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イリヤの奇妙な冒険26


   【Fate/kaleid ocean ☆ イリヤの奇妙な冒険】


   『26(終):Zero――可能性』



【とある漫画本より抜粋】

『無』から『有』は生まれない、という表現がよくなされる。

 だがそれはかつての話だ。現代の物理学では、まったくなにもない『無』=『絶対真空』の中で、『素粒子』という超とてつもなく小さい粒子が、突然発生することが証明されている。
 そしてその『素粒子』はエネルギーに変身、化ける事ができる。エネルギーになって突然発生したり、突然消えたりするそうなのだ。
 この『素粒子』は宇宙の彼方の理論や話ではなく、この地球上の日常でも満ち溢れるように行われている出来事だ。
『引力』とか『質量』もこれが原因らしい。

 つまり『無』から『有』は生まれ、『無』とは『可能性』の事だというのだ。


   ◆


「これは……なんだ?」

 雀花の問いに、イリヤは答えられない。

「やー……なんだと言われても、私にもよくわからないんだけどさ」

 日本育ちスキルの代表格、曖昧スマイルを浮かべるイリヤの右腕には、少し頬を赤くした美遊がコアラのようにしがみ付いていた。

「な、なんというデレっぷり……! これは……」
「イリ子のやろー! 俺たちの知らないところで美遊ルート攻略しやがったのか!!」

 那奈亀が戦慄し、龍子がハンカチを絞り上げて唸り声をあげる。

「ま……まぁ仲がいいのはいいことじゃない」

 今にも興奮に身を任せて襲い掛かりそうな龍子を宥めながら、美々が曖昧スマイルをイリヤに返す。
 学友たちの疑問は当然である。ついこの間まで、決してクラス内でなれ合わず、孤高を貫いていた転校生が、ある日いきなりご覧の有様だ。

「う、うん……」

 イリヤは髪の毛をいじりながら、自分でも悩む。
 一体何があったのか?

   ◆


「ライダー、アサシン、セイバー、アーチャー、バーサーカー、キャスター、そして……ランサー」

 昨夜、モンスターを討ち果たしたイリヤたちは、地上に上がって地面にカードを並べていた。

「はあああああああ…………すべてのカードを回収完了。これで……コンプリートよ」

 盛大に息をつく凛。そしてイリヤも美遊も、全員が、全てを終わらせた後の深い息をついていた。
 全員、ようやく生きている実感が湧いてきたのだ。まだ朝日が昇るには遠く、冷えた夜の空気に満ちていたが、死に晒されていた寒気に比べれば、非常に暖かく感じられる。

「終わったんだ……」

 息を尽き終えたイリヤは、ランサーのカードと、アーチャーのカードを見つめる。

(ランサー、アーチャーさん……終わったよ)

 嬉しそうでいて、どこか切なさを含んだイリヤ。そんな彼女の顔を、母が子を、もとい、姉が妹を慈しむような眼で見つめながら、凛とルヴィアは、

「イリヤ」
「美遊」

 声をかけられ、二人の魔法少女が振り向く。

「……勝手に巻き込んでおいてなんだけど、貴方たちがいてくれてよかった」
「私たちだけでは、おそらく勝てなかったでしょう」

 舐めていたつもりではなかったが、できない任務ではないと思っていた。だが、それは慢心であったのだろう。
 仮にも英霊を敵とした戦い――これほど厳しいものになるとは思わなかった。

「最後まで戦ってくれて……ありがとう」
「私からも、お礼を言わせていただきますわ」

 だから凛とルヴィアは、心からの感謝を口にする。命を賭した聖杯戦争になど、参加する義務はなかった、それでも戦い抜いてくれた小さな子供に、プライドの高い魔術師二人は、尊敬さえ込めて頭を下げた。
 イリヤはもちろん、美遊もその真正面からの感謝に、むず痒そうに照れた様子であった。

「それじゃ、このカードは私がロンドンに……」

 そして、束ねた7枚のカードを掲げた凛であったが、

 ヒョイ

「ん?」

 凛の手からカードが消える。

 ババババババッババババッ!!

