「.hack//G.U.」と「コードギアス 反逆のルルーシュR2」と「LAS(LMS)」と「ゴッドイーター」と「仮面ライダーディケイド」の荒唐無稽恋愛活劇SSサイト(のつもり)。

『しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事には頓着(とんじゃく)致しません。
 その玉のような白い花は、御釈迦様の御足(おみあし)のまわりに、ゆらゆら萼(うてな)を動かして、
 そのまん中にある金色の蕊(ずい)からは、何とも云えない好(よ)い匂が、絶間(たえま)なく
 あたりへ溢(あふ)れて居ります。極楽ももう午(ひる)に近くなったのでございましょう。』                           【芥川龍之介著 「蜘蛛の糸」(1918年発表)より】

楚良と融合することで本来の自分、
即ち三崎亮を取り戻し、太陽の化身“R:Xthフォーム”へと変神を遂げたハセヲ。
涅槃寂静(ハイパークロックアップ)により《The World》内の時間を支配したハセヲは、直接カールの精神世界へ救済(ぐさい)に赴いた。
存在しない存在を証明し続ける為には、ZERO(ゼロ)というレール駆け抜け、止まることなど許されない。
孤独だけを強さにする、心痛い程。理解(わか)っている、だからいつでも一緒に戦うのさ。
ZEROへの回帰―――三崎亮と仁村潤香の7年に及ぶ因縁は最期の結末を迎える!


「お前……妊娠してんのか!?」
「そうだよ」
「だ、誰の子だよ……?」
「あたしと、きみの♪」


おいおいおいおいおいおいおいおい。
……孕ませた覚えねェぞ。
そんな感じで半ば呆気に取られ、言葉を失いかけていた俺にカールは微笑んだ。


「此処は、あたしの世界だもん」


自身の腹を撫で擦りながら、カールは大聖堂を見渡すよう俺に促した。
ステンドグラスから降り注ぐ陽光。黄昏とも薄明とも見分けのつかない、幻想的な光加減だ。
限界線―――――――――境界を越えた今、
何が起こっても不思議じゃねぇとは覚悟してたつもりなんだがな……。


「凡ては、あたしの思うがまんま」


根元で束ねられた銀色の髪の先端部を揺らし、女は一歩、歩み出る。
女神を模した像の前に立つ姿は、それこそ異国の修道女を思わせる佇まいだった。
まさに聖女。
外国の昔話に出てくるお姫様みてーな……
醜悪で誰からも憎まれる魔女とは正反対の、誰からも愛される完全な少女の元型(カタチ)をしていた。
俺が勝手にそう思っているのか、それともカールが俺にそう思わせているのか。


「だから、あたしはきみの子を孕んだんだよ。いや、あたし自身を……かな」
「潤香、自身を……?」


穏やかな笑みの中に、ある種の凄味が潜んでいた。
カールなりに覚悟の上で望んだ(臨んだ)ことなんだろう。後悔の念は微塵も感じられない。
眼前の女は、俺が識る上で、限りなく澱みのない状態にある。
心の最深部に辿り着いた時点で、俺も、カールも、互いの心を曝け出し、秘部を覗きあっていた。


「此処に辿り着いたからには……ご褒美が必要でしょ?」


此処では道徳感とかは糞の役にも立たないらしい。
無法地帯だ。
カールという創造主が絶対のルールを強いた世界なんだ、と……理解するのに時間はかからなかった。
阿僧祇の時間をかけた久遠の旅、月の沙漠と宮殿を踏破した見返りが、腹ボテ姿のカールってのは予想の範囲外だったけどな。


「あたしはずっと欲しかったもん、子供。きみの、ね。
 それと同時に、あたし自身を―――――もう一度、誕(う)みたかったのかもしれない」


また一歩、カールは歩みを進めた。


「きみこそが、あたしに生じた我執だったから」
「識ってる」
「きみに出会った7年前の、あの時から……あたしは、こうなることを望んでいたのかもしれない」


遠い記憶。
PKとして世界に毒を撒き散らそうとしていたカールと、モルガナによってスケィスと同化させられていた俺の、刹那の回想録。
俺はカールを手にかけ、世界に束縛した。
第一相スケィスとして、まだ幼いアウラを守るカールをデータドレインすることで。


