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（９）ものまね
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（９）ものまね 
ものまねは本稿の理論体系上はどのように位置づけられるのでしょうか。結論から先に述べれば、ものまねとは、ボケではなく、ツッコミであります。
ただし、これは相当に不正確な言説です。自らの言説に耳を傾けてもらうために、程度の極端なことを言って手っ取り早くインパクトを付与しているだけです。インパクトのある言説は、たいていの場合極端です。その代わり、無理して極端なことを言っている場合があるため、不正確になっています。主張の訴求力と正確さは、悲しきかなトレードオフの関係にあるといっていいでしょう。
閑話休題。
正確に言えば、古典的なものまねはツッコミの要素が強いです。そのほかにも、ボケの要素を持っているものまねもあります。そのボケの種類も、一次的なズレだったり、二次的なメタなズレだったりと様々です。順に説明しましょう。
古典的なものまねというのは、コロッケさんのやっているものまねを思い浮かべていただければいいです。最近出てきた人では、山本高広さんなんかが代表的なところでしょうか。以下、説明の便宜のために、まねる側を「模倣者」、まねられる側を「被模倣者」と呼称することにします。コロッケさんが美川憲一さんのモノマネをする局面では、コロッケさんが模倣者で、美川憲一さんが被模倣者です。この言葉遣いには、じき慣れます。
ものまねがツッコミだというなら、対応するボケがあります。ボケは、被模倣者がすでに提供しています。すなわち、被模倣者が普通にしゃべったり、芝居をしたり、歌を歌ったり、テレビや舞台で行動する中で、ズレを作出します。よくカむ、舌足らずだ、声が異様に高い、やたらとしゃがれ声だ、首を振り過ぎだ、などです。模倣者は、このズレを見出して、ものまねにおいてこれを誇張して演じます。本物よりも声をしゃがれさせます。本物よりも高い頻度で首を振ります。誇張することで、このズレの存在が、受け手に分かります。ほら、「受け手にズレの存在を分からせる補助手段」というツッコミそのものでしょう。これは、すでに説明した通り、パロディの機能と似通った部分があります。
このズレは、被模倣者が意図せずに作り出している場合が多いでしょう。これに対するツッコミという意味で、この古典的なものまねは「天然ボケ」に対する「いじり」だと説明できます。天然ボケだからこそ、受け手がこれを笑いの対象とされることを許容しない場合も多く、やり過ぎると受け手に不快感を与える危険性もあります。他方で、誇張しすぎると「本物はそんなにやらない」というズレを提供することにもなり、ここに至るとこの古典的なものまねはボケの要素をも帯びることになります。
この古典的なものまねをやるには、観察力が求められます。ものまねの対象になるような有名人の言動に常にアンテナを張って、まねるべきズレを見つけ出す必要があるのです。
ここで観察の対象を「有名人」に限定したのは、いくらものまねによってツッコミを入れても、受け手にズレの存在が分からなければ、笑いは起きないからです。受け手にものまねというツッコミのみによってズレの存在を理解させるには、受け手が被模倣者について予備知識を持っている必要があります。それは、大抵の場合有名人です。内輪でものまねをやるなら内輪にさえ名が知れていれば通じるので、それでいいですが。
ここまでの議論からついでに導かれることですが、うまいものまねとおもしろいものまねは必ずしも一致しません。うまいものまねも、うますぎると、どんどん被模倣者本人に近付いていき、敢えて誇張した場合よりズレが分かりにくくなってしまうのです。うまいものまねはその技術への感心や感動を呼び起こすものではありますが、必ずしも笑いを呼び起こすものではありません。簡単に言うと、「おもしれ〜」ではなくて「うめ〜」「すげ〜」だということです。感心や感動を呼び起こす以上エンターテインメントしては成り立ち得ますが、あくまで笑いとは異なるエンターテインメントです。おもしろいものまねよりもうまいものまねに特化した人の代表格が、青木隆治さんでしょう。
ここまでが古典的なものまねです。これを基準として、色々と違うタイプのものまねが派生してきます。
まずは、分かりやすいのがメタなズレを提供するものまねです。古典的なものまねが成功するには、いくつか条件がありましたが、これらを守っておらず、失敗したものまねです。要は、すべり芸のように「おもしろくないことをやっている」というメタなズレを提供するものです。「全然知らない人のものまねをやっている」「似ていない」「全く被模倣者が言いそうもないことを言っている」などです。まあ、これはこれでいいです。