 直後、盛大な音が響き渡り、凛が頭上を見上げると、

「ホ―――ッ、ホッホッホ!! 最後の最後に油断しましたわね!!」

 ヘリコプターから降ろされた縄梯子に手足をかけ、高笑いするルヴィアがいた。もちろん、縄梯子を掴むのとは逆の手には、しっかりとカードがあった。

「ご安心なさい! カードは全て私が大師父の元へ届けて差し上げますわ〜〜っ!!」
「んなああああああッ!!」

 どうやら、事前に魔術で音を消したヘリコプターを待機させていたらしい。

「ちょ、ちょっとあんたっ!! 手柄独り占めする気かコノォォォッ!!」
「ホ―――ッ、ホッホッホ!!」

 天高く飛んでいくヘリコプターをすぐさま追いかけ、魔弾をズギュンズギュンと撃ち放ちながら追いかける凛。
 最後まで仲の悪い二人は、朝日が昇る前の暗い町を駆け抜けていった。

   ◆


(……そのままルヴィアさんは逃走。朝まで二人はおいかけっこをしていたそーな。そして、今朝になったら突然この状況なんだよね……)

 あれから一度、疲れ切った体を休めるために家に戻り、朝になったら美遊が玄関まで迎えに来ていた。
 それから一緒に学校に来たわけだが、通学路でもずっと引っ付きっぱなしなのだ。正直恥ずかしいが、振りほどくほど迷惑というわけではない。
 ただわけがわからないだけだ。

(何がなんだか……や、別にいいんだけど)

 イリヤの葛藤に気づいているのかいないのか、美遊はベタベタと離れない。

「まーいいや! ミユキチも丸くなったってことで! 今後とも仲良くしていこーぜっ!!」

 細かいことを考えるのをやめた龍子が、能天気な笑い声をあげて、美遊にベシベシと親愛を込めて、軽いチョップをベシベシと入れる。
 が、

「は? どうして貴方と仲良くしなくちゃいけないの?」

 美遊は、そんな気安い龍子の手をはじき、冷酷に言い放った。
 氷の針のような眼差しが、龍子を、クラスメートたちを突き刺す。

「私の友達はイリヤだけ。貴方たちに関係ないでしょう? もうイリヤには近づかないで」

 殺気さえ感じさせる冷たい声に、雀花たちは血の気が引いた。本気だとわかった。

「う……うおおアアアアアアッ!!」
「な……泣かせたぞーッ!!」

 龍子がギャーギャー泣き出し、雀花が慌てる。しかし、誰より慌てたのはイリヤだ。

「ちょ、ちょっとミユ〜〜ッ!?」
「?」

 ガッと美遊の肩を掴んで迫るイリヤに、美遊は自分の行動にまるで疑問を持っていない様子で小首を傾げる。

「何を怒ってるの……? 私の友達は生涯イリヤだけ。他の人なんてどうでもいいでしょ?」
「何それ重ッ!? ていうか友達の解釈ヘンじゃない!?」

 困惑の色を浮かべ、イリヤの方こそおかしいと言わんばかりの美遊に、イリヤは頭を抱える。

(わっ、わからない……っ! イヤ、結構前からそうだったけど、この子が何考えているのかわからない……っ!! 誰か助けてっ! ルヴィアさんは……駄目だっ!! ア、アヴドゥルさんっ……戻ってきてぇっ!!)

 胸の奥で、真剣に呼びかけるが、それは無理である。
 唯一の常識人、モハメド・アヴドゥルは、もう日本を出てしまったのだから。

   ◆

 凛とルヴィアが去ってしまった後、ポカーンとしていたイリヤたちに、アヴドゥルは声をかけた。

「あー……それでは、私もこの町を去るとしよう。君たちには世話になった」

 決戦を終え、強敵を倒したハッピーエンドの空気とは思えぬ、コメディチックな空気の中で、少し言いづらそうであったが、アヴドゥルは真摯に感謝の言葉を述べる。

「セイバーにバーサーカーに、モンスター……私の炎が通用しない相手があれほどいるとは。補助程度の役割しかできなくてすまなかった」

 申し訳ないと謝罪するアヴドゥルであったが、その3体はサーヴァントの中でも規格外の輩だ。むしろそれら以外のサーヴァントになら正面から戦えて、勝ち目もあるというのが恐ろしい。
 補助にしても、彼の炎が注意を引き、時間を稼いでくれなければ詰んでいた局面は幾つもあった。

