「.hack//G.U.」と「コードギアス 反逆のルルーシュR2」と「LAS(LMS)」と「ゴッドイーター」と「仮面ライダーディケイド」の荒唐無稽恋愛活劇SSサイト(のつもり)。

『孤独のなかでは、人がそのなかへ持ち込んだものが成長する』
                                                                 【フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ著『ツァラトゥストラはかく語りき』より】

楚良と融合することで本来の自分、
即ち三崎亮を取り戻し、太陽の化身“R:Xthフォーム”へと変神を遂げたハセヲ。
AIDAに支配されB-stフォームへと化身したカールを圧倒的なパワーで翻弄し、ついに隙を突いて左肩のトライエッジを切除!
ハセヲの声はカールに届くのか? いいや、届かない声なんて、きっとない。
永きに渡るソラ(楚良)とカールの因縁、いよいよ最終局面(クライマックス)!













「――――――ッ亜亜阿阿唖唖亞亞ッッッッ!!!」











化け物が咆哮を上げていた。
宿主(ホスト)から斬り離され、傷口から穢らわしいヘドロだか血だか分からねぇ液体を不様に撒き散らしながら。
女に憑りついていたAIDA(魔王)は、
焦点の合わない血走った目玉をギョロギョロさせ、頭にキンキン響く絶叫を周囲に木霊させる。


「カール!」
「うっ……ゴホッ、ゴホッ……」


倒れ込む直前に抱き止めたカールの口から黒泡(バブル)が毀れる。
……理解(わか)る。
まだ終わってねぇ。
まだ、この眠り姫の喉には、“毒リンゴが痞(つか)えてる”んだ。
現にトライエッジを切除したってのに、カールのPCは元に戻っていない。
群青色ではなく、血濡れた渋柿色のドレスのままだった。


「(浸食度が高ぇ……!)」


抱き止めた時、その躰が思った以上に蝕まれていたコトにも驚いたけどな……
かなりの時間、激情態(B-stフォーム)になってたせいで、カールの心身がもう限界に近いぞ、こりゃ。
俺がオーヴァンの起こした再誕の爆心地に居て、PCごとリアルでもヤバくなった時……アレにそっくりだった。
オーヴァン同様に尋常でない精神力で、カールもトライエッジの感染進行を抑えてたみたいだが……もうとっくに末期だった。
この3日間のトーナメントで、力を使い過ぎたんだ!


「キッ、君ハァァッ!!! 何ト言ウコトヲ……何ト言ウコトヲ、シテクレタノダァッ!?」
「うるせーぞ宇宙人」


転がってバタバタと鰻みてーに躰をくねらせつつ、トライエッジの野郎が、其の眼で俺をギロリと睨んだ。
野郎が躰をクネクネと動かす都度、黒泡(バブル)が飛び散って周囲を穢していく。
当然の報いだ。
今までテメーが、このゲームのプレイヤー達にやって来たコト考えりゃ、まだ足りねぇくらいだぜ。
何十年もかけて地球征服を狙ってた野郎にしては、随分と惨めな姿だった。
或いは、これがアイツの辿る運命だったのか。
遠大な計画を立ててた割にゃ、まあ随分と詰めが甘かったじゃねーか。
ざまーねェ。


「カール、おい。返事しろよ!」
「……」
「(手遅れだったのか……?)」


力無く四肢をダラリとぶら下げ、カールは死んだ様に眠っていた。
いや、“もう死んでしまっている”のか。
躰が酷く青白く、そして冷たい。
この年頃の少女特有の軟らかい肌の代わりに、無機質な石の感触だけが掌を伝う。
その眼(まなこ)が開くコトは、もうないのか。
あの微笑みをもう見ることは出来ないのか。
もう、あの声を一生聞くことも出来ないのか。
そんな厭な不安が脳裏を過ぎる。
心臓を素手で鷲掴みにされたみたく、鼓動が馬鹿に速くなっていく。
血が逆流して気持ち悪い。
だが……ンなコトはどうでもよかった。
俺はカール(この女)を救わなきゃいけない。義務とか使命感とか、そんなもんじゃなく。
ただ、純粋に。
愚直なまでに。俺は、このカールという少女が世界から消えてしまうのが、厭だったのだ。
だから俺は挑まなきゃいけない。
境界――――――――――――――何かがそこから始まる場所、限界線に。


