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完全にネタバレをします。ミステリーなので、本稿を読むのは作品の読了後をお勧めします。
異色作という評判を聞きつけたので読んでみました。
不可解な状況で起きた人死にの真相が問題になるという骨子は普通のミステリーと一緒です。本作の特徴は、探偵役の主人公に対して別の登場人物が、自分の考えた真相をぶつけて論戦を挑むという構造になっていることです。その際の論理バトルがおもしろいという触れ込み、のようです。
ちなみに最後の最後で真相は提示されますが、この真相自体にさほどの目新しさはないので、やっぱり主に楽しむべきは論理バトルの方なんだと思います。
まず肝腎なこととして、探偵が事件の唯一の生き残りである依頼者・渡良瀬莉世から聞いていた話は、全て伝聞だったということが終盤で明らかになります。実は、渡良瀬莉世は生き残りの少女本人ではなく、その少女から直接聞いた話及び報道等から得た情報を話していただけだったのです。そのため、細かい部分の話を信じ切っていいのかという疑問は、どうしても残ります。第一章では渡良瀬莉世の話という体で現場で起きていたことが臨場感をもって描かれていますが、伝聞の情報をあんなにちゃんと話せる気はしません。話せていたとしても、正確だという担保がどこにもありません。特に論戦で探偵が勝利した根拠となった「豚の番号札の仕様」「少女のギプスの壊れやすさ」「祭壇の鏡の高さ」「最後の晩餐前に少女が鏡を動かしたかどうか」などはどれも非常に細かい部分であり、少女本人に確認しない限りはこれを確実な事実として論破の材料に使うのにはとても不安が残ります。加えて言うならば、事件現場は少女が渡良瀬莉世の兄を殺したとしか思えない状況であるため、莉世が少女憎しで話を歪めている可能性も大いにあります。また、少女本人の話が聞けたとしても、彼女は意識が混濁していた時間帯があったので、特にその前後の記憶は正確かどうかがかなり危ういと思われます。
推理小説のルールとして、一定部分は正確だという前提を飲み込んだうえで読み進めないとおもしろくならないというのは分かりますが、論理を戦わせるのがおもしろい小説としてこういうツッコミどころが残るのは少々いただけません。
加えて各論戦で使われた論拠も、少々希薄だと思います。第2戦では、少女が目覚めた際に少年の首がまず目に入ったことが論破の根拠として使われていますが、意識が混濁気味だった少女に正しく視覚的情報を認識できた保証がありません。ギプスが壊れやすいことも論破の根拠になっていますが、壊れやすさの程度も分からないので、どれほどそこに乗っかっていいのかもよく分かりません。
第3戦でも、「食べ物の隠し場所は少女と少年しか知らなかった」ことが論破の根拠になっていますが、この2人以外に知らなかったということもどこにも保障がありません。しかもこの穴は少年と少女が掘ったものであり、のちに子豚が隠されるとともに少女が2週間ばかり食いつなげるほどの食料と水も隠されるのですが、2人だけでそんな大きな穴を他の信者の目を盗んで掘れたのかというのは疑問が残ります。
多少興醒めするかもしれませんが、「この事実は確実な真実として信じていいですよ」というのを、第四の壁を破ってでも読者に提示すべきではないでしょうか。その方が、探偵が敵を論破した際のカタルシスも、多少は上がると思います。無論、第四の壁を破らずにこれを無理なく保証する仕組みを作れれば、それはそれで大変結構な発明になると思います。例えば、警察の生の事件記録みたいな形のものを(バイオシリーズのFILEみたいな感じで)提示することは考えられます。
あとは細かい話になりますが、登場キャラクターはキャラ付けがはっきりしてる代わりに、そのせいで文章や台詞回しがかなり衒学的(かつ衒奇的)になっています。ここは、好みの部分だとは思います。
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異色作という評判を聞きつけたので読んでみました。
不可解な状況で起きた人死にの真相が問題になるという骨子は普通のミステリーと一緒です。本作の特徴は、探偵役の主人公に対して別の登場人物が、自分の考えた真相をぶつけて論戦を挑むという構造になっていることです。その際の論理バトルがおもしろいという触れ込み、のようです。
ちなみに最後の最後で真相は提示されますが、この真相自体にさほどの目新しさはないので、やっぱり主に楽しむべきは論理バトルの方なんだと思います。
まず肝腎なこととして、探偵が事件の唯一の生き残りである依頼者・渡良瀬莉世から聞いていた話は、全て伝聞だったということが終盤で明らかになります。実は、渡良瀬莉世は生き残りの少女本人ではなく、その少女から直接聞いた話及び報道等から得た情報を話していただけだったのです。そのため、細かい部分の話を信じ切っていいのかという疑問は、どうしても残ります。第一章では渡良瀬莉世の話という体で現場で起きていたことが臨場感をもって描かれていますが、伝聞の情報をあんなにちゃんと話せる気はしません。話せていたとしても、正確だという担保がどこにもありません。特に論戦で探偵が勝利した根拠となった「豚の番号札の仕様」「少女のギプスの壊れやすさ」「祭壇の鏡の高さ」「最後の晩餐前に少女が鏡を動かしたかどうか」などはどれも非常に細かい部分であり、少女本人に確認しない限りはこれを確実な事実として論破の材料に使うのにはとても不安が残ります。加えて言うならば、事件現場は少女が渡良瀬莉世の兄を殺したとしか思えない状況であるため、莉世が少女憎しで話を歪めている可能性も大いにあります。また、少女本人の話が聞けたとしても、彼女は意識が混濁していた時間帯があったので、特にその前後の記憶は正確かどうかがかなり危ういと思われます。
推理小説のルールとして、一定部分は正確だという前提を飲み込んだうえで読み進めないとおもしろくならないというのは分かりますが、論理を戦わせるのがおもしろい小説としてこういうツッコミどころが残るのは少々いただけません。
加えて各論戦で使われた論拠も、少々希薄だと思います。第2戦では、少女が目覚めた際に少年の首がまず目に入ったことが論破の根拠として使われていますが、意識が混濁気味だった少女に正しく視覚的情報を認識できた保証がありません。ギプスが壊れやすいことも論破の根拠になっていますが、壊れやすさの程度も分からないので、どれほどそこに乗っかっていいのかもよく分かりません。
第3戦でも、「食べ物の隠し場所は少女と少年しか知らなかった」ことが論破の根拠になっていますが、この2人以外に知らなかったということもどこにも保障がありません。しかもこの穴は少年と少女が掘ったものであり、のちに子豚が隠されるとともに少女が2週間ばかり食いつなげるほどの食料と水も隠されるのですが、2人だけでそんな大きな穴を他の信者の目を盗んで掘れたのかというのは疑問が残ります。
多少興醒めするかもしれませんが、「この事実は確実な真実として信じていいですよ」というのを、第四の壁を破ってでも読者に提示すべきではないでしょうか。その方が、探偵が敵を論破した際のカタルシスも、多少は上がると思います。無論、第四の壁を破らずにこれを無理なく保証する仕組みを作れれば、それはそれで大変結構な発明になると思います。例えば、警察の生の事件記録みたいな形のものを(バイオシリーズのFILEみたいな感じで)提示することは考えられます。
あとは細かい話になりますが、登場キャラクターはキャラ付けがはっきりしてる代わりに、そのせいで文章や台詞回しがかなり衒学的(かつ衒奇的)になっています。ここは、好みの部分だとは思います。
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