イリヤの奇妙な冒険23
【Fate/kaleid ocean ☆ イリヤの奇妙な冒険】
『23:Wake――覚醒』
【エジプトの古い館に残されたノートより】
キーワードは重力である。
『スタンド』という能力には、奇妙な法則が存在する。確かめられたわけではないが、スタンド使いの誰もが、その法則の実在を肯定している。
『スタンド使いは引かれ合う』
スタンド使い同士は、正体を知らずとも、知らず知らずのうちに、近づき合う性質がある。運命のように、いつかどこかで出会うのだ。敵か、友人か、バスで隣に座った者かもしれないし、交通事故を起こした相手側かもしれない。だが、偶然、なんの作為もなく、出会ってしまうものなのだ。
まるで、リンゴが木から落ちるように、必然として偶然が起こるのだ。
重力のように引かれ合い、運命のように出会う。
あらゆる物質は、原子が寄り集まってできているが、その原子の集合が崩れず、バラバラにならないのは、重力によって引かれ合っているためだ。
時間もまた、重力と密接な繋がりがあり、重力が乱れれば、時間の流れもまた乱れるだろう。
重力とは『引かれ合う力』であり『支える力』なのだ。この力を人間同士に当てはめれば、『運命』と表すしかないだろう。
重力とは、運命である。重力を、真に支配することができれば、それは運命を支配することに通じる。
重力を支配する力の一端を、私は持っている。重力と時間は密接な繋がりがあると書いたが、時間に干渉する能力を通じて、重力に干渉できるかもしれない。
ならば――必要なものは『私のスタンド』である。
◆
夢を見ていた。
彼女は戦い、勝ち、そして進んでいく。
父を救うために、己の命を賭けて。
けれど決して一人ではなかった。
彼女の勇気に、優しさに魅せられ、共に戦ってくれた、心強い仲間たちがいたのだ。
姉の復讐を果たすため、あえて刑務所に投獄された女傑、エルメェス・コステロ。
敵として出会いながらも友となった、知性あるプランクトンの集合体、F・F。
自分を裏切った恋人を『分解』した、愛を求める殺人鬼、ナルシソ・アナスイ。
天候を操る力を、己の名前とした記憶喪失者、ウェザー・リポート。
幽霊の部屋に住む、ありえざる監獄の少年、エンポリオ・アルニーニョ。
彼女は多くの敵と戦った。
賭けを交わし、罠にはめ、負け分を死ぬまで取り立てる、ミラション。
無重力を生み出し、独壇場で奇襲を仕掛ける、ラング・ラングラー。
死のエネルギーを操り、自分自身も透明な動く死人として彷徨う、スポーツ・マックス。
空の彼方より隕石を降らせる、差別的な暴力看守、ヴィヴァーノ・ウエストウッド。
記憶障害を引き起こす、刑務所の真の看守、ミュッチャー・ミューラー。
未確認生物を操作する、ドン底から高みを目指す者、リキエル。
大地に刻まれた記憶を掘り起こす、心を捻じれさせた男、ドナテロ・ヴェルサス。
そして、最初から全てを仕組んでいた男。
心と力を奪う、白い蛇。
世界を変え、天国に至らんとした一人の神父。
彼女の血統に関わる宿敵が、後を託した友。
エンリコ・プッチ。
邪悪な遺産の力により、新たな力を手に入れた彼は、無限の速さを手に入れ、世界の時間を加速させた。目まぐるしく過ぎていく時間の激流の中で、仲間たちは次々と敗れていった。
F・Fとウェザー・リポートは最後の戦いを前に、命を落とした。
エルメェスとアナスイ、そして再び戦場に戻ってきた父、空条承太郎も、プッチのスタンド――【メイド・イン・ヘヴン】によって打倒されてしまった。
その力を前に、彼女はエンポリオを海のイルカに縛り付けて逃がした。どれほど速くとも、海の中で、溺れずに追いかけ続けることはできない。
『アナスイが自分を犠牲にして父さんを守ってくれたから、あたしは今……かろうじて生きている。エルメェスが神父を攻撃してくれたから、ロープを伸ばしてイルカを捕まえる間が出来た』
けれど、プッチ神父は彼女がどこにいるか知覚できた。彼女の中に流れる『血』が、居場所を教えてしまうのだ。
だから、
『あたしがいたら、あんたは逃げられない』
『…………え?』
エンポリオの呆然とする顔を、真剣に見つめ返しながら、彼女は言う。
『一人で行くのよ、エンポリオ。あんたを逃がすのは、アナスイであり……エルメェスであり、あたしのお父さん、空条承太郎……。生き延びるのよ。あんたは《希望》!!』
『待って!! 待って!! お姉ちゃん! や……やめて!! ロープを早く手繰り寄せてェエエ―――ッ!!』
少年が、泣きながら止める。その犠牲を、必死でやめさせようとする。
けれど、
『ここはあたしが食い止める』
彼女は自ら、イルカに繋がるロープを切った。
『来いッ!! プッチ神父!!』
夢の中で、イリヤはエンポリオと共に叫んでいた。
『お姉ちゃあああああああ―――ん!!』
◆
「ランサァァァァァァッ!!」
バッと、掛け布団を突き飛ばして、イリヤは手を伸ばした。
見開いた目が、見慣れた天井を映す。
「あ……?」
一瞬の混乱。
そして、イリヤは現実を思い出す。
何を失くしたのかを、思い出す。
胸に穴が空いたようだという表現は、正確なものだったのだと思い知る。体に血を巡らせる心臓が、どこかへ行ってしまったかのようだ。
そしてイリヤは、
「あ……ああ……ううっ、うぁぁぁぁぁぁっ!!」
泣いた。
◆
《うーん、ルビーちゃんイヤーの鋭い聴覚が、イリヤさんの泣き声をとらえていますよ?》
「私にも聞こえているわよ……」
イリヤの家の屋根の上で、ルビーは凛と話していた。
凛の表情も暗い。魔術師として心を鍛えている彼女も、見知った顔がいなくなって何も感じないほど、人間味を捨ててはいない。
ランサーの宝具は、イリヤたちをイリヤの家の前まで連れて行って消えた。
イリヤは半狂乱で旧間桐邸に戻ろうとしたが、凛は最初に出会った日と同じように、魔弾の零距離射撃で気絶させた。その後、家に忍び込み、イリヤの部屋のベッドに、着替えさせて寝かせ、各々、明日また集合すると約束して解散した。
「イリヤはどうするかしらね……。まだ戦う気力が残ってると思う?」
《どうでしょうねー。仲のいい人がいなくなるのは、人生最大の悲劇ですから……さしものルビーちゃんも、楽観はできません》
イリヤがランサーに憧れ、良く懐いていたことは誰の眼にも明らかだ。
ランサーを失った悲しみと、死を与えられる実感を味わったイリヤが、戦場を恐怖し、戦うことを嫌がっても不思議ではない。むしろ、トラウマになっても当然である。
「今何時? あの子、学校に行けるのかしら?」
《あと30分もしたら家を出なくちゃいけない時間ですねー》
そんな折、
ブロロロロロッ!! グォォォォォンッ!! キイイイイイイイィィィィッ!!
