.hack//JOJO ハセヲの奇妙な冒険 - トーナメント編 第34話
『何と惜しい芸術家が、私の死によって失われることか』
                                                        【ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクス  ローマ帝国第5代皇帝】

「碑文の解読、終わったんだって?」
「今からモニターに出す……これだ」


ハセヲとの対話を終えた後。
タイミングよく八咫からの碑文解読完了の報が入り、知識の蛇へと帰還したカイトを、
僧形の妖扇士(ダンスマカブル)が静かに待っていた。
ロストグラウンド内に埋没されていた碑文、ハロルドとエマからのメッセージ。
果たしてそれは理想郷(アヴァロン)到達への助けとなるか?


「どれどれ……。
“邪悪なる者あらば……希望の霊石を身につけ……炎の如く……邪悪を打ち倒す戦士あり……”。
 ……クウガ?」
「すまない……展開するフォルダを間違えた。
 ……今一度モニターに出そう」
「しっかりしてよ(苦笑)」


八咫も全然関係のない古代文字の解読結果を表示してしまう辺り、動揺しているのが伺える。
よくこの短期間で全ての碑文の解析・解読を行ったものだ、その心労は筆舌に尽くし難い。
だがどんな栄光も、それを分かち合える友人や仲間が居なければ
何の意味もなさないことを……彼は、よく知っている。


「これが……解読の結果だ」
「“刻印とは、あの獣の名。あるいはその数字である。ここに知恵が必要である。
 思慮のある者は、獣の数字を解くが良い。
 その数字とは――――――
―――――人間をさすものである。そして、その数字は666である”」
「……聖書?」
「新約聖書ヨハネの黙示録・第13章18節……まさかとは思ったがな」


今までの世界観と明らかに異なる趣。
少なくともハロルドもエマも、ケルト神話をベースにこの《The World》と根幹たる黄昏の碑文を創作したはず。
いや……原始キリスト教の教義を下敷きとしているならば、そう可笑しい話でもなくなる。
ケルト神話の原型たるアイルランド神話の確立は中世半ばとされ、
キリスト教よりも歴史は浅く、むしろキリスト教の教義に基づいてフィアナ騎士団伝説や
アーサー王と円卓の騎士伝説が生まれたと言っても過言ではないはず。
では“獣の数字”とは?


「ネロだ」
「ネロ? 魔肖ネロとかネロ魔身とかデカネロンとかネロクイーンの、あのネロ?」
「そのネロで間違いあるまい。
 Nero Claudius Caesar Augustus Germanicus....ローマ帝国第5代皇帝。
 ……皇帝ネロ」


ゆとり教育が悪化を辿った2017年現在でも、中学の世界史の教科書を開けばその名は載っている。
別名、暴君ネロ。
悪政と奇行(美少年を去勢、自らの正室=妻に迎えるなど)によって
ローマ帝国内の政治を混乱させ、西暦64年に起こったローマ大火を起こしたのは
当時新興宗教として活動していたキリスト教徒だとし、弾圧したことで後世“暴君”と畏怖されるようになったとされる。


「“獣の数”と目される666はネロの別名、ネロ・ケーザルが原型とする説がある。
 ケーザルとはカエサル、即ち皇帝だ。
 英語ではEmperor(エンペラー)、ドイツ語ではKaiser(カイザー)。
 ネロ・ケーザルをヘブライ語に変換すると NRWN QSR と置き換えることが出来、
 各文字が50、200、6、50、100、60、200という意味になる。この6つを合計すると……」
「666になる……ってコトか」


意味深なメッセージが碑文に隠されていたものだと思う反面、
これから起こることを如実に現してもいる……そんな不気味なものを感じる解読結果。
もし、その“獣の刻印”、“獣の数字”を誰かが解いてしまったら……?


「どうなると思う?」
「この世界においてのみ、になるだろうが……恐ろしいことになるのは間違いない。
 システムを超越した魔神の力だ。
 文字通り、神にも悪魔にもなれる……いや、神や悪魔さえ越えるだろう。
 あの榊やオーヴァンですら到達できなかった、限界を越えた極限の世界が待っているはず」
「魔神皇帝(マジンカイザー)ってとこか。この世界にそんなプレイヤーが居るとすれば……」
「……ハセヲをおいて他には居まい」


全ての碑文を喰らった憑神、
スケィスを従えキー・オブ・ザ・トワイライトと化した少年。
しかも今現在ハセヲの中の楚良が覚醒兆候にあり、彼がその大いなる存在へと昇華してしまう可能性は大きい。
かつての暴君ネロの如く、ハセヲもまたこの世界を蹂躙すると言うのか?


