「.hack//G.U.」と「コードギアス 反逆のルルーシュR2」と「LAS(LMS)」と「ゴッドイーター」と「仮面ライダーディケイド」の荒唐無稽恋愛活劇SSサイト(のつもり)。

『俺は独りではない! かつて牙狼の称号を得た全ての英霊と……俺は共に戦ってきた!』
                                                                【冴島鋼牙 「牙狼-GARO-」 最終話『英霊』(2006年3月31日放送) より】




『立った、ハセヲが立ったァ――――――――――ッ!!!
 カール選手の放った謎の怪光線により瀕死にされたばかりかっ、1stフォームにまで戻ってしまったハセヲ選手!
 不思議な光に包まれたかと思うと、銀色に光輝く新たな姿となって、再び立ち上がりましたァ―――――――――――――――――!!!!
 ま、まるで太陽です! 
 ハセヲ選手から溢れる後光(オーラ)により、先程からアリーナに降っていた雨が、一瞬で乾ききってしまいましたッ!
 ハセヲ選手の全身各所は黒いボディパーツで覆われ、真っ赤な瞳(め)が爛爛と輝いております!
 た、大火様っ、こ、これは一体……!?』
『まさか……。
 ハセヲの野郎、試合中にジョブエクステンドしやがったのか……!?』
『ジョジョ、ジョブエクステンドと申しますとっ!?』
『知っての通り、ハセヲの奴は錬装士(マルチウエポン)だがよ。
 本来なら2回しか出来ねぇはずのジョブエクステンドを3回もやってるだろう?
 三階級制覇特典だの新ジョブのモニターに当選しただの、
 色々噂はあるが……詳しいコトは師匠のワシも理解(わか)らん。
 それがカールの攻撃で一気に1stフォームにまで戻っちまった……
 しかし何かの力が作用して、4度目のジョブエクステンドに成功したとしたら……』
『な、なるほどっ! 
 確かに紅魔宮・碧聖宮・竜賢宮のアリーナタイトルマッチ三階級制覇を成し遂げた、ハセヲ選手なら有り得る話かもしれませんね!!
 試合中にジョブエクステンドが行われるなど前代未聞の事態ではありますが……』
『だが、ハッキリ言えるコトが1つだけある。
 もう今までのアイツじゃねぇ……完全に別次元の存在だぜ!』


大火の思惑は、概ね正しく。


「今思うと……。
 カイトの奴、こうなると分かってて俺に“コレ”返しやがったな……?」


両腕に握られた不敗剣(クラウ・ソラス)、報復剣(フラガラッハ)。
不敗剣は左腕に、報復剣は右腕に。
それぞれの刀身が妖しい光を放ち、霊験あらたかなモノであるコトを自ら訴えている様だった。
コレはグリーマ・レーヴ大聖堂でカイトの奴が俺に渡した「楚良の双剣」が変化したモノ。
俺がR:Xthフォームに進化したのと同じく、
あの双剣も再び楚良と……俺と共に闘う為、新たな姿となって顕現した。
斬魔、破邪、天魔覆滅。
AIDAを調伏し一片残らず切り捨てる剣聖の双剣。
重くはなかった。
むしろ懐かしいモノが帰ってきたという郷愁感すら感じる。
ま、昔の俺が使ってたんだから当然と言えば当然か。
随分と馴染むのはそのせいだ。
あの頃は手甲の中に収納して忍者っぽく使ってたんだよなァ……懐かしいぜ。


「試合再開、するか?」


あえて斬り落とされた左腕……
ゼフィから貰った銀の腕(アガートラーム)でクイクイと挑発をしてみる。
義手にしては生身の腕と全く変わらない機動性を持っている様で、さすが女神の娘が誂えただけある一級品だ。
加えて全身から漲る力……ハセヲ(俺)のPCに癒着した八相の碑文に加え、俺と楚良の核(コア)とも言える
2枚の碑文が新たに搭載されたデュアルコア仕様の影響が色濃い。
おかげでXthフォームの時に感じていた自分以外の碑文の負担感を皆無と言っていい程に感じなくなった。
脳が2つ、心臓も2つになった、とでも思えばいいのか。
妙に心も身体もスッキリしちまって自分でもビックリだ。
楚良が危惧していた7年分の記憶のせいで頭がパンク……ってのも今の所ないっぽい。
頭からっぽの方が夢つめこめるからな。
馬鹿でいいのさ。
……つまんないお利口さんより、面白い馬鹿の方が。


「お望み通り楚良を連れて来てやったぜ……今の俺がそうだ。
 けど俺はハセヲでも楚良でもない……AIDAを倒す者……三崎亮。これが、今の俺ってワケだ」
「……ふざけるなッ!!!」


俺の軽口に激昂するカール。
いつの日か、お前には理解(わか)ってほしいと思ってた。
戦いだけに生きた俺の胸の内を。
愛にはぐれ、愛を憎み、愛を求める……僅かな安らぎさえ打ち捨てた誓いの日々を。
俺(三崎亮)は、あの9ヶ月……
お前のコトも忘れて、唯だ、戦い続けていたコトを、理解(わか)ってほしい。
でも、俺の気持ちは今のカールには伝わらない。
3本の尻尾は威嚇する様に大きくそそり立ち、
鮮血で染め上げたと言われても全く違和感の無い紅いドレスは、
更にB-stフォームの浸食が進んだ影響かドス黒く変化し、降り乱した銀色の髪と般若の如き形相と相まって悪鬼の様を呈している。
観客席から湧き起こる歓声と悲鳴。
白のオーラと黒のオーラがぶつかり合い、スパークが激しくバチバチとそこらで出ては消え、出ては消え……
それを観客達は恐れていた。
多分、俺やカールの姿にもビビってるんだろうけど。
今……感じる感覚は……俺は「白」の中にいるということだ……カールは「黒」! 
俺は「白」! 「黒」と「白」がはっきり別れて感じられるぜ!
傷ついた体でも勇気が湧いてくる……「正しいことの白」の中に俺はいる。 
でなきゃ融合して1人に戻った意味がねーからな。
例え異形の姿になっても、俺が三崎亮であることに何ら変わりはねぇ……
AIDAに苦しめられてきた奴らのためにも……俺が今、ここで戦わなきゃいけねーんだ!!!


