南京大虐殺 論点と検証 - 第二次上海事変メモ
■東京朝日新聞
昭和12年8月12日(木曜日)夕刊
1面
▼両氏進級叙位
九日夜上海で支那兵のため射殺された大山海軍中尉及び斎藤一等水兵に対し九日附を以て次の如くそれぞれ進級叙位の御沙汰があった
従七位海軍中尉 大山 勇夫
任海軍大尉、叙正七位
海軍一等水兵 斎藤 與蔵
任海軍三等水曹

▼両勇士あす告別式
【上海十一日発同盟】
大山大尉、斎藤三等水曹の遺骸は十日午後七時八字橋の火葬場において山内陸戦隊参謀、陸戦隊第一中隊代表者及び戦友多数参列の上荼毘に付さた十一日午前九時骨揚げを終了した、遺骨は一先づ大山大尉の私室に安置され十二日午後二時より陸戦隊本部において告別式挙行の予定である

▼将に嵐の前の静寂/邦人の自制冷静を持す/婦女子のみ追々引揚げ
上海の鼓動を聴く/十一日本社上海国際電話
北支における日支両軍の対時状態の最中、国際都市上海では大山事件が勃発し、世界の視聴は上海に集中されてゐる。我出先官憲殊に居留民保護の重責を荷ふ我海軍は厳然たる態度を持し支那側の出方を監視してゐるが、この息詰まる緊張裡に我在留同胞はどうしてゐるか、我出先官憲の対策見透しは如何?これらの点につき本社では十一日上海事変当時からの居留民団長甘濃蚕三郎氏に就て本社中村東亜部長との国際無線電話により上海の動きをつぶさに聞くを得た、以下はその一問一答である【写真は甘濃氏】
本社 北支事変以来色々御心配の所、今度又上海に大山事件が勃発し居留民団としても事件の成行についてさぞかし御心労のことお察し申します。上海も最近愈々支那人の抗日運動が露骨になって参ったそうですがどんな状況ですか
甘濃氏 上海の状況は段々悪くなって行くやうであります。最も遺憾に思って居るのは支那側が協定を守らないで保安隊が沢山増強された、それで支那の各方面に居る邦人の避難者が沢山出て参って居ります、それから食料品の買入れが困難であることや、長江筋から全部同胞が引揚げられたこと、更に最近の通州事件、それに加ふる一昨日の大山大尉射殺事件かう云ふことで在留民は非常なショックを受けました、然し目下の在留民の気分は之を一言にして言へば所謂嵐の前の静寂といふやうな情勢です
本社 上海居留民も婦女子は大分引揚げましたか
甘濃氏 只今申し上げましたような理由で婦女子供の引揚者が沢山出まして毎船乗り切れないやうな状況です、今後も引続き引揚げて行くといふ人が相当あるやうです、上海全体としては上海の在留民は現地保護を受けることになって居るが、現地保護といふことに対し我々居留民は当局を信頼しまして冷静な態度で自制して居ります、現地保護に就ては当局において十分の準備があるものと確信して大体において自制して居ります
本社 租界外に居られる人々はどうされたことでせうか
甘濃氏 只今のところでは家財道具はその儘で、租界外に住まって居る人もその儘自制して引揚げて居る人はございません一部を除く外は……
本社 それ等の人達の家屋とか家財はどうされて居るでせうか
甘濃氏 万一事件発生の節は一時避難するといふことにつきましては十分な手配をすることになって居ります
本社 上海自体の居留民租界外やエキステンションの危険区域に住んで居る人々の共同引揚場所が出来て居りまりませうか
甘濃氏 長江流域の画地に居留民は大体全部九日当地に到着しました
本社 上海の紡績会社は平常通りやつて居ますか
甘濃氏 操業はやって居ります、空気は平常のやうではありますが職工でだんだん逃げ出す者が毎日あるやうです
本社 大体何割操業して居りますか
甘濃氏 今のところでは区々でよく判りませんが全部運転はしてをります
本社 それからその引揚げて参りました居留民を上海の方ではどういふ風に処置してをられますか
甘濃氏 引揚げられた人は任意の旅館へ着いた人のほかは、全部引揚げて来た船に収容されて居ります
本社 日本に帰る人もありませうが上海に残る人もあると思ひますが、之等の人達の生活について何か御考慮を払って居られますか
甘濃氏 全部船の方へ収容されて居ります、私の方では引揚げる前に収容する場所を用意致しました
本社 今度の事件について支那民衆の態度は事変前と変ったことはありませんか
甘濃氏 その態度に変りはないやうですね、ただ可なり避難する支那人が毎日絶えずあることはありますが……
本社 居留民団の方では何か自衛的な手段でも講じて居られますか
甘濃氏 民団の方では上海時局委員会といふのを組織してその中に警備部といふものがありましてさういふ点はこの部で考慮して居ります、引揚げて来られた人、それから上海居留の人々のうち■十人ばかりの病人がありましたがその他には皆変りございません
本社 在留邦人の方々が危険を感ぜられる点もあろうかと思ひますが
甘濃氏 目下のところ直接危険を感ずるといふ状態まで参って居りません、工部局においても全能力を発揮して警戒して居ります
本社 今日の事態について上海在留の外人側ではどんな風に見て居りませうか
甘濃氏 外人側は比較的冷静でありますが事件の起らさることを希望して居り、外字新聞等の論調を見ましてもここで事件を起すことは上海の破壊だと論じてゐます、上海居留民としては祖国のために奮闘して居られる出征将士の方々に対し満腔の謝意を表して居るといふことを御紙を通じてお伝へ下さるやう特にお願ひします