「……全部、俺のせいだったんだよな」


旧き地母神モルガナの仔、傀儡のスケィス。
スケィスと俺が癒着したことで、八相達は生まれた。
俺の前世――――――楚良が一度死に、モルガナの仔として再誕しなければ、今の混乱も無かったかもしれない。
興味本位でアレに協力するべきではなかった。
クーン(香住智成)だって、別れちまったっていう彼女と不仲にならずに済んだかもしれない。
俺(Skeith)こそが全ての災厄、諸悪の根源。
《The World》に禍々しき波を生じさせる先駆け、尖兵だったことを、今になって強く想う。
永遠不変の、始まりの此の場所。グリーマ・レーヴ大聖堂こそが、俺とカールが出会った場所だから……。


「あたしはきみと一緒に居られれば、未帰還者のままでも良かったのに」
「そうはいかねぇだろ」


カイトと仲間達……ドットハッカーズの活躍で、未帰還者となった仁村潤香と三崎亮は、世界から解放された。
救済の代償は記憶だ。
俺もカールも、記憶を置き去りにしたまま、《The World》から追放されていた。
変質した心は7年の間、リアルとゲームで別々の“成長”を遂げたことだろう。
もう俺達は2度と出会うことはない―――――――――――――――――――――――互いに気づくこともなく、すれ違うはずだったのに。


「……迎えに来たんだ」


絶対、連れて戻るって決めた。
俺の存在意義は仁村潤香の救済(ぐさい)。その為のR:Xthフォームだ。
俺と楚良、光と影が1つになって、初めて可能となる記憶の旅。涅槃寂静(ハイパークロックアップ)。
AIDAに犯され化生となったカールを救うには、この方法しかないと直感で理解した。
阿僧祇の旅は、俺をより高次の存在……高みへと導いた。
知覚するのは、カールの精神(こころ)。
憎しみと愛が混濁する、泥沼のような……本当なら、もっと毒々しい場所を想像していたはずなのに。
潤香の心は、子供のように純粋で。俺への愛に溢れていた。
堰を破り、自身を崩壊寸前に追い込むまでの、愛に。


「戻ろうぜ。……潤香」


俺も、此の女を愛している。
共有(シェア)した時間はそんなに長くはないが……7年前(2010年)も、今(2017年)でも、心惹かれる。
志乃を愛していた時の感覚とは根本から違っていた。
恐れるほど恋し、憎むほど愛した志乃。
俺は自分の気持ちに絶対の自信を持っていたはずだった。
言葉を交わさなくても、志乃なら俺を受け入れてくれるという根拠のない自信に満ちていた俺は、
彼女の言葉を借りるなら“赤ちゃんでも出来るコト”さえ、出来ていなかった。
何も伝わらず、伝える努力すらしちゃいなかったんだ。
志乃の影が、徐々に俺の心から消えて行くのは分かっていた。
碑文使いとして戦った時間が、俺を成長させたから。面影は、もうない。
毎日見舞いに行っていた病院も、志乃が退院した今となっては、俺の日課ではなくなっていた。
志乃が、俺の女神は、いつの間にか俺の心から、すっかり居なくなっていた。……それが哀しいコトだとは、思わない。


「ふふっ。あたしに、蜘蛛の糸を垂らしに来たの? 御釈迦サマ」


カールが失笑する。
嫌味のない笑いだったが、何処か乾いた笑いだった。
それなりに大きくなった腹を抱え、更に一歩、カールは俺の前へと進む。


「芥川龍之介は読んだ」


服毒自殺した小説家だ。
ライフルで自殺したヘミングウェイみたく「強くなりたかったから」自分の命を断っちまったのかどうかは、識らない。
俺にとっては何の面識も無い故人となった小説家のオッサンを気にかけるより、眼前の女を救う方が大切だからだ。


「そ。なら、あたしはカンダタ?」
「かもな」


生前の悪さが祟って、死んで地獄に落ちた泥棒の名だった。
7年前、カールが行っていたチートやPK―――――――――――殺しや放火なんかの悪事を重ねていたカンダタと、ダブる。
カンダタが小さな蜘蛛を救ったように、カールもまた小さなアウラを守り、慈悲の心を見せたところまでもが。
釈迦を気取るつもりは毛頭無ェけど……お前を助けられるなら、何でもいい。
いざとなれば、糸を垂らすより直接地獄まで助けに行くって手だってある。
生憎と……此処は地獄っつーより、極楽みてーな場所だが。


「ハセヲは、どうして釈迦が『カンダタを救おう』と考えたと思う?」
「そりゃ……慈悲の心ってヤツだろ。カンダタは生前、蜘蛛を助けてたんだし」


御釈迦様だぞ、偉いんだぞ。
菩提樹の下に49日も引き籠った挙句、餓えた虎に自分を喰わせるようなイカレたオッサンだけど。
言ってみれば究極のマゾヒストだ。
シャカ族の王子シッダルタは、実は開き直っただけの、どーしようもないドMだったとしたら?


