南京大虐殺に関する論争の解説と検証

第96回国会 衆議院 文教委員会 第17号 昭和57年7月30日

小川平二(自民)文部大臣
有島重武(公明党・国民会議)

068 有島重武
○有島委員 七月二十六日に中国政府が中国外務省の肖向前第一アジア局長を通じまして、日本国政府にあてて抗議文が来た、この中身は、一つは、検定について事実に反する改ざんを行ったのではないかということが一つございました。もう一つは、明らかに中国侵略の歴史的事実の真相を歪曲しておる、こういうことですね。これは検定の不公正さというようなことについて触れておることもある。その結果として、いま日本国民に教育されている教科内容、これが全部であるか一部であるかということではなしに、これは将来の日中両国の平和友好のために有効なものであるかあるいはそれが喜ばしくないものであるかという点に着目して、現在ある結果、この事実の歪曲ということについて抗議をした。二つの問題のうち、私は第二番目のことの方がより重要であろうかと思うわけです。ですから、検定の手続について誤りはなかった、わが方の検定はかくかくしかじかの方針でやっておる、こういうぐあいの説明はまさに国内の問題です。こういうことを一生懸命説明して、それじゃ言われるように変えましょうなんということになりましたら、これは内政干渉に近い話になる。中国の真意は、ますます日中両国間の友好をあるいは正常な国交を進めていきたい、そこにあろうかと思う。わが方もそこにあろう。ですから、枝葉末節はさておいて、そこに焦点を合わせて進める、これは大臣そのとおり御承認だろうと思いますね。
 そこで、かつて帝国憲法のもとで日本軍隊によって中国の侵略が行われた事実、それからその際に大規模なる虐殺が行われた、大臣、これは認めますか。
069 小川平二
○小川国務大臣 これは多くの教科書が記載いたしておりますとおり……(有島委員「教科書じゃない、大臣」と呼ぶ)はい、私が答弁を申し上げておる。
 南京占領の際に日本軍によって相当多数の中国の軍民が殺害される、そうしてそのことによって国際的な非難を受けたという事実は、これは否定できない事実でございます。
070 有島重武
○有島委員 もう一遍聞きますよ。それが旧日本軍による侵略行為であったというふうに認めていらっしゃいますか。また、帝国憲法のもとに正義の御旗を掲げていった日本軍が非人道的な大規模な残虐行為をしてしまった、これはお認めになりますか、大臣個人としても。
071 小川平二
○小川国務大臣 南京事件を含めまして日本の軍部が行った行為は、これはとうてい正当化することのできない行為だ、かように認識をいたしております。
072 有島重武
○有島委員 正当化できる戦争もあるというようなお話ですか。
073 小川平二
○小川国務大臣 正当化云々という言葉は、あるいは誤解を招くかもしれませんので……(有島委員「誤解を招きますね」と呼ぶ)言い直しますが、弁解の余地のない戦争、かように申しましょう。
074 有島重武
○有島委員 弁解の余地なく侵略であった、残虐行為であった、そういうことですか。
075 小川平二
○小川国務大臣 南京事件を指して仰せでありまするならば、仰せのとおりと存じます。



