アマリリスの里

ユキ その後

ハンスリームの名産品に、「アマリリス」と呼ばれる赤い花と、その花を使った真っ赤な染め物がある。
昔から細々と売られていた品だが、カ人が好んで買って行くため取り扱い量が増えた。最近では若い女性を中心に、アマリリスで染めた服や花が流行っている。
アマリリスは、ずっと北の山奥にある小さな村でのみ採れるそうだ。いつも専門の商人が仲買をしていたが、その男がここひと月ほど姿を見せず、不穏な噂が広がっていた。


簡単な地図を手に、村を目指して山道を進む。
いくつ目かの深い森に入ったとき、不意に異様な寒気を感じた。気温が下がっていることもあるが、それだけではない。死霊たちの発する独特の冷気だ。
あちこちの木陰や岩陰から食屍鬼が顔を出し、こちらに向かってくる!!


食屍鬼を倒し、断崖の細い道を進んでいると、向こうにユラユラと揺らめく人型の影が現われた。
影の目らしき部分が、無気味な赤い光を放った。……と思うと影の間から鈍く光る剣が覗き、次の瞬間、ものすごいスピードで切りかかってきた!!


影には武器を振るってもすり抜けてしまうだけで、まったく効かなかった。なんとか魔法を使って倒し、先へ進む。
すっかり陽が暮れた頃、谷にかかる古い吊り橋の前にやってきた。辺りには霧が立ちこめ、橋の向こうを見渡すことができないほどだ。
橋の手前には、明かりを手にした4人の人影があった。
どうやら怪物や悪霊の類ではなく、人間のようだ。そろそろ「アマリリスの里」が近いから、里の人なのかもしれない。敵意のないことを表しながら近づく。


近づいてみると、彼らは以前ユキを連れて来たときに見た顔だった。
「おお、あんたはあの時の……」
彼らと一緒に村に向かう。


村は、以前に来たときとは全く違う景色になっていた。うっすらと積もった雪が辺りを覆い、灰色の風景の中で、少しだけ残されたアマリリスの赤色が異様に目立つ。
長の家に通されると、人払いがされた。
「その後、ユキは元気でやっていますかな? ……そうですか。それは良かった。
もう、このような村は消え去るべきなのかもしれませんな。あの時はああ言ってしまいましたが、街で幸せになれるなら、若い者にはその方がずっと良いでしょう。またあの子に会うことがあったら、よろしくお伝え下さい……」
雪の上についた足跡を辿り、街に帰った。


With ユキ

ハンスリームの名産品に、「アマリリス」と呼ばれる赤い花と、その花を使った真っ赤な染め物がある。
昔から細々と売られていた品だが、カ人が好んで買って行くため取り扱い量が増えた。最近では若い女性を中心に、アマリリスで染めた服や花が流行っている。
アマリリスは、ずっと北の山奥にある小さな村でのみ採れるそうだ。いつも専門の商人が仲買をしていたが、その男がここひと月ほど姿を見せず、不穏な噂が広がっていた。


「よろしくお願いします」
今回は、アマリリスの里に連れて行ってほしいという踊り子のユキを連れてきた。彼女は片手に短剣をぎゅっと握りしめ、固い表情で3人に挨拶した。
「足手まといにはなりませんから……」
緊張させないように気を使いながら、山道を行く。一度は行ったことのある道だ。そんなに危険なこともないだろう。


「今『アマリリスの里』と呼ばれている村は、本当はコラトスと言うの。わたしはその村で生まれて……ちょうど1年ぐらい前、両親が相次いで死んで、ひとりぼっちになったとき、幼馴染から『村から出よう』って誘われたの。シビトバナと小さな畑くらいしかない村なんか捨てて、大きな街で暮らそうって」
道すがら、ユキは自分のことを話した。
「村には村を守るための呪いがいくつもかかってるんだけど、4人いれば橋を渡って、それで街に出られると思ってた。でも、それだけじゃなかったのね。途中の、そう、ちょうどこのあたりの道で、私たちはモンスターに襲われた……」
村への道は断崖の細く険しい部分に差しかかっていた。
「逃げろって。いいから逃げろ……って言われて、夢中で逃げて、麓の村まで来たところで何日も皆を待ったわ。でも、わたしの他は誰も……」


谷にかかる古い吊り橋の前にやってきた。
「この橋には強力な守護者がいるの。でも、4人で同時に渡れば大丈夫。……行きましょ」


橋を渡り、村を目指す。
すっかり陽は暮れ、急に霧が濃くなり始めた。
ガシャン、ガシャン……。
道の先の方から、無気味な音が聞こえてくる。重いプレートメイルを着て歩くような音だ。
不意に前方の霧が晴れ、一体の人影が姿を現わした。
「ア、会イタカッタ……」
漆黒の鎧と血のような赤いマントを纏った暗黒の騎士・ダークストーカーがゆっくりと剣を抜く!


ダークストーカーはかなりの使い手だったが、こちらの方が一枚上手だった。悲痛な断末魔の声が森にこだまし、漆黒の鎧は砂となって崩れ落ちる。
「い、今、何か……。何か言った!?」
取り乱すユキを必死になだめる。何も聞こえなかった。何も……。


アマリリスの里は、小さな小さな谷間の村だった。森や荒れ地ばかりの土地で、あちこちに群生している赤い花が異様に目立つ。
こんな所では、若者は何の希望も持てないだろう。シビトバナ――死人を養分にして育つ、街では「アマリリス」と呼ばれる花――に食われるために生きているようなものだ。
ユキは長の家を尋ね、村を出たことを詫びた。
「気持ちは分からんでもない。だが、他の者の暮らしのことも考えてくれ……」
彼の立場がそう言わせるのかもしれないが、あまりにも冷たい返事だった。彼女と一緒に村を出た3人の消息を尋ねたが、長は黙って首を横に振った。


長の家を出ると風が冷たかった。もうこの村に彼女の家はないという。
「……今日はありがとう。もう、帰りましょう」
そう言ったユキはもう、ステージにいる時のような晴れやかな表情になっていた。
帰り際、彼女の両親の墓を訪ねた。この村の死人は土葬し、その上にたくさんのシビトバナを植える。真っ赤に咲く花が墓標代わりのようだ。
「まだ咲いてないみたい。ふたりとも、すごく痩せてたからかな」
まだ蕾も見えないシビトバナに向けて、一緒に手を合わせた。
「わたし、頑張るね。みんなの分も……」
2005年11月24日(木) 08:13:55 Modified by lunatic_dog




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