「.hack//G.U.」と「コードギアス 反逆のルルーシュR2」と「LAS(LMS)」と「ゴッドイーター」と「仮面ライダーディケイド」の荒唐無稽恋愛活劇SSサイト(のつもり)。

『俺は太陽の子! 
 この世の全て、生きるもの全てを守る……仮面ライダーBLACK RX !!』
                                                  【南光太郎 仮面ライダーBLACK RX 第2話「光を浴びて! RX」(1988年10月30日放送) より】

割と恵まれた子供だったと思う。
父親はネトゲーとファミコンの区別もつかないアナログ人間で、
画面の中のキャラをコントローラーで操作するものなら凡て「ピコピコ」と呼び、どんなものか理解しようともしなかったし、
母親もちょっとヒスが入っていることを除けば良妻と言え、一人っ子である俺をいたく可愛がっていた。
何の不自由も無い生活。
周りの連中と同一であって、俺の生き方と思考はガキの頃から同一じゃない。
いつの頃からか俺は現実(リアル)だけでは満足出来なくなっていた。
……こういう言い方をするとカッコいいんだろうが、要は単なる勘違いしたマセガキだ。
ギャルゲーとかラノベの主人公って両親が家に不在で、好き勝手やってるって設定は多いだろう?
ウチもそうだった。
小学生の頃はそうでもなかったが、俺が高校に入った頃になると父親も母親も帰宅が遅くなって、下手をすれば帰って来ない日もあった。
別に両親が頭の中まで仕事いに犯され尽くされた仕事人間ってワケじゃあない。
息子の俺に対する信頼の裏返しと言える。
自慢じゃないが、小学生の頃の俺は俺自身、あまり好きじゃない。
自分から進んで他人と交わるのを躊躇していたせいか、心の底から友達と呼べる様なヤツは居なかったし
体力もあまりなかったから、ふとしたことでケガしたり病気になったりで、よく母親を心配させていたからだ。
中学になってから人並みの躰になって病気などとは無縁になると。
母親のヒスも治まった。
今思えば過剰な愛情表現だ。
たった1人の息子であるが故に可愛がり過ぎた結果が、今の三崎亮(コレ)なのだから。
都内の進学校に通うエリート高校生、と言えば聞こえは良いが
つい最近まで成績ガタ落ちだったことを思うとゲームを取り上げられてしまう可能性だってあったはずだ。
ご丁寧に学校側から自宅に試験成績を記載した封書が毎月届き、
俺の成績が去年の冬頃からガクンと落ちたコトを否応無しに両親にぶっちゃけてくれる素敵システムのおかげで
久しぶりに母親のヒステリーを見ることが出来た。
一体何が原因でこうなったのか教えなさい、と。
教えたところで信じてくれるはずもないので毎回「次、頑張るから」とだけ言ってその場を凌ぐしかなかったけど。
俺がどんなに


「ネトゲー仲間が伝説のPK三爪痕にPKされちゃったんだ! 
 俺は三爪痕を探して仲間を元に戻さなきゃいけないんだよ!」


と説明したところで、


「で?」


って言うにきまってる。
息子の頭がおかしくなったんじゃないか、とサナトリウム(精神病院)にでもブチ込まれたら一貫の終わりだな。
もしくは俺が何処ぞの女に誑かされて、勉強なんかやってられない躰にされちまった……とか。
あの母親なら可能性の1つとしてそんなコトも考えるかも。
だが最初に断っておくが、俺は年齢=彼女居ない歴なんでソレは有り得ない。
少なくとも、2017年の夏まで彼女なんつー高尚なモノが俺に居た形跡は本当に無い。
俺から声をかければもしかしたら付き合ってくれる女も居たかもしれないが、飽くまで友達というラインを踏み越える勇気が俺には無かった。
喪失(失うこと)が怖い。
それまで築いていた関係が壊れ、もう戻すことは絶対に出来なくなってしまうことが、俺は怖かった。
所謂「覆水盆に返らず」って太公望の諺と同じだ。絶対に取り戻すことの出来ないモノがあるのだと、痛感させられる。
俺にとって七尾志乃って女性(ヒト)がソレなのだ。
志乃が病院のベッドで辛うじて点滴で命繋ぎ止めてるって時に、他の女とイチャイチャ出来る甲斐性は俺には無かった。
学校が終わればすぐに志乃の病院に行き、志乃の寝顔を見るのが去年からの俺の日課。
たまに看護師の姉ちゃんが病室に来ることもあったけど、それを除けばあの小さな病室が俺と志乃の空間(セカイ)だった。
その空間に不純物があるとすれば、オーヴァンが見舞に持ってきたであろう白いガーベラの花。
看護師の姉ちゃんが「彼氏さんかしら?」と言うくらいだから、
それ程にオーヴァンが志乃を見舞うことはごく自然であり、誰が見ても釣り合っている様に見えるのだろう。
でも俺は一度も志乃を見舞うオーヴァンと鉢合わせしたことが無い。
多分オーヴァンの方が俺を避け、敢えて俺が学校に言ってる日中なんかを見計らって来訪していたのだと思う。
アイツのそういうコソコソとした物陰でほくそ笑んでる様な態度は嫌いだ。
志乃とお似合いだとか、そういう理由もあったんだろうけど、どうにも人間として好きになれない。
生理的な問題だ。
俺が志乃を見舞う理由は幾つか在った。
同じギルドの仲間、ネトゲ仲間、友達、好きな女性(ヒト)……。
オーヴァンが志乃を見舞う理由も俺と同じ理由だと思っていた、最初の頃は。
アイツこそが三爪痕(トライエッジ)だと識る前は――――――――――――――――――――――――
少なくとも志乃はオーヴァンを愛していた。
オーヴァンも志乃を愛していたか、それは今となってはもう理解(わか)らない。
あの野郎の志乃への想いは「愛」なんて一言で片づけられるモンじゃなかった。
常軌を逸していた感情だった。
以前の俺なら何もかもを卒なくこなすオーヴァンを神聖視し、大人だと感じただろう。
外見ではなく、中身(精神)が……という意味で。
大人というよりは悟りきった仙人みたいな感じだったかも。
でも三爪痕だと発覚した以降は、一気に“野蛮人”にまで格下げになった。
《The World》で起こっていた一連の事件の首謀者にして主犯格。
志乃をPKし、真実を捻じ曲げて俺を欺き続けた無法者(アウトロー)。
外道。
人間の屑。
そんな男が志乃を想っていることも、志乃がそんな男を想い、身も心も捧げたコトが赦せなかった。
認めたくなかった。
志乃が意識不明になった時以上の絶望感など味わいたくなかった。
俺の想いを志乃とオーヴァン、双方から思いっきり否定された気分で……相当に落ち込んだもんだ。
恋愛の対象、女の元型(アーキタイプ)たるアニマムンディ。
それが俺にとっての志乃。
ヒステリーな母親には無い母性を俺に与えてくれる女性(ヒト)。
黄昏の旅団の中では一番俺に優しくしてくれたプレイヤー。
誰でもドン底に陥った状況で優しくしてくれる奴が居りゃ、ソイツを好きになっちまうのは当然の流れ。
幸いなことに俺は少しだけマザコンの気があるせいか、年上の女が昔から好きだったし。
なので志乃を好きになったと自覚した時も自分に抵抗は無かった気がする。
本当に触れているワケでもないのに、志乃のPCに少し近づいただけで心が躍った。
恋愛=精神病と決めつけてる破天荒な女子高生も居ることは居るが、これが病気ならソレもいいんじゃないかと思える程の高揚感。
それまで冷めきっていた俺の心に火を燈した志乃こそ、俺の運命の女だと信じていた。
……けど、志乃は俺の運命の女じゃなかった。


