IF12・『Lingering Sting 〜消えない痛み〜』

59 名前:Lingering Sting 〜消えない痛み〜 :04/08/11 16:28 ID:EB4Jyst6
 ズキ、ズキ、ズキ……
「痛い……」
 彼女は一人自室に篭もり、ベットの上で己が胸を押さえ苦しんでいた。
「何でこんなに、痛いのよ……」
 夜はずっとこうだった。あの日からずっと……。
 あの日、天満たちの前で播磨は自分ではなく八雲と付き合っていると、
教えた日からずっと心に大きな棘が刺さったような痛みが付きまとっていた。
「何であいつのことを考えるとこんなに痛むのよ」
 自分は彼のことなんてなんとも思っていないはずなのに……なのになんで……。
 彼女、沢近愛理はあの日からずっと自問し続けていた。

             Lingering Sting 〜消えない痛み〜

 いつからだろう、播磨の顔がちらつくようになったのは。
 ちらつくようになったとハッキリと自覚したのはたぶん体育祭の日からだろう、それは愛理は理解っていた。
「けど、本当はいつからなのかしら」
 理解らなかった。……いや、彼女は理解ろうとしなかった。
 播磨への気持ちを自覚したくなかったから。
「ぐぅ……」
 けれどほんの数日前、学校に播磨のジャージを持って行ったあの日、
彼女は自分の足元が大きくぐらつくのを実感してしまった。
「あいつが誰と付き合っていようと私には関係ないはずなのに」
 なのにその日、八雲がせっかく愛理が縫い付けたジャージの名札を縫い直しているところを目撃してしまい、
いくつか言葉を交わして逃げるようにその場を後にしてしまった。
 ……そして晶に誘われ喫茶店に行きそこで八雲に再会した……。
「仲、良いのかな? そうよね、ジャージの名札を縫い付けてあげるくらい親密なんだもの。キスくらいしてるかも……」
 けれどそれを想像するのは嫌だった。
 そしてその想像はあの日喫茶店で八雲の顔を見ているうちにも浮かび上がり、
なんとも言えないどす黒い気持ちが愛理の心を支配して行った。
「どうしてあんなこと言っちゃったのかしら?」
 わざわざ自分が二人の関係を発表しなくても良かった、
八雲の困りきった顔を思い出す度に愛理は自己嫌悪に陥ってしまっていた。


60 名前:Lingering Sting 〜消えない痛み〜 :04/08/11 16:29 ID:EB4Jyst6
「サイテーね……あは……ははは……」
 ズキッ
「イタッ」
 胸の痛みは何故か増してしまった。
「もう……いやぁ……」
 もう、彼女にはどうすれば良いのか理解らなかった。
「ああ、もうっ」
 そしていつもと同じように手近なぬいぐるみを手に持ち壁に思いっきり投げつけた。
 ポスッ
 けれどぬいぐるみはいつものように軽い音を立てて跳ね返ってしまった。
「クッ」
 ボスッ
 そして別のぬいぐるみを手に取りいつものように殴り始めた。
 ボスッ、ボスッ、ボスッ
 力のないこぶしで何度も、何度も……。
「……惨め、よね……」
 愛理は涙を流さずに泣いていた。
「それに意気地が無い……」
 この状況をどうにか打開しようと彼女は今日、塚本家を訪れようとした。
 けれどインターフォンを押し反応が返ってくる前に逃げ出してしまった。
「でも怖いんだから仕方ないじゃない……」
 八雲の口から播磨の事を聞くのが怖かった。
 彼との事を詳しく聞きたい。詳しく聞いて気持ちをスッキリさせたい。
 そう思って訪れたのに愛理は八雲の口から播磨の話題が出ると意識した瞬間、怖気づき逃げ出した。


61 名前:Lingering Sting 〜消えない痛み〜 :04/08/11 16:32 ID:EB4Jyst6
「いつも逃げてばっかり……」
 イギリスにいた頃はもとより、去年まで何か物事から逃げ出すなんて一度もしたことはなかったのに。
 けれど2年の夏になってから愛理は何かにつけて逃げ出すことが多くなってしまった。
「なんて、なんて弱いのよっ!!」
 ボスッ
 そして一度だけ力強く彼女はぬいぐるみを殴りつけた。
「はぁはぁはぁ……」
 ドサッ
 そして愛理はベットの倒れ込んだ。
「それもこれも、あいつのせいよっ。あいつがあたしに優しくするからっ」
 いろいろ考えても結局はそこに帰結してしまう。
「あたしが弱くなったのもこんなに苦しんでいるのも全部あいつのせいよっ」
 ズキンッ
「ひぐっ」
 ひときわ痛みが酷くなった。
「はぁはぁはぁはぁ……ひっ、ぐぅ……」
 苦しかった、悲しかった、情けなかった。
「こんなに苦しむならいっそ……」
 彼のことも何もかも忘れられれば……。
「!?」
 そこまで考えて愛理の脳裏にある考えが浮かんだ。
「そう、だ。そうしよう」
 名案だと思った。それしか方法がないと彼女は思った。
 そこまで彼女追い詰められていた。
「あ、はは……はは……そうよね。それしかないわよね……」
 そしてしばらくの間、彼女の部屋からは力ない笑いが響き渡っていた。

                   〜 To be continued 〜

2010年11月23日(火) 01:58:27 Modified by ID:/AHkjZedow




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