人外だらけの聖杯戦争18
人外だらけの聖杯戦争18 その終焉は犬死にあらず
「さて………それでは私は抜けさせてもらうよ。君らの始末はこの【温もり潰す妄執の左手(シアー・ハート・アタック)】がやってくれる。もしもこの場を生きて出ることができたら………柳洞寺に来るといい。我々は、そこで聖杯を下ろす」
『時臣』はそう言うと、踵を返し、先ほど凛が開けた壁の大穴から外に出て行ってしまった。
「なっ、待ちなさい!!」
当然、追おうとする凛だったが、そこに髑髏の顔の戦車が突っ込んできた。
『このっ!!』
すかさず、アサシンのスタンドがそれを払い飛ばす。
弾かれた戦車が落ちたところで爆発が巻き起こり、壁の一面が砕け散って外側に撒き散らされる。それでいて不思議と火は残らず、すべて燃え尽きて、ただ破壊の跡だけが残る。
『今ノ爆発ハ人間ジャネェー』
キュルキュルと音をたてながら、シアー・ハート・アタックは更なる破壊を求めて動きを再開する。
「な……なんなのよコイツ!」
どうやらこの戦車をどうにかしないと、『時臣』の後を追えないというのは確かなようだ。凛は動揺しながらも人差し指を突き付け、力を込める。
「Fixierung(狙え),EileSalve(一斉射撃)!!」
魔弾は全弾外れることなく、戦車に命中する。その衝撃に、戦車は軽く吹っ飛んで転がり、最終的に横倒しになった。
「『やったか………?』」
しかしそんなセイバーの呟きを合図としたかのように、戦車は力強く跳ね起き、さきほどより遥かに速くキャタピラを回転させ、またも二人のいる方向に突進を開始した。
「『このっ!』」
その突進力は、只の人間がくらえば、肉を破り骨を抉り、風穴を開けるに足るものだったが、激戦を連ねた今のセイバーにとってはいかようにも対処できる速度だった。
彼は脱力し、刃に無理をさせることなく、それでいて鋼鉄であっても切り抜けられる、そんな最も完璧な太刀筋で振りかぶった。
ギッチィィィィィィ
「『!!』」
刃はシアー・ハート・アタックに喰い込んだが、5センチ程度で押しとどまり、両断されることはない。かつて、最強クラスのスタンドによる連打をくらい、なお破壊されなかった『硬さ』は、今もって健在だった。
「『ちいいっ! オラァ!!』」
仕方なくセイバーは力任せに剣を振り、シアー・ハート・アタックを放り飛ばす。飛ばされた先でまた爆発が起き、壁に穴が開いた。
また転がり出てきたシアー・ハート・アタックには、既に刻まれた傷は無い。
「『なんつー硬さだ………しかももう直ってやがる』」
「これは………まさか〈壊れない〉という能力? そんなもの………」
いくらセイバーでも切り裂くことができるだろうか?
今まで幾度となくセイバーの切れ味を見てきた凛がそう考えるほど、シアー・ハート・アタックの硬さは別格だった。
「『………いや、俺に斬れないものなどない! 1回で駄目なら2回でも2億回でもぶった切るまでよ!!』」
「それも一つの考え方だけど、私は別の考えがあるわ………アイツはさっきからずっと、突っ込んで爆発する。それだけしかやってない」
凛が話している間に、またもシアー・ハート・アタックが突っ込んでくる。それをセイバーはまた斬りつけた。今度はもう3センチほど深く斬り込めたが、やはり両断には至らず、爆弾スタンドは弾き飛ばされ、着地地点でまた爆発する。
「ほらね? もう失敗するとわかっている行動を、なんの対抗策もとらずに繰り返している………。これは、フー・ファイターズに操られての行動じゃない。同じ行動パターンを自動的にやっているだけ」
『………つまり、こいつは自分で考えるオツムを持っていないってことか?』
「そういうこと」
アサシンに頷く凛は、右手をかざし、
「で、更に考えてみる。こいつがただ自動的に行動しているとして、いつまでも終わらずにいるわけはない。終わるためのスイッチがあるはず。そのスイッチは、普通に考えて私たちの『死』。それをどうやってこの爆弾は認識するか」
『半殺しとかじゃなくて、完全に死んだとわかるようなことだよな?』