空気を突っ切り、大地を抉り、鋭く急停止する音が、イリヤの泣き声をもかき消す勢いで響き渡った。
「え? 何?」
《さあ?》
それは凛たちも驚く、新たな人物の来訪――否、帰還であった。
◆
「で……私たちはこの町を出なくていいの?」
セレニケが、ミセス・ウィンチェスターに問う。
彼らがいるのは、キャスターのカードを使って作った、急造の拠点の一つ。現代の魔術師でも一週間で造れる程度の工房、神代のキャスターであれば一日もかからない。本来の重要拠点である、冬木市民会館地下や、旧間桐邸地下から目を逸らすための囮として造ったうちの一つ。ほとんどは、ルヴィアたちやアーチャーに潰されたが、ここは彼らの目を免れた。
とはいえ、何者かに襲撃された場合、防戦能力はほとんどない。無いよりマシな程度の拠点である。
「マダ待テ。モウ少シ、経緯ヲ見届ケテカラニシタイ」
「あいつ……私たちもモンスターって呼ぶことにするけど、別にもういいんじゃないの? あの魔眼は強力だけど、神霊召喚は無理だったってことは確かなんだし。あんたの役目は召喚の実行だけで、結果がどうあれ、あんたの責任じゃないでしょう?」
あの後の状況は、残していた使い魔からの視点で、ある程度わかっている。モンスターは、使い魔一匹一匹を始末する気はないようだ。鷹揚というべきか、無神経というべきか。
ランサーが身を捨てて、他の者たちを逃がしたことも――その後、ランサーが切り殺されたこともわかっている。
今、モンスターは大人しくしている。旧間桐邸地下を出てもいない。ただじっと動かず、立っていた。だがいつまでも大人しくしているとは限らない。邪悪な怪物の親玉として呼ばれたサーヴァントが、何もしないでいる方がおかしいのだ。いつ町に出て、周囲一帯の人間を殺し始めてもおかしくない。
巻き込まれる前に、逃げた方が無難だ。二人以外の『ドレス』の構成員は、既に町を出ている。規格外の怪物が野放しになろうと、神秘の秘匿が破られようと、彼らは気にしない。後の始末は、教会なり協会なりに押し付ければいい。
「ドレスノ実験トハ関係ナイ。コレハ私ノ興味ダ。趣味ト言ッタ方ガ正確カナ。彼ラガコレヨリドウ対処スルカ。見テミタイ。別ニ、オ前ハ先ニ帰還シテモイイノダゾ?」
「そうね……私も残るわ。イリヤお嬢ちゃんがどうなるか知りたいし……ふふ、それにしても」
セレニケは下あごに人差し指を当て、
「ランサーを失って、さぞ悲しんだんでしょうね。見たかったわ……あの子の泣き顔」
夢見る乙女のようにうっとりと、イリヤの悲嘆と絶望を想うのだった。
◆
どれほど泣いたのか。
悲しみが尽きたわけではないが、どうやら悲しむにも力がいるものらしい。
喉が痛み、涙が涸れ、疲れ果て、イリヤはただベッドに横たわる。
なんとはなしに、視線を巡らせると、床に一冊の漫画本が落ちているのを見つける。セラが見たら、だらしないと怒って片付けさせるだろう。
ランサーが、続きを読みたがっていた本だ。
「ランサー……」
涸れたはずの涙が、また滲んでくる。
『いや、逃げるんじゃないわよ。『立ち向かえ』って教えたでしょうが』
昨日言われたばかりの言葉が、脳内に蘇る。呆れているランサーの声が、聞こえたかのようだった。
「うん……うん……そうだったね」
零れる涙を拭い、新たに溢れる涙を必死で我慢しようとする。
それでも涙は流れる。
「立ち向かわなきゃ……もうランサーはいないんだ。自分で、立たなきゃ……」
グシグシと顔を擦り、イリヤは立ち上がろうとするが、立ち上がれない。
足に力が入らない。いや違う。力が入らないのは、心にだ。
「ランサー……」
何度拭っても、涙が零れ、涙と共に力が抜けていくようだった。
そして、そんなイリヤは、誰かが近づいてくる足音がするのに気が付かなかった。
「イ〜〜リ〜〜ヤ〜〜……」
声と共に、
「ちゃんっ!! おひさ〜〜!!」
バァンッ!!
激しくドアが開いた。
「マ……」
一瞬、イリヤは悲しみを忘れた。
ドアの向こうから、輝く笑顔が向けられている。
長く伸ばした、雪のようなシルバーブロンド。イリヤによく似た、美しい成人女性。
「ママ!?」
「うん! ただいまイリヤ♪」
一家の神、アイリスフィール・フォン・アインツベルンのご帰還であった。
◆
旧間桐邸。元々草木に覆われた空き地に過ぎなかったが、昨夜の戦いで、更に酷いことになっている。特に聖剣ビームをぶっ放した影響は大きく、草木は焼き払われ、大穴は空き、敷地内だけの被害で済んだのは幸運としか言いようがない。
そして、その地下の方はといえば、
「動きはないですわね」
滅茶苦茶になった旧間桐邸敷地に立ち、ルヴィアは使い魔から得た情報を口にする。その情報に、アヴドゥルは首を傾げる。
「なぜ動かないのだろうな? いやそもそも、奴には何か行動目的はあるのか?」
「ないでしょうね。しいて言えば、『バロール』の名を与えられたことによる、魔王としての振る舞い。暴虐な支配――今は、支配できるような理性を持っていないようですから、ただ暴虐と殺戮を振り撒くことになる可能性が高いですが、今、それを行っていないのはなぜか……」
モンスターが現界するための魔力は、彼女の核となっている聖杯から得ているはずだ。ほぼ無限にこの世界にあり続けることができる。しかし、現界していたところで何をするというのか。
元々実験のために召喚されたに過ぎない存在。呼び出したミセス・ウィンチェスターによって支配されているわけでもないようだ。元々、神霊を呼び出して、支配できるなどと考えていたわけではないのだろう。維持できずに一日で消えると考えていたようだし、自分たちの被害が抑える以外の対策はとっていないだろう。
自分たち以外が、もっと言えば『自分』以外が、どんな目に遭っても構わないという考えなのだ。たとえ、その一日で日本という国が滅びたとしても。
それが『ドレス』のやり方なのだ。
ゆえに、平穏に済ませる努力は皆無だ。逆に積極的に被害を出す気もないようだが。
つまり、神霊に対しても、召喚する以外の何もしてはいないだろうということ。
「そのわけを知るためにも、頼みましたわよ……美遊」
ルヴィアは、地下室へと潜入している美遊を想って呟いた。
◆
「久しぶり〜〜イリヤ〜〜」
ベッドの上、パジャマ姿のイリヤを背中から抱きかかえ、アイリスフィールはイリヤの全身を撫でまわす。
「マ、ママ……は、恥ずかしいよ」
「え〜〜? いいじゃない、これくらい。親子のスキンシップよ」
立派な大人ながら、子供のような笑顔でアイリスフィール――アイリはイリヤの小さな胸をフニフニと揉みまわす。母親でなければ通報ものの手つきである。
「ママ……その、私、これから学校なんだけど……?」
「今日はお休みしちゃいなさい♪ 仕事がひと段落したから私だけ帰ってきたけど、切嗣はまだ向こうにいるからすぐ戻らなきゃいけないの。学校から帰ってくるまではいられないから」
母親が娘に学校をサボらせるのはいかがなものかと思うが、イリヤは諦める。こういうときの母は、滅茶苦茶強引で、決して己を曲げることはないのだ。
「ねぇ、私が留守の間、何か変わったことあった?」
「えっ? ううん、別に」
一瞬、部屋を見回すが、ルビーはいない。
(あれ? どこ行ったのかな)
「またまたー。あったでしょ? すっご〜〜く、変わったことが」
「……えっ!?」
ルビーのことを考えていたイリヤは、母のツッコミに、血の気を引かせながら振り返った。しかし、アイリは呑気な笑顔で、
「ほら、ウチの目の前に建った豪邸!」
「あ、そっちね」
張っていた気が、一気に緩む。
とはいえ、確かに普通に考えれば、あんな大きなお屋敷が建っているのは中々のニュースだろう。
「ちょっと見なかったうちに、あんなのが建っちゃうなんてねー。一瞬帰り道間違えちゃったかと思ったわ」
「あはは……」
何を言うわけにもいかず、笑ってごまかす。
「セラから聞いたけど、イリヤのクラスメイトが住んでるんですってね」
流石に魔法少女仲間などとは言えないが、クラスメイトであることは夕食のときなどに話したことがあった。
「なんていう子なの?」
「……ミユ」
若干、返事が遅れた。イリヤは目が覚めてから、初めて美遊のことを思い出した。
そういえば、彼女はどうしているだろう?