「(それはそれで何かヤだな……)」


まあ、それくらい心の広い野郎だったってコトだと思いたい。
下手すりゃ、単なる自殺志願者だけど。
……そもそも、木の下で49日間も過ごしたってのも何か嘘くせーな。
自宅警備員ならぬ菩提樹警備員か?


「(ぶっちゃけ、単なる浮浪者だったんじゃねーのか……御釈迦様)」


わざわざ家出して……つーか、家出と出家って、ある意味似てるよな。


「じゃあ、正解いってみよー」


そんな俺の思索は軽くスルーし、カールは満面の笑みを浮かべて、こう言うのだ。


「ハセヲ君の解答は……ぶー。ハズレでした」
「なんでだよ」


最初から糞真面目に答えちまったのが、マズかったか。
この女は相変わらず、要領を得ない不可思議な“引っ掛け”で俺を惑わすのが得意だった。
さっきは聖女だのお姫様だの、大聖堂の雰囲気に呑まれて思っちまったけど……撤回した方がいいかも。
まさに魔性だ、女は。得体が知れない。


「本当に釈迦に慈悲の心があるなら、カンダタだけじゃなくて、他の亡者も救うでしょ」
「カンダタしか、生前に善行を積んで無かったかもしれねーじゃん」
「でもカンダタにしか糸を垂らさなかったってコトは、そういうコトなんだよ」
「そーか……?」


カールの言っていることは正しいようで、正しくない。
絶対的な正解ではるとは言えない。他の奴に聞けば、違う答えが返ってくるかもしれない。
全員が全員、異口同音を諳んじるとは到底思えない。


「釈迦がやったコトは、ただの自己満足(ジコマン)」
「それが真理だと言える根拠が欲しいんだが」
「ないよ、そんなもの。言ったもの勝ちだもん」
「なんだそりゃ」


俺と向き合う女は、信心深くはない。多分、無宗教だろう。
単に今のシチュが釈迦と犍陀多、芥川のオッサンが書いた短編小説に似ているから、例えとして挙げたに過ぎない。
故に、俺の答えもカールの答えも正解であり、不正解。
原作者の芥川が生前に何を想って「蜘蛛の糸」を書いたのかが判明したところで、意味を為さない問答だった。
闇の中で唯一光る真実。それだけが正しいとは限らない。だから、その目で真偽を確かめるしかない。


「なら、もう1つ問題。カンダタh悪人か善人か。さあ、どっち?」


いよいよ、カールが俺の目と鼻の先までやって来る。
妊娠しているせいか、大きくなった腹よりも、
いつもより一段とボリュームを増した胸の膨らみに目が行きそうになったのは、此処だけの秘密……って、多分、バレてんだろうな。
やべぇ、雑念は捨てねーと。


「地獄に堕ちるくらいなら悪人……。けど、お前のことだから、馬鹿正直に答えちゃダメなんだろ」
「ふふ。おりこうさん」


基本、俺達は日常的に「悪いことをすれば地獄に落ちる」と教え込まれてる。
熱心な仏教徒の家に生まれなくたって「嘘を吐くと閻魔様に舌を抜かれる」のと同じレベルで、日本人の精神土壌に昔から染みついている思想だ。
キリスト教の天国と地獄の概念とはまた別の、日本人だけが持つ特別な感覚と言ってもいい。
晩年、東洋思想に傾倒していたハロルド・ヒューイックが日本をアウラ誕生の地に定めたのも、何となく頷ける。
唯だ、識だけに……。
カイトのような勇者の出現も、日本でなら起こり得ると考えていたのだろうか。
アウラをAuraへと悟らせるための切っ掛け、自己犠牲の心を生み、一切の我執を滅する最高の素材が日本に在ると確信していたのか。
ま……今はそんなの“どうでもいい”んだが。