「そうね。それで、今までのことで何かヒントがないか、思い起こしてみたんだけど………気にかかることがあったのよね」
凛の手のひらの中央で、小さな火の玉が生まれる。それは軽い音をたてて発射され、窓のカーテンの一つに着弾し、引火した。凛ほどの魔術師にしてみれば、遊び同然の魔術。しかし、
『!!』
それがシアー・ハート・アタックに与えた影響は、中々に急激だった。凛が話している間にも、性懲りも無く特攻を仕掛けてきていたスタンドは、急に方向転換し、燃えるカーテンに向かって突撃した。
ボッグワアアァァァァァン
カーテンを燃やす炎の中に、シアー・ハート・アタックが飛び込んだ瞬間、爆発が起こった。カーテンは一瞬で灰と消え、炎も他に燃え移ることなく、消滅した。
「『なんだなんだ?』」
「やはりね。あのスタンドが何を目標にしているのか、わかったわ。それは、〈温度〉よ」
先ほどから何度も爆発が起こっているのに、火がつくことは全くない。ただ敵を殺すためなら、炎を周囲にばら撒き、熱と煙によるダメージも与えた方が効果的だと言うのにだ。
また、『時臣』はシアー・ハート・アタックを使う直前、自分の魔術によって点いた炎をあえて消した。
それらの小さなヒントを元に、凛は『火』が何らかの邪魔になるのではないかと考えたのだ。
「こいつは、視覚でも聴覚でもなく、温度を捕らえて攻撃してくる。今の反応を見るに、おそらくより高い温度を積極的に攻撃するようになっている。で、体温以上に高い温度を破壊し終わった時に消えると見るのが妥当。となればこいつをどうにかするのは簡単よ」
凛は不敵な笑みを浮かべ、連続して火球を放つ。小さな火は、壁や床、天井に着弾し、七つの場所に炎が灯った。
『………コッチヲミロ〜』
すかさずシアー・ハート・アタックは、その炎のうちで一番近くにあったものに突っ込んでいく。
「人間の体温より高い温度を持つものを攻撃するとなれば、こうなるわけね。さて、この隙にフー・ファイターズを追うわよ」
『それはいいが………今火が点いている部分全部を爆破したら、この教会、本格的に潰れちまうんじゃねえか?』
「……………教会っていうのは人を救うためにあるものよ。人命の犠牲になるのもまた、神の社の役目というものではないかしら」
凛はそう言ったが、アサシンの目は、彼女の額に浮かんだ冷や汗を見逃してはいなかった。とはいえ、見逃さなかったからといってどうすることもないのだが。
『ま、いーや。俺の家ってわけでもなし。とっとと行こうか』
そしてアサシンが一歩を踏み出そうとした時、
ブオォォン
教会全体、壁も柱も、床も天井も、すべてが青白く輝いた。
「『なんだオイ!』」
「結界? まさか!」
ジュオン
火に水をかけた時のような音がしたと同時に、教会に灯っていたすべての火が消え去った。
「しまった! 炎を消す魔術結界……!!」
読まれていたということだ。凛がシアー・ハート・アタックの特性を見極めることも、どう対処するかも。
そして炎が消えれば当然、
『コッチヲミロ〜』
攻撃対象は、変更される。
ドウッ!
凛は、自分の背中に強い衝撃を感じた。グジャという潰れる音。ボキャリという砕ける音。そして、更に致命的な力が発動することが、理解できた。
彼女の目に映ったのは、必死の形相でこちらに手を伸ばすセイバー――いや、セイバーは凛の危機にここまで慌てたりはしない。今の彼は衛宮士郎だ。
(この馬鹿。あんたまで巻き込まれるじゃない)
ため息をつく間もなく、爆発は起こり、二人の肉体は過剰なまでに砕かれて、その体温ごと消失した。
―――――――――――――――――――――
『時臣』は、自分の左手にシアー・ハート・アタックが戻ってきたのを感じた。
「終わったか」
シアー・ハート・アタックが役目を遂げたということは、つまり少年と少女が死んだということだ。少々、残念に思うところがないではないが、これから始まる儀式に比べれば些細なこと。
「何せ、ひょっとしたら世界が終ってしまうかもしれないのだから」
―――――――――――――――――――――
「……………?」
士郎は目を覚ました。目を覚ましたところで、疑問を持つ。
(俺、死んだんじゃなかったっけ?)