「ミユちゃんか〜〜。転校生なんでしょう? 友達にはなれた?」
「……うん」
「ね、どんな子?」
「どんな子って……えっと……ミユは」
◆
旧間桐邸の地下。美遊はサファイアと共に潜入していた。
手には、イリヤが寝ている間にルヴィアが借りてきたクラスカード3枚――凛にちゃんと断ったのかは聞いていない。
(これを使えば、あの魔眼からも逃げられる。けど、私だけ。ルヴィアさんやアヴドゥルさんは来れない)
あの『死』そのもののような碧い輝きに見つめられるのは、吐き気がするほど恐ろしいが、やらねばならない。
使い魔では、モンスターの現状を調べきれない。だが、クラスカードを使えば、詳しく調べられる。
《大丈夫ですか? 美遊さま。敵は危険です。戦闘力や宝具の威力なら今までのサーヴァントにも高いものがいましたが、殺傷力という点では随一です》
「……確かに。でも」
サファイアと話しながら進む美遊も、モンスターの『直死の魔眼』の危険性は理解している。
しかし、
「今、イリヤはそっとしておきたい」
《……美遊さま》
大事な人が、自分を守るためにいなくなってしまう辛さは、それ以上に理解しているのだ。
「……いた」
地下室の広間の出入り口から、そっと身を乗り出す。モンスターの姿が、美遊の強化された目に映る。
暗闇の中に静かに立つモンスターの姿は、ぞっとするほど美しかった。
右手には抜き身の短刀。左手には――
(クラスカード)
間違いなく、ランサーのものだろう。
モンスターの目は、こちらを向いていない。
(サファイア、お願い)
(はい)
美遊の手にしたカードは、アーチャー。
「『夢幻(インス……)』」
ダッ!!
突如、モンスターが動いた。一跳びで、出入り口までの距離を詰める。
「!? 砲射(シュート)!!」
咄嗟に『夢幻召喚(インストール)』を中断し、魔力砲を放つ。近距離から放たれた魔力砲であったが、モンスターは迷いなくそれを切って捨てた。その刃がこちらを切り裂く前に、美遊もまた床を蹴り、モンスターの頭上を跳び越えて、反対側に降り立つ。
《どうやら、自分に害を加えられると判断した存在に関しては、反応するようです。使い魔は無視すれど、英霊化する魔法少女は殺害対象ということでしょう》
サファイアがモンスターの突然の行動を読み取る。機械のように自動的な存在であるようだ。しかし、その動きもまた正確。今までの黒化英霊のように獣じみた獰猛さではない。悪意や憎しみ、怒気さえ無い、ひたすらな殺意が、冷たく研ぎ澄まされて、襲い掛かってくる。
「『夢幻召喚(インストール)』の隙を、つくらないと……」
こちらに碧い双眼を向けるモンスターを見返しながら、美遊はなお目的を諦めてはいなかった。
一方、サファイアは、
(これは……仕方ありません。申し訳ありません、美遊さま)
声に出さず、美遊に謝罪し、己の中の機能を秘密裏に動かしていた。
◆
「ミユは……なんていうか、静かな子。必要なことしか喋らないし……て言うか、喋ることに、あんまり慣れてないのかも」
「ふーん」
「あ、でも、運動も勉強もすっごいんだよ。一気に一番になっちゃった。誰もミユには勝てないの」
イリヤは自分のことのように、美遊のことを誇らしげに褒める。そんなイリヤの説明を、アイリは微笑んで聞いていた。
「なんでもできる子なのね」
「うん、なんでもできる。ミユはなんでも、一人でできる……」
なんでもできる。そう……だっただろうか。
『その………できれば……教えてほしい。飛び方………』
なんでもできるんじゃない。なんでもできるようになろうと、一生懸命に……。
「本当に、そう思っている?」
「えっ……?」
「だって貴方、全然『大丈夫』って顔してないじゃない?」
何もかも見透かしたように、母は言う。ごまかしは通用しないと悟る。同時に、自分が自分自身をごまかしていたことを悟る。
「ねえ、これは、ママがお友達から教えてもらったことなんだけどね……人間のエネルギーは『思い出』なんだって」
アイリは、イリヤを見ながら、同時にここにいない誰かを見つめていた。
過去の誰かを。
「生きるということは、変なラクガキを見たり、毛布の臭いを嗅いだり、トイレの水が流れる音を聞くこと……友達と世間話をしたり、笑ったりすること。そんな『思い出』が細胞に勇気を与えてくれるんだって。今まで生きてきたことが、これから生きるための力になる……それが『思い出』なんだって。そして、一番いい『思い出』は、誰かと出会って、誰かと一緒につくった『思い出』なんだって。一人じゃなくて、ね」
「『思い出』……」
イリヤは、『思い出』を、思い出す。
『もう大丈夫なの? イリヤスフィール』
『それなら私も……美遊さんじゃなくて、美遊って、呼び捨てで……いい』
『こ、こちらこそよろしく……イリヤ』
一人でなんでもできる人なんて、いない。
イリヤは一人ではなんにもできない。ランサーはそんなイリヤを助けてくれた。
でも、ランサーだって、一人で戦い抜いたわけじゃない。夢を見て知っている。
そして、ミユだってそれは同じはずだ。ミユはなんでもできるように思えるけど、そんなことはない。どんなに力があっても、一人ではその力さえ出てこない。一人では、心がとても空っぽで、なんだか酷く寒くなる。いい『思い出』にはならない。
ランサーを失ったイリヤのように。ならば、きっとミユも今、辛いはずだ。
「ママ……やっぱり私、学校行くよ。きっと心配してるから」
「そう……行ってらっしゃい、イリヤ」
笑顔で部屋を出るイリヤだったが、ドアを開けた外には、ルビーが待ち構えていた。
「ル、ルビー? ちょ、ママに見つかっちゃうよ!」
母がドアを開けた隙間から見てしまうかもしれないし、兄の士郎や、セラ、リズが、いつ来るかもわからない。慌てて、小声で話しかけるイリヤだったが、
《すみません、聞き耳立てていまして。それより、ちょっとサファイアちゃんから連絡で、美遊さんがピンチっぽいです!》
「……!!」
◆
猫科の大型肉食獣のように、敏捷に跳ね動き、モンスターは美遊を追い詰めていく。魔力砲が足止めにもならない。
下手に空中に逃れるわけにはいかない。また宝具を放たれては、逃げ切れるかわからない。
武器を日本刀に変えていたが、あの刀自体は宝具ではないだろう。サファイアの鑑定によると、名刀であるのは間違いない。
銘は『九字兼定』。1500年代の刀鍛冶、兼定によって鍛えられた刀で、名の通り『臨兵闘者皆陣烈在前』の九字が彫られている。森長可ら、戦国武将も使用した名刀だ。
(それだけでも宝具に成り得る逸品であるけれど、おそらくあの武器の変化は、宝具を発動させるスイッチに過ぎない。武器を変えることで意識を変化させ、魔眼の力をより引き出している)
それが生前から持っていた力なのか、『バロール』として召喚されたことで付与されたものかはわからないが、あのとき襲われた感覚から本能的にわかった。刀が届かない位置にいても殺されると。
どうやらあの宝具は、『見た物全て』を、距離や範囲に関係なく、斬り殺すことができる。もし、高所から俯瞰して宝具を発動すれば、町一つをまとめて殺せるかもしれない。
(あれを出されたら、どんな防御でも殺される。けど、まだ役目を果たしていない。なんとか『夢幻召喚(インストール)』する余裕を――)
こちらの攻撃は当たらない。どれほど多くの散弾をばら撒いても、全て避けられるか、切り捨てられる。なら、別の足止めを考えなくてはいけない。
(目くらましを!)