「待ってろ……すぐ復旧(リカバリー)してやっからな」


俺は刻(とき)を越えた。
なら……物語の限界をも越えてみせる。
現在(いま)の俺なら……八相の碑文に加え、
新たにニ枚、合計十枚の碑文を内蔵したR:Xthフォームなら可能なはずだ。
面白くねェことに自分(三崎亮)を取り戻した影響で、モルガナのオバチャンの血まで受け継いじまってる。
この世界で、最も旧神(旧き地母神)の血を濃く受けた子。
それが今の俺(ハセヲ)。
……やるっきゃねぇ。
こういう唯識だの末那識だの阿頼耶識だのの精神世界は、オーヴァンの得意分野なんだろーが……考えてもしゃーねぇか。
第八相――――――再誕ことオーヴァンのコルベニクの碑文が在るのなら、俺にも何となくだが理解できるような気がした。
飽くまで気がしただけだ。
かなりビミョーで、自信はハッキリ言ってない。
けど……アレだ。
よく言うだろ。男にゃ一生に一度くらいマジになんなきゃならねー時があるって。
現在(いま)が、それだ。
つーか、俺がやらなきゃ誰がやるよ。あん?


「モウ、手遅レダヨ……! 
 無理ニ私トノ接続(りんく)ヲ切ッタコトデ、彼女ノ精神(こころ)ハ、深刻ナ、だめーじヲ負ッタ!!
 永久ニ、コノ世界ニ囚ワレ続ケ、彷徨イ続ケルッ!!! 彼女ハ境界ヲ越エ、異界ヘト誘ワレタノダ!!!!」
「なら連れ戻すまでだろーが。違うか?」
「私ガ見逃ストデモ思ッタノカネッ!? 
 ココマデ……ココマデ辱メヲ受ケ、私ガ黙ッテイルトデモッ!?
 偉大ナルふぉもーるノ神々ニヨッテ生ミ出サレタ、神ノ眷属タルコノ私ヲ、こけニシテ……タダデ済ムト思ッタカ、人間ッ!!!」
「よーやく化けの皮が剥がれてきやがったな。
 くっくっく……先刻(さっき)までの紳士ぶりは何処行った? あ?」
「黙レェェェェェェェェェェェェェッ!!!!」


ついにキレやがった。
……まるで大事な玩具を壊された子供だな。
黒い刃は自身の躰をステージに深々と突き刺したかと思うと、反動を利用してバネみたく弾け飛んで来た。
黒泡(バブル)を撒き散らし、奇声を上げながら。
カールという母胎、その子宮を目指して一直線に。
一般のプレイヤーからすりゃあ一瞬の出来事なんだろうが、俺の眼には酷くスローに見えた。
多分、第三相……メイガスの視力肥大の影響か。
黒泡(バブル)の構造までが、まるで顕微鏡で除いたみたく鮮明に。
でもそれは意味を為さない。
あんな野郎の高次元映像なんか、見て何が楽しいってんだ。
それよりも重要なコトは、トライエッジの野郎がまだカールを必要としているってコト。
アレが我執ってヤツか。
ホント自己チューな奴。カールはヤドカリのカラじゃねーんだぞ。
しかし俺がこうやって思考を巡らせてる最中にも、黒い刃は眼をギョロつかせて飛び掛かってきている。
野郎に構っている暇は無い。
故に。
俺の意識は自然と“どうすれば奴に邪魔されず、カールを救えるか”というコトにのみ集中した。
解脱(キャストオフ)? いや、それじゃ駄目だ。
ほんの一瞬でいい、時を支配したい。
超越したい。
束縛から、あらゆる有象無象、森羅万象から。
時の流れから逸脱した、放浪者の様に。
そう思うと……自然と俺の口から、或る言葉が紡がれる。




































涅槃寂静(ハイパークロックアップ)




