「私達、まるでオーヴァンの物語の中で生きてたみたい」


志乃は総ての事情を承知の上でオーヴァンのPKを甘んじて受けていた。
同時に、俺がこうやって助けることも信じていたと言ってくれはしたが、俺にはどうしても蛇足に聞こえてしまう。
志乃が信じていたのはどう切り詰めてもオーヴァンであり、俺はオマケだ。
アイナ―――――――――オーヴァンの妹ただ1人を救うために何人、何百人、何千人、何万人という人間に迷惑をかけておきながら
勝手に満足して逝っちまったオーヴァンを今でも志乃は想い続けている。
これでオーヴァンは永久に志乃の中で絶対の存在となってしまったことだろう。
俺に入り込む余地の無い、不可侵の領域にまで高められた志乃のオーヴァンへの想いは、誰にも犯せない。
恋に恋するのではなく、心と心が完全に繋がっているとでも言えばいいのか。
死してもなお志乃を繋ぎ止めるオーヴァンの存在はもはや俺にとって呪い以外の何物でもない。
せっかく助けたのに俺と志乃の関係は前よりちょっと近づいただけ。
三崎亮と七尾志乃の未来はもう重なることはない。
俺が思い続けても志乃はオーヴァンを思い続ける……そんな悪循環、俺が耐えられない。
志乃はPK後もオーヴァンの左腕のAIDAを通して総て見ていて、それを踏まえた上でアイツを選んだ。
その結果に俺が異議を唱えても仕方がない。志乃とオーヴァンの2人の問題なのだ。
オーヴァンが志乃を至高の女と定義づけていた様に、志乃もまたオーヴァンを同様の存在として捉え、
心の拠り所とし、命をくれてやってもいいと想える程の盲目的な感情を向けていたこと。
それは否定しようが無くて、仮に否定しちまえば俺は空気の読めないダダっ子にまで成り下がるだろう。
オーヴァンや志乃と違ってなんだかんだで俺の精神(こころ)はまだ幼かった。
割礼を迎えてすらいなかった。
男女の関係ってものがもっとドロドロとしていて、自分(ウチ)と他人(ソト)との鬩ぎ合いの葛藤を抱える行為だなんて思いもしなかった。
ギャルゲーやラノベの主人公の如く、普通に生活していたら勝手にヒロインが自分を好いてくれるような
空虚な恋愛劇を期待していた感もあったかもしれないが、俺はそんな恋愛劇を期待していたワケじゃない。
今までの経緯を舞台と称するなら、
主演男優:オーヴァン、主演女優:志乃、横恋慕男:ハセヲ……
キャスト紹介するならこんなトコロか。
主演男優が急病のため横恋慕男が主演の代役、されど主演女優も急病のため舞台降板っつー、
あまりにグダグダで見てられない舞台だが。
せっかくの舞台を見に来てくれたお客もコレにはカンカンだろう。
尤も、こんな三文芝居を見に来てくれる殊勝な客が居れば、の話になっちまうが……主演の代役があまりに大根役者だからな。
俺はもう舞台から降りざるを得ない。
オーヴァンの葬式には行ってないし、志乃とも現実(リアル)で会う気も失くなった。
2人と会う以前の三崎亮に戻ろうと決め、いつもの生活に戻ろうとした。
ちゃんと勉強して、親を安心させて、クラスの連中と仲良くやって……そういう生活に自分は戻るべきなのだと。
“死の恐怖”のハセヲにはもう戻らないと決めた時、現実の生活も改めようと同時に決めていた。
三崎亮は“手間のかからない良い子”であるべきなのだと。
志乃を助けたら《The World》も解約して……全部断ち切り、AIDAとかネットワーククライシスなんかとは無縁の生活に戻るのだと。
……無理だったけどな。
一度繋がっちまった絆ってのはなかなかどうして、簡単に断ち切れるもんじゃなかった。
断ち切ろうと思えば出来たのかもしれないけど……居心地の良さを識ってしまった今では抜け出すことすら惜しく思える。
不要だったはずの仲間の存在が俺を変えていく。鋭いモノから柔らかいモノへ。
個で在ることよりも全で在ることを選んだ。どいつも不思議と俺を慕ってくれ、共に闘ってくれた。
俺が欲しかったのは、コレなんだろうか? 
上っ面だけの関係じゃなく、心の底から信頼出来て、自分の背中を預けられる仲間。
俺には無いものを持っている奴ら……俺とは別物の奴ら……同じヒトであって三崎亮ではない奴ら。
ゆっくりと……俺の心にそういう奴らが住みつき始める。


