「.hack//G.U.」と「コードギアス 反逆のルルーシュR2」と「LAS(LMS)」と「ゴッドイーター」と「仮面ライダーディケイド」の荒唐無稽恋愛活劇SSサイト(のつもり)。

『バカな奴ら。バカな真似。
 教えてあげる。そこがどんなにつまらない世界か。潤香は、カールは、氷の仮面をかぶる』                【横手美智子著 「.hack//ZERO vol.1 ファントム・ペイン」より】

楚良と融合することで本来の自分、
即ち三崎亮を取り戻し、太陽の化身“R:Xthフォーム”へと変神を遂げたハセヲ。
涅槃寂静(ハイパークロックアップ)により《The World》内の時間を支配したハセヲは、直接カールの精神世界へ救済(ぐさい)に赴いた。
君の声聞いた気がして、失われた時間彷徨う。存在さえ忘れられた、この想いは何処へ続くの?
ZEROへの回帰―――――――――――三崎亮と仁村潤香の7年に及ぶ因縁は一つの結末を迎える。







「これは……カールの記憶、か」


幾つもの泡が芥(あくた)のように、そこらじゅうにフワフワと漂っていた。
つい先刻まで月の宮殿(チャンドラ・マハル)に居たと思っていたら……今度はまた、別の場所に飛ばされちまったみてーだな。


「カールの精神(こころ)を……俺は見ている……」


さっき視えたのは、カールが揺光と初めて会った頃の記憶だった。
まだ2人が俺に出会っていない、俺の識らない別の時間での邂逅劇。
“見ているのではなく見せられている”のか……或いは“見せられているのではなく見ている”のか。
区別がつかない。
人の心の中に潜るなんて経験は、正直、あまり気持ちのいいもんじゃないから。


「介在……」


底なしの闇の中、カールという少女の記憶の大海原へ。
ゆっくりと沈みながら、音を立てて弾ける泡の中から聞こえてくるカールの記憶の声に、俺は耳を傾けた。


『ソラ。追いかけてきて!』


古びたネガフィルムのように。
コマ送り状態で不鮮明な部分もあったが、俺は食い入るようにして見入っていた。


「ずっと……俺を待ってたんだな」


俺の識らない、仁村潤香の7年間の記憶へのアクセス。
五臓六腑が激しく波打ち、不思議な高揚感が俺の躰と精神を支配する。
これは同調(シンクロ)。
俺の中の“十枚の碑文”が共鳴している……カールのコピー因子に。


「そうだな。俺はお前だ、カール」


楚良と1つになったコトで阿頼耶識を解し、全感覚がカールの為だけに機能しているかの如く。
今の俺は刻(とき)どころか、他人(ひと)の心まで自由に出来るのか。
冷静になって考えると、薄ら寒いモノがあった。


「俺は境界を越えた……」


未だ誰にも見せなかったであろうカールの精神世界を、垣間見ている。
最初に降り立った月の沙漠は偽物(フェイク)だ。
あれは囮。
自分の心を勝手に覗き見ようとする愚者を惑わせ、カールの心の中で彷徨わせることで、殺す為の罠(トラップ)。
実際、俺もスケィスが門番を務める宮殿に行きつくまで相当の時間をかけた。
何百年何千年単位の時間をかけて沙漠を踏破したかは分からねェが……阿僧祇にも似た過酷な悟りの旅は、俺を更に強くした。
だから、俺はここまで来たぜ。


「……底はまだか?」


在ると思えば、在る。
俺が気づかないだけで。
次々に弾け、俺の頭の中に流れ込んで来るカールの記憶を子守唄代わりに、俺は夢の中で夢を見る。
仁村潤香という、存在さえ忘れられた少女の記憶。
2010年から2017年……潤香が何を視て、何を聴き、何を嗅ぎ、何を味わい、何を触れ、何を意識したのか。
潤香独特の自虐的なまでの我執の中に、俺は解を求めた。