▼協定違反を注意
岡本氏・領事団に警告
【上海特電十一日発】
岡本上海総領事は十一日午前十一時上海領事団首席ノルウエー総領事アール氏の来訪を求め大山事件に関し会談を遂げたが、席上岡本総領事は同事件が越界路上に於ける支那保安隊の暴行によって惹き起された点を明確にし支那側の態度は停戦協定精神の違反であり且工部局の警備上に於ける重大問題なる点を指摘、領事団の厳重な注意を喚起した

▼各国領事団会議
【上海十一日発同盟】上海領事団首席ノルウエー領事エヌ・アール氏は十日午後六時同領事館に各国領事の参集を求め虹橋事件に関する領事団会議を開催、重要協議を行った。右領事団会議の開催について我方は最初固辞したが首席領事の再三の勧説により岡本総領事が出席した
【上海十一日発同盟】日支関係逼迫に鑑み在上海列国領事団は十日夕刻時局対策につき協議を遂げた結果「上海附近に戦禍の波及せざるやう日支両国当局に希望を披露する」決議をなした模様で十一日中に領事団主席ノルウエー領事アール氏が我が方及び上海市長喩連鈞氏を訪問、右趣旨を伝達する筈である

▼保安隊員解剖
【上海十一日発同盟】大山事件発生現場付近で発見された保安隊員一名の死骸は十一日午前十時真如医学研究所において工部局の外人検死官、陸戦隊の有馬軍医少佐立会の上研究所員執刀の下に解剖に付される事になった、これによって支那側の自称する如く日本側のピストル弾によって倒れたものか我が方の推定するが如く保安隊の同士打ちか又は大山大尉の自動車に対する乱射の際流弾に倒れたか何れが正しいか立証される訳で解剖の結果は注目される

▼支那側の出様如何で断乎たる行動決意!
本田武官本省に重大請訓
【上海特電十一日発】我上海大使館付海軍武官本田少将は十一日午前十時岡本総領事と会見し大山事件に就て重要協議を行ったが、その結果我が出先当局は外交的交渉による事件の解決に最善の努力を払ふも支那側の出方如何によってはこの定刻海軍に対する挑戦行為に対し断然たる行動を取らざるを得ざる事態を招来するかも測り難しと為して帝国政府にその後の経過を詳報すると共に重大訓令を仰ぐこととなった

▼長江の我領事
引揚げ決定
【上海十一日発同盟】全居留民引揚げ後残務整理のためなほ残留してゐた漢口松平総領事代理は既に漢口に到着してゐる長沙、重慶、宜昌、沙市各領事と共に十一日午後四時漢口発汽船にて上海に引揚げることゝなった、なほ九江、蕪湖、杭州各領事も続々引揚げる筈