「い、いいえっ、私こそ、お世話になりましたっ!」
「ミスター・アヴドゥルには、助けられました」

 イリヤが慌てて頭を下げる。美遊もまた、クールに礼をする。

「ふふ……いつまでも仲良くするんだぞ? また縁があったら会おう」

 赤き炎を操る、褐色の戦士――モハメド・アヴドゥル。
 最後まで、頼れる大人のイメージであった。

   ◆


 エジプトに帰ってしまったアヴドゥルが、ジャジャ〜〜ン、待ってましたと助けにきてくれるはずもなく、混迷は深まっていく。

「オギャアアアアアアァァァ!!」
「いかん! タッツンがマジ泣きだ!」
「ちょっとイリヤ! なんとかしれー!」
「わ、わたしー!?」

 教室中がざわめき、パニックは収まらない。

(ああ……戦いは終わったけど……もしかしたら本当に大変なのかこれからなのかもしれない……)

 日常に帰ってきたはずのイリヤは、別種の戦いに身を投じるのだった。

   ◆

 カツカツと音を立て、男はユグドミレニア家の館を闊歩する。
 背は高く、逞しい体格。やや長い後ろ髪。まとっているのは、教会の神父が着用する立襟の祭服、カソック。
 イリヤたちに、ミセス・ウィンチェスターと名乗っていた男である。
 彼は、一つのドアの前で立ち止まり、ノックをする。数秒後、

「開いているわ。入っていいわよ」

 ドアの向こうから許可を貰い、彼は入室する。

「やあ、その後どうだね? セレニケ」

 中にいた女性、セレニケに声をかけると、彼女は頬に飛んだ鮮血を拭いながら答えた。

「別に? いつも通りよ」

 セレニケは物言わぬ肉塊に成り果てた生贄から、ナイフを抜き取る。

「もうメイド服は着ていないのかね? 似合っていたのに」
「殺すわよ? あんなものは、任務だから着ていただけ」

 クックッと笑う男にナイフを向けるセレニケの眼には、殺意があった。

「仕方なかろう、クラスカードで『夢幻召喚(インストール)』したときと、同じ衣装を着こむように言われたのだから。ドレス製クラスカードに適正があったのは、魔術師としての力が増えるという点で喜ぶべきではないか?」
「ちっ……確かにそれなりに使えはするわ。癪だけど。生贄によって力を得る、私の黒魔術において最も注意すべきは、負の力や、他者からの怨恨を貯め込みすぎて、暴走や自滅を起こさないこと。その点で、己が身に死病を抱えて、自分だけ生きながらえた者――他者からの呪いを受けながら、己を曲げなかった女――『腸チフスのメアリー』は、手本にすべき存在と言えなくもない」

 セレニケが所持していたクラスカードは『腸チフスのメアリー』。クラスはイレギュラークラス、『使用人(サーヴァント)』のサーヴァント。
 ステータスは全く大したものではないが、逃げ続けて賄い婦の職に就き続けたという逸話から、逃走能力は中々のものだ。また、チフス菌を持ちながら発病しなかった逸話により、病気をもたらす呪いなどの魔術は通用しない。冬木市民会館で戦った後、凛にガンド魔術で攻撃されて、無事でいられた理由がこれである。


「けどメイド服は私に似合わないわ……見るのはいいけど。そうね、今度、生贄に着せたうえで儀式をしてみようかしら」

 ちなみに、セレニケが人間を生贄とする場合、彼女が好みとするのは美少年である。

「ああでも……あの小娘に着せて、儀式をしてみたいものね。生き延びたんでしょう? イリヤちゃんは」

 イリヤの名を口にするとき、彼女の口からは同時に瘴気が放たれたように感じられた。よほどの執着をしているのだろう。

「ああ。あのモンスターに打ち勝ったらしい。その時に見せた力もさることながら、『ドレス』研究陣は、クラスカードが聖杯戦争以前より強化されていることに関心をもったらしいな。アーチャーのカードが、聖杯戦争前は役立たずの弓した『限定展開(インクルード)』できなかったのに、サーヴァントの核となった後では、二振りの中華剣を『限定展開(インクルード)』してみせた」

 そう言われ、セレニケは不思議に思った。最後の戦いにおいて、使い魔の類はモンスターによって始末されており、セレニケたちも脱出していた。一体、誰がその情報を持ってきたのか。

(魔術か、サーヴァントか、それともスタンド使いか。私たち以外にも、送り込まれた実力者がいたってことかしらね? あいつら、何を隠しているのか……)

 秘密があることは不満だったが、魔術師は隠すことが基本である。仕方がないと諦め、セレニケは続きを聞く。

「クラスカードは根源にアクセスしてサーヴァントの力を降ろしているが、そのアクセスをする力が、サーヴァント召喚を経て強化されたのだろうというのが、研究陣の推測だ」
「へえ……つまり、ドレスが造った弱いクラスカードも、それを使って聖杯戦争をすれば、もっと強いカードになるかもしれないって?」
「まあな。だが、冬木にばら撒かれたカードの正体や、誰が造ったのかはわからずじまいだ。しばらく、あの町には監視が向けられるだろうな」

