Fate/Araki night
Fate/Araki night
日本には冬木市と呼ばれる土地があるッ!
南には山がそびえ、北には海が広がる、自然豊かな地方都市!!
市内を南北に走る未遠川は町を東西に分割しており、川の東側は再開発による商工業地区が広がり、西側は古くからの家屋が並ぶ住宅街である。
この土地は豊富な霊脈が流れる霊地であり、それを利用して古来より魔術儀式【聖杯戦争】が行われてきた!
しかし第5次聖杯戦争を持って、その儀式も終了となるとされていた。
―――だが、これからこの町で新たな聖杯戦争が起こるッ!!
「ここが冬木か………いい町だな」
男は誰に語るわけでもなく、呟く。しかし答える者はいた。
「ああ。僕らの舞台となるには最高の場所だよ。コー」
「ああ、そうですねジン」
隣り合って歩く二人の男。おそらくは双子であろう、瓜二つの容姿。丸メガネをかけ、口ひげをはやした、30歳ほどの長身痩躯が並んでいた。彼ら二人は魔術師であった。だが並みの魔術師ではない。
コーとジン。彼らはあまりにもやり過ぎた実験から、他の魔術師からも忌み嫌われる魔術師であった。
「コー、小聖杯は手に入ったかい?」
「ええ。第3次聖杯戦争の欠片。当時乱入したナチスが持ち帰ったまま、秘密基地に死蔵されていたものが手に入りましたよ。そっちこそ、令呪は手に入れられたのですか、ジン」
「マキリ以外にも使い魔を操ることに長けた魔術師はいるさ、コー。ロビンスン一族という家系の魔術師がいてね。虫を操ることと、サボテンを使った特殊な呪術を得意としていて………補助効果は無いものの、命令に服従させるという効力を持った令呪を作ることができたよ」
二人の会話はとんでもないことを言っていた。聖杯戦争を始めるために必要な三つのものの内の二つ。聖杯の器と、令呪を、そろえたと言ったのだ。
「あと必要な土地は、最初からここにある」
「始められますね。いつ始めます?」
「全員が集まるのは明日だ」
「明日ですか」
「楽しみだね、コー」
「楽しみですとも、ジン」
―――――――――――――――――――――――
「何者です」
遠坂桜と共に買い物から帰るところで、ライダーは立ち止まり、後ろを振り向いた。夜、他に人もいない歩道で、街灯に照らされるのは、一人の巨漢の姿。顎鬚は濃く、ハンサムではないが、中々整った顔をした西洋人。しかし、ライダーはその男から、下水のような酷い臭いを感じ取っていた。
「………まさか?」
だが、それ以上に、ライダーは別の物を感じていた。いつも良く感じている気配。しかし、それが目の前の男からするはずがないのに。
「ふん………貴様ら、薄汚い女どもが………」
男はのっそりとした動きで、右腕をライダーたちに向けてかざした。
「ライダー! この人、サーヴァントよ!!」
「やはり、しかしまさか!!」
桜もまた自分と同じものを感じたとわかってもなお、まだ信じられなかった。そうなると、恐るべき事実を認めなければならなくなる。
だがそれを認める前に、ライダーは戦わなくてはならなくなった。
「ぶったぎれぇぇぇろぉ!!」
男の腕の内部から、皮膚を突き破り、何本ものナイフ、いや、メスが発射された。とっさにライダーは桜を抱えてかわす。かわした場所を通過して、ブロック塀に刺さったメスは、そのままブロックを粉々に破壊した。
「ふぅおおお!!」
男は今度は、地を蹴ってジャンプすると、直接ライダーに殴りかかる。またも避けるライダーだが、ライダーがいた場所の道路に男の拳がめり込み、アスファルトは砕けて陥没し、クレーターが生まれてしまった。
「パワーはバーサーカー並みですか。少し手強いかもしれませんね」
それが、この第5次聖杯戦争よりも更にいびつな聖杯戦争の始まりだった。
◆
【CLASS】セイバー
【マスター】コー
【真名】斬り裂きジャック
【性別】男
【属性】混沌・悪
【ステータス】筋力A 耐久A 敏捷B 魔力B 幸運C 宝具B
【能力】
- 対魔力:A
- 騎乗:B
【保有S】
- 戦闘続行:A
- 怪力:A
- 斬殺:A
- 道具作成:D
【宝具】
◆悪に染まりし生ける死者(ハイ・ゾンビ):B
屍生人としての肉体。痛みや疲労を感じず、本来はサーヴァントにとっての致命傷となる、霊核に直結した首や心臓へのダメージも効果が無い。脳を破壊することによってのみ倒せる。ただし、太陽の光に対しては極度に弱く、浴びただけで灰になる。
【特記事項】
猟奇殺人の開祖。殺人鬼の夜明け。5人の娼婦を殺した、正体不明の犯罪者だが、この世界ではDIOに認められゾンビとなった、悪のエリート。髭の濃い大男の姿をしている。
『より多くの人間を切り刻みたい』という願いゆえに、サーヴァントとして召喚された。ステータスは高いが、技術は無く、特別な宝具も無いため、サーヴァントとしては弱い方である。
―――――――――――――――――――――――
ライダーが襲撃にあっていた頃と同時刻。
「コーとジン?」
遠坂凛がバゼットから手渡された資料を見て唸った。
「はい、行く先々で魔術による様々な事件を起こしています。多くの場合、一般人を巻き込む形でそれを行い、隠蔽が非常に難しいところまで事態を深刻にします」
「これだけの事件、よくばれなかったわね」
「………ほとんどは、事故に見せかけて目撃者の口を封じているようです」
「………反吐が出るわね。下品な言葉になるけど、反吐が出るわ」
読めば読むほど、このコーとジンという魔術師は最悪だ。凛の背後ではアーチャーも顔をしかめている。
