.hack//JOJO ハセヲの奇妙な冒険 - トーナメント編 第16話
『なぁ。デウス・エクス・マキナ……って何だ?』
『作家のくせにそんなことも知らんのか? “機械仕掛けの神”だろ。ほら、古代ギリシャ演劇でも用いられた手法だよ』
『機械仕掛けの……神?』
『劇の内容が錯綜して解決困難に陥った時に、いきなり絶対的な力を持つ神が現れて物語を収束させる。
 そういう手法だよ。ま、怪獣モノのパターンでもあるな』


【ウルトラマンマックス 第22話「胡蝶の夢」(2005年11月26日放送)より】

A.D.2015.Spring....


「RA計画?」
「モルガナ・モード・ゴンの残した碑文……即ち、かつて君が倒した八相と呼ばれる規格外のバグ達。
 我々はモルガナ因子と呼んでいるが……それらを回収、女神を再びあの世界へと降臨させるためのプランだよ」
「はぁ」
「無論、君がこの春から海外へ留学することも知っている。
 だがそこを曲げてお願いしたい。カイト君、どうだろう。
 私と一緒に《The World》の核心にもう一度触れてみないか?
 かつて勇者と呼ばれた君になら理解わかるはずだ、世界に凝縮された天才ハロルドの英知の数々が……!」


天城丈太郎と名乗るその男は、饒舌に語った。
一連の腕輪事件が過ぎ《The World》は最盛期を迎えているものの、
それは見せ掛けだけ。本当は女神の加護がなくなったことで、とてもつまらない世界に成り下がってしまったのだと。
だから革新を起こすため核心に触れたい。
八相を回収し、更にはアウラを再度《The World》へ呼び寄せ、完全な世界を作り上げるために。


「でも、僕はもう勇者じゃ―――――
「今からでも遅くはない。
 既に計画の初期段階は始まっているのだから。
 モルガナ因子、八相の回収も全て完了している。
 後はそれらを特定のPCに移植するだけ……あぁ、そうだ。
 第一相“死の恐怖”ことスケィスは君のPCに移植してあげよう! あれは君にとっても因縁のある相手だろう?」


……直感とでも言うのか。
カイトは自分の目の前にいる同年代のこの男とは気が合いそうにないと思った。
よりによってあのスケィスを、移植? 冗談ではない。
あいつのせいでオルカが……ヤスヒコがどんな目にあったかくらい、CC社の人間なら知っているだろうに。
それにもう1つ聞き捨てならない台詞をこの男は吐いた。
「モルガナ因子、八相の回収も全て完了している」と。
ちょっと待て。
では、彼女はどうなったのだろう。エノコロ草が大好きな彼女は―――――――――


「……ミアは、どうなったんですか」
「ミア? ……あぁ、マハの原型だったあの放浪AIか。死んだよ、当然ね」
「!」
「あの放浪AIは一度消失したのを君達がまたあの世界へ呼び戻したんだってね?
《Ω 隠されし 月の裏の 聖域》に活動ログが残っていたから拝見させてもらった。
 よくまぁ腕輪の侵食に耐えながら、モルガナの残滓たるウイルスバグが跳梁跋扈するダンジョンを踏破できたものだ。さすがは勇者と言うべきか」


ミアが死んだ。
一度目は、彼が……つまりはカイトが止むを得ず倒した。
未帰還者達を元に戻す方法は八相を倒すこと……少なくとも、あの時点ではそう思っていたから。
結果的にはアウラの再誕によってミアを再び《The World》へ呼び戻すことができたが
今思うとあれも奇跡に近い作業だったと思う。
天城の言う通り、侵食率がレッドゾーンギリギリであったためにいつ腕輪が暴走してもおかしくない状況だった。
だが何故だろう、この男に褒められても少しも嬉しくない。
年齢的にはほぼ同年代のはずなのに、カイトは得体の知れない狂気をこの男から感じた。