「お前を忘れちまってたコトについては言い訳しねぇ。
 悪いのは全部俺だからな。
 けどよ、俺のためにAIDAに魂売り渡しちまったのは……やり過ぎだぜ。
 ……お前はそんな安っぽい女じゃねーだろうが!」
「うるさいよ……うるさい……うるさぁぁぁぁぁいっ!!!!」


……話し合いはやっぱ無理か。
狂乱状態のカールは怒号と共に憑神鎌を構え、俺に向かって大きく跳躍した。
3本の尻尾が大きくうねり、その鋭い先端が俺の身体を抉ろうと伸縮、突き進んで来る。
あの尻尾、伸ばすことも出来たんだな……。
さっきまでメチャクチャやべぇ状況だったってのに、妙に落ち着いているのが自分でも不思議だった。
なのに自然と昂揚感と言うか、好戦的な気分でもある。
軽い興奮状態……とでも言えばいいのか。
多分、楚良と融合したことでアイツのそういった気質を思い出しちまったせいだろう。
あの頃は面白半分でPKやってたからなァ……BTとか銀漢、今なにやってんだろうか。
……っと、思い出に耽ってる場合じゃねーんだよな、今は!























ガッ!





















「!?」
「お前じゃ、俺は斃(たお)せねぇ」


























グッ……!




























以前なら軌道を予測するだけで精一杯だった、八咫のフィドヘルの能力……第六感(シックスセンス)。
それにクーンのメイガスの能力、視覚肥大を加えることにより、より高次の視野を得ることが可能となる。
異なる碑文の固有能力の融合!
7年もの間スケィスと癒着し続けていた楚良でなければ、到底扱いきれぬ外道の力。
第六感でカールの尻尾の動きを何万通りも予測した後、
視覚肥大による表面(テクスチャ)処理を行い、
その内部にある高次存在を視認直後、神経信号に置き換え脳に伝達……ここまではいい。
あとは勝手に脳みそが処理してくれる。
普通に生きていればそういった概念も知らずに視ることができるだろう。
けど……現在(いま)の俺は違う。
凡てが今までと違って視える。
クーンの奴、こんな世界を毎日視てやがったのか……そりゃ女でもナンパして気晴らししたくもなるわな。
何つー二次元世界だ。
空も、床も、観客席も、今、俺の目の前で尻尾を受け止められてビビってるカールさえも。
凡て、これまでの常識を覆す高次元の存在として俺の眼に映っていた。
構造が、より明確に、なのに、より複雑に。
本来なら二次元でしか捉えられないはずのモノが、
どう視ても七次元、八次元の存在として俺には映っている様に視えるんだ。
いや……八次元(阿頼耶識)なんて生易しいモンじゃない。
もっと、もっとだ。
ヒトがヒトを越えた時、その可能性は無限に広がる。
このゲームをプレイしている奴が2000万人なら、2000万通りの可能性が在ったっておかしかねぇだろ?
俺もその可能性の1つだ。
三崎亮と言う人間が「楚良」としてプレイし、
「ハセヲ」としてプレイし、
そして「三崎亮」としての結末を迎える。
俺の物語の終焉は近い。
ゼフィもハッピーエンドを見たいと言っていた。
だから俺は語ろう。
俺達(ハセヲと楚良)が見せるコトの出来る、最高のエンディングってヤツを!


「はっ、離っ――――――――――――――――――――――
「ははひてほひひか(離してほしいか)? ほら……よッ!!!」


“予想した通り”、俺の顔面直撃コースで尻尾を突きつけてきたカール。
だがそのスズメバチの毒針を彷彿とさせる鋭利なB-stフォームの尻尾は全て俺によって受け止められている。
3本のうち2本は双剣によって遮られ、残りの1本は……少々見苦しいが、口で受け止めさせてもらった。
俺の歯がガッチリと、喉に食い込むギリギリの所で最後の1本の先端を咥え込んでいた。
思い切って歯で受け止めたものの、その感触は奇妙なものだった。
尻尾の先端部だけに皮膚が硬質化したものかと思ったが、存外に金属の様な感じもする。
しかし、味はハッキリ言ってゲロマズ。血と石油を混ぜたみてーな吐き気のする味。
いつだったかパイが言っていたAIDAの匂いと完全に一致するな……カールがAIDAに毒されてる証拠でもある。
なのにアイツ(カール)の尻尾を咥え込んでいる……勝ってもねぇのに変な征服感が湧き出てくるのも困りものだ。
触覚はエンデュランスのマハ、味覚は朔と望のゴレ固有の能力だ。
でもこのムラムラ感はどー見ても楚良の野郎のせいだな……戦闘中にナニ考えてんだ俺は……。
とりあえず、いつまでもこーしてるのもアレなんで……投げ飛ばしてやった。



