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クアリー 〜悪夢のサマーキャンプ

 Until Dawnの生みの親であるSupermassive Gamesのホラーゲームです。PS Plusのゲームカタログに追加されたのでやってみました。舞台設定や登場人物にUntil Dawnとの関連性はほとんどありませんが、ゲーム内容やシステムはほぼUntil Dawnと変わりありません。実質的な続編と言っていいと思います。ただ前述の通りストーリー面の関連性はほぼないので、本作から手を出しても問題ありません。
 ゲームシステムも先述の通りUntil Dawnとほぼ一緒であり、「たまにアクションゲーム的な操作が挟まるADV」です。ただその「アクションゲーム的な操作」は、QTEと脱出ゲーム的なポイント&クリックが中心であり、そんなに楽しくはありません。なのでゲームのメインコンテンツはどうしても「お話」の部分になります。
 で、肝腎のお話ですが、怖いは怖いです。ただ異形の化物と怪しい人間という怖さの本質はUntil Dawnとほぼ変わりがないので、もうひとひねりは欲しかったというのが正直なところです。そのうえプレイヤーが操ることになるサマーキャンプの参加者たちは、やっていることがあくどすぎるので、イマイチ感情移入ができません。本作の舞台となるのはハケット採石場(タイトルの「クアリー」というのは採石場を意味する英単語です)というサマーキャンプ場です。本作はサマーキャンプ参加者のティーンたちが2ヶ月のキャンプを終えて、今から帰ろうとする場面から始まるのですが、このティーンたちがアクシデントでキャンプ場に取り残されて1泊余計に滞在することになり、色々と怖い思いをするというのが大筋のお話になっています。ただこの「アクシデント」というのは、「参加者の一人のジェイコブが送迎車のエンジンから作動に必要不可欠な部品を抜き取った」というだけであり、完全に自業自得です。ジェイコブがこんなことをした理由は、「同じサマーキャンプ参加者でありキャンプ中にいい感じになったエマとの別れが惜しく、もう一晩一緒にいたいと思ったから」です。ジェイコブはプレイヤーキャラの一人であり、車から部品を抜き取る操作もチャプター1でプレイヤーがやらされます。それだけにとどまらずこのティーンたちは、管理者不在になったキャンプ場の倉庫等々にピッキングの末忍び込み、ショットガンや食料の窃盗にまで及んでいます(切羽詰まった状況で緊急避難的にこういう行為に及んだわけではなく、怖い状況になる前に「パーティーだ」とか言って浮かれながら犯行に及んでいます)。主犯格のジェイコブはその後も(プレイヤーがある程度選択できるとはいえ)楽観的・独善的・他罰的な言動が目立ち、「愛される要素を一切取り去って嫌われる要素だけを残したバカ」にしか見えません。完全に、「ホラー映画で痛い目を見る奴」のあるあるを集めたみたいなキャラ付けなのです。なので、ゲームをプレイしているこちらとしても「むしろ怖い目に遭ってしまえ」という感情が芽生え、心の置き所が迷子になってしまいます。他方で敵キャラの方もかなり悪辣な連中に描かれており、ティーンたちに巻き起こる恐怖体験も相当に悲惨な内容なので、「そこまでやらなくてもいいよ」という感情も生まれます。何か全体的に中途半端で、誰に感情移入をしていいかが分からず、うまいこと物語にノっていけないのです。
 ちなみに真相もなかなか救い難い話であり、完全な善人はほぼ登場しないと言っていいと思います。ホラー映画の王道に対するアンチテーゼみたいなものを打ち出したかったのかもしれませんが、どうせやるならもっと振り切ってくれた方が良かったと思います。

 そして2周目以降もムービーが飛ばせないとか、フローチャートがなく周回プレイ(及びトロコン)が面倒くさいという問題点も変わっていません。

 まあこのあたりを飲み込めるなら、やってみてもいいんじゃないでしょうか。ボリュームはUntil Dawnと同じで1周するだけなら10時間前後なので、フルプライスで買うと損した気分になると思います。他方でゴア表現の方は、Until Dawnと違ってきっちり描かれています。首が飛んだりショットガンの直撃を食らった顔が抉れたりしますよ。
 あとこれも言っておきますが、散々凄惨なシーンを見せられた後のEDで"Daydream Believer"という牧歌的なBGMを流すセンスは狂っていて好きです。これまでの出来事が全て悪い白昼夢だったという感が出るので、非常に良いと思います。