「エルクとかいう呪紋使いが探していたよ、彼女を。
 もうどこにも居やしないというのに飽きもせず毎日毎日……そう言えば彼も君の仲間、ドットハッカーズだったか。
 丁度いい、彼にもRA計画に参加してもらおう。
 マハと相性が良ければ、すぐにでも碑文使いPCとして開眼できるはず……! 
 面白くなってきたぞ……ドットハッカーズ、伝説の勇者のパーティが私のプランに加わるなんてッ!」
「僕には……何が面白いのか全然分からない! 命を玩具みたいに弄んで、何が面白いって言うんだ!?」
「命か。面白いことを言う。
 カイト君、あれは碑文だよ。命なんかじゃない。
 モルガナが娘に取って代わられることを恐れて生み出した木偶人形の設計図に過ぎない。
 たまたまデータの一部が異常を来たして擬似的な人格を持っただけ。
 創造主たる世界のために尊い犠牲になったんだ……ミアとかいう放浪AIも本望だったんじゃないのか?」
「ミアが死んだことで……エルクがどんな思いをしているのか……一度くらい、考えなかったのか……!」
「さあ? 1人のプレイヤーよりも2000万人のプレイヤーが大事だからね、会社としては。
 だが彼や君がRA計画に参加してくれる意義は大きい。
 気に障ったのなら謝罪しよう。会社としても必要最低限の和解を考えるつもりだ、一応は」


バルムンクが去った今、これがCC社という会社の現状なのだとカイトは思い知る。
アウラは《The World》の自立を促すためにネットの海へと還った。
しかし利益を求める会社はそれを許さず、再び岩戸を開けようとしている。
人の心まで踏みにじって得る利益に、何の価値があるのだろう。
汚い。子供だったあの頃は分からなかったが、今ならはっきりとそう言える。
この人達は、卑怯だと。


「……僕もエルクも、貴方達の計画に協力なんかしない」


この場に居たくない。
大人達の勝手な思惑に振り回されるのはもうたくさんだ。
碑文使いだかモルガナ因子だか知らないが、これ以上は聞きたくなかった。


「……所詮は元勇者、か。
 ……もしもし、番匠屋さん? 私です、天城ですけど。えぇ、そうです。
 相談なのですが例の学生、使えませんか。うちの会社の株を取得して大株主になってるっていう――――


この後、天城丈太郎はRA計画の失敗により精神を失調。
《The World R:1》のデータと共に、リアル(この世界)から姿を消す。

























**********************















誰が想像できただろう。
このまま行けば間違いなくハセヲチームは時間切れで敗退するはずであった。
まず何よりも、試合に参加しているメンバーが2人だった時点で賭け師達は“がび”チームの勝利に賭けたのだ。
いくらハセヲと言えどケストレルを束ねる“がび”の前では矮小な存在に過ぎないと踏んで。
それは勿論、“がび”の持つ圧倒的なカリスマ性に惹かれてのことである。
ハセヲとて人望のある方だが、如何せん“がび”の老練とも呼べるものには達してはいない。
だが結果はどうだ。
試合終了まで残り1分かそこらで事態は急変する。
突如として顕現した蒼炎が“がび”チームの尖兵たるIyotenとアスタを薙ぎ払い
渦巻く豪炎の中から現れ出でたのは赤い双剣士の少年。
静止した時間の中で唯一彼だけが時間の束縛を受けぬかの様に、ゆっくりと顔を上げて身構えてゆく。
洗練された戦闘スタイル。
両の腕に携えられた双剣がガチャリと軋み、鋭利な三つ又となって花開いた。
酷く時間の流れが遅いと感じるほどに、その動きには一部の無駄も隙もなく。


「……うん。悪くないや」


彼の呟きが沈黙を破るまで、誰1人の動作も許さなかった。


「くそ……アスタ!」
「承知っ! 同時攻撃にて仕留めるでござる!!」


双剣士の少年の放った蒼炎によってバトルフェンスに叩きつけられた2人。
ただの属性攻撃かと思いきや、HPをかなり削る痛手となってしまっている。
恐らく、あの双剣に爆炎の追加ダメージを付与するアイテムでもカスタマイズしているのだろう。
炎が蒼いのは何らかの特殊スキルだったからに違いない。
それが彼らの想像の限界だった。