『うぉぉおおぉぉぉおぉ――――――――――――――――――!!!
 ハッ、ハセヲ選手、カール選手の尻尾攻撃を受け止め、そのまま投げ返したァ――――――――――――――――!!!!』
『ハセヲの奴、今のは完全に軌道を見切ってやがったな! 上手ぇもんだ!!』
『しかし大火様! ハセヲ選手はともかく、カール選手の変わり様は一体……。
 ど、どことなくボルドー選手や天狼選手、太白選手を思わせる姿ですが……む、むしろPKトーナメント時の榊氏を思い出します!
 あの3本の尻尾といい、赤黒く変色したドレスといい、左肩に生えた黒い突起といい、ま、まさか、アレはア、AIDAなのでは……!?』
『……ワシもそう思ったんだがよ。AIDAならCC社側から試合中止のアナウンスが入るんじゃねぇか?』
『で、ですよね! 
 しかし大会運営側からは今の所、試合ストップの通知は来ておりません!
 現在3つの舞台にて試合が行われておりますが、既に2組は試合終了!
 カイト選手VS天狼選手の試合はカイト選手が勝利、なつめ選手VS揺光選手の試合は両者KOで引き分け!
 つまりは今行われているハセヲ選手VSカール選手の試合で凡てに決着がつくのですっ!
 カール選手がハセヲ選手を倒せばスコア同点で延長戦、ハセヲ選手が勝てばそのまま優勝となります!!』



もう試合って場合じゃねーんだけどなぁ。
でも八咫やパイから一向に連絡がねートコを見るとCC側も黙認してんのか?
つーコトはやっぱ、俺が直接AIDAをブッ倒さなきゃダメらしいな。
やれやれだぜ……!


「くっ……。やっ、たなぁぁぁあぁぁあぁあぁあぁあああああぁああ!!!!」


空中に投げ飛ばされたカールだったが、
バトルフィールドに叩きつけられる寸前になって体勢を立て直していた。
まるでスパイダーマンみたく3本の尻尾を器用に広げてへばり付き、そのまま反動を利用して再度飛び掛かってくる。
無論、ただ飛び掛かってくるだけの女じゃない。
俺が投げ飛ばしてやった直後から、お前が技の準備を始めてたコトに気づかないと思ったか?
アトリのイニスの聴覚肥大……まさに“デビルイヤーは地獄耳”ってヤツだな。
便利だが使い時を考えねーと鼓膜がどうにかなっちまうぜ。
おかげでカールの声があんなに離れてるのに耳元でガンガン響きやがる! 
女の金切り声ってのはどーしてこう耳にギンギン来るのか……。


「環伐乱絶せ―――――――――――――――――――――んッ!?」
「効かねぇな」


ゼフィから譲り受けた銀の腕(アガートラーム)の強度は、カールの憑神鎌(スケィス)の上を行く。
さっきの尻尾攻撃の時みたいに双剣で受け止めても良かったんだが、それ以上にこの義手の強度を確かめておきたかった。
悪くねぇ使い心地だ。
ちゃんと俺の思った通りに動きをトレースしてくれている。
アレだ、鋼の錬金術師のエドのオートメイルみてーだな。
アレは右腕だったか……。


「大事なコトだから2回言うぜ……お前じゃ俺を斃せねぇ」


たった2回の攻防で俺は全てを悟った。
今の俺の戦闘力はB-stフォーム化したカールを遥かに超えている。
楚良との融合(フュージョン)がここまで力を引き出すもんだとは正直思っていなかった。
参ったな……どうやらちょっとばかり“強くなりすぎちまった”らしい。
だがコレくらいじゃカールは諦めないだろう。
何よりも俺の目的はカールを倒すことじゃなく、飽くまでカールに憑ついたAIDA……トライエッジの駆除だ。
そう、今もカールの左肩でクネクネ動いてる黒い刃。あの野郎をブチのめさなきゃならねぇ。
けど、どうすりゃカールでなくてトライエッジの方を引きずり出すコトができる?
俺とアイツ(AIDA)に必要なのは対話だ。
地球人と宇宙人としての対話。武力衝突は出来れば最終手段にしたい。それが俺の本音。
これまでの俺なら有無を言わさずに力で解決を図ろうとしただろう。でも、それは“前の”俺だ。
力で屈伏させるのではなく……対話でねじ伏せたい、そしてこの地球(ほし)から出て行きやがれ、と。
この地球はみんなの星だ、お前ら邪神なんかに支配なんかさせねぇ、って言ってやりたい。
……カールが人質じゃなければな。


「その気になれば俺はテメー(AIDA)を一瞬で消し炭にだって出来る。
 それをすぐにやっちまわねーのは、俺がテメーと話をしたいからだ。
 人間をずっと観察してたんだろ?
 ネットワークを馬鹿デカい実験室に見立てて何十年も……違うか? 邪神の眷属さんよ」
「……!」
「俺は太陽の子。
 今の俺に触れただけで並のAIDAなら蒸発もんだ。
 あえてテメーに決定打を与えないのは、イロイロと聞きたいことがあるから……理解(わか)るだろ?」
「太陽……太陽神タラニスのこと……?」
「トボけんなよ……そりゃ“このゲームの方”だろうが。
 ルーだ、太陽神ルー。
 ケルト神話の、フォモール族を倒した光の神。今の俺が、そのルーだっつってんだよ」
――――――――――――ナルホドネ」
「……!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――明らかに、空気が変わった。


「事情ハ凡テ御存知ト言ウコトカ」
「……よーやく出て来やがったな」
「るー……懐カシイ名ダ。ココノトコロ、トント忘レテイタヨ」
「直接会ったコトが?」
「私ハ無イ。
 ダガ私ノ主タル神々ハ、会ッタコトガアルダロウネ。
 私ガ生ミ出サレル、ハルカ何千年モ前ニ――――――――――


声はいつものカールの声だ。
初代バトスピのJっぽいロリ声な。……だが口調は明らかにカールのものじゃない。
何か得体の知れない、人類がこれまで遭遇して来なかった未知の恐怖を含んだ、
地の底から響く様なおぞましさを感じさせる。
もうカールの表情(カオ)に驚きの色はない。今はとても落ち着いているように見えた。
左肩のトライエッジは相変わらずクネクネ動いているが、それ以外は尻尾も鎌も動きを止め、眼前の俺を直視し、
ニヤリと小さな笑みを浮かべ、嘲笑った。