その他ストーリー上の疑問点(完全なネタバレあり)
・ボビーは感染しているわけでもなさそうなのになんであんなにタフなんでしょうかね。ショットガンを数発食らっても平気で歩いてましたよ。銃弾を食らったのに復活するのはトラヴィスもそうですね。
・人狼を閉じ込めておける設備(電気の流れる牢やその他諸々)をきちんと持っていたハケット一家がケイリーやケイレブを森に野放しにしていた理由がよく分かりません。クリスに関しては鎖で縛りつけられている描写もありましたが、設定上マックスを噛んだのはクリスなので、彼もプロローグの時点では結構野放しにされていたはずです(しかもクリスを縛りつけていた鎖も割りと簡単に破壊されてしまっていました)。サイラスを見ていると、採石場から逃げ出さないということでもなさそうなので、放っておいたら好き勝手に色々な場所に行っちゃうと思います。もちろん満月の夜が終わって人間に戻れば理性も帰ってくるのですが、野放しにしてしまうと、人狼になっている時に森の中を好き勝手動き回った結果、人間に戻っても自分がどこにいるのか分からない、みたいな事態も生じかねません(ゲーム中の描写を見ている限り、人狼になっているときの記憶は残ってなさそうです)。人狼の存在自体を公にしたくなさそうなハケット一家にしては、管理が杜撰に過ぎると思います。人狼が野に放たれた理由について、もうちょっと説得力のある展開が必要でしょう。
・サマーキャンプの方も、ハケット一家のメインの収入源であるという事情は分かりますが、組んでいる日程がギリギリ過ぎると思います。人狼病の感染者が人狼になるのは満月の日の夜なのですが、サマーキャンプは満月の夜が明けたその日から2ヶ月後の満月の夜を迎える日の夕方まで、というキツキツの日程で組まれています。今回の件の発端も悪ガキのイタズラでキャンプ参加者の滞在が1日延びてしまったことにありますが(加えて1日早めに来てしまった結果人狼に遭遇した悪ガキもいました)、前後にもうちょっと余裕を持たせた方が絶対に安心できると思います。数時間ズレるだけでもう満月の夜とキャンプ参加者が鉢合わせてしまうというのはさすがに綱渡りが過ぎるのではないでしょうか。一応、作中に登場する収集物でハケット一家が財政的に苦しいということはうかがえるので、ちょっとでもキャンプの日程を長めにとって収入を増やしたかったのではないか、という推測はできます。ただ一方でキャンプに参加した看護師を何日か早めに帰していることがうかがえる収集物もあるので、やっていることに一貫性が見られません。
・というか、作中のサマーキャンプって6月〜8月の2ヶ月ありましたよね。満月って基本月イチなんですけど、7月の満月の日(マックスが留置所で人狼になってローラの左目を奪った7月23日)は、他のキャンプ参加者相手にはどうやって誤魔化したんですか。放っておくとクリスが人狼になっちゃいますよ。さすがにそこまでガバガバなことしないですよね?
・満月の夜にキャンプ場に残った7人についても、ハケット一家は何で野放しにしてたんでしょうね。クリスから連絡を受ければ、日が暮れる前の結構早い段階でこの7人がキャンプ場に残っていることを把握できたはずです(ジェデダイアとボビーについてはこの7人を直接見る描写もあります)。クリスが乗っていった車とトラヴィスの車を使えば、7人を帰すこともできたと思います。トラヴィスはこの時点ではローラにやられて動けなかったのかもしれませんが、コンスタンスやジェデダイアやボビーが動くことはできたはずです。この3人が車を運転できなかったんだとしても、顔の割れていないジェデダイアとボビーで7人を脅して一ヶ所に閉じ込めておくというような手段もあったと思います。人狼の存在を公にしたくないのであれば7人の悪ガキを野放しにしておく方がよっぽど危険でしょう。結局不気味な老人(ジェデダイア)と大男(ボビー)を意味ありげにさまよわせたいというホラー演出上の要請のためにストーリー全体の整合性が犠牲になっているのです。
・人狼は、殺した相手をいたぶる程度が区々です。一撃で殺してそのまま興味を失うこともあれば、その後も死体をいたぶり続けることもあります。そのため、どういう行動原理で動いているのかがよく分かりません。人間を喰いたいのか、それとも単なる破壊衝動なのか。
・人狼は、人間の存在を察知すると基本的に殺してしまいますが、咬傷を負わせたに止まる場合はこの「人狼病」が負傷者に感染してしまうという設定のようです(感染が生じるのは咬傷の場合のみであり、爪等による傷の場合は感染が生じません)。逆に言うと、人間を殺すことに成功した場合は人狼は増えません。死体が1つできるだけです。そうなると、感染を広げて人狼を増やしたいのであれば基本的に人間を殺さない方がいいのですが、作中に登場する人狼は例外なく全力で人間を殺しにかかってきます。なので、「感染」とは言いつつもウイルスや細菌が原因の病ではないのだとは思われます。ウイルスや細菌が自身を増殖させるために人間を人狼にしているのだとしたら、「見かけた人間を殺さない程度に咬む」ということが大事になってくるので、そうなるようにきちんと宿主の人狼をコントロールするのが普通です。あるいは、人狼に殺された死体もただの死体ではなく、何らかの「感染」が起きているのやもしれません。この点はツッコミどころというほどではなく、いくらでも理屈は付けることができると思います。
・チャプター3でアビーの悲鳴を聞いたジェイコブは何で服を着ずにパンイチで飛び出していったんでしょうね。服ぐらいは着た方が良かったと思うんですが。

 まあ、全部後から考えてみたらおかしいなっていう点なので、何も考えずに怖がる分にはそんなに影響はありません。ホラーの部分の演出はちゃんとしていると思いますよ!

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