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（２）誘い笑いと連鎖力
テレビの生放送
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（２）誘い笑いと連鎖力 
誘い笑いというのは、文字通り他者の笑いを誘うための笑いです。なぜ笑うことによって他者の笑いが喚起されるかといえば、人間は、周囲にいる別の人が笑っている方が笑いやすくなるからです。笑っている人が多くなればなるほど、その笑い方も激しくなればなるほど、笑いやすくなります。このような、笑いが他者の笑いを呼び起こす力を、連鎖力と呼ぶことにします。
この連鎖力は、実務においても意識して用いられています。芸人が他者のボケに誘い笑いをしているのもその例です。芸人を含めタレントは、笑わせるべきところでは、笑えないボケでも笑顔にならないといけません（もちろん、すべらせるときには笑ってはダメなので、空気を読むことが必要です）。
また、コント番組などに入っている人工的な笑い声も、連鎖力が応用されている例です。あれは、あとから入れているものでして、受け手たる視聴者を笑いやすくするためのものです。あのような笑い声を筆者は「カンヅメの笑い声」あるいは単に「カンヅメ」と呼んでいます。このたとえは、高校時代に英語の授業で読んだ文章の受け売りです。
連鎖力を呼び起こす誘い笑いですが、基本的にはツッコミがやるべきものです。ボケは、あまりやらない方がいいです。ボケた人が自分で笑ってしまうと、受け手に「自分で笑っているということは自分がズレたことを言っているということに気が付いており、わざと言っているのだ」と思われてしまうからです。こうなると、「わざとボケているからには質の高いズレを提供すべきだ」となって、より高質のズレが求められることになります。以前も説明した、作為性の知覚による基準状態のせり上がりです（わざとこれをやってすべるのもひとつの選択肢です）。ボケとしては、笑うならツッコミが入ってから笑うべきです。ツッコミが入ったことで、受け手もボケた人自身と同じく、ズレの存在を認識できるようになるからです。ただここで笑うと、「ツッコミに笑ったということは自分の過ちに気が付いたのだから、次にボケたらわざとだ」と受け手が考えて、やはり基準状態のせり上がりが起きてしまいます。これを防ぐには、ツッコミが入っても笑わずに真顔でボケを続け、「わざとではなくマジでおかしな人」を演じるのが効果的です。これによって、作為性の知覚による基準状態のせり上がりが極めて生じにくくなります。ただ受け手が笑うことによってその笑いからボケ自身に対する連鎖力が生じている中で笑わずに真顔でボケ続けるというのは結構難しいですが、一流のボケは大抵これができます。まあただ、ものすごく高質なボケだった場合は、耐えきれずに自分で笑って連鎖力を生ぜしめるというのも、ひとつの選択肢でしょう。
さて、笑い自身が笑いを呼び起こす作用を持っているのに対して、笑いを妨げるような言動や表情というものも当然あります。それが「怒り」や「悲しみ」です。人は、怒っている人や泣いている人が近くにいると、笑いにくくなります。この作用も連鎖力と呼ぶことにします。笑いの連鎖力とは異なるマイナスの連鎖力です。
ここでようやく、前項で長々と議論した排斥力の話と、笑いをとる技術との関係が明らかになります。排斥力の話は、「笑われることを嫌がっている人を笑っていいのか」という話でした。結論は、「一定の場合は笑っていい」というものでした。でも、笑われることを嫌がっている人を笑う場合、笑われる側がその「嫌がり」を前面に出すと、マイナスの連鎖力が生じてしまい、笑うことが躊躇われてしまうのです。
では、笑いを作る側はどのように対処すればいいでしょうか。簡単な話で、笑いを作る側が笑われる側がそのことを許容していないと思われるような素振りをできるだけ見せないようにすればいいのです。笑われる側がマジで怒ったり、泣いたりすると、マイナスの連鎖力が生じてしまうからです（ちなみに、笑われる側がマジで怒ったり泣いたりしているのにそれを笑う、というのはそれ自体がメタなズレになっていますが、大部分の人にとってはひいてしまうほど程度の大きなズレになると考えられ、これが笑いを引き起こす効果はさほど期待できません。このズレを笑いに変えるには、別途工夫が必要です）。
例えば、小学校のクラスでいじめっ子がいじめられっ子を取り囲んで「バーカバーカ」と笑っているようなシーンは、シリアスなドラマでいじめられっ子への感情移入を促すために作られることはあるでしょうが、コメディで笑わせるためのシーンとして作られることはなかなかないのではないでしょうか。これは、いじめっ子が悲しんでいるために、マイナスの連鎖力が生じるからです。