「マサカ、私ノ正体ニ気ヅクトハネ……イツ知ッタ? 
 誰ニ聞イタ? 答エ給エ」
「ノーコメント。
 今のテメーは俺に質問できる立場じゃねーだろうが。質問を尋問に変えてもいいんだぞ」
「フム。
 ソレモソウダ……失礼ヲ詫ビヨウ。デハ、コノ私ニ何ヲ聞キキタイノカネ?」
「……お前はオーヴァンに憑いたトライエッジなのか」
「厳密ニハ違ウ。
 私ハ、アノ男に憑イテイタ者ノ、こぴーダヨ。
 既ニ事情ヲ知ッテイルトハ思ウガ、アノ男ハ君ガ現レル以前ニ、コノかーるニ目ヲツケテイタ。
 ソコデ私ヲ2分シ、彼女ニ感染サセ、君ガ旅団ニ入団シナカッタ時ノ保険トシテ、使ウツモリダッタノダヨ」
「(やっぱマジだったのか……)」


カール本人の口から直接……
いや、トライエッジ本人がそう言ってるんだから、もう疑いようが無い。
ゼフィの言っていた通りだった。
オーヴァンは俺が黄昏の旅団に入るのを拒否した時、或いはスケィスを開眼出来なかった時の措置として
俺と同様にモルガナとスケィスに縁のあるカールを依代に選んでいた……!
カールをAIDAに感染させたのはいいが、肝心のカールは今年の夏まで《The World》を離れていたせいで
オーヴァンの再誕によるAIDA駆除の対象になれず、
そのままAIDAを抱えたまま俺に出会っちまって……楚良を取り戻す為に、あんな姿になって……。


「……この地球(ほし)に来て70年、その間にテメーが学んだコトは?」
「実ニ多クノコトヲ学ンダ。
 政治、経済、文化、宗教……君達みれー族ニ関スルコトハ殆ドネ。
 ダガ、君達ノ心ハ私ニトッテモ、未知ノ領域ダッタ。
 ナノデ私ハふぉもーるノ神々ノ地球帰還ヲ手助ケシテクレル人間ヲ探シタ。
 心ノ調査ヲ兼ネテ。
 ソコデ1992年、私ハ、ふらんすノトアル療養施設ニテ、1人ノどいつ人女性ト、こんたくとヲトルコトニシタ」
「“黄昏の碑文”の原作者、エマ・ウィーラント」
「然リ。
 彼女ハトテモ優秀ナぱーとーなーダッタ。
 しゅたいなー人智学ニ傾倒シテイタ、おかると女ダッタコトヲ除ケバ、実ニヨク出来タ宣教師ダッタヨ。
 唯一ノ誤算ハ、えまガ責務ノ重圧ニ耐エ兼カネ、自殺シテシマッタコトダ。
 惜シイ女性ヲ亡クシタ。
 ダガ、えまノ死ガ、はろるど・ひゅーいっくトイウ男ニ、私ノ存在ヲ気ヅカセルコトニナロウトハネ……」
「この《The World》はただのゲームじゃねぇ。
 女神アウラを介して、世界中のネットワークを密かにテメーの主人達の襲来に備えて
 地球の防衛システムに作り替える防衛プログラム……それを知ったテメーはモルガナ・モードゴンに接触した」
「子殺シヲ望ンダ母ダネ? 
 モウ随分前ニ滅ボサレタハズダガ。
 ソウイエバ、君カラハ彼女ノ匂イガスルナ。ナルホド、ナルホド、ソウイウコトカ。
 君ハアノ、もるがな八相ノぱわーヲ持ッテイルノダネ? ソレモ、おりじなるノ。
 デハ君ハ私ノ息子モ同然ダ。
 アノ、八相ヲ生ミ落トシタノハ確カニもるがなダッタガ、私モ、八相誕生ニ協力シテイルカラネ」
「宇宙人の子供になった覚えはねーぞ。Xファイルの見過ぎだ」
「アレハ、終盤カラ急ニツマラナクナッタノガ、実ニ惜シイどらまダッタヨ」


……こんなコトを諳んじていやがるワケだが。
テメーだってロズウェル事件の時に落っこちて来たUFOの中に潜んでやがったんだろうが。
テメーの存在自体がXファイルだっつーの。


「シカシ……ツイ数分前マデ瀕死ダッタ君ガ、ドウシテ、ココマデ急激ナぱわーあっぷヲ?
 ドウ見テモ、かーるノ戦闘力ヲ凌駕シテイル……ソレコソ、ひとノ限界ヲ超エテイルヨ。
 強チ、るーヲ名乗ッテイルノモ、はったりデハ無サソウダ。
 太陽ノ子カ……マサカ、君ハ、アノだーな神族ノ子孫カネ?」
「さっき自分で俺を『息子も同然』って言ったのと矛盾してるぞ、ソレ」
「ソレモソウカ。
 ダガ私ガ思ウニ、君ハみれー族ノ中デモ、だーな神族寄リノヨウダ」
「ワケ分かんねぇ」
「ツマリハ『先祖返リ』ダ。
 『隔世遺伝』トモ言ウネ。
 ドウ言ウわけカ、君ノ遺伝情報ニ何ラカノ“ばぐ”ガ生ジタノカモシレナイ。
 超古代ニ失ワレタ神ノ遺伝子ガ、君ノ中デ目覚メタ。
 予メ用意サレテイタモノカ、自己進化ノ過程カ……。
 素晴ラシイ。
 君ハ、生キナガラニ、現世ノ輪廻カラ解脱(きゃすとおふ)シタノダ」
「解脱(キャストオフ)……なぁ。仏陀を気取る気は毛頭ねーぞ。宗教にも興味ねぇし」
「“コノ世界ノ君”ハ面白イナ。
 アノ男ト退屈ナ仏法ノ問答ヲ繰リ返シテイタ、アノ君ト違ッテ、単純(シンプル)デイイ」