美遊は、周囲一帯の床に向けて魔力砲を放つ。魔力砲は爆発して床を砕き、煙を巻き上げる。美遊とモンスターを、煙が覆い隠す。
(魔眼はどれほど強力でも『見る』ことで効果を発揮する。透視や千里眼でもない限り、視界を塞げばその効力は削げるはず)
モンスターがこちらを探している間に、『夢幻召喚(インストール)』を完了すればいい。
美遊はカードをかざし、
ドッ!!
鳩尾を打突され、吹き飛ばされた。カードが手から離れる。
「げふっ! こほっ! かはぁっ!!」
呼気が乱れ、悶え苦しむ美遊だったが、必死で飛びそうになる意識を繋ぎ留め、思考をする。倒れこみたがる体を、どうにか踏ん張って耐える。
(はっきりと、見えてはいかなかったはず……見えていたら、今頃、殺されていた。ただ、気配を感じ取り、いるであろう場所に向かって、打撃を叩き込んだだけ)
物理防御のおかげで致命傷にはならなかったが、それがなければ内臓が破裂していた。
(カードは……!)
そう遠くに転がったわけではないはず。吐き戻しそうな内臓の呻きを抑え、呼吸を整えながら、美遊は探す。幸いなことに、カードはすぐに見つかった。身をかがめ、カードを拾い上げたとき、
(……しまった!)
美遊は絶望した。
煙は、早くも薄れ始めている。そして、背後に立つ者の気配。
(見られている!)
背骨が氷に変わったような感覚。冷静に思考していたつもりでも、やはり混乱していたのか。モンスターの位置を見失うとは。
モンスターが後ろで動く気配を感じる。どう動いても、もはや手遅れ。
(死ぬ……)
美遊が、蛇に睨まれた蛙のように、死を待つのみとなった時、
「ミユっ!!」
とてもいいタイミングで、援軍が現れた。
ドゴォッ!!
高速で飛んできた援軍は、高出力の魔力砲をモンスターに撃ち放つ。美遊へと刃を向けていたモンスターは、その魔力砲への対応が間に合わず、まともに喰らった。
「大丈夫!?」
援軍の名はもちろん、
「イリヤ……なんで!」
「なんでってそりゃ……」
その問いは、イリヤにはむしろ意外だった。
答えは決まっている。
「友達を、助けに来たんだよ!」
もう、失いたくないから。
◆
鞄を手に、玄関に立つアイリスフィールを見送るセラは、やや沈んだ表情だった。
「心配性ね、セラは。イリヤなら大丈夫よ。私の子だもの」
「……力の封印が解けるなんて、よっぽどのことだとは思いましたが、まさか、聖杯戦争とは……。奥様は、なぜわかったのですか?」
セラは、イリヤの内に眠っていた力について、知っていた。ずっと前から、ずっと、眠ったままでいてほしいと祈っていた。だが、その祈りはついに届かず、力は目覚めた。
聖杯戦争――セラたちにとって、あまりに因縁深い儀式によって。
「……ツテがあってね。教えてもらったのよ」
「私は、イリヤさんには普通の女の子として生きてほしい。魔術とは関わりのない世界で平穏に……奥様もそう考えたから、アインツベルンを出て……!」
「そうね、でも……逃げ出すことで守れるものなんてないわ。いえ……逃げることもまた、戦いの一つの方法に過ぎないの。決して、安楽な道じゃない」
その静かに悟った、覚悟を決めた眼に見つめられ、セラは言葉を失う。
「あの子はちゃんと自分の意志で前へ進んでいる。『立ち向かい方』も教えてもらったみたいだし、もう守られるだけの子供じゃないわ。親としてはちょっと寂しいけどねー」
「奥様……」
セラを元気づけ、励ましながらも、ちょっと困ったような微笑みを向ける。セラはそんなアイリに感謝する。この優しい人が、自分の主人であるのは幸運なことなのだろうと。
「さてと……それじゃ、そろそろ行くわね。飛ばせば、昼には空港に着くわ。向こうで切嗣が待ってる」
「ど、どうか安全運転で……」
アイリの運転を思い出し、セラの声が震える。かつて、英霊でさえ血の気が引いた彼女の運転は、セラの忠誠心をしても同乗したくないものだった。
「私も戦ってくるわ。イリヤの……ううん、私たちの日常を護るために」
「はい……行ってらっしゃいませ、奥様!」
ドアを開け、アイリは外へと踏み出す。新たな戦いの待つ世界へ。
「ちゃんと生きて、『思い出』をつくっていかないと、彼女に申し訳ないものね」
アイリは、10年前を思い出す。
「でも、良かったわ。彼女の友達が、イリヤのサーヴァントだったのなら、きっとイリヤを強くしてくれたでしょうから」
10年前、アイリのサーヴァントであり、生まれてから最初の友達になってくれた彼女のことを、思い出す。
「私も、イリヤのサーヴァントに会いたかったな……。会って、貴方の話をしたかったわ……ねぇ、『F・F』」
『思い出』を胸に、アイリは未来へ進む。
『思い出』を力にして、一人ではなく、家族と共に。
……To Be Continued
『23:Wake――覚醒』
【エジプトの古い館に残されたノートより】
キーワードは重力である。
『スタンド』という能力には、奇妙な法則が存在する。確かめられたわけではないが、スタンド使いの誰もが、その法則の実在を肯定している。
『スタンド使いは引かれ合う』
スタンド使い同士は、正体を知らずとも、知らず知らずのうちに、近づき合う性質がある。運命のように、いつかどこかで出会うのだ。敵か、友人か、バスで隣に座った者かもしれないし、交通事故を起こした相手側かもしれない。だが、偶然、なんの作為もなく、出会ってしまうものなのだ。
まるで、リンゴが木から落ちるように、必然として偶然が起こるのだ。
重力のように引かれ合い、運命のように出会う。
あらゆる物質は、原子が寄り集まってできているが、その原子の集合が崩れず、バラバラにならないのは、重力によって引かれ合っているためだ。