また、演者がマイナスの連鎖力を発生させているわけでもなく、受け手自身が適切なズレだと考えていても、ギリギリのところを攻めると、受け手と一緒にいる別の人が笑えず、そこから受け手に対してマイナスの連鎖力が生じるという場合も考えられます。更に、受け手が一人で見ている場合でも、「ここまでやるとこれを楽しめない人がいるだろうなあ」と考えて、笑えなくなってしまうということも考えられます。このように、受け手が想像した架空人からマイナスの連鎖力を受けて、笑えなくなってしまう状態を指す言葉が「不謹慎」であると考えられます。不謹慎なことを敢えてやって、メタなズレを提供するという選択肢は毎度のことながらあるわけですが。
ゆえに、笑いの作り手は、笑われる側が笑われることを許容していないと思われるような言動に出てはいけません。いじられて露骨に嫌な顔をしたり、涙を流したりすると、マイナスの連鎖力が生じるからです。ナインティナインの岡村さんがよく言っている「お笑いはかわいそうと思われたらアカン」というのは、つまりそういうことです。
マイナスの連鎖力を生む言動は怒りや悲しみを表すもの以外にもあります。代表的なのは、「緊張」です。演者の緊張が受け手に伝わってしまうと、お客さんも身構えてしまい、笑いが生じにくくなります。慣れていない演者に緊張するなとか、緊張しても隠せというのも無理な話なので、慣れてもらうしかないわけですが。
この連鎖力は、実務においても意識して用いられています。芸人が他者のボケに誘い笑いをしているのもその例です。芸人を含めタレントは、笑わせるべきところでは、笑えないボケでも笑顔にならないといけません（もちろん、すべらせるときには笑ってはダメなので、空気を読むことが必要です）。
また、コント番組などに入っている人工的な笑い声も、連鎖力が応用されている例です。あれは、あとから入れているものでして、受け手たる視聴者を笑いやすくするためのものです。あのような笑い声を筆者は「カンヅメの笑い声」あるいは単に「カンヅメ」と呼んでいます。このたとえは、高校時代に英語の授業で読んだ文章の受け売りです。
連鎖力を呼び起こす誘い笑いですが、基本的にはツッコミがやるべきものです。ボケは、あまりやらない方がいいです。ボケた人が自分で笑ってしまうと、受け手に「自分で笑っているということは自分がズレたことを言っているということに気が付いており、わざと言っているのだ」と思われてしまうからです。こうなると、「わざとボケているからには質の高いズレを提供すべきだ」となって、より高質のズレが求められることになります。以前も説明した、作為性の知覚による基準状態のせり上がりです（わざとこれをやってすべるのもひとつの選択肢です）。ボケとしては、笑うならツッコミが入ってから笑うべきです。ツッコミが入ったことで、受け手もボケた人自身と同じく、ズレの存在を認識できるようになるからです。ただここで笑うと、「ツッコミに笑ったということは自分の過ちに気が付いたのだから、次にボケたらわざとだ」と受け手が考えて、やはり基準状態のせり上がりが起きてしまいます。これを防ぐには、ツッコミが入っても笑わずに真顔でボケを続け、「わざとではなくマジでおかしな人」を演じるのが効果的です。これによって、作為性の知覚による基準状態のせり上がりが極めて生じにくくなります。ただ受け手が笑うことによってその笑いからボケ自身に対する連鎖力が生じている中で笑わずに真顔でボケ続けるというのは結構難しいですが、一流のボケは大抵これができます。まあただ、ものすごく高質なボケだった場合は、耐えきれずに自分で笑って連鎖力を生ぜしめるというのも、ひとつの選択肢でしょう。
さて、笑い自身が笑いを呼び起こす作用を持っているのに対して、笑いを妨げるような言動や表情というものも当然あります。それが「怒り」や「悲しみ」です。人は、怒っている人や泣いている人が近くにいると、笑いにくくなります。この作用も連鎖力と呼ぶことにします。笑いの連鎖力とは異なるマイナスの連鎖力です。
ここでようやく、前項で長々と議論した排斥力の話と、笑いをとる技術との関係が明らかになります。排斥力の話は、「笑われることを嫌がっている人を笑っていいのか」という話でした。結論は、「一定の場合は笑っていい」というものでした。でも、笑われることを嫌がっている人を笑う場合、笑われる側がその「嫌がり」を前面に出すと、マイナスの連鎖力が生じてしまい、笑うことが躊躇われてしまうのです。