一般人を実験材料にするなどほんの序の口。町一つを壊滅させるような実験を行った例さえある。ここまでくれば、さすがに討伐対象になるが、それさえも退けて、彼らは健在である。魔術の腕自体は超一流らしい。
「そんな奴らがこの町に来たということは」
「狙いは」
「「聖杯戦争」」
「その通り」
答えがあった。
「「!!」」
立っていたのは一人の女性。黒いドレスと黒いベール、喪服姿であろうか、暗い雰囲気が漂っている。更に不気味なのはその手にしているライフルの存在だ。古いタイプのライフルであるが、奇妙な魔力が漂っている。ただの魔力というには、禍々しいものがある。呪詛、怨念、そう呼ぶに相応しいものだ。
「サーヴァント!?」
館に張られているはずの魔術の結界に、まったく反応せずに侵入してきたことに驚きながらも、凛は宝石を握り、戦闘態勢に入る。バゼットもファイティングポーズを構える。だがアーチャーだけは、
「凛、聞きたいんだが」
「何よアーチャー」
アーチャーは額に汗を流して、絞り出すように言った。
「そこに、サーヴァントがいるのか?」
「はあ? 見ればわかるでしょ………まさか」
「ああ、何も見えん。気配は微かにあると感じられるが、目には映っていない」
アーチャーの動揺を当然の如く受け止め、相対するサーヴァントはライフルの銃口を凛へと向けた。
「くっ、Fixierung(狙え),EileSalve(一斉射撃)!!」
凛の放った魔弾が、ライフルから放たれた弾丸を相殺する。
「銃弾の威力は大したことないようね。けど、アーチャーに見えないというと………暗殺や隠形に長けた英雄なのかしら?」
「……………」
相対する女性は答えない。ただ黙って引き金を絞る。だが、今度は前に出たバゼットの鉄拳によって、弾丸は弾き飛ばされた。
「黙して語らず、ですか。けれど、どうも暗殺者の類ではない。というより、戦った経験自体無いような身のこなしです。ならばアーチャーの力をあてにするまでもありません」
バゼットは断言するが、それは気が早いというものだった。
侵入者が指揮棒を一振りするかのように腕を動かすと、突如、空間が歪んで世界が変わった。遠坂の屋敷が、今まで見たこともない屋敷へと形を変える。
「固有結界!?」
「! いかん、凛!!」
アーチャーが叫び、凛を抱き寄せる。凛のいた場所に、天井から垂れ下がっていたシャンデリアが落下した。そのままでいたら、彼女は頭を打ち、下手をすれば死んでいたかもしれない。
「は、せこい攻撃ね。固有結界なんて使う割には」
「待て、まだ終わっていないようだぞ」
シャンデリアを飾っていたガラスの欠片が蠢きだし、空中に浮かびあがって夏の蚊の群れのように飛び交う。そして、そのガラス片から、凛の耳に何者かの声が届いていた。
『憎イ、憎イィィィ』
『殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺………』
凛の顔が青ざめる。ただ聞いただけでも、吐き気がする様な怨念。さすがに【この世全ての悪】ほどではないが、それでもこの破滅的な悪意は健康にいいものではない。
「なるほど。ここは幽霊屋敷というわけか」
アーチャーは、それ自体は決して強力で無い悪霊を前に、真剣な脅威を感じる。正面から強烈な破壊力で立ち向かってくる敵よりも、油断をつき、不意を打ち、常識の外から襲いかかる小物の方が、彼にとっては危険なのだ。
幽霊屋敷を展開した女性の方は、その怨嗟の声にも動じない。さすがに聞き慣れてしまっているのだ。仮面を被っている限り、彼女は悪霊にも英霊にも、どんな死者にもその姿が見られることはない。それを良く知っている。彼女はその半生を、この怨霊との戦いに生きていたのだから。
◆
【CLASS】アーチャー
【マスター】ウィルソン・フィリップス・アインツベルン
【真名】サラ・パーディー・ウィンチェスター
【性別】女性
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力E 耐久D 敏捷C 魔力B 幸運D 宝具A
【能力】
対魔力:A
A以下の魔術は無効化。事実上、現代の魔術で彼女を傷つけることは不可能。
単独行動:C
マスターからの魔力供給が無くなったとしても現界していられる能力。ランクCは1日程度活動可能。
【保有S】
悪霊憑き:EX
悪霊に呪われている。このため、それ以外の呪い、憑依が通用しない。
交霊:B
良き精霊からお告げを聞くことができる。戦術、戦略を組み立てるのに役立つ。
【宝具】
◆隠されたる愛と美(ミステリー・ベール):A
本人が望まない限り、素顔を隠し続けるベール。悪霊から見つからないためのものであり、死者からは彼女の姿が見えなくなる。英霊であるサーヴァントたちからも同様である。魔術的なトラップも反応しなくなる。しかしこれが破壊されると、悪霊がアーチャーに襲いかかる。
◆罪深き北の勝利(サーティンズ・ライフル):B
南北戦争を勝利に導き、開拓民の力となり、多くの人々の命を奪った銃。1回に使える弾丸は13発。撃ち切ったら、一分の間、使えない。結界や特殊な防御スキルを無効化することができる。当たれば英霊に対しても、普通の人間と同じように傷つけることができるが、逆に言えば、威力自体はただの銃弾程度しかない。
◆永遠の愛の魂の記念碑(ウィンチェスター・ミステリー・ハウス):A
広大にして複雑な、迷宮のような館の形をした固有結界。アーチャーに取りついた悪霊が封印されており、館から脱出しない限り、結界に閉じ込められたものは悪霊に襲われ続ける。