「俺とカールの心が溶け合って……もう区別がつかなくなるまで……」


始まりは、いつもZERO(虚無)から。
境界(ライン)があるからこそ、人は人を畏れ、距離を取る。
ZERO-LINER(ゼロ・ライナー)。
「虚無の境界を往く者」。……訳は適当だ。
存在しない存在を証明し続ける為には、ZERO(ゼロ)というレールを駆け抜け、立ち止まることは許されなかった。
仁村潤香は三崎亮の記憶に留まることも許されず、永い刻を、偽りの仮面(ペルソナ)を被り、耐え抜いていた。
彼女もまた、疾駆する者(ライダー)だった。
ひたすらに焦がれ、憎む程に愛し、唯(た)だ、己が記憶のみを頼りに、時間の波を捕まえ、約束の場所を目指した。
刻は残酷だ。
彼女が辿り着いたのは、彼女の望む未来(世界)ではなかった。
ハセヲは楚良であることを忘れ、潤香の存在も想いも否定する、糞みたいな世界しか、待っていなかった。
故に絶望し、獣の姿へと化生した。
想いが強すぎて、愛が深すぎて。
それは、成長。
少女の淡い想いが幾つもの要因が重なり、どす黒く濁った激情へと、変貌を遂げるまでの過程(プロセス)。
成長記録、通過儀礼(イニシエーション)。
世界に再び悪意と毒を撒き散らそうと、
AIDAに身を委ねた仁村潤香の心の叫びが、こびり付くように俺の脳髄を駆け巡る。
焼け焦げた鉄を擦り付けられるのにも似た、頭の中をグチャグチャに描き回す、潤香の助けを求める声が。


「カール……」


その声があまりに哀しくて、俺は小さく噎せる。


「俺がお前を忘れてる間……耐えてきたのか……孤独に。
 ずっと、ずっと」


まさに苦行だ。
8年近くカールが是に耐えていたかと思うと、頭が下がる思いだった。
父親不在の状況で、ばあちゃんと母親の3人で……
カールは家族ですら何処か覚めた視線で境界を引き、ウチとソト、他人と自分に分け、本来自分があるべき姿を探しながら、自分を傷めつけ続けていた。
……全部、俺のせいだ。
俺がモルガナと接触したばかりに、スケィスと融合したばかりに。
仁村潤香の人生を狂わせてしまった。
俺が両親と楽しくやってる間に、ずっと潤香は苦しんでたのも識らずに。
今頃になって全部思い出して、言い訳してコトを丸く納めようってのは、どう考えてもムシのいい話だと思った。
俺は、それだけの酷いコトを潤香にしてしまったのだから。


「救済(ぐさい)なんて……意味を為さねェ」


自分に対して、憤りを覚えた。
もう、あの頃の自分(ソラ)ではない。
今や完全にハセヲと楚良は融合(フュージョン)を果たし、失われていた三崎亮という本当の自分を取り戻した。
同時に、ヒトすらも越えた。
現在(いま)のハセヲ(俺)は、光であり、人である。
八枚の碑文と癒着したX:thフォームすら超越した人外の異形、R:Xthフォーム。
解脱(キャストオフ)と涅槃寂静(ハイパークロックアップ)により、刻と精神の境界をも踏破する力を、その身に宿す賢人。
……自分と言うと、かなり恥ずいな。


「心を覗くのは……見る方も、見られる方も……辛いんだな」


かつて、榊に操られたアトリの記憶を見、声を聞いた時も、そうだった。


「けど……それでも俺は、俺の進むべき道を往く。
 天の道じゃねぇ、人(俺)の道を」


後光(オーラ)が燦然と輝き始める。
いよいよ、ここからがR:Xthフォームの真骨頂だ。


「俺は……お前に会いたい。
 お前の声を聞きたい……お前の名前を呼びたい」


新たに加わった二枚の碑文……合計十枚の碑文の力をフルに発揮し、物語の完結を目指し、加速させる。
言ってみれば「裏ワザ」だった。
心のバックドアを開ける鍵を、その場で複製し、最深部まで到達せしめたるものだ。
失われた時間の狭間に位置する、心の部屋へ赴く為に。
“黄昏を開くの鍵(キー・オブ・ザ・トワイライト)”が必要だった。
可能性、解釈、答えは人それぞれだ。
オーヴァンにとってのキー・オブ・ザ・トワイライトが俺だったように……
俺にとってのキー・オブ・ザ・トワイライトは―――――――――――――――


