな含みを秘めた笑み。


「ハヴシー」
「はっ!」


「アンクウ」
「はっ!」


「クルーウァッハ」
「はっ!」


隻眼の少年の呼びかけに応え、3人の邪紋使いがその御身に跪く。


「君達を深淵(アビス)から引き上げ、再び命を吹き込んだのは誰だ?」
「バロール様です!」


「この世界(ネットワーク)に、永久の安定と安寧をもたらすのは誰だ?」
「バロール様です!」


「理想郷(アヴァロン)を手に入れ、女神を超越し、物語の限界をも支配するのは誰だ?」
「バロール様です!」


何と言う傲慢。
この少年は女神に取って代わり、この世界の……いや、新世界の神にでもなろうと言うのか?
碑文は今のところ、忠実に古代の人族と神族の戦いを再現しようとしている。
しかし、彼は物語自体を彼のものにしようとしている……とでも?


「ハセヲのスケィス因子が手に入らないのであれば、あの女のスケィス因子を頂こう。
 もう十分に育ったはず……ハハハッ。
 オーヴァンも、八咫も、欅も、ヘルバも……番匠屋さえもッ!
 誰も到達できなかった、達成できなかったところにッ、もうすぐ手が届く……! 
 私のような天才の前では、対象(カミ)こそが従わねばならないのだ!」


狂気染みた笑いが深淵(アビス)に響く。
彼は右目の眼帯を押さえながら笑い続けた
彼の高笑いに呼応するように、次々と冥界から召喚される魔の軍団。
かつてプレイヤー達に倒された、怪物達の骸。


「番匠屋さん、無駄死にご苦労様でした。
 オーヴァン、何かできるならやってみるがいい。
 八咫、もう用済みだ。
 ハセヲ、早く鍵となれ。
 そしてカール……私のために孕み、産め! 
 スケィス因子を……ッ!!!」













《Another Chapter 三崎亮の場合》


「(俺は……ハセヲと楚良……どっちになれば……いい……?)」


少し熱めのシャワーを浴びながら、風呂場の中で俺はそんな問いを繰り返す。
明日は選ばなくちゃいけない……俺は……楚良を認めてやるべきなのか?


「(でなきゃ、俺はカールに殺される……)」


勿論、ただじゃ殺されてやらねーけど。
殺されるってのは肉体的な死じゃない、精神的な死だ。
データドレインされれば、今度こそ永遠にネットの海を彷徨うことになるだろう。
リアルの俺は一生病院のベッドでオネンネ、カールは楚良を取り戻してめでたし、めでたし……なワケねーだろうが。
俺だって死ねねぇ理由くらいある。
智香だ。
智香と、死なないって約束した。
あいつのためにも……負けらんねぇ。


「(そーいや、智香とここでしたんだよな……)」


あいつがこっち(東京)に遊びに来て俺の家に泊まった2日目、
智香が風呂場まで入ってきて……ったく、素直じゃねーんだから。
……そういうトコも可愛いけどな。
バックでヤろうとしたら嫌がってたっけ……結局最後までしたけど。
このゲームの登場人物は全員18歳以上です、って言われても素直に信じちまいそうな自分が怖ぇ。
どいつもこいつもPCの見た目に反して歳とか性格とかにギャップある奴多すぎだろ。


「(ったく……何で《The World》なんか始めちまったのか……)」


広告を見た時、不思議な懐かしさを覚えた。
あれは……俺の中の楚良の残り香みたいなものが、そうさせたんだろうか。
楚良のヤツ、俺の身体を好き勝手に弄びやがって……。
あいつももう1人の……俺のはずなんだよな?
でも、俺はあいつを知らない……あいつが何者なのか、全然覚えてない。
やっぱカギは7年前、2010年だ。
父さんも母さんも、俺の前じゃ俺が小4だった頃の話を全くしやがらねぇ。
俺自身、何が起きたのかキレイサッパリ忘れちまってるのが尚更に歯痒いぜ。


「今度こそ……取り戻すんだ……全てを……」


決意を込めて、口に出す。
八咫がトーナメント開いた理由とか勇者が今頃になって戻ってきたとか
腑に落ちねぇ点は幾つかある……あるけど、今はカールを何とかするのが先だ。
憑神同士の戦いは避けられねぇだろうから……でも、万が一、マジでデータドレインされちまったら?
ひぐらしの圭一みたく、事前に遺書でも書いとくか? 
ハッ、ガラじゃねぇだろ……第一、死ぬコト前提にしてる時点でダメじゃねーか。


「(死んで堪るかってんだ……なあ、智香)」


欲しいものはもう手に入れた。
欲を言えば、60年先のあらゆるスポーツの結果の載ったスポーツ年鑑とホバーボードがありゃ最高だけど。
ガキの頃は2015年になればマジで実現すると思ってた。
気がつきゃ2年オーバーして2017年……今後も望み薄だな。


「旅は、まだ終わらねぇ」                                                                              【 TO BE CONTINUED... 】

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