別のパターンとして、その模倣者が被模倣者のものまねをすること自体がズレになっているというものもあります。これは、パロディで説明した�△竜’修紡弍�するものです。日村さんによる郷ひろみさんのものまね、山本高広さんによる織田裕二さんのものまね等はその例でしょう。２人とも「デブ」のフラを持っていますが、「デブのくせに男前をまねている」というのがズレになっています。まあ、これもこれでいいです。
こういったものまねが提供するズレは、第一声（見た目だけのものまねであれば「第一観」とでもいうべきもの）のソックリさ、あるいは似てなさが全てで、全体的に出オチ気味の芸になってしまいます。第一声（第一観）がピークなので、その後をダラダラと続けても最初より大きな笑いは起きないし、締まらないうえにオトせないんですね。据わりが非常に悪いのです。これを無理やりオトす「細かすぎて伝わらないものまね選手権」（「とんねるずのみなさんのおかげでした」という番組の人気コーナー）の落とし穴はやっぱり画期的な手法だったわけです。モノマネをやる人は、出オチ芸をどう占めるかというのを常に考えた方がいいと思います。まあ、筆者みたいに、ピークさえあれば終わりはいくらダラけてもいいと開き直るのもありですが。
オチの付け方として、誇張によってズレを指摘するわけではないものまねをやるという手法があります。このものまねも、他のものまねと同様ツッコミなのですが、最初にお題を言うタイプのものまねが典型例です。
例えば、「ピンチに陥ったルーク・スカイウォーカーの心に呼びかけて、大雑把なアドバイスを与えるオビ=ワン」のものまねをしたいとしましょう。
これは、「ルークがピンチのくせに大雑把なアドバイスを与えるのみである」というズレがありますが、誇張によってこのズレにツッコミを入れることができるものでもありません。ものまねで本物より大雑把なことを言っても、よくは分からないでしょう。この場合、最初に「ピンチに陥ったルーク・スカイウォーカーの心に呼びかけて、大雑把なアドバイスを与えるオビ=ワン」とタイトルを言ってから、ものまねを始めるということがよく行われます。こうすると、受け手が「大雑把なことを言う」という知識を事前に得るので、ものまねが行われた段にズレの存在を理解することができます。これは、日常にあるズレを指摘さえすればいいので、ものまねではないただのネタのような性質も増します。例えば、「『言うても〜』が口癖の近所の不動産屋」というものまねは、そういうキャラクターが主人公のコントと大差はありません。とはいえ、ものまねとものまねじゃないネタの違いを突き詰めていくことにさほど意味はありません。いずれにせよ、このズレがオチになるため、古典的なモノマネよりは第一声がオチになるという出オチ感は後退します。
この手法の問題点は、最初にこれから行うズレの存在を告知してしまうため、受け手の基準状態がせり上がってしまうということです。先のオビ=ワンの例では、受け手が、「わざわざおもしろいことをやる場で『大雑把なことをいう』と告知したのだから、並大抵の大雑把さではないのだろう」と考えるということです。ゆえに、すべる場合も結構あります。このすべりを芸の域にまで昇華させたのが、やっぱり「細かすぎて」なんですね。このコーナーでは、ものまねを終えた演者が落とし穴に落とされるのですが、この落下が、すべったことにフォローがされないままＶＴＲがブツッと切るあらびき団の演出と同じ効果を果たしており、「すべったままフォローもされずに唐突に終わる」というズレが提供されます。また一方で、この落下は、「細かすぎて伝わらない」ものまねが闇に葬られるという設定で行われているものでもあるので、そのようなものまねに対する弱めのツッコミの役割も果たしています。むしろ、こちらの役割がメインです。シュールでメタなズレを提供するコーナーなのにあそこまで人気を博したのは、きちんと「細かすぎるものまねをやっている」というズレに対するツッコミ（＝落下）が為されているからでしょう。なお、回を重ねるにつれ普通にものまねとしておもしろいものも増えてきてはいたので、衆目を集めたのはそのせいかもしれません。
以上の通りで、ものまねもズレに対してツッコミを入れるか、何らかの形でズレを作出するかをしないと笑いはとれません。漫然とものまねをしてもダメなのです。最近はアイドルのものまねも結構見かけますが、よく失敗しています。それは、この辺のことをよく分からずにやっているからだと思われます。「すべってるやん」とフォローできればいいのですが、アイドルだけに周りにフォローを入れる技量がある人がいない場合もあり、いてもフォローを入れにくい場合もあって、微妙な空気のまま終わってしまうことも結構あります。それがいいという好事家の意見もあります。なので、それはそれでいいです。
