広島弁護士会綱紀委員会の議決内容

原告今枝仁らに対する議決内容


当委員会は、頭書事件について、次のとおり議決する。

  主 文

懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする。

  理 由

第1 懲戒請求者が懲戒を求める理由の要旨
 懲戒請求の趣旨は、概ね次のとおりであると認められる。
1 対象弁護士らは、平成11年4月14日に山口県光市で発生した母子殺人事件(いわゆる光市母子殺害事件。以下「対象事件」という。)の差し戻し審(広島高等裁判所)第1回公判において、被告人が被害者(母親)を殺害後姦淫したことを「死者を復活させる儀式」、被害者(乳児)を床にたたきつけたことを「ままごと遊び」、被害者(乳児)の首をひもで締めあげたことを「謝罪するつもりのちょうちょう結び」などと主張した。
2 前項の主張は、科学的にも常識的にも到底理解し難く、理解することに嫌悪感すら覚えるものであり、被害者らを侮辱し死者の尊厳を傷つけるものである。
 また、対象弁護士らが、前項の主張を行ってまで、被告人が差し戻し審まで認めていた殺意を否定しようとするのは、意図的に裁判を遅延させるものとしか考えられず、国民の裁判制度及び弁護士制度への信頼を傷つける弁護士にあるまじき行為である。
3 したがって、対象弁護士らが対象事件の差し戻し審で上記主張を行ったことは、弁護士法56条1項に定められた懲戒事由(所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わず品位を失うべき非行)に該当する。
 よって、対象弁護士らを懲戒することを求める。

第2 対象弁護士らの答弁及び反論の要旨
1 対象弁護士らが、対象事件の差し戻し審において、被告人が被害者(母親)を殺害後姦淫したことを「死者を復活させる儀式」と主張したことは認めるが、その余の主張をしたことはない。
2 対象弁護士らは、法医学鑑定、犯罪心理学鑑定及び精神医学鑑定の結果等から、被害者らの傷跡などから判断して犯行態様は被告人の従前の供述どおりではないこと、被害者宅を訪問したのは強姦目的ではないこと、被害者に対する死亡後の姦淫行為は、被告人が人格的に幼く当時異常な精神状態にあったこと等により行ったものであることが明らかになったことから、被告人の意見も聴取したうえで、これらの主張をしたものである。
 対象弁護士らの行為は、被害者らを侮辱したり死者の尊厳を傷つけるものでもなく、また、意図的に裁判を遅延させるものでもないことはもちろん、これを行うことは刑事弁護人としての義務である。
3 したがって、対象弁護士らの行為が懲戒請求事由に該当しないことは明らかである。

第3 証拠
 乙第1号証 光市事件差戻審弁護団作成の「光市事件弁護資料(差戻控訴審)
 乙第2号証 光市母子殺害事件弁護団緊急報告集会の記録

第4 当委員会の判断
1 証拠によると、第1の1のうち、対象弁護士らが対象事件の差し戻し控訴審の第1回公判期日において、被告人が被害者(母親)を殺害後姦淫したことを「死者を復活させる儀式」と主張した事実が認められ、その余の事実を主張した事実は認められない。
2 証拠によると、対象弁護士らが、上記認めた主張をしたのは、鑑定書及び被告人の供述に基づくものであったことが認められるから、懲戒請求者らの、対象弁護士らの主張が科学的に理解できない主張である旨及び対象弁護士らの行為が意図的に裁判を遅延させている旨の各主張はいずれも理由がない。また、懲戒請求者らが上記主張を理解することに嫌悪感を覚えたとしてもそれは懲戒請求者らの好悪の感情の問題にすぎない。
 さらに、対象弁護士らの主張が、懲戒請求者らにとって、被害者らを侮辱し死者の尊厳を傷つけるものと受け止められたとしても、対象弁護士らの弁護活動は、刑事事件における弁護士の職責を果たすために行われたことは証拠によって優に認められるから、これをもって、懲戒事由に該当するとはいえないことは明らかである。
3 以上のとおり、対象弁護士らの行為が、弁護士法56条1項に定められた懲戒事由(所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わず品位を失うべき非行)に該当する行為といえないことは明白である。
4 その他、証拠を精査しても、対象事件における対象弁護士らの弁護活動について懲戒事由に該当するものは見いだし難い。
 よって、弁護士法58条4項により主文のとおり議決する。