【特記事項】
悪霊に呪われ、呪いを避けるために延々と屋敷の増築を続けたウィンチェスター夫人。その願いは、『一度として使われなかった屋敷内のダンスホールで、死に別れた夫と踊ること』である。
マスターはウィルソン・フィリップス・アインツベルン。アインツベルンの傍流であり、下剋上のためにこの聖杯戦争に参加した。魔術の実力は本人が思っているほど大したこと無いが、運良く本家から盗み出した魔術資料をコーとジンに提供し、マスターの権限を得る。普段は温厚そうだが、根は傲慢で自惚れ屋。
―――――――――――――――――――――――
「まったく、馬鹿げた冗談です」
セイバーは苦々しく吐き捨てた。
彼女の後方には、自らが撃ちだした宝具でその身を貫かれ、凄まじい怒りと屈辱に顔を歪め、膝をついている金色の英雄王の姿があった。右にはランサーが、左にはアサシンが、それぞれ槍と長刀を握り、様子をうかがっている。
敵サーヴァントが風のように素早くセイバーへと走り、獲物を振り下ろす。
「くうっ!」
セイバーはその攻撃を剣で受け止める。あまりに重い一撃で、セイバーの足が折れそうになる。衝撃が伝わったセイバーの足元の地面は、深く陥没し、クレーターのようになるほどだった。
「うおおおおおお!!」
しかしセイバーも負けてはいない。気合いの雄叫びと共に力を込め、敵の武器を押し返す。そして続けざまに敵の胴に鋭い斬撃を浴びせかけた。
敵の腹から血が噴き出し、大地を濡らす。だが、かなり深いように見えたその傷も、見る見る内に閉じ合わさり、消えていく。録画映像の巻き戻しを見ているような速度で、傷が癒える。そして、完全に消えた後、敵から立ち昇る覇気は更に苛烈さを増していた。
彼は生前、いかなる傷を負っても死ぬこと無く再起した。いかなる逆境をも踏みにじって勝利した。その勢いが陰ることはなく、その人生は常に絶頂に立っていた。サーヴァントになってもやはり、彼は傷ついてもすぐに立ち上がり、どうあってもその力は下がることなく上がり続ける。まさに怪物。いや、英雄。
「へっ、どうしたよアバズレがぁ。そんなヒョロヒョロじゃあハエ一匹殺せねえぜぇ? せめてベーブ・ルースのクソ野郎程度には強く振ってみな!」
男は帽子の縁をいじりながら挑発的な言葉を吐く。その目は酷くギラギラとした殺気と執念に満ちており、口元は攻撃的に吊り上っていた。
「この雑種がぁ!! 身の程を知れぇっ!!」
英雄王ギルガメッシュの自慢の宝具、【王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)】が開く。一度に8本の魔剣、魔槍が放たれた。空気を切り裂いて轟音をあげながら飛来する、1つ1つが、上級の幻想種であっても瞬殺する代物だ。
しかし、その攻撃にさらされた男はただニヤリと笑い、己の宝具を自身たっぷりに発動させる。
「【忌み嫌われし打点王(ノトーリアス・バット)】!!」
彼の持つ武器、それは黒いバットだった。彼は力の限りそれを振り切る。ただの一振りで、8本すべての宝具が弾き返され、逆にセイバーやギルガメッシュに降りかかる。
「―――ツバメ返し!」
アサシンが腰の長刀を抜き放ち、3度の斬撃を同時に放つ。3連続ではなく、本来ありえない3度同時の剣。それは弾かれた宝具を更に弾き飛ばし、更に敵へと追撃の一斬を加える。しかし、名剣士の一太刀を、男は素早く避ける。その足の速さにおいても、彼は伝説を打ち立てた英雄なのだ。
「ハッ!!」
剣を避けた男は、カウンターの蹴りをアサシンに放つ。その蹴りはアサシンの右太股を抉り、流血をもたらす。
「【刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)】!!」
アサシンが殴り殺されるよりも早く、ランサーの槍が投げられる。それは『心臓を貫く』という結果を決定してから投げられる。ゆえに、どう避けようともこの槍は絶対に命中する。
男はバットを一振りし、槍を1度弾き返したが、それでも槍は男の肉体を貫いた。だが、この敵はその必殺の槍をしても殺すことはできなかった。ただ、男の右肩を傷つけたのみだ。だが男の表情は爆発したように、急激に危険な形相へと変わる。
「てめえ! 俺がてめえらをブチのめすのはいいが、俺をてめえがブチのめしてんじゃあないぞッ! なめやがって!!」
男が槍を引き抜き投げ捨てるのと同時に、バットが拳銃の形に変身し、自動的にランサーに発射された。銃弾はランサーを撃ち抜き、更に呪いによってランサーの力を削り取る。
「ランサー!」
「そんな声出すなよセイバー。このくれえは大したことない………普通の敵相手ならだけどな」
豪胆なるランサーでさえ、この男を相手にしては自嘲的な台詞を吐くこととなる。そうしている間に敵サーヴァントは、槍に貫かれた傷を癒し、ステータスを更に向上させた。
まったく馬鹿げた冗談だ。サーヴァント4体をここまで圧倒しておきながら、彼は名だたる騎士でも魔術師でもなく、ただの『野球選手』だというのだから。
◆
【CLASS】ランサー
【マスター】マット・ジャクスン
【真名】タイラス・レイモンド・カッブ(タイ・カッブ)
【性別】男性
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力B 耐久B 敏捷A 魔力C 幸運A+ 宝具A+
【能力】
対魔力:C
二節以下の詠唱による魔術は無効化。大魔術や儀礼呪法となると防ぐのは難しい。