では、笑いを作る側はどのように対処すればいいでしょうか。簡単な話で、笑いを作る側が笑われる側がそのことを許容していないと思われるような素振りをできるだけ見せないようにすればいいのです。笑われる側がマジで怒ったり、泣いたりすると、マイナスの連鎖力が生じてしまうからです（ちなみに、笑われる側がマジで怒ったり泣いたりしているのにそれを笑う、というのはそれ自体がメタなズレになっていますが、大部分の人にとってはひいてしまうほど程度の大きなズレになると考えられ、これが笑いを引き起こす効果はさほど期待できません。このズレを笑いに変えるには、別途工夫が必要です）。
例えば、小学校のクラスでいじめっ子がいじめられっ子を取り囲んで「バーカバーカ」と笑っているようなシーンは、シリアスなドラマでいじめられっ子への感情移入を促すために作られることはあるでしょうが、コメディで笑わせるためのシーンとして作られることはなかなかないのではないでしょうか。これは、いじめっ子が悲しんでいるために、マイナスの連鎖力が生じるからです。
また、演者がマイナスの連鎖力を発生させているわけでもなく、受け手自身が適切なズレだと考えていても、ギリギリのところを攻めると、受け手と一緒にいる別の人が笑えず、そこから受け手に対してマイナスの連鎖力が生じるという場合も考えられます。更に、受け手が一人で見ている場合でも、「ここまでやるとこれを楽しめない人がいるだろうなあ」と考えて、笑えなくなってしまうということも考えられます。このように、受け手が想像した架空人からマイナスの連鎖力を受けて、笑えなくなってしまう状態を指す言葉が「不謹慎」であると考えられます。不謹慎なことを敢えてやって、メタなズレを提供するという選択肢は毎度のことながらあるわけですが。
ゆえに、笑いの作り手は、笑われる側が笑われることを許容していないと思われるような言動に出てはいけません。いじられて露骨に嫌な顔をしたり、涙を流したりすると、マイナスの連鎖力が生じるからです。ナインティナインの岡村さんがよく言っている「お笑いはかわいそうと思われたらアカン」というのは、つまりそういうことです。
マイナスの連鎖力を生む言動は怒りや悲しみを表すもの以外にもあります。代表的なのは、「緊張」です。演者の緊張が受け手に伝わってしまうと、お客さんも身構えてしまい、笑いが生じにくくなります。慣れていない演者に緊張するなとか、緊張しても隠せというのも無理な話なので、慣れてもらうしかないわけですが。
テレビの生放送
連鎖力に関連した話題を最後にひとつ。
連鎖力というものがあるために、舞台においてはテレビより笑いを喚起するのが簡単になります。それは、舞台では受け手の周囲の座席で笑っている人がたくさんいるからです（映画についても同じことが言えます。ただ舞台では、作り手たる演者と受け手が同じ空気を共有しているという状態が、映画以上の効果を生んでいる気がします。この点は筆者の中でもあまりまとまっていないので、この程度で）。
ところがテレビでは、受け手の周りで笑っている人は舞台ほどたくさんおらず、連鎖力が類型的に低いです。だから、舞台よりも中身を工夫する必要があります。それが編集であったり、字幕であったり、ナレーションであったりするわけです。逆に言うと、こういう事後的な加工ができるのが、「生」でやるしかない舞台と比したときのテレビの強みです。
テレビにおける「編集」について十分にご存知ない方もいるかもしれないので、念のため説明しておきます。テレビは、生放送などでない限り、撮った映像を全て使うわけではありません。その中でおもしろいところを抽出して、つなぎ合わせるという作業を行っています。これが、編集です。編集がされるから、芸人は数を撃てと言われます。おもしろければ、それだけ使われる可能性も増えるし、つまらなくても編集で切ってくれるからです。もちろん編集には膨大な時間がかかるので、時間的余裕がない場合には、テレビなのに生でやったり、ほとんど編集をしないものを世に出したり（撮って出し）します。これは、テレビの強みを捨て去っているに等しく、大抵の場合はきちんと編集をしたものより低質のものしかできません。生のバラエティは、見たことがある人なら分かると思いますが、グダグダで、笑いの密度に大きく欠けるものがあります。だから、テレビのバラエティで「生放送」ということを利点のように強調している場合、単に編集する時間がないことを糊塗しているに過ぎない場合が多いです。
無論、バラエティを生でやる場合の利点もあります。
�‖�報性
��現実との即応性
�１藜圓龍枋ゴ兇鯤飮�
�ぅ魯廛縫鵐�
ただまず�い蓮�簡単には起きないからハプニングなのであって、これだけを期待してハプニングのない時間を我慢して見続けるには結構な根気が必要です。��も、スタジオにお客さんを入れるなど、別の方法で対処できます。むしろ、生でやると、演者ののびのびとしたボケを阻害するなどといったマイナス面も生じてきます。
