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海腹川背 Fresh!

 海腹川背には初めて手を出しました。

 アクションゲームでやることを大きく二つに分けるとしたら、「移動」と「戦闘」になると思うんです。このゲームは、そのうち「移動」に焦点を当てた作品です。本作ならではのルアーアクションで崖を上ったり下りたり飛び越えたりして目的地までたどり着くことに主眼が置かれたゲームです。ザコ敵やボスも出てきますが、あくまで添え物に過ぎません。
 操作は、極めてシンプルです。主人公のカワセさんができることは徒歩による横移動と、ジャンプと、ルアーアクションの3つだけです。ジャンプ力は低いので、ルアーを伸ばし、色々な場所に引っ掛けてこれを伸び縮みさせることで2Dのフィールドを渡りあっていきます。操作がシンプルとはいえ、ルアーを使いこなしさえすれば大ジャンプや垂直の崖を登っていくことも可能です。ただしこういったことを行うにはフレーム単位の非常に微妙な操作が要求されるので、難度は高いです。操作体系はシンプルながら細かい指さばきで可能性が大いに広がるゲーム性はTrialsシリーズやギャンビに似ていると思いました。本作は、ファンシーなキャラクターデザインに似合わず、そういう繊細な操作で遥か遠くあるいは遥か高くにある足場に飛び移ることを繰り返していくストイックなゲームなんです。ザコもいやらしい位置に配置されているうえに、ぶつかった時の硬直時間と吹っ飛ばされる距離は長く、事故って衝突した結果せっかくたどり着いた足場から落とされてしまうこともしばしばありますし、ウジャウジャ配置されている一撃死のトゲにも何度もぶつかることになると思います。そういった失敗を積み重ねながら移動経路の最適解を探していくゲームという意味では、「死にゲー」としての側面も持っている作品だと言えます。どうも海腹川背シリーズは、代々そういうゲームだったようです。

 ただ本作はハードをSwitchに移し、世界観やキャラクターデザインを分かりやすくメルヘンチックにして、タイトルにも"Fresh"と入れていることなどから、新規層を取り込みたかったのではないかなとも推察されます。確かに、ステージの途中で中間ポイントを設置できますし、操作キャラの能力を一時的に上げるバフアイテムも豊富に用意されているほか、大部分のステージは遠回りながら簡単な操作で行ける別ルートも用意されています。また、最後の最後の手段としてコットンという飛べるキャラでの攻略も可能になっているなど、新規層向きと思われる調整もそこかしこに発見できます。ただ肝心要のルアー操作については、簡単なチュートリアルが入るだけであんまりちゃんと教えてくれませんし、そのチュートリアルをもう1回見ることもできません(私が見方を見つけられていないだけかもしれませんが)。各種の複雑なアクションは1回教えてくれただけでできるほど簡単なものではないのですが、練習モードのようなものもありません。初心者は、実際のステージ攻略中に体当たりで覚えていくしかないのです。この手の難度の高い死にゲーでは、(難しい一方で)再挑戦したくなるような絶妙なバランス調整をしておくのが大事なのですが、その点がどうにも不親切なのです。情報が少ないので何をどうやればいいかが分からず、攻略の糸口すらつかめないまま五里霧中ということになりがちで、再挑戦のやる気を削いでくるのです。ゲーム自体が適度にマイナーな結果、ネット上の攻略情報も全然充実していません。
 
 そのうえ本作は過去シリーズのステージ攻略制からクエスト制に大きくシフトチェンジしています。過去のシリーズ作は2Dマリオみたいに1面ずつ別々のフィールドを攻略していく形だったようなのですが、本作は(オープンワールドみたいな)大きなフィールドの中で1クエストごとに別々のスタート地点とゴール地点が設置されるという設計になっているのです(ストーリー上は、主人公が色々な依頼主からの色々なお使いを頼まれる、という設定になっています)。この設計だと、何度も同じ道を通ることになるので、未知の場所を踏破するワクワク感みたいなものも弱まります。ザコ敵も現実の生物そのまんまのデザインが多く、出会った時の興奮はないうえに、本作のファンシーな世界観にあんまりかみ合っていません(ただ、雑魚のデザインはシリーズの伝統を踏襲しているようです)。これらの点も、再挑戦のやる気を削いできます。

 総じて、シリーズファンは十分楽しめるような出来になっているでしょうが、初心者がいきなり手を出すとやる気を削がれる結果になりがちなゲームだと思います。ただ、シリーズファンの中にはクエスト制に移行したことに対する不満意見もあるようなので、なんというか全体的にどこをターゲットにしたのか分からない中途半端な仕上がりなんです。

 まあ、海腹川背シリーズのストイックな難しさはそのままだと思いますので、それを体験してみたい人はやってみてもいいでしょう。

※ただ思い返してみるに、同じくらい難易度の高いSEKIROもゲーム内のヒントはあんまりありませんでした。両者の違いはネット上の攻略情報が充実しているか否かに尽きるのではないかと思いましたが、本作ももっと売れていればネット上の攻略情報ももっと充実したはずです。結局、ネット上の攻略情報の少なさ以外にプレイヤーのやる気を削ぐ要素があるからSEKIROほど売れなかったし、SEKIROほどネット上の攻略情報も充実しなかったのです。その「やる気を削ぐ要素」というのが、先述したような「同じところを何度も通らされることで生じる作業感」「世界観と噛み合っていない不気味なザコ」「どことなく安っぽさが抜けないグラフィック」とかなんだと思います。2本足の生えた魚なんてタンノくん以来ですよホント。マリオなら、このあたりの要素を全てがっちり噛み合わせてきますからねえ。まあ、ザコのデザイン等は「敢えて」やっている可能性もありますので、これ以上は言いません。


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