【保有S】
黄金律:B
その人生において、金銭がどれだけついて回るかの宿命。コカ・コーラやゼネラルモータースの株を買い、大儲けしたことからついたスキル。
勇猛:A
勇猛果敢な精神で、威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する。また、敵に与える格闘ダメージを上昇させる。
無窮の武練:A
一つの時代で無双を誇るまでに到達した技能。どのような精神的制約の影響下においても、十全の戦闘能力を発揮できる。
心眼(真):A
修行、鍛練によって培った洞察力。窮地において、情報に基づき、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。投手の投球フォームやクセの観察によって弱点を見つけるという科学的野球の創始者であることからついたスキル。
単独行動:B
マスターからの魔力供給が無くなったとしても現界していられる能力。ランクBは2日程度活動可能。
【宝具】
◆幸運の弾丸(ラッキー・ブリット):B
狩猟の時に暴発事故で体内に残った弾丸。彼のしぶとさ、強運を具現化させた宝具。耐久、幸運をランクアップさせ、治癒力を高め、一撃必殺の効果のある攻撃(ゲイ・ボルクやザバー・ニーヤなど)から身を守る力を持つ。
◆絶頂の生涯(エターナル・メジャーリーガー):A+
その生涯において、常に最盛期であったというエピソード、及び、ヤジを飛ばした身体障害者を殴り倒し、出場停止をくらうものの、わずか一日で処分を取り消されたというエピソードから、肉体そのものが宝具となった。ダメージや疲労によって動きや頭脳の回転などが低下せず、しかもすぐに回復する。更にダメージを受ける度にステータスが際限無く上昇する。
◆忌み嫌われし打点王(ノトーリアス・バット):A
長距離射程からの飛び道具を打ち返すことができる。いまだに超える者のない記録を打ち立てた栄光が宝具になったもの。形はカッブが考案した、ヘッドを太くした『カッブ式』のバットで、色は黒。打ち返す場所は正確に決めることはできないが、宝具や魔術であっても対抗可能。
それでも何らかの特性によって打ち返せなかった場合、または打ち返してなおダメージを負った場合、このバットは拳銃の形に変形し、自動的にダメージを与えた敵を撃つ。この銃弾を【死球へ返す憤怒の咆哮(デッドボール・カウンター)】と呼び、命中してしまうとステータス低下の呪いに蝕まれる。
【特記事項】
野球史上、最も偉大で、最も嫌われたメジャーリーガー。野球界のルーデル、シモヘイヘといった感じの人物。日本ではベーブ・ルースに並び、『野球王』『球聖』とも言われている。
マスターのマット・ジャクスンは、魔術道具作成に優れた魔術師の家系。しかし、戦闘術も心得ており、【バージニア】と名付けられた魔術爆弾や、【クライド】という金属のゴーレムを操る。とにかく退屈を嫌い、面白ければ、自分の命さえ玩具にする狂人。
―――――――――――――――――――――――
爆弾が弾ける。
呪いの針が発射される。
金属の腕が振るわれる。
蟲の大群が牙を剥く。
士郎と凛は、2人の魔術師を相手にしていた。
一人はマット・ジャクスン。今回新たに呼び出されたランサー『タイ・カッブ』のマスターだ。帽子を被った、太い眉と、口髭を生やした男であり、嗜虐的な笑みを浮かべている。
「『バージニアに、よろしく』」
その言葉を呪文とし、投げられた石ころが爆発する。石はおそらくルーン文字を刻んだ魔術爆弾だ。とっさに飛び退いて転がる士郎に、追い打ちでナイフが投げられる。
「ううっ!」
爆発による怪我は無かったが、追撃のナイフを肩にくらう。浅くはあったが、腕の動きが悪くなることを考えると、痛手には違いない。それでも士郎は剣を投影し、構える。
「フハハ、いいぞ。冷や汗の次は悲鳴………それがいい。もっと頑張って、俺の退屈をまぎらわせてくれ小鹿君(バンビくん)」
傍らに金属の半自立式特殊ゴーレム、【クライド】を従え、実に楽しげにマットは新しいナイフを手に取った。
そしてもう一人はミスター・ロビンスン。左目をくり抜いて作った空間に、蟲を飼う魔術師。その容貌はわからない。全身を棘が無数に生えた緑色の奇妙な服で、指先から頭のてっぺんまで隙間なく覆っているからだ。
「Fixierung(狙え),EileSalve(一斉射撃)!!」
凛は彼に向けて魔弾を放った。だが、彼の着る、奇妙な宇宙服のような服に命中したものの、衝撃を弾力のある服に吸収され、直後、棘が凛に向けて発射された。その服は、『チョヤッ』というサボテンを、魔術によって品種改良し、加工したもの。放たれた棘は魔力を帯び、刺さった者を蝕む。
サボテンに括りつけられて死んだ人間は、サボテンに呪いをかけられ、死んだ後も殺した相手の奴隷となり、復讐したり恨んだりすることができなくなるという。それを応用し、棘に刺さった者の心を萎えさせ、戦意を奪う呪術である。
そして魔蟲との連携攻撃とくれば、相当に危険だ。しかし、凛は冷静に戦局を分析する。
(この魔蟲にも確かに殺傷力もあるけれど、むしろ偵察用ね。こちらの使う魔術の規模を事前に感じ取り、見えない方向からの攻撃にも対処できるようにするための………なら、蟲はそれほど気にする必要はない。問題はあの服。どの程度かわからないけど相当な強度。棘だらけで触れることも難しい。けど一つだけ隙がある。蟲を放っている左目の部分にだけは、穴がある。あそこを攻撃できれば!)
