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完全にネタバレをします。ミステリーなので、本稿を読むのは作品の読了後をお勧めします。
湊先生の作品で過去に読んだことがあるのは、『告白』だけです。それもだいぶ前の話なので、いま中身のある感想は言えませんが、おもしろかった記憶があります。
本作は、私の手元にある文庫版のあとがき(佳多山大地先生執筆)によれば「主人公が実は真犯人だが、そのことに主人公が気付くのは最後の場面」という出版社側のお題に答える形で執筆されたそうです。本作で探偵役の主人公が追求するのは、彼の大学生時代に起きた死亡事故の真相です。事故は、彼がゼミ仲間と行った旅行先で起きました。死亡したのは、主人公の友人でもあった広沢由樹です。彼は、旅行に遅れて合流してきた村井を車で迎えに行く際に、ガードレールを突き破って谷底に落ちてしまいました。広沢は、村井を迎えに行く前に少々酒を飲んでいましたが、迎えの車を運転すること自体は広沢自身が承諾しており、主人公としても広沢に無理に頼み込んだつもりもなかったので、罪の意識はそこまで強かったわけではありませんでした。
ところが主人公の彼女のもとに「深瀬和久は人殺しだ」と書かれた告発文が届き、彼女との関係もそれをきっかけにぎくしゃくしてしてしまいました。この告発文をきっかけに罪の意識が強くなった主人公は、よく知らなかった広沢のことを調べ始めます。中盤から後半にかけては主人公が広沢の両親や旧友から広沢のことを聞く描写が主です。そして最終的に、広沢が蕎麦アレルギーであり、主人公が運転前に広沢に渡した「蕎麦の花の蜜で作られた蜂蜜入りのコーヒー」が原因で事故を起こしてしまったことに気付きます。物語は、ここで終わります。
イヤミスの女王らしい嫌な終わり方であり、人によっては本当に頭を抱えると思います。厳密なことを言うと、蕎麦の花の蜜で作られた蜂蜜が確実に蕎麦アレルギーを引き起こすわけでもない(蕎麦の花粉が混入しているとそれが原因でアレルギーが起きるようですが、「リスクが全くないとは言えない」ぐらいのものらしいです)らしく、広沢の蕎麦アレルギーの程度や具体的にどのような症状が生じるか(いずれも個人差が大きいです)についても明確な描写はないので、必要な描写が少し足りないとは思います。でもまあ、主人公が自分で勝手に罪の意識を強くすれば十分だという判断だったのかもしれません。
主人公のコーヒー好きの描写や、広沢の過去についてのやりとりは、全て大オチに向けての伏線になってはいるのですが、全体的に起伏が少なくて退屈気味ではあります。終盤主人公の彼女や木田瑞希の意外な過去が分かる展開までは、とかく平板な展開です。ネタバラシが終盤に偏っていて、読み進めるのがなかなか億劫になります。このネタバラシも、素人の主人公が聞き込みをするだけで明らかになる事実ばかりなので、サスペンス感もさほどありません。伏線が、「伏線のための伏線」に堕してしまっている感は拭えないので、中盤の探偵パートやら伏線やらをそれ自体でおもしろい展開にできれば、もっとおもしろい作品になったとは思います。
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湊先生の作品で過去に読んだことがあるのは、『告白』だけです。それもだいぶ前の話なので、いま中身のある感想は言えませんが、おもしろかった記憶があります。
本作は、私の手元にある文庫版のあとがき(佳多山大地先生執筆)によれば「主人公が実は真犯人だが、そのことに主人公が気付くのは最後の場面」という出版社側のお題に答える形で執筆されたそうです。本作で探偵役の主人公が追求するのは、彼の大学生時代に起きた死亡事故の真相です。事故は、彼がゼミ仲間と行った旅行先で起きました。死亡したのは、主人公の友人でもあった広沢由樹です。彼は、旅行に遅れて合流してきた村井を車で迎えに行く際に、ガードレールを突き破って谷底に落ちてしまいました。広沢は、村井を迎えに行く前に少々酒を飲んでいましたが、迎えの車を運転すること自体は広沢自身が承諾しており、主人公としても広沢に無理に頼み込んだつもりもなかったので、罪の意識はそこまで強かったわけではありませんでした。
ところが主人公の彼女のもとに「深瀬和久は人殺しだ」と書かれた告発文が届き、彼女との関係もそれをきっかけにぎくしゃくしてしてしまいました。この告発文をきっかけに罪の意識が強くなった主人公は、よく知らなかった広沢のことを調べ始めます。中盤から後半にかけては主人公が広沢の両親や旧友から広沢のことを聞く描写が主です。そして最終的に、広沢が蕎麦アレルギーであり、主人公が運転前に広沢に渡した「蕎麦の花の蜜で作られた蜂蜜入りのコーヒー」が原因で事故を起こしてしまったことに気付きます。物語は、ここで終わります。
イヤミスの女王らしい嫌な終わり方であり、人によっては本当に頭を抱えると思います。厳密なことを言うと、蕎麦の花の蜜で作られた蜂蜜が確実に蕎麦アレルギーを引き起こすわけでもない(蕎麦の花粉が混入しているとそれが原因でアレルギーが起きるようですが、「リスクが全くないとは言えない」ぐらいのものらしいです)らしく、広沢の蕎麦アレルギーの程度や具体的にどのような症状が生じるか(いずれも個人差が大きいです)についても明確な描写はないので、必要な描写が少し足りないとは思います。でもまあ、主人公が自分で勝手に罪の意識を強くすれば十分だという判断だったのかもしれません。
主人公のコーヒー好きの描写や、広沢の過去についてのやりとりは、全て大オチに向けての伏線になってはいるのですが、全体的に起伏が少なくて退屈気味ではあります。終盤主人公の彼女や木田瑞希の意外な過去が分かる展開までは、とかく平板な展開です。ネタバラシが終盤に偏っていて、読み進めるのがなかなか億劫になります。このネタバラシも、素人の主人公が聞き込みをするだけで明らかになる事実ばかりなので、サスペンス感もさほどありません。伏線が、「伏線のための伏線」に堕してしまっている感は拭えないので、中盤の探偵パートやら伏線やらをそれ自体でおもしろい展開にできれば、もっとおもしろい作品になったとは思います。
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