この世界の君……? 退屈な仏法の問答……? あの君……? 
何言ってやがんだ、コイツ。


「イズレ、君ハモット輝ケル存在ヘト昇華スルダロウ。
 ヨリ高次ノ、霊的ナ存在ニネ」
「宗教開いて、教祖にでもなれってか」
「ソンナ俗ッポイコトハ止メテオケ。
 ……君ハ自分ノ価値を再認識スル必要ガアルナ。
 はせを、君ガ“涅槃寂静(ハイパークロックアップ)”ニ達スルニハ、マダ時間ガ、カカルヨウダ。
 シカシ、解脱ガ済ンデイルノナラ、涅槃ニモ遠カラズ達スルダロウ。
 君ガ望ム、望マナイニ関ワラズ」
「きょーみねぇ」
「入滅ガ怖イカネ? 
 あうらガ《The World》カラ消エ、ねっとノ海ヘト消エタヨウニ……」
「ネットは広大だからな」
「良イ答エダ、自分ニ素直デ。
 無意識ノウチニ、君ガ解脱(きゃすとおふ)ヲ遂ゲタノモ頷ケル。
 尤モ、君ニ自覚ガ無クテモ……今ノ君ハ、マサニ太陽ノ子、紛レモナク、我ラふぉもーる族ノ怨敵、るーニ相違ナイ。
 ひとデ在リナガラ元型(かみ)デモアル、だーな神族トふぉもーる族ノ血ヲ引イテイタ、るーソノモノダ。
 神話ニ登場スル半神半人、トイウ意味デハ無イ。
 文字通リ、君ハひとデアリ、神デアリ、光ナノダ」


まさか、トライエッジからお褒めの言葉をいただけるとは思ってもみなかった。
ちょっとばかりの厭味を感じなくもなかったが。
当のトライエッジはカールの姿を借りたまま、俺が訝しむのも構わずに腕組み姿勢で講釈を続ける。
さっきまで激戦を繰り広げていたはずの俺達が急に試合を中断し、何事か話し始めたのを観客達は唖然とした様子で見ていた。
「さっさと戦え―!」とか「何やってんだー!」とか、俺とカール、どっちが勝つか賭けていたであろう
賭け師達の怒声や非難の声が聞こえてくるが、そんなのお構い無しだ。
今いいとこなんだから邪魔すんじゃねーよ。
にしてもカールの奴、腕組むと胸のデカさがモロに……おっと、平常心平常心。
雑念は捨てねーと……。


「あんどろめだ神話ヲ聞イタコトガアルカネ?」
「聖闘士星矢とか銀河鉄道999の、あのアンドロダか」
「アア。元ハぎりしゃ神話ノ登場人物ノ1人ダ。えちおぴあノ王女ダヨ」
「……そのアンドロメダも、テメーらの仲間だって?」
「マサカ。
 神話ノ凡テガ真実ダトハ思ワナイ方ガイイ。マァ、むーヤあとらんてぃす、れむりあハ実在シタガネ」
「マジかよ!?」
「私ノ主達ガ、大昔ニ滅ボシタ超古代文明ノ数々ダヨ。
 大陸ゴト滅ビ、今デハ痕跡スラ残ッテハイナイ……」


大陸ごと消し飛ばすって……ドラゴンボールじゃねーんだから……。
よっぽど短気な奴ばっかだったんだなフォモール族ってのは。
或いは自分達よりも高度で栄えた文明を持った連中が気に食わなかったのか……いずれにしても過ぎたことだ。
俺がとやかく言う問題じゃねぇし、
今コイツ(トライエッジ)がやろうとしてるコトに比べりゃ可愛いもんだぜ。


「で、何の話してたんだっけか」
「あんどろめだ神話」
「さっさと続き話せよ」
「話ノ腰ヲ折ッタノハ君ダロウニ。
 要ハ、神話ハ繰リ返スト言ウコトダヨ。
 怪物ノ生贄ニサレテイタあんどろめだハ、英雄ぺるせうすニヨッテ救ワレタ。
 チョウド、ぺるせうすハ蛇女ノめどぅーさヲ殺シタ帰リ道ダッタノデ、切リ落トシタ首ヲ使イ、怪物ヲ石に変エテ王女ヲ救ッタノダ。
 日本神話ニモ、すさのおのみことノやまたのおろち退治ノ話ガアルダロウ? 
 英雄ガ怪物ヲ倒シ、美シイ姫ヲ娶ル。
 コレヲ『あんどろめだ型神話』トイウ。神話ノ中デモ世界各地デ見ラレル、英雄譚ダ」
「何が言いたい……?」
「7年前、勇者かいとハ、女神あうらヲもるがなノ魔ノ手カラ救ッタ。
 女神ハ勇者ニ恋ヲシ、娘ヲ産ミ落トシタ。
 報ワレヌ恋ト知リナガラネ。
 ソシテ今年。君ハアノ男ヲ斃シ、志乃トイウ女性ヲ見事救イ出シタ。
 今モコウヤッテ、私ノ手カラかーるヲ取リ戻ソウトシテイル。
 ドウダ、ヤッテルコトハ、イツノ時代モ同ジダロウ? 君モ、かいとモ、ぺるせうすモ」
「“たまたま”だろ」
「ソウカナ? 
 誰カガ“ソウアッテホシイ”ト願ッタ結果デハナイカネ?
 世界ヲ変エルノハ、強イ想イ―――――――唯ダ、識ダケニ」
「……まるで、テメー自身がハロルド・ヒューイックみたいな言い方だな」
「門前ノ小僧ナントヤラ……ダ。
 長イコトねっとニ居ルト、嫌デモ知識ハ身ニツクモノダヨ。
 ソレニ、はろるどハ、私ノ最大ノ敵ダ。
 敵ノコトヲ知ッテオクノハ、戦略トシテモアリ、ダロウ?」
「なるほどな」
「シカシ飽クマデ、君ノ行動ハぺるせうすニ似テイルダケダ。
 君自身、ひーろーニナリタイわけジャアナイダロ?
 思ウニ、君ハソウイウ類ノものニハモウナレナイノデハナイノカナ。
 モウ、ナッテシマッテイルカラ。
 コレハ私ノ仮説ダガネ。
 はろるどハ仏教観念ニ当テ嵌メ、あうらヲ弥勒菩薩トシテ、誕生サセヨウトシテイタ節ガアル。
 笑エルダロウ? 
 仏陀ノ死後56億7千万年モ後ノ世界ニ、ソンナモノガ現ワレテモ、ドーシヨウモナイダロウニ。
 案ノ定、はろるどノ思惑ハ外レタ。
 あうらハ確カニねっとノ海ヘト消エタガ、少女ノかたちヲ棄テルことハ出来ナカッタヨウダ。
 恋ダヨ。
 勇者かいとヘノ想イガ、彼女ニ《The World》ヘノ未練ヲ残シタ。
 故ニ、彼女ハ如来トナルコトハカナワナカッタ。
 無論、唯ノ精神論ダ。
 現ニ、あうらハねっとニ溶ケ込ミ、我ガ主ノ地球帰還ニ備エ、着々ト、しすてむヲ構築シテイッテイル……」