俺は一瞬だけ微睡んだ。
意識がまるで大海原に放り出された様に、ちぐはぐになっている。
視界は濁っていた。
けど何故か今、自分自身の存在がトライエッジの言っていた「高みの存在」へと昇華したのだと、根拠も無いのに理解(わか)った。
実感が有るようで無い。感覚の問題か。
いや、感覚も既に溶け込んでしまっている様に思えた。
内蔵された十枚の碑文は互いに共鳴し合い、天壌の調と言う名の旋律(ハーモニー)を奏でている。
完全調和(パーフェクト・ハーモニー)。
俺は今、本当の意味で世界(《The World》)と同調(シンクロ)したのだ、と。
そう、本能で実感出来た。


「……“止まって”んのか?」


凡てが止まっていた。
何もかもが、音も経てず、その場に佇んで。
あらゆる事象がその動きを止め、静寂が空間を支配していたことに気づくのに何秒かかったのだろう。
正確には静寂ではなく、時間が……だが。
眼の前まで迫っていたトライエッジも、カールも、観客席のプレイヤー達も。
凡ての時間の流れが。
システム自体を俺が書き変えたとしか思えなかった。俺が時間を支配したいと思った刹那、こうなってしまったから。
かつてAIDAがやって見せたAIDAサーバーなど児戯に思える程の超越性。
霊的能力……より高次元の。
詰まる所、俺が“支配しちまった”らしい。
ハロルド・ヒューイックの作った、このクソゲーを。
エマ・ウィーラントの書き綴った電波ネットファンタジーもどきを下書きにした、このどーしよーもねぇ世界を。
元型(アーキタイプ)か、それとも元型(カミ)か。
……どっちでもいいか。
俺とカールを繋ぐ唯一の絆が、此処だと言うコトを再認識出来ただけでもめっけモンだ。
カールの精神(こころ)に繋がる、唯一の道(途)。
即ち、天の道。
元からそんなモンは存在しない(無い)。
だから、俺は創った。カールの精神へと続く道を。
オーヴァンが捜し続け、八咫が恋い焦がれた、世界へと繋がる道を、俺が。
天の道を往き、総てを司る。
……やっと理解(わか)った。
その言葉の意味。道は……俺自身!


――――モルガナのオバチャンに感謝しねーとな」


世界(ザ・ワールド)。
俺はこの時間停止能力を改めて、そう名付けたッ。
空気を吸って吐くことのように、HBの鉛筆をベキッ!とへし折ることと同じように。
俺にとって、コレは出来て当然のコトなんじゃないか。
傲慢かもしれないが、ふとそう思ったのだ。
今の俺は……ヒトであり、Aura(カミ)に最も近しい存在。
モルガナの血を濃く受け継ぎ、更には太陽神ルーの力をも受け継ぐ“太陽の子”。
R:Xthフォーム。ハセヲと楚良、2つの想いを背負う者……今の俺に、この世界に限り、不可能は無い。
そんな気さえした。


「……往くか」


ピタリと空中で静止し固まったまま動こうとしないトライエッジを後目(しりめ)に、
俺は胸に掻き抱いた白雪姫を見た。カールは動かない。
他の連中同様、俺とは違った時間に置き去りにされているのだろう。
苦悶の表情を浮かべているワケでも、阿鼻叫喚の形相を浮かべているワケでもない。
安らかな寝顔。
トライエッジに憑りつかれてた時には絶対に見せなかった、穏やかな相(カオ)がそこにあった。
……つーか、やっぱ美人だよな。
昔の俺……楚良が惚れるのも理解(わか)るって。
こりゃ構って欲しくもなる。
物理学には明るくないが、俺は《The World》であって《The World》でない場所に居るのかもしれない。
昨日、揺光が戦った太白の使ってた銃剣のシュレディンガーじゃねーけど、不確定性原理か何かの賜物かもな。