「蜘蛛の糸は、そもそも何時(いつ)の時代の話なのか、明らかになってねぇ」


遠い昔なのか。
それとも遥か未来の出来事なのか。
登場人物は釈迦とカンダタだけ。釈迦は極楽、カンダタは地獄。
芥川のオッサンが読者へ向けて書き綴り、公開した情報は、それっぽっちしかない。


「もしかしたら、人殺しや放火でもやらなきゃ、生きていけない修羅の世界に生きていたのかもしれない」


“いろいろ悪事を働いた大泥坊”と蜘蛛の糸の原文にはある。
あるにはあるが、本当にそれが間違ったコトだったのかは、どうにでも解釈が出来るのではないか。
本当に悪が存在するとするなら、それはカンダタに悪事を働かせるような状況に陥ってしまった、世の中のせいではないのか。
既に生き地獄の住人なら、地獄に落ちたところで最初から救済など期待していなかったのではないか。
そんな時に釈迦が糸を垂らしたから、絶望していたカンダタも僅かな光を掴もうと、浅ましい心が我執として生じてしまったのではないか。


「カンダタがマジに悪人だったか……善人には程遠い野郎だったかどうかなんて、誰にも理解(わか)らない」


釈迦は、理解った気になってただけかもしれない。
カールの言う通り、ただの自己満足、或いは気まぐれ。
小さな蜘蛛を助けたコトがあったから……と、救済(ぐさい)しようとしたのは、後付けで何とでも言える。
カンダタに課せられたのは試練なんかじゃない。
釈迦の気まぐれに付き合わされた、ただの衆生。地獄の中から選ばれた、運の悪い男だったら?


「だから」
「だから?」
「ノーコメント」


俺は、敢えて答えなかった。


「答えが無いのが、答え?」
「そーなるわな」


解を為さないのが、解。
どの道、さっきと同じで此の問答に意味は無い。
カールは探っている、俺の言葉の裏にある真意に。
心と心を深層意識で繋げることで俺を試しているのだ。


「お前はカンダタじゃねぇ」
「じゃあ……誰がカンダタ?」


ゆっくり、カールの腕が伸びて来る。
白い指先が俺の髪を掠り、やがて上から下にかけて触れていく。
カールは笑顔だった。
此処までの旅路を終えた俺を祝福する笑顔じゃあない。
もっと別の、慈愛に満ちた、俺の為の笑顔。


「もう分かるだろ」


カール。
今のお前は……本当に綺麗だ。
スケィスとして活動し、死の恐怖と呼ばれていた俺に比べれば、お前の罪はずっと軽い。
互いに共犯であろうとした、お前の心こそが救済だったと、改めて思う。



「カンダタは……俺だ」



地獄に堕ちるべきは、俺。
俺がスケィスと癒着なんかしなきゃ、7年前の事件は起きなかったはずだ。
モルガナなんかに興味を持たなきゃ、司君達を出し抜いて、キー・オブ・ザ・トワイライトの真実なんて追いかけなきゃ……。
《The World》での未帰還者事件も、横浜での事故も、みんな俺が根元から関わっていた。
握られた十字杖、コレもスケィスが振るっていたモノ。
俺の残滓が宿っていた錫杖。
カールの精神(こころ)を開く為に用いた巫器(アバター)。もう楚良ではない。楚良だったもの、だ。
スケィスは、俺の中に在る。


ガラン。


とうとう俺は巫器を手放した。
それ程に煩わしく、そして殊更に愛しい。
女を抱く為に、俺は俺を捨てたのだ。両の腕(かいな)で、しっかりと女を捉えて。



「俺は! 俺は……俺は……」
「うん」



“追い詰められた奴がするコト”と言えば、相場は決まっている。
貌(カオ)を上げられない。カールを見るのが怖かった。
女の肩を両手で抱き、瞼を閉じたまま、声にならない声で俺は懺悔した。
感情が爆発する。かつて喪失し、仲間達との旅路の果てに得た、激情が。
羞恥の心ではなく、ただ、謝りたいと。
7年分の想いをぶつけるなら、今。
もうこの時を逃せば、未来永劫ありはしない。想いが溢れて、止まることを知らなかった。