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ただし、これは相当に不正確な言説です。自らの言説に耳を傾けてもらうために、程度の極端なことを言って手っ取り早くインパクトを付与しているだけです。インパクトのある言説は、たいていの場合極端です。その代わり、無理して極端なことを言っている場合があるため、不正確になっています。主張の訴求力と正確さは、悲しきかなトレードオフの関係にあるといっていいでしょう。
閑話休題。
正確に言えば、古典的なものまねはツッコミの要素が強いです。そのほかにも、ボケの要素を持っているものまねもあります。そのボケの種類も、一次的なズレだったり、二次的なメタなズレだったりと様々です。順に説明しましょう。
古典的なものまねというのは、コロッケさんのやっているものまねを思い浮かべていただければいいです。最近出てきた人では、山本高広さんなんかが代表的なところでしょうか。以下、説明の便宜のために、まねる側を「模倣者」、まねられる側を「被模倣者」と呼称することにします。コロッケさんが美川憲一さんのモノマネをする局面では、コロッケさんが模倣者で、美川憲一さんが被模倣者です。この言葉遣いには、じき慣れます。
ものまねがツッコミだというなら、対応するボケがあります。ボケは、被模倣者がすでに提供しています。すなわち、被模倣者が普通にしゃべったり、芝居をしたり、歌を歌ったり、テレビや舞台で行動する中で、ズレを作出します。よくカむ、舌足らずだ、声が異様に高い、やたらとしゃがれ声だ、首を振り過ぎだ、などです。模倣者は、このズレを見出して、ものまねにおいてこれを誇張して演じます。本物よりも声をしゃがれさせます。本物よりも高い頻度で首を振ります。誇張することで、このズレの存在が、受け手に分かります。ほら、「受け手にズレの存在を分からせる補助手段」というツッコミそのものでしょう。これは、すでに説明した通り、パロディの機能と似通った部分があります。
このズレは、被模倣者が意図せずに作り出している場合が多いでしょう。これに対するツッコミという意味で、この古典的なものまねは「天然ボケ」に対する「いじり」だと説明できます。天然ボケだからこそ、受け手がこれを笑いの対象とされることを許容しない場合も多く、やり過ぎると受け手に不快感を与える危険性もあります。他方で、誇張しすぎると「本物はそんなにやらない」というズレを提供することにもなり、ここに至るとこの古典的なものまねはボケの要素をも帯びることになります。
この古典的なものまねをやるには、観察力が求められます。ものまねの対象になるような有名人の言動に常にアンテナを張って、まねるべきズレを見つけ出す必要があるのです。
ここで観察の対象を「有名人」に限定したのは、いくらものまねによってツッコミを入れても、受け手にズレの存在が分からなければ、笑いは起きないからです。受け手にものまねというツッコミのみによってズレの存在を理解させるには、受け手が被模倣者について予備知識を持っている必要があります。それは、大抵の場合有名人です。内輪でものまねをやるなら内輪にさえ名が知れていれば通じるので、それでいいですが。
ここまでの議論からついでに導かれることですが、うまいものまねとおもしろいものまねは必ずしも一致しません。うまいものまねも、うますぎると、どんどん被模倣者本人に近付いていき、敢えて誇張した場合よりズレが分かりにくくなってしまうのです。うまいものまねはその技術への感心や感動を呼び起こすものではありますが、必ずしも笑いを呼び起こすものではありません。簡単に言うと、「おもしれ〜」ではなくて「うめ〜」「すげ〜」だということです。感心や感動を呼び起こす以上エンターテインメントしては成り立ち得ますが、あくまで笑いとは異なるエンターテインメントです。おもしろいものまねよりもうまいものまねに特化した人の代表格が、青木隆治さんでしょう。
ここまでが古典的なものまねです。これを基準として、色々と違うタイプのものまねが派生してきます。
まずは、分かりやすいのがメタなズレを提供するものまねです。古典的なものまねが成功するには、いくつか条件がありましたが、これらを守っておらず、失敗したものまねです。要は、すべり芸のように「おもしろくないことをやっている」というメタなズレを提供するものです。「全然知らない人のものまねをやっている」「似ていない」「全く被模倣者が言いそうもないことを言っている」などです。まあ、これはこれでいいです。