「(……前置きはいいか)」


時を止めることでカールの命を繋ぎ止めるコトが出来た。
が、所詮はその場凌ぎ。直接取り除かなきゃ、意味がねぇ。
こう見えて結構メルヘンなんで、ハマタツ風にディズニー形式でいかせてもらうけど、いいか? 
……誰も答えちゃくれねぇか。
緊急事態だってのに、頭の中はそんなコト考えられるくらいに澄み切っていた。
驚く程に迷いが無ェんだ。……ついに俺も悟ったか? 
いや、開き直りっつった方がイイのかもしんねーけど。
智香のコトを想うと少し胸が痛んだ。
だけど、眼の前の女を救済(ぐさい)するために、俺は此処まで来た。
その結果がどうあれ、俺はやらなきゃいけない。
俺は今から、この女(カール)を犯す。
コイツが誰にも見せようとしなかった精神(ココロ)を無理矢理に抉じ開け、秘部を暴くのだ。
拒否されようが何だろうが、俺はカールを連れ戻さなきゃなんねぇ。それが俺(R:Xthフォーム)の存在意義だからだ。
……確実に言えるコトがあるとすれば。
俺がカールに言ってやれる言葉があるとするなら。
ごめんな、と。
忘れちまって悪かった、と。
陳腐な言葉しか浮かばねぇが……アイツに、謝りたい。
―――唯(た)だ、識だけが在る。
いつか何処かで聞いた、誰かの言葉を頭ン中で反復させながら。
俺はカールの唇に、自身の唇を重ね、堕ちて往った。







































****************************************










































――――――――――――――――妙な所に出たな」


全身の産毛が総立ちする様な、妙な寒気を覚えた。
カールの喉に痞えたリンゴを取り除こうとキスしてみたはいいが……ここがアイツの世界(精神)?
空は何処までも黒く塗りつぶされ、荒涼とした沙漠(さばく)にも似た大地が広がるだけの場所だった。
アルトネリコ風に言えば“コスモスフィア”ってトコロだろうか。
兎にも角にも、俺はそこに立っていた。
ロストグラウンドにも似た雰囲気を持つ、その場所に。
砂嵐が吹き荒れる中、ただ案山子(かかし)みたくボーッと突っ立ってな。


「いや。……俺は識ってる?」


此処に来たコトは無い。
カールの精神世界に足を踏み入れたのは、後にも先にも今回が初めてだ。
どうせなら今後、二度とお邪魔することのないよう願いたい。
此処は、アイツの世界なんだ。
俺が他人に自分を曝け出すのを恐れたように……カールだって、本当は俺に見られたくないはず。
なのに、何故、俺はこの場所に既視感を覚えるのか。


「そうか……雰囲気が似てんだな。あの場所に」


あの場所……そう、あの場所だ。
7年前、カイトとエルク(っつーか、エンデュランス)と一緒に行った、あのダンジョンに。
【Ω隠されし 月の裏の 聖域】。
マハ……いや、ミアを助けに行った、彼(か)のダンジョンと此処の雰囲気は似てる。
無論、ここは閉鎖された空間では無い。
地球ではない、何処か別の星……月に居る様にも思える。
そう、月の沙漠だ。
どうしようもない孤独感がジワリジワリと染みが広がるみたく、心を押し潰そうとする、この感覚。
カールの精神世界があの「月の裏」と物凄く似ているのは、多分偶然じゃない。
ウイルスバグこそ居ないが、世界の中に渦巻く悪意には懐かしいモノを感じたからだ。
モルガナ・モードゴン。
俺(楚良)をスケィスにデータドレインさせた糞ババア。
尤も。
あの一件がなきゃ俺(R:Xthフォーム)も此処には居ねぇ……それと同時に、俺とカールが出会うコトもなかっただろう。
俺の意識がスケィスの杖に封じられ時折、楚良として活動し、アウラを追いかけなければ。
カールが俺との邂逅を望み、アウラを守り、モルガナと戦うことを決意しなければ。
……俺は、此処に来ることすらなかっただろう。
俺(スケィス)がカールに与えた“死の恐怖”は、
やがてイメージとして彼女の心に深く根ざしたのかもしれない。
だって、そこかしこにケルト十字の杖が墓標の様に突き刺さっている。
同時に、俺は見た。
幾つもの巨人が崩れ堕ちているのを。


