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完全にネタバレをします。ミステリーなので、本稿を読むのは作品の読了後をお勧めします。
2025年夏の我がミステリーブームに読んだ1作です。
本作も叙述トリックの名作だという情報を得たので読んでみました。なるほど叙述トリックは確かに見事です。私も完全に騙されました。
とはいえ、読み始めは結構辛かったです。体言止めが多くて全体的に気取った感じの文体が個人的な好みには合わなかったのです。特に冒頭がいきなり性描写であり、遊んでいることが恰好いいと思っていそうな主人公の価値観が全く肌に合わなかったので、不安に苛まれました。この主人公は、冒頭から後輩のキヨシに当たりが強かったり、妹の綾乃と小洒落た会話をしようとしていたりといった描写が連続するため、「おもしろいことを言おうとしている割りに大しておもしろいことが言えていない人間」という印象が強く植え付けられます。売れていないくせに非芸人の一般人に尊大な態度をとる芸人崩れみたいな輩なので、胃腸が受け付けないのです。読了後に考えてみるとこの性描写も、その他の主人公のパーソナリティ面も叙述トリックのフリであり、読者に強烈な誤解を植え付けるためのギミックなのですが、若干フリのためのフリに堕してしまっている感じがします。フリをやるなら、本筋に絡む形でさりげなくやって欲しいのです。それができないのであれば、フリそれ自体もおもしろくしてほしいのです。本作冒頭の性描写その他のクダリは、本作から叙述トリックを全て取っ払って、本筋の事件(悪徳商法とそれにまつわる人死に)の内容及び解決を説明するだけであれば全く不要なものです。それでいて、それ単独では大しておもしろくもありません。そういうフリは、極力やめて欲しいのです。
そうです。序盤の引きが弱いのが本作の唯一と言っていい弱点かと思います。出典が示せないのが恐縮ですが、かの小池一夫御大は「漫画は1ページ目に女の裸を描け」と言っていたとか言っていないとか聞いたことがあります。ミステリーに置き換えれば、1行目から死体を出して欲しいのです。それもできるだけ大人数で、できるだけ凄惨な死体です。最初から読者の心を、ぐっとつかんで欲しいのです。ページをめくらせてほしいのです。
その他細かい注文
・主人公が過去に経験したヤクザの死亡事件は、できることなら本筋の悪徳商法事件にも絡めた方がお話の深みが増したと思います。
・久高愛子が、夫のことを「おじいさん」と呼ぶのは納得できるのですが、息子のことを「おとうさん」と呼ぶのはどうしても違和感が残ります。私だけでしょうか。孫本人と話しているときに(孫にとっては父親である自分の息子のことを指して)「おとうさんの言うことを聞きなさい」みたいな言い方をするなら分かるのですが、孫もいない場で第三者に説明をする際に息子のことを「おとうさん」と言うでしょうか。
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2025年夏の我がミステリーブームに読んだ1作です。
本作も叙述トリックの名作だという情報を得たので読んでみました。なるほど叙述トリックは確かに見事です。私も完全に騙されました。
とはいえ、読み始めは結構辛かったです。体言止めが多くて全体的に気取った感じの文体が個人的な好みには合わなかったのです。特に冒頭がいきなり性描写であり、遊んでいることが恰好いいと思っていそうな主人公の価値観が全く肌に合わなかったので、不安に苛まれました。この主人公は、冒頭から後輩のキヨシに当たりが強かったり、妹の綾乃と小洒落た会話をしようとしていたりといった描写が連続するため、「おもしろいことを言おうとしている割りに大しておもしろいことが言えていない人間」という印象が強く植え付けられます。売れていないくせに非芸人の一般人に尊大な態度をとる芸人崩れみたいな輩なので、胃腸が受け付けないのです。読了後に考えてみるとこの性描写も、その他の主人公のパーソナリティ面も叙述トリックのフリであり、読者に強烈な誤解を植え付けるためのギミックなのですが、若干フリのためのフリに堕してしまっている感じがします。フリをやるなら、本筋に絡む形でさりげなくやって欲しいのです。それができないのであれば、フリそれ自体もおもしろくしてほしいのです。本作冒頭の性描写その他のクダリは、本作から叙述トリックを全て取っ払って、本筋の事件(悪徳商法とそれにまつわる人死に)の内容及び解決を説明するだけであれば全く不要なものです。それでいて、それ単独では大しておもしろくもありません。そういうフリは、極力やめて欲しいのです。
そうです。序盤の引きが弱いのが本作の唯一と言っていい弱点かと思います。出典が示せないのが恐縮ですが、かの小池一夫御大は「漫画は1ページ目に女の裸を描け」と言っていたとか言っていないとか聞いたことがあります。ミステリーに置き換えれば、1行目から死体を出して欲しいのです。それもできるだけ大人数で、できるだけ凄惨な死体です。最初から読者の心を、ぐっとつかんで欲しいのです。ページをめくらせてほしいのです。
その他細かい注文
・主人公が過去に経験したヤクザの死亡事件は、できることなら本筋の悪徳商法事件にも絡めた方がお話の深みが増したと思います。
・久高愛子が、夫のことを「おじいさん」と呼ぶのは納得できるのですが、息子のことを「おとうさん」と呼ぶのはどうしても違和感が残ります。私だけでしょうか。孫本人と話しているときに(孫にとっては父親である自分の息子のことを指して)「おとうさんの言うことを聞きなさい」みたいな言い方をするなら分かるのですが、孫もいない場で第三者に説明をする際に息子のことを「おとうさん」と言うでしょうか。
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