時間もまた、重力と密接な繋がりがあり、重力が乱れれば、時間の流れもまた乱れるだろう。
重力とは『引かれ合う力』であり『支える力』なのだ。この力を人間同士に当てはめれば、『運命』と表すしかないだろう。
重力とは、運命である。重力を、真に支配することができれば、それは運命を支配することに通じる。
重力を支配する力の一端を、私は持っている。重力と時間は密接な繋がりがあると書いたが、時間に干渉する能力を通じて、重力に干渉できるかもしれない。
ならば――必要なものは『私のスタンド』である。
◆
夢を見ていた。
彼女は戦い、勝ち、そして進んでいく。
父を救うために、己の命を賭けて。
けれど決して一人ではなかった。
彼女の勇気に、優しさに魅せられ、共に戦ってくれた、心強い仲間たちがいたのだ。
姉の復讐を果たすため、あえて刑務所に投獄された女傑、エルメェス・コステロ。
敵として出会いながらも友となった、知性あるプランクトンの集合体、F・F。
自分を裏切った恋人を『分解』した、愛を求める殺人鬼、ナルシソ・アナスイ。
天候を操る力を、己の名前とした記憶喪失者、ウェザー・リポート。
幽霊の部屋に住む、ありえざる監獄の少年、エンポリオ・アルニーニョ。
彼女は多くの敵と戦った。
賭けを交わし、罠にはめ、負け分を死ぬまで取り立てる、ミラション。
無重力を生み出し、独壇場で奇襲を仕掛ける、ラング・ラングラー。
死のエネルギーを操り、自分自身も透明な動く死人として彷徨う、スポーツ・マックス。
空の彼方より隕石を降らせる、差別的な暴力看守、ヴィヴァーノ・ウエストウッド。
記憶障害を引き起こす、刑務所の真の看守、ミュッチャー・ミューラー。
未確認生物を操作する、ドン底から高みを目指す者、リキエル。
大地に刻まれた記憶を掘り起こす、心を捻じれさせた男、ドナテロ・ヴェルサス。
そして、最初から全てを仕組んでいた男。
心と力を奪う、白い蛇。
世界を変え、天国に至らんとした一人の神父。
彼女の血統に関わる宿敵が、後を託した友。
エンリコ・プッチ。
邪悪な遺産の力により、新たな力を手に入れた彼は、無限の速さを手に入れ、世界の時間を加速させた。目まぐるしく過ぎていく時間の激流の中で、仲間たちは次々と敗れていった。
F・Fとウェザー・リポートは最後の戦いを前に、命を落とした。
エルメェスとアナスイ、そして再び戦場に戻ってきた父、空条承太郎も、プッチのスタンド――【メイド・イン・ヘヴン】によって打倒されてしまった。
その力を前に、彼女はエンポリオを海のイルカに縛り付けて逃がした。どれほど速くとも、海の中で、溺れずに追いかけ続けることはできない。
『アナスイが自分を犠牲にして父さんを守ってくれたから、あたしは今……かろうじて生きている。エルメェスが神父を攻撃してくれたから、ロープを伸ばしてイルカを捕まえる間が出来た』
けれど、プッチ神父は彼女がどこにいるか知覚できた。彼女の中に流れる『血』が、居場所を教えてしまうのだ。
だから、
『あたしがいたら、あんたは逃げられない』
『…………え?』
エンポリオの呆然とする顔を、真剣に見つめ返しながら、彼女は言う。
『一人で行くのよ、エンポリオ。あんたを逃がすのは、アナスイであり……エルメェスであり、あたしのお父さん、空条承太郎……。生き延びるのよ。あんたは《希望》!!』
『待って!! 待って!! お姉ちゃん! や……やめて!! ロープを早く手繰り寄せてェエエ―――ッ!!』
少年が、泣きながら止める。その犠牲を、必死でやめさせようとする。
けれど、
『ここはあたしが食い止める』
彼女は自ら、イルカに繋がるロープを切った。
『来いッ!! プッチ神父!!』
夢の中で、イリヤはエンポリオと共に叫んでいた。
『お姉ちゃあああああああ―――ん!!』
◆
「ランサァァァァァァッ!!」
バッと、掛け布団を突き飛ばして、イリヤは手を伸ばした。
見開いた目が、見慣れた天井を映す。
「あ……?」
一瞬の混乱。
そして、イリヤは現実を思い出す。
何を失くしたのかを、思い出す。
胸に穴が空いたようだという表現は、正確なものだったのだと思い知る。体に血を巡らせる心臓が、どこかへ行ってしまったかのようだ。
そしてイリヤは、
「あ……ああ……ううっ、うぁぁぁぁぁぁっ!!」
泣いた。
◆
《うーん、ルビーちゃんイヤーの鋭い聴覚が、イリヤさんの泣き声をとらえていますよ?》
「私にも聞こえているわよ……」
イリヤの家の屋根の上で、ルビーは凛と話していた。
凛の表情も暗い。魔術師として心を鍛えている彼女も、見知った顔がいなくなって何も感じないほど、人間味を捨ててはいない。
ランサーの宝具は、イリヤたちをイリヤの家の前まで連れて行って消えた。
イリヤは半狂乱で旧間桐邸に戻ろうとしたが、凛は最初に出会った日と同じように、魔弾の零距離射撃で気絶させた。その後、家に忍び込み、イリヤの部屋のベッドに、着替えさせて寝かせ、各々、明日また集合すると約束して解散した。
「イリヤはどうするかしらね……。まだ戦う気力が残ってると思う?」
《どうでしょうねー。仲のいい人がいなくなるのは、人生最大の悲劇ですから……さしものルビーちゃんも、楽観はできません》
イリヤがランサーに憧れ、良く懐いていたことは誰の眼にも明らかだ。
ランサーを失った悲しみと、死を与えられる実感を味わったイリヤが、戦場を恐怖し、戦うことを嫌がっても不思議ではない。むしろ、トラウマになっても当然である。
「今何時? あの子、学校に行けるのかしら?」
《あと30分もしたら家を出なくちゃいけない時間ですねー》
そんな折、
ブロロロロロッ!! グォォォォォンッ!! キイイイイイイイィィィィッ!!