「迎えに来たぜ。潤香」


愛しい女の名前を呼んだ時、氾濫する光の洪水の中で、俺は流れに身を任せた。























































「ようこそ。モルガナの小さき仔ら」
「お前は……」


意外にも、漂い続けた先に待っていたのはカールではなかった。
だがある意味、俺が求めていた答えの一端を握る者には違いないかもしれない。
扉の前に、小さな少女が、佇んでいた。
俺とも決して無関係とは言えない、全知全能の女神が、最後の門番として。


「少女(ヒト)のカタチは、棄てたんじゃなかったのか」
「誰もが皆、識っている真実……それだけが、正しいものとは限りません」
「だろうな」


皮肉も覚えたらしい。
明らかに、7年前とは段違いに成長している。
司君やカイトとの交流が、アウラをハロルドの望んだ元型(Aura)へと昇華させたのだろう。
アイナを介して大聖堂で出会った時より、Auraは優しさと慈愛の声に満ちていた。


「かあさんを迎えに来たのですね」


自我を失い、ネットの海に3年も岩戸隠れしていた天照(アマテラス)は、俺を見ると小さく哂う。


「そうだけど……つーか、何でアンタが此処に居る?」
「わたしは《The World》……《The World》は私。遍く世界の至る所に、わたし(Aura)は存在します」
「カールの心の中にも……か?」
「今、あなたとかあさんは私と繋がっている……」


スッ……。
銀色の髪を讃え、白いドレスを見に纏った少女は、愛しげに扉を、その小さな指先で撫でた。


「あなたの、かあさんを想う心が……わたしを形作り、呼び寄せた。
 少女の元型(アーキタイプ)は、仮初に過ぎません」
「……繋がりを求めたんだ」
「かあさんとあなたの繋がりは、わたしだったから」
「……そうだったな」


凡ては、2010年。
大聖堂でのボーイ・ミーツ・ガールに始まり、第三者たる少女アウラの介入で、それまでの日々が変わる。
追う者と追われる者。
アウラを守り楚良を待ち続ける少女カールと、アウラを殺すため化生となったソラの、命を賭けた追いかけっこ。
結果、カールはスケィスと化したソラにデータドレインされ、未帰還者の1人となる。
そうして勇者カイトが仲間達と八相とモルガナを倒すまで、ネットの海を彷徨い続けるのだった。


「わたしには3人の母がいます」
「3人……?」


ニコリ。
またAuraが笑う。
俺をここまで導いた、ゼフィを思わせる無邪気な笑みだった。やっぱ親子なんだな。
そんなコトを想う俺を他所に、Auraは、その小さな唇で諳んじ始めた。


「ハロルドが愛した女、エマ」


アウラの元型(アーキタイプ)。
宇宙人にそそのかされて、黄昏の碑文を書いちまった電波女だ。


「わたしの母胎となった、旧き地母神モルガナ」


娘を殺す為に八相を生み出し、俺(楚良)をデータドレインしやがった糞ババア。
水銀燈みたいな声しやがって……。


「そして、カール」


だな。


「彼女達はティガでした」
「ティガ……」


インドネシア語で「3」っつー意味だった気がする。
現地人にとっちゃ聖なる数字だ。
ハロルドの奴……仏教観念の他にも、インドネシア語圏のマナ論なんかもAuraに組み込んでやがったのか?


