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歴史

エイコーン・コンピュータの創業

1978年、イギリスのケンブリッジにおいて、後のARMプロセッサ開発の母体となるエイコーン・コンピュータ(Acorn Computers)の歴史が始まった。同社は当初、コンピュータのコンサルティングやマイコンキットの開発を主目的として設立された。
創業の経緯とメンバー
創業者は、クリス・カリーChris Curry)とヘルマン・ハウザーHermann Hauser)の2名である。カリーは以前、クライブ・シンクレア卿が設立したSoC(Science of Cambridge:後のシンクレア・リサーチ)で働いていたが、友人であるハウザーと共に自身の会社を興すために独立した。ハウザーはオーストリア出身で、ケンブリッジ大学で物理学の博士号を取得した人物である。
Cambridge Processor Unit (CPU) Ltd. の設立
1978年12月、彼らはまずCambridge Processor Unit (CPU) Ltd. という名称の会社をケンブリッジで設立した。当初の主な業務はコンピュータのコンサルティングサービスを提供することであり、その活動で得た資金を基にマイコンキットの開発・販売を目指していた。同社はケンブリッジ大学との強いコネクションを持ち、大学の優れたコンピュータ設計スキルを活用することができた。
エイコーン・ブランドの誕生
CPU Ltd.の製品ブランド名および販売会社として、Acorn Computers Ltd. が立ち上げられた。社名に「Acorn(どんぐり)」が選ばれたのは、アルファベット順の名簿でライバル企業であるApple Computer(アップル・コンピュータ)よりも前に来るようにするためであったとされる。1983年には成長に伴う組織再編によりAcorn Computer Group plc としてロンドン株式市場(USM)に上場を果たした。
初期製品とビジネスの拡大
同社が最初に手掛けた製品はナショナル セミコンダクター社の「SC/MP」プロセッサを使用したパーソナルコンピュータのキットであったが、間もなくMOSテクノロジー社の「6502」へと切り替えた。

1980年に発表された「Acorn Atom」は6502(1MHz)を搭載し、120ポンドから販売されて高い評判を獲得した。続く1981年12月にはBBC(英国放送協会)のコンピュータ教育プロジェクト向けに「BBC Micro」を発表した。このマシンの成功により、エイコーン社はイギリスの教育用コンピュータ市場で80%以上の圧倒的なシェアを築くこととなった。
製品名発表年搭載CPU特徴・影響
Acorn Atom1980年MOS 6502 (1MHz)120ポンドから販売され高い評判を獲得した初期モデル
BBC Micro1981年MOS 6502 (2MHz)BBCの教育プロジェクト向けに開発され、英国教育市場の80%以上を占有

このBBC Microの成功で得られた多大な利益と、既存の16/32ビットプロセッサへの不満が、後の自社製プロセッサ(ARM)開発へと繋がっていくことになる。

Acorn RISC Machine(ARM)プロジェクトの始動と経営危機

1980年代初頭、BBC Microの成功で潤ったエイコーン社は、次世代のビジネス向けコンピュータ(ABC:Acorn Business Computer)の開発を検討し始めた。同社はIntel 80286やNational Semiconductor 32016などの既存プロセッサを評価したが、それらは設計が複雑で割り込み応答が遅く、同社が求める性能を満たしていなかった。また、6502の供給元であるWDCには、より大規模なプロセッサを開発するリソースがないと判断された。

こうした背景から、1983年に同社のエンジニアであるスティーブ・ファーバー(Steve Furber)とソフィー・ウィルソン(Sophie Wilson)は、米国のバークレー校によるRISCプロジェクトの論文に触発され、独自プロセッサの自社開発を決意した。

1983年10月に「Acorn RISC Machine(ARM)プロジェクト」が正式にスタートし、ウィルソンが命令セットを設計、ファーバーがアーキテクチャのハードウェア実装を担当した。しかし1984年後半、低価格機「Acorn Electron」の深刻な過剰在庫問題やクリスマス商戦の不振、さらにARMなどの膨大な開発費が重なり、エイコーン社は急激な資金難に陥った。この深刻な経営危機を受け、1985年2月にイタリアの事務機器大手Olivetti社からの出資を受け入れ、同年のうちに同社の傘下(過半数株式取得)に入った。当初、Olivettiは教育市場やブランド獲得を目的としていたが、エイコーンが秘密裏に進めていたARM技術の潜在能力に驚かされることとなる。