「スケィス達の……墓場……?」


そう、ここは墓場。
巨人達の骸置き場。
カールが操る紅いスケィス―――スケィスゼロ。
アレに成れなかったモノ達の墓場(成れの果て)。
まるで母胎の中で成長中、中絶を施されて手足やら頭を無理矢理に引き千切られた赤ン坊達の死体を見ている様だった。
吐き気を催さなかったのが唯一の救いだったが、是(コレ)も俺のせいなのだ、と思うと少し気が滅入る。
巨人達、スケィスゼロ達の骸を眺めながら、しばし俺は感傷に浸っていた。


「……探すか。俺のお姫様を」


俺はようやく歩き出す。
何せ時間はたっぷりと有った。
涅槃寂静(ハイパークロックアップ)……あー違った、世界(ザ・ワールド)か。
あの能力(チカラ)のおかげで、今の俺には時間の制限というものが存在しない。
何十日だろうが、何百日だろうが、何千日だろうが、何万日だろうが、俺が歩く道は途切れることなく続くだろう。
俺もまた、限界線を越えた存在となったから。
日常の境界を越え、非日常の待つ異界へと自分から望んでやってきた。
現実(リアル)の俺はどうなっているんだろうか。
もう、そんなことはどうでもよくなっていた。
完全に世界に溶け込んでしまっている今、コントローラーを動かしてゲームをやっている実感も無い。
ただ自分の足だけで、この月の沙漠を踏破し俺の姫を探すことしか頭に浮かんで来ない。


「月の沙漠を〜 はるばると〜 旅の〜らくだが〜 行きました〜 ♪」


あまりに長い道のりなんで、途中で童謡の「月の沙漠」なんか歌ってみたりして。
だが残念なことに俺にはらくだも居なけりゃ、
俺の後ろをらくだに乗って付いてくるお姫様も居やしねぇ。
それでも半ば自虐気味に、俺は「月の沙漠」を歌い続けた。エンドレスでな。
だって暇だったし。
勿論、たまにはハプニングもあったんだぞ。
ある時は砂嵐で前が見えなかった。
ある時は歩いていた地面が砂地獄になっていて、飲まれそうになった。
ある時は石に躓いてコケた。
ある時は辺り一面が真っ暗になって感覚が全て奪われた。
ある時は躰がカチカチに凍っちまうんじゃないかって程の冷気に襲われた。
だが、俺は歩き続けた。
ただ、ひたすらに。


「おっ、と……」


歩き始めて50年くらい経っただろうか? 
或いは5時間とか5日とか……まぁ、それはいい。
ここじゃ時間の概念が通用しねぇ以上、考えるだけ、それこそ時間の無駄ってもんだ。
さておき、俺はやっと見知った相(カオ)に出会うことが出来た。
つか、忘れたくても忘れられねぇわな。
―――――――スケィスが、そこに居た。
いつもの様に赤茶けた渋柿色の布で全身を纏い、三つの目玉で俺を見下ろす巨人(ギガース)。
カールの、スケィスゼロだ。
アイツの空想が開眼させた生まれながらの蛭子(ヒルコ)の子。
だがよーく見ると、砂嵐の中に在るのはスケィスだけではないコトに俺は気づく。
城だ。
西洋式じゃない、中東とかインド辺りの宮殿……そんな感じ。
月の宮殿(チャンドラ・マハル)とでも言えばいいのか。
とてつもなくデカい宮殿の門前に、スケィスが仁王立ちしていた。
やがて砂嵐が治まり、宮殿の全容が明らかになると、俺は思わず息を吐いた。
やっと……辿り着いた。この一言に尽きる。
ZEROの終点に着いた。終点と同時に、始発点でもある場所に。
でも歩みは止め無かった。
それは目の前にスケィスが立ち塞がっていようと同じコト。
アイツは恐らく、この宮殿の門番なのだろう。他に気配を感じないトコロを見ると、アイツはずっとここで守(も)りをしていたのか。
物言わぬ巨人は爛爛と光る三つの眼で俺を視ていた。
……アイツにとって俺は何なんだろうか。
アイツにとってカールが母親なら、俺は父親か?
イメージ形成に影響与えたのって、どう考えても俺(楚良)だもんな。
……17歳で父親ってのも何かビミョーな気分だぜ。
スケィスゼロの奴はどーでもいいと思ってるかもしんねーけどさ。