空気を突っ切り、大地を抉り、鋭く急停止する音が、イリヤの泣き声をもかき消す勢いで響き渡った。
「え? 何?」
《さあ?》
それは凛たちも驚く、新たな人物の来訪――否、帰還であった。
◆
「で……私たちはこの町を出なくていいの?」
セレニケが、ミセス・ウィンチェスターに問う。
彼らがいるのは、キャスターのカードを使って作った、急造の拠点の一つ。現代の魔術師でも一週間で造れる程度の工房、神代のキャスターであれば一日もかからない。本来の重要拠点である、冬木市民会館地下や、旧間桐邸地下から目を逸らすための囮として造ったうちの一つ。ほとんどは、ルヴィアたちやアーチャーに潰されたが、ここは彼らの目を免れた。
とはいえ、何者かに襲撃された場合、防戦能力はほとんどない。無いよりマシな程度の拠点である。
「マダ待テ。モウ少シ、経緯ヲ見届ケテカラニシタイ」
「あいつ……私たちもモンスターって呼ぶことにするけど、別にもういいんじゃないの? あの魔眼は強力だけど、神霊召喚は無理だったってことは確かなんだし。あんたの役目は召喚の実行だけで、結果がどうあれ、あんたの責任じゃないでしょう?」
あの後の状況は、残していた使い魔からの視点で、ある程度わかっている。モンスターは、使い魔一匹一匹を始末する気はないようだ。鷹揚というべきか、無神経というべきか。
ランサーが身を捨てて、他の者たちを逃がしたことも――その後、ランサーが切り殺されたこともわかっている。
今、モンスターは大人しくしている。旧間桐邸地下を出てもいない。ただじっと動かず、立っていた。だがいつまでも大人しくしているとは限らない。邪悪な怪物の親玉として呼ばれたサーヴァントが、何もしないでいる方がおかしいのだ。いつ町に出て、周囲一帯の人間を殺し始めてもおかしくない。
巻き込まれる前に、逃げた方が無難だ。二人以外の『ドレス』の構成員は、既に町を出ている。規格外の怪物が野放しになろうと、神秘の秘匿が破られようと、彼らは気にしない。後の始末は、教会なり協会なりに押し付ければいい。
「ドレスノ実験トハ関係ナイ。コレハ私ノ興味ダ。趣味ト言ッタ方ガ正確カナ。彼ラガコレヨリドウ対処スルカ。見テミタイ。別ニ、オ前ハ先ニ帰還シテモイイノダゾ?」
「そうね……私も残るわ。イリヤお嬢ちゃんがどうなるか知りたいし……ふふ、それにしても」
セレニケは下あごに人差し指を当て、
「ランサーを失って、さぞ悲しんだんでしょうね。見たかったわ……あの子の泣き顔」
夢見る乙女のようにうっとりと、イリヤの悲嘆と絶望を想うのだった。
◆
どれほど泣いたのか。
悲しみが尽きたわけではないが、どうやら悲しむにも力がいるものらしい。
喉が痛み、涙が涸れ、疲れ果て、イリヤはただベッドに横たわる。
なんとはなしに、視線を巡らせると、床に一冊の漫画本が落ちているのを見つける。セラが見たら、だらしないと怒って片付けさせるだろう。
ランサーが、続きを読みたがっていた本だ。
「ランサー……」
涸れたはずの涙が、また滲んでくる。
『いや、逃げるんじゃないわよ。『立ち向かえ』って教えたでしょうが』
昨日言われたばかりの言葉が、脳内に蘇る。呆れているランサーの声が、聞こえたかのようだった。
「うん……うん……そうだったね」
零れる涙を拭い、新たに溢れる涙を必死で我慢しようとする。
それでも涙は流れる。
「立ち向かわなきゃ……もうランサーはいないんだ。自分で、立たなきゃ……」
グシグシと顔を擦り、イリヤは立ち上がろうとするが、立ち上がれない。
足に力が入らない。いや違う。力が入らないのは、心にだ。
「ランサー……」
何度拭っても、涙が零れ、涙と共に力が抜けていくようだった。
そして、そんなイリヤは、誰かが近づいてくる足音がするのに気が付かなかった。
「イ〜〜リ〜〜ヤ〜〜……」
声と共に、
「ちゃんっ!! おひさ〜〜!!」
バァンッ!!
激しくドアが開いた。
「マ……」
一瞬、イリヤは悲しみを忘れた。
ドアの向こうから、輝く笑顔が向けられている。
長く伸ばした、雪のようなシルバーブロンド。イリヤによく似た、美しい成人女性。
「ママ!?」
「うん! ただいまイリヤ♪」
一家の神、アイリスフィール・フォン・アインツベルンのご帰還であった。
◆
旧間桐邸。元々草木に覆われた空き地に過ぎなかったが、昨夜の戦いで、更に酷いことになっている。特に聖剣ビームをぶっ放した影響は大きく、草木は焼き払われ、大穴は空き、敷地内だけの被害で済んだのは幸運としか言いようがない。
そして、その地下の方はといえば、
「動きはないですわね」
滅茶苦茶になった旧間桐邸敷地に立ち、ルヴィアは使い魔から得た情報を口にする。その情報に、アヴドゥルは首を傾げる。
「なぜ動かないのだろうな? いやそもそも、奴には何か行動目的はあるのか?」
「ないでしょうね。しいて言えば、『バロール』の名を与えられたことによる、魔王としての振る舞い。暴虐な支配――今は、支配できるような理性を持っていないようですから、ただ暴虐と殺戮を振り撒くことになる可能性が高いですが、今、それを行っていないのはなぜか……」
モンスターが現界するための魔力は、彼女の核となっている聖杯から得ているはずだ。ほぼ無限にこの世界にあり続けることができる。しかし、現界していたところで何をするというのか。
元々実験のために召喚されたに過ぎない存在。呼び出したミセス・ウィンチェスターによって支配されているわけでもないようだ。元々、神霊を呼び出して、支配できるなどと考えていたわけではないのだろう。維持できずに一日で消えると考えていたようだし、自分たちの被害が抑える以外の対策はとっていないだろう。
自分たち以外が、もっと言えば『自分』以外が、どんな目に遭っても構わないという考えなのだ。たとえ、その一日で日本という国が滅びたとしても。
それが『ドレス』のやり方なのだ。
ゆえに、平穏に済ませる努力は皆無だ。逆に積極的に被害を出す気もないようだが。
つまり、神霊に対しても、召喚する以外の何もしてはいないだろうということ。
「そのわけを知るためにも、頼みましたわよ……美遊」
ルヴィアは、地下室へと潜入している美遊を想って呟いた。
◆
「久しぶり〜〜イリヤ〜〜」
ベッドの上、パジャマ姿のイリヤを背中から抱きかかえ、アイリスフィールはイリヤの全身を撫でまわす。
「マ、ママ……は、恥ずかしいよ」
「え〜〜? いいじゃない、これくらい。親子のスキンシップよ」
立派な大人ながら、子供のような笑顔でアイリスフィール――アイリはイリヤの小さな胸をフニフニと揉みまわす。母親でなければ通報ものの手つきである。
「ママ……その、私、これから学校なんだけど……?」
「今日はお休みしちゃいなさい♪ 仕事がひと段落したから私だけ帰ってきたけど、切嗣はまだ向こうにいるからすぐ戻らなきゃいけないの。学校から帰ってくるまではいられないから」
母親が娘に学校をサボらせるのはいかがなものかと思うが、イリヤは諦める。こういうときの母は、滅茶苦茶強引で、決して己を曲げることはないのだ。
「ねぇ、私が留守の間、何か変わったことあった?」
「えっ? ううん、別に」
一瞬、部屋を見回すが、ルビーはいない。
(あれ? どこ行ったのかな)
「またまたー。あったでしょ? すっご〜〜く、変わったことが」
「……えっ!?」
ルビーのことを考えていたイリヤは、母のツッコミに、血の気を引かせながら振り返った。しかし、アイリは呑気な笑顔で、
「ほら、ウチの目の前に建った豪邸!」
「あ、そっちね」
張っていた気が、一気に緩む。
とはいえ、確かに普通に考えれば、あんな大きなお屋敷が建っているのは中々のニュースだろう。
「ちょっと見なかったうちに、あんなのが建っちゃうなんてねー。一瞬帰り道間違えちゃったかと思ったわ」
「あはは……」
何を言うわけにもいかず、笑ってごまかす。
「セラから聞いたけど、イリヤのクラスメイトが住んでるんですってね」
流石に魔法少女仲間などとは言えないが、クラスメイトであることは夕食のときなどに話したことがあった。
「なんていう子なの?」
「……ミユ」
若干、返事が遅れた。イリヤは目が覚めてから、初めて美遊のことを思い出した。
そういえば、彼女はどうしているだろう?