 眼鏡の魔女は、ナイフの血を拭き取りながら話を聞き、

「ふぅん……じゃあ、まだ機会はあるわけね」

 何の機会かなど、聞くまでもなかろう。その、血に酔い、残酷な死を想ってうっとりとほほ笑む彼女の様を見れば。

「ああ……魔法少女を愛でる機会は、まだあるさ」

 同志に向かって男――言峰綺礼は頷く。その顔は、未来に胸をときめかせ、とても愉しそうだった。

   ◆


「はい……?」

 携帯電話を耳に当てる凛は、嫌な汗を流し、死んだ魚のような目をしながら聞き返した。

「どういう……意味ですか。大師父」
『言ったままの意味じゃ』

 電話の向こうで言葉を返す男――魔道元帥キシュア・ゼルレチッチ・シュバインオーグは、聞き違いであってほしいと願う凛を、絶望させた。

『カード回収はご苦労じゃった。約束通り、お前たちを弟子に迎えるのはやぶさかではないが……』

 魔術の世界で最高峰に立つ男は、残念な事実を口にした。

『魔術を学ぶ以前に、お前らには一般常識が足りておらん』
「なっ……」

 凛は反論しようとしたが、客観的に見て、宝石翁の言うことはもっともである。

『幸い、日本は《和》を重んじる国じゃ。留学期間は一年。喧嘩で講堂をブチ壊すような性格を直してこい。弟子にするのは……これからじゃな』

 言うべきことを言い終えると、無慈悲に電話を切る。いや、条件付きにせよ弟子入りは許可したのだから慈悲はあるのだろう。
 けれど、凛の立場では、散々苦労して得られた権利を、直前で反故にされたに等しい。

 バキィッ!!

 携帯電話を片手の握力で握りつぶし、

「ふッッッざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

 墜落し燃え上がるヘリコプターと、顔面から大地に叩きつけられて眠るルヴィアをバックに、吠えるのだった。

   ◆

 騒動の多々あった学校から帰る途中に、憤懣やるかたないという様子の凛に会い、まだしばらくこの町にとどまることになったという話を聞き、イリヤは正直、嬉しかった。
 凛には悪いが、クラスカードがもう一年だけでも近くにあることが、嬉しかった。

(私はランサーの夢を見た)

 イリヤは回想する。ランサーの生涯を――そして、知っている。ランサーが、いつどこで生まれ、どこで育ったか。断片であるが、知っている。

(ランサーは、今この時間なら、まだ生きている)

 彼女が、未来から来た英雄であったことも、知っている。

(もしかしたら、今から準備して、彼女の手助けをすれば……彼女は死なずにすむかもしれない)

 ランサーの願いは『敵と戦うため、戦場に戻ること』。けれど、イリヤの行動によっては、その願いを、願わなくてもよくなるかもしれない。
 ランサーが、戦場で死ななくてもよくなるかもしれない。
 彼女が育ったのは、アメリカということしかわからない。広いアメリカで、一人の子供を探すなど、どれだけ難しいかはわかっている。
 でも、非日常を知ったイリヤには、『可能性』はあると思えた。

(ミユにも相談……していいのかな?)

 今日の態度を見ると、ちょっと怖いが、ランサーには美遊も世話になっていたし、多分大丈夫だろう。

(でも少し、様子を見ながら相談しよう)

 ルビーにせよ凛にせよ、どうも真剣な相談をするのが、ちょっと怖い相手しかいない。イリヤは頭を悩ませる。
 その歩みはまだまだ鈍く、いつ辿り着けるかわからない。

 それでも、イリヤが立ち止まることは、無いだろう。

(今、ランサーは私と……同い年)

 だからきっと、また会える。





   【Fate/kaleid ocean ☆ イリヤの奇妙な冒険】――完


   ◆


   ◆


   ◆


 エジプト、カイロ国際空港。
 エジプト航空の拠点であり、アフリカで2番目に搭乗客の多い空港である。

 その空港にモハメド・アヴドゥルの姿はあった。

「やはり、故郷に帰ると落ち着くな」

 しみじみとアヴドゥルは呟き、時間を確認する。この後、スピードワゴン財団の人間と会う予定であるが、それまでまだ1時間ほど間がある。

「カフェででも時間を潰すか……」

 そうして歩き出したアヴドゥルの視界の片隅を、一人の女性が横切った。

(…………)