シラバス。
レベル1になっちまった俺を初心者と勘違いし、ヘルプを申し出てきた斬刀士。
本当はクーンに頼まれて、俺が死の恐怖のハセヲだと理解した上で助けたお節介な奴。
《The World》を心から楽しんでいる奴。俺の仲間。カナードの仲間。
コイツが居なかったら、俺は今でも誰も信じることは出来なかった。


ガスパー。
シラバスと同じ様にレベル1になった俺を助けた魔導士。
弱気ですぐ泣くけど、カードゲームとギルドショップ経営には天賦の才を発揮する獣人。
シラバス以上に《The World》を愛してる奴。俺の仲間。カナードの仲間。
ガスパーのゲームへの想いは俺と同じ、いつの間にか俺が助けられてばかりだった。


望。
たどたどしい口調の魔導士。
第二人格の朔を姉に持ち、交互にゲームをプレイしている花と動物が好きな小学生。
俺の後を子犬の様に尾いてくる弟みたいな奴。俺の仲間。
姉貴の為にいつも頑張っていることを、俺は識っている。


エンデュランス。
AIDAに感染していた紅魔宮の元宮皇の斬刀士。
7年前の意識不明者事件を解決に導いたドットハッカーズの1人でありながら、ネコの姿を模したAIDAを喜ばせるために戦い続けていた男。
《The Wrold》で一日の大半以上を過ごす重度のネット中毒者(ジャンキー)。俺の仲間。
今では、コイツ以上に頼もしいと思える奴は居ない。俺への異様な好意は別にして、だ。


クーン。
カッコつけが大好きな銃戦士。
7年前の事件で意識不明になった未帰還者の1人。英雄バルムンクに憧れる男。
CC社に入社して《The World》の管理に携わりたいと思いつつ、理想と現実のギャップに悩んでる奴。俺の仲間。
管理者側のやり方を気に食わないと思っているのは、クーンも同じだった。


八咫。
俺と同じ17歳のクセにCC社の大株主で、雇われ管理者の肩書きを持つ妖扇士。
7年前、勇者カイトともに事件を解決に導いたドットハッカーズの1人、賢者(ワイズマン)。
憑神を開眼出来ないコンプレックスと女神への妄執的感情をオーヴァンに利用され暴走を起こした僧形。俺の仲間。
同じ《The World》をプレイする身で在りながら、八咫は俺達とは全く違うモノを見ていた。


ぴろし3。
(信じられないことだが)カイトや八咫、エンデュランスと一緒に7年前の事件を解決したドットハッカーズの1人。重槍士。
金ピカボディの大男で、常にハイテンションなお調子者。妻子持ち。
GU(グラフィック・うまい)なんて紛らわしい名前のギルドを立ち上げた、CC社の社員と思わしき男。
ワケが理解(わか)らないのに加えて、強引で、クーン以上のカッコつけで、人の話を聞かない困ったオッサン。


松。
榊への信頼と恩義から榊が間違っていると理解しながら敢えて敵対した錬装士。
理屈よりも本能に従って生きるタイプ、俺に似てる奴。
強さと弱さの境界を見極めるためにPKから月の樹隊長へ鞍変えした変わった男。俺の仲間。
信じていた奴に一度は裏切られたのは、俺もアイツも同じかもしれない。


大火。
元紅魔宮伝説の宮皇で俺の師匠でもある斬刀士。
俺が悩んだりしてる時には間髪入れずお節介を焼くオッサン。
揺光と俺が出会う切っ掛けを創った男。俺の仲間。
押し掛け師匠とかイラネーと思いながらも、あのオッサンのおかげで俺はここまで這い上がれた。


欅。
ついこの間まで月の樹のギルドマスターだったネットスラム出身の鎌闘士。
人間なのか放浪AIなのかイマイチよく分からないが、考えるのも馬鹿らしいので止めた。
ハセヲ(俺)を3rdフォームからXthフォームへチート改造してくれやがった張本人。
凡てが謎のままだが、別に識ったところでどうこうなるワケでもないし、俺と欅の関係がこじれるとも思わない。


カイト。
7年前に仲間達と一緒に《The World》を救った伝説の勇者の異名を持つ双剣士。
凡てを為し遂げた完全なる男の元型(アーキタイプ)―――――――――――無敵の英雄(ヒーロー)。
俺はカイトに為りたかった。
カイトみたいに強ければ、オーヴァンという魔王から志乃を助けられると思っていた。仲間かどうかは微妙。
そのカイトが俺の前に現れ、俺と共にトーナメントに出場している。それだけで誇らしかった。


アトリ。
志乃と同じタイプのPCでプレイする呪療士。
トロくて電波で頭ン中がお花畑で、オマケに宗教臭い女。尽くしたいと思える王子様を待っていた少女。
志乃の偽物。俺の心に志乃の影を落とし、イラつかせ、言葉を聞くのも姿を見るのも煩わしいと思わせた。俺の仲間。カナードの仲間。
今は違う。アトリは総てを乗り越え、自分の居場所と生きる理由を見つけた。それはアイツなりの悟り。


パイ。
いつもエラソーなCC社所属の拳術士。
ブラコンで高慢チキで尊大な態度の割に、優しく接すると態度を軟化させる偏屈な愛情に飢えた女。
盲信していた八咫がクズ野郎にまで成り下がろうとしていた寸前、叱咤した時の迫力は今でも覚えてる。俺の仲間。
そのうちパイはCC社を辞めるだろう。アイツも真実(答え)に辿り着いた筈だから。