別のパターンとして、その模倣者が被模倣者のものまねをすること自体がズレになっているというものもあります。これは、パロディで説明した�△竜’修紡弍�するものです。日村さんによる郷ひろみさんのものまね、山本高広さんによる織田裕二さんのものまね等はその例でしょう。２人とも「デブ」のフラを持っていますが、「デブのくせに男前をまねている」というのがズレになっています。まあ、これもこれでいいです。
こういったものまねが提供するズレは、第一声（見た目だけのものまねであれば「第一観」とでもいうべきもの）のソックリさ、あるいは似てなさが全てで、全体的に出オチ気味の芸になってしまいます。第一声（第一観）がピークなので、その後をダラダラと続けても最初より大きな笑いは起きないし、締まらないうえにオトせないんですね。据わりが非常に悪いのです。これを無理やりオトす「細かすぎて伝わらないものまね選手権」（「とんねるずのみなさんのおかげでした」という番組の人気コーナー）の落とし穴はやっぱり画期的な手法だったわけです。モノマネをやる人は、出オチ芸をどう占めるかというのを常に考えた方がいいと思います。まあ、筆者みたいに、ピークさえあれば終わりはいくらダラけてもいいと開き直るのもありですが。
オチの付け方として、誇張によってズレを指摘するわけではないものまねをやるという手法があります。このものまねも、他のものまねと同様ツッコミなのですが、最初にお題を言うタイプのものまねが典型例です。
例えば、「ピンチに陥ったルーク・スカイウォーカーの心に呼びかけて、大雑把なアドバイスを与えるオビ=ワン」のものまねをしたいとしましょう。
これは、「ルークがピンチのくせに大雑把なアドバイスを与えるのみである」というズレがありますが、誇張によってこのズレにツッコミを入れることができるものでもありません。ものまねで本物より大雑把なことを言っても、よくは分からないでしょう。この場合、最初に「ピンチに陥ったルーク・スカイウォーカーの心に呼びかけて、大雑把なアドバイスを与えるオビ=ワン」とタイトルを言ってから、ものまねを始めるということがよく行われます。こうすると、受け手が「大雑把なことを言う」という知識を事前に得るので、ものまねが行われた段にズレの存在を理解することができます。これは、日常にあるズレを指摘さえすればいいので、ものまねではないただのネタのような性質も増します。例えば、「『言うても〜』が口癖の近所の不動産屋」というものまねは、そういうキャラクターが主人公のコントと大差はありません。とはいえ、ものまねとものまねじゃないネタの違いを突き詰めていくことにさほど意味はありません。いずれにせよ、このズレがオチになるため、古典的なモノマネよりは第一声がオチになるという出オチ感は後退します。
この手法の問題点は、最初にこれから行うズレの存在を告知してしまうため、受け手の基準状態がせり上がってしまうということです。先のオビ=ワンの例では、受け手が、「わざわざおもしろいことをやる場で『大雑把なことをいう』と告知したのだから、並大抵の大雑把さではないのだろう」と考えるということです。ゆえに、すべる場合も結構あります。このすべりを芸の域にまで昇華させたのが、やっぱり「細かすぎて」なんですね。このコーナーでは、ものまねを終えた演者が落とし穴に落とされるのですが、この落下が、すべったことにフォローがされないままＶＴＲがブツッと切るあらびき団の演出と同じ効果を果たしており、「すべったままフォローもされずに唐突に終わる」というズレが提供されます。また一方で、この落下は、「細かすぎて伝わらない」ものまねが闇に葬られるという設定で行われているものでもあるので、そのようなものまねに対する弱めのツッコミの役割も果たしています。むしろ、こちらの役割がメインです。シュールでメタなズレを提供するコーナーなのにあそこまで人気を博したのは、きちんと「細かすぎるものまねをやっている」というズレに対するツッコミ（＝落下）が為されているからでしょう。なお、回を重ねるにつれ普通にものまねとしておもしろいものも増えてきてはいたので、衆目を集めたのはそのせいかもしれません。
以上の通りで、ものまねもズレに対してツッコミを入れるか、何らかの形でズレを作出するかをしないと笑いはとれません。漫然とものまねをしてもダメなのです。最近はアイドルのものまねも結構見かけますが、よく失敗しています。それは、この辺のことをよく分からずにやっているからだと思われます。「すべってるやん」とフォローできればいいのですが、アイドルだけに周りにフォローを入れる技量がある人がいない場合もあり、いてもフォローを入れにくい場合もあって、微妙な空気のまま終わってしまうことも結構あります。それがいいという好事家の意見もあります。なので、それはそれでいいです。
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