第96回国会 衆議院 文教委員会 第18号 昭和57年8月4日

栗田翠(日本共産党

132 栗田翠
○栗田委員 昨日新聞を見ますと、中国の新華社通信が南京大虐殺の写真を五枚配付したということが報道されて、その中の特にひどい写真が掲示されておりました。特にひどいかどうかわかりません、報道されておりました。また、きょうの新聞を見ましたら、引き続いて有名な三光作戦の焼き尺くされた家の写真などが載っておりました。それにつけ加えて中国側などが言っているのは、これは歴然たる歴史の事実である、しかしこの南京大虐殺の問題についても、教科書が修正されたという点で非常に遺憾である、これをもとに復せという要求も出ていると聞いておりますが、これについてどう対処なさるのでしょうか。
133 小川平二
○小川国務大臣 本日は法案の御審議を願っておるわけでございまして、私が個々の具体的な問題について余りくどくど申し上げることは差し控えさせていただくべきものかと思っております。明後日この問題について十分時間をかけて御審議がなされると聞いておるわけでございますから、多くを申しませんが、たとえば南京大虐殺でございますけれども、南京の占領に際して、日本軍が中国の多数の軍民——軍民と申しますからもちろん非戦闘員も含まれておるわけでありまして、これを殺害して国際的な非難を浴びた、このように検定を経た教科書は記載しておるわけでございます。検定によって著作者が自発的に修正意見を入れて削除した部分は、たとえば二十万人という数字でございますが、言うまでもなく、歴史の記述は信憑性ある史料に基づいた客観的な事実を書かなければならない。二十万人という数字には十分な根拠がございませんので、この点を指摘いたしました結果、著作者の方で二十万人という数字を削除いたした、かようなわけでございます。
 文部省といたしましては、繰り返しになりますが、歴史の事実を改ざんしようなどとは考えておらない。ただ、歴史の教科書でございますから、客観的な事実に即して物事を判断をする能力を養うというのが歴史の教科書というものでございましょうから、事実に基づいた客観的記述では必ずしもないと思われる部分については、削除なさったらどうでしょうかという要求をいたしておるわけでございます。
134 栗田翠
○栗田委員 日中の友好、日韓の友好、また日本とアジア諸国との友好ということで私はいま伺っているわけでございますが、そういう態度をおとりになりますと、友好関係というのが破壊されていく事態にもう来ているのではないだろうかと私は思って、あえて質問をしているわけです。
 実は昨日、家永教授に直接お電話をいたしまして、高校日本史の検定をめぐる問題などを伺いました。家永さんがお書きになった南京大虐殺の記述は三省堂の「新日本史」にあるわけですけれども、四十八年の検定ではこれがフリーパスであったそうですが、昨年も改訂のままこれが残って、ことしになって修正意見がついたというお話です。しかも修正された中身というのが、先ほど歴史の事実を変えるつもりはないと大臣はおっしゃっておりますが、また当時の戦争の責任を回避するつもりはないのだとおっしゃっているのですけれども、その初めの記述が「南京占領直後、日本軍は多数の中国軍民を殺害した。南京大虐殺と呼ばれる」と書かれていたものが、書き改められて「日本軍は中国軍の激しい抗戦を撃破しつつ激昂裏に南京を占領し、多数の中国軍民を殺害した。南京大虐殺と呼ばれる」というふうに、いかにもどさくさの中で興奮状態であったからそうなったというふうに書き直された。そして人数などは不正確だということで、「多数の」というふうに直っているわけだけれども、そこが手直しをされて、中国からの抗議でも、「占領直後」ということを消させたとか、日本軍が組織的にやったという記述を変えさせたというのは歴史の事実にもとるものである、事実は、占領直後、多数が殺され、日本軍が組織的だったのだということを言ってきているわけですね。ですから、こういうことがあくまでも直されずにいたならば、これは幾ら理解を求めるとおっしゃっても理解は得られないだろうし、日中または日韓の友好ということは図れないだろうと思います。
 それで、特にこれに関係して、当時調査官が、鈴木明氏の書かれた「“南京大虐殺”のまぼろし」という著書なども提示して、つまり南京大虐殺の事実は確証がなかったのだという引用に使ったそうですね。これは事実でしょうか。
135 鈴木勲
○鈴木(勲)政府委員 ただいまお挙げになりました家永教授の日本史は昨年度の検定のものでございまして、中国が例に挙げておられますのとは若干違うのではないかと思います。
136 栗田翠
○栗田委員 ちょっと済みません。いま聞き落としましたが、まことに済みません。
137 鈴木勲
○鈴木(勲)政府委員 栗田先生がいま家永教授の著作の日本史の例をお挙げになりましたが、それは昨年度の検定にかかわる日本史の教科書でございまして、いま大臣が申し上げたものとか、あるいは中国において例に挙げておられるものとかとは違う教科書の例をお挙げになったのではないかと思います。
138 栗田翠
○栗田委員 余り詳しく入ってしまいますと法案の審議からずれていきますので、ほどほどにいたしますが、ことし新たに検定されて修正されているという中身で言われている内容です。しかも、こういうわけでして、大臣が、歴史の事実をゆがめることはすべきでない、それから、日中の国交回復に当たって戦争責任を深く反省していくという言葉が書かれている、それに沿っていくのだということをおっしゃいますけれども、そういうことにも非常に差し支えのあるような、問題のある内容になっているというふうに私は思います。
 あさってまた集中審議がされるということですので、さらにあさって引き続いて伺っていきたいとは思っておりますけれども、歴史の事実にもとるもの、それからも非常に残酷な虐殺がやられた場合に、これを次代の子供たちに伝えて反省をしていくという態度を日本の政府が持ち続け、特に文部省が教育の中で持ち続けていくということは、日中、日韓の友好のために必要であり、そのことがいま非常に要求されていると思うのですが、その点についてはどうお考えになりますか。
139 鈴木勲
○鈴木(勲)政府委員 日中友好の精神とか日中共同宣言に盛られた精神については、これは現代社会とかあるいは日本史の教科書におきましても明記をされておりまして、大臣の申し上げました趣旨は、全体の記述の中においてそういう精神に従って記述がなされているのであるから、教科書全体をごらんいただきまして、そういう日中友好を損なうような、あるいは軍国主義であるとか、あるいは日中友好の精神に反するというふうなことは毛頭考えていないということを全体として御説明申し上げ、真意を御理解いただくような努力をするということを申し上げたわけでございまして、教科書につきましては、そういう配慮とともに、個々の記述における客観性、統一性、いろんな観点がございますから、そういう観点から個々の記述についての意見を申し上げ、それに従って教科書が適切に形成されていくということでございますので、その個々具体的な問題と全体を流れる記述の精神とを御説明して、真意をお伝えするということを申し上げたと私は理解しております。
140 栗田翠
○栗田委員 大臣に伺ったのですが、初中局長お答えになりました。改めて大臣に伺いたいと思います。そしてこの問題については切り上げたいと思っておりますが、いま私が伺ったのは、残虐な過去の歴史の事実があっても、それを子供たちに伝え、二度とこういうことを起こさないように反省させていくこと、これこそが戦争への深い反省であると思うわけですが、そういうあり方について大臣は御賛成でしょうねと伺ったのですが、いかがですか。
141 小川平二
○小川国務大臣 事実を事実として伝えまして、厳しい反省のよすがとすること、仰せのとおり必要だと存じております。
 また、南京事件でございますが、占領に際して、多数の軍民を殺害し国際的な批判を受けた、こういう記述は、あるいは不十分であるというそしりを免れないかもしれませんが、歴史の事実を改ざんしたという言葉に当たるのだろうか、私はその点疑問に思います。
 いずれにいたしましても、基本的な姿勢は先生がただいま仰せられたのと全く同様でございまして、あくまで事実は事実として記載しなければならない、ただし歴史でございますから信憑力のある史料に基づいた史実を書かなければならない、こう考えておるわけでございます。

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