Acorn Archimedesの誕生とプロセッサの進化

独自プロセッサの開発は順調に進展し、最初の試作シリコンから製品版チップの完成へと繋がった。

1985年4月26日に最初の試作シリコンである「ARM1」が届き、即座に正常動作が確認された。ARM1は3μmのCMOSプロセスで製造され、約25,000個のトランジスタを搭載していた。これは市販されず、評価やソフトウェアの移植、次世代チップ設計用の機材として活用された。

1986年にテストを開始し、1987年には最初の商用プロセッサ「ARM2」が登場した。2μmプロセスで製造されたこのチップは、わずか27,000個のトランジスタ構成でありながら、当時の主要なプロセッサを凌駕する実行速度(8〜12MHz駆動で約4〜6MIPS)と低消費電力(0.1W)を誇った。

さらに1989年には改良型の「ARM3」が投入された。1.5μmプロセスで製造され、ARM初となる4KBのオンチップ・データ/命令キャッシュを統合したことで、25〜33MHzでの駆動が可能となり、処理能力はARM2の約3倍(約13〜26MIPS)に達した。
チップ名登場時期プロセスルールトランジスタ数主な特徴・性能
ARM11985年3μm約25,000個試作チップ。市販されず開発機材として使用
ARM21987年2μm約27,000個初の商用プロセッサ。消費電力0.1Wで4〜6MIPSを実現
ARM31989年1.5μm約300,000個初の4KBキャッシュ搭載。25〜33MHz駆動で13〜26MIPSを達成
Archimedesの発売とRISC OSの完成
1987年6月、ARM2を搭載した世界初の商用RISCパソコン「Acorn Archimedes」シリーズが発売された。このマシンは急造された暫定OS「Arthur OS」と「BBC BASIC V」を搭載し、当時としては驚異的なグラフィック処理能力と動作速度を披露した。

その後、 Arthur OSに代わる本格的なマルチタスクOSとして「RISC OS 2」(後にRISC OS 3へ進化)が完成した。ROMに収まる非常に軽量な設計でありながら、洗練されたGUI環境(WIMP:ウィンドウ、アイコン、メニュー、ポインタ)を提供し、その後のエイコーン製マシンの標準となった。

Archimedesの登場は、PC市場に32ビットRISC時代をもたらし、後の独立企業ARM Ltd.の設立(1990年)と、現在のモバイルプロセッサ市場を席巻するARMアーキテクチャの礎を築いた。

Appleとの提携とARM社の分離独立

1990年代に入ると、ARMプロセッサは特定のパソコン用CPUという枠を超え、低消費電力を武器とした汎用プロセッサ・アーキテクチャへと変貌を遂げる。
Newtonプロジェクトとスピンアウト
Apple Computer(当時)が新しい携帯情報端末「Newton」を開発するにあたり、エイコーン社のARM技術が持つ高い電力効率に注目した。しかし、Appleは競合するパソコンメーカーであるエイコーン社から直接ライセンスを受けることを避けたため、またARMを業界標準にするために、プロセッサ部門を独立した企業としてスピンアウトさせる必要が生じた。
ARM Ltd.の設立
1990年11月、エイコーン社、Apple、VLSIテクノロジー社の3社による合弁会社Advanced RISC Machines Ltd (ARM) が設立された。エイコーン社からは、チップ設計の立役者であるソフィー・ウィルソンやスティーブ・ファーバーを含む12名のエンジニアが移籍し、ケンブリッジ郊外の改装された納屋を本社として再出発した。初代CEOロビン・サクスビー卿は、自社でチップを製造・販売するのではなく、回路設計の権利(IP:知的財産)を半導体メーカーに提供する「IPライセンスビジネスモデル」を確立した。この戦略により、ARMは自ら工場(ファブ)を持たずに、世界中のメーカーへアーキテクチャを急速に普及させることに成功した。
ARM610とその後
スピンアウト後に最初に手掛けた主要製品は、Apple Newton向けに32ビットのアドレス空間をフルサポートしたARM6コア(ARM610)であった。これが、現在のスマートフォンや組み込み機器で圧倒的なシェアを誇るARMプロセッサの系譜の真の出発点となった。

このスピンアウト後、エイコーン・コンピュータ本体は1999年に解体・事業再編の道を辿るが、同社が産み落としたARMの種は、モバイルコンピューティングという広大な新天地で世界のテクノロジーを牽引する巨大な生態系へと成長を遂げた。
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このページへのコメント

必死で草

0
Posted by テスト 2026年07月28日(火) 14:30:07 返信数(1) 返信

何が?

4
Posted by ななし民 2026年07月28日(火) 14:30:32

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