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この世の果てで恋を唄う少女YU-NO

 弟から「やりなさい」と言われた一本です。弟はこういう作品の情報をどこで仕入れてくるのかが不思議でなりません。

 原作はPC向けのエロゲーだそうです。私がやったのは、その原作のPS4向けフルリメイクです。ゆえにエロ描写は大胆に隠されてギャルゲーレベルにマイルドにされています。

 とはいえ原作はエロゲーなので、要所要所にエロ描写が挟まるADVになっています。官能サウンドノベルと言ってもいいかもしれません。

 というわけで重要なのはシナリオなのですが、本作の評価が高いのもこのシナリオが作り込まれているからです。「タイムリープとパラレルワールドがメインテーマになっている」と言うととても陳腐に響いてしまうかもしれませんが、メインテーマがその2つなのは事実なので他に言いようがありません。
 本作が秀逸なのはネタバラシの焦らし方ではないでしょうかね。本作のストーリーを大きく分けると、2部構成になっています。第1部は、普通のエロゲーと形容してもいいかもしれません。本作の舞台となっている境町では、主人公の父親の失踪を契機に色々な事件が巻き起こるわけですが、それに巻き込まれるヒロインたちに寄り添いながら、絆を深めていく展開になっているのが第1部です。
 わりかし普通のエロゲーとはいえ、第1部の冒頭では先述のように「主人公の父親はどこに消えたのか」という大きな謎がプレイヤーに提示され、お話の展開に従ってその大きな謎を取り囲むように小さな謎たちもどんどん増えていくわけですが、第1部ではこれらの謎に対する回答はほとんど出てきません。そのせいでプレイヤーは謎のことをほぼ忘れてしまい、エロに突き動かされてお話を読み進めるようになります。

 第2部は、また全然違う舞台からお話が始まります。そして、とにかく長いです。クリア後のオマケ程度の長さだろうと思っていたプレイヤーの心をへし折ってきます。第1部との関係もよく分からない時間が長いので、プレイヤーは焦燥を掻き立てられます。ところが我慢して読み進めていくと、第2部の終盤で怒涛のように種明かしがされるわけです。ここで第1部に張られていたものも含めてほぼ全ての伏線が回収され、全部が緻密に組み立てられたお話になっていたのだということがプレイヤーに分かるわけです。この時に得られるカタルシスは、長い時間を耐えたからこそ大きくなるのです。

 耐えなきゃいけない時間がとても長いという意味ではクセは強いのですが、その時間をエロで繋ぎとめる構成になっているのが秀逸だと思います。

 タイムリープものやパラレルワールドものは展開が複雑になり過ぎて良くないと思うことがあるのですが、そこまで複雑でもありません。ちゃんと理解はできます。一応硬派なSFみたいに難解な理論的背景も説明してくれるのですが、あそこは読み飛ばしても大丈夫です。

 エロゲーらしくエロ描写は時に露骨すぎると感じられることもあります。ムラムラしてはいけない状況でやるのは苦しいでしょう。近親相姦らしき描写もありますし、父親の後妻がヒロインの一人ですし、他にも父と穴兄弟になってしまう展開があります。ただエロゲーの世界ではこの程度は普通でしょうから、そこは割り切っていただくしかないです。

 やって損はありません。「通常のコンシューマーゲームのみならずエロゲーにも含蓄があるゲーム通と思われたい人」がまず手を出すべき一作です。有名なエロゲーはプレイすること自体が難しいものが多いので、手軽なところで本作から手を出してみてはいかがでしょうか。

 ちなみに私がちゃんとプレイた美少女ゲームの一本目になってしまいました(ドキドキ文芸部は美少女ゲームとは認めていません)。一本目は、もっと覚悟をしてからやった方が良かったのではないかと後悔しきりです。ただこれくらいカジュアルに行かないとなかなかバージンを捨てられなかったような気もします。弟の深謀遠慮に身震いしています。

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