随分とまぁ……次から次にペラペラよく喋る奴だ。
そーいやAIDAに感染した奴ってどいつもこいつもよく喋ってたよな。
ボルドーとか天狼とか太白とか榊とか……潜在的にお喋りが多いのか、AIDAって宇宙生物は。


「シカシ……。
 今ノ君ヲ見ルト、あうらデハナク、君コソガ弥勒菩薩(マイトレーヤ)ニ思エル」
「くだらねぇな」
「“天ノ道(途)ヲ往キ、総テヲ司リタイ”トハ思ワナイカネ?」
「これっぽっちも(苦笑)」
「デハ……君ハ何処ヘ往ク?」
「決まってる。
 俺は天の道なんか往かねぇ。俺が往くのは―――――――――――――――――人の道」


右手の親指と人差し指を天に向けて掲げ、俺は哂った。
直後、天壌から毀れ落ちる光。
太陽の光だ。
ずっと明けることのない夜の街ルミナ・クロスに陽の光が差すなんて、おかしいか?
おかしかねぇ。
太陽が沈むのを止められねぇ様に、太陽が昇るのもまた止められねぇのと同じさ。
薄明がやって来る。
AIDAを滅ぼすには黄昏の光じゃ弱すぎる。
俺は太陽の子、R:Xthフォーム。
今の俺に不可能はねぇ。
理解(わか)るか、トライエッジ。これが、テメーのための、救済(ぐさい)の光だ!


「ドウヤラ……私ノ見込ミ違イノヨウダ。
 君ハ、私ニトッテ、良キ理解者ニナッテクレルト思ッタガ……」
「『地球を貴方にあげます』とでも言わせたかったのか?」
「カモシレナイ。
 君ト私ナラバ、生モ死モ超越シタ楽園ヲ、コノ《The World》ニ築ケルト思ッテイタヨ」
「悪ぃな、人間ってのは日々成長すんだよ。
 もう前までの俺じゃねぇ。善も悪も、生も死も……もう軛なんてありゃしねぇのさ、今の俺には」
「……『成長』カ。
 アノ、色眼鏡ノ魔術師――――おーヴぁんガ、最モ忌ミ嫌ッテイタ言葉ダネ。カク言ウ私モ大嫌イダガ」
「トライエッジ先生は進化論に否定的なんだな」
「是非ハ君ガ判断スルガイイ。
 ヤハリ、我々ハ、口デ論ジ合ウヨリモ、拳デ論ジ合ッタ方ガ、ヨリ互イヲ理解デキルヨウダ」
「かもな。
 じゃ、そろそろ始めるか。ホントーのトーナメント決勝戦を」
「ソウシヨウ。
 サァ、論ジヨウ。論ジ合オウ。
 螺旋曲ガッタ輪廻ノ中、解脱(きゃすとおふ)ヲナシタ、君ノちからヲ、私ニ視セテオクレ!」
「言われなくても――――――見せてやらあ」






















キャストオフ!


























無我の中でそう叫んだ刹那、
俺の全身各所を覆っていた黒いボディパーツが一斉に吹き飛んだ。
R:Xthフォーム リミッターモードからレリーズモードへのキャストオフ。
関節からは蒸気が吹き出し、胸の中の碑文が活性化してゆく。
黒き装甲の中から現れたのは、白銀の求道者。
なるほど、テメーの言った通りだな。
道理じゃねーが真理でもねぇ。
だが俺の力がルーのものだろうと弥勒菩薩のもんだろーと、今は関係ねーだろう? 
カールを救える力がありゃ、なんだっていい。
これが解脱か、って言われると「違う」と言わざるを得ねーが……チンタラやってる場合じゃなかったな。
さっさとあの野郎をカールからひっぺ剥がさねーといけねーんだ。
だから……勝つぜ、俺はテメーに……トライエッジッ!