最後の光景。爆発によって粉砕されていく凛の肉体と、更に自分にも襲いかかってくる容赦ない暴力。そして自分の腕が、足が、全身が抉られ、吹き飛ばされ、心臓が止まるという、常人では一生一度味わうかどうかという経験をした。
それは夢でも幻でもない。確かな現実だ。
「俺なんで生きてるんだ?」
『そりゃあ、俺が助けたからさ』
念話を受けて、周囲を見回すと、そこは未だに教会の内部で、その床に仰向けに倒れ、目を閉ざす遠坂凛がいた。
「と、遠坂!!」
『慌てんな。死んでねえ。極度に消耗しちゃあいるが、ちゃんと生きてるよ』
その念話を受け、士郎はようやく、念話の相手がアサシンであると認識する。そしてアサシンの姿を見た時、士郎は息を呑んだ。
『みっともねえ姿だ。あんまジロジロ見んなよ』
アサシンの子犬の体は、足先から光の粒子となって消えていく。紐がほどけるように、だんだんと、彼の体は小さくなっていった。
「アサシン! それは一体!」
『代償だよ。宝具を使った、な。まあ、二人分の命を救った代償が俺一匹なら、破格だろ。前は一人助けてやるのが精いっぱいだったしなぁ。一度は確かに死んで、体温も消えたおかげで、あの爆弾も消滅したし、いいことづくめだろ』
それは、アサシンが【賢者を超えた愚者(ザ・フール)】と共に併せ持つもう一つの宝具。かつて、彼が戦友を救うために己を犠牲にして、その命を失くしたというエピソードを宝具にしたもの。その効果は、自分が消滅することと引き換えに、他者の命を救うこと。
その名も【その終焉は犬死にあらず(イギー・ポップ)】。
「アサシン。お前………」
『へっ、しけた面すんなよ。それより、マスターが目を覚ましたら、優勝できなくて悪かったって言っといてくれ。それと、お前の傷も治す時に、ちょいとおまけをつけといた。役に立つかもしれないぜ』
「おまけ………何だそいつは」
『すぐわかるさ………それじゃあな』
それだけ言い残して、アサシンは完全消滅した。その顔には無念さも後悔もなく、ただ誇り高く、輝きに満ちていた。
そしてついに、士郎とセイバーは、今回の聖杯戦争における最後のマスターとサーヴァントになった。
……To Be Continued
「さて………それでは私は抜けさせてもらうよ。君らの始末はこの【温もり潰す妄執の左手(シアー・ハート・アタック)】がやってくれる。もしもこの場を生きて出ることができたら………柳洞寺に来るといい。我々は、そこで聖杯を下ろす」
『時臣』はそう言うと、踵を返し、先ほど凛が開けた壁の大穴から外に出て行ってしまった。
「なっ、待ちなさい!!」
当然、追おうとする凛だったが、そこに髑髏の顔の戦車が突っ込んできた。
『このっ!!』
すかさず、アサシンのスタンドがそれを払い飛ばす。
弾かれた戦車が落ちたところで爆発が巻き起こり、壁の一面が砕け散って外側に撒き散らされる。それでいて不思議と火は残らず、すべて燃え尽きて、ただ破壊の跡だけが残る。
『今ノ爆発ハ人間ジャネェー』
キュルキュルと音をたてながら、シアー・ハート・アタックは更なる破壊を求めて動きを再開する。
「な……なんなのよコイツ!」
どうやらこの戦車をどうにかしないと、『時臣』の後を追えないというのは確かなようだ。凛は動揺しながらも人差し指を突き付け、力を込める。
「Fixierung(狙え),EileSalve(一斉射撃)!!」
魔弾は全弾外れることなく、戦車に命中する。その衝撃に、戦車は軽く吹っ飛んで転がり、最終的に横倒しになった。
「『やったか………?』」
しかしそんなセイバーの呟きを合図としたかのように、戦車は力強く跳ね起き、さきほどより遥かに速くキャタピラを回転させ、またも二人のいる方向に突進を開始した。
「『このっ!』」
その突進力は、只の人間がくらえば、肉を破り骨を抉り、風穴を開けるに足るものだったが、激戦を連ねた今のセイバーにとってはいかようにも対処できる速度だった。
彼は脱力し、刃に無理をさせることなく、それでいて鋼鉄であっても切り抜けられる、そんな最も完璧な太刀筋で振りかぶった。
ギッチィィィィィィ
「『!!』」
刃はシアー・ハート・アタックに喰い込んだが、5センチ程度で押しとどまり、両断されることはない。かつて、最強クラスのスタンドによる連打をくらい、なお破壊されなかった『硬さ』は、今もって健在だった。
「『ちいいっ! オラァ!!』」
仕方なくセイバーは力任せに剣を振り、シアー・ハート・アタックを放り飛ばす。飛ばされた先でまた爆発が起き、壁に穴が開いた。
また転がり出てきたシアー・ハート・アタックには、既に刻まれた傷は無い。
「『なんつー硬さだ………しかももう直ってやがる』」
「これは………まさか〈壊れない〉という能力? そんなもの………」
いくらセイバーでも切り裂くことができるだろうか?