「よォ」
『……』


いよいよ、物言わぬ巨人の目の前まで俺は近づいていた。
コイツと戦う気は更々ない。
ただ門を潜り、宮殿の中に入ってカールと会いたいだけだ。
つーか、カールの奴、此処に居るよな? 
ここまで歩いて来て、今になって
「残念でした! あなた騙されちゃったの!! 此処は違うのよ!!!」とか言われても困るワケだが。
方角とかの感覚も完全に狂っちまってるしな。
ずーっと空は暗いままだし、久々に黒と灰色以外の色を見たせいか、目がチカチカするぜ。
メイガスの視力肥大も、次元が違い過ぎて此処じゃ無意味っぽいしな……。
ま、ンなコトはいいんだ。やっと目的の場所に辿りつけたんだから(多分)。
麦畑から旅に出たっつー勇者サヤも俺と同じ気持ちだったんだろうか。
サヤが求めたモノは夕暮竜だったな。
俺が求めるのは……俺のお姫様だ。
デートの約束をしてる。
7年も待たせちまったのはマズかったかもだが……でも、俺は来たぜ、ここまでな。


「どけ。俺の歩く道(途)だ」
『……』


音も無く、巨人は道を譲る。
……通っていい、ってコトか?
カールの命令しか聞かないはずのスケィスゼロが、俺に通れ、と?
仮にスケィスゼロが通さないという意志を示した時は、戦闘も覚悟してたんだが……やけにすんなり許したもんだな。
まぁ、始まりはいつも突然、って言うし……
意図は分からないが、門番が道を開けてくれる以上はこっちも通るのが礼儀だろ、やっぱ。
3つの眼は相変わらず輝いていたが、敵意らしきものは感じない。
……奴の役目は何なのだろう。俺はもう一度考えた。
精神の守り手? 
つまりは、カールの精神(ココロ)に侵入した他所者を排除する役割を持つ存在だとしたら?
PCをウイルスから守る、セキュリティプログラムの如く。
俺はスケィスに宮殿への侵入を許された。なら、俺は資格者というコトになるのだろうか。
カールに会うに値する存在だと、カール自身が生み出した幻想に、俺は認められた?
他に考え付かないし、それならそれでいいだろう。
道が在るのなら進むのが道理だし。
少し砂を被った髪をバサバサと掻いてサッパリとさせ、俺は宮殿の門へと歩み寄った。
門まで来ると、やはりこの宮殿はデケぇ。
こんな広い所なのにカール1人しか住んでいないのだと思うと、少し物悲しくなる。
アイツが自分の世界に住まわせているのは自分自身と、あのスケィスゼロしか居ない……孤独が好きなのか。
それとも孤独にならざるを得なかったのか。
アイツの7年間を俺は識らない以上、憶測でしか言えないが……きっと、ここに居るカールは寂しいんじゃないか。


『かーる ヲ ヨロシク』
「ッ……!?」


気のせいか。
門を潜り、宮殿の敷地内に足を踏み入れるか入れないかの刹那、後ろでそんな声が聞こえた。
今も武蔵坊弁慶みたく門の前で仁王立ちしてる、あのスケィスゼロが言ったのだろうか。
……それとも俺の空耳だったか。
生憎とイニスの能力(チカラ)、聴覚肥大はとっくにイカレちまっていたので真偽は定かじゃない。
この宮殿に辿り着くまでに幾度となく砂嵐に合い、耳を劈く轟音や砂が入ったりで、耄碌した爺さん並にまで聴力が落ちていたせいだ。


「……立ち止まってる場合じゃねぇよな」


月の光に照らされた宮殿を見ながら、そんな感慨に耽る。
……って、月の光? 
今までそんなのあったか? 
見れば頭上に巨大な月が顔を覗かせていた。これまで、ずーっと歩いてきたが全く気づかなかった。
……若しくは“本当は月があったのに、俺が気づかなかっただけ”とか?
つーか、此処こそが月なんじゃなかったのか? 
ヤベぇ、こんがらがってきた……。