「独リデ私ニ挑ム者ガ現レヨウトハネ」
「俺は独りじゃねぇさ……。
 司君やカイト、シラバス達……全ての仲間達と……俺は共に戦ってきた! 
 今もこれからも、それは変わらねェ……ずっと独りだったテメーには理解(わか)んねーだろうがなッ!!」
「私ヲ滅シタトシテモ、マタ新タナ私ノ兄弟ガ生ミ出サレ、コノ星ニ送リ込マレルダケダゾ?」
「構わねぇさ。俺は次の奴らにバトンを渡すコトが出来りゃ……それでいい」
「了解シタ。
 興ヲ削グヨウナコトヲ言ッテ、済マナカッタナ。
 デハ―――――――――――――――――殺シ合イヲ、始メヨウカ」












******************************










「はぁ……はぁっ……くっ。
 どうやら……おじいちゃんはAIDAと戦い始めた……みたい……ね」


何処までも白い地平が広がり続く空間の中で、1人の少女が這いずっていた。
サフラン色の髪の、白いドレスの少女が、力なく。
息が荒い。
熱病患者の如く次から次に玉の様な汗が吹き出し、見るからに容体は悪そうだ。
悪い、と言うよりも手遅れと言った方が早いかもしれない。
既に彼女の躰のあちこちから綻びが生じ始めている。
手や脚などの露出部は黒い痣に染まり、そこから灰化が始まっていた。
彼女がミリ単位で動く度にドレスは崩れ落ち、這った分だけその部分が砂の様にボロボロと砕けた。
少女は――――ゼフィはもう、限界だったのだ。


「(アカシャへのゲート間移動で……力を使い過ぎた……のか。
  ウイルスの侵攻を抑えられない程に疲労するなんて……我ながら無様だわ……)」


ゼフィがハセヲとの接触前にカオスゲートを通して訪れた惑星、アカシャ。
地球から遠く離れた外宇宙・別の銀河系にある星への渡航のため、ゼフィはかなりの力を使った。
ハセヲと対面した時点で既に相当疲労していたはずなのだ。
にも関わらず、ゼフィはハセヲと楚良の再融合の為に疑似的なAIDAサーバーを創り、その空間を維持し続けた。
そのツケがとうとうやって来たらしい。
防護服無しで毒ガスの中に長時間いた……と言えばいいのだろうか。
むしろゼフィの症状を見るに、かつてヨーロッパで猛威を振るったペストの症状に酷似している。
敗血症、黒死病と呼ばれた類のものだ。
それにペスト菌と言えば、
嘗てフォモール族が自身の領地に侵入したパーソラン族を全滅させた時に使用した記録が残っている。
では……。


「まだ……わたしは……エンディングを見てない……。
 わたしが生き永らえたのは……凡て……この瞬間のため……」


少女の脳裏に、これまで引き継いできた数多の時間・次元の記憶が蘇ってくる。
思えば長い旅だった。
スタート地点は一体いつだったのか。
シューゴ、レナ、ミレイユ、凰花……彼らと別れてから何百年経っただろうか。
ゼフィは刻(とき)を渡り歩いていた。
電気信号となって、幾つもの時間と次元を訪れて。
その度に彼女は絶望する。時間が止まっている。
2017年を境に、必ず。
一見して平穏そうに見えても崩壊は止まらず、必ず2017年以降の世界はロクでもないコトになっていた。
同時に2020年以降の世界への渡航も出来ないことに気づく。
“何か”が、2017年〜2020年の間に起きたのは明白。
原因はAIDA。
外宇宙から地球に送り込まれたフォモール族の使者。
AIDAを完全に死滅することが出来なかったせいで、滅んでしまった幾つもの時間(世界)をゼフィは視てきた。
その因果が、トーナメントが行われた3日間に集中していることを突き止めるのに時間はかからなかったと思う。
トーナメントが行われなかった世界も幾つもあった。
だが、それらの世界も結局は2020年になると刻が止まってしまっていた。
地球の因果が捻じ曲げられている。
誰か他者の干渉によって。
母アウラの役職を継ぎ、地球のネットワークシステム管理を任されたゼフィにとって由々しき事態であった。


「地球の因果律……輪廻へのアクセス権は……
 虚空像菩薩様から、もらっている……
 ゴホッ……ゲホッ……やるなら……今しか、ない……!」


ジェームス・マシュー・バリーの「ピーター・パンとウェンディ」という小説をご存じだろうか。
ネバーランドに住む永遠に歳をとらない少年ピーター・パンと宿敵フック船長、
そしてヒロインのウェンディを主軸とした冒険小説である。
突飛な話かもしれないが、ゼフィにとって父カイトこそがピーター・パンだった。
どの時間・次元においても永遠に歳をとらないゼフィこそがピーター・パンと言っても可笑しくはなかったが、
彼女は父にピーター・パンの面影を見ていた。
勿論、父がピーター・パンなら母はウェンディである。
ゼフィが母と過ごした時間は短い。
再会して数ヶ月で母アウラはネットの海へと消えたからだ。
しかし、その僅かな期間、彼女は母の愛情を受けて共に過ごした。
同時に母が父を深く愛していることを識る。
母は父との間にどうしても子を成したかった。報われぬ恋だと分かっていても。
嘗てハロルド・ヒューイックが亡きエマ・ウィーラントとの間に子を成そうとしたのと同じく、母もそれを望んだ。
生まれたのがゼフィ(わたし)。
ゼフィにとって母の消失以降、《The World》はネバーランドではなくなった。
父も母も居ない世界。
だからあの日。
《The World》最後の日、あの男に「私も風に還る」とだけ告げ、旅に出た。
終わらない旅に。
これはゼフィの“果てしない物語(ネバーエンディング・ストーリー)”。
その旅に終焉が訪れる。
幕引きの時間だ。
後は、この次元のゼフィ(わたし)に任せればいい。
この瞬間をどんなに待ち焦がれたことだろう。
死を、ではない。
ハセヲと楚良が1つに戻り……AIDAと対峙する瞬間を。
ゼフィの知る限り、ここまで到達できたルートはそうない。
故に、命が尽きる前にやっておかなければならないコトがある。
祖父のために出来る、最後の仕事を。