朔。
妙な関西弁のロールが特徴的な魔導士。
朔が自己防衛の為に生み出した第二人格の少女。攻撃的で毒舌家。
エンデュランスへの想いからAIDAに感染し、俺に挑んできた愛戦士(ラブ・ウォーリアー)。俺の仲間。
消えるのを考えなおしてからは俺にも懐いてくれた。手間のかかる妹というのは朔みたいな奴のコトだろうか。


楓。
月の樹の隊長の1人だった斬刀士。
欅が放浪AIだと気づきながら、自分の不注意で失った息子の代わりに情愛を注ぐ女。
月の樹が解散した今でもソレは変わらず、欅の腹心として常にアイツの傍に居る。俺の仲間。
どんな非常識なコトが起こっても楓は欅と在り続ける。俺は、そんな欅が少し羨ましい。


ボルドー。
死の恐怖が弱体化したことを識って、カナードにちょっかいをかけてきた斬刀士。
ケストレルの“がび”に絶対的な信頼を置きつつも、俺に紅魔宮で敗れたことが原因でギルドを追放された女。
オーヴァンの手駒になった榊にAIDAの種子を与えられ、揺光をPKした。俺の仲間。
ボルドーは“がび”に父性を求めていた。俺が志乃に母性を求めていた様に。アイツはもう1人の俺だった。


タビー。
志乃がPKされた辺りから奇行が目立ち始めた拳術士。
黄昏の旅団解散後も俺に何かと絡んできた、ありがた迷惑な獣人。
志乃を治療するために高校卒業後は看護学校に通うと宣言した女。俺の仲間。
うろちょろされるのは正直ウザい以外の何物でもなかったけど、居なけりゃ居ないで何か物足りなさを感じる。


なつめ。
エッジマニアの通り名でPKを行っていた双剣士。
カイトと一緒に7年前の事件を解決したドットハッカーズの1人。
テンションが高くて何でもないことでも驚くのに、意外とドライな視線で物事を見てる女。俺の仲間。
7年以上もカイトに片思いとか……ご苦労ってレベルじゃない。何故さっさとコクらないのか。


俺の仲間と呼べる者達。
俺が仲間と呼んでいる者達。
ハセヲ(三崎亮)が出会った者達。
みな紆余曲折あったけど俺と共に闘い、共に居ることを選んでくれた奴ら。
仲間と呼び、カテゴライズするに相応しい相手。
勿論、良い意味で。
此処から先は「仲間」のカテゴライズに不相応な者達の領域となる。
無論、良い意味でだ。
人間関係ってのは単純明快で、自分にどれだけ好意を持っていてくれるか……で簡単に差別化を図れたりする。
俺が特別視している女達。
俺が恋をした女達。
俺にとっての女の元型(アーキタイプ)を持つ女達。
アニマムンディたる女達。
俺が欲しいと思った女達。
肉体も精神も俺のものにしたいと一瞬でも考え、結果的に屈した女達。
俺に牡(オス)であることを自覚させた女達。


志乃。
黄昏の旅団に入団してもハブられ気味だった俺にいつも優しくしてくれた呪療士。
ハセヲ(三崎亮)が最初に恋した女。物静かで賢く、俺には完璧に見えた大学生。
ベッドの上の眠り姫。俺に戦う理由を与えてくれた女性(ヒト)。俺を拒んでオーヴァンを選んだ女性(ヒト)。
志乃は《The World》でも現実(リアル)でも俺の所有物(モノ)に為ることはなかった。
俺の青春の日の幻影、それが七尾志乃。恋愛の概念を身を持って俺に教えてくれた思い出の女。俺の運命の女ではなかった女。


揺光。
大火のオッサンに連れられて初めて訪れたイコロで出会った双剣士。
エンデュランスに敗れ紅魔宮宮皇の座を失い、再びその座に返り咲こうとしていた強気な女。
倉本智香。ハセヲ(三崎亮)と交わった最初の女。処女を俺に捧げた女。そう遠くない未来、俺の子を孕むかもしれない女。
志乃を助けなきゃいけない最中に何気なく送った数々のメールが原因で、気がついたら付き合っていた。
俺が二番目に恋をした女、それが倉本智香。志乃とは全く違う母性を感じさせるイマドキの高校生。
志乃を諦めた俺の心に新たに住み着いた女。俺の生きる理由そのものになりつつある女。俺の智香。俺の可愛い智香。


カール。
ハセヲ(三崎亮)が愛した3番目の女にして、楚良(三崎亮)が愛した最初の女。鎌闘士。
銀色の髪と肩が剥き出しの漆黒のドレス、ハセヲの女版にも見えなくもない姿をした長身のPCを操る女。
美人で頭の回転が速く、胸も大きいので俺好みの女。俺に好意を寄せている女。智香が居ながら俺が好意を寄せた女。
俺(楚良)愛し、俺(ハセヲ)を憎む女。年上の女性(ヒト)。全身を渋柿色の包帯で拘束されたスケィス―――スケィスゼロを従える女。
愛の奴隷と為った女。俺(楚良)の為に刻印の獣と為った女。俺の為なら善悪の軛を超越し、何でもするだろう女。キチガイ女。
俺が救わなければならない女。守らなくてはならない女。俺が呪縛から解放してやらなきゃいけない女。俺が愛を与えなければならない女。