凛は術を練る。勝機を目指して。
魔術師同士の戦いの間、サーヴァントもまた戦っていた。
一方は以前、遠坂邸を襲撃した女アーチャー『ウィンチェスター夫人』と、魔女キャスターと葛木宗一郎。いくら魔法級の魔術の使い手であっても、高い対魔力と、サーヴァントから不可視になる宝具を持つ『ウィンチェスター夫人』相手では相性が悪い。
しかし、戦闘力において『ウィンチェスター夫人』の力はサーヴァントとなっても、一般人に毛が生えた程度のものだ。アーサー王にさえ届く葛木宗一郎の拳ならば、簡単に捕らえられる。
それは『ウィンチェスター夫人』にもわかっているらしく、常に距離を置いて銃撃を行っている。今のところ、戦況は動いていない。
そしてもう一方は、赤い衣をまとい、白と黒の双剣を握るアーチャーと、ほれぼれするような名馬にまたがり、拳銃を握る美青年が対峙している。拳銃を握る男は、新たなるライダーだ。
その眼光は鋭く、数キロ先まで見通せるアーチャーの眼と比べても遜色が無い。ほんの一瞬の隙も緩みも見逃さないだろう。
「ここにいるのが私ではなくランサーであれば、君のような勇士と戦えることを、もっと喜んでいたことだろう。まあ私としても中々心が躍るよ。私も人並みに、西部劇の世界に憧れたこともあったのでね」
言いながらも放たれた黒い剣を、ライダーは眼にも止まらぬ早撃ちで破壊する。空気がピリピリと刺すように痛い。緊張感と殺気が充満しているためだ。
(油断も隙もない。奢りも怯えもない。戦いを楽しむこともない。だが機械のように冷たいわけでもない。勝利への想いに熱く燃えながら、その熱さを完全に制御している。あまり見たことのないタイプだ。これが西部の男ということか)
ライダー、その正体は実在の英雄ではない。人々の持つ西部劇の世界への憧れが、結晶して生まれ落ちた架空の英雄。力が全てを支配する無慈悲さと、自らの思うままに生きられる自由さの象徴。
彼の真名というものはない。強いて言うならば、『法の外を生きる者』『法の加護を受けぬ者』『己の魂のままに歩む者』――『アウトローマン』。
この世界の未来に、『もはや生まれないであろう英雄』と、過去に『いなかったであろう英雄』。
存在が曖昧でありながら、それでも確固として輝きを放つ二人は、次の瞬間同時に武器を振り上げた。
◆
【CLASS】ライダー
【マスター】ミスター・ロビンスン
【真名】アウトローマン
【性別】男性
【属性】中立・中庸
【ステータス】筋力C 耐久C 敏捷B 魔力B 幸運B 宝具B
【能力】
対魔力:A
A以下の魔術は無効化。事実上、現代の魔術で彼を傷つけることは不可能。
騎乗:B
幻獣・神獣を除くすべての獣、乗り物を一流レベルの域で操れる。
【保有S】
単独行動:C
マスターからの魔力が絶たれても現界していられる能力。ランクCなら、1日程度存在し行動可能。
心眼(真):B
修行、鍛練によって培った洞察力。窮地において、情報に基づき、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
【宝具】
◆力を恵みし我が恋人(ザ・ガン):B
最も理想的な銃の具現。故障せず、弾切れも無く、水中などどんな環境下でも使用できる。弾丸の威力はほぼゼロから、戦車をも貫き破壊するレベルまで調節可能。
◆速さを与えし我が朋友(ザ・ホース):B
およそ人間が望む、理想の馬の具現。疲れず、速く、機敏で、力も強い。ただし、生物としての馬の限界を超える力は無い。
【特記事項】
西部の時代の無法者、ガンマン、カウボーイ、そういった、西部劇の男のイメージの象徴。実在の人物というわけではない。
マスターのミスター・ロビンスンは令呪システムを模倣して、劣化品とはいえ、それなりのものを生み出すことに成功した、相当に腕の立つ魔術師。自分の工房には魔術で改造したサボテンを生やし、侵入者に対して、その刺を発射させている。
―――――――――――――――――――――――
「■■■■■■■■■■■■■――――!!」
鉛色の巨漢が吠え、斧剣を振り下ろした。向かう先は、細長い体つきの男性。取り立てて人目を引くほどのものは無い、ごく普通の男だ。避けることもなく立ち続けており、そのままではミンチになるのは明白だった。だが、彼はスッと右手をかざすと、男の周囲より雷電が放たれ、大男、すなわちバーサーカーへと叩きつけられる。
「SYUGOOOOOOOOVAVAVAVAVAAAAAA!!」
男が、風と雷の音を複合したような声をあげながら放った雷は、バーサーカーの巨体をも簡単に吹き飛ばした。だが、バーサーカーに致命傷を与えることは無く、僅かな傷もすぐに治っていく。
「うーむ。さすがは我がドイツに連なる家系、アインツベルンの呼び出したサーヴァント! そう簡単には倒せんか!!」
雷を放った男、今回呼び出された方のバーサーカーのマスターが大仰に唸る。
「当然よ。私のバーサーカーは、ギリシャ最大の英雄、ヘラクレスなんだから」
巨漢の背後に立つ、白い妖精の如き少女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは悪戯っぽく笑う。
「ほう………ドイツは大ローマを継承する偉大なる国家。ギリシャ・ローマの大勇者とは、まさにアインツベルンに相応しいと言えような」
感心した様子で言い、腕を組む。その腕は金属製で、他の体の部位も、所々機械でできている。男の名はフリッツ・フォン・シュトロハイム。