「邪魔するぜ……って、オイオイ」


思考を中断し、改めて宮殿の中へと進む。
しかして、拍子抜けな程に目的の人物はすぐ見つかってしまう。
俺はてっきり宮殿の中には大小無数の部屋があって、開ける度にトラップが発動したり場所が変わったりする
おっかねぇ場所なんじゃないかとか、カールを見つけ出すまでは永久に出られないんじゃないかとか、探すのに一生かかるんじゃないかとか、
そう思ってたんだが……どうも違ったらしい。
ハリボテだ。
宮殿の外側は豪華な造りだってのに、中身はがらんどう。
何もありゃしねぇ。けど、この雰囲気……グリーマ・レーヴ大聖堂に似てるな。
俺も志乃がPKされた最初の頃はちょくちょく、あそこに行ってたから理解(わか)かる。
何も祀られていない。
誰も来ない。
何のイベントも起こらない。
唯(た)だ、在るだけの場所。


「……お前も愛想を尽かしちまったのか」


Aura(カミ)の様に。
自分以外の事象に、世界に興味を失くしたのか。
俺には理解(わか)らない。
理解(わか)らなかった。
……宮殿の中央部、玉座の間っぽい場所に……カールが居る。
デカいベッドに横たわっているのが視えるのだ。
肉眼で捉えられる範囲なのか、それともとてつもなく遠くに居るのか。
どうも感覚が曖昧なせいで、掴み辛い。でも、カールは確かに、このがらんどうな闇の宮殿に居たんだ。
闇の中、見つめていた。
手を伸ばし掴みとれる程の距離まで近づきながら。俺の求めるモノに向かって。


「カール……?」


居たと言っていいのかどうか。
歩み、カールにより近づくことで明らかになっていく真実。
それは俺の識っているカールと少し違っていた。
髪は銀色、頬っぺたに紋様(ウェイブ)、ドレスの色は群青色。
これでもか、というくらいカールなのに俺の識るカールではなかった。
言わば、ちびカール。
いつものカールの外見が16〜18歳なのに対し、玉座の間に居たカールはせいぜい11〜12歳と言ったところ。
自己申告176センチっつう体躯ではなく、俺の肩よりもっと低そうな小さな躰をしている。
俺のよく識るカールが“女”と呼ぶに相応しい存在なら、眼の前のカールは“少女”と呼ぶ方が相応しい。
その小さなカールは、玉座の間で眠っていた。
ベッドの上で躰を丸めて。寝息も立てず。独りで。
ベッドの周りには首のもげたヌイグルミが幾つも散乱している。
腕や足や目玉が無いものも在った。
“あの部屋”みたいだった。
モルガナが自分の娘を歪ませようと、幼いアウラを隔離していた、あの部屋に。
カールは囚われているんだ。
月が照らす硝子の檻に、囚われていたんだ―――――――――――――――――――――
眼前の少女はカール。
見た目は違うが、ここは彼女の精神世界。見た目がどうあっても不思議じゃない。
是(コレ)は俺の捜し求めていた女なのだと。俺の本能が告げている。
彼女に会うため、俺は此処までやって来た。
忘却の日から7年……俺は、お前の所に戻って来た。


「……やっと会えたな。俺の“お姫様(アニマ)”に」


双剣を握る腕に力を込め、薙いだ。
月の宮殿(チャンドラ・マハル)に、硝子の檻が砕ける音が幾重にもなって響き渡る。
ガシャンと音を立て、飛び散っていく硝子の檻。
月が照らす中での崩壊劇は、まるでダイヤモンドダストを思わせた。
そして静寂が再び一帯を支配下に置いた時、俺はベッドに腰を下ろし何日か或いは何千日かぶりに、微睡んだ。
こっから先は更に高次元……無限へのパスポートが必要になる。
此処はカールの原風景じゃない。
今、眠り続ける少女の夢の中こそが本当の世界。
この世界に来る直前にそうしたように俺は眠れる少女の唇に、自身の唇で触れ、重ね合わせた。
歯を食い縛って眠気を抑え次なる次元へと進むため……そっと。
俺の我執、ファム・ファタール(運命の女)のもとへ馳せるために。
やがて意識はまたも混濁し、俺の認知する世界がぼやけ始めた―――――――――――――――――――――――
置き去りにされた刻(とき)の迷路で、物語は今も続いている。                                                         【 TO BE CONTINUED... 】

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