というわけで�´△�最も重要な利点ということになりますが、これを活かすにはちゃんと活かすためのコンテンツ作りが必要です。�，魍茲�したコンテンツの最たるものがＭ‐１・Ｒ‐１・キングオブコントなどのスポーツに近いバラエティ番組です。これらは、作り手が結果を知るタイミングと受け手が結果を知るタイミングとを同時にするために、生で行われているわけです。�△蓮∋訥絢圓叛犬播渡辰鬚靴燭蝓∋訥絢圓棒犬妊廛譽璽鵐箸鬚△欧燭蠅箸い辰疹豺腓�考えられるでしょう。ただ、生でやることに積極的に意味があるように見せかけるために、こういうことをほんの申し訳程度に行っている場合もあるので、注意が必要です。ちなみに、「視聴者に生プレゼント」というテレビ番組の代表格が、毎年クリスマスあたりにやっている「明石家サンタ」という番組です。さんまさんは、テレビで生で笑いをやらせても、笑いの密度がそれほど下がらない稀有な芸人さんです。
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連鎖力というものがあるために、舞台においてはテレビより笑いを喚起するのが簡単になります。それは、舞台では受け手の周囲の座席で笑っている人がたくさんいるからです（映画についても同じことが言えます。ただ舞台では、作り手たる演者と受け手が同じ空気を共有しているという状態が、映画以上の効果を生んでいる気がします。この点は筆者の中でもあまりまとまっていないので、この程度で）。
ところがテレビでは、受け手の周りで笑っている人は舞台ほどたくさんおらず、連鎖力が類型的に低いです。だから、舞台よりも中身を工夫する必要があります。それが編集であったり、字幕であったり、ナレーションであったりするわけです。逆に言うと、こういう事後的な加工ができるのが、「生」でやるしかない舞台と比したときのテレビの強みです。
テレビにおける「編集」について十分にご存知ない方もいるかもしれないので、念のため説明しておきます。テレビは、生放送などでない限り、撮った映像を全て使うわけではありません。その中でおもしろいところを抽出して、つなぎ合わせるという作業を行っています。これが、編集です。編集がされるから、芸人は数を撃てと言われます。おもしろければ、それだけ使われる可能性も増えるし、つまらなくても編集で切ってくれるからです。もちろん編集には膨大な時間がかかるので、時間的余裕がない場合には、テレビなのに生でやったり、ほとんど編集をしないものを世に出したり（撮って出し）します。これは、テレビの強みを捨て去っているに等しく、大抵の場合はきちんと編集をしたものより低質のものしかできません。生のバラエティは、見たことがある人なら分かると思いますが、グダグダで、笑いの密度に大きく欠けるものがあります。だから、テレビのバラエティで「生放送」ということを利点のように強調している場合、単に編集する時間がないことを糊塗しているに過ぎない場合が多いです。
無論、バラエティを生でやる場合の利点もあります。
�‖�報性
��現実との即応性
�１藜圓龍枋ゴ兇鯤飮�
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ただまず�い蓮�簡単には起きないからハプニングなのであって、これだけを期待してハプニングのない時間を我慢して見続けるには結構な根気が必要です。��も、スタジオにお客さんを入れるなど、別の方法で対処できます。むしろ、生でやると、演者ののびのびとしたボケを阻害するなどといったマイナス面も生じてきます。
というわけで�´△�最も重要な利点ということになりますが、これを活かすにはちゃんと活かすためのコンテンツ作りが必要です。�，魍茲�したコンテンツの最たるものがＭ‐１・Ｒ‐１・キングオブコントなどのスポーツに近いバラエティ番組です。これらは、作り手が結果を知るタイミングと受け手が結果を知るタイミングとを同時にするために、生で行われているわけです。�△蓮∋訥絢圓叛犬播渡辰鬚靴燭蝓∋訥絢圓棒犬妊廛譽璽鵐箸鬚△欧燭蠅箸い辰疹豺腓�考えられるでしょう。ただ、生でやることに積極的に意味があるように見せかけるために、こういうことをほんの申し訳程度に行っている場合もあるので、注意が必要です。ちなみに、「視聴者に生プレゼント」というテレビ番組の代表格が、毎年クリスマスあたりにやっている「明石家サンタ」という番組です。さんまさんは、テレビで生で笑いをやらせても、笑いの密度がそれほど下がらない稀有な芸人さんです。
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