第2次世界大戦の英雄、ルドル・フォン・シュトロハイムを祖父に持つ、この世界の裏側に関わってきた一族の人間だ。現在はネオナチスの一員である。
「あなた、その服につけてる鍵十字の紋章からして、ナチスかぶれ? 確か第3次聖杯戦争の時、ネズミみたいにコソコソ嗅ぎまわっていたナチスの特殊部隊がいたっていうけど。でもだとしたら、そのサーヴァントを使っていていいの? その人の顔、写真で見たことあるわ」
イリヤは今も雷を身にまとう男の顔を眺めながら言う。
「その人、電気の貴公子と呼ばれた天才科学者………いえ、狂科学者(マッドサイエンティスト)かしら? ともかく、あの『ニコラ・テスラ』でしょ? なら彼ってユダヤ人じゃなかった?」
かつてエジソンと戦い、あの発明王を超えたとさえされ、その発明品は現在の技術さえ凌駕していると言われる男。それが、『ニコラ・テスラ』。
「確かに、この私がユダヤ人であるそやつのマスターとなるのは複雑だが、我が家系は祖父の頃より、優れた力と精神を持つ者には、人種に関わりなく敬意を払う。我が祖父は敵国のアメリカ企業と手を結び、イギリス人と力を合わせて、人類総ての敵となる者と戦った。それを考えれば、どうという問題でもない」
シュトロハイムは右手を変形させる。その形状は銃。その先端に開いた穴を、イリヤへと向ける。
「そして、私たちが力を合わせれば、敵う者はいない。この『ニコラ・テスラ』は、『地球を破壊できる』と豪語したほどの男で、この俺は、英霊にも匹敵する男の孫だ。たとえヘラクレスであろうとも、必ず撃ち倒せる。そして、願いを叶えよう。我が祖国ドイツを、最も偉大な国にするために」
祖国の繁栄と栄光。そこに私情は無かった。ただ自らの国と故郷を愛するがゆえの、清々しい戦意。
「………どうも、貴方はシロウと戦わせるわけにはいかないみたいね。シロウはきっと本気にはなれない。悪人でない貴方相手では。だから」
イリヤは冷たく覚悟を決め、命令を告げる。
「やっちゃえ! バーサーカー!!」
「行くぞ!『ニコラ・テスラ』!!」
卓越した軍人と超科学の申し子は、高位の魔術師と神代の大勇者に挑む。未来を進む者と、過去より在りし者の対決が、炸裂した。
◆
【CLASS】バーサーカー
【マスター】フリッツ・フォン・シュトロハイム
【真名】ニコラ・テスラ
【性別】男
【属性】混沌・狂
【ステータス】筋力D 耐久D 敏捷D 魔力B 幸運D 宝具A
【クラス別能力】
狂化:C
魔力と幸運を除いたパラメーターをランクアップさせるが、言語能力を失い、複雑な思考ができなくなる。
【保有S】
超科学:A+
凄まじい威力を持った多様な兵器を生み出す。
超記憶能力:A
一度見たものは全て記憶できる。本を読めば一字一句忘れることなく、一度見た図面から、すぐに機械を組み立てることができる。この能力により、狂化したままでも複雑な思考を必要とせず、複雑な機械を組み立てることなどが可能。
【宝具】
◆魔術師破る電気の貴公子(エレクトロ・プリンス):A
電気を発生させ操る、特殊な機械の宝具。メンロパークの魔術師、エジソンに勝利したエピソードから生まれた宝具。
【特記事項】
エジソンと争い、勝利した偉大な科学者。その願いは『エジソンを歴史上から消去すること』。本来ならキャスターとして呼び出されるのが妥当なのだが、エジソンが『メンロパークの魔術師』の異名を持っているため、魔術師の名を嫌って、バーサーカーとして召喚された。
マスターのフリッツ・フォン・シュトロハイムはナチスの秘密機関で活躍したルドル・フォン・シュトロハイムの子孫であり、その関係から、ナチスも暗躍した第3次聖杯戦争でナチスが手に入れた聖杯の欠片を入手できた。それをコーとジンに提供し、マスター権を得る。
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小さな髭を生やした、小太りの小男が、コーとジンを相手に怒鳴り散らしていた。
「いいから新しいサーヴァントを寄こせと言っておるんだ!!」
その小男、ウィルソン・フィリップス・アインツベルンは、コーに向かって唾を飛ばす。コーは嫌な顔一つせず、顔をぬぐうこともせず、淡々と言葉を紡ぐ。
「失われたアーチャーの代わりに、新しいサーヴァントが欲しい。そんな我儘を言われても困りますね」
「何だと!! 大体、あんな戦士でもない、ただの女がこの私のサーヴァントだということがおかしいのだ! 貴様らが開催したこの聖杯戦争自体に問題があったに違いない。そうでなければ、私のサーヴァントがあれほど弱いわけがない!! つまり貴様らのせいだ。責任を取れ!! 取らなければこちらも紳士的な態度であり続けるわけにはいかんぞ!!」
最初から到底紳士的とは言えない態度で、自分勝手極まることを羅列するフィリップスに、コーは表情筋を1ミリも動かすことはない。
「そう興奮しないでください。契約を忘れましたか? それに、ここでは魔術どころか、機械も使えません。そういう空間なのです」
コーはチラリと、コー、ジン、フィリップス以外の人影に目を向ける。
人影は二人。容姿は似通っていて、血の繋がりを感じさせる。おそらく兄弟だ。
彼らが今回のキャスターであった。二人で一つのクラスについている、特異なサーヴァント。その宝具は、この屋敷、すなわち冬木の町につくられた、コーとジンの工房に張られた結界である。