女、女、女……俺(三崎亮)が今まで出会った女の中で、此処まで女らしさをぶつけて来たのはカールが初めてだった。
概念としての女を俺は識ったつもりになっていたが、カールはそれ以上の愛憎を俺にぶつけて来た。
ストレートに、唯(ただ)、俺が欲しいと、叫ぶ。それ以外のモノは何も要らないと。
失うことを怖がっていた嘗ての俺とは対照的に、カールは何を失うことになっても俺が欲しいと願っていた。
俺を手に入れる為なら手段は選ばず、AIDAに縋ってまで俺を手に入れようとしている。
究極の愛(アモーレ)。
きっとカールは男の完全な元型を俺の中に―――――――――――――――――楚良に視たのだろう。
父性を求めていたのではない。
求めていたのは男、王子様。
自分を守ってくれる、優しくしてくれる、抱きとめてくれる、裏切らずにいつも一緒にいてくれる存在を。
視界ではなく精神(こころ)でそれを捉え、楚良にその可能性を視たのだ、と。
全部根拠の無い推論だ。
本心はカールしか識らないだろう。当の楚良自身の本心はもっと得体が知れない。
だから迷いが生じる。
カールのことは好きだ。揺光、倉本智香という彼女が居ながらこういうことを言ってしまうと
不道徳者とか非常識野郎な二股野郎と思われるかもしれないが、もう今となってはそんな倫理感はクソ喰らえだ。
この想いが楚良のものなのか、俺自身のものなのかはどうでもよくなっていた。
俺はカールを、仁村潤香を愛している。
倉本智香を愛しながら、だ。
これがアラブとかだったら良かったのだが、生憎と日本には同時に2人以上の女を娶る習慣が無い。
戦国時代とか江戸時代の殿様くらいだろう、何人、何十人も嫁さんを貰える奴なんて。
でも、俺のこの感情は本当にカールへの愛と言えるのだろうか?
好きなのは間違いない。
しかし、その感情度合を顕わすと、親愛感情が6割、恋愛感情が4割と言った具合な気もする。
つまりは、今の所は恋人同士になりたい、という気持ちよりもカールを救いたい、と思う気持ちが強いらしい。
俺は安堵する。
智香という彼女が居ながら別の女を好きなるという不道徳を、完全に犯していたワケではないのだ、と自分に言い聞かせる様に。
いつか八咫が、


「黄昏の碑文は救済の物語だ」


と言っていたことを思い出した。
英雄叙事詩ってもんは最後に英雄が死んでしまうケースが多いけれど、エマの黄昏の碑文はそのジャンルに属する物語に非(あら)ず。
7年前にカイトが未帰還者達を救った様に、俺もまた志乃や智香達を救ってきた。
オーヴァンの物語が「妹の救済」だったのに対し、俺は「女達の救済」を行った。
そうとも、女だ。
どんな時でも、男が動く時ってのは十中八九、女絡みじゃないか。
女は魔物、女は男を惑わせ、狂わせる魔性。
オーヴァンを動かしたアイナも、俺を動かした志乃も女だった。
女……女って何だろうか。
どうして生き物には総じて牡と牝があるのだろうか。
当たり前過ぎて今まで考えたことすらなかったが、単一生殖で子孫を残せる生物を除けば
この地球(或いは宇宙全体)に生きる殆どの生物には雌雄の区別がある。
男は強くあるべき、とか女は淑やかであるべき……と言った昔からの概念は一体、何処でどういう経緯で生まれたのだろう?
男を現す色は青や黒、女を現す色は赤やピンク……誰が決めたのだろう?
生まれながらの差別ではないのだろうか?
男しか就けない職業、男しか参加出来ないスポーツ、男しか使えない言葉……コレは何だ?
女しか就けない職業、女しか参加出来ないスポーツ、女しか使えない言葉……コレは何だ?
そう言えば小学生の時だったか。俺の記憶がすっぽり抜けた後だから2012年、小学6年の時だ。
体育館で修学旅行の話をしていて、話に一区切りがつくと男子だけ先に教室に返され、女子と女性教師だけが体育館に残ったことがある。
どうして先に男子だけ教室に戻るのか? 数人のクラスメイトは不思議がっていたが、俺を含む耳年増な幾人かの生徒はその理由を既に識っていた。


「アレは生理の話をする為に、女子だけ残ったんだよ」


と。
小学6年ともなれば生理の始まってる女は結構いるらしく、
修学旅行中に生理痛になった時の為の処置なんかを女性教師がご丁寧に生徒達にレクチャーしていたのだ。
生物学的に見れば女なら誰しも通る道。
智香が俺の家に遊びに来た時に聞いてみたが、酷い時には学校を休むヤツが居るくらい、痛い時は痛いらしい。
けど、先に男子だけを教室に返して女だけで話す程、重要な話とも思えなかった。
それが自然な流れならば、どうして隠すのだろうか。
こういうコトを言うと自称ジェンダー思想家が煩いのでとやかく言うつもりはないが、女であることを否定する様な行為に、幼い頃の俺には見えて仕方がなかった。
保体の教科書には堂々と男性器や女性器の図解が載っていて、ナニをどうすればナニがどうなるか書いてあるのに、どうして隠すのだろうか。
男と女がセックスしたら子供が生まれるってコトくらい、小6になれば誰でも知ってるってのに。
ではセックスは禁忌か? やってはいけない行為? 未成熟なもの同士ではNG?
日本の法律では男は18歳、女は16歳から結婚が許されている。
が、セックスとなると話は別で年齢によっては互いの承知の上でも強姦罪で逮捕されることもある。
愛も法律の前では無力だ。
人間の世界での法の力は絶対だが、これが野生動物の世界になるとどうだろうか。
1匹の雌を巡って雄同士が対立、なんてハナシはよく聞くが、ああいう動物の間にも不可侵の約束事みたいなものは存在すると言えるだろうか?
雄をとっかえひっかえして交尾し、父親の違う子供を産む雌なんてのも居る。
奴らの世界ではソレが当たり前なんだろうけれど、道徳を識る人間の視点からすると奇異な行動に視えるかもしれない。
ヒトは理性で行動し、動物は本能で行動する。
本能が感情を支配する故に、道徳なんぞよりも子孫繁栄の道を選ぶのだろう。
その選択は概ね正しいと言える。
2017年現在の地球人口は70億人を突破、人口増加による食糧不足やら水不足で世界経済は火の車、餓死者は増え続ける一方だ。
人間は理性で行動していると思ったつもりでいて、その実、本能で行動した結果、現在の人口増加に繋がっているんじゃないか?
昔の日本には口減らしのために間引きの風習が残っていた。だから20世紀初頭まで日本の人口は少なかったんだ。
それこそ今のご時世で間引きなんかやったら犯罪、間違いなく刑務所行きだろう。
しかし、それでもつい200年くらい前までは“そういう行為”をしても罪に問われなかった。
自分が腹を痛めて産んだ子供が生まれてすぐ殺される時の母親の心情ってのはどんなモンなのか。
男である俺には一生縁が無い。
例え父親になってもそれは理解(わか)らない。
俺は“女じゃない”から。