「さっきハセヲ君と話したけど……そういう雰囲気じゃなったよ?」
「油断はできない。
 今夜の決勝で楚良が目覚めるか否かで結果が決まるはずだ……。
 調整が必要になるかもしれないな。 
 ハセヲの中の楚良が再誕を遂げれば理想郷(アヴァロン)への鍵が揃う、
 だがそれと同時に“獣の数字”も解かれ、彼が魔神と化し、暴君の如くこの世界を脅かす存在と成り得る可能性もある」
「カールって子にとっては最高のシチュだろうね。
 楚良は還ってくるし、《The World》に悪意と毒をばら撒ける……一石二鳥」


カールが決勝でハセヲに対して行おうとしていることは、容認はできない。
しかしながら全ての碑文の力を携えキー・オブ・ザ・トワイライトとなったハセヲに対抗できるのは彼女くらいのものだろう。
ハセヲの中の楚良を目覚めさせるなら、彼女が一番の適任だと八咫もカイトも判断した。
不本意だが、カールに賭けるしかない。


「鍵はあの2人……か。7年前もそうだったように」
「始まりも終わりも……ハセヲとカール次第だな」


彼らのRA計画は最終フェイズに差し掛かっている。その全ての鍵を握り、また鍵となるのがハセヲ。
楚良が完全に目覚める時、ハセヲはどうなるのだろう。
解読された碑文同様、禁断の獣が解き放たれてしまうのか――――――――――――
























************************

























「この絵、俺にくれんのか」
「まぁ……そーいうコトに、なるっちゅーか……」


アイナが取り出した、朔が描いたって絵。
タイトルは「妖精譚(フェアリーテイル)」。
木の上から漏れた木漏れ日の中で、何人もの妖精が踊ってる絵だった。
へぇ、コイツこーいうメルヘンチックな絵も描けたんだな……ちょい驚いた。


「だ、だまっとらんと……なにか、言いや」
「力作じゃねーか。マジで俺が貰っていいのか?」
「……さっきの望がもろた縫いぐるみのコトもあるしな。あんたにくれてやったるわ!」
「ん。そーする。アリガトな」
「フ、フン……!」


思えば朔からプレゼント貰うって初めてじゃね?
いっつも俺がダンジョンクリア報酬のアクセサリとか高レベルの魔導書や防具、コイツにプレゼントしてたし。
こう言っちゃ何だが、一度くらいは見返りあってもいいよな?


「か、勘違いせんといてや! 
 ウチはアンタに気ィ許したワケやないからな、分かったな!?」
「へいへい。分かってるっての」
「ホンマ分かっとるんかいな? ブツブツ……」
「朔とハセヲさんって、本当に仲が良いのね」
「ハァッ!? 
 アイナ、なんか勘違いしとるみたいやけどな、別にウチはハセヲのコトなんかちぃーっとも――――――
「気にしてる、よね?」
「む、むぐぐ……」


アイナの有無を言わさない笑顔にゃ朔も敵わねぇっぽいな。
さすがオーヴァンの妹と言うか、何と言うか……見るトコしっかり見てやがる。
そうだ。
オーヴァンが命懸けで守った妹……今度は俺が守ってやらねぇと。


「お前ら仲良いよなぁ」
「ま、同じ魔導士(ウォーロック)やし? それに女同士、互いに通じ合うとこもあんねん」
「好きな漫画は?」
「「ローゼンメイデン」」
「……感想を一言で言うと?」
「めっちゃ笑えるw」
「姉妹同士で戦う、悲しい物語だと思います……」
「(この温度差は何だ……?)」


……仲が良いっつっても感性までは違うか、さすがに。
落ち着きのある分アイナの方が精神年齢高そうだし。
これはこれで釣り合いのとれた友達関係なんだろーな。
あん? 
でも確かアイナって望とも仲良かったよな。
その辺、朔はねーちゃんとして、どう思ってんのか……。


「ローゼンと言えば2007年に首相に就任した麻生が『ローゼンメイデンを他紙掲載にしてでも連載を再開させる』って公約を
 マジで実現させた時は日本中が祭になったよな。麻生の支持率も90%越えたし」
「さすがアニメと漫画の大国、日本ですね」
「よーするにオタの国っちゅうコトやん……自重しぃ」


クールジャパンッ……!


「朔、まだ店番の交代まで時間あるし……ハセヲさんと他のショップを見て回って来たら?」
「ん〜。アイナがそう言うんやったら構へんけど……」
「私は大丈夫。もうすぐ、しゃけさんもへな子さんも帰ってくると思うから」
「せっかくアイナがこう言ってくれてんだ、もうちょい見て回ろうぜ」
「しょ、しょーのないやっちゃなぁ……特別やで?」


望にプレゼントしたデカチムチムの縫いぐるみをアイナに預け、パァッと朔が笑う。
何だ、コイツちゃんとそーいう顔できるんじゃねぇか。
エンデュランスの前ならともかく、俺の前だといつも悪態ついたり渋い顔してたからな。
実質、「消える」とかメールで言い出して結局消えないって決めた辺りから
俺への対応もちょっとは変わってきてるっぽいし……。











****************












「……なぁ」
「あん?」
「手、繋がへん……?」
「……」                                                                                        【 TO BE CONTINUED... 】

戻る】【第35話