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ツッコミフリ

 ボケフリと同じように「ツッコミフリ」も観念できます。これも筆者の造語ですが、ツッコミでありながら、フリの役割をも同時に果たしているもののことをこう呼ぶことにします。
 端的に言えば、ツッコミフリとはすでに説明した「スカシ」において用いられる技術です。

例11


 我ながらあまりうまい例になりませんでしたが、Aがそれまではきちんと入れいていたツッコミを、最後に入れなくなるというスカシの例です。このスカシがボケであり、この「ツッコミを入れるべきなのにツッコミがされていない」というボケに対して最後はXがツッコミを入れています。
 そして、Aの最初のツッコミと2回目のツッコミは、ツッコミでもありますが、最後のスカシとの関係ではフリになっています。「Xのボケに対してはきちんとツッコミを入れる」という基準状態説明タイプのフリです。これがあることで、Aのスカシが作出する「Xのボケに対してツッコミを入れていない」というズレが際立つのです。

ツッコミとフリの関係

 以上がツッコミフリですが、似たような話として、「ツッコミは、次のボケへのフリの役割を果たしていなければツッコミとは言えない」という言説があります。これは、父が常日頃言っていることであり、ということはすなわち欽ちゃんの言っていたことです。

A「日本で一番高いビルは知ってますか?」
B「………………うーん」
A「ちゃんとやれ!」

 Bの要領を得ない発言は、ボケです。これに続くAの発言は、ツッコミです。
 ところがこのAの発言は聞いたまんまをそのままストレートに言っており、次のボケへのフリになっていないと父は言います。これは、ツッコミではなくて、「落とし」の台詞に過ぎないというのが欽ちゃん一派の考え方です。

A「日本で一番高いビルは知ってますか?」
B「………………うーん」
A「遅い! 何でもいいからパッと言えパッと! 日本で一番…」
B「ランドマークタワー!」
A「早すぎるわ!」

 今度のAのツッコミは、内容が最初の例より具体的になっています。Bのどこがズレているかを、ちゃんと説明しているのです。こういう具体的なツッコミが入れられると、Bとしては次のボケにつなげやすくなります。上のはAのツッコミを真面目に守り過ぎたというズレの例ですが、「遅いのがダメだ」と言われているのだからもう1回遅くやるという手段もあります。
 Aのツッコミは、Bがやるべき「ズレていない行動」を指示しています。そういう意味で、Bの次のボケが作出するズレに先立って、「ズレていない行動」という基準状態を設定あるいは説明しているのです。そういう意味で、ツッコミはフリの役割をも果たしています。
 フリの役割を果たしていないツッコミはツッコミではないというのが欽ちゃんの考え方ですが、それは「ツッコミ」の定義の問題でしかないので、あまり議論する実益はありません。本書の定義によればツッコミはあくまでボケの作出したズレを事後的に説明するものでしかないため、「落とし」でしかなかろうとこの定義に当てはまっている以上(本書の定義上の)ツッコミではあります。

 ただ、よく考えてみると、最初の例の「ちゃんとやれ!」と言うツッコミも「ちゃんとやる」という基準状態を説明している以上、微弱ながらフリの役割も果たしているわけです。説明している基準状態が抽象的であるため、ボケにも、それを見ているお客さんにも、基準状態が何なのかが伝わりにくく、フリとしての役割が弱いというだけです。程度問題です。両者に質的な違いはなく、あくまで量的な違いしかないのです。

 だからなんだという話ですが、一応、ひとつ言えることはあります。
 欽ちゃんの言う「落とし」でしかないツッコミ、すなわちさまぁ〜ず三村さんや爆笑問題田中さんがよくやる「ちゃんとやれ!」「ちげえよ!」「そうじゃねえだろ!」といったような自分が見聞したまんまをそのままストレートに指摘するシンプルなツッコミは、フリとしての役割が弱いのです。もう少し言葉を増やしてやった方が、ボケにもお客さんにもいいと思うのですが、どうでしょうか。

 まあ、別に台本でその後のボケが決まっていたらツッコミがどうであろうとあまり関係はないんですけどね。コント55号はネタもほとんどアドリブでやっていたので、欽ちゃんがツッコミで使う言葉を豊かにして、二郎さんに次のボケの指針を与えていたということです。そして、テレビでは台本があまりカッチリとない局面の方が多いでしょうから、ツッコミをする人はやっぱりボケ役の次のことを考えてフリにもなっているツッコミをやった方がいいと思います。

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