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フリの作法

 前に説明したとおりですが、フリ(前フリともいう)には、2つのタイプがあります。ひとつは、ボケに先行する形で「基準状態」を説明し、ボケにおけるズレを際立たせるものです。いまひとつは、ボケだけではズレとして不十分なので、前もって基準状態を新たに設定してしまうというものです。
 例を挙げておきましょう。

例1:基準状態説明タイプ


例2:基準状態設定タイプ


 例1は、Xの答えは、それ自体でズレを提供しています。部活を聞かれているのに部活を答えていないからです。Xの発言に先行するBCDの発言は、Aの発言に対する普通の答えを言うものであって、基準状態が何かを説明しています。
 例2は、Xの最初の発言がフリで、Xの次の発言がボケになっています。Xの「2点」という発言は、それ自体ではズレていません。テストは、できている場合もできていない場合も考えられるからです。Xが自らボケに先立って「できたできた」と発言しておくことで、「できた」という基準状態が新たに設定され、次の発言が「できたと言っていたのにできていない」というズレを作出することになるのです。
 説明タイプは基準状態自体を新設することはなく、既存の基準状態がどのようなものかを説明する技術であるのに対して、設定タイプは基準状態自体を新設するものであるというのが違いです。ただいずれも、ボケを成功させるためにボケに先立って行われるものであるという点が共通しています。また両者とも、ボケにおけるズレを受け手に明らかにする補助的な手段であるという点がツッコミと共通しますが、フリはボケよりも時間的に前にあるのに対して、ツッコミはボケに後行するものであるという違いがあります。
 ちなみに、「今からボケろ」という単なる合図を「フリ」ということもあります。また、ボケに限らず何かを始める前の合図を広く「フリ」ということもあります。「VTRのフリ」と言った場合の「フリ」は、この一番広い意味でのフリです。
 フリは、例で挙げたように演者の言動で為されることも多いですが、それ以外の手段で為される場合もあります。タイトル・衣装・ナレーション・舞台設定などが考えられます。だいぶ前に記した「校長先生が入学式での登壇時に転ぶ」という例では、入学式という舞台設定や、それが生む厳かな空気、あるいは校長先生が身につけているフォーマルな衣装が、「厳かな式はトラブルなく粛々と進めるべき」という基準状態を設定するフリになっています。要は、手段はなんであろうと基準状態の説明あるいは設定をしていればフリなのです。

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