この結界の効果は、敵味方関係なく、一定ライン以上の力を消去する。この結界内では魔術は使えず、銃も撃てず、爆弾も爆発せず、毒ガスも撒き散らせない。ここで戦うとなれば、原始的に殴り合う以外に方法は無い。
「しかしです。実はちょうど、マスターを失ったサーヴァントがいましてね。『タイ・カッブ』………ランサーなのですが、マスターのマット・ジャクスン氏がやられてしまったので、このままでは消えるしかない。よければ貴方が受け継ぐといいでしょう。今の彼の基礎能力は、もはや全てのサーヴァントを凌駕しています。最強のサーヴァント。あなたに相応しいと思いますが?」
「ふん? どうせなら最優と名高いセイバーが良かったが、まあいい。妥協して、許してやる。感謝しろ」
フィリップスは最後まで高慢な態度で、その場を立ち去った。
「あの男にランサーを扱えると思うのかい? コー」
「まさか。令呪を使う間もなく、適当に殺されるのがオチでしょうね。ジン」
「殺したら現界できなくなるのがわかっていても、やっぱりやるかな。コー」
「あれには【単独行動】のスキルがありますし、無かったとしてもやるでしょう。そういう男ですよ。そりよりも、聖杯を生み出すのに十分な英霊の魂がたまった後が問題ですよ。ジン」
「第5次聖杯戦争のマスターとサーヴァントたちは全員残ってしまってる。彼らはこちらの目的を阻止しに来るだろうし、チームワークのある敵が全部残っているのはきついよ。コー」
「叔父上の残した武器を整備しておきましょう。あと雇っておいた暗殺者も、いつでも動かせるようにしておきます。『武装賭博者』ドン・ペキンパー、『動く刺青』の女、『殺人警備員』西戸などなど………一流から三流まで、今揃えられるだけの数は揃えてありますよ。ジン」
ジンは、叔父の遺産についての説明書を手に取る。様々な化学兵器、生物兵器の類が列挙されており、たとえ一流の魔術師であっても、これに対処するのは難しいであろう。
「一緒に『根源』を見ようね。コー」
「もちろんですとも。ジン」
霞の目 康(コー)と、霞の目 神(ジン)。世界の危機さえも生み出した天才狂科学者の叔父を持つ二人の兄弟は、共に兄弟にしか浮かべぬ朗らかな微笑みを浮かべ、夢の実現を思い浮かべていた。
◆
【CLASS】キャスター
【マスター】ジン
【真名】コリヤー兄弟(ホーマー&ラングレー・コリヤー)
【性別】男性
【属性】秩序・中庸
【ステータス】筋力E 耐久C 敏捷C 魔力A 幸運C 宝具EX
【能力】
陣地作成:―
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。宝具【隔絶兄弟(コリヤー・ブラザーズ)】を得た代償に、このスキルは失われている。
道具作成:―
魔力を持つ道具を作り出すスキル。宝具【拒絶屋敷(コリヤーズ・ハウス)】を得た代償に、このスキルは失われている。
【保有S】
不屈の意志:A
どのような精神的干渉、肉体的損失を被ったとしても、自分の行動を曲げることは絶対に無い。
【宝具】
◆拒絶屋敷(コリヤーズ・ハウス):EX
とにかく他人から何もされないし、こちらからも何もしてやらない。そんな兄弟の生きざまが形となった宝具。結界の一種であり、この中ではあらゆる魔術や神秘が働かなくなる。機械なども使えなくなり、武器も威力を失う。人間以上の力を持つ猛獣や幻想種も力を失い動けなくなる。ここでは人間、それより下の力しかない生物しか動くことはできない。
◆隔絶兄弟(コリヤー・ブラザーズ):EX
本来一人であるはずのクラスが、兄弟一組で一つのサーヴァントとなっている理由となる宝具。互いに魔力を生成し、互いに与えあうことができる。兄が生み出した魔力は弟の現界のためにのみ使え、弟が生み出した魔力は兄の現界のためにのみ使える。自分のために、あるいは兄弟以外の者のために使うことはできない。
兄弟の絆以外の関係を、全て隔絶した二人に相応しい宝具。マスター不在であっても永遠に活動し続けることができる。
【特記事項】
歴史に残る引き籠り。何もしたくないことを願った彼らだったが、媒体を使われ、無理矢理召喚された。目的は、アサシンを拒絶屋敷(コリヤーズ・ハウス)内部に封印しておくこと。
ジンに召喚された。コーとジンは双子の兄弟であり、コーは『康』、ジンは『神』と書き、その姓は『霞の目』である。秘密研究機関ドレスに所属していた、霞の目博士の親類である。ドレスは旧日本軍の化学細菌戦部隊に由来し、アメリカに引き継がれて生まれた兵器開発の研究機関であるが、日本軍も介入していた第3次聖杯戦争についての資料を保有していた。ドレスが壊滅した後、その資料はコーとジンの手に入り、今回の第6次聖杯戦争を起こすために使われた。
―――――――――――――――――――――――
奇妙な光景があった。
空中に真円の穴が開いており、その中央に真っ白なチンパンジーが浮かんでいた。このアルビノのチンパンジーの名は『オリバー』。ウィルソン・フィリップスの差し出した魔術知識から作られたホムンクルスであり、聖杯の欠片を埋め込まれ、今回の聖杯となるべき存在である。
そしてその前に、コーとジンが立っていた。
「やれやれ『コリヤー兄弟』は倒されちゃったか。まあ、あいつらは特殊な力を消すことはできても、素の肉体能力までは消せないからね。正面からやりあえば、最弱のサーヴァントだ。仕方ないか」
「あなたたち、一体何のつもりなの? すでに聖杯は【この世全ての悪】に汚されている。どんな願いをかけるつもりか知らないけど、まともに機能するものじゃないわ!!」