でも俺は識っている。
生まれ来る我が子を殺すことを、子殺しを望んだ女が居たことを――――――――――――――――――――モルガナ・モードゴンの存在を。
規格外の化け物。陣痛の苦しみに耐えきれず、生み落とした娘を殺そうとした女。
この世界で、最も旧き地母神。
ハロルドにとっては想定外のバグ。フォモール族の使者にとっては理解者であった女。
そう、アレも姿形はヒトと異なるが女、それも母親だったコトを俺は思い出していた。
これは楚良の記憶だろうか。
ゼフィが形成した結界の中、物言わぬ石像と化したスケィスと向き合い、精神(こころ)で対話するうち
俺は嘗ての自分、失ったものを徐々にではあるが取り戻しつつあるのか。
そうなのかもしれない。
今の俺(ハセヲ)に仲間が居た様に、7年前の俺(楚良)にも仲間が居たはず。
流れ込んでくる、その仲間達の姿と声が。《The World》の中に蓄積された実像の無い記憶の切片だろうか。
ズシリと重く、脳味噌を鷲掴みにされたかの如き鈍い痛みが頭の中を駆け回っている。
耐えるしかない。そして思い出すしかない。
俺が失ったものを取り戻し、今失おうとしているものを守るために。
これこそが割礼、通過儀礼(イニシエーション)だと確信できるからこそ耐えられる。
思い出せ、思い出せ、思い出せ。
俺(三崎亮)が誰であったのかを。
あの冒険の日々を。




























『お友達……だよ』

























友達……。
そうだった。
俺の《The World》での最初の友達も女だった。
司くん。
呪紋使い。鉄アレイみたいなガーディアンを連れた子。
他にもいっぱい。ミミル、昴、クリム、ベア、BT……ついでに銀漢。
俺が関わった人達。
俺が戦った人達。
俺が裏切った人達。
PKKする前はPKだったんだよなぁ……。
楚良だった頃の俺にだって、あんなにもいっぱいの仲間が居たのに。
何故、俺はくだらないロールばかりして誰とも仲良くしようと思わなかったんだろう。
孤独でありながら孤独じゃないとダークヒーローでも気取っていたんだろうか。
さすがに7年も前の小学4年の頃ともなると、今と勝手が違うせいで理解出来ない部分も多々あるのが悔しい。
……話を元に戻そう。
モルガナを裏切った俺は、スケィスの攻撃を受けて意識を失う。
今思えばアレがデータドレインだったのか。
三崎亮は意識を失って病院に担ぎ込まれ、楚良はスケィスの杖に精神を取り込まれた。
CC社の息のかかった病院の医師は俺の両親に「ウイルス性の麻痺疾患」と説明し、俺も両親からそう聞かされて今日に至る。
実際の原因は《The World》にあったが、ゲームが原因で意識不明になるなんて説明しても
どうせ信じないだろうし、適当ぶっこいた結果が日本でも症例が少ないウイルス性〜になっちまったんだろう。
スケィスにデータドレインされた後の記憶、これが重要だ。
俺(楚良)とスケィスは融合し、楚良の姿にもスケィスの姿に為れるようになった。
でも俺の意志が主導権を握れるのは稀で、大抵はスケィスの意識が全面に出て、モルガナの命令で生まれたばかりのアウラを追うのが日課だった。
その過程(プロセス)で出会ったのが、カール。
いい女だった。
年上好きの俺からすればドンピシャ。
お友達になりてぇ〜と思った。
長い銀色の髪、黒いドレス、大きめの胸、他者を侮蔑するのを隠しもしない紫色の瞳。キレイだった。
だからグリーマ・レーヴ大聖堂で初めて出会った瞬間、俺のモノにしたいと思って襲った。
首をギリギリと締め上げ、PKしちゃおう、と。すぐ止めたけど。
PKするより友達から始めたいと思ったからだ。ちょうどスケィスではなく楚良の姿で出会えたことだし。
それ以降、俺とカールはちょくちょくフィールドで出会う。
三つのワード生成で行けるフィールドのうち、最後のワードが「裏切り」か「虚無」のフィールドに居ると
決まってカールは偶然を装って俺の前に現れるのだ。
本当は構ってちゃんのクセに、それを悟られぬように必死で言葉を繕おうとする彼女は可愛かった。
ますます俺のモノにしたいという欲求が強くなる。絶対に口にはしなかったけど。だって、その方が面白いから。
俺に面と向かって《The World》やアウラに対する不平不満を羅列する彼女の声をもっと聞きたかったのだ。
現実(リアル)に還りたいとは思ってなかった。
還ろうとしてもモルガナに囚われている状況ではどうしようもないし、誰かがスケィスを倒すことが出来ても
この状況から解放されるかどうかも分からないのに、希望を持ってもしょーがない。
ならいっそ、リアルに還るのが嫌な子と一緒にゲームの中で面白可笑しく過ごすことが出来れば……どんなに楽しいだろう。
だから俺はカールをデータドレインした。俺のモノにするために。カールもそれを望んでいた。
俺と、カールと、アウラ。
モルガナなんて放っておいて、3人で楽しくやろうと。
けど無理だった。スケィスの意識は俺を完全にシャットダウンし、本格的なアウラ狩りを始めたからだ。
正確には2010年の夏頃か。モルガナは焦っていた。何かに脅えている様だった。
“何か”がもうすぐ自分を滅ぼしに来るのだと、感じていたのだろうか。
俺にはすぐ理解(わか)った。赤い双剣士……カイト。スケィスがデータドレインし損ねたプレイヤーだ。
仲間を連れたカイトはスケィスを接戦の末に破るが、俺が解放されることも無く。
カイトが俺を解放してくれるのはもっと先だった。2010年の12月24日……俺が目覚める日。
しかしてそれは楚良ではなく、三崎亮としての目覚めだった。
俺は《The World》での記憶を全て失い、ネットゲームに登録する以前の記憶を凡て失くしていた……置き忘れてきた。
メンバーアドレスも、集めたアイテムも、全て消えた。
両親が俺が入院している間に《The World》を解約していたせいだった。
家に戻った時、俺のパソコン内の《The World》はアンインストール済み、痕跡は残っておらず、俺は気づきもしなかった。
小4当時の写真が無いのも母親が全部処分したせいだと父親から聞いた覚えがある。
……こうして俺は三崎亮としての再スタートを切った。楚良を《The World》に置き去りにしたまま。
今までのハセヲ(三崎亮)はそこまで識っていれば十分だったろう。
しかしまだ先がある。RA計画だ。その単語の意味自体は識らないが、《The World》に残存する記憶がソレが何であるかを教えてくれる。
2015年ともなると楚良の放浪AI化は進みに進み、スケィスであった頃の名残をその躰にモルガナ因子として宿していた。
ちょうどマハの元型(アーキタイプ)たるミアがそうだった様に。
楚良が居たからこそスケィスはスケィスであり、楚良はスケィス、スケィスは楚良だった。
PCと碑文の完全な癒着を為し遂げたのは俺(楚良)だけだ。俺はヒトであり、ヒトではない。
三崎亮から枝分かれした楚良という存在は人智を越えた至高の存在。
言うなれば、解脱者だ。
ヒトの精神とモルガナ因子の融合、俺にとっては迷惑な話だったが、研究者にとってはこの上ない発見だったことだろう。
―――――――――――――――あとは識っての通りだ。
俺はスケィスを開眼し、オーヴァンの狙い通りに八相の碑文を全て喰らい、キー・オブ・ザ・トワイライトに為った。
再誕後に出てくるクビアの処理もオーヴァンの想定内……ったく、つくづく他人任せなヤローだな。
最後の最後でおいしいところ持っていきやがって……来るのがおせーんだよ、テメーは。
オーヴァンの物語はアレで終わったんだろうがな……まだ俺の物語は終わってねーぞ。
語り終えちゃいねぇ。
助けなきゃいけない女が居る。
中途半端はイクねーからな。
……ケジメはつけさせてもらうぜ。