原告足立修一に対する議決内容


当委員会は、頭書事件について、次のとおり議決する。

  主 文

懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする。

  理 由

第1 懲戒請求者が懲戒を求める理由の要旨
 懲戒請求の趣旨は、概ね次のとおりであると認められる。
1 対象弁護士は、平成11年4月14日に山口県光市で発生した母子殺人事件(いわゆる光市母子殺害事件。以下「対象事件」という。)の差し戻し審(広島高等裁判所)第1回公判期日において、被告人が被害者(母親)を殺害後姦淫したことを「死者を復活させる儀式」、被害者(乳児)を床にたたきつけたことを「ままごと遊び」、被害者(乳児)の首をひもで締めあげたことを「謝罪するつもりのちょうちょう結び」などと主張した。
2 前項の主張は、科学的にも常識的にも到底理解し難く、理解することに嫌悪感すら覚えるものであり、被害者らを侮辱し死者の尊厳を傷つけるものである。
 また、対象弁護士らが、前項の主張を行ってまで、被告人が差し戻し審まで認めていた殺意を否定しようとするのは、意図的に裁判を遅延させるものとしか考えられず、国民の裁判制度及び弁護士制度への信頼を傷つける弁護士にあるまじき行為である。
3 最高裁判所の公判期日に正当な理由なく欠席して裁判を1か月遅延させた。
4 したがって、対象弁護士が対象事件の差し戻し審で上記主張を行ったこと、裁判の期日に欠席したことは、弁護士法56条1項に定められた懲戒事由(所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わず品位を失うべき非行)に該当する。
 よって、対象弁護士を懲戒することを求める。

第2 対象弁護士の答弁及び反論の要旨
1 対象弁護士が、対象事件の差し戻し審において、被告人が被害者(母親)を殺害後姦淫したことを「死者を復活させる儀式」と主張したことは認めるが、その余の主張をしたことはない。
2 対象弁護士は、法医学鑑定、犯罪心理学鑑定及び精神医学鑑定の結果等から、被害者らの傷跡などから判断して犯行態様は被告人の従前の供述どおりではないこと、被害者宅を訪問したのは強姦目的ではないこと、被害者に対する死亡後の姦淫行為は、被告人が人格的に幼く当時異常な精神状態にあったこと等により行ったものであることが明らかになったことから、被告人の意見も聴取したうえで、これらの主張をしたものである。
 対象弁護士の行為は、被害者らを侮辱したり死者の尊厳を傷つけるものでもなく、また、意図的に裁判を遅延させるものでもないことはもちろん、これを行うことは刑事弁護人としての義務である。
3 したがって、対象弁護士らの行為が懲戒請求事由に該当しないことは明らかである。

第3 証拠
 乙第1号証 光事件差戻控訴審弁護団作成の「光事件弁護資料(差戻控訴審)」
 乙第2号証 光市母子殺害事件弁護団緊急報告集会の記録
 平成18年広弁綱第7号事件の記録

第4 当委員会の判断
1 証拠によると、第1の1のうち、対象弁護士が対象事件の差し戻し審の第1回公判期日において、被告人が被害者(母親)を殺害後強姦したことを「死者を復活させる儀式」と主張した事実が認められ、その余の事実を主張した事実は認められない。
2 証拠によると、対象弁護士が、上記で認めた主張をしたのは、鑑定意見及び被告人の供述に基づくものであったことが認められるから、懲戒請求者らの、対象弁護士の主張が科学的に理解できない主張である旨及び対象弁護士の行為が意図的に裁判を遅延させている旨の各主張はいずれも理由がない。また、懲戒請求者らが上記主張を理解することに嫌悪感を覚えたとしてもそれは懲戒請求者らの好悪の感情の問題にすぎない。
 さらに、対象弁護士の主張が、懲戒請求者らにとって、被害者を侮辱し死者の尊厳を傷つけるものと受けとめられたとしても、対象弁護士らの弁護活動は、刑事事件における弁護士の職責を果たすために行われたことは証拠によって優に認められるから、これをもって、懲戒事由に該当するとはいえないことは明らかである。
3 第1の3につき、対象弁護士が最高裁判所の公判期日(平成18年3月15日)に欠席したことは認められる。
 しかしながら、対象弁護士(および他の弁護士1名)は、公判期日の約2週間前に被告人と接見して被告事件を受任したが、訴訟記録が整っておらず、同期日迄に弁論を準備することが困難であったことから公判期日の延期申請を行ったが、裁判所がこの申請を却下したこと、対象弁護士外1名は、延期された公判期日までに広島拘置所において被告人と約24回接見し、欠落した訴訟記録を閲覧謄写し、次の公判期日(同年4月18日)には、弁論要旨22頁、その資料として1ないし32を提出して弁論を行ったことが認められる。
 以上のとおり、対象弁護士は、受任後は被告人のために真摯に弁護活動を行っており、これら一連の弁護活動を総合的に考慮すると、前記欠席行為は、専ら最善の弁護活動努力義務を尽くす目的で公判期日を欠席したものと認められること、対象弁護士のその後の訴訟活動等に照らすと通常の審理期間を超える程に審理が長期化して訴訟を遅延させたとの事実も認められない。
 したがって、対象弁護士の前記欠席行為をもって直ちに弁護士の品位を失うべき非行に該当するとはいえない。
4 以上のとおり、対象弁護士の行為が、弁護士法56条1項に定められた懲戒事由(所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わず品位を失うべき非行)に該当する行為といえないことは明白である。
5 その他、証拠を精査しても、対象事件における対象弁護士の弁護活動について懲戒事由に該当するものは見いだし難い。
 よって、弁護士法58条4項により主文のとおり議決する。



※これは議決の一例であり,懲戒請求書に記載された懲戒事由の内容や対象弁護士によって,若干異なるものもあります。

2008年04月06日(日) 22:49:22 Modified by keiben




スマートフォン版で見る