「父と子と聖霊……三位一体を為す者」
「カイトとアンタとゼフィみたいにか」
「そう言う意味では……わたし達もまた、ティガと呼べるかもしれません」


光の存在だ。
邪悪と対を為す、古来より闇と対峙してきた存在。
拝火教(ゾロアスター教)の光の神アフラマズダと闇の神アンリマンユのように。
決して交わることはなく、光と闇の果てしない死闘(バトル)は続いた。
終止符を打ったのは勇者(カイト)だ。
2010年の終わり、カイトの剣に貫かれ、自己犠牲を覚えたアウラによって、世界は再誕した。
アウラは入滅し、悟りを開いてAuraへ姿を変え、如来となった。
色即是空、空即是色。
凡てが、此処にあるのは、彼女が居るからだ。


「……ゼフィはどうなったんだ」
「風に還りました」
「……死んだのか」
「彼女は、この次元の彼女ではありませんでした。遠い、此処とは違う、別の次元からの来訪者」
「でもアンタの娘のはずだろう? 娘が死んじまって、哀しくないのか」


女神(母親)相手に、意地の悪い言い方をしたと思った。
ゼフィはAuraと違い感情が豊かで愛らしく、何よりも俺を「おじいちゃん」と慕ってくれていたからだ。
それだけに、ゼフィの死は哀しい。
十重二十重の幾つもの次元を旅し、やっとのことで「それなりにイイ結末」を迎えられそうな世界を見つけ、俺にコンタクトをとったゼフィ。
サフラン色の少女の面影が、眼の前のAuraに重なり、辛い。


「……悪かった。今の、スルーしてくれ」


居心地の悪さを感じ、俺は頭をバサバサと掻いた。


「宇宙は無限。人の想いもまた、無限」
「さすが、悟りを開いた女神サマの言うコトは違うな」
「世界は1つではない。もしも、という世界。それらもまた、無限に存在している」
「平行世界(パラレルワールド)」


途方もない話だった。
碑文使いとして開眼する前の俺なら、どう転んでも1ミリも理解できそーもない、イカれた発想だ。


「電気信号は時に次元の壁すらも越える……そうして、わたしは凡ての超高次元で起きた出来事を把握しています」
「女神ってのは何でもアリだな」


超高次元……いや、無限次元の演算。
Auraにしか出来ない芸当だ。


「各世界のわたし自身と意識を共有することで……」
「だが、そのうちの幾つかのアンタと交信が途切れた」
「その世界のわたしの物語が、終わったからです。世界が、何らかの理由で滅びたから」
「フォモール族の侵攻か?」


AIDAを何十年も前に地球に送り込んだ、元地球生まれの宇宙人ども。邪神の眷属。
ゼフィが俺の前に姿を現したのも、俺の中に眠るダーナ神族のルーの遺伝記憶を復活させる為だった。
R:Xthフォームは楚良との融合だけじゃなく、かつて地球を支配した古代種(エンシェント)の血をも現代に復活させた。
予め用意されていたというよりも、俺の場合は偶然から得た副産物だ。
俺(楚良)とスケィスがたまたま融合した過程で、神とヒトの融合体である俺(三崎亮)が阿頼耶識を支配したに過ぎない。


「原因は幾つもある……でも、世界の中心には、常に貴方が居た」
「まるで特異点だな(苦笑)」


Auraの言うことが可笑しく、つい笑いの動作(モーション)でツッこんでしまう。


「滅びの途(みち)を辿った世界の輪廻と因果が複雑に絡み合い、平行に存在していた宇宙が捻じれ始めてしまった」
「それってヤバイのか」
「結果、どの世界も2020年で時間が止まりました。それ以降の時間を刻めた世界を、わたしは識らない」
「2020年……」


今から3年後か……。


「けれど1つでも救われる世界があったなら……凡ての世界は、また元の時間を取り戻せるはず」
「それが、この世界ってか」
「そう。 あなたが、かあさんと出会った世界。あなたが、自分の影と向き合った世界。あなたが、かあさんを救った世界」
「タンマ」


おいおい、まだ救ってねーぞ。
救う予定、だけどな。


「悟り開いた女神サマに意見するのもアレだけど、この世界の俺がハッピーエンドに持ってける保障も無くね?」
「……ゼフィは、あなたを信じていた」


だからアンタも俺を信じると?


