当wikiは、高橋維新がこれまでに書いた/描いたものを格納する場です。

 2016年4月17日放映のTBSドラマ、『99.9-刑事専門弁護士』の第1話を見たので、今のところの感想を記しておく。

 刑事事件ばかりを専門に扱う弁護士の主人公・深山大翔(松本潤)が、依頼を受けた事件を解決していく話である。弁護士の筆者が感想を書くからには、おそらく弁護士の目から見た「粗探し」が期待されるだろうが、弁護士という職業にスポットを当てたお話というよりは、単に主人公が弁護士のミステリーやサスペンスと考えた方がいい作品なので、あまり細かいことを言ってもしょうがない部分はある。

 確かに、日本の現行制度や現実の弁護士の実務と比較した場合に少し「ん?」と思わざるを得ない箇所は色々とあった。
 まず主人公・深山が今回の依頼者である赤木(赤井英和)に接見に行っている描写が1回しかなかった。殺人という重大事件で否認している赤木は弁護士以外との一般面会が一切できなくなる「接見禁止」の処分を受けている可能性もあるので、弁護士としてはもっと行ってやるべきである(描写として省略しただけかもしれないが)。
 また今回の事件における弁護人の主張の骨子は、「赤木本人は事件当時睡眠薬を飲まされて眠らされていた」というものである。実際にこれを裏付けるために、赤木本人の体から睡眠薬が出てきたという鑑定書らしきものを弁護側から証拠として提出していたが、捕まっている赤木をどうやって鑑定したのだろうか。こういうことができるのは、普通検察側だけである。検察側が「赤木本人の体から睡眠薬が出てきた」という鑑定書を持っていたのに起訴に踏み切ったとしたら、やっていることが杜撰すぎやしないだろうか。
 また弁護側の主張のもう一つの骨子として、「事件当時現場近くで赤木本人を見たという被害者の妻は嘘をついている」というものがある。この被害者の妻は、夜間にガード下で赤木を見ており、その赤木が緑色のジャンパーを着ていたと法廷で証言する。弁護側は、当時ガード下には黄色のナトリウムランプが設置されており、その光のもとではジャンパーも本来の色とは違って見えるはずだと反論する。
 これは、現実の実務でもよくある話なので、被告人が否認して大きく争いになっている本件のような事件で、検察側が裏をとっていないはずはない。当時ガード下にどのような照明があったか、そのような照明の下では物の色がどのように見えるのかというのは検証しているはずである。これもやらずに起訴に踏み切ったとしたら、やはり検察側の大ポカであろう。
 また深山は被害者の妻の証人尋問でこの妻の証言がおかしい理由を演説しはじめてしまう。証人尋問というのは、あくまで証人から事実を聞き出す場なので、そういう演説をやるべきタイミングではない(ちゃんと裁判のもっと後にそのタイミングがある)。逆にそういう演説を始めると、証人自身も自分の発言がおかしいと気付いて、証言を訂正したりしゃべらなくなったりしてしまう(まあ、法廷ドラマでは証人尋問におけるこの手の演説をよく見るのも確かであるが)。
 最終的に無罪判決ではなく、検察が公訴を取り消して終わるというのもなかなかあることではない。公訴取消というのは、簡単に言うと裁判の途中で検察が負けを認めて、いったん行った起訴を自ら取り下げるという手続であり、それこそ無罪判決よりレアである。検察も、面子があるんだか何だか知らないが、敗色濃厚になった裁判でもとりあえず最後まで突っ走って、裁判所に「判決」という形で白黒をつけてもらう場合が圧倒的なのである。実際に公訴取消をやるとなると、検察内部での手続もかなり重いものになると仄聞している。
 「依頼者の利益より事実が大事だ」と言い切る深山の姿勢も弁護士としてどうなのだろうか。弁護士は依頼者からお金をもらって動くので、依頼者の利益が一番大事なのは明白である。どう考えても無罪主張が苦しい事件であっても、依頼者がやってないというのであれば無罪主張をしないといけないのが弁護士である。

 とまあ、筆者が弁護士としてこのドラマに見つけた「粗」にかなりの紙幅を割いたが、本来こんなようなことはどうでもいいのである。別に致命的におかしいものがあったわけではないので、専門家が見て初めて分かるような粗は無視すればいい。現在日本で動いている司法制度・弁護士制度と全く同じ設定でドラマを作らなければならないわけではない。お話への没入を妨げるような大きな粗(=一般人でも分かるような致命的な粗)さえなければ、現実の制度と違う点があっても、「このドラマの舞台設定ではそういうようになっているのだろう」と納得してやればいい。まあその「納得」を助けるために、舞台設定を遠い異星にしたり遠い未来にしたりするというのは一つのテクニックである。

 ドラマそのものは、まあミステリーやサスペンスとしては普通の出来じゃないだろうか。弁護士や裁判の専門的な知識に関して少し説明的な台詞が鼻についたが、ある程度致し方ない部分はあるだろう。頻繁に挟まれるコメディタッチのシーンも筆者には寒いばかりだったが、それも好みの問題だろう。

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