「ザビ……アツ……タ……時を……越えて……!」







最後の力を振り絞り、虚空に描くエルダーサイン。
直後、ゼフィの腕は崩れ落ちた。
崩れ落ちた腕はそのまま灰となり、やがて屑となって消える。
ノイズが酷い。
残された片方の腕が崩れ落ちる前に何とか上体を起こし、仰向けになってゼフィは旻(そら)を仰ぎ見た。
次元転移装置(フラックス・キャパシター)、フル稼働。
あらゆる時間と次元を刹那的に電気信号化し、1つに集約させ、異なる次元間の行き来を可能とするゼフィ最期の奥儀。
彼女の計算が正しければ、
虚空像菩薩によって与えられた地球の輪廻介入により“ある現象”が起きるはずなのだ。
それを見届けるまでは死んでも死にきれない。
霞み始めた眼を必死に食い縛って開け続け、ゼフィはその時を待った。
ほんの0.1秒たらずなのに久遠の様にも思える。それくらいに永く感じていた……待ち焦がれていたのだ。
果たして、それは“やって来た”。


「来てくれたのね……おじいちゃん達……」


ゼフィは確かに視た。
空間を突き破り、次々と戦士達が顕現する様を。
それらは全てハセヲだった。
ハセヲ達だった。
異なる世界・異なる時間・異なる次元からやって来た、何百人ものハセヲ達。
志乃を助けるために修羅となり、B-stフォームの怒りに任せて《The World》ごと現実世界を滅ぼしたハセヲが居た。
キー・オブ・ザ・トワイライトとなって仲間達と共にクビアを倒し次代の勇者となったハセヲが居た。
八相の碑文を全て集めることが出来ず、志乃を救えなかった絶望感のあまり魔王となったハセヲが居た。
誰の力も借りず、何度も地面を這い蹲る思いをし、時には途(みち)半ばにして倒れながらも戦い続け、ついには元型(カミ)となったハセヲが居た。
志乃を救えずオーヴァンもアイナも死なせてしまい、精神を失調し、世捨て人の様に《The World》を徘徊するようになったハセヲが居た。
どうやったのか経緯は分からないが1stフォームのままで、AIDAもクビアも真ケルヌンノスも倒してしまったハセヲが居た。
パイと共に番匠屋淳の死の真相を追い、天城丈太郎と配下シックザールの計画に巻き込まれてしまったハセヲが居た。
アトリとの日常を楽しみながらも奇妙な違和感を感じ、何かが終わろうとしていることに気づき始めたハセヲが居た。
自堕落な生活を送るカールを支える一方で、依存されていると判っていながらも彼女を愛し続けたハセヲが居た。
オーヴァンの妹とアイナとエンゲージし、アイナを守ると誓いを立てたハセヲが居た。
アイナの反存在、AIDAの少女AINAを溺愛し、彼女に身も心も捧げたハセヲが居た。
人間の可能性の限界を突破、ヒトの本来在るべき新たな可能性を持った、不可侵の存在と化したハセヲが居た。
もはやハセヲかどうかも判別がつかない程に変わり果て、人であった頃の記憶も失い、異形の姿へ身を窶したハセヲが居た。
アウラを喰い殺したことでカイトの怒りを買い、あらゆる時間と次元を越えて、勇者と対立することとなったハセヲが居た。
楚良であったことを思い出せはしたが、そのまま楚良に人格の主導権を握られて意識を封じ込まれ、PKとして誰彼構わず無邪気にキルするようになったハセヲが居た。
リアルの三崎亮は既に亡く、意志を持った電気信号として志乃のために戦い続けたハセヲが居た。
オーヴァンを許すことが出来ず、再誕で意識が回復したアイナを直後に殺害、オーヴァンに一矢報いたハセヲが居た。
《The World》の真実に気づき、自ら進んで放浪AIとなり世界の守護者となったハセヲが居た。
他にもたくさんのハセヲ達が、
ゼフィに導かれ、ゼフィの声に応え、やって来てくれていた。
その姿も、或いはPCの性別さえも違っているものも居たが、凡てがハセヲだった。


「行って……助けてあげて……おじいちゃんを……」


ゼフィの願いを聞き届けたハセヲ達は、再び空間を突き破って往ってしまう。
向かう先はルミナ・クロスのアリーナ。
AIDAとの決着を完全につけるために、ゼフィはこの瞬間をずっと待っていたのだ。
これまで彼女が出会ってきた何百人ものハセヲ達。
因果を断ち切る為、輪廻をも越えてやって来た。
ゼフィの「ザビアツタ(時を越えて)」の呼びかけに応えて。
神の摂理に挑む者達は戦場へと赴く。
最後のハセヲが空間から消えるのを確認すると、ゼフィはようやく目を閉じた。
これでいい。
これできっと未来は、この地球(ほし)は、正常な因果率を取り戻す。
よい夢が見れそうだ。
やるべきことは全てやったのだから。まどろみながらゼフィはそう思った。
……ふと、ゼフィは「ピーター・パンとウェンディ」の結末を思い出す。
ピーター・パンはウェンディが大人になって娘を産んだ後も、彼女の前に現れた。
だがピーター・パンがネバーランドに連れて行ったのはウェンディではなく、彼女の娘だった。
なら……きっとゼフィ(わたし)だって、ママ(アウラ)のように―――――――――――――


「わたしも……パパのお嫁さんに……なりた……かっ……た……」


意志(いのり)と共に。
少女は、入滅した。                                                                                【 TO BE CONTINUED... 】

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