「世界を変えるのは、強き想い(心)……そして、強き願い」


女神は、揺るぎない自信の下、扉から退いた。


「強き心、強き願い……重なる時」
「無敵になる、ってか。
 だが、最初に言っとくぜ。今の俺は、かーなーり、強ぇ」


隣をフワフワと横切るAuraに応じ、俺も応えてみせる。
こう言っちゃなんだが、俺も此処まで来ちまった以上は、ゼフィが望んだようにハッピーエンドを迎えてやらねーと気が済まない。
エマの“黄昏の碑文”とハロルドの“フラグメント”から生まれた、どうしようもねぇこのクソゲーを終わらせるには、俺自身の物語を完結させるしかない。
後のコトは、終わってから考えりゃいい。


「かあさんを――――《The World》の未来を、よろしくお願いします」
「……わーってる」
















ズッ!!!
















右手の中に顕現する、巫器(アバター)。
楚良と一体化した今の俺にとって、コレがスケィスだった。
それは処刑鎌を思わせる意匠ではなく、ケルト十字を模した巨大な杖。
銀色の十字杖を手中に収めると、俺はAuraに振り返ることもなく、眼前に構えられた扉に向け、巫器を突き立てた。
さながら、今の俺は魔術師だ。
巫器(スケィス)は俺の影であり、カールの影でもある。
同じ憑神を持つ俺達だからこそ可能な“合鍵”の共有。
例え姿形は異なっても、元型(アーキタイプ)を同じくする碑文使い……それがハセヲとカール。
三崎亮と仁村潤香――――男と女である以外に、俺達に、違いなどなかった。




ギギィ……。




やがて、鍵を受け入れ、扉が開いていく。
扉の向こう側には、黄昏に包まれた世界が広がっていた。アレがカールの原風景なのだろうか。
まあいい。
俺の旅も、よーやく終点に辿り着いたってワケだ。
アンタ、カールに会っていかないのか?
扉が開くのを確認して俺が後ろを振り返った時、もうAuraの姿は何処にも無かった。


































「来たんだね」


俺が行き着いたのは、黄金色に輝く麦畑……ではなかった。
【Δ隠されし 禁断の 聖域】……グリーマ・レーヴ大聖堂。
俺(ソラ)とカールが初めて会った場所。
カールの作り出した最後の心の砦は、思い出の大聖堂だったことに疑問の余地は無い。
大伽藍にも似た荘厳な雰囲気を湛える黄昏色に染まった大聖堂は、寂(じゃく)に満ちていた。


「ああ」


黄昏に照らされ茜色に染まった長い髪と、群青色のドレス。
間違いなくカール。
求めていた女は、大聖堂の最奥……女神像の前に佇んでいた。
像は鎖に繋ぎ止められてはいない。
像の台座にも、八相達の銘は刻まれていなかった。
俺が志乃を失い、三爪痕(蒼炎のカイト)と戦った、あの大聖堂じゃない。
言ってみれば此処は、カールの大聖堂だ。


「此処まで来るのに、随ぶ……ッ!?」
「? どしたの」
「カ、カール、お前、その腹……」
「お腹?」


振り向いたカールを見た途端、一目散に“ある変化”に俺は気づいた。
スルーしようとしても出来なかった。
だって、そーだろ。
フツーはビビるだろ。


「おまっ、そのデカい腹……ナニ?」
「これ? 赤ちゃん」


ドレスの上からポッコリと膨らんだカールの腹部に、俺の眼は釘付けになった。
ワケが分からない。
末那識、我識、阿頼耶識……凡てを総動員しても、この異常事態を完全に理解する自信は沸かなかった。
女ってのは、まさに宇宙最大の神秘にして謎なのだと俺はこの刹那、勝手に結論付けた。
……そうしないと頭の整理が追い付かない気がして。


「こっち追いでよ。
 ここまで来たんだし、帰れとか言わないって」


が、肝心のカール本人はさして動揺を見せることもなく。
自身の腹を摩りながら、喜々として俺の来訪を迎えるのだった。
言われるがまま、俺は女神像前に立つカールに歩み寄っていく……大聖堂の静寂が、やけに耳に響く。
そうしてカールの傍まで来ると、改めて驚嘆する。


「お前……妊娠してんのか!?」
「そうだよ」
「だ、誰の子だよ……?」
「あたしと、きみの♪」


……帰りたくなってきた。                                                                              【 TO BE CONTINUED... 】

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