中学校におけるビデオ制作学習

九大芸工学府○(元院生) 東義真  佐賀大(院生) 濱田悠
佐賀大(院生) 中村瑠奈  佐賀大 西村雄一郎  佐賀大 角和博

1.はじめに
1990年代後半からアメリカではデジタル技術の革新が起きた。マイクロソフト社や、アドビ社などでの開発が進み、また一方で日本製ビデオカメラなどのハード技術が進展したことで、現在は、非常に簡単に映像撮影・編集ができる機材が整っている。映像制作のための機材は、10年前には、500万円かかっていたコマ単位の編集機材も、現在では大変安価になった。また当時をはるかに凌ぐ高精度のデジタル機器の量産化で、価格は10万円でも十分揃うようになった。
日本のエレクトロニクスメーカーが普及用ビデオカメラを開発したにもかかわらず、実際には、アメリカやヨーロッパの方が、そうした機材を早く学校教育にも取り入れてきたようである。映像制作を取り入れた授業は、国内ではまだ一般化していない。中学校では、図書室とパソコン室が統合したメディアセンターの普及とともに、ビデオ制作も広がりつつある。中学校技術・家庭科学習指導要領によれば「コンピュータを利用したマルチメディアの活用について、指導する」と明記されている。そこで本報告では中学校技術科における映像制作学習を検討した。

2.ビデオ撮影用機材
ビデオカメラは、現在、映像を映し出すスクリーンであるTVモニターが、「スタンダード」(縦横比3:4)と「ハイビジョン」(縦横比9:16)が混在して出回っている。将来的には、ハイビジョンが主流になるだろうが、今現在は中学校のビデオ制作では「スタンダード」で十分であろう。インターネット上で販売価格を見ると、ビクターのGR-D750は、2万5000円程度の価格で購入可能である。
3.ビデオ編集用機材
つぎに映像を編集するために必要になるPCは、直販のe-machinesなどの安価なものなら、7万円以下で十分な映像編集スペックを持ったPCを購入可能である。たとえば、ペンティアム4(3ギガヘルツ以上)または同等CPU、1ギガ・メモリ、160ギガ・ハードディスク(7200回転以上)などが推奨される。もちろん、この基準以下のPCでも映像編集は可能ではあるが、映像は、速い処理速度、多くのメモリ、速くて大容量の記憶装置、を必要とし、スペックが低いPCでは、編集プログラムがフリーズを起こすことも多い。ビデオ映像をキャプチャーするために、IEEE端子が装備されていることが必要であるが、これは拡張ボードでも5000円程度で購入可能である。ディスプレイは、3万円程度もので十分である。

4.ビデオ編集用ソフト
映像編集のためのソフトは基本的な部分をしっかりおさえ、なお、高度な合成映像も可能にする安価なソフトで、「Adobe Photoshop Elements 5.0 Adobe Premiere Elements 3.0 セット」がよい。こちらが、2万円程度の価格で販売されている。他にも編集ソフトはいくつかあるが、Windows用では、これ以上の使いやすさと精度があるものはないように考えられる。ここまでの価格を計算すると、約15万円程度である。これは、現在のデジタル技術あってこそ成し得る価格であり、これからますます必要になる映像の技術教育を支えるものとして適していると思われる。

5.ビデオ制作学習の内容検討
 本研究では、米国フロリダ州のセントピータースバーグ・カレッジでビデオ制作を教えるトーマス・ラブランド教授とテレビ会議(スカイプ)を通して検討を重ね、佐賀市立金泉中学校の選択技術でビデオ制作クラスを実践した。
 授業の導入にあたっては、まず生徒の身近なビデオ作品について考えさせた。それによって、生徒たちは、いかに多くの映像文化の中で生活しているかを実感できた。
 ビデオ制作クラスの進行は、映画スタジオにおける映画制作のプロセスを実践した。
 まず図1のようにシノプシス(物語のあらすじ)を書く。シノプシスからシナリオにするためのフォーマットについて学習する。そして、カメラ撮影するための「画コンテ」を描く、という手順である。実際の撮影の前に多くの準備段階があることが認識できたようである。

シノプシス(物語のあらすじ)を書く
        ↓
 シノプシスからシナリオ・フォーマットへ
        ↓
 シナリオから画コンテを作成する
図1・映像制作の流れ

 映像制作における、ビデオカメラ撮影以降の手順は、ハードのいっそうの整備が不可欠である。また図2のような機材の学校配備が必要となる。
 
GR-D750(ビデオカメラ)で素材映像を撮影
        ↓
安価デスクトップPCに映像入力
        ↓
グローバルスタンダードの編集ソフト
「プレミア」で作品完成からDVD化まで可能

図2・撮影と編集の機材

6.まとめ
 中学生の選択技術で映像制作クラスを実践したことから、この分野において、まずビデオカメラや、パソコン、ビデオ機器などの撮影機材や編集機材の必要性が明確になった。生徒たちは、テレビやDVDなどで供給される多くの映像に囲まれて、その映像文化を享受している。そこを後押しすることで、未来のコンテンツ産業が育まれるし、同時に、創作という作業を通して、深い人間性を獲得できると思われる。
 また学校教育において、「メディアリテラシー」について学ぶためには、映像制作などの体験的な学習が必要である。戦争報道や多くのドキュメンタリーにおいても、映像は常に操作されて提示されていることを生徒たちはしっかり知っておくべきである。若い頃に、こうした事実を知らなければ成長してから映像を鵜呑みにすることにもなりかねない。その場合、情報操作を伴う報道によって社会が狂わされることもある。しっかりした鑑識眼を学校教育において養うことは、生徒たちの将来のために重要であり、中学校技術科の授業「情報とコンピュータ」の中で、このような映像を学ぶ・創る教育において促進することが求められる。

文献
1.文部省監修, 「中学校学習指導要領解説 技術・家庭編」, 東京書籍, 平成11年, p.40−42
2.間田泰弘ら, 「技術・家庭 技術分野」, 開隆堂, 平成19年, p.204−207
3.加藤幸一ら監修, 「新編 新しい技術・家庭 技術分野」,  東京書籍, 平成17年, p.210−211
4.西村雄一郎, 「一人でもできる映画の撮り方」,洋泉社, 2003
5.ジェイムズ・モナコ, 「映画の教科書」, フィルムアート社, 1993
6.ルイス・ジアネッティ, 「映画技法のリテラシーII」, フィルムアート社, 2003

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