凛の言葉に、しかしジンは嘲笑を浮かべる。
「そんなことも知らないと思ってもらっちゃぁ困るな。ちゃんとわかってるよ」
「なっ! ならどうして」
「第6次聖杯戦争ルール!!」
突如、ジンは大声で説明を始めた。
「ルールその1………始めのうちは、戦闘対象を前回の聖杯戦争のサーヴァントのみとする。このルールは魔術契約によって絶対のものとする。前回のサーヴァントすべてを倒し終わった後に、魔術契約は破棄され、最後の一人になるまで戦い合う」
第5次聖杯戦争で召喚された全てのサーヴァントを前に、何も怯むことなく余裕の態度を崩すことは無い。それはただ恐れを知らない愚鈍さではない。確かな勝利の計算があるゆえのものだ。
「ルールその2。第6次聖杯戦争で召喚されたサーヴァントを従えるマスターが、一人のみとなった時」
その時、その辺りの空気が一瞬にして塗り替えられる。まるで昼が突如、夜になったようだった。
だが。ジンは気にもせず語り続ける。
「聖杯の【この世全ての悪】を浄化する手段が解放され、最後のマスターに与えられる。以上!!」
士郎たちは一瞬、ジンの言っていることが理解できなかった。それほどに不可能事であったのだ。
その後、コーが更なる言葉を紡いだ。
「ジンの召喚したキャスターが最後のサーヴァント。ゆえに、ジンに、【手段】は与えられた。そして、こちらがその【手段】です」
そう言って、コーは左手でその男を指差した。
一体いつからそこに立っていたのかわからない。おそらくは【気配遮断】のスキルであろうと思われるが、正面に立つ男の放つ気配が、遮断可能なものだろうか。
(こんな威圧感………セイバーやギルガメッシュ相手にだって、味わったことが無い。サーヴァントにしたって、一体どこの英雄なんだ)
士郎は跪きたくなりそうな威圧感に耐えながら、その男の正体を考える。だが、どうしてもその男の姿が頭に入ってこない。目の前に見えていて、姿もしっかりわかるのに、その姿を記憶できない。
まとっているのは、貧しいとさえ言える、粗末な衣裳。記憶できない。
被っているのは茨を編んで作った冠。記憶できない。
男としては長い髪と、細長い顔つき。記憶できない。
手足に穿たれた、深い穴。記憶できない。
(それでも、まったくわからないのに、知っている気がするのは、なぜでしょう………?)
セイバーはなぜか心かき乱されるような気がした。自分は、この男のことを知っているという確信があった。国を救うため、この男を、この男の力を追い求めていた。そんな気がする。
「彼こそが【この世全ての悪】を浄化する手段。【この世全ての悪】に対する、【この世全ての癒し】、あるいは【許し】とでもいうべき存在。かつて、自ら人類全ての罪を引き受け、罪を背負って死んだ者。【この世全ての悪】に、極めて近く、それでいて真逆のものとして扱われる存在。彼が聖杯に吸収されることで、きっと聖杯は浄化されます」
そのサーヴァントは、オリバーをマスターとして召喚された。オリバーには作られた時から自分の意志が無く、聖杯戦争最後の一人にサーヴァントを譲る。聖杯を浄化する手段であり、そして、最後に第5次聖杯戦争のサーヴァントが何体残っていようと、簡単に殲滅できる力を持つサーヴァントを。
「魔力供給を止めれば、彼は消滅して聖杯に吸収される。ただその前に、君ら全員を滅ぼしてもらってからにしてもらいましょう」
そして、最後の戦いが始まる。
【聖杯】という概念の、そもそもの始まりとなった者との戦いが。
◆
【CLASS】アサシン
【マスター】オリバー(チンパンジー型のホムンクルス)
【真名】?
【性別】男性
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力EX 耐久EX 敏捷EX 魔力EX 幸運EX 宝具EX
【能力】
気配遮断:EX
サーヴァントとしての気配を絶つ。目の前に存在していたとしても、気付くことは難しい。ただ彼の場合それだけではなく、彼が世界的にあまりに有名すぎる存在であるということに気付かせず、その正体を隠すことができる。
【保有S】
神性:EX
人の身でありながら、もはや神そのものと言っていい、絶対的な神性を所有している。
【宝具】
◆運命は円なりて回転したらば(フェイト・レヴォリューション):EX
運命がどう繋がり、どう動いているかを感じ取り、そこに介入、改変する。無から有を生み出すことも、生命を命じるだけで絶やすことも、死者を蘇生させることも可能だが、運命改変の難度に応じた魔力を必要とする。
【特記事項】
アサシン、すなわちイスラム教の暗殺者というクラスは、彼にとって根を同じくしながら相反する、最も遠い存在でもある。ゆえに、アサシンのクラスが彼の存在を馴染みながらも相殺し合い、彼の絶対性を弱め、サーヴァントとして現界することを可能としている。それ以外のクラスであれば、サーヴァントとしての召喚は不可能に近いほど圧倒的な存在である。
聖杯の汚染を浄化する手段として召喚された。吸収されることで汚染を浄化することを期待されているが、上手くいくかは未確定。聖杯戦争の勝者に渡されることになっている英霊。ウィルソン・フィリップスから提供された、アインツベルンのホムンクルス製造技術で造ったオリバーをマスターとして召喚された。
2011年04月02日(土) 00:35:57 Modified by ID:rY45VbvXSw