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トムとジェリー

 頑是ないみぎりの我々兄弟に、父が自らのこだわりで与えた映像作品の一。ディズニーでもワーナーでもないあたりに、父の天邪鬼っぷりが表れている。ベータマックスと心中しようとしたような人だから。
 色々な年代に作られたものがありますが、兄弟が主に見ていたのは、一番最初のハンナ=バーベラ第1期と呼ばれるものです。
トムとジェリーは、もとは短編のアニメ映画であり、父が兄弟に与えたVHSには、このハンナ=バーベラ第1期の短編作品が何本か詰まっていました。傑作選みたいなものか、父が自分で編集したのか、そのへんはよく分かりません。
1本だけ、ジーン・ダイッチ期のものが入っていましたが、トムもジェリーもあまり可愛くないデザインだったので、筆者自身はあまり好きになれませんでした。
 その他の期の作品はちゃんと見たことがありませんが、多分ハンナ=バーベラ第1期のものが結局一番面白いと思います。そういうことを言うと懐古厨と罵ら れるので、ちゃんと見てから感想を述べた方がいいと思いますが、やっぱりハンナ=バーベラ第1期のが一番面白いと思います。

 作品自体は、猫のトムと鼠のジェリーがドタバタ劇を繰り広げるスプラスティックコメディであります。トムもジェリーもその他の登場人物もほとんどしゃべらず、基本的には画と動きだけで話が分かるようになっています。
 作品の良いところは、なんといってもコメディにおけるアニメーションという表現手法の利点を存分に生かしていること。コメディにおけるアニメーションの 利点というのは、あり得ない絵面を低コストで実現できるという点です。作中ではトムが重石を飲み込んで体が重石の形になったり、尻尾をワッフルメーカーで 焼かれてワッフルの形に腫れ上がったり、また一瞬で変装や衣装替えをしたりしているわけですが、こういう非現実的な絵面を実写のコントで実現するのは、(不可能ではないのでしょうが)とてもコストがかかります。しかも、多分実写で再現すると生々しすぎてお客さんが引いてしまう。アニメーション(漫画もそうですが)の利点は、こういう非現実的な絵面が低コストで、しかもコメディの範囲に止まる程度のグロさで展開できることにあります。そう。トムとジェリーって、 現在の可愛いイメージとは相反して、結構グロくてキツい(そしてちゃんとまじめにコメディをやっている)作品だったんですよ。
 ただもちろんこういう現実にない絵を描くには、高い画力が必要です。現実にない絵なのだから、写生という手法でごまかすことができません。絵を描くんだから高い画力が必要なのは当たり前だろうというのはその通りなのですが、ギャグ漫画家というのはえてして画力の低さをどうにかこうにかごまかしている場合が 多いわけです。そうすると、あまり非現実的な画面の展開ができず、「どうして実写のコントでもできそうな話なのに(しかも実写のコントにして「音」の情報を付加した方がおもしろそうなのに)わざわざ漫画でやっているのか」という話になるわけです。
 このへんは自戒を込めています。うん。漫画は、たった一人で描けるので、楽なんですよ。
 ハンナ=バーベラ第1期は、1940年から58年に製作されたものらしいです。日本が戦争でヒイヒイ言っていた時代にこんなハイクオリティなものを作っていたとはねえ。そりゃあ勝てんわ。

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