「なつめは下がってて」
「えっ……」
「僕1人でやるから」


彼女を庇うように立ち塞がっていたのは、いつもの彼。
強くて優しくて、いつも仲間のために自分を犠牲に出来た彼そのもの。
まるで、こんなこと何でもないよと言わんばかりに。
優しく彼は、微笑んでいた。


「話したいことがいっぱいあるんだ。だから……すぐに終わらせる」


場の空気が一気に張り詰めていく。
久々に味わう高揚感……何年ぶりだろうか?
いや、今は試合に集中しなくては。出なければ、またこの世界に戻ってきた意味がない。


「君達にも教えてあげるよ――――ハロルドの作ったこのゲームの、本当の遊び方を」
「ワケの分からぬことをさっきから……何処の誰かは存ぜぬが、不意打ちとは全く持って卑怯千万でござる!」
「倍返しにしてやるよっ!」


このまま放っておいてもタイムオーバーで勝てるにも関わらず
果敢にもIyotenとアスタは眼前の双剣士の少年へと刃を向けて駆けてゆく。
彼らにもPKとしての意地があるのだろう。
修羅場は幾度も潜り抜けているベテラン(どちらかと言えば、初心者相手の修羅場だが)。
だが今回はどうにも相手が悪かったようで―――――――――――――


「いただきっ!」
「お命頂戴仕るっ!!!」


首尾よく斬り裂いた、と思った相手は影も形もなく。


「「!?」」


前後左右を瞬時に確認するもその姿はない。
となれば残された場所はたった1つ、上空。
が、時既に遅く。
両者が頭上を仰ぐと同時に、振り下ろされるニ閃の斬撃。
ガードする暇さえ与えてくれない、それは脳が防御を命じるよりも速かった。




























蒼 炎 舞 ・ 百 花 繚 乱 !































「なッ……!?」
「ぎぃ、いつの間に……!?」


予期していなかった上空からのスキル攻撃により、クリティカルを喰らうPK両名。
更に追い討ちをかけ、着地と同時に少年の持つ三つ又の双剣に再び炎が燈った。
火炎旋風となってIyotenらを先程吹き飛ばした、あの蒼炎を遥かに凌ぐ勢いで猛る炎。
体勢を立て直さなければヤバイ。
“がび”に助けを求めたいところだが、それどころではない。
かつてこれ程までに絶望的な力の差を味わったことはなかった。
次元が……違いすぎる!


「悪く思わないでね」




























三 爪 炎 痕 !!!






























間髪入れず、更なるスキル発動!
その言葉を待っていたかの様に、蒼炎が爆ぜた。
文字通り、突き抜ける疾風ハヤテのごとく。
三重の斬撃が三角形を描きながら、IytenとアスタのPCをあたかも紙切れの如く刻み、蹂躙する。
ただただ蒼く煌くそれは見入るに十分な程に美しくて。
なつめを追い詰めたPK2名を再度、バトルフェンスへと豪快に叩き付ける――――――――



「む、無念……ぐふっ……」
「強いってレベルじゃ……ねぇ〜……」



HP0、即ち戦闘不能。
数年ぶりに《The World》にログインした彼にとっては良い練習相手だったのかもしれない。
彼がプレイしていた頃と比較すると戦闘システムは大幅に進化しているし……何より、なつめをいじめた相手なら手加減せずに戦える。
この間、恐らく10秒足らずの出来事である。


『えーと……な、何が起きたのでしょう……?
 いきなり試合に割り込んだ謎の選手が……瞬く間にIyoten選手とアスタ選手を……た、倒してしまいました……。
 どうやらハセヲチームの助っ人の様ですが……大火様は、どう思われますか……?』
『……おでれぇた』
『わ、私も驚いています……ハイ』
『そうじゃねぇ……とんでもねぇ大物が現れやがったぜ! ありゃ……勇者カイトじゃねーか!!』


【 TO BE CONTINUED... 】

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