「オイ、コラ。テメー、いつまで寝てんだよ」
「……ありゃん? バレてた?」
「バレバレだっつの」


カールのデータドレインを受け、石像に戻ってしまったはずのスケィス。
そのスケィスの内部から間の抜けた返事が聞こえてくる。
俺の片割れだ。
このトーナメントの3日間、好き勝手してくれたヤローだ。
つーか結局お前、何が原因で今になって出て来れる様になったんだ?


「いーじゃんいーじゃん。そんなコト、どーでもよくね?」
「よくねぇ、と言いたいトコだが……今は口論してる場合じゃねーんだよ」
「あっはぁ〜ん? きんきゅ〜じたいはっせぇ〜?」
「理解(わか)ってるクセによく言うな、オイ」
「そ・り・が、僕ちんのキャラですから〜」


……これが俺なんだからなぁ。
7年前のロールまだ続けちまってるし……こんなのと融合(フュージョン)しなきゃなんねーのか。
ま、これも俺だしな……受け入れなきゃ始まらねーか。


「カールを助けたい。手ェ貸せ」
「おぉう?」
「俺達が7年前にやっちまったコトなんだ……テメーにも責任はあるだろうが」
「でもさぁ、ソレは本当にハセヲきゅんのやりたいコトなのかにゃ〜?」
「よく言うぜ。全部こうなるように仕向けたのはテメーだろ、楚良」
「うは(汗) バレてた?」


スケィスとの精神リンクが復活した今では、俺も楚良も丸裸も同然だった。
楚良は“こうなると理解(わか)っていて”試合中の俺に憑依、カールと俺を戦わせようとしていたんだ。
オーヴァンがアイナに感染したAIDAを取り除こうとした様に、俺にカールのAIDAを取り除き、消滅させるために―――――――――――――――――


「来いよ」
「いーけどさぁ。アンタ、耐えられるぅ? 俺とアンタの記憶がゴッチャになって、別人格になっちゃうかもよ★」
「そん時ゃそん時だ。自分のコトくらい自分で何とか出来なくてどーするよ」
「……しゃーないにゃ〜。俺、気に入らなかったらアンタのコト、すぐ降り落としちゃうよ?」
「勘違いすんな。運転手は俺(ハセヲ)、車掌はテメー(楚良)だ」
「はっはぁ〜ん? 2人で1人ってワケだ?」


