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竜胆の乙女 わたしの中で永久に光る

 完全にネタバレをします。ミステリー……ではないと思いますが、ネタバレされると台無しになる作品ではあるので、本稿を読むのは作品の読了後をお勧めします。


















 第30回電撃小説大賞だそうです。「わたしの中で永久に光る」の部分が正式なタイトルに入るのかどうかはよく分かりません(両表記が混在しています)。
 17歳の菖子が、亡父の家業を継ぐために金沢にやってくるところから物語が始まります。亡父がやっていたのは、「おかととき」という謎の怪異をもてなす仕事でした。このおかとときは残虐な遊びを好みます。家業に協力していた従業員たちも、おかとときをもてなしている最中は色々と嗜虐的な仕打ちを受けて苦しむのですが、おかとときが帰ると傷が治るという仕組みになっていました。おかとときとは何なのか、父は何でこんなことを生業にしていたのか、なぜ従業員たちは協力するのか、そういった謎が読者にページを繰らせる原動力になっています。不気味な雰囲気を作り出す文章運びは見事だと思います。特に謎めいているのが、現場にいる語り手なのに全然物語に絡まず、他の登場人物との会話もない「私」という存在と、各チャプターの最後にある【●分■秒】という謎の時間表記です。
 ここからが一番大事なネタバレですが、終盤に、実はこのおかとときの話は作中作であったことが明らかになります。「私」は、里茉という不登校の女子高生を担当しているカウンセラーでした。この作中作は、里茉が(ほぼ)唯一心を許していた存在である従兄・嶺が執筆したもの(をベースに里茉が改変を加えたもの)でした。里茉がカウンセリング中にこの話を語るので、それを記録していたのです。【●分■秒】という時間表記は、カウンセリングの時間を記録するためのものでした。
 里茉は、典型的な毒親(過干渉の母と、無関心の父)に育てられており、そのせいで心を病んでいました。嶺との交流だけが彼女の心の支えだったのですが、嶺は病死してしまい、彼女の精神は一層不安定な状態になりました。そのせいで、ハッピーエンドで終わるはずだった嶺の小説を、自分でわざわざ介入して台無しにしてしまっていたのです。物語は終盤のカウンセリングで、「私」ことカウンセラーの助力も得ながら、里茉自らが再び物語に介入し、おかととき(毒親の母が怪異として具現化したような存在)の主を倒すことで、ハッピーエンドを迎えます。その後、里茉も彼女の母もカウンセリングを受けていくことになります。

 ハッピーエンドを受容できるかどうかは、好みです。私は、正直あんまり熱狂できませんでした。まず、この手の毒親はそんなに簡単に改心するものではないというイメージがあるので、安易なハッピーエンドにはさほどのリアリティを感じません。
 里茉は、この作中作からすれば第四の壁の向こう側にいる神様なので、自分の匙加減でその内容はどうにでもできるはずです。本作のお話は、要は自分が怖がっていたもの(=おかととき=毒母)を克服できた、というのを、作中作の再改編という形で比喩的に表現しているだけです。洋ゲーでよくある「精神世界で自分のトラウマを具現化したようなボスを倒してそれを克服する」という展開と一緒です。それは別に、よくよく考えてみれば大して新規性のある手法ではありません。
 ただ、ハッピーエンドが全て悪いと言っているわけではありません。私みたいな天邪鬼でも、感動できたハッピーエンドはあります。どういう手順を踏めばちゃんと感動できるハッピーエンドを作れるのかは私にもきちんと言語化はできませんが、気付いたことを2点だけ指摘しておこうと思います。
 まず、里茉の話が終盤に詰め込まれているので、かなり説明的で淡泊になってしまっているのが良くないのではないかということです。そのせいで里茉がトラウマを克服する展開がかなり駆け足に見えてしまいます。その結果、トラウマのことを説明していると思ったら急にそれを克服するシーンが現れる印象になる(克服の比喩に当たる「菖子がおかとときを斬れる刀をいきなり手に入れるシーン」は、象徴的です)ため、「そんなに簡単に解決できるんなら元々大した問題じゃなかったんじゃないか」という疑念も生じてしまうのです。まあ、里茉のことを隠しておくという本作の構造上そうなってしまうのは仕方がない部分ではあります。
 今ひとつは、嶺の小説を自分で悪い方向に改変してまでウジウジしていた里茉が、何をきっかけにそれを乗り越えられるようになったのかがやっぱりよく分からないという点が指摘できると思います。これも、「そんなに簡単に解決できるんなら元々大した問題じゃなかったんじゃないか」という疑念を強くします。別の言葉を使えば、ご都合主義的なのです。

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