「ミユちゃんか〜〜。転校生なんでしょう? 友達にはなれた?」
「……うん」
「ね、どんな子?」
「どんな子って……えっと……ミユは」
◆
旧間桐邸の地下。美遊はサファイアと共に潜入していた。
手には、イリヤが寝ている間にルヴィアが借りてきたクラスカード3枚――凛にちゃんと断ったのかは聞いていない。
(これを使えば、あの魔眼からも逃げられる。けど、私だけ。ルヴィアさんやアヴドゥルさんは来れない)
あの『死』そのもののような碧い輝きに見つめられるのは、吐き気がするほど恐ろしいが、やらねばならない。
使い魔では、モンスターの現状を調べきれない。だが、クラスカードを使えば、詳しく調べられる。
《大丈夫ですか? 美遊さま。敵は危険です。戦闘力や宝具の威力なら今までのサーヴァントにも高いものがいましたが、殺傷力という点では随一です》
「……確かに。でも」
サファイアと話しながら進む美遊も、モンスターの『直死の魔眼』の危険性は理解している。
しかし、
「今、イリヤはそっとしておきたい」
《……美遊さま》
大事な人が、自分を守るためにいなくなってしまう辛さは、それ以上に理解しているのだ。
「……いた」
地下室の広間の出入り口から、そっと身を乗り出す。モンスターの姿が、美遊の強化された目に映る。
暗闇の中に静かに立つモンスターの姿は、ぞっとするほど美しかった。
右手には抜き身の短刀。左手には――
(クラスカード)
間違いなく、ランサーのものだろう。
モンスターの目は、こちらを向いていない。
(サファイア、お願い)
(はい)
美遊の手にしたカードは、アーチャー。
「『夢幻(インス……)』」
ダッ!!
突如、モンスターが動いた。一跳びで、出入り口までの距離を詰める。
「!? 砲射(シュート)!!」
咄嗟に『夢幻召喚(インストール)』を中断し、魔力砲を放つ。近距離から放たれた魔力砲であったが、モンスターは迷いなくそれを切って捨てた。その刃がこちらを切り裂く前に、美遊もまた床を蹴り、モンスターの頭上を跳び越えて、反対側に降り立つ。
《どうやら、自分に害を加えられると判断した存在に関しては、反応するようです。使い魔は無視すれど、英霊化する魔法少女は殺害対象ということでしょう》
サファイアがモンスターの突然の行動を読み取る。機械のように自動的な存在であるようだ。しかし、その動きもまた正確。今までの黒化英霊のように獣じみた獰猛さではない。悪意や憎しみ、怒気さえ無い、ひたすらな殺意が、冷たく研ぎ澄まされて、襲い掛かってくる。
「『夢幻召喚(インストール)』の隙を、つくらないと……」
こちらに碧い双眼を向けるモンスターを見返しながら、美遊はなお目的を諦めてはいなかった。
一方、サファイアは、
(これは……仕方ありません。申し訳ありません、美遊さま)
声に出さず、美遊に謝罪し、己の中の機能を秘密裏に動かしていた。
◆
「ミユは……なんていうか、静かな子。必要なことしか喋らないし……て言うか、喋ることに、あんまり慣れてないのかも」
「ふーん」
「あ、でも、運動も勉強もすっごいんだよ。一気に一番になっちゃった。誰もミユには勝てないの」
イリヤは自分のことのように、美遊のことを誇らしげに褒める。そんなイリヤの説明を、アイリは微笑んで聞いていた。
「なんでもできる子なのね」
「うん、なんでもできる。ミユはなんでも、一人でできる……」
なんでもできる。そう……だっただろうか。
『その………できれば……教えてほしい。飛び方………』
なんでもできるんじゃない。なんでもできるようになろうと、一生懸命に……。
「本当に、そう思っている?」
「えっ……?」
「だって貴方、全然『大丈夫』って顔してないじゃない?」
何もかも見透かしたように、母は言う。ごまかしは通用しないと悟る。同時に、自分が自分自身をごまかしていたことを悟る。
「ねえ、これは、ママがお友達から教えてもらったことなんだけどね……人間のエネルギーは『思い出』なんだって」
アイリは、イリヤを見ながら、同時にここにいない誰かを見つめていた。
過去の誰かを。
「生きるということは、変なラクガキを見たり、毛布の臭いを嗅いだり、トイレの水が流れる音を聞くこと……友達と世間話をしたり、笑ったりすること。そんな『思い出』が細胞に勇気を与えてくれるんだって。今まで生きてきたことが、これから生きるための力になる……それが『思い出』なんだって。そして、一番いい『思い出』は、誰かと出会って、誰かと一緒につくった『思い出』なんだって。一人じゃなくて、ね」
「『思い出』……」
イリヤは、『思い出』を、思い出す。
『もう大丈夫なの? イリヤスフィール』
『それなら私も……美遊さんじゃなくて、美遊って、呼び捨てで……いい』
『こ、こちらこそよろしく……イリヤ』
一人でなんでもできる人なんて、いない。
イリヤは一人ではなんにもできない。ランサーはそんなイリヤを助けてくれた。
でも、ランサーだって、一人で戦い抜いたわけじゃない。夢を見て知っている。
そして、ミユだってそれは同じはずだ。ミユはなんでもできるように思えるけど、そんなことはない。どんなに力があっても、一人ではその力さえ出てこない。一人では、心がとても空っぽで、なんだか酷く寒くなる。いい『思い出』にはならない。
ランサーを失ったイリヤのように。ならば、きっとミユも今、辛いはずだ。
「ママ……やっぱり私、学校行くよ。きっと心配してるから」
「そう……行ってらっしゃい、イリヤ」
笑顔で部屋を出るイリヤだったが、ドアを開けた外には、ルビーが待ち構えていた。
「ル、ルビー? ちょ、ママに見つかっちゃうよ!」
母がドアを開けた隙間から見てしまうかもしれないし、兄の士郎や、セラ、リズが、いつ来るかもわからない。慌てて、小声で話しかけるイリヤだったが、
《すみません、聞き耳立てていまして。それより、ちょっとサファイアちゃんから連絡で、美遊さんがピンチっぽいです!》
「……!!」
◆
猫科の大型肉食獣のように、敏捷に跳ね動き、モンスターは美遊を追い詰めていく。魔力砲が足止めにもならない。
下手に空中に逃れるわけにはいかない。また宝具を放たれては、逃げ切れるかわからない。
武器を日本刀に変えていたが、あの刀自体は宝具ではないだろう。サファイアの鑑定によると、名刀であるのは間違いない。
銘は『九字兼定』。1500年代の刀鍛冶、兼定によって鍛えられた刀で、名の通り『臨兵闘者皆陣烈在前』の九字が彫られている。森長可ら、戦国武将も使用した名刀だ。
(それだけでも宝具に成り得る逸品であるけれど、おそらくあの武器の変化は、宝具を発動させるスイッチに過ぎない。武器を変えることで意識を変化させ、魔眼の力をより引き出している)
それが生前から持っていた力なのか、『バロール』として召喚されたことで付与されたものかはわからないが、あのとき襲われた感覚から本能的にわかった。刀が届かない位置にいても殺されると。
どうやらあの宝具は、『見た物全て』を、距離や範囲に関係なく、斬り殺すことができる。もし、高所から俯瞰して宝具を発動すれば、町一つをまとめて殺せるかもしれない。
(あれを出されたら、どんな防御でも殺される。けど、まだ役目を果たしていない。なんとか『夢幻召喚(インストール)』する余裕を――)
こちらの攻撃は当たらない。どれほど多くの散弾をばら撒いても、全て避けられるか、切り捨てられる。なら、別の足止めを考えなくてはいけない。
(目くらましを!)
美遊は、周囲一帯の床に向けて魔力砲を放つ。魔力砲は爆発して床を砕き、煙を巻き上げる。美遊とモンスターを、煙が覆い隠す。
(魔眼はどれほど強力でも『見る』ことで効果を発揮する。透視や千里眼でもない限り、視界を塞げばその効力は削げるはず)
モンスターがこちらを探している間に、『夢幻召喚(インストール)』を完了すればいい。
美遊はカードをかざし、
ドッ!!
鳩尾を打突され、吹き飛ばされた。カードが手から離れる。
「げふっ! こほっ! かはぁっ!!」
呼気が乱れ、悶え苦しむ美遊だったが、必死で飛びそうになる意識を繋ぎ留め、思考をする。倒れこみたがる体を、どうにか踏ん張って耐える。
(はっきりと、見えてはいかなかったはず……見えていたら、今頃、殺されていた。ただ、気配を感じ取り、いるであろう場所に向かって、打撃を叩き込んだだけ)
物理防御のおかげで致命傷にはならなかったが、それがなければ内臓が破裂していた。
(カードは……!)
そう遠くに転がったわけではないはず。吐き戻しそうな内臓の呻きを抑え、呼吸を整えながら、美遊は探す。幸いなことに、カードはすぐに見つかった。身をかがめ、カードを拾い上げたとき、
(……しまった!)
美遊は絶望した。
煙は、早くも薄れ始めている。そして、背後に立つ者の気配。
(見られている!)
背骨が氷に変わったような感覚。冷静に思考していたつもりでも、やはり混乱していたのか。モンスターの位置を見失うとは。
モンスターが後ろで動く気配を感じる。どう動いても、もはや手遅れ。
(死ぬ……)
美遊が、蛇に睨まれた蛙のように、死を待つのみとなった時、
「ミユっ!!」
とてもいいタイミングで、援軍が現れた。
ドゴォッ!!
高速で飛んできた援軍は、高出力の魔力砲をモンスターに撃ち放つ。美遊へと刃を向けていたモンスターは、その魔力砲への対応が間に合わず、まともに喰らった。
「大丈夫!?」
援軍の名はもちろん、
「イリヤ……なんで!」
「なんでってそりゃ……」
その問いは、イリヤにはむしろ意外だった。
答えは決まっている。
「友達を、助けに来たんだよ!」
もう、失いたくないから。
◆
鞄を手に、玄関に立つアイリスフィールを見送るセラは、やや沈んだ表情だった。
「心配性ね、セラは。イリヤなら大丈夫よ。私の子だもの」
「……力の封印が解けるなんて、よっぽどのことだとは思いましたが、まさか、聖杯戦争とは……。奥様は、なぜわかったのですか?」
セラは、イリヤの内に眠っていた力について、知っていた。ずっと前から、ずっと、眠ったままでいてほしいと祈っていた。だが、その祈りはついに届かず、力は目覚めた。
聖杯戦争――セラたちにとって、あまりに因縁深い儀式によって。
「……ツテがあってね。教えてもらったのよ」
「私は、イリヤさんには普通の女の子として生きてほしい。魔術とは関わりのない世界で平穏に……奥様もそう考えたから、アインツベルンを出て……!」
「そうね、でも……逃げ出すことで守れるものなんてないわ。いえ……逃げることもまた、戦いの一つの方法に過ぎないの。決して、安楽な道じゃない」
その静かに悟った、覚悟を決めた眼に見つめられ、セラは言葉を失う。
「あの子はちゃんと自分の意志で前へ進んでいる。『立ち向かい方』も教えてもらったみたいだし、もう守られるだけの子供じゃないわ。親としてはちょっと寂しいけどねー」
「奥様……」
セラを元気づけ、励ましながらも、ちょっと困ったような微笑みを向ける。セラはそんなアイリに感謝する。この優しい人が、自分の主人であるのは幸運なことなのだろうと。
「さてと……それじゃ、そろそろ行くわね。飛ばせば、昼には空港に着くわ。向こうで切嗣が待ってる」
「ど、どうか安全運転で……」
アイリの運転を思い出し、セラの声が震える。かつて、英霊でさえ血の気が引いた彼女の運転は、セラの忠誠心をしても同乗したくないものだった。
「私も戦ってくるわ。イリヤの……ううん、私たちの日常を護るために」
「はい……行ってらっしゃいませ、奥様!」
ドアを開け、アイリは外へと踏み出す。新たな戦いの待つ世界へ。
「ちゃんと生きて、『思い出』をつくっていかないと、彼女に申し訳ないものね」
アイリは、10年前を思い出す。
「でも、良かったわ。彼女の友達が、イリヤのサーヴァントだったのなら、きっとイリヤを強くしてくれたでしょうから」
10年前、アイリのサーヴァントであり、生まれてから最初の友達になってくれた彼女のことを、思い出す。
「私も、イリヤのサーヴァントに会いたかったな……。会って、貴方の話をしたかったわ……ねぇ、『F・F』」
『思い出』を胸に、アイリは未来へ進む。
『思い出』を力にして、一人ではなく、家族と共に。
……To Be Continued
2016年10月01日(土) 23:30:36 Modified by ID:nVSnsjwXdg