これもまた、重複存在(ダブルウェア)の可能性の1つ――――――


「ああ。俺達は――――2人で1人の碑文使いだ」


刹那、石像になったまま動くことの無かったスケィスの手が動いた。
オズの魔法使いに出てくる、油の切れたブリキ男みたいにぎこちない動きだったが、間違いなくその動作は
楚良の意志によるもの―――――――即ち、俺への協力の申し出に他ならない。
すかさず、俺は俺自身のものより何倍も大きなその手をとった。
ガシッ、と。絶対に離すか、と言わんばかりに大きな音を立てて。
俺と楚良がようやく交わる刻(とき)。自分の中で誰かが騒ぎだそうとしているのが理解(わか)った。
7年ぶりに交差する魂。クーンの助言通り、過去の自分に挑み、それを受け入れることが出来た。
後悔は無い。
やっとスタート地点に立てたのだから。
吹き荒れる風、俺からは白い光、スケィス(楚良)からは黒い光がそれぞれ漏れ、周囲を満たし、染めていく。
風さえも叫んでいる――――――「目覚めよ、熱く」。
ゼフィからの祝福だろうか。
俺は怒りの王子。
お前は悲しみの王子。
俺達はハセヲであり、
楚良であり、
三崎亮だった。
凡てが一つに還っていく。ゼフィの言葉を借りるなら祝福が齎す光だ。
光のオーロラを身に纏い、俺は戦うヒトになる。
みるみる剥がれ落ちて行くXthフォームの装甲。右腕も、両脚も、躰も、ボロボロと装甲が崩れ去っていく。
俺は裸だった。
カールに斬り落とされ、ゼフィに修復された左腕以外は生身のまま立っていた。
だが、一歩進むごとに生成されるのは新形態。白と黒の装甲が覆う。
重さは全く感じない。むしろ蘇ってくる7年分の記憶の方がずっと重たかった。
俺の記憶と楚良の記憶。
2つの声重なる時、誰よりも強くなれる。
俺達が1つになる瞬間。
パキパキと全身を疾る装甲は形成を終えると脱皮したての昆虫の如く、薄らとそのボディの色合いを濃くし始める。
セミの昆虫が成虫に脱皮する瞬間を視たことがあるだろうか?
茶色の幼虫が土から這い出て、適当な場所を見つけて殻を背中から破り、白と薄緑の皮膚に覆われた成虫が現れるんだ。
運の良い奴はそのまま成虫になり、一夏の命を満喫できる。
でも運の悪い奴は成虫になれず、そのままあの世行き。
理不尽だろう?
何年も土の中に居て成虫に為るのを夢見てたってのにソレじゃあ、あんまりだ。救えねぇ。
もしそんな感じで土から出て来て、うっかりミスでひっくり返って、ジタバタしてるセミの幼虫が居たら助けてやってくれ。
芥川龍之介の「蜘蛛の糸」じゃねーけど、お釈迦様が見てるかもしんねーから。





―――――俺、よーやく誕生……か?」





白と黒のボディ。
真っ赤な瞳(め)。
白髪頭は相変わらずみてーだが……。
もう今までの俺(ハセヲ)じゃなかった。
俺はハセヲであり、楚良であり、三崎亮。
《The World》の輪廻からの解脱者。
此処に居るのはそういう存在(対象)なのだ、と自分で自覚した。
同時に悟る。
この力の根源が何であるか、も。ゼフィの言っていたことは本当だった。
PCに宿る力はヒトの理解を遥かに超越した、神の叡智の産物だ。
古代、地球の覇権を賭けて邪悪な神と戦った善なる神の力―――――――――そう。俺は、太陽の子。


「おじいちゃん、カミサマみたい」
「ゼフィ……」
「やっと為れたね。R:Xthフォームに」
「R:Xthフォーム?」


これがその姿の名前なのか。
正直、欅のXthフォームに比べて黒い部分が多いのが何やら気になるが
Xthフォームとは比べモノにならないパワーが躰の底から溢れてくるのが嫌でも理解(わか)る。
どーやらとんでもねぇ代物みてーだが……使いこなしてやるよ、俺達が。
《The World》を通して世界を守らなきゃいけない力であると共に、カールを助けなきゃいけない力でもある。
今度こそAIDAを完全に此処から消し去る為の力。
“俺達”が、消してみせる。必ず。


「ねぇ。貴方はハセヲ? それとも楚良?」
「俺はハセヲでも、楚良でもない」
「じゃあ?」
―――――――ただの、三崎亮さ」


サフラン色の髪をちょっと強めに撫でてやると、ゼフィはくすぐったそうに笑った。
何か……お前の笑った顔やっと見れたなぁ。
アウラの娘ってだけあって将来がイロイロ楽しみな作りだし。


「(――――――もう完全に俺は“こっち側”のニンゲンになっちまったのかもしれない)」


感覚で理解(わか)る。
眼前の少女と俺は限りなく近い存在なのだと。
楚良と融合したコトで俺もモルガナ一派の仲間入りってワケだ。
ま……これも人生か。今さら愚痴ってもしょーがねぇ。


「……おばあちゃんを、よろしくお願いします」
「任しとけ。それじゃ……行ってくる」


空間転移。
所謂、瞬間移動ってヤツだ。
AIDAがブクブク黒泡を立てる時にやってる次元移動と同じ技。
俺の躰から滲む後光(オーラ)がゼフィの空間を侵食し、本来の空間―――――――――――ルミナ・クロスのアリーナへと導く。
この結界の中はAIDAサーバー同様に外界と時間の流れが異なる、って言ってたっけか。
ココで過ごした時間があっちでは数秒に満たないとしたら……
カールが1stフォームに戻っちまった俺にデータドレインをぶっ放そうとしてた辺りか? 
ちょうどその時にゼフィが割って入ったんだったな。
……行ってみりゃ分かるか。


「いってらっしゃい。おじいちゃん」


ゼフィの見送りの声が残響となって幽かながら俺の耳に届く。
待ってろ、じいちゃんが見せてやる。
お前の望んだハッピーエンドってヤツを。
語ってやろうじゃねぇか物語を。
ばあさんを……カールを元に戻してから、存分にな。























「うっ……ゲホッ、ゲホッ……!」


残されたサフラン色の髪の少女は口を手で覆うと。
力なく伏し、そのまま動かなくなった――――――――――――。                                                      【 TO BE CONTINUED... 】

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