高橋維新のページ

　2016年9月1日放映のアメトーークを見た。テーマは、「ひんしゅく体験　ナダル・アンビリバボー」である。

　コロコロチキチキペッパーズ・ナダルにスポットを当てた回であり、2週前の2016年8月18日に放映された若手芸人プレゼン大会で、相方の西野が発表したテーマをすぐに企画化したものである。

　結論から言うと、すごくおもしろかった。
　笑いの核となるのは、誰彼構わず上から目線で物を言うナダルの言動である。先輩芸人にも偉そうに物を言い、初対面の相手にも平気でデリカシーのないことを発言をするナダルには、確かにズレがある。
　そしてこのズレを指摘してナダルをイジると、プライドの高い彼は自分がイジられることを素直に受け容れることができず、様々なリアクションを見せる。見たことのないような表情をする。見え透いた嘘をついてあったことをなかったことにしようとする。妙な言い訳をぶつけて過去の言動を正当化しようとする。これも全て、ズレである。普通の人であれば、バレバレの嘘はつかないし、あんな妙な言い訳はしないのである。だから、おもしろいのである。そしてこれが全て天然で出てくるのがナダルのすごさである。

　今回のアメトーークには、笑いの本質が全て詰まっている。
　笑いは、ズレから生まれる。そのズレとは、多数派からの乖離であり、それを指摘するという営為は「多数派とお前とは違う」ということの指摘であって、とりもなおさずその少数派をバカにすることである。今回その「少数派」として槍玉に挙げられたのが、ナダルなのである。
　そして、笑いは人工より天然の方がおもしろい。天然の方が、見ている方の不意を突けるからである。ナダルの顰蹙を買うような言動の数々や、それをイジられた時に見せるリアクションは、全て天然ものである。だから、笑いの質も高くなるのである。ただ、今回のオンエアが質の高い天然で固められていたからこそ、冒頭と最後に混じった人工ボケ（ザキヤマによるたけしのモノマネ）が余計だったということも言っておきたい。

　昔から言われていることであるが、アメトーークは芸人のこういう魅力を見つけ出して引き出すのに長けている番組である。出川・狩野・小沢などアメトーークが世に送り出した芸人の礼を挙げれば枚挙に暇がない。その得意技が、うまくはまった回だったと言っていいだろう。
　そしてナダルは、本当に宮迫レベルになりたいのであれば、今日の天然の言動を計算尽くで出せるようにならないといけない。まあ、そんなことは宮迫にも無理なので（というか今日のナダルレベルの言動を「人工」で出せる芸人はいないと思う）、素直にアメトーークのスタッフに料理されるままに任せていればいいのだ。