 無意識に、アヴドゥルはその女性を目で追う。
 短髪の赤毛、皮の手袋にスーツ。顔立ちは凛々しく、美しい。まるで物語の中の女騎士のように颯爽としていながら、同時に重々しい落ち着きを兼ね備えている。
 目で追うのも致し方ない美女であるが、アヴドゥルの注意を引いたのは美しさだけではない。

(強い……な)

 アヴドゥルは女性の姿勢、歩き方から、その力量を看破する。
 重心がブレることのない、武術を心得た者の歩き方。どの方向から襲われても対応できるようにしている。
 顔の広いアヴドゥルは、武の達人たちも何人か知っているが、そんな中に入れても彼女はトップクラスだろう。

 女性は、ロンドンにあるヒースロー空港行きの飛行機の、搭乗口に向かっていった。

(何者……あの雰囲気は、傭兵か……?)

 ふと思い立って、アヴドゥルは荷物から商売道具を取り出す。占いに使う、タロットカード。カードの束を幾度か切った後、束の中から一枚抜く。
 そして表を見ると、獅子を屠る大男が描かれていた。

「【力(ストレングス)】……タロット8番目のカード。暗示するのは、『挑戦』、『強い意志』、『秘められた本能』……か」

 それがあの女性を意味するカードなのか、あの女性と関わる誰かの方を意味するのかわからないが、このカードを抜いた時、なぜか、あの赤い短髪の女性ではなく、つい昨日まで共にいた少女の姿が脳裏に浮かんだ。

「あるいは、これは君のカードなのか? イリヤくん」

『秘められた本能』――彼女の中に眠っている力。

「ふむ……どうやら、彼女の冒険は、まだこれからのようだな。だが、彼女たちなら、負けはしないだろう」

 窓からヒースロー行きの飛行機を見つめながら、アヴドゥルは予言するのだった。



 ……To Be Continued?


  • ドレス製クラスカード:ステータス


【CLASS】キャスター
【真名】サラ・パーディー・ウィンチェスター
【性別】女性
【属性】中立・中庸
【ステータス】筋力E 耐久E 敏捷D 魔力B 幸運D 宝具C
【クラス別能力】
  • 陣地作成:C+
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 彼女は、『工房』とは異質な『迷宮』を形成することが可能。

  • 道具作成:C
 魔力を持つ道具を作り出すスキル。
 悪霊避けの礼装を作ることを得意としている。

【保有スキル】
  • 交霊:B
 良き精霊からお告げを聞くことができる。戦術、戦略を組み立てるのに役立つ。

  • 黄金律:B
 身体の黄金律ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。一生金には困らないが、それが幸せとは限らない。

【宝具】
◆我が愛と逃亡の日々(ウィンチェスター・ミステリー・ハウス)
ランク:C 種別:対陣宝具 レンジ:50 最大捕捉:300

 彼女が生前建設した『ウィンチェスター・ミステリー・ハウス』を、魔力によって再現したもの。再現と言っても、改変することもできる。
 自分の心象風景を具現した異界を一時的に世界に上書きして作り出す、固有結界とは似て非なる大魔術。
 対象を自分が逃げ切るまで、建物に閉じ込めることができる。この建物の中では幻想や神秘は弱体化してしまう。脱出するには、館の迷路を解き明かすしかない。

   ◆

【CLASS】サーヴァント
【真名】メアリー・マロン
【性別】女性
【属性】混沌・悪
【ステータス】筋力D 耐久C 敏捷C 魔力D 幸運E 宝具C
【クラス別能力】
  • 単独行動:C
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクCならば、マスター不在でも1日間現界可能。

【保有スキル】
  • 自己保存:B
 マスターが無事な限りは殆どの危機から逃れることができる。

  • 死病保菌者:A
 病気になる条件が整っても、その身が病気になることがない。病気になる呪いなども通用しない。

【宝具】
◆生きた究極の選択(ギルティ・オア・ノットギルティ)
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:− 最大捕捉:1人

 多くの人間を死に追いやっても、それが罪であるか否か、誰にも答えを出せない彼女の存在そのものが宝具となったもの。
 自身への危機を、無傷で回避することができる。危険が大きいほど回避確率は下がるが、最低でも五割の確率で回避できる。
2016年10月20日(木) 00:01:14 Modified by ID:nVSnsjwXdg




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