「お前のコト……ずっと……待たせて……!」
「うん」


俺の震える声と、女の慈しみに満ちた声が重なって。



「お前のコト……忘れちまってて……!」
「うん」



物語を勝手に終わらせ、未だに救いを求める女の存在すら忘れ、7年間生きてきた。
これが、俺の前世からの宿業だと言うのなら。
せめて、一言だけでいい。たった一言だけでいいから。


「ごめん……ごめん……」


途切れた記憶が繋がっていく。
新たな線路(レール)が、途(みち)が開けていく。
俺は、ずっとこうしたかったんだと思う。
志乃に慰めてほしいワケでも、智香に慰めてほしいワケでもなかった。
カールに―――――――――――――――――――――――――――――――――謝りたかったんだ。


「カール―――潤香……待たせて……ごめんな……!」


滑稽だと思われてもいい。
ただ、ひたすらに。俺は此の瞬間を待ち望み、焦がれていた。
こうすることでしか、俺の業(カルマ)は消えない。いや、こうすることで消える保証は何処にもない。
だけど、もう。
7年前の罪を悔いるには、是しか方法が残されていなかった。
過去の清算と言えば聞こえはいいが、要は、単に女に縋っているだけ。
例え強大な力を手に入れても、基本、俺は。
俺は……いつもの俺なのだと、そう思い知らされる程に、愚直な行い。


「ハセヲ」


ハッとなって顔を上げた。
カールの端整な貌が、本当にすぐ近くにあった。
銀色の長い髪が、ステンドグラスから降り注ぐ光に反射してキラキラと輝く中、
AIDAに感染していた時とはまるで違う、阿修羅から菩薩の笑みを浮かべて。
瞳を逸らすことなく、真っ直ぐに。
紫色の瞳は、俺だけを映していた。
女が発するだろう次なる言葉に、俺は自然と全身を強張らせ、五感を研ぎ澄ましていく。
いや、五感どころか六感……七感、八感か。
カールの唇が動き出すまで、一体どれだけの時間がかかったのか。
概念など既に無く、俺はじっと、待った。待ち続けた。
刹那か、阿僧祇か。
その時を、ただ、じっと。
やがて―――――――――――――――――――――


「もう、怒ってないよ」


女は、俺を赦した。
優しく微笑んで、俺の躰を抱き止め、包み込んでくれる。
委ねたカールの躰は柔らかくて、甘い匂いがして、俺の精神を溶かしていく。


「きみが……あたしを強くしてくれたから」


添えられた女の指が、俺の頭を優しく撫で、慈しんでくれる。
どんなに待っただろう、この刻(とき)を。


「だからもういいよ……あたしはもう、怒ってない」


その時の俺は。
俺は……どうこうするワケでもなく。
形容するなら……安堵し、女の胸の中で、いつの間にか、声を上げて泣いていた。


「皆の記憶に、あたしが残っていなくても……ハセヲ。きみだけが、あたしを覚えていてくれた」


ZERO(ゼロ)への回帰。
俺が求めていたモノ。
存在しない存在を証明し続けるため、孤独に戦っていたカール。
一途に俺を想い、欲していたカールは、虚無(ゼロ)という途(レール)を駆け抜け、立ち止まることも許されず。
心痛い程、孤独だけを強さにして。
唯だ、走り続けていただけなのに。


「それだけで、充分。きみは……いつも、あたしと一緒に居てくれてた」


分かっている。
だから、いつでも一緒に戦ってきた。


「ありがとう、ハセヲ」


二度と手放しちゃいけない。
あの喪失感だけは、二度と味わいたくない。
俺(三崎亮)も、カール(仁村潤香)も、想うコトは同じだった。


「もう、絶対……俺、絶対に……!」
「だいじょーぶ。あたしは……ここにいるから」


耳元で呟かれたカールの声は、厳かな大聖堂に反響し、俺の嗚咽と共に呑まれていった。
俺の心の虚を満たしながら、静かに、そして深く。
カールの声を、心に刻んで。
そして。


「潤香、帰ろうぜ。……俺達の世界に」
「うん。まだ……やらなきゃいけないコト、あっちでも残ってるし?」
――――だな」
「ふふ」
「んだよ」
「今のきみ……すっごくカッコ悪いけど……すっごくカッコいいよ」


長い夜は終焉(おわり)を迎え、薄明の訪れは、ここに約束された。                                                     【 TO BE CONTINUED... 】

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