今まで幾度となくセイバーの切れ味を見てきた凛がそう考えるほど、シアー・ハート・アタックの硬さは別格だった。
「『………いや、俺に斬れないものなどない! 1回で駄目なら2回でも2億回でもぶった切るまでよ!!』」
「それも一つの考え方だけど、私は別の考えがあるわ………アイツはさっきからずっと、突っ込んで爆発する。それだけしかやってない」
凛が話している間に、またもシアー・ハート・アタックが突っ込んでくる。それをセイバーはまた斬りつけた。今度はもう3センチほど深く斬り込めたが、やはり両断には至らず、爆弾スタンドは弾き飛ばされ、着地地点でまた爆発する。
「ほらね? もう失敗するとわかっている行動を、なんの対抗策もとらずに繰り返している………。これは、フー・ファイターズに操られての行動じゃない。同じ行動パターンを自動的にやっているだけ」
『………つまり、こいつは自分で考えるオツムを持っていないってことか?』
「そういうこと」
アサシンに頷く凛は、右手をかざし、
「で、更に考えてみる。こいつがただ自動的に行動しているとして、いつまでも終わらずにいるわけはない。終わるためのスイッチがあるはず。そのスイッチは、普通に考えて私たちの『死』。それをどうやってこの爆弾は認識するか」
『半殺しとかじゃなくて、完全に死んだとわかるようなことだよな?』
「そうね。それで、今までのことで何かヒントがないか、思い起こしてみたんだけど………気にかかることがあったのよね」
凛の手のひらの中央で、小さな火の玉が生まれる。それは軽い音をたてて発射され、窓のカーテンの一つに着弾し、引火した。凛ほどの魔術師にしてみれば、遊び同然の魔術。しかし、
『!!』
それがシアー・ハート・アタックに与えた影響は、中々に急激だった。凛が話している間にも、性懲りも無く特攻を仕掛けてきていたスタンドは、急に方向転換し、燃えるカーテンに向かって突撃した。
ボッグワアアァァァァァン
カーテンを燃やす炎の中に、シアー・ハート・アタックが飛び込んだ瞬間、爆発が起こった。カーテンは一瞬で灰と消え、炎も他に燃え移ることなく、消滅した。
「『なんだなんだ?』」
「やはりね。あのスタンドが何を目標にしているのか、わかったわ。それは、〈温度〉よ」
先ほどから何度も爆発が起こっているのに、火がつくことは全くない。ただ敵を殺すためなら、炎を周囲にばら撒き、熱と煙によるダメージも与えた方が効果的だと言うのにだ。
また、『時臣』はシアー・ハート・アタックを使う直前、自分の魔術によって点いた炎をあえて消した。
それらの小さなヒントを元に、凛は『火』が何らかの邪魔になるのではないかと考えたのだ。
「こいつは、視覚でも聴覚でもなく、温度を捕らえて攻撃してくる。今の反応を見るに、おそらくより高い温度を積極的に攻撃するようになっている。で、体温以上に高い温度を破壊し終わった時に消えると見るのが妥当。となればこいつをどうにかするのは簡単よ」
凛は不敵な笑みを浮かべ、連続して火球を放つ。小さな火は、壁や床、天井に着弾し、七つの場所に炎が灯った。
『………コッチヲミロ〜』
すかさずシアー・ハート・アタックは、その炎のうちで一番近くにあったものに突っ込んでいく。
「人間の体温より高い温度を持つものを攻撃するとなれば、こうなるわけね。さて、この隙にフー・ファイターズを追うわよ」
『それはいいが………今火が点いている部分全部を爆破したら、この教会、本格的に潰れちまうんじゃねえか?』
「……………教会っていうのは人を救うためにあるものよ。人命の犠牲になるのもまた、神の社の役目というものではないかしら」
凛はそう言ったが、アサシンの目は、彼女の額に浮かんだ冷や汗を見逃してはいなかった。とはいえ、見逃さなかったからといってどうすることもないのだが。
『ま、いーや。俺の家ってわけでもなし。とっとと行こうか』
そしてアサシンが一歩を踏み出そうとした時、
ブオォォン
教会全体、壁も柱も、床も天井も、すべてが青白く輝いた。
「『なんだオイ!』」
「結界? まさか!」
ジュオン
火に水をかけた時のような音がしたと同時に、教会に灯っていたすべての火が消え去った。
「しまった! 炎を消す魔術結界……!!」
読まれていたということだ。凛がシアー・ハート・アタックの特性を見極めることも、どう対処するかも。
そして炎が消えれば当然、
『コッチヲミロ〜』
攻撃対象は、変更される。
ドウッ!
凛は、自分の背中に強い衝撃を感じた。グジャという潰れる音。ボキャリという砕ける音。そして、更に致命的な力が発動することが、理解できた。
彼女の目に映ったのは、必死の形相でこちらに手を伸ばすセイバー――いや、セイバーは凛の危機にここまで慌てたりはしない。今の彼は衛宮士郎だ。
(この馬鹿。あんたまで巻き込まれるじゃない)
ため息をつく間もなく、爆発は起こり、二人の肉体は過剰なまでに砕かれて、その体温ごと消失した。
―――――――――――――――――――――
『時臣』は、自分の左手にシアー・ハート・アタックが戻ってきたのを感じた。
「終わったか」
シアー・ハート・アタックが役目を遂げたということは、つまり少年と少女が死んだということだ。少々、残念に思うところがないではないが、これから始まる儀式に比べれば些細なこと。
「何せ、ひょっとしたら世界が終ってしまうかもしれないのだから」
―――――――――――――――――――――
「……………?」
士郎は目を覚ました。目を覚ましたところで、疑問を持つ。
(俺、死んだんじゃなかったっけ?)
最後の光景。爆発によって粉砕されていく凛の肉体と、更に自分にも襲いかかってくる容赦ない暴力。そして自分の腕が、足が、全身が抉られ、吹き飛ばされ、心臓が止まるという、常人では一生一度味わうかどうかという経験をした。
それは夢でも幻でもない。確かな現実だ。
「俺なんで生きてるんだ?」
『そりゃあ、俺が助けたからさ』
念話を受けて、周囲を見回すと、そこは未だに教会の内部で、その床に仰向けに倒れ、目を閉ざす遠坂凛がいた。
「と、遠坂!!」
『慌てんな。死んでねえ。極度に消耗しちゃあいるが、ちゃんと生きてるよ』
その念話を受け、士郎はようやく、念話の相手がアサシンであると認識する。そしてアサシンの姿を見た時、士郎は息を呑んだ。
『みっともねえ姿だ。あんまジロジロ見んなよ』
アサシンの子犬の体は、足先から光の粒子となって消えていく。紐がほどけるように、だんだんと、彼の体は小さくなっていった。
「アサシン! それは一体!」
『代償だよ。宝具を使った、な。まあ、二人分の命を救った代償が俺一匹なら、破格だろ。前は一人助けてやるのが精いっぱいだったしなぁ。一度は確かに死んで、体温も消えたおかげで、あの爆弾も消滅したし、いいことづくめだろ』
それは、アサシンが【賢者を超えた愚者(ザ・フール)】と共に併せ持つもう一つの宝具。かつて、彼が戦友を救うために己を犠牲にして、その命を失くしたというエピソードを宝具にしたもの。その効果は、自分が消滅することと引き換えに、他者の命を救うこと。
その名も【その終焉は犬死にあらず(イギー・ポップ)】。
「アサシン。お前………」
『へっ、しけた面すんなよ。それより、マスターが目を覚ましたら、優勝できなくて悪かったって言っといてくれ。それと、お前の傷も治す時に、ちょいとおまけをつけといた。役に立つかもしれないぜ』
「おまけ………何だそいつは」
『すぐわかるさ………それじゃあな』
それだけ言い残して、アサシンは完全消滅した。その顔には無念さも後悔もなく、ただ誇り高く、輝きに満ちていた。
そしてついに、士郎とセイバーは、今回の聖杯戦争における最後のマスターとサーヴァントになった。
……To Be Continued
2010年11月21日(日) 21